内部の人から見た「霊能組織やすつき」の様子。
人の側に変な余裕があると別のものが拗れますよねという話
第六話 幕間・とある地方の零細霊能組織の職員の記録
わたしは、立花白乃(しらの)といいます。
この兵庫県の神戸市近辺をヤタガラスに任されている霊能組織やすつきの一員で、そこそこの美少女です。
一員と言っても、月城家のご夫婦や葵さん、そして元実家のクソ兄貴のように覚醒めることも出来ない半端者なので、こうして雫ちゃんと護衛代わりに一緒に学校に行き、帰ったらお忙しい葵さんやご夫婦に代わり家事をすることしか出来ません。
現在、組織のやすつきには覚醒めたご夫婦と葵さん、筆頭分家だと威張り散らすクソ兄貴の立花時忠(ときただ)に、覚醒めていないわたしと所長さん、雫ちゃん、そしてご夫婦の護衛と秘書の方の10人に満たない人しかいません。
あ、あと、5年前に急に現れて、シスターの銀髪のきれいな妹さんとご夫婦の結界で抑えきれなくなってきていた異界の多くをバットを片手に潰して回る、変化の術を使う変な男の人、協力者の間藤さんがいました。
何でも5年ほど前に、異界の結界石の確認のため見廻りをしていた時に漏れ出た悪霊からの救い主だと聞いています。
葵さんは、ご祖父の資料から得た悪霊祓いと呪い込めはご夫婦も認める腕前なので、奇襲されなければ大丈夫だったと思いますが。
噂話に聞く交流の少ない四国の組織のように、わたしや雫ちゃんが人柱にならないのはご夫婦の結界と彼のおかげだと聞きました。
助けられたその頃から葵さんは彼に懸想していたようで、彼のことを聞かれ、変わった人と答えた時は笑っていたけど、葵さん、目が笑っていませんでした。
雫ちゃんは彼のことをどう思うのかそれとなく聞くと、周りの男の子よりも大人で素敵だそうです。
よく聞くと、好きな海外の本を探すのを手伝い彼の勤め先から手に入れてきてくれたり、他の男の子の様に胸をジロジロ見ないとか、ときどき彼の妹さんと遊ぶ時に甘いものを差し入れてくれたりするのだそうです。
わたしだって葵さんよりそれなりにありますが、16歳にしては際立って大きい(黙ってブラを見たら90!)雫ちゃんのそれに、目を向けないのはまあまあ評価が高いですね。
おすそ分けで貰った地方銘菓は美味しかったですし。
確かに顔だけは良くて黙っていれば紳士然としたクソ兄貴に比べれば、モブ顔で目も死んでるどこにでもいそうな男なのに性格はいいようです。
ただ、ときどき話していると所長さんみたいなおじさんと話している気分にさせられるのは困ります。本当に、20歳前ですか?
わたしの仕事はご夫婦が結界術での業務委託の出稼ぎに帝都に出てらしているので、葵さんと交代で朝食と弁当を作り、雫ちゃんと高校に行き校内でもそれとなく様子を見て一緒に下校し、買い物や夕食などの家事をし、庭にある祭神様の祠を掃除してお祈りして寝るのが日課です。
そんな日々が続いていた7月の暑くなった日にそれは起こりました。
何を血迷ったのか、葵さんが間藤さんにプロポーズしたのだそうです。
その間藤さんは、妹さんと一緒に山梨にある霊地?にて一ヶ月の修行に行かれた後に戻り次第、葵さんと結納を交わす予定だそうです。
しかも、雫ちゃんまで祭神様の神託により内々の妻にと仰せで本人も了承したとか。
ご夫婦揃って乗り気で一度戻られるとか、間藤さんが実は2、3代前に縁の切れていた分家で向こうも乗り気だとか情報量が多すぎて混乱します。
その上、本人も悪からず想っていた人といられる上に、御加護でお守り無しでもご家族といられると喜んでいました。どうなっているんでしょう?
その日は、わたしの来年の高校卒業後の就職先として葵さんの後に事務に入らないかと聞かれ、詳しい話を聞くためにNPOの事務所に行ったときでした。
雫ちゃんはもう帰宅しており大丈夫なので安心して事務所に行くと、入り口で怒鳴っている人がいます。
会いたくもないクソ兄貴でした。
確かクソ元両親の勧めで警察に就職したはいいけど、常に上から目線の性格がたたって車で1時間の山奥の過疎村の派出所に飛ばされたはずです。
「だから、前から言っているだろう!
筆頭分家の血筋で、優れた力にも覚醒め、エリートでもある警察官にもなったわたしの方が彼女の相手に相応しいと!
それを、市井のどこの馬の骨とも分からない男を伴侶とするなど間違っているはず!」
「分かった。分かったからその話をするから奥へ着いてきてくれ、立花くん」
「分かりました。行きましょう。あと当然、葵さんも同席して頂きます!」
奥に入っていく二人。
あんのクソバカ元兄貴、こんな所にまで乗り込むなんて。
黙っていられません、頭にきました。話しをつけます。
事務所の入口から入り、所長さんの部屋へ行こうとすると葵さんがいました。
ひいっ駄目です、葵さん。怖い目つきでオーラみたいなの出さないで下さい!
わたしのお守りが、びりびり震えています。
「あ、葵さん。わたしが入りますから待って下さい。
お願いですから、待って下さい」
「あ、白乃ちゃん。
人払いは済ませてるけど、大丈夫? アレと会ったりして」
「小さい頃のわたしじゃないんです。
しょせん、プライドだけのアレなんですから」
にっこりと笑って中に入る。
だって、普段は温厚で大和撫子な葵さんがキレるよりは安全です。
「久しぶりですね、クソ元兄貴。
ここに顔を出していいんですか?
月城のご夫婦の勘気にまた触れるんですか?」
「ちっ、我が家から放逐された半端者が何の用だ?
わたしは忙しいんだ。お前に用はない」
相変わらずイラッとさせるのは天才的ですね。
睨めば怯えた小さい頃のわたしはもういません。
困り顔の所長さんの隣に座ります。
「わたしは直接、葵さんに今回の婚約の正式な撤回を説得に来たんだ。
覚醒めも出来ないお前には用はない。
すぐに彼女を呼んでこい」
「その覚醒めたクソ兄貴は、異界を何個鎮めたんです?
今まで封印するだけで手一杯だった異界を、あのボンヤリ顔の人は10近く鎮めたらしいですよ。
同じことが出来るんですか?」
「異界をいくら鎮めようと、まともな術も使えないではないか!」
まともな術って、家伝の資料でたまたま使えるようになった火の玉の術じゃないですか。
確かに素人なら下手したら一撃で死にますけど、火炎瓶で同じことが出来ますよね?
「術なんて、今の時代に化け物と戦う以外で役に立つことがあるんですか?
いつまでも戦前の感覚で儀式をしても未覚醒だからと、5歳の娘を施設送りにしようとしたエリートさまは違いますね。
そんなだからご夫婦の勘気に触れて当主命令に加え、弁護士まで立てられて屋敷の出入りと雫ちゃんへの接近禁止まで言われるんですよ。
もっともわたしは今の境遇になれたので、追い出してくれてありがとうと言いたいですけどね!」
「だ、だが婚約するというのに定職にも就いていないじゃないか、あの男は!」
それを聞くと、所長さんもいい加減我慢が来たようだ。
「いい加減にしたまえ、立花くん。
確かに、彼は今は市内の会社のアルバイトに過ぎないがね?
成人して正式に婿入したらこのNPOの正式な役員にもなってもらうし、夫婦としてヤタガラスや根願寺にも挨拶に行く予定なんだ。
それに君は知らないようだが、昨今は周辺の他組織から内々に彼に応援に来て貰えないかと高額の提示の連絡が来ているんだ。
やすつきの総代としても、君の言い分は通らない。
ご当主様の方にもこの事はじき連絡が行くから、帰りたまえ」
「総代とは言え、そこまでこの優秀なわたしに言ったんだ。覚悟したまえ。
家として正式に抗議するからな!」
「通らないと思うがね。ああ、接近禁止の念書は守るんだぞ」
「そんなことは分かっている!」
顔を真っ赤にして立ち上がり、足音も荒く出ていくクソ兄貴。ざまぁ。
ドアくらい丁寧に閉めなさいよ。
「祭神様から雫ちゃんもまとめて娶れって神託きたの知らないんですかね?
あのクソ兄貴。クビになればいいのに」
「ああ、もともとあそこの家族は組織の人員も少ないし覚醒者もいるから一応、組織の一員とは言っているが、いろいろとやらかしでハブられているから“葵さんが婚姻”としか伝えていない。
それに、クビは難しいと思うぞ」
「どうしてです?」
「腐っても『筆頭分家』を名乗れるくらいの地方の旧家だからね。
組織外の親戚筋への影響力は馬鹿にできないんだよ。
外とのやり取りをしているこちらの胃痛もわかって欲しいよ」
「ごくろうさまです」
「本当にご苦労さまです、所長さん。白乃ちゃんもね」
お茶とお菓子を持って葵さんが入ってきました。
もう怒ってないようでなによりです。
このあとは楽しく話ながら、葵さんの後に入る話をして内定を貰いました。
これでもっと月城家のために役に立てるそうその時は思っていたんです。
近い将来に、兄貴のやらかしと『世界の終末』なんてものが来なければ。
あとがきと設定解説
・立花白乃(たちばなしらの)
月城姉妹の又従姉妹。立花時忠の妹。
栗色の波だった長髪が自慢のわりと強かな子。
理由は作中の幼少時に家庭板なイザコザがあって、現在は月城家の養子。
地方の田舎の闇にメガテン世界事情が絡むと、もっと闇が深くなりますよね。
次回は、ショタオジの地獄の特訓回のあれこれです。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。