今回から、第四部開始。
第三十三話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか?
第三十三話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか?
5月になり暖かくなる中、神戸セクター内でも少しづつ変化が起きている。
事業所長の赤羽根さんに音無さんと氷室さんがアプローチを掛けていた件で、どうやら音無さんと正式につき合い出したらしく氷室さんは失恋が決まったようだ。
これが切っ掛けになったのか、地下のラボに2人の新しいメンバーが加わった。
氷室さんのシキガミ【アストルフォ】と六堂さんのシキガミ【ジャック】である。
以前、彼女らは山梨にいる時に制作班の立場を悪用し、書類を改ざんして自分たちの順番を早めようとしてバレて神戸の開設メンバーに飛ばされた過去がある。現在では真面目に職務をこなして、もう禊も済んだと判断されたためか購入許可が降りたようだ。
そして、氷室さんは完全にシキガミを旦那にすることに決めたらしい。
さっそく花蓮と相談して意気投合している様であり、クーフーリンとアストルフォも仲良くなっているようで何よりである。
自分には頑張ってくれとしか言えない。
それはさておき、ここのところ個人的に困っていることがある。
先日、突然に変わった体質ついては、我儘紐水着姫が「余と同一になるのだから最低限これくらいは美しくせよ」とのことからの干渉らしい。
まあ実害はないのでそれはそれでよしとするが、他にもっと悩みがあった。
それは、レベル上げである。
花蓮とクーフーリンはレベルに見合った異界を見つけては他にメンバーと共に潜っているようだが、レベルが40近くになろうかという自分に合った異界が近場にはもう無いのである。
出来るだけ早く強くなるとはあの娘と約束もしたが、遠方の中国・四国地方の大型異界に出張しないとレベルアップに合う悪魔を相手にできない。
だがそれではたぶん上がり切るまで数ヶ月の長期になり、家族にこまめに逢えなくなるのが辛い。
何か短期で出来るよい方法はないかと掲示板を見ていたら、こういう記述を見つけた。
曰く、『ペルソナ使いしか入れない異界のタルタロスでは敵が無数に湧いてくる』
曰く、『現在の攻略者は一人しかいないため、人員募集中である』
曰く、『レベル10以上の悪魔が群れで湧くことがある』
前に自分は、ショタオジにペルソナ寄りの悪魔変身能力だと言われたことがあった。
これはなんとか出来るかもしれないとそう思い、ここの事務記録にあるペルソナ使いに連絡することにした。
連絡を取ったトラポートを使うペルソナ使いの彼に、目的地である月光館学園の近くの支部である磐戸台に連れてきてもらった。
周囲を窺いながら彼は受付の男性にことの詳細を告げると、自分に「全て終わって協力者が居なくなってから連絡してくれ」と言い残し逃げるように消えてしまった。
タルタロスに入るには午前0時にならないと行けないため、まだ夕方だったので約束の時間まで部屋を借り仮眠を取ることにした。
アラームが鳴り22時となっているのを確認し、用意をして起きる。
今回はジャネットは同行できないので、いつものサバゲー服に右腕にアームターミナルを左腕にデビルズアブゾーバーを付け一人で向かうことになる。
部屋を出てロビーに向かうと、一人の女性、いや少女がいた。
茶髪の髪をポニーテールにした制服を着た目の光が尋常でない活発そうな少女だった。
お願いを聞いて貰う立場なので、こちらから挨拶をする。
「初めまして、今回手間をお掛けする神戸セクターのマスオニキです。
失礼ですが、【ハム子ネキ】さんでしょうか?」
「いえいえ、こちらこそ初めまして。
何でも悪魔変身能力者だそうで、こちらで入れそうなら一緒に行ってくださるとかで。
助かります。今、アイギスも治療中で大変だったので」
「それでは、その異界を認知できて同行した場合は規則に乗っ取った分配でお願いします。
もし入れなかった場合は、お手数をお掛けしたお礼をいくらかさせて頂く事でよろしいでしょうか?」
「ええ、ええ、それでいいですよ。それじゃあ、早速行きましょうか!」
元気でハキハキと喋るいい所のお嬢さんなのだなとの印象を受け、連れ立って目的地に向かう。
近くまで来てこちらはドッペルゲンガーの能力を伝え連携する際の手順を話し合っていると、目の前の学園が変形し巨大な塔へと変わっていく。
これがペルソナ3の舞台になった異界・タルタロスなのかぁ。
感心して見上げていると、認識できているのに気づいたのか彼女が嬉しそうに話しかけてくる。
「ショタオジから聞いていた通り、シャドウから派生した能力なんですね。
見えるようですし、行きましょう!」
「分かりました。では、行きましょうか」
この時、自分は軽く考えていた。
今までに行った異界より敵が湧くとはいえ、何とかなるだろうと。
確かに彼女は強かった、敵の湧きがゲームの無双シリーズのようでなければ。
物理反射と銃反射を持ちマカラカーンとテトラジャを使う高レベルの自分は、さぞかし使いでのある前衛の壁役だったのだろう。
1日目は、遠慮がまだあったのだろうか、低層で慣らしもあったので楽であった。
2日目から中層に登り、広範囲攻撃を掛け声はあれど巻き込むようにぶっ放された。
3日目からはシキガミのアイギスという娘も加わり、さらに状況は過酷さを増していく。
4日目の最終日はいつも行くという最前線の階層で、溢れ出る蟻のように来る敵と死ななければ安いをリアルでやる彼女から生き延びることだけを考えて最後まで戦い抜いた。
正直、サバトマも他の姿に変わる隙もないほどの戦いの連続で、敵の攻撃だけでなく彼女の広範囲攻撃のフレンドリーファイアも避けながら戦い続けることになった。
約束のゴールデンウィークの祭日が続く週が明けた時には、自分はもう疲労困憊であった。
よほど、便利で戦いやすかったのだろう。
ハム子ネキだけでなく彼女のシキガミらしいロボ少女にまでここに残ってくれと言われてしまったが、これ以上は家にいる妻と子どもが待っているのでと伝え、疑問符だらけで硬直した彼女を後目に逃げるように帰ってきた。
トラポートの彼に忠告された通りだった。
確かに稼ぎもよくレベルは短期間で急激に上がったが、これでは体が持たない。
これからのレベル上げは、大人しく近隣の大型異界に短期で出張することにしよう。
この後、何度か彼女からお誘いの連絡があったが丁重にお断りする事にした。
さて、レベル上げの次はお付き合いの方である。
地獄のタルタロスから帰ってきて数日後、自分が直接担当している依頼案件の処理が溜まっていたので処理することにする。
神戸メシア教会のシスターギャビーからの依頼である。
メシア教会関連ではあるが、こと依頼となると報酬額も他のより一桁は多くなるため塩漬けにするのはもったいないし、他にやりたがる人もいないので自分が担当しているのである。
助手席のジャネットと共にワンボックス車を出し教会に向かうと、この時期にコートを着たシスターギャビーがカバンを持って待っていたので車を止め声をかける。
「お久しぶりです、シスター。
今日は依頼の方を受理しに来ました。よろしいですか?」
「…え、ええ、こんばんは。今日はよろしくお願いしますね」
そういうと、車の後部座席に彼女だけが早足で乗り込んでくる。
周囲にはお付きの人たちはいるが、彼女がドアを閉めると「いってらっしゃいませ」と頭を下げている。
疑問にも思いながらも車を出し、一つ目の依頼の現場に向かいながら話し始める。
「依頼書には同行者を希望するとありましたけど、何故、幹部のあなたが一人で来たんです?」
「こちらにも、いろいろとありまして。
実は、去年の事件で全滅した私が直接動かせる実働部隊の補充がいないのです。
今の手持ちは貴方も知るシスターのあの娘たちだけですし、茂部神父は守りの要なので動かせません。
それと、稼ぎ時である来月のジューンブライドの準備のために今、手が空いているのは私だけなのです」
「そんな事を話してしまっていいんですか? 機密じゃないですか?」
「聖処女の姿をした彼の使い魔さん。
確かに機密ですけど、貴方の主のように隔意を持って接して来ない上に守秘義務を守ってちゃんと仕事をしてくれる信用できる方って少ないんです。
同じ我々の身内でも、地区が違えば対立もします。
それに比べて、私は彼を深く信頼していますから」
「仕事の内容は秘密にしてくれって依頼にありますから、受けた以上喋らないのは当たり前ですよ。
とりあえず、一つ目の依頼場所に来ましたよ。降りましょう?」
もしかしてこの人ボッチなのではと思わなくもないが、車を止めて二人と連れ立って目的地に歩いて行く。
そこは先日、自分が死にかけたあの建物跡だった。
一つ目の依頼は、自分が彼女を連れてこの場所に来ることだった。
もともとあの建物はメシア教会の管理物件だったが、自衛隊の閉鎖後に完全に取り壊され更地になっている。
シスターギャビーは、その建物があった所まで来ると少し待つように言うと祈り始めた。
しばらく立っただろうか、彼女はこちらに戻ってくると難しい顔をして自分の左腕を見ながら話し始める。
「カズマさん、“今日は左腕に機械は付けていませんのね?”」
「腕時計は邪魔なので荒事が起きるようなら外していますよ、シスターギャビー」
「……………」
「……………」
「……話しては下さらないのですね?」
「この業界ですから、奥の手は出来るだけ秘密にしますよ。
それに、あのシスターたちや貴女は他のメシア教徒よりは信用していますから、あなた方から仕掛けて来ない限りはそちらに向けては使いませんよ」
「わかりましたわ、カズマさん。今はその言葉だけで充分ですわ。
そうですね、時間は私の味方ですし」
そういうと、彼女はこちらを見て嫣然と微笑むと車へと戻っていく。
ここで起きた事の何にどこまで気づいたのだろう?
不安ではあるが、アブゾーバーのケースが入ったカバンを背負い直し自分もジャネットと車に戻って行った。
ただ、暑くなり始めたこの時期にコートを着込んだままなのは平気なのだろうか?
車に戻り、かなり離れた二つ目の依頼場所に向けて車を走り出す。
今度の依頼は、メシア教が情報を掴んだダークサマナーの拠点の襲撃である。
場所は、大阪と神戸に間にある治安が悪い地域の廃ビルだという。
車内の冷房に安堵している彼女が、今回の経緯を話し出す。
「今回の依頼は、私の政敵のある司教の調査の際に判明しました。
その男の部下が周囲に黙って、アメリカの過激派から洗脳装置を手に入れて横流ししたというものです。
あの男もまだ掴んでいないそれを買ったダークサマナーの拠点がそこになります。
そこへ直接に私が乗り込んで潰してしまえば、あいつの顔も潰れるでしょう」
「政治的なあれそれは置いておいて、相手の規模は分かりますか?」
「小規模カルトのようですが、多くて2,30人ほどでしょう。
裏口もない古いビルですから正面から行って、潰した後は警察に引き取ってもらいます。
こちらに協力してくれる信徒も大勢いますので」
「後始末をしてもらえるのならいいですけどね。そろそろ着きます」
目的地の近くの路地裏に車を止めて、目的地の廃ビルに向かう。
物陰に付いた所で入り口を伺うと、見張りが二人いる。
どうしようかと振り返るも止める間もなく正面から乗り込んで行く女性二人が、声を上げようとした見張りを殴り飛ばして動けなくしている。
こちらに来てと合図をするので近づいて行く。
まだ息がある男二人を、手慣れた様子でロープで縛り見えない位置に隠す女性陣。
こちらは中を窺うも、壊れたエレベーターと階段だけで誰も出てこない。
中には入ったところで、シスターギャビーが赤い顔でコートを脱ぐ。
下に着ていたのは、両腕の白い篭手と白いブーツに、首から肩や背中、胸元にかけて露出した下が銀色のハイレグのレオタードになっている無駄にエロい戦闘服である。
呆気にとられて見ていると、恥ずかしそうに話し出すシスターギャビー。
「……決して趣味で着ているんじゃないんですよ、この服。
今回の件の司教が、私の追加人員の要請を握り潰した時に送ってきたんです。
『ガイア連合から手に入れたこの高性能の装備があれば一人で大丈夫だろう』って。
確かにすごいのです、この装備。
防御力は並みの霊装を超えていますし、物理耐性に呪殺無効に精神耐性まで付いているのですから。
でも上に何か着ると効果が失われるし、また全部セットで着ないと駄目なんです。
しかも、名前が【告知天使のレオタード】って喧嘩売られてますよね?」
「いや、ある意味似合ってはいますけど、どうやって手に入れたんだろう、その司教?
おまけに堂々とセクハラまでするとか」
「あの、マスター。
実は、わたしも電撃耐性のある中に着れるデザインの【大天使のブラ】を着けています。
私は向こうから来る時に移籍料代わりに神主殿の名義で買いましたが、連合員の紹介があれば売って貰えるのでそうやって手に入れたものかと」
確かに、金を積めばそのくらいのことは俺たちの中にもやる奴はいるだろう。
恥ずかしそうに脱いだコートを畳んで仕舞うシスターギャビーを見ながら、この変な空気を変えるべくそのまま今の発言を流すことにする。
「よし、先頭は自分で、ジャネットはシスターの次でアームターミナルを起動して補佐はよろしく。
シスターは大技は取っておいて下さい。行きましょう」
「そ、そうね。行きましょう」
「あーえー、了解です。マスター」
それからは特筆することもなく鎮圧することが出来た。
ほとんどが非覚醒か一桁のレベルの構成員なので自分が前にいると、手加減して殴り倒して電気コード用のプラスチックワイヤーで拘束を繰り返す作業となった。
一番強かったのは、最上階にあったリーダーらしき男が説明書を読んでいた洗脳装置が変形したロボットだっただろう。
それも、痴女だの女子プロレスラーだのと散々連中に言われていたシスターギャビーが、怒りと共にぶっ放したマハジオダインで破壊されて終了である。
リーダーを拘束して転がし、ビルを出て車に帰った所で一息つく。
シスターギャビーが協力者らしい警察関係者に電話し終えると、ストレス発散も出来たのかいい表情でこちらに微笑みかける。
なお、このワンボックスの後部の窓はスモークだからまだいいが、あの格好のままであるので休憩中の女子レスラーに見えていまいち真面目な空気になれない。
「警察の方へも連絡は済みましたので、これであの司教の面子も少しは潰れたでしょう。
わざと現場に説明書を落としてきましたし、ほんといい気味。
カズマさんも、ありがとうございますね。
個人的にもお礼をしたいので、よろしければこの後お話でも?」
「お仕事は終わりですので、マスターはこれから直帰です」
「あら、使い魔さんも貴女なら構いませんのでご一緒にどうです?」
「あのですね……」
戦っている間はあれだけ息が合っていたのに、ジャネットと言い争っているのをこうして見ていると最初の頃の凄みがどんどん消えていくようである。
天使も世俗化するとこうなるのか等と考えるも、明け方までまだ時間があるので近くのビジネスホテルで仮眠を取ることにするため車を走らせる。
それと、シスターギャビーが忘れているようなのでそろそろ注意する。
「疲れもあるでしょうから近くのビジネスホテルで仮眠を取りますけど、シスターもどうぞ」
「あら、積極的ですのね? カズマさん」
「……マスター??」
「まだ、仕事中ですよ。一人づつ個室は別に決まっているじゃないですか。
それと、シスターギャビー。着替えずに、その格好で歩き回るのですか?」
「……あ」
慌てて赤い顔で持っていたカバンからコートを取り出すシスターギャビーを鏡で確認し、車を走らせるのだった。
「そういえば、シスターギャビー。
あなたが対立しているそのイイ性格の司教は、何て名前なんです?」
「関西地区総主教の言峰璃正師の息子の【言峰綺礼】です。ご存知なのですか?」
「いや、まあ、うん。名前だけはですがね」
ああ、もし知っている性格なら関わりたくないなぁ。
あとがきと設定解説
・アストルフォとジャック
ほぼ原作と同じ姿と性格のシキガミ。
ただし、服はまともです。
・トラポートを使うペルソナ使いの彼
ブロウタスさんの作品「ガイア連合武器密輸課職員の日常」の主人公のイナバニキの事。
詳しく知りたい方は、そちらの作品もお薦めします。
・ハム子ネキ
一人でタルタロスを攻略中のペルソナ使いの女子高生。
たぶん、今の主人公より二回りはレベルが上の超人。
性格的に、ぼっちなのだと思われる。
・【告知天使のレオタード】
画像は、グランブルーファンタジーの羽根のない彼女を検索して下さい。
・洗脳装置が変形したロボット
複雑な機械の仕様を把握中に襲撃されたため「非常ボタン」を押したら変形した。
名称は、【マシン・エデュケーター】。レベルは21。
耐性は、電撃弱点、破魔無効、呪殺無効。スキルは、九十九針。
次回は、次の出来事へ。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。