今回は、子どもが出来たこととジャネットのお話。
時間も進めつつ終わりに向けて進んでいきます。
第二十五話 Q、自分の大切にしたいものが増えていくのはどうですか?
前からの癖で着メロが苦手なのでマナーモードにしていた携帯のとんでもない知らせに、慌てて入院先の総合病院に電話でタクシーを呼んで向かう。本当はこのまま走っていけば一番早く着くのだが、もう朝方なので人目があるのでそれは出来ないだろう。
そわそわとタクシーを待ちながら、ふと隣を見てジャネットがそのまま立っているのに気づく。大型のトランクを持ち、自分が寝ている間に着替えたのだろう普通のブラウスとパンツルックである。こちらをキョトンと見返すので聞いてみる。
「ジャネット、そのまま付いてくる気かな? 妻の葵が出産しそうなんだが」
「はい。私の最上位使命は、マスターの守護です。
今回のホテルのように、いつ巻き込まれるか判りませんので随行します。
奥様が大変なようなので、室外にてお待ちします」
「わかった。だけど、一旦はロビーで待機してくれ」
「わかりました」
いつ巻き込まれるかと言われると今回のこともあるので断りきれないが、この後にその辺のことも話し合おうと決める。
30分程経ち、タクシーが来たので乗車し向かう。
途中、今向かっているとメールをすると、雫から「今、分娩室にいるから早く!」と返信がある。携帯の時計に見入りながら、到着を待つ。
そして到着した途端、ジャネットがタクシーのトランクから荷物を出すのを待たずに5千円札を渡して釣りはいらないと言い早歩きで移動する。
遅れて彼女が来てロビーで待ちますという声も聞かずに、病室に行くと忍さんと雫がいた。
こっちに気が付き、話しかけてくる二人。
「遅~い。何をやっていたの? 連絡が付かなかったんだけど」
「母の見合い会場で事件に巻き込まれてね。
ほら、昨日の離島のリゾートホテルでの騒ぎのやつ」
「取り敢えず、こういうものは時間がかかるから座って待ちましょう」
「忍さん、恭也さんはどちらに?」
「居てもどうしようもないから、生まれたら知らせると言って仕事に行かせたわ。
向こうでトラブルになっていなければいいけど」
後で聞いた話だが、トラブルは起こしていなかったがロボットのように無言で集中して動き回るので気味が悪かったらしい。
そしてジャネットを紹介し、昼食を食べ、夕方に恭也さんが到着してすっかり暗くなった頃に、看護師から生まれたと聞き静かに病室に入っていった。
そこには、元気そうな葵と二人の子どもたちが眠っていた。
こちらを見て上体を起こし穏やかに微笑む葵を見て、近づいてそっと抱きしめ自然とポロポロと涙を流しながら語りかける。
自分は気づいていなかったが、この時に他の人達は外に出ていたらしい。
「ありがとう。何を言っていいか分からないけど、ありがとう。
手に入れられなかったものがここにあるんだよ」
「お帰りなさい、あなた。
祭神様も見ていてくださるから、この子たちは元気だから」
「名前はもう決めたのかい?」
「女の子の2卵生双生児だそうだから、お母さんや雫と相談して決めてあるの。
【凛】と【桜】よ」
葵がそう言うと二人の子が目を覚まし、目も開けきっていないのにじっとこちらを見てくるのが分かる。二人の手を握って「初めまして、お父さんだよ」と言うと、キャッキャと喜ぶ不思議な光景を目にした。
そうしている内にしばらくは入院するので安静にと看護師に出され、外に出て夕食がてら月城家の家族と話をすることになった。
ホテルでの事件では心配され、山梨から特別に派遣されたジャネットの事や今後のことなどを話し合った。
ジャネットは結局、月城邸の母屋に自立のため一人暮らしを始めた白乃ちゃんが住んでいた一室を借り、表向きはうちの人材派遣で働く留学生ということになった。
最初はジャネットに敵対心を向けていた文香さんも、後日、かなり元気なので早めに退院して戻ってきた葵と雫の4人で何やら話し合いの末、自分には内容は教えてはくれないが仲良く過ごすようになっていった。
なお、葵のことを自分から連絡するのを忘れていたため、花蓮と母さんにはしこたま激怒されてしまったことも付け加えておく。
それから数日後、自分は絵の部分が灰色になったユキジョロウのカードのため研究所を訪れていた。アブゾーバーの付属の説明書には本当に数ページの使用法と付属のカードの説明しか書いていないので、直接、尋ねることにしたのである。
入り口の来客用ソファで、ジャネットと二人で座っていた。
最初は一人で来るつもりだったが、ちょうどいいから運んでくれるようにと軽い気持ちで引き受けた田中さんに渡された今月の追加発注分の荷物が重くジャネットに手伝ってもらったのである。
荷物を預けた作業服の社員も受付に座る森さんも、すまし顔のジャネットのことを警戒して見ている。
しばらく待っていると、奥から円場博士が現れた。隣りにいるジャネットを興味深そうに見てから話し出した。
「おお、暫く振りだな。
面白いものも連れてきて、何か用かの?」
「ユキジョロウに変わっている間に呪殺を受けてから、変われなくなってしまったので相談に来ました。
こっちは自分と契約をしているシキガミのジャネットです」
「マスターの守護をしているジャネットです。
皆様のことはいろいろと聞いています。よろしくお願いします」
「ハッハ、敵対する理由がないのだから天使じゃないならわしには関係ないな。
どれ、見せてくれ」
そう言われたので、ケースごと渡すと円場博士は検分を始める。
そして、ふむふむとユキジョロウのカードを見ていて分かった様である。
「なるほど、変身時に破魔や呪殺で即死した場合の安全装置は入れておいたが、カードがこう変化するのは面白い。
よいかの、そもそもこのアブゾーバーは『悪魔召喚プログラム入りのCOMP』を改造したものだ。だから、変身時はその悪魔を召喚しているのと同じ仕組みの訳だ。
召喚時の悪魔は死亡すると、『DEAD』の状態異常でCOMPのストックに帰還する。
元に戻すには蘇生させればよいのだが、普通に蘇生魔法を掛けても元には戻らんぞ。
カードになるという特別な契約状態だからの、蘇生できるのはわしかお主らの盟主くらいじゃろう。
それで、素材を使うから有料になるが戻すかね?」
「もちろん。これでいいですか?」
そう言うと、ポケットのホルダーからこの間のカマソッソを始めとしたカード化した悪魔をいくつか取り出す。以前、博士はこのカード化悪魔を高額で買い取ると言っていたので大丈夫だろう。
満足そうに見た博士は幾枚か取り、ポケットから取り出した小型の香炉に木のような物を入れて火を付け出た煙にユキジョロウのカードをしばらく翳すと、元々の状態に戻り返してくれた。
「うむうむ、反魂香で戻したからもう平気じゃぞ。
他のカードはマッカにでも替えていくかね? 次からはマッカでも支払いは可能だぞ」
「かさばるので替えてもらっていいですか?
あと、値段はどれ位します?」
「一枚につき買い取りはこれくらいで、蘇生は特別割引でこれくらいだな」
蘇生の値段を教えてもらって、運営のガチャ一回分なら安いなと考える。
口に出ていたのか、今まで黙って様子を見ていたジャネットがこちらの服を引っ張り首を振っている。これは、自分もガチャに関して花蓮のことは言えないかもしれない。
用件も終わったので、いつもの菓子折りを渡して研究所を後にする。
その帰り道、ジャネットは真剣な顔で話し出す。
「マスターは彼らとの取り引きをどう考えているのですか?
彼らは曲がりなりにも魔王ですのに」
「友好的な契約上のビジネス。自分が道化かもしれないことも含めてね。
彼らは自分にアイテムを施す。自分は彼らに娯楽を提供する。それだけ」
「それだけですか?」
「だから、早く強くなりたいんだよ。守りたいものも増えたし。
もちろん契約とは言え、変身先の彼女らも文香さんも君だってもう家族なんだからね」
「…はい!」
少し気障な事を言ったのかもしれないが、機嫌が良かったのでよいと思う事にしよう。
ただ、眠った先でご機嫌のユキジョロウたちと長時間話す夢を見たのは寝不足になったのは少し困ってしまった。
それからは暫くの間、比較的に穏やかな時間が過ぎることになった。
育児に関しては、この子たちは不思議と世にいう夜泣きなどの大変な事態も少なく、逆に余りにも泣く事が少ないので心配になるほどこんなに手がかからないのは珍しいと忍さんが驚いていたこともあった。
しばらくぶりに連絡のあった赤城さんから大量の海外の絵本が届き、置き場所に困ることもあった。
メシア教会のシスターギャビーからも知らせていないのに、子どもが生まれたことに対する祝辞と花が届いたのは驚いた。相変わらず、異界関連の仕事の依頼は他にやり手が居ないため自分が請けていたが、ジャネットの事もあり一段とネットリとした視線に晒されるのは正直言ってキツイ仕事になった。
前に山梨から頼まれていたエジプト避難民の代表との交渉は、先の事件の影響もあり避難場所が別の地域の離島になったため、子供のこともあるからと交渉役は別の人が代わることになった。
夏も過ぎ晩秋になる頃には、神戸や関西の空港に霊的感知結界を置くことや航空交通管制に対霊機器の配備及び簡易の式神の設置することになり、自分たちも駆り出され警備や外出される根願寺の方を優しく連れ戻す任務をこなしていた。
そして冬になり、母も再婚して関本さんの関西の家に移り住むようになる頃にそれは始まった。
その日は、掲示板で賑わっていた地方セクターに配備され始めていた【アガシオン】と【管狐】の正式販売が始まり、花蓮とクーフーリン、自分とジャネットの4人で山梨に泊りがけで出かけた帰りの日だった。
向かいの席にいる貯めていたマッカでクーフーリンの肉体のアップデートも終わり残るはスキルカードのみと楽しそうに笑う花蓮と、渡された新しいイギリスの留学生扱いのパスポート書類と花蓮を見ながら複雑な顔をしているクーフーリンから視線を外し、機嫌良さそうにしているジャネットと話す。
「マスターも本当に家族思いですねぇ。
購入条件を満たしたからと言って、早々にアガシオンと管狐の購入申込みをしているのですから。
もっとも、管狐の方はあの文香を貰っているから購入できなかったというのは笑っちゃいますね」
「指輪型のアガシオンは、葵と雫の警護用にね。
自分の一部も入れて調整も受けているから強いといいんだけど。
名前も葵のが【ルビー】で、雫のは【サファイア】にしたよ。
花蓮も自分で買っていたっけ。確か名前も合わせて、【エメラルド】だったかな?」
「そのはずですよ。
帰ってから文香に言い返すいいネタが出来ました。
『あなたはガイア連合からは管狐と同じような認識だぞ』って、ウフフ」
「いや、やるなとは言わないけどマウントの取り合いは程々にね。
あくまでも、同じ家に住む家族なんだから」
そう言うとジロッとこちらを睨み、顔を近づけて不機嫌そうに言うジャネット。
何か地雷を踏んだらしい。
「いいですか?
我々悪魔にとって契約は守るべきルールであり契約者のマスターは別ですが、同じモノ同士なら人と同じ様に序列も生まれます。
私はマスターに付き従い戦場でもどこでも伴にあるようにと契約し、ここにいます。
それを文車妖妃の文香は同じ契約した者同士でも、自分が前任で夜の寝室へも呼ばれているので序列が上だと認識しているのです。
シキガミの私だって序列は同格のはずです。もう半年以上も付き従って伴にあるのにどうして夜に呼ばれないのですか?」
「自分は結婚もして愛している妻も子どももいるし、もう一人の雫もいるんだよ?
文香さんのあの行為は、読書で長時間出ているためのマグネタイトの補給目的でしょう?」
「上位の悪魔である祭神さまの強力な庇護下にある葵さんと雫さんは別格です。
既に『一族の少ない我が家では相談した上で彼が受け入れるなら構わない』と言質はお二人から文香共々頂いています。
それに、文香だって女ですよ。楽しむための建前でもあるのに決まっているじゃないですか」
「契約と言うなら、そもそもジャネットは『聖処女』の概念もあるからそういうことは出来ないと思うんだが?」
何かに呆れたように、ため息を付いて首を振るジャネットがこちらを指さして話し出す。
「そんな物、マスターが名付けてくれた時に消えました。
『名付け』とは、我々にとってそうであれと変質し縛ることです。
今の私は、ジャンヌ・ダルクではなくマスターの貴方だけのシキガミ【ジャネット】です。
文香だって、もうただの文車妖妃でなく貴方だけの悪魔の【文香】なのです。
それと、マスターはもう我々コミュニティーのリーダーです。
【終末】はそこまで来ています。忘れないで下さい」
そう言うと彼女は髪を揺らし、目的地に着いた電車を花蓮たちと降りてゆく。
家族、ファミリー、コミュニティー。
葵と雫も、祭神様を通して危機感を感じ生き残るために動いているようだ。
自分も失いたくないなら、とにかく行動するしかないだろう。
まず、降り遅れないように電車から降りないと。
そして、神戸に着いてNPOライフムーンの所長からこう知らされることになった。
仕事中に立花白乃ちゃんが姿を消した、と。
あとがきと設定解説
・赤城さんからの大量の海外の絵本
主人公が少女の作品のみでレパートリーが無駄に多いのが特徴。
・ジャネットの考える現在の序列
マスター≧葵と子ども=雫>>私≒文香>カードの子たち
※上位の別枠で祭神のカヤノヒメ。なお、死後の魂は…
ハーレム展開は好きな方だけど、女性側にも出来るだけ納得できる理由がある方がいいのでは?
次回は、次の事件への続く話。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。