今回から、戦闘開始。
第五十話 決戦開始
「それで、マスター。
意気込んだのは良いのですけど、どっちを先に殺りますか?」
「サマエル共だ。
突然、自分にしか分からない御託を並べて、訳の分からない理由で災害を引き起こし、意味のない装置を自慢し、自分をこんな所に連れ出した、自分に酔った大馬鹿野郎どもだ。
穏健派みたいだから、襲ってこないなら天使側は無視!」
「了解です。
アナライズ。サマエルは電撃弱点、破魔・呪殺反射。
あの男は、破魔・呪殺無効。
壁になってる2体の【屍鬼コープス】は火炎と電撃が弱点で、銃・氷結・破魔・呪殺耐性です」
ディスポイズンの空き容器を投げ捨てて、ジャネットに答える。
自分がこの世界の間桐雁夜だとか、葵がこの世界の遠坂葵とかそんな事はどうでもいい。
得意げに上から目線で自分理論とマイルールを語るのは、前の世のクソ上司だけで充分だ。
ただでさえ、地震で家や勤め先が大変なことになっているのに、妄想を垂れ流された上におかしな真似までされてもうまともに付き合う気も失せた。
まずは、手数を増やそう。
「【サバトマ】、アリス! そして、バビロン!」
『Warning,Warning.EMERGENCY FUSION』
「あー、ごほん。頑張るわ、マスター。【絶対零度】!」
「これが、返答だ。【マハジオダイン】!」
この場に似つかわしくない青のワンピースドレスを着て大きな絵本を持ったアリスが、赤い顔でサマエル達に範囲氷雪魔法を放ち、自分はもっと似つかわしくない紐水着のバビロンになり全体電撃魔法を叩き込む。
こちらの攻撃に驚くサマエルと困惑する天使達。
こっちには攻撃を当てて来ないのを理解したのか、天使達は攻撃を続けるようだ。
「ふん、その姿は気に食わないけど、味方をするのなら今は見逃してあげる。
滅びろ主の敵よ、【メギドの雷火】!」
「【MA・HANMAON】」
メアリー・スーの方から全体に降り注ぐ閃光のような電撃が、足元の天使は全体破魔魔法を放った。
サマエル達の前衛だった屍鬼コープスは、電撃のダメージと破魔への抵抗に失敗し2体とも消え去った。
サマエル達もかなりのダメージを負うものの、致命傷を負った卑劣ニキは取り出した宝玉で全て回復している。
あれって、ガイア連合だと販売最低価格1250マッカするんだよな、魔石は5マッカなのに。
生き残るのに必死な卑劣ニキを他所に、体のあちこちが焼け焦げているサマエルがこちらを見て叫ぶ。
「何故、動ける!?
お前の情報を洗い、お前の知らぬ大量の情報と共にお前に合う『設定』という俺の『毒』を精神に流し込んだはずだ!
天使共の横槍を排除した後、貴様も従順な手駒と出来たものを!」
「元々自分は精神状態異常は無効だし、自身で得意げに毒だ毒だと言っているんだから毒消しくらい飲むだろう?
言葉と臭い息だけで『思考誘導する毒』を受けさせるとか、シャレにならないけどな」
「ニンゲンのくせに、玩具のくせに、俺の馬鹿にし否定するだと!?
アダムやこの男のように愚かでいれば良いのだ!
もういい、お前らに合わせたこんなガワなどいらぬ!
俺の力を見るがいい! 【神の悪意】!!」
そう叫ぶとサマエルは、『言峰綺礼』としての姿から体長数十メートルはある6枚の皮膜の羽根を持つ巨大な赤い蛇の姿である【邪神サマエル】へと姿を変え、天使達や自分たちへとエリア全体を覆うような巨大な赤い霧を放って来た。
強力な万能属性のダメージに加え、様々な状態異常を付与するようだ。
屍鬼の群れと戦っていた天使達が、ある者は威力で力尽き、ある者は状態異常で動きが止まったところを屍鬼に捕まり潰されるなどして数を減らしている。
こちらでも、麻痺と魔封を食らったらしいメアリー・スーが乗騎にしていた【天使ケルブ】が一緒に地上へ落ち、メアリー・スーも負傷してふらついている。
負傷はしているもののしっかりと立っているのは、状態異常に対策している自分たちだけのようだ。
周囲の混乱に注意を向けた隙に、卑劣ニキが走り寄ってきた。
「あの扉を使うのは俺だ!
邪魔をするなら、お前らも死ね! 【刹那五月雨撃ち】!」
「ちっ!」
「マスター! 【メディラマ】!」
自動拳銃でスキルを込めた乱射をし、左手でマハザンストーンをこちらに放る卑劣ニキ。
その攻撃に正面から突っ込み、赤い竜に変えた右足で胴を蹴り飛ばす。
自分の横に走り寄っていたアリスもスキルを放つ。
「この、【ソウルドレイン】!」
「がああああ!」
蹴り飛ばされながら、アリスのディアラマと遜色ない回復量の万能吸収魔法を食らう卑劣ニキだが、膝を付きながらもこちらを睨んでいる。
「力を貸してください、主よ。【ライトハンド】!」
「GUGOGOGO」
メアリー・スーの叫び声がして、突き上げた右手に光が集まる。
すると傷も癒え、前よりも力強く動き出すメアリー・スー。
自身が動けず、悲しげな声を上げるケルブに声を掛け、サマエルに物凄い速さで突っ込んで行く。
「そこで見ていてね、お父さん。
滅びろ、邪悪なる蛇め! 【断末波】!」
「天使の傀儡が! 【猛反撃】!」
「く、くそ。【ピュアブルー】」
周囲を薙ぎ払う衝撃波を伴う拳の一撃と赤い巨大な蛇の尾が激突する。
その余波を喰らい、回復スキルを使っている卑劣ニキ。
天使達との戦いに余裕ができたのか、また屍鬼コープスが卑劣ニキの近くに現れる。
こちらににじり寄るコープスにスキルを放つ。
「マスター、【ラスタキャンディ】です」
「これで、【マハジオダイン】!」
「【絶対零度】!」
2つの攻撃スキルを喰らいダメージで動きが止まるコープスだが、コープスの影にいたはずの卑劣ニキの姿がいない。
不意に後ろに姿を現した卑劣ニキが、ジャネットを目掛けて銃を撃つ。
「【トラフーリ】! 回復役の人形が死ねばぁ! 【刹那五月雨撃ち】!」
「相性って大事だよな。この世界だと」
「ぐはっ、があっ!」
とっさにデビルズアブゾーバーからバビロンのカードを抜き、射線上に立つ。
ドッペルゲンガーの銃反射で、スキル込みの乱射を自分で受ける卑劣ニキ。
怪我を負いふらつくも、銃は手放さずに左手でポーチからなにか取り出そうとする。
すかさず右から回り込んだアリスが腰の入った左の拳で背中から肝臓の辺りを殴って動きを止めると、ジャネットが鉄杖で左腕を痛打し掴んでいたものが床に転げ落ちる。
2人して笑い合っているが、アリスに何を教えているんだかジャネットは。
それでも、よろけながらこちらに銃を向ける卑劣ニキ。
門の近くで乱闘を続けているサマエルとメアリー・スーの音を聞きながら、彼の前に立つ。
「ぐふっ、もう少しで転生者共を消せるのに、何故邪魔をするんだ?」
「邪魔も何も卑劣ニキ、それはな……」
「俺をその名で呼ぶな! 俺は、…」
「アリス、葬送ってくれ」
頷いたアリスが彼の前に出てくる。
彼女の顔を見て、笑う彼。
「俺でも聞いたことがあるぞ、魔人アリス。
言っておくが俺に呪殺は効かないぞ。はは、残念だったな」
「安心してくれ、もし後で回収できたら蘇生してやるから。
それと、うちのアリスの呪殺はな。
1日に1度だけど、敵単体に呪殺属性の貫通を得た魔法型ダメージを与えて、死亡時に踏みとどまるスキルを無視して100%の確率で即死させるんだ」
「は? 待て、おい…」
「じゃあ、【死んでくれる?】」
派手なエフェクトもなく、アリスの手から飛んだ黒いナイフが彼の身体を貫くと崩れるように彼は倒れた。確認しても、完全に死亡している。
遺体はとりあえずそこにある廃墟の陰に置き、次はサマエルの対処に移ろう。
彼が落としたメギドストーンを拾って、今だにタイマンを続けている門の方へ移動した。
途中でかく座したままの天使ケルブを見つける。
今だに状態異常が解けないらしく、何か唸っている。
この船のあれこれの後処理を穏健派らしい彼女らに面倒なので押しつけるのも手だと考えるが、ふとある事を思い出した。
確か、あの女性は「マンセマットに見出された使徒」と名乗っていたはずだ。
あのストレンジジャーニーのロウエンドで彼の言う通りにクリアすると、高層ビルのように巨大な女性の聖なる柱に白い服を着て神への賛美歌を歌い続ける日々が人類に待っていた終わりだった。そして、あのメアリー・スーと言う女性が着ている服は、その柱になったゼレーニンの服そのままである。
おまけに、そこで動けないままの天使ケルブを「お父さん」と呼んでいたが本当に実父なら完全にアウトだろう。
駄目だ。過激派の分派みたいなものじゃないか。
幸い、ここはサマエルがボスの異界である。彼が悪かったことにしよう。
ジャネットに話しかける。
「ジャネット、天使側のアナライズは出来た?」
「はい、大丈夫です。
天使ケルブが、電撃弱点、衝撃反射、破魔無効、呪殺無効。
あの女性の方が、銃耐性、電撃反射、衝撃弱点、破魔と呪殺無効です」
「そこの彼は動けない?」
「かなり強力な麻痺と魔封のようですので他者が治療出来ないと無理ですね」
周囲を見ると、自己回復しか出来ないらしい彼女はサマエルとドツき合っているし、屍鬼の群れとの戦いに忙しい他の天使はいない。
無駄に高レベルのようなのでとどめを刺すのも手間である。
放置することにしよう。
ケルブは近づいたこちらを訝しげに見ているが、ジャネットに門を指差し無視して通り過ぎる。
こちらに向けて何やら唸っているようだが、そのままそこで見ているといい。
門の方を見ると、サマエルとメアリー・スーがまだ殴り合っている。
傷が酷くなると、双方に回復してさらに殴るという事を繰り返している。
疲れた表情のアリスを一旦戻し、ジャネットとチャクラドロップを飲み走り寄って行く。
「なあ、ジャネット。あの今にも吹き飛びそうな木の女性は?」
「【妖樹スクーグスロー】ですね。
耐性は、火炎弱点、衝撃耐性、破魔耐性、呪殺耐性です」
「確か彼女、サマエルが元は屍鬼を作成する術師だったって言ってたよね?」
「そうですね」
「周囲で暴れてる屍鬼の群れって、彼女が死んだらどうなるだろう?」
「………」
「………」
確かめてみることにしよう。
1人と1体が文字通りに殴り合いをしている場所に近づくと、お互いがこちらに気づき離れて距離を置いた。
双方とも息を切らしてハァハァと肩を揺らしているが、こんな行動をする6枚羽根の赤い蛇は初めて見た気がする。
サマエルの方が蛇なのに舌打ちして先に話しかけてくる。
「お前ら、契約者を殺したな!?
あの玩具が死んだ事で契約は破棄され、この異界を造った意味が失われた!
この扉を作り上げた事で閣下からの不興を買い、ミカエルとの取引の意味も全て無意味となった!
お前らを殺して肉や魂を噛み砕いても怒りは……、おい、聞いているのか?」
「お前たちはここの地のガイア連合の者だと聞いている。
あの堕天使ハモンについては釈明を……。
ねえ、ちょっと聞いているの!?」
2人が話しかけて来るのを無視し、拾ったメギドストーンとまだ残っていたアギラオストーンを今だに「あアあァア」と呻いているスクーグスローにジャネットとぶつける。
やる事に気づいてサマエルが邪魔しようとしたが間に合わず、万能魔法と火炎魔法がスクーグスローの身を炭へと変えていく。体が燃えるに従い正気に戻ったのか、彼女はこちらを見ると「ありがとう」と呟き消えていった。
彼女が消えると同時に、今まで天使とのみ戦っていた屍鬼の群れが同士討ちと共食いを始めた。
『Warning,Warning.UNPLANNED EVOLUTION』
薄い紫の髪をした豊満な少女の肢体を、四肢と申し訳程度に身体を覆う紫の薄衣と蓮の花を思わせる黄金の飾りで身体の重要な部分を覆う衣装のカーマの姿に変わる。
勝機と見てサマエルに襲いかかろうとしたがこちらが姿を変えたことに驚き、動きを止めたメアリーを尻目に弓を全周囲に放つ。
「【チャージ】、【天扇弓】!」
多数に分かれて飛んだ矢は雨のように降り、ケルブ以外の生き残っていた天使たちを全て貫きマグネタイトへとその身を変えた。
こちらを睨み付けるサマエルと目を見開いて驚くメアリーに、あのBBの口調を真似て煽ってみる。
「あー、ざーんねーん。奮闘虚しく、サマエルの操る屍鬼の群れに哀れ天使さん達は全滅してしまいましたぁ。
サマエルも、もう少しの所で契約者を乱入してきた天使さん達に殺されてしまいましたぁ。
これはもう、お互いのリーダーを殺して憂さを晴らすしか無いですねー?
ねぇ、サマエルさぁん。私の『設定』はお気に召しましたぁ?
ねぇ、メアリーさぁん。マンセマットに選ばれた不運を呪って死んでくださいねぇ?」
「マンセマット様から預かった天使達をよくも! 殺す!」
「とことんまで馬鹿にしやがって! 殺してやる!」
目を血走らして襲ってくる2体に、笑って対峙する。
いいかげんこっちの方がキレているんだよ。死ぬならお前たちが死ね!
あとがきと設定解説
・【屍鬼コープス】
屍体が寄せ集まって出来た大型ダンプほどの大きさの塊。
レベルは、30。耐性は、銃耐性、火炎弱点、氷結耐性、電撃弱点、破魔耐性、呪殺耐性。
スキルは、バインドクロー、吸血。
・【死者の群れ】
屍体が寄せ集まって出来たビルほどの大きさの塊で、防衛装置。
レベルは、40。耐性は、呪殺無効。
スキルは、ポイズンクロー、吸魔、バインドボイス。
・【天使の群れ】
マンセマットが率いる天使の一派。
レベルは、43。耐性は、銃弱点、破魔無効、呪殺弱点。
スキルは、マハンマ、メギド。
・【卑劣ニキ】
千手扉間に瓜二つの顔の、この世界をとことん嫌っていた転生者。
こちらでの本名、「千住飛空(せんじゅとびら)」。
『彼』によって覚醒させられる時にトラブルが起こされ、警察でのキャリアが終わった過去がある。
それ以降は、表立って出ずに活動していた。
レベルは、45。耐性は、破魔無効、呪殺無効(装備)。
武器は、主に自動拳銃。他に、アイテム多数。
スキルは、刹那五月雨撃ち、掃射、ピュアブルー(自身のHP回復・能力ダウン効果消去)、トラフーリ、不屈の闘志、魅了無効。
・サマエルのスキル【神の毒】
創世記でアダムを唆したように己の持つ「毒」の権能がスキル化したもの。
「言葉」と共に目に見えない毒霧を散布し、相手を毒状態にして洗脳する。
文字通り、「毒」が回りきるとその「言葉」を疑う事はなくなる。
目に見えるほど濃くなると、ぶどう酒のように赤くなる。
治療や解除にも制限のある厄介な毒。
次回は、決戦の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。