今回は、まだまだ序盤。
第四十三話 終わりの始まり その2
【幸原みずき】、彼女は人一倍人権意識が強かった。
前も今の世も裕福な家庭で育ち、弱者は守らないといけないという義務感があった。
20代も半ばを過ぎ偶然知った転生者掲示板も詐欺か何かだと思い、抗議してやろうと山梨まで乗り込んで世界の裏側を少しだけ垣間見た。
結界に足を踏み入れただけの覚醒後に、そのまま家に戻った彼女は自分はどうするべきかを考えた。
ちょうどガイア連合とガイアグループが出来上がったのを見た彼女に、スキルと共に天啓が降りた。
『自分が転生し覚醒したのは弱者である日本の女性を救う為だ』、と。
そして、目覚めたスキル【惹きつける話術】と【洗脳】はそれを後押しした。
自分に同調する女性たちを集め、計画を練り、素晴らしい世界を実現するための一歩を踏み出すため彼女は富士山へと向かった。
彼女はガイア連合の中枢である山梨セクターに乗り込み、連合内の女性達に向けて持ち込んだスピーカーとスキルを全開にしてこう呼びかけた。
『終末が来るなどという嘘に惑わされるな。
覚醒の恩恵は、非力な女性に邪悪な男性と対等に戦える力を与えてくれるものだ。
全ての日本女性が覚醒すれば、もう女性は男性に怯えることも、男性に媚びを売る必要もなくなり、男性という搾取者から解放された真の意味での自由を得られるのだ』
『だから、ガイア連合の全ては女性の財産として開放しろ。
男が利用するなら我々の許可を得て、得たものは全て女性に分配するべきだ。
悪魔でも女性の姿をした者を使役するのは性的搾取になるので禁止し罰則を設けろ。
もし受け入れられないなら、そいつは女性を差別する性犯罪者だ』
それからまもなく彼女は洗脳なしでも同調したシンパと諸共、怒りを露わにしたショタオジを始めとする幹部メンバーを含むガイア連合員に鎮圧され、強力な呪力込みの契約を結ばされガイア連合の関係各所に一切の立ち入りが出来なくされ追放された。
追放されても、彼女は諦めなかった。
情報を集め、あくまでも民間の組織の体裁を取っているなら政権を奪取して従えさせればいいと考えた。前の世の両親はそれで与党を倒して議員になっていたのだから。
その足掛かりに利用するのにちょうどいい人物が地元に現れたと施設に紛れ込ませたシンパから連絡を受け向かうと、前に軽く情報を集めたことのある神戸の支部長をしている若いが強さだけが取り柄の女性を侍らして悦に浸っている男がいた。
契約によりメンバーへの直接の接触は禁止されているが彼らが憎いため無視した彼女は、その男をこき使おうとスキルを込めて話しかける所で手下と一緒にビルの下敷きになった。
危ないところだった。
こちらは装甲車両と化していたガイア連合製の事務所のバンが盾になったのと、何故か吸い寄せられるようにビルが彼女たちの頭上に落ちていったので大した怪我はしなかった。
代わりにこちらに来ようとしていた女性達は瓦礫に埋もれ手の施しようが無くなっている。
周囲のあちこちの建物も倒壊したり火が出ており尋常ではない事態だ。
この間ガイア電気から買った、出たばかりの3Gスマホでも回線が繋がらない。
もし、地震がおきたと言うのならそれはおかしい事である。
なぜなら、今の日本の霊脈と地脈は富士山の星晶神社にて完全に制御され地震が起こるはずがないし、関西のあの地震なら去年起きているはずである。
前の世の1995年1月17日5時46分52秒におきた阪神・淡路大震災。
あの日本でも5本の指に入る規模の被害をもたらしたのと同規模の地震がおきたというのなら、今の神戸はどうなっているのか想像するだけで恐怖で震えてきた。
それを見た今まで瓦礫に潰されかけている車の側で抱き合っていたジャネットが、両手でこちらの頬を掴むと正面から話しかけてきた。
「マスター、しっかりして下さい!
こういう時は速やかに避難するべきです。安全な場所に移動しないと」
「…………!
もう日が落ちて街灯も地震で壊れてなく真っ暗だ。
荷物は今持っているものだけで、車はもう使えない。
神戸に戻ろうにも道はどこが安全に通れるか分からない、と。ジャネット」
「マスター? 大丈夫ですか?」
「緊急事態だ。すぐに神戸に戻る」
ジャネットに話しかけられ、我に返る。
自分には待っている家族がいるんだ。呆けている訳にはいかない。
どうやって戻るのかを聞くジャネットにこうだと、アブソーバーを取り出し姿を変える。
『Warning,Warning. NON-REGULAR FUSION』
人目を気にする余裕はない。
イシュタルに姿を変えると、そのままジャネットを抱き上げ空中へと舞い上がった。
ビルより上の高さまで舞い上がると、全力で西へと飛び去った。
しがみ付いているフル装備のジャネットがかなり重かったのは黙っておこう。
さすがイシュタルである、本気で飛ぶと大型バイクと変わらないスピードですっ飛んで来れた。
上空から神戸の様子が見えてくる。
いつか見たニュース映像の倒壊したビルや燃え盛る地域、あの映像でも象徴的だった横倒しになった高速道路とよく似た風景が夜間ながら広がっている。
スピードを上げて、先に自宅へと向かう。
自宅と神戸セクターは中心街から少し離れた住宅街にあり、あの辺は木造住宅が多かったはずだ。ガイア連合の方でもあの大震災のことは覚えている人は多くいたからこそ神戸セクターは最新工法と表に出せない技術で設計されていたし、自宅も結婚した時のリホームする時に当時の貯蓄の殆どを使って建て直していたのだから大丈夫のはずである。
見えてきた周辺地区は時間帯が時間帯だったので、家屋が倒壊したり燃えていても逃げ出した人たちが大勢いた。
気づかれない内に直接中庭に降りると、畑にいたスティーブが大丈夫だと合図している。
変身を解除し、母屋の方にジャネットと共に行くとこちらに気づいた文香が走って来た。
「……カズマさま! 大阪に出かけて連絡がないと知らされていたのにどうやって!?」
「こっちは夜間だし、空を飛んできた。皆は?」
「揺れが来てから皆さん、漬物倉庫の地下のシェルターに。ご無事ですよ」
「よかった。と、ジャネットは電話が通じるなら神戸セクターの方に連絡をしておいてくれ」
「わかりました!」
ジャネットが離れの方に行くを見て、自分は文香と母屋に向かう。
少しガタついている引き戸を開けて入ると、地下の階段から顔を出していた白乃と視線が合う。みるみる泣き出してこちらに抱きついてくる白乃。
「ああっ、カズマさん、カズマさん!
突然大きな揺れが来て、みんなで地下に逃げ込んで、カズマさんがいなくて、でも電話も通じなくて、ゆれが治まったから顔を出したらカズマさんがいて、それで、…………んっ」
いつものあの様子になっているようなのでキスをして黙らせる。
落ち着くまで続けるが、周りを見ていると桜を抱いた雫と凜を抱いた葵が地下から上がって来てこちらをジト目で睨んでいる。
落ち着ついたのか身を離した白乃は「白乃?」と葵に冷たい声をかけられ、後ろから見られていたことに気づき冷や汗を流して直立している。
葵や雫に娘たちも無事なのを確認し安堵するが、何人か足りないのに気づく。
葵と雫が不安そうに話し出す。
「突然の揺れでしたので家にいたわたし達だけで逃げ込むのが限度でした。
花蓮さんと彼氏さんは状況を確認するとあなたが戻られる前に社屋の方へ行かれて、たまたま外出していたお父様とお母さまに連絡がつかないんです。
あなた、どうしましょう?」
「お父さんとお母さん、二人でいつもいるからすぐに分かると思うんだけど。
あたし達は家から離れられないし」
「忍さんと恭也さんはどこに行くって言っていたか憶えている?
あの二人は神戸セクターの所員だからそっちにいると思うけど」
「マスター!」
神戸セクターに連絡していたジャネットが駆け込んでくる。
何か事故でもあったんだろうか?
「連絡が付きました! 皆さん、無事です!
あと、忍さんからメッセージがあったんですが……」
「え、お母さんに何かあったの!?」
「いえ、
『この地震の被害で各地の結界の補修と点検をするメンバーに恭也さんと一緒に行く事になったからよろしく。
しばらく帰らないから、次の孫もお願いね。
あと、雫ももうお腹が目立つ前に卒業できるからよろしくね』、と」
「よろしくね、じゃないよ。おか~さ~ん」
「お母さまらしいわ」
「大奥様らしいですね。大旦那様は黙って頷いているんでしょうね」
メッセージに頷いている葵と白乃に、座り込んで嘆いている雫。
これだけ騒いでいるのにすやすやと眠っている凛と桜は大物になるなぁ。
とりあえず、自分も一度神戸セクターに行かないといけない。
「ジャネット、自分たちも神戸セクターに行くぞ。
葵、緊急時だからうちの家族以外の人は中に入れないで。
雫、白乃、葵の手助けを頼む。
文香、ここの守りを頼む。
みんな、俺の帰る家を故郷を頼む」
「了解です、マスター」
「はい、あなた」
「まかせて、お兄ちゃん」
「はい、旦那様」
「……カズマさまも気をつけて」
皆に声を掛けて疲労はあるが、神戸セクターに移動するため外に出る。
自分たちが外に出た所で、文香に内側からきっちりと鍵をかけてもらう。
こうするのも理由がある。
周囲はこの災害で倒壊したり火事になっている家々があるのに、月城邸と神戸セクターの建物は綺麗なままだからかなり目立っている上に周囲を飛び交っているモノがいる。
正門の結界の前で溜まり、寄り集まって悪霊ディブクになりかけていたモノを蹴り潰す。
一般人には見えないが、都市のあちこちに雑霊の群れが浮遊している。
これは千人単位で死者が出たあの地震と同規模の震災にならば、インフラが破壊されるのと同時に霊的なインフラにも被害が出ているという事だろう。
一刻も早く情報が欲しい。
門の周りに施餓鬼米を撒いて、駆け足で神戸セクターに向かった。
神戸セクターでは多数の人員が戦場のように動き回っていた。
その中で1階の受付の前でよく皆が集まるロビー広間に花蓮とクーフーリンがいるのを見つけた。
奥の方に簡易寝台がいくつか並び、そこで六堂さんと怪我を負って運ばれてきた者の手当をしているようである。
花蓮に近づいて声をかける。
「花蓮!」
「お兄様! よくご無事で、大阪に出かけて巻き込まれたはずでは?」
「色々あって早く帰れたよ。うちの方は寄ってきたので大丈夫だ。
それで、状況は?」
「テレビの情報が正しければ、震源地も強さも規模も【前のとほぼ同じ】です。
状況から考えるに、誰かが人為的に起こしたのは間違いないって山梨からも連絡がありましたわ。
応援も時期に来るそうですが、交通が遮断されているのでトラポートで数人ずつだそうで」
「旦那も見ただろ、都市内に漂うあの雑霊ども。
今の神戸は、ガイア連合の建築物とメシア教会で霊脈が安定して結界になってるんだ。
ああいうのは出ないようになってるはずなんだよ。
おかしくないか、ほぼ同時期にこんな事が起こせるなんて」
「どこかが組織的に動いたっていうのか?
一番怪しいのはメシア教会だが、今のガイア連合を取り込みたがっている穏健派がそんな事するか?」
「それもそうですわね。
しかも、神戸のトップはお兄様がお付きも纏めて口説いてるあのシスターギャビーですし」
「口説いてなんていないぞ。
周りから忌避されているから仕事が回らないんで、たびたび手助けしただけだぞ。
普通の女性の仕事相手として、距離感を持って接していたけど?」
呆れ顔の2人と話していると、こちらを見つけた赤羽根さんが駆け寄って来た。
ジャネットもいる事を確認して安堵している。
状況がつかめない。
「よかった。月城さんが戻って来てくれて。
今、ここの守りを頼めるような強さの人は花蓮さん達だけだったので動かせなくて」
「何がありました?」
「洋上の船のギガンテックを見張っていたメンバーから知らせが!
黒のゴムボートに乗った特殊部隊のような数人が神戸の街へ行ったと。
そこに居た自衛隊も追いかけようとしましたけど、港の道路が液状化して車が早く動かせないそうで」
「応援に行って自分に止めろと? 夜だしどこにいるのか分かりませんよ」
「いえ、そうでなく……」
「赤羽根さん、支部長は? ……ああ、良かった。いてくれた!」
今度は音無さんが駆け寄ってきた。
何だというのだろう?
「警察から自衛隊とこちらにも連絡が来てて、神戸メシア教会で銃の連射した射撃音が聞こえたとかで向かったパトカーが応援を呼んでいるんです。
『化け物が出た』って!」
「それでその悪いのですが、月城さんに……」
手をかざしてそれ以上言うのを止める。
消費する物資の補充を終えていたジャネットを見て、メシア教会に向かうために皆に声を掛ける。
「どっちにしろ、あそこのメシア教会はここから歩いて30分くらいで行ける距離にあるので誰か見に行かないと駄目でしょう。
それに、最近請け負った仕事でこういうのは慣れましたから、ここと周辺のことは頼みます」
「お兄様!気をつけて!」
「ああ、ここが落ち着いたら家の方も頼む」
こうして、自分のかつてない程の長い夜は始まったのだった。
あとがきと設定解説
・【幸原みずき】
偏った思想を持っていた転生者。
リストより情報抹消済み。非公開。
震災後の調査の際に、瓦礫の下から潰れた状態で発見。
仲間とみられるメンバーにも生存者無し。
・阪神・淡路大震災
1995年(平成7年)1月17日5時46分52秒、兵庫県の淡路島北部(あるいは神戸市垂水区)沖の明石海峡を震源としておきた、マグニチュード7.3の兵庫県南部地震。
特に震源に近い神戸市の市街地(東灘区、灘区、中央区(三宮・元町・ポートアイランド)、兵庫区、長田区、須磨区)の被害は甚大で、犠牲者は6434人にも達した。
彼らがいるのは、大体中央区と灘区の間の辺りの架空の住宅街です。
次回は、神戸メシア教会での出来事。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。