今回は、悪魔と化した立花白乃との決着の話。
第二十八話 Q、他人の考えに振り回されるのはどう思いますか?
「ねぇ、お嬢ちゃん。カズマさんの声が聞こえた気がしたんだけど、どこにいるの?
たくさん、話したいことがあるんだ。
歯牙にも掛けられなかったわたしが、生まれ変わった姿を見て欲しいの。
ねぇ、ど・こ・に・い・る・の・か・な?」
「ここにいるよ、白乃ちゃん」
ニコニコと笑いながらも、いつでも剣を突きつけられるようにしながら近づいて来る白乃ちゃん。
彼女も望んでいるようなのでアブゾーバーからカードを抜き姿をもとに戻すと、一瞬驚くも一層笑みを深くして剣を降ろし目の前に立った。
「何だ、カズマさんもわたしみたいに悪魔に姿を変えられたんですか。
しかも、戻ることが出来るなんて便利ですね、それ。
どこで手に入れたんですぅ? わたしとぜんぜん違うなぁ」
「ちょっとした伝手でね。
何故、そんな姿になったのか聞いてもいいかな?」
「いいですよぉ。わたしは今、最高に気分がいいです。
こうして、憎んで憎んで憎んで殺したかった連中を皆殺しに出来たんですから。
おまけに、こうしてクソ兄貴を自分のこの手で消し去れたんですから思わずイってしまうくらい気分がいいんです。
カズマさんには、こんなに手伝ってもらって感謝しているんですよぉ」
「手伝う?」
「だって、クソ兄貴を追い詰めただけじゃなく、上にいた大量のゾンビの群れ、今までわたしを馬鹿にしていた立花家の連中なんですもん。
それを全部片付けてくれたんですから、お礼くらい言いますよぉ」
そう言うと彼女は少し離れると剣で床を二、三度叩き、今までただの木の床の大広間だったのが赤いカーペットを敷き詰め天井から飾りがたくさん吊るされた荘厳な広間へと変えた。
そして、こちらを向くと変わらず微笑みながら話しかけてくる。
「だって、嬉しいじゃないですかぁ。
こんなところまで来るなんて、わたしを助けに来てくれたんでしょう?
そして、こうやって覚醒してすごい力を持ったわたしを見せられるんですから。
どうです、すごい綺麗になったでしょう?」
「確かにすごい力を手に入れたようだし、キレイにはなったよ。
でも、その力は誰にもらったんだい?」
「んー、個人的にはよく知らないんですよねぇ。
連れて来られた後に、変な水晶を体に埋め込られて気を失ったんです。
目が覚めたら岩の中にいて、目の前で『初めて成功した』とか『オレに従え』とか騒いでいたのでついクソ兄貴みたいにバラバラにしちゃったんですよねぇ。
そしたら、持っていた黒い本もバラバラになって取り込んじゃったみたいで、空いていたお腹も膨れましたしここの場所も自由に出来るようになったんですよぉ。
ほらぁ」
にこやかにそう言いつつ壁の方に剣を振ると、テレビの大画面のような物が出来てそこには地上階の様子と思われる風景が写っていた。
一つ目の画面は、花蓮たちであり外への窓がない様子から地下の入口を見つけ歩き回っているのだろう。ジャネットが指を指し道を示しているため、ハニービーの効果で道には迷ってはいない様である。
しかし、二つ目の様子は酷かった。
二階から溢れてきたと思われる自分たちが長時間を掛けて倒した屍鬼の群れを、蹂躙するが如くあっという間に叩き潰した集団が写っていた。
そこには、魔法を放っていた数人と護衛らしいまちまちな格好のシキガミのガイア連合のメンバーらしい集まりと、アサルトライフルを一糸乱れぬ撃ち方で放った自分もよく知っている金属のバケツのようなヘルメットとボディスーツを身につけた数人を含めた迷彩服の集団には自分も白乃ちゃんもかなり引いてしまった。
地上の集団の方を指さしつつ、興奮もすっかり冷めきったらしい白乃ちゃんがこちらに話しかけてきた。
「カズマさん、あんなの呼ぶなんて非道くありません?
確かにわたし、太陽神の力を手に入れてカズマさんにも勝てるようになったんですよ?
邪魔者は全て排除したし、これであなたに勝ってここの異界で飼うつもりだったのに、自衛隊やあんなに強い人たちまで呼ぶほど嫌だったなんて!」
「いや、助けに来たのに飼われたくはないなぁ。
あと増援は呼んだけど、自衛隊まで呼んだ覚えはないよ。
それに、花蓮たちも周辺のマップが分かる機械があるからどんな迷路でも時間があればここまで来るんじゃないか?」
「え?」
「ところで、ゾンビの群れってまだ出せるの?」
「……ここの場所、急造だったみたいで感覚的にもう維持するだけしかエネルギーがありません。
最後のあれだって、ここにいたクソ家族や親戚たちから搾り取ったものなのに」
「白乃ちゃん。もう詰んでるんじゃないかな?」
自分の言い方が悪かったのだろう。
こちらを睨みつけ、白乃ちゃんはぽろぽろと涙を流しながら剣を突きつけてきた。
「月城家の人たちには感謝していますけど、さんざん非覚醒の出来損ないと影で言われ続けられたわたしがこうしてすごい力に覚醒めて、クソ兄貴とバカたちを始末して、人でないモノに変わったわたしを変わらずわたしだと見てくれる人と一緒にいようとして何が悪いんですか!?」
「運とタイミングかな? とにかく一緒に戻ろう、大丈夫だから」
「アハハハハ、大丈夫なわけがないじゃないですか。こんなに大勢殺しているのに」
「それは死んだあのバカの所為だから、ね。
白乃ちゃんの本人証明とか職場の復帰とか協力するから。さあ、戻ろう」
そう言うとニッコリと笑って彼女は、自分に向かって斬り掛かって来た。
とっさに、鏡を取り出した。
「誰かに殺されるくらいなら、わたしと一緒に死にましょう? 【爆砕拳】」
「待ちなさいって、変身!」
かろうじて変身が間に合い、細腕が放つとは思えない勢いの攻撃をはね返す。
衝撃が跳ね返り、たたらを踏んで後ずさる白乃ちゃん。
口元に流れた血を拭い、今度は左手をこちらに突き出した。
「!、【マカラカーン】」
「【マハブフダイン】、…っ!
ふふっ、これもはね返したのは驚きましたけど、氷雪魔法は無駄ですよ」
ジリジリと距離を開けながら、内心、かなり焦っている。
今までの例から考えると、彼女にボス補正のようなものがあるなら呪殺と破魔は無効化されて状態異常もかなり効きにくいだろう。
かける言葉にも失敗し、決め手にも欠けるとなれば出来るだけ粘って時間を稼ぐしか無い。
それならばと魔法を使うタイミングを見計らうように身構えていると、彼女は薄く笑って左手を突き出すと自分の知らない術を使ってきた。
「【マカラカーン】、ぐへっ」
「【幻虚夢】! これは、はね返せないみたいですね。うふふふふ」
「魔石で回復を、…? 力が抜ける? 精神力が減る状態異常?
万能属性でデバフ付きかよ」
姿を変えれば眠らせることも出来るが賭けに出るのは危険過ぎる。やはり、ドッペルゲンガーのままの方が時間稼ぎに向いてはいるのでこのままやるしかない。
決め手がないまま、自分では分からないが数十分か数時間か粘っていたが傷を癒やす道具が無くなり、それに気づいた隙を付かれまともに食らって倒れ伏してしまった。
そこに、疲れの全く見えない彼女が近づき自分を見下ろしている。
「【幻虚夢】……ふう、やっとですか。もう終わりですよ。
さあ、カズマさん。わたしのものになって下さい。
太陽神の力をここに、【秩序の光】」
「ごふっ」
自分の知らない即死系の術なのだろうか、全身の力が抜け目の前が暗くなっていく。
そして、走馬灯のように今までの情景がぐるぐるとものすごい勢いで見える。
最後に、二人の子どもたちを抱えた笑顔の葵が見える。ああ、失いたくないなぁ。
気を失う瞬間、誰かに呼ばれた気がしてそれに答え、自分は意識を失った。
『■■■さん、私を呼んで!』「……わかったよ。……【サバ…トマ】」
ここから語り手の視点が切り替わるので注意していただきたい。
立花白乃、いや【魔王ミトラス】の力を手に入れたその女性は、倒れ伏した彼の身体を抱き上げ頭を膝の上に寝かせ撫でながらささやくように告げた。
「……カズマさん、わたし、雫ちゃんと一緒に話している頃からいいなと思っていたんですよ。でも、わたしは覚醒も出来ない落ちこぼれです。
だから、諦めるために一人暮らしを始めてお屋敷から出たし、ガイア連合にも近づかなかったんですよ。
なのに、こんな風に来てくれたら夢を見ちゃうじゃないですか。
それじゃ、一緒に逝きま……」
「【メギド】」
剣を逆手に持ち自分の胸に突き立てようとした彼女に収束した魔法が放たれ、不意をつかれた彼女はそれを胸にまともに喰らい10メートル近く吹き飛ばされ床に倒れ伏す。
ごほっと血の塊を吐きながら、手から放さなかった剣を杖代わりにして立ち上がり飛ばされた方を見ると、倒れた彼の身体の近くに見たことのない女性が立っていた。
青地に金色の模様の描かれた民族衣装に身を包んだ紫の色の髪のその女性は、彼の近くにひざまづくと【サマリカーム】と魔法をかけ彼を蘇生させていた。
そして、懐から取り出したカードを彼の左腕にあった機械に差し込んだ。
『Warning,warning.NON-REGULAR FUSION』
倒れていた彼の姿は大きく変わっていた。
腰まである紫色の長い髪をした豊かなボディラインの女性で、腹部から胸元から背中に大きく肌を見せている夜の色をした特徴的な赤いラインが入った全身金属鎧を纏っている。
仮面に顔を隠されているが、隣りにいる民族衣装の女性とよく似ていた。
そして立ち上がると、二人で彼女の方を見ながら相談を始めた。
「『あの人』はどうです? “私”」
「身体に異常は無いし、深く静かに眠ってもらっているわ。
『あの人』と契約していた4人の娘と“丁寧にお話”して判って貰えたから。
ねえ、“私”。それで、アレは壊していいの?」
「巫山戯た考えをしていましたが、姉さんを押しのけて来たのですし壊すのはまずいと思います。
助力してくれた祭神様としては、覚醒はしたし氏子を産んで欲しいんじゃないですか?
まあ、もう二度とこんな考えを起こさないように徹底的に教育はしてあげないと、“私”の将来に禍根が残りますね。
もし死んでも蘇生させますから、少しぐらいやりすぎても大丈夫ですよ」
その話を立ち上がりながら聞いていた彼女は、『彼を巻き込んだ攻撃』という恐怖のあまりに最も悪い手段を選び実行してしまった。それこそ、そこにいる二人の女性の虎の尾を思い切り踏むような行いを。
「い、いやーーっ、1人で死にたくない。【幻虚夢】!」
消沈という状態異常を付与する全体万能魔法という今一番頼りにしている力を放つ彼女。
そして煙が晴れたあとに彼女が見たのは、傷を負い怒り狂う顔でこちらを見る二人だった。
恐怖で硬直し、動けない彼女。
「予定変更です、【ベルセルク】の“私”。
歩き回っていれば精神力は回復するので、思いっきり殺って下さい」
「こっちは勝てば全回復するからあの女の回復だけ頼むわ、【パールバティー】の“私”。
【ラスタキャンディ】、【ラスタキャンディ】、【ラスタキャンディ】。
喰らいなさい、【狂気の暴虐】!」
「いやあああああぁぁぁぁぁぁ!」
そして、彼女が見たのは補助魔法を掛け自分に向かって鋼鉄の拳を振りかざして飛びかかってくる暗黒騎士の姿であった。
それでは、視点を彼に戻そう。
深い暗い底にいた感覚から、揺り動かされる衝撃で目が覚める。
目の前で泣きながらジャネットがしがみ付いているので心配は無いという風に髪を撫でると、泣きそうな顔の花蓮やクーフーリン、地上で見た人々の何人かが近づいてくる。
上体を起こされたので周囲を見ると、異界のあの大広間でなくどこかの建物の地下室全体が何かが暴れたように破壊されている。
すでに来ていた人たちの手で調査も始まっているようだ。
ふと見ると、自分の隣を担架に乗せられた白乃ちゃんが運ばれてい行く。すっかり髪の色も元々の栗色に戻り人間に戻っているようだが、「死にたくない、死にたくない」と震えながら掛けられた毛布で顔を覆いながら運ばれていった。
自分は確か彼女に殺されたはずである。ただあの様子を見たからか彼女には怒りや憎しみという感情は不思議と浮いて来ないが、自分が気を失っている間に何があった気になってしょうがない。
自分も担架で運ばれるようである。
担架を持ってきたのが自衛隊の人だというのに気づいたが、周囲をジャネットや花蓮たちが固めそのまま運ばれていく。
地上に出ると周囲を自衛隊の人たちが封鎖しており、自分たちはこのまま彼らの大型車両で移動するようだ。
中に入り、車両の簡易ベットで寝かされ横に座ったジャネットに撫でられていると眠気が出てきたようだ。
そして、自分はこんな言葉を聞きながら眠りに落ちていった。
「ゴトウ一等陸佐指揮下の【デモニカ】試験部隊地方派遣班班長の唯野仁成と~」
あとがきと設定解説
・【魔王ミトラス】
立花白乃が、中東人の男に体内にフォルマを無理やり埋め込まれ奇跡的な確率で力に覚醒した。
レベルは29。耐性は、銃耐性、氷結無効、疾風弱点、破魔無効、呪殺無効。
スキルは、マハブフダイン、秩序の光、幻虚夢、爆砕拳、暴れまくり。
・【秩序の光】
ストレンジジャーニーのボス悪魔の【魔王ミトラス】が使う専用技。
ゲーム内では、主人公たちで一番魔の数値が低い者が即死させられる万能属性の技。
【天使の羽】もフォルマの一つ。
次回は、この事件の後片付けと調査の回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。