今回は、新しい彼女の誕生の話。
第四十四話 メシア教会にて
災害により電気が全て消え、明かりが個人が持つものか火事で燃えている家々の中を教会へと向かって走る。少なくとも、今あそこのメシア教会が機能不全になるのはまずい。
もし、この人為的だと思われる地震が死者数千人出る規模のものならば、必ず手が足りなくなるはずだ。
曲がり角を曲がればもうすぐで教会に着くという時に、指を鳴らす音がした。
立ち止まると周囲がおかしい。一緒に走っていたジャネットも時が止まったように走ったままの姿で停まっている。
ペルソナ使いの吸血鬼でもいるのかと周囲を見ると、前を大きく開けた黒いシャツに真新しいジーンズを履き左手にビニール傘を持った黒髪の男性が片手を上げてこちらに歩いてくる。
そして、彼はよく響くいい声で話しかけてきた。
「やあ、忙しいだろうが話をしよう。
見ての通り、時間を止めているから心配しなくてもいい。
楽しませてもらっているよ」
「どこかで見覚えがあるような?」
「君の考える一番知名度の高い私の姿になろうとしたら、こうなったんたがね。
普段の偽名は使えないしなぁ。まあいいか」
「それで御用は何でしょう? 急いているんですが」
「ああ、確かこうだったな。『そんな装備で大丈夫か?』」
「えーと、『一番いいのを頼む』だったような?」
「じゃあ、これ。
サタナキアに言ってグリゴリ総出で超特急で作らせたから、効果は抜群だ。
使い方はその時になったら頭に浮かぶから、使うも使わないも君次第だ」
「ありがとうございます?」
「スパチャみたいなものだから。じゃあ、頑張りたまえ」
彼からいつも使っているのとは少し違う白紙の悪魔カードを受け取ると、再び彼の指を鳴らす音がして自分は意識を失った。
曲がり角を曲がればもうすぐで教会に着くという時に、なにか違う気がしてふと立ち止まる。周囲を見るが誰もおらず気のせいだと思い、訝しげにこちらを見ていたジャネットと走り出した。
教会前に到着したが、そこには無線と受ける銃弾の音を鳴り響かせているパトカーと既に撃ち殺されている男性の警官が2人、聖堂の入口前にアサルトライフルを構えこちらを牽制するように時々こちらに撃っている金属のヘルメットにガスマスクをした迷彩服の男が2人いた。
他に誰も居ないのを確認し、ドッペルゲンガーに姿を変えジャネットを後ろにして中に走り込む。
無言でこちらに掃射する迷彩服の男たち。しかし、跳弾を受けたように反射した銃弾を受けバランスを崩す隙に走り寄ったジャネットが鉄の錫杖で打ち伏せた。
崩れ落ちる彼らに話を聞くべく襟をつかんで起こしガスマスクを外すも、元は西洋人らしい緑色の肌をした顔で笑うと2人共連鎖的に【自爆】した。
万能属性のダメージを与えるスキルでもこちらとの実力差により、たいしたダメージにはなっていないが周辺は瓦礫とかしている。
スキルを使うまでもなく魔石で怪我を直し周囲を見ると、聖堂の壇上に複数の爆発で殺された茂部神父が、あちこちに応戦しようとして撃ち殺された他の関係者の死体が転がっている。
そして、奥の方から爆発音が聞こえそちらの方に走り出す。
確か、生活している居室がある方向である。
「汚れし覚醒をした大天使の出来損ないよ。消えて我らが主に懺悔するが良い!」
「狂信者が! くらいなさい、【マハジオダイン】!」
轟音ともいうべき雷撃の音と爆発音、それに負けない大きさの発砲音が聞こえた。
そこに駆け込むと凄惨な場所と化していた。
一番奥にある居室のようなのでシスターギャビーの部屋だったのだろうそこは、入口のドアは粉々になり廊下には襲撃者と思しき黒ずんた死体が幾つも転がっている。
部屋の奥には3人の半裸の女性たちが転がっており、3人共に背中から白い羽が生えだしており彼女たちは声もなく泣き叫んでいる。よく見ると、彼女たちはあのヤマワロの異界で助けた神戸セクターで仕事も引き受けていたマリーとメアリにモイラだった。
そして入り口には、至近距離での自爆と大口径の銃で胸を撃たれ胸と口元が鮮血に染まったシスターギャビーが倒れていた。
駆け寄って抱き上げ、とりあえず魔石を使うが効果がない。それを見たジャネットが状態異常を消す【静寂の祈り】を使うが、マリーたちもシスターギャビーにも効果がない。
治療するさまを見ていたシスターギャビーが薄く微笑んで話す。
「ゴホッ、普通の手段ではもう無理です。
私が受けた弾丸はあの【毒】の名を持つ堕天使の毒を使ったゴホッ、特別性ですし、彼女たちはもともと身体に処置されていた天使化が進んでいるんです。
こんなゴホッ、メシア教のシスターであるわたし達を助けようとするなんて、あなたは本当に奇特な方ですね。
だ、だからゴホッ、夢を見てしまうのですわ」
「寝覚めが悪いから、目の前で困っていたのを助けたけだよ。
他の連中みたいに、あなた達は改宗とかハニトラとか空気も読まずにして来なかったし」
「くすっ、それはその方が上手くいくと思っていただけですよ。
ミカエルの思惑が進むのは口惜しい限りですが、お願いがあります。
カズマさん、あなたの手でわたし達にとどめを刺して下さい」
「何故!?」
「このままですと彼女たちは過激派の天使にその体を乗っ取られ、私の魂もミカエルの手に落ち新たなガブリエルに生まれ変わるよう処置されるでしょう。
そうこの身体に処置が施されているのです。
神がそう言っているのです。
貴方の手にかかれば、私たちの魂はミカエルの手を離れ救われると」
彼女はガブリエルでもあるから【神の啓示】を受けるある種のスキルがあったのは薄々分かってはいたが、ここまで具体的なメッセージを受け取れるまでとは判らなかった。
その彼女がそこまで言うには他に手段が無いのだろう。
そこまで考えた時に、脳裏に声がする。カードを出せ、と。
何かに突き動かされるように、アブソーバーのケースから持った憶えのない他のとは背の模様が違う白紙のカードを取り出した。
『選ぶと良い。彼女たちにとどめを刺すか、このカードで彼女たちと契約するかだ。
どちらでも選ぶのは君だ。好きにするといい。
契約するのを選んだのなら、このカードを掲げ衝動に身を任せると良い」
そのカードを見て困惑の表情の彼女を見ると、どこからか声がして自分の中に抗いがたい征服欲が湧き上がる。
その衝動に身を任せるのは何かを失う気がして必死に耐えていると、どこかで再び声がする。
『時間は止めてあげるのだから、衝動のままに彼女らを愛してあげればより完璧に出来たんだが、まあいいか。
君の血を先にあの3人から舐めさせて、最後にガブリエルにすれば完成だ。
早くしないと、時間がないぞ』
シスターギャビーをジャネットに任せ、言われるままに苦痛の中で驚いている彼女たち3人に深く切った指を口に突っ込み、最後にシスターギャビーにももう一度切って突っ込む。
この非常時に何をしているのかと怒るジャネットに説明しようとした時にそれは起きた。
「「「ああああああああああああああああああ!!!」」」
最初にシスター達3人が、続いてシスターギャビーが断末魔とも思える悲鳴を上げながら、体をねじり、口の端から唾液をこぼして苦痛と微かな喜悦に表情を歪ませている。
そして4人の体が宙に浮き、光の塊となった3人はギャビーの身体に吸い込まれる。
いつの間にか身につけていた告知天使のレオタードは白から黒へと変わり、背中に出た6枚羽の翼やピンクブロンドの髪も端から漆黒へと染まっていき最後に頭上に浮かんだハイロウが砕け散り、翼を広げ彼女はそこに降り立った。
「ここに契約はなりました。私は、私たちは【堕天使ガブリエラ】。
大天使の霊器を捨て、あなたの隣に立つために堕天した堕天使です。
神の秩序と信仰を捨てたこの私を、本霊は許さないでしょうしグリゴリの者たちはあざ笑うでしょう。
でも、後悔はありません。幾久しく永久に侍りましょう、マイロード」
カードを見るとそこには黒い6枚の翼の彼女の姿が描かれている。
それを確認し、視線を上げると微笑みながら彼女は消えていった。
埒外の事が起こり、ぽかんとしていたジャネットに声をかける。
「ここを離れるよ、ジャネット」
「何があったのですか? マスター」
「どうもシスターギャビーじゃなくて大天使ガブリエルが、堕天して自分と契約してくれたみたいだ。
この間のアリスの時に、研究所に行った時に円場博士が新しいカードを入れてくれたのかな?」
「何がどうしてこんな事になっているのですか??」
「自分にもわからないよ。
とにかく、時期にここは警察だらけになって拘束されると不味いから離れるよ」
「どこへ行きます、マスター?」
もう一度ガブリエラを呼び出して事情を聞こうにも、今の状況では多くの一般人に姿を見られるのはかなりまずいだろう。
表に警察らしき大人数が来たらしく騒がしくなっている。
ここで勾留されては後で色々と面倒になるので、ここは山裾が近いので裏から森へと脱出させてもらうことにし移動をした。
移動することしばらくもう教会は見えない場所まで移動し、少し開けた場所で一休みをする。
近くの切り株に座り込んだジャネットがこちらを見て言う。
「それでどうするんです? マスター」
「まずは彼女に事情を聞いてみよう。
契約してカード化したのなら、大丈夫だろう。
何かあったら頼むぞ、ジャネット」
「判りました、マスター」
彼女から少し離れ、デビルズアブゾーバーとガブリエラのカードを取り出しセットする。
『ABSORB DEVIL』『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』
ガブリエラの姿に変わった。
以前に着ていたレオタードも白地に銀色の縁取りでなく黒地に金色の縁取りに変わり、髪も黒色になっただけだがワサワサとしている背中の6枚の翼が少し邪魔である。そして、足元が見えないのは同じだが、これはベルセルクやバビロンより大きいようだ。
少し動き回り体の動きには問題ないようである。
調子を確かめていると、ジャネットが話しかけてくる。
「それでどうするのですか、マスター?」
「仮にもメシア教穏健派の幹部の大天使を、堕天させて自分の仲魔にしたわけだろう?
上司には報告しておかないと」
「はい?」
バッグから自分の携帯を取り出しアンテナが立っているのを確認すると、意識を集中しガブリエラが自分の意志で話せるようにする。
最近ベルセルクやバビロンに変わる際に、身体の主導権を切り替えるのをやっている内にコツを掴んだやり方である。
携帯には山梨の人たちや母や関本さんなどの離れた地域にいる人たちからの安否を問うメールが、十数件入っている。
一律で「自分は元気です」と一斉送信し、おもむろにショタオジの番号にかけた。
コール数回の後に、彼が出てくる。
「はい、もしもし。今忙しいんだけど。
この番号はマスオニキか。そっちは大丈夫かい?」
「もしもし、ショタオジですか?
マスオニキです。
今、どんな状況になっているんですか?」
「……? 聞き慣れない声だな。
誰だ、お前は。何故、彼の番号で電話してきた?」
「マスオニキ自身ですよ。
ちょっとした事情があって報告しないといけなくなったんです。
ほら、ガブリエラ、挨拶して」
『神主殿には、先日以来お久しぶりですね。
シスターは廃業して、今は堕天してマイロードの情婦になっています』
「何を言ってるの!?」
「はあああ??」
ショタオジの聞き慣れない疑問の声が響いた。耳がとても痛かった。
どこともしれない場所で黒い服のジーパンを履いた男性が、左手でビニール傘をクルクルと回しながら愉快そうにどこかに携帯電話で話している。
「やあ、オレだよオレ。いや、マッカは君の領分だろう?
いやあ、急拵えとは言え上手くいったよ。彼女の堕天。
彼、君が見つけた人材にしては本当に面白いね。
他の世界でもなかなか見ないよ、彼女の分霊がああなるなんて。
成功した時は腹が痛いほど笑ったさ。
そうそう、少し今回あいつはやり過ぎたからね。
あのハゲに嫌がらせをするならといろいろあいつに都合したけど、この震災は興ざめだ。
彼がこれを止められるのかを見物するよ。じゃ」
機嫌良さそうに通話を切ると、ふと何かに気づいたようにこちらを見た。
こちらを向くとニコリと笑いながら指を鳴らす。
すると視界が曇り、場面は暗転していった。
あとがきと設定解説
・【外道アーミートルーパー】
今回の教会襲撃犯の正体。
レベルは、15。耐性は、銃耐性、破魔無効。
スキルは、精密射撃、掃射、自爆。
・【毒】の弾丸
毒の名を持つある堕天使が自分の毒を濃縮したらどうなるかを試してできた劇物。
信号弾用の拳銃で使用し、高確率で、猛毒、麻痺、魔封を付与する。
治療には、彼以上の力量の術者の治療が必要になる。
彼女たちの事情については次回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。