オリジナルさまの時系列で、だいたい5~6話の辺りです。
第八話 Q、あなたは今でもまた死にたいですか?
意識が浮かぶ。白い天井が見える。
「知らない天井だ。一度言ってみたかった」
「何を馬鹿なことを言っているんです。心配したんですよ」
横を見ると呆れた顔で花蓮が椅子に座っている。
皆さん、同じことを言いますね、と笑いながら簡単に体をチェックして出ていく看護師さん。やっぱり、定番だからみんな言うんだなぁ。
自分がどうしていたか思い出す。
確か、訓練用の異界の深層に放り込まれ、後ろにショタオジ?を引き連れ何徹か戦いっぱなしだったはずだ。
病室にいるのは回収されたのかな?思い出せない、頭痛がする。
ふと、気になり花蓮に聞いてみる。
「今はいつかな?窓の外は明るいから白夜かな?」
「8月29日の午後3時です。目は覚めましたの?」
「起き抜けに可愛い妹の顔も見れて、元気だとも」
「やっぱり、まだどこかおかしいですわね。
神主さまから伝言です。
『修行は終わり、お疲れ様。今日は休んでまた明日に会おう☆』、だそうですわ」
「わかった。もう寝るね」
「ゆっくり休んでくださいね、お兄様」
横になり、目をつぶる。
気がつくと、ほとんど泊まらなかったホテルルームで朝になっていた。何故?
とりあえず、あまり使わなったカバンから着替えを出して、シャワーを浴びて着る。
ラウンジで花蓮と朝食を食べていると、ピヨちゃんさんがやって来る。
「おはようございます。気分はもうよろしいですか?
お知らせしたいことがあるんですが」
「食べ終わったし、いいですよ。花蓮は?」
「もうよろしいですわ」
「では、お部屋から荷物を全部持って1時間後に本殿の方へお越し下さい。
チェックアウトの手続きをしますので」
随分慌ただしいが、事前に決めていたことだ。
二人してすぐに準備し、早めに本殿に行く。
いつものカオスな修行風景を横目に中に入ると会議室に通された。
中には、ショタオジ(もう神主さんとは呼ばない)、霊視ニキ、中年の男性がいる。
横に「ちひろ」と名札のついた事務員さんが控えている。
パイプ椅子の席につくと、ショタオジが話し出す。
「事前に紹介しておくね。
こちら、事務の総括をしている【千川ちひろ】さんと転生者の【マシュマロおじさん】こと日下(ひげ)さん。
うんうん。修行の成果はばっちりだね。強くなった。
どう、霊視ニキ?」
「ああ、これなら大丈夫だろう。
ずいぶんな荒行をやったんじゃないか?」
「彼の強くなりたいという意志を尊重したのさ。
同じような訓練は、他の人(後の古参幹部クラス)もやっているし大丈夫さ。
彼が帰るのに合わせていくつか計画を前倒しにして間に合わせるようにしたら、連絡するの忘れて妹ちゃんには悪いことしちゃったね。
その点は、ごめんね?」
左手で拝みながら、軽く頭を下げるショタオジ。
自分から出来るだけ強くしてくれと同意書にサインはしたからここでは何も言わないが、いずれ一発その顔をぶん殴ってやると誓う。
ブスッとしていた花蓮に続けて、千川さんが話し出す。
「もういいですわ。
お兄様も無事でしたし」
「じゃあ、そういう事で。ちひろさん、お願い」
「お話も済んだようなので、こちらからも話させて頂きますね。
わたし、この度出来ました【ガイア連合山梨セクター】の千川といいます。
【転生者】向けサービスを代行する組織として設立されました。
我々は来たるべき【終末】に備え、急拡大でいくつも計画を併行して進めています。
そこで、お二人にお願いしたいことがあるのです」
そう言って、テーブルの上に書類をいくつか並べる。
そこには、こう書かれていた。
『ガイア連合地方セクター(仮)設立計画』、と。
パラパラとめくると、具体的な霊地の建物の場所、やすつきの組織や人員の内容経歴、神戸一帯の大まかな異界の状態、周辺組織との関係、などなど短期間によくもここまでという風に調べ上げてあると、二人で感心する。
一通り見たのを見て、千川さんとショタオジが続ける。
「ご覧いただけた通り、我々はこれから地方に支部ないし派出所を作るにあたってのノウハウの構築のため、間藤さんが地方の組織に正式に加入するのに合わせてテストベットとしてご協力いただきたいのです。
もちろん、交渉自体はこちらにいる日下さんとうちの事務である音無が行います。
間藤さんには、交渉の顔つなぎと正式に稼働した際の【地方セクター長(仮)】になっていただきたいのです」
「強引に進めているように見えるなら謝るけど、こちらとしては【転生者】の貴重な仲間が状況に流されて、地方の組織に取り込まれて使い潰されるようにしか見えないんだ。
君たちもここに来て理解しただろう?
地方とここの霊地の質や知識と技術の格差、他の人員の能力差を。
君たちのところは、カヤノヒメの権能の加護の性か結界が幸運にも保ったのと、危なそうなのは君が潰したおかげで10年近く霊的な被害は出ていない。
まあ、こうして今、安全が見込める土地だからこの計画に選ばれたのもあるけれど、たまたま幸運が重なっただけでいつ破綻するかわからない状況だ。
だから、君に決めて欲しいんだ。
現地民の誰かにどれだけ肩入れするかは、個人の自由に任せているんだ。
君は、君たちはどうするんだい?」
花蓮と顔を見合わせる。もう決めている。
前のように、ただ生きて死ぬ人生はもう嫌だ。
前では得られなかった何かが手に入りそうなんだ。
生まれ変わってから、10年も過ごしてきた故郷と家族だ。
いずれ来る【世界の終末】から出来るだけ守るために、ここに来たのだから。
「決まっていますわ。
もともとここには真相を知って、本当なら大切なものを守れるようになりに来たのですから」
「話し合いがまとまるかは分かりませんけど、大切な人達がいるんです。
守れるように協力して下さい」
「その言葉が聞きたかった。
それじゃあ、よろしく頼むね☆」
ショタオジと霊視ニキと握手して別れ、事務の音無さんと護衛の日下さんと日下さんのシキガミ、協力の見返りとしてショタオジに貰った謹製の妹用高級シキガミ【クーフーリン】と一緒にワンボックスカーで、一路、山梨から神戸に向かうことになったのだった。
それから月日は流れ、色々あった。
帰ってから、つつがなく行われた結納式。
会場に乗り込もうとした連中がいたらしいが、着飾った葵さんと雫ちゃんに見とれていて気にもならなかった。
間もなく始まった【ガイア連合】との交渉。
行き詰まりを感じていたらしい帰郷していた義両親や所長さんが中心になって、組織としてのやすつきとの合併計画は進められた。
何度も乗り込んできて邪魔しようとした地元のガラの悪い連中を、優しく撫でて帰っていただく事もあった。
田中さんのところは正式にアルバイトは辞めることになった。
子どもに娘ができたら云々と思い出したように聞いてくる赤城さんを適度に相手しつつ、商品の受け取りだけは暇があれば時々受けるようになった。
建物の建設が始まり、建設霊地候補の一つだった間藤家の実家の場所にセクターが建設され始めた。
祖父と母はそれなりの引っ越し代を貰い自分が住んでいたアパートに引っ越して、自分と花蓮は、昔の当主の妾屋敷だったらしい無駄に広い月城家邸に越すことになった。
一緒に暮らすことに浮ついていた自分に、花蓮と白乃ちゃんが白い目を向けることが多くなった。
引っ越しついでに、忙しくてしばらく顔を出してなかった教会の様子を花蓮が確かめに行ったらしい。
結婚式場の教会もメシア教の物になっていて、前任の神父さんは自宅を引き払っていたとすごい落ち込んでいたので、ケーキを買ってきて慰めた。自棄食いしていた。
支部長(仮)に相応しい知識をと原付きだけでは不自由なので、とりあえず教習所に車の免許を取りに行き、年末ギリギリにようやく取れた。
かっこいい車をどうやって手に入れようか考えていたら、お金はこちらで出すからと葵さんたちがミニバンのカタログを自然に広げていたのは少し悲しかった。
周辺組織から悲鳴のような助けを求める要請が届くようになった。
日下さんは天パの若い男性と四国に行き、他の場所には自分たちや他の連合の派遣メンバーで向かってなんとかすることが続いた。
一員の一人だとかで威張っていた立花とかいう若い男が、依頼に失敗し大怪我をして帰ると嫌がらせがピタリと止んだ。
年が明けて、神託により如月吉日の結婚式。
女神様の視線を感じる中、神前式の葵さんは綺麗だった。
初夜に無事【脱・童貞】を果たし「とても素晴らしかった」と転生者掲示板で煽りに行ったら、呪術を使う奴に「祝ってやる」と呪いを掛けられて苦労した。
この様子だと新婚旅行は難しいので、屋敷の離れを改造し3人で住む場所のリホームをした。
葵さんと雫ちゃんから今後の綿密な家族の増やし方計画を聞き、前世でもなかった何か未知の感覚を初めて味わった。
そして、春には全部の建物も完成し【ガイア連合神戸セクター】は稼働を開始した。
自分たちを転生させた神様がいるならこう言いたい。
「死にたい訳なんかない。前世でもなかった大切なものが出来たんだ。
【終末】が来ようと、守ってみせる」、と。
つづく
あとがきと設定解説
・修行後の主人公たち
花蓮:レベルが1上がり、メシア教への警戒度が大幅アップともろ好みのシキガミゲット
カズマ:レベルが4上がり、変身前に【精神異常無効】と変身後に【破魔耐性】【呪殺耐性】取得
・【クーフーリン】
花蓮の護衛用に依頼した高級シキガミ
デザインは知り合いになった制作班の人の配慮で好みを反映した槍兄貴
耐性:物理耐性・衝撃耐性・呪殺無効。
戦闘スキルは、突撃、チャージ、食いしばり、かばう。
汎用スキルは、食事、会話、槍術。
今回で一応、第一部の完結です。
続きは、リアルの都合と何かが降りてくればと考えています。
それでは、読んでいただきありがとうございました。