中央歴1639年7月29日 日本社会主義共和国 仙台
近く行われる全人大の開催の準備に小林は追われていた。今回の大会は自身の後継者を決める投票にもともと日本に魔法があったという発表。そのうえで第三文明圏全体に対する革命戦争時の動員の説明と重要事が重なっている。
そんな中彼の秘書が待ち望んでいた知らせを届けた。
「議長、裏仙台が完成しました」
共和国最大の建設プロジェクトである地下都市建設の第一段階が完了した。これは将来の核戦争下での社会主義の勝利のために20年の歳月と国家予算の3割を使い地下500メートル、最深部は1000メートルという地中奥深くに20万人の住民が外部との接触なしに100年生存が可能という空想科学に半ば足が突っ込んだ計画だった。
しかし、共和国は前提条件を一歩ずつ解決してゆき、理論段階から建設段階へと進み現在裏仙台、裏札幌、裏青森、裏郡山、裏夕張の5つの地下都市計画が進行していた。その中で仙台、地下都市計画の発端であるこの都市は一年前に工事は完了し一年間の生存試験が行われ、今日、試験者の全員生存を確認し正式に運用されることになったのだ。
第二段階は収容人数を100万人に増やすことと地下都市間の接続、友好諸国に対する技術支援を含む地下都市建設である。第二段階の完了後に共和国は第二次祖国解放戦争を宣言し日本国に攻め込み『世界の半分と帝国主義の滅びによって社会主義の勝利』が実現される計画だった。
「それはよかった。多くの労働者が汗を流したのだ、成功の知らせは彼らを元気づける。」
革命の勝利が実現できる喜びを示したあと『動員に関してだが連盟構成国首脳と議長候補者を呼んで秘密裏に前もって説明したい。招待の準備をしてくれ。』と秘書に命じた。
中央歴1639年8月1日 日本社会主義共和国 裏仙台 作戦本部
ロウリア、クワ・トイネ、クイラの首脳のほか合計30カ国の首脳が地下750メートルの広大な地下空間に作られた統合作戦本部に集まっていた。共和国からも議長、軍事委員会委員長、議長候補、情報部部長という面々が出席していた。
「同志の皆さん、集まっていただき感謝します。この会議は半年後に行われる解放戦争時の我が軍の戦略について話し、皆様の協力を取り付けていきたいと思っています。」
議長である小林が切り出すと、軍委委員長が戦略について話し始めた。
・フィルアデス大陸の南北から攻撃を始める
・南方戦線は現状では海から上陸作戦を行うが情勢次第では陸路に代わる
・北部戦線はヒュペル人民共和国から陸路で侵攻する
・連盟諸国は北部戦線に属する
・共和国の動員は後方予備含めて1000万を予定する
・第一文明圏、第二文明圏の介入を阻止するために抵抗が激しい拠点には戦術核攻撃が行われる
・それに伴い共和国が連盟諸国の軍に核戦争下での行動に関する訓練を行う
という内容だった。
「1000万!?いくらなんでも多すぎる。そんなに必要なのか?」
と言ったのは次期議長最有力候補の有田和義だ。
政治的立場は組合派である彼は現在進められている革命の輸出に対して友好諸国の支援を重視するべきだという立場を取っている。内政を重んじる彼にとって1000万人の動員は生産に悪影響を与える代物でしかない。
「1000万動員と言っても実際に解放戦争に参加するのは後方予備含めても350万、前線に至っては30、40万人にすぎません。残りの750万人は旧休戦ラインに一週間程度留まりその後順次帰還させる予定です。」
750万人は戦争に参加しないのになぜ1000万人を動員するかのは、実際のところ動員はどれぐらいの速度でできるか?どのような問題が現れるかを知るために行うのだ。前世界でも計画案は上がっていたが実際に行えば軍事的緊張を高めすぎて核戦争になってしまう。だがこの世界では核戦争を起こるほどの緊張はまだないのでやってしまうおうというのが軍上層部の考えだった。
「戦術核とはいったい何ですか?わが軍の訓練にも関わるようですが?」
ロウリアの首脳ギノスが質問した。これまでの情報化時代の軍事訓練とは違う訓練概念とその原因である
戦術核とは何なんだというのはほかの首脳も抱いた疑問であった。
「戦術核というのはどういうものか、という説明にはこの映像を見てください。これが答えです。」
小林が切り出すと室内に『解放一号』が起爆した映像が流れる。
核爆発によって立ち上るきのこ雲と衝撃波によって吹き飛ぶ建物や兵器を見て誰もがコア魔法と伝説のラヴァーナル帝国を思い浮かべた。
「伝説の兵器を見ることになるとは・・・・」
ギノスは圧倒的な力があったからこそ共和国はロウリア船団に対して攻撃ではなく扇動で対処したのだと
改めて気が付いた。その力を得るためにもロウリアにさらなる改革が必要なことを決意するのであった。
「同志の皆さん、確かに核兵器は強力な威力を発揮し敵を壊滅させるでしょう。しかしこの兵器には欠点があります。それは放射能です。」
兵士たちが首脳たちに放射線による人体と環境に対する影響に対する資料を手渡した。この資料は人民諜報部による反動派に対する人体実験によるものである。
致命的な放射線によって生じる肉体の壊疽の様子を解説しながら小林は『だからこそ正しく放射線に対処する必要があるのです』と軍事訓練の重要性を主張し首脳たちは納得をした。
今度の話題はこの戦争にいかに兵力を出せるのかのという話し合いだった。盟主である共和国が350万という大兵力を戦争に参加させるというのなら、各国も大兵力を出すべきという考えは道義的な考えであった。
「我がロウリアは60万!動員させる!」
いの一番にギノスは大軍を送ると表明した。共和国との戦争においてロウリアが被った損害は軽微なもので
パーパルディアよりも圧倒的な国力を持つ共和国の支援があるのならば統一戦争と同じ兵力は出せるという計算の下だった。
「わ、我が国20万を動員するぞ」
「じ、10万だ」
各国が大軍を動員する表明をするのを見ながら小林は連盟諸国の革命への熱意に崇敬の念を感じていたが同時に必要量以上だということも感じていた。
「同志の皆さんの革命への熱意はわかりました。しかし、あまりにも多すぎます。一個合成旅団で十分です。」
その発言に多くの首脳が内心では安堵した。ロウリアに押される形で大軍を動員するとは言ったがそこまでの大軍を出す国力的余裕はなく、ただ見栄のために行ったに過ぎなかったからだ。
共和国の側でもまともに現代戦の訓練を受けていない雑多な軍勢はいるだけで進軍速度の遅さや規律の悪さによる征服地住民の悪感情を生み出すなど、悪影響しか残さないので比較的訓練を受けた部隊を欲しがっていた。
「さて、同志の皆さんはどうしてここで会談したか分かりますか?」
動員に対する会議が終わりに近づいていた時、小林が切りだした。異界側の首脳たちはこの場所で会議することは共和国の技術を見せるためだと思っていたがこの質問からすると別のことだと気が付いた。
「我が国が核兵器を持つようにこの世界でもコア魔法という核兵器に相当する兵器があると知りました。
であるならば将来の戦争は核の打ち合いになるのは当然の理であり、防護手段を手にしなければなりません。」
小林は各国の首脳に地下都市の建設を薦め、建設に対する技術支援をすると言った。加盟国は提案を受け入れ15年後には20万規模の地下都市を完成させるという目標を締結することになる。