今回は、依頼で請け負った事件の前編回です。
※ 今回の話の設定は差別を助長や容認するものではなく、メシア教が存在した場合を考えたらこうなるだろうと言うものです。その点はご了承下さい。
第三十五話 Q、日々のお仕事は順調だと思っていますか? ぱーと3
9月になった。
まだ夜になっても残暑の厳しい季節であるが、今いる場所は冷房が効いていてそれを感じさせない。
自分と隣にいるジャネットは二人共にいつもの異界に突入する姿であり、向かいには自分たちの交渉担当を振られたのだろう疲れた雰囲気の中年の男性が座っている。
彼は自分の身分証を示しながら話し始める。
「ああ、どうも。
大阪府警特殊事件捜査係第二資料室長の周防といいます。
いや、根願寺さんから紹介されて来る専門家が、こんなに若い二人組だと聞いていなかったんだがねぇ。
その辺どうなんです?」
「自分はガイア連合から来た月城カズマで、こっちは助手のジャネットです。
依頼内容に合わせて指名されて来たのでお任せを」
「よろしく」
現在の自分たちは、大阪湾に面する港湾地区に程近い一見倉庫に見える建物の近くで、そこから隠れるように停められた警察の銀色の装甲車両の中で話している。
今回は根願寺から経由して来た依頼のために大阪まで来ている。
何でも、極左の活動家の武装組織が潜んでいる情報を察知して特殊部隊で突入しようした所、建物内が異界と化しており犠牲者も出たため封鎖だけして能力者の要請をしたら自分たちが来たという事情のようだ。
事情の背景の説明がいるだろう。
今のこの日本は戦争に負けた影響で、裏の世界ではアメリカとその力を背景にしたメシア教が長い間最大勢力であった。
ただ、最大勢力なのは能力者の業界だけでなく宗教の面でもそうなのである。つまり、霊能組織の面を持つ古くからある物から新興の物まで含めるという意味で、金銭面、信者数、悪魔も使える暴力の面どれも他の宗教組織よりも上なのだ。
そして、あれだけ古くからの組織を弱体化させていたメシア教が新興の宗教組織やカルトを監視しないはずが無いのである。
だから今のこの日本には、地下鉄に毒ガスを撒いたあのカルトも、隣の国からわざわざ来た詐欺カルト達も、前の世界では与党の一つになった政党を作ったあの宗教団体も彼らに目に余ると思われて全部綺麗に潰されて消えている。
ただここに、近年急速に高い技術力と金銭を持ち力を付けてきたガイア連合が出てくる。
大陸系の国々にはとても欲深い習性の持ち主がいるため、それら一部の馬鹿がこちらにいる同胞に働きかけ、今回の件の暴力組織に注力したことで依頼に繋がったようである。
窓の外では野次馬やマスコミが入り込まないように検問を敷いて辺りを封鎖している。
こちらに見せても構わないように作られたらしい資料を提示しながら、周防警部は話し始めた。
「元々は、この件は公安のヤマだったんですよ。
日本の宗教施設から盗みを働いたアジア人の集団から足がついて、極左のふりをして大陸から大量の武器とコンサルタントがセットで来るという情報を掴みましてね。
それで2日前に拠点の倉庫の位置を特定して突入したら、連中、コンサルタントってそちら方面の術者だったみたいで犠牲者が出てそちらに依頼が回ったんです」
「連中の詳しい規模を説明をお願いします」
「情報では大陸系アジア人が20人ほどで、持ち込まれた武器も部品の状態の『歩槍』と『黒星』という話でした。
しかし、突入した我々に被害を与えたのは、目も追えないスピードで動く派手な中華風の仮面を被った中華拳法を使う男でした。
銃撃戦の最中に乱入し、銃弾を無視してボディアーマーを着た警官を殴り殺す明らかにそちら側の男です。
こちらも手早く撤退するだけで数人の犠牲者が出ました。
現在は外に出て来る様子もないので、根願寺の術者の方にも来て頂いて周囲を封鎖して監視しています」
「ところで、これだけの大騒ぎするような事件なんですから、自分たちの他に中に入るメンバーはいますよね?」
「情報は封鎖されるので一般にはただの事件になるでしょうが、こちらとしてはこういう事件だと関西のヤタガラスさんに派遣を要請することしか出来ないんですよ。
そうしたら、向こうで『相談役』って人があなたの名前を上げて彼の強さなら一人でも大丈夫だろうと指名されたのであなた方だけです」
「……その相談役って誰です?」
「その辺は機密だから教えるのは無理だと」
誰だか知らないが、余計なことをしてくれるものだ。どうにも誰かに痛くもない腹を探られるようで気分が悪い。このまま不快だからと席を立つのは簡単だが、それをするとその誰かに侮られる気がするし信用問題にもなるかもしれない。
先月まで行われていた大型異界の攻略では、ジャネットと呼び出せるようになったパールヴァティーが治療と完全蘇生が出来る事から、最前線では回復役になりいまいち敵を倒せる機会が回ってこなかった。
いい機会でもあるし準備はできているので、この鬱憤はそのテロリスト達にぶつけよう。
「わかりました。
入り口にはこれまでのように誰も近づけさせないで下さい。
行くよ、ジャネット」
「了解です、マスター」
「それじゃ、すいませんがお願いしますね。ご武運を」
敬礼をしてこちらを見送る周防警部に会釈し、車から出て建物の入口に入る。
外は既にライト以外は明かりのない暗闇だというのに、中は明るいオフィスビルのようになっている。ただの広い倉庫のはずだった上に空気が変わっているので、明らかに異界と化している。
ジャネットにアームターミナルを起動させ、自分もデビルズアブゾーバーを左腕に付け起動しドッペルゲンガーに変わる。
『ABSORB DEVIL』
それにしても今更ながら、このプレートの赤の下地に彫刻のは入った金色のハートマークという徐々に派手になっているデザインはどうなのだろう?
他のスートマークだと駄目なのだろうか?
頭を振って妙な考えを振り払い、ハニー・ビーを使い先導するジャネットについて行く。
「ジャネット。広さはわかるか?」
「いつからこうなっていたのかは知りませんが、かなり広いです。
マップは下層に続いているみたいです」
「じゃあ、慎重に行こう」
しばらく歩き回ると休憩室らしい広間に出た。
ここで銃撃戦があったらしくバリケードにしたのだろうかソファやテーブルが散乱している。そして、警察の巡査らしい死体が手前に、奥にあるのは明らかにどこかの軍の夜間迷彩服を着たアジア人の死体が転がっている。
違和感があり、ふと考え足を止める。『警察の巡査らしい死体』?
そこに、ジャネットの警告が飛ぶ。
「エネミーサーチに反応。こいつら、屍鬼です!」
「!」
ジャネットと同時に後ろに下がると同時に、巡査の死体が3体とテロリストの死体6体が起き上がり小法師のように立ち上がるとリボルバー拳銃とアサルトライフルを撃ち始めた。
【サバトマ】。
物陰にモー・ショボーを呼び出し、ジャネットと共に支援をしてもらう。本来なら銃弱点なのだが彼女は銃耐性へと変わっている。
「アナライズ、レベル6【屍鬼ゾンビコップ】とレベル10【屍鬼ゾンビアーミー】!
破魔と火炎が弱点です!」
「二人はそこで魔法で援護して! 自分は突っ込む!」
「「了解」」
後ろからモー・ショボーの【ウィンドブレス】とジャネットの【天罰】が叩き込まれ銃撃が止まった隙に、奴らの中に姿を変え飛び込む。
さあ、出番だ。アリス。
『REVOLUTION GIRL』
小柄な金髪の少女の姿に変わり、今までより素早く姿勢を低くして手近のゾンビアーミーに近づくと、後ろに回り右足のアキレス腱を蹴り砕く。そして、後ろに倒れてきたそいつの頭を殴り砕き、ライフルを拾うとこちらに振り向いた連中に向けて乱射した。
アリスの自分が銃を撃ち殴り蹴り砕き、二人の魔法でまとめて吹き飛ぶ。
10分ほど立つ頃には、相手は全滅していた。
汚れた手と足を振ってこびりついた欠片を払うと、二人に可愛らしい声で話しかける。
「怪我はないか、二人とも。やっぱり、全力で動き回るのは気分がいい」
「それはこちらの台詞ですよ、マスター。
何でその子の姿になったのに、魔法でなく格闘戦なんですか?」
「おまけに、普段のあの子を知っているから違和感がひどいわ」
「違和感には慣れてくれ、モー・ショボー。
それと、ジャネット。仮にもこの子は魔人で、ステータスは同レベルのドッペルゲンガーより高いんだ。
それに呪殺も眠りも効かない相手だと、物理耐性や銃反射もあるし避けやすいから殴ったほうが早いんだ」
呆れる二人を置いておいて、屍鬼たちの方を見る。
警官の屍鬼は既にマグネタイトに変換されて姿は無く銃だけが落ちているが、ゾンビアーミーの方はアジア人の死体が残ったままである。
ただの屍鬼が死んだふりをして奇襲をかけようとした事や同じ屍鬼でも消え方が違う点、そして情報にある謎の男。
ただのテロリストではないようである。どんな能力者だろうか?
頭の隅に置いて先に進むとしよう。
迷路状になった通路を時々襲ってくる低レベルの屍鬼の群れを倒しながら進んでいくと、下り階段が見えて来る。階段の踊り場に案内板らしき看板が付いているが、日本語でも漢字でもない暗号のような隣の国の言葉で書かれているため読むことも出来ない。
下の階には赤い絨毯の敷かれた広間と両開きの扉、そして、扉の上にはこれもまた同じ言葉で書かれた一際豪華な看板がかかっている。
罠がないか確認し扉を開くと、そこには異界とは思えない光景が広がっていた。
そこは小学校の体育館くらいの広さはあり、周囲の壁はガラスケースの展示物になっていて室内も所々にある太い柱を除けばガラスケースが並ぶ博物館であった。
民族衣装や木像、色々な旗や書物や壁掛け、木の近くで男性と熊が会話している絵や古代の大陸が自分の国だったという地図などなど色々と納められているが、字は読めないため絵だけで推察するにお隣の国の歴史博物館だろうか?
三人揃って入り口から呆気にとられて覗き込んでいると、アームターミナルの百太郎が反応し物陰から仮面を被った派手な赤い中華の民族衣装を着た男が襲いかかってきた。
散開して後ろに下がるも、その男はまっすぐ自分に向かって走り込み右腕を突き出してきた。
躱しきれずに両腕でガードしたはずなのに、そのまま突き破って腹を殴られ口から血を吹き出しダメージを負う。物理耐性が効いていない?
そのまま突き飛ばされて着地した所にまた来ようとした男にジャネットが鉄の錫杖で殴りかかり、モー・ショボーが【ガルーラ】を叩き込む。
その隙にドッペルゲンガーに戻り、ガルーラで動きの止まったその男に拾った拳銃を撃ち込むも効いた様子もない。
その男がコマのように回転し、ジャネットとモー・ショボーが悲鳴と共に数メートル程吹き飛ばされる。
ちょうどサバトマの効果時間が切れ消えるモー・ショボーを見つつ、飛んできたジャネットを抱きとめる。
無言のまま立ち上がりジリジリと距離を詰めるその男を見ながら、ジャネットが叫ぶ。
「マスター、そいつデータにない高レベルの屍鬼です。気をつけて!」
「中華拳法を使う屍鬼とかどうすりゃいいんだ? ええい、【サバトマ】」
近くにナジャを呼び出す。
相変わらずその男は自分狙いのようで、走り寄ると自分の視界から消えるようにしゃがみ込み片手を付いて頭を目がけて蹴りを放った。
嫌な予感がして首をひねって躱すが、足が頬をかすめる。物理反射も駄目か。
「マスター!【ガルダイン】!」
「こっちも、【天罰】!」
強烈な疾風と破魔の光の柱がその男に当たると、全身を切り裂かれ煙を上げて燃え出し動きが止まる。そして、もう一度同じを攻撃を食らうとようやく崩れ落ちて今度こそ死んだようだ。
こちらに走り寄ったナジャが、ディアラマを掛けてくれて傷を癒やしてくれた。
倒れたその屍鬼は、姿が消えずそのままである。仮面が割れて外れたその顔はあちこちが縫合された跡があり、着込んでいた切り裂かれた衣装の隙間から見える肌にも同様の跡が全身にある。
アームターミナルを弄りながら、機械式のゴーグルでそれを見ていたジャネットが話す。
「マスター、アナライズ出来ました。名前は、……【屍鬼リビルドゾンビ】でしょうか?
レベルは25。耐性が破魔と火炎が弱点で、物理耐性、銃無効、呪殺無効、状態異常無効!?
ス、スキルが、貫通の拳と八相発破!?
何ですか、これ!? こんなモノ、知りませんよ」
「マスター、これ何かな?」
ナジャが仮面を拾い、こちらに見せる。割れた仮面の裏側のそこには、中央に筆で書かれた中国語の札が張ってある。
最近劇場で8作目が公開されていた香港映画が頭に浮かぶ。もしかして、これキョ○シーに似た何かか?
今の戦闘音を聞きつけたのか、一番奥にある緑色のランプのついた金属製の扉から3人の人物がなだれ込んで来た。
一人は黒い帽子と黄土色の映画のものとそっくりの服装の男と、肩と足が丸出しのチャイナドレスを着た出る所が出た黒髪の美女、そして最後に男の近くにいる白い帽子とおそらく隣の国の白い民族衣装を着た顔を左右に赤と青色にした一本足の男という変な姿の悪魔である。
こちらの姿を見た女の方が、こちらを指差しながら男に叫んでいる。ただ、中国語のようで自分には分からない。
『ほら、見なさい。日本の警察だけでなく、あのガイア連合のヤツまで来ちゃったじゃない!
だから、あんな連中から買った封印された悪魔だなんて使おうとするから、こんな事になるのよ!』
『ええい、うるさい!
こんな異界を作る位に確かに頭は変だが、内に秘めた力量はお前の屍鬼と変わらないぞ!?』
『そんな物と私の傑作を同じに見ないで頂戴!
だいたいその変な悪魔に部下の連中を食わせた上に、こんな異界を作らせるなんて頭がおかしいんじゃない!?』
『倒せばいいだろう、こんな連中。こいつとお前の屍鬼なら可能だろうが!?』
『あれを見なさいよ。もう既に一体、私の傑作が壊されているのよ!
これ以上は赤字になるわ。国に帰るから、後は好きにしなさい!』
女の方が太ももにベルトで付けた札を入れるホルスターから複数枚の札を取り出す。
攻撃されると思いとっさに駆け寄るが、男の術者が取り出したハンドベルを鳴らし元はテロリストだっただろう男たちの屍鬼を10体以上も呼び出して阻まれた。
その隙に、女の術者は符からもう一体の青い服装のリビルドゾンビを呼び出すとかき消すように姿を消してしまった。
舌打ちした男の術者がこちらを指差して叫ぶと、悪魔たちが襲いかかってきた。
あとがきと設定解説
・周防警部
大阪府警特殊事件捜査係第二資料室と言うオカルト事件の担当部署という閑職に、上に嫌われて左遷された人物。
達哉と和哉という息子がいる。
・【屍鬼リビルドゾンビ】
中華系の秘術で死体を縫い合わせて作られた高性能の人工の屍鬼。
レベルは25で、耐性は、物理耐性、銃無効、火炎弱点、破魔弱点、呪殺無効、状態異常無効。
中華拳法も使うため、スキルも【貫通の拳】と【八相発破】を使用する。
優秀な性能に合わせて色々使うため、材料費が一体外国産高級車一台分である。
次回は、事件の後編。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。