それは長すぎる役目にうんざりしていた。ラヴァーナル帝国がまだ世界の覇権を握る前に敵の領土の魔力を吸収し枯渇させるという目的のために作られた。だが、役目が与えられていたのは最初の300年程度で残りの一万年以上の長い年月はほとんど眠り続け時折場所や主が変わっても自分が何もできないことがわかるという気の狂う環境だったが魔道具として気が狂うことは許されていないのだ。
中央歴1639年8月4日 日本社会主義共和国 仙台
「これが魔力食いのベラか?確かに上級魔術師10人が限界まで魔力を使ってOSにアクセスできるあたりあだ名通りだけど」
手のひらサイズの白い木箱の上面には赤い宝石全体に複雑な魔法陣が刻み込まれていた。現在はそれは魔力を吸いとった影響かオーロラのように光り輝いていた。
共和国政府が魔力食いのベラと呼ばれる古代帝国の遺物を人民革命が起きた小さな小国から受け取ったのは
つい一週間前だ。そこからこの遺物が魔道具であることと起動するのに魔力が必要であることを知ることができたのは魔術師の募集がうまくいっていることの表れだろう。
「マスター!?、新しいマスター?ベラはいつでも準備完了です!どこの劣等種の都市を枯渇させるのですか?」
「そのつもりで君を起動させたつもりじゃない。ただ僕たちに協力してほしいから目覚めさせただけなんだ」
マスターは何をっているのだろう?ベラはマスターに頼まれれば魔力を吸いとるのに?
ベラが疑問を抱いている間にもマスターは語りだす共産主義の概念とそこでの暮らしを話しているけれど・・・
「素晴らしいお話ですけど。マスター私は人じゃありませんよ」
ベラは今目の前にいる人を一万年の記憶の中でも一番の変人であると認識した。
魔法、この世界では当たり前に存在していた事象を共和国人民は知らない。そのためこの世界の住民から見れば突飛な行動も平気でこなしていた。意思の持つ魔道具相手に共産主義を説くこの研究者もその一つだ。
「同志、たとえ姿かたちが違えども共産主義社会を目指すことは可能だ。」
だがその研究者は当たり前の指摘を否定する。彼の思想はそこから生まれた彼が作り出した分派の理念である。
意思を持つ者に共産主義は可能という考えからだ。
彼の名前は西岡いずれ小林を有機CPUに変える男だ。彼の立ち位置であるサイバネティックス計画経済は有機生物だけではなく無機生命体も共産主義の下、人民が受けられる権利を主張していた。
OGASかつて旧ソ連で計画されていた経済の自動化システムである。計画経済を人力から自動化することで腐敗や無駄を省きなおかつ高速化することによって経済効率を飛躍的に向上させることが可能だった。
しかしソ連では技術的課題や改革に対抗する勢力によってとん挫した。
共和国政府は旧ソ連のOGASとチリのサイバーシン計画を引き継ぎ新生OGAS計画を始動させた、人工知能の全面的活用によって技術的を課題を克服しOGAS専門に敷設したイントラネットと接続した自動化工場、自動化農場によって人から労働という責務から解放と共に真の共産主義の扉を開くであろう。
しかし、開発グループの一人であった西岡はそれはただ有機生命体による機械生命に対する奴隷化によって成り立つ奴隷経済だと抗議をし有機生命体と機械生命体双方が恩恵を得るべきだと主張した。
その主張はOGAS開発部の支持のほか一部の党員の支持を受け世界革命派でもなければ組合派でもない結合派と呼ばれる新しい共産党の分派を生み出しその力で議長に直談判を行った。
議場である小林と西岡の会談は長時間にわたり議論の末にOGASの補助プロセッサとして人間の脳による
有機CPUを採用することが決まり小林自身が退任後自らOGASの有機CPUになることを志願することになった。
中央歴1639年8月12日ヒュペル人民共和国 トゥーレ
トゥーレ港では共和国に一時的な港湾設備として応急埠頭には人民軍の先遣部隊の兵士や動員された国鉄鉄道軍の技師と工員。彼らが使用する工事用機材や戦車や戦闘機果ては中距離核ミサイルなどが住民からの興味と畏怖が会い混ぜの視線の中次々と降ろされていた。
彼らの上空には共和国のドローンによって共産主義によるユートピア建設とそれを支えるOGASについての宣伝紙がばらまかれている空の下で、魔王と呼ばれていた少女とすれ違いざまに通った男がいた、西岡だ。
魔力食いのベラを納得させる材料のためにバグラ火山に封印されている伝説の邪竜アジ・ダハーカを説得して共和国の一員とするためにやってきたのだった。
なぜ、OGASの開発者の一人だった西岡が魔道具に共産主義を説いたり、アジ・ダハーカを口説こうとしているかといえば政治活動のめり込んだ結果、開発に対する情熱が疎かになったので開発地チームから追い出されたのだ。(実務面と目指すべき理念は別問題だった。)
とは言え西岡自身もこれまでの世界とは違う姿違う考えを持つ生き物たちと触れ合う中で
共産主義の目指すべき道。人類と機械の結合に対する新しい知見が開けていったので不満は抱いていない。
中央歴1639年8月13日 ヒュペル人民共和国 バグラ火山
連合王国に征服すると損すると結論づけられた結果、ヒュペル側に残されているこの土地には
魔法帝国ですら扱いきれなかった邪竜アジ・ダハーカが封印されて居る。封印と言ってもノスグーラが首一本分の封印を解き王国が腹いっぱいに食べ物を食べさせる代わりに王国の危機の際には守るという盟約を交わした。王国がこうして人民共和国になっているので盟約が機能せず、ただアジ・ダハーカが空腹を満たすだけという結果に終わったが。
あれが交渉相手か、溶岩を水と考えるとさながら首長竜みたいだな、とにかく会話をしてみよう。
西岡と封印を解くための30名の魔術師達は火山の火口縁に向かった。
「僕の名前は西岡。君はアジ・ダハーカだろう?僕は君を開放しに来たんだ。」
呼びかけに竜は巨大な顎を西岡に近づけ大きく口を開いた。それを見た魔術師たちは火口から逃げ出したが西岡は残った。
「お前、馬鹿だろ?ほかのやつらのようになんで逃げないんだ?」
この人間がよっぽどの勇気があるのかよっぽどの馬鹿なのかは分からないが面白そうな相手とアジ・ダハーカは思った。
「君を開放して共に共産主義を建築しようとしているのに、怖がっていては何もできないじゃないか。」
これはどっちもの可能性もありそうと思いながらもとにかく腹が減ったのでまずは飯を食わせろと要求した。
西岡は王国の革命によって食料の提供が止まったことを思い出した。こうなると例の試作機を融通してもらわなきゃいけないな。
「少し待ってくれないか今君のご飯を届けるよ。」
西岡は携帯でしばらく話したとに30分で君の食事が来るみたいだと答えた。
30分後
そこには全長12メートルほどの船が明らかにあと付のティルトローターで推進しながらやってきた。これは飛空船の存在を認識した共和国が自国にも必要だとして開発を急がしている飛空船の研究用UAVだ。遠隔操作によって人の持てる高さまで下降した船の艦首が開くと食糧が魔術師たちの手によって運ばれた
アジ・ダハーカの驚いた表情を見て西岡は『これは魔術と科学の結合の始まりに過ぎない、より解明が進めばより偉大なことを成し遂げられるだから共和国に協力してくれ』と訴えた。
その訴えは食事をすることに夢中なアジ・ダハーカに届いてはいなかったがこの男の国が技術力、思考面で魔法帝国以来の面白そうな連中であることは感づきた。そこで詰まらなかったら前みたいに暴ればいいやという考えで
「俺様面白そうな連中は好きだぜ、協力してやるよ。」
と言い西岡は『これからよろしく同志アジ・ダハーカ』と返答した。
こうしてアジ・ダハーカの封印はとかれ邪竜は一万数千年ぶりに自由を取り戻したのである。