真祖の姉   作:幽 

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お久しぶりです、待ってた方いたら反応くださると嬉しいです。


真祖の姉と退治人

「無理に決まっているだろう!?」

「何故ですか!?」

 

ロナルドは目の前で起こる喧嘩にどうしたものかと頭を抱えた。

 

 

ロナルドは突然の同居の申し出に混乱した、そりゃあもう混乱した。だって、吸血鬼なため年齢は不詳ではあるもののエリザはうら若き乙女だ。

おまけに美人だし、胸もデカい。実際に確認してロナルドは知っている。

 

そんな美人だし、優しいし、おっぱいもデカい彼女に言われて動揺もする。そんなために慌てた。

 

「え、えっと!いきなり、見ず知らずの男の家に、ど、同棲とかは!?」

「見ず知らずではないです!ロナルドさんは、ドラルク兄様と暮らしておられるのでしょう!?」

「く、暮らしてるっていうか、押しかけられたって言うか!そ、そう言えば、エリザさんは、ドラルクとはどういった関係で!?」

「私は、ドラルク兄様の、年の離れたおばにあたります。」

「お、おばああああああああ!?」

 

 

(なんとか言いくるめてつれて帰ってきたが。)

 

あのままだと押し通されそうだったためロナルドは必死に食い下がり、事務所にまで連れてきたのだ。

そうして、丁度、事務所を飛び出そうとしたドラルクと対面したわけだ。

ともかく入れと促されたエリザとドラルクはロナルドをそっち除けで言い合っている。

 

「だから!独り立ちなんて言い出したいんだい!?」

「だ、だって!わ、私だってもう、百才を越しました!一族の皆さんだってもう独り立ちされていますし。そ、それに、兄様だってもう独り立ちされていますもの!私だって・・・」

「エリザ、いいかい。確かに君も立派なレディと言える。だが、まだまだ一族の中でも君は年若いんだ。もう少し多くのことを学んでからにしなさい。」

「学びました!能力の制御も!人間社会での振る舞いも!きちんと、ミラ様に習いました!兄様!お願いします!兄様と暮らすと言えば、母様も納得されますから!」

「・・・・エリザ、あのね。男所帯に女の子を置くのは難しいんだ。それに、大おば様にも連絡がいったそうだから。今回は観光だけしておかえり、ね?可愛いプリンセサ。」

キザったらしくエリザの頭を撫でるドラルクに思わずロナルドはパンチした。ドラルクは死んだ。

 

「ヌーーーーン!!!」

「兄さまあああああああああああ!!!???」

「ゴリラ、ごら!さすがに意味不明すぎだろ!?」

「す、すまん!あまりにもキザったらしすぎて・・・・」

塵になりながらドラルクが叫べば、さすがにエリザの前ですべきではなかったと後悔して謝る。

「まったく!そんなんだから野蛮なゴリラなんだ!ほら、エリザ、泣かないで!」

それにロナルドもばっとエリザを見る。

エリザはおろおろしていたがすぐに落ち着き、ドラルクを見つめる。

「す、すごい!さすが兄様!殺されようとも容易く生き返るなんて!」

 

(け、敬意!!)

 

あのドが付くような死にやすさにあまつさえその女吸血鬼は尊敬の念を抱いているのを見てロナルドはシンプルに思った。

どや顔晒してるドラルクがむかついた。

 

「はあ、ほらね、こんな野蛮な男がいる街にエリザを置いておけないよ。わかってくれるだろう?」

「で、でも、ロナルドさんはいい人だと思います!あの、えっと!私の胸に顔を突っ込まれたときもきちんと謝ってくれました!」

「青二才!!!!!!!なに、うちの可愛い末っ子にとんでもないセクハラかましとるんじゃ!!とうとう頭がシンヨコに染まったか!?」

「えーん!!!事故なんだよ!!」

 

ロナルドは半泣きになりながら事情を話した。それにドラルクは苦虫を噛みつぶしたかのような顔をしてロナルドのことを引きずって行く。

 

「エリザ、ちょっと私たちは話したいことがあるからジョンとおやつを食べててくれるかな?」

「わあ!兄様のクッキー!」

 

ジョンとにこにこクッキーを食べるエリザをドラルクはひどく優しげに見つめた後、ロナルドに鬼気迫る勢いで話しかける。

 

(ともかく!いいか、あの子の独り立ちの夢をなんとか諦めさせるんだ!あと、さっきのラキスケは誰にも言わずに墓場まで持って行け!!)

(お、おう!俺も、心配だからいいけどよ。なんでそんなに言うんだ?いつものお前なら焚きつけそうなのに。)

 

その言葉にドラルクは、それはもう苦みを噛みつぶしたかのような顔をした後、ロナルドに言った。

 

(いいか!あの子はお祖父様の姉君の娘なんだ!)

(え、じいさん、姉いたのか!?)

(そうだ!そうして、その姉、私にとって大おばに当たるのだが!超、怖い!)

(ちょ、ちょう、こわい?)

ロナルドのそれにドラルクはこくりと迫真の顔で頷いた。

 

 

ヒュプノスの魔女、または最近ではバッカスの魔女と呼ばれる大おばはドラルクにとってそれはもう怖い存在だった。いや、ドラルクにとってはもちろん、一族の吸血鬼にとっても恐ろしい存在だった。

 

何せ、大おばは享楽的な吸血鬼にしては厳格且つ物静かな吸血鬼だ。己から他者に話しかけることなんてないし、基本的に自分の城に引きこもっているか、一人で行動しているのだ。

ただ、真祖が何かをやらかすときは止めてくれたし、恐怖のお暇?タイムも彼女が付き合ってくれるのでありがたい存在でもあった。

 

(身内に一人はいる頼りにはなるけど、めっちゃ怖い女主人みたいな人なのか・・・)

(そうだ、何より!大おば様は私のことも甘やかさなかった!)

(身内の子どもに対してある程度正しい反応じゃね?)

 

ロナルドは冷静にそう言った。けれど、ドラルクは違うと首を振った。

 

(そうだとしてもだ!あの人、赤ん坊の時の私にも無関心だったんだぞ!?赤ん坊だぞ!?赤ん坊!!)

(赤ちゃんか、そうか、赤ちゃんにもそんな感じなのか・・・・)

 

一族は基本的にドラルクに甘い。故に、ドラルクはとても楽しい祖父同様に大おばも自分に対して優しく振る舞ってくれると信じていた。

が、そんなことはまったくなかった。

 

今でも覚えている。

初めて会った大おばは自分に一瞥くれたあと、ああとそうかとだけ言い捨ててその場を去って行ったのだ。

その時の、冷たい目を、ドラルクは覚えている。何せ、そのショックで死んだのだから。

何も映さない、エメラルドの瞳。硬質で、無関心で、沼のように深く濁った瞳。

全てを拒絶する、その瞳をドラルクは覚えている。

その一瞥でなんとなく理解する。

 

これはきっと近づいてはならないものだと。

 

(めっちゃ畏怖かった!!お祖父様とは違う、こう、精神的な畏怖さ!)

 

竜が一族が魔女といえば古参の吸血鬼は大抵知っている。真祖とは違う、圧倒的な威圧感と畏れを感じさせるその人はある意味で吸血鬼の憧れなのだ。

 

ドラルクはそんなことを頭から思い出してロナルドに圧をかける。

 

(大おば様はお祖父様以外に関心がうっすい方なんだ!基本的に血族以外には興味がない吸血鬼にはあるまじきほどに!そんな大おば様が唯一手元に置いて可愛がっているのがあの子なんだぞ!あの子に無礼をしてみろ!大おば様にどんな目に遭わされるか!)

 

ドラルクはぞわぞわと走る寒気で一回しに、生き返る。

そうしてロナルドもようやく気づく。

 

(・・・じいさんの、姉ってことは?)

(ようやく気づいたか!そうだよ!お祖父様並にめちゃくちゃできるぐらいの能力あるし!厳格だし!そんな人が唯一可愛がってる娘をこんな魔境に放り込んでおくか!?あまつさえ変態共の餌食になってみろ!ゴジラが暴れ回ることになるぞ!!)

 

ぞーっと寒気がしたロナルドはドラルクに同意するように頷きあう。

ともかくは男所帯に彼女を置いておけないとうなずき合い、そうして、振り返る。

 

そんなとき、けたたましく電話がなった。

 

 

 

 

「ロナルド、遅いぞ!」

「悪かったああああ、ぶっはらばたああああ!!!」

 

緊急の呼び出しで飛び出してきたロナルドとドラルク、そうしてエリザの到着に半田桃がいつも通りセロリを持って待ち構えていた。

 

「エリザ、気にしなくていいから。あれが二人のコミュニケーションだから。」

「か、変わった、コミュニケーション、ですね?」

 

エリザが困惑したようにそう言っていたとき、ロナルドが叫ぶ。

 

「そ、それでえ!今回はどんな変態が出たんだ!?」

「へんたい?」

「エリザは気にしなくていいから。」

そう言いつつ、ドラルクは頭を抱えた。

 

電話で緊急で、吸血鬼が出たという話に飛び出したロナルドをエリザが心配して追いかけた。ドラルクはげき弱なので引き留められず追いかけるしかなかった。クソザコだ。

 

「聞こえとるぞ!!」

「で、今回は催眠で、だ。」

 

半田がさした方向、駅前には山のような人がたむろっていた。へべれけで。

 

「うわあああああああ!!酔っ払いの山!!」

「そうだ!この辺りで何かしらの飲料を飲むと酔っ払う!吸血鬼も血飲んだら酔っ払う!」

「最悪だ!」

「いや、待て!水を飲んでも酔っ払うから酒飲みは嬉しそうだ!!」

 

皆が皆くだを巻いて水やらお茶やら血やらで宴会を開いている。酒くせえし五月蠅いし、笑い上戸に泣き上戸まで多種多様だ。

その場に半田しかいなかったのは、偏に吸対は避難に、退治人は吸血鬼を探してのことだった。

 

「なんだと、吸血鬼酒飲みでも出たのか!?」

「いや、その、吸血鬼の気配はするがどこにいるかまではわからんのだ。これだけの能力の範囲が広いならわかりそうなのだが。位置がわからんほどに気配が薄い。」

「そりゃあ・・・・・」

 

ロナルドがそんなことを言っているときに気づく。

後ろにいたドラルクとエリザがだっらだら冷や汗を流していることに。

 

「怒らないからいいなさい!!」

「その前振りは怒るやつじゃないか!!」

「でも、言わないと始まらない!!!」

エリザが叫ぶように言って、気まずそうに視線を逸らした。

「あの、その、たぶん。母様の、せいだと思います。」

 

 

変わった街だとMは目の前で起こる乱痴気騒ぎを眺める。皆が皆に酩酊し、酔い、隣にいるものが人か人でなしかも分からずに騒いでいる。

Mもまたワインをボトルから煽り、足を組んでその様をぼんやりと眺めている。

 

現在の状態は、Mの催眠の作用によるものだ。彼女の息を通じて、酒気を帯びた空気を媒介に催眠が作用している。そうして、それは人から人に伝播し、駅前は見事に酔っ払いの巣窟と化しているのだ。

別段、能力の制御が効かないわけではない。辞めようと思えば止められる。それをしないだけだ。

彼女がそんなことをしたのは、偏に、新横浜の光景が嫌になっただけだ。

 

(人と、吸血鬼が普通に暮らしている。ふざけて、騒いで、交わって。)

それが、どうしようもなく憂鬱だった。

 

 

Mは、弟であるDよりかは全体的な能力値は劣っている。そうは言っても彼女も真祖であるために他にひけは取らない力を有している。が、全体的な吸血鬼の能力等は弟の方が勝っている。

精神関連の能力値以外は。

例えば、Dが10の力を持つ能力についてはMは8だったり9程度の力しかない。けれど、催眠や魅了などについては12ほどの力を持っている。

そのため、Mが本気を出せば弟を操り、どんなことでもなせるだろう。そう、普通にやべえのである。

そんな精神系統特化のMは大抵のことを誤魔化せる。今だってダンピールに見つからないのは気配を消しているからだし、姿だって適当な女の姿をしている。

 

酒を煽る、酒をあおる。

酩酊よ!

酔いの中では、多くのものを忘れる。

酩酊と、停滞は似ている。

ただ、ただ、酒気の中でくだを巻き、ぼんやりと移りゆく世界を見つめる。

あの、ひまわりのような男がいない事実を忘れられる気がした。

ただひたすらに享楽と酩酊に溺れ、ぼんやりとした幸福に浸り続ける。

 

だから、魔女は酒をあおり、今でさえ周りの人間達さえ巻き込む。全てを曖昧にして、今でさえも、酩酊の中で平等にして。

 

夢を見る、現から目をそらす。

 

娘を迎えに来た、のではある。ドラウスからの連絡にすぐに城を出てやってきた新横浜の光景はどこか苦みを持って見つめた。

 

人と吸血鬼が、当たり前のように共に生きる。

それが、どこか憎らしくて。

 

もっと、遅く、生きていれば。あの男と、こんな時代を生きていられれば。

あんな末路など辿らなかったのだろうか?

苛立ち、腹の奥で蜷局を巻く感情。それをやり過ごすために酒を飲む。

 

(迎え、迎え、おそらくドラルクの所だろうが。ロナルド、か?退治人の元にいるそうだが。)

 

それでもベンチに座ったまま、動けずにいる。

ぼんやりとそんなことを考えていると、たったと誰かが走ってくる音がした。

その方向に目線を向けた。

 

そこには、赤い衣装を纏った青年がいた。銀の髪に、鍛えられた体躯。健やかそうな走り姿。

 

そうして、空のような、青の瞳。

何故だろうか。どうしてだろうか?

あの、老い、死に近づいてなお輝いていた男の瞳に、とても、よく似ていて。

 

「・・・・おい。」

思わず、声をかけていた。

 

(ひ、ひなん・・・・)

ロナルドは慌てていた。何をしてもすぐに駅前にたむろっている一般市民を避難させねばならないと。だが、哀しいかな、酔っ払いが言うことを聞くことなんてないのだ。

 

ドラルクとエリザが顔を青ざめさせていたのは偏に、それが彼らの怖れる竜が一族の魔女、または女王の能力であると予想できたからだった。

 

「か、母様が、苛立ってるときにそうやって強制的に酔っ払いにして・・・・」

「酩酊させて判断能力とか奪ってくるんだよ!」

「なんだよ、そういう性癖なのか!?」

「ばっか!吸血鬼の能力が全部性癖に準拠すると思うな!シンヨコに染まるな!!ただ、酩酊状態が一番拘束だとかする上で楽なんだよ!眠らせると動かすのもめんどくさいし!」

 

何はともあれ、真祖と同等の能力を持つ吸血鬼が怒っているのかも知れないのだ。何はともあれ、一般市民の安全を確保だと走り出した。

ドラルクとエリザはともかく置いてきた。ドラルクは足手まといだし、エリザを連れて歩くとさらに起こらせるかもしれないと。

それで、だ。

 

(おれ、おれ?あれ、えっと、なにを・・・)

 

ふわふわする。それは、何だろうか。丁度、心地の良い、酔っ払ったときの感覚だろうか?

何よりもだ、とんでもなく美人のお姉さんに膝枕までしてもらっている。酔っ払っているのも相まって気分は正直最高だ。

胸がとんでもなくどきどきしている。

 

(びじん、きんぱつに、あ、めが、みどりで・・・)

 

でも、とても、哀しそうな顔をしていた。哀しくて、苦しくて、何かをこらえるような顔をしていて。

それが、とても、なんだか申し訳なくて。

 

どうしたん、ですか?

「・・・驚いた。まだ、ある程度の意識はあるのか。」

あの、なんか、かなしそうで。

「・・・哀しそうか。そうか、そう見えるか。」

あの、おれで、やれること、ありますか?

「いいや、ない。ない。ただ、目を、見せて欲しいだけで。」

めを?

 

そうだ、目を。

青の瞳の男なんて今まで山ほど見てきた。山ほど見てきたのに、どうしてだろうか?

その男の目を見たとき、何故か、自分を見つめた青空を思い出して。

 

ああ、なんて。

(泣きたくなるほど、懐かしいのだろうか?)

 

目尻を撫でる、目元に指を添える。

あのひまわりのような男は、目の前のそれほど美しい顔立ちではなかったのに。

髪の色も、全部、全部違うのに。

何故か、とても、懐かしくて。

 

酩酊の内に夢を見るように目を細めていたその時、だ。

 

「母様!!!」

爆音の娘の声が聞こえてきたのだ。

 

 

「母様!何をされているんですか!?」

 

エリザはこれ以上ないほどの大声を出して、ロナルドのことを全力で母から引き剥がす。

重みのある体だが、怪力の能力を持っているエリザには容易い。

 

「お、大おば様!?」

後ろには母の気配を察知したエリザの後を追いかけてきたドラルクと、そうして、騒ぎに慌てて追いかきたらしいシンヨコの愉快な面子である。

 

「え、エリザ、よしなさい!若造!?だあああああ!催眠で酔っ払ってる!!」

 

ドラルクの騒がしさにMは物珍しい者を見る気分だった。何せ、大抵の存在はMの前では静かで、怯える。

 

「可愛い子犬がいたものでな。少し、撫でたくなった。毛並みがいい。」

「だからって!勝手に頭を撫でるなんて!!」

その時、エリザは激怒していた。

 

もちろん、母のことは恐ろしい、恐ろしいけれど。

彼女にとって血縁以外で初めて自分に友好的になってくれたロナルドの頭を自分よりも先に撫でたことが腹立たしく。

そうして、自分でさえも滅多に頭を撫でてくれないのに、見ず知らずの人間にそんなことをしたことに苛立っていた。

Mはベンチから立ち上がりながら変身を解く。普通の、特徴という特徴のない女がまるで下手な映像編集のようにぐるりと姿を変える。

 

黄金の神、白磁の肌、完璧に構成された顔立ち、そうして。

エメラルドのような深い色合いの瞳。

それはしんと、凪いだ水面のような目でエリザを見つめる。

 

それにシンヨコの愉快な面々が色めきだった。

 

「すげえ、美人!」

「ポンチじゃない!」

「いや、急に酔っ払ってる奴が吐いた後に弱っている姿が推せるとか叫ぶんじゃ!?」

「おい、黙れ!マジで黙れ!大おば様怒らせるとか本当に洒落にならんのだ!」

 

ドラルクは背後の人間たちにそう叫ぶ、そうして、Mに話しかける。

 

「・・・・お久しゅうございます、大おば様。」

「真祖が末よ、相も変わらず此方と彼方をためらいなく行き来しているようだな。」

「ええ、まあ体質ですので。それで、今宵、この地に来られたのはエリザの?」

「ああ、迎えに来た。お前が人と暮らしていると知って飛び出したと。」

 

気だるそうでドラルクを見ている母にエリザは何か面白くなくて、とても子ども扱いしているように思えて頬を膨らませる。

 

「ご足労を賭けて申し訳ございません。ですが、その前に、力を解いていただけませんか?この地は吸血鬼と人の遊び場。それを適当に荒らすのは品性に欠けるかと。」

 

マントを持ち、優雅に礼をしてそういうドラルクにシンヨコの愉快な面々は恐れ戦いた。

なんか、妙にシリアスな空気出してると。

というか、お前、そんな事言えたのかと。

それにMはそうかと頷き、片手を掲げた。

 

「そうだな、永久に続く宴など無粋の極み、であるか。」

 

ぱちんとMが指を鳴らすと同時に周りの、今の今まで酔いに任せていた人や吸血鬼が驚いた顔で素面に戻る。

 

「あ、あれ、ドラルク?」

「正気に戻ったか、若造!くそ、大おば様の催眠にまんまとかかりよって!」

「ロナルドさん、すみません!!母様が!」

 

それにロナルドは正気に戻ると同時に、知り合ったばかりの女性の母親に膝枕されていたという事実に死にたくなった。

 

「あ、あ、あの、すみません!すみません!いい匂いしたとか思って!」

「今いわんでいいわ!」

「えっと、母様の使ってる柔軟剤お教えしましょうか!?」

「そーいうことじゃないの!おだまり!!」

 

騒がしいその様を見つめていたMは正気に戻ったらしい周りの存在に顔をしかめた。

それと同時に、またパチンとMは指を鳴らした。

それに、酔っていたものたちはがくりと眠りに落ちる。

皆がそれに驚愕の表情を浮かべる中、Mはため息を吐いた。

 

「煩わしいものはすかん。」

 

気だるそうにため息を吐き、そうして、彼女はエリザに手を伸ばす。

 

「エリザ、帰るぞ。」

 

それに皆が視線を集める。何はともあれ、あの嵐を起す破天荒ジジイと同等の力を持つ吸血鬼には早々とお帰り願いたいものばかりだ。

それと同時に、皆は今の現状を、それこそ家出娘の駄々だと思っていたために。

それに、それに、エリザはまるで母親のことを拒絶するように叫んだ。

 

「い、いやです!!」

「エリザ!?」

 

ドラルクが悲鳴のような声を上げた。けれど、エリザはいやいやと首を振る。

 

「わ、私だって、もう十分大人です!年齢だって三桁を越えました!」

吸血鬼にとって成人はそれぐらいなのだろうか?

 

それはそれとして、三桁がどれぐらいの意味合いなのか人間達には分からない。

少なくと、その場にいるのは退治人と吸対の面々だけだ。

 

「エリザ!大おば様に逆らうなんて!」

「で、でも!私、私、もう、お城の中に閉じこもっていたくありません!」

エリザは体を震わせて、しんと静まりかえった瞳の母を見た。

 

世界はとても広くて、とてもたくさんの人や吸血鬼がいて。

エリザはずっと、外の世界に憧れていた。憧れて、ずっと、窓からそれらを見つめることしか出来なかった。

母に反対されたから。だから、認めて貰おうと、能力の制御の仕方や、ノースディンを教師役にして、ミラに進められた社会での振るまい方だってちゃんと勉強した。

 

なによりも、だ。

 

「わ、私も、ドラルク兄様みたいに、お友達が欲しい!一族以外の人と遊んだり、仲良くして、お話しして!昼の子どもたちと、遊んでみたい!夜の人たちと知りたい!それに・・・」

エリザは震える手を握りしめて母を見た。

 

いつだって、凪いだ目をした、強く賢しく美しく、そうして畏怖を感じさせる自慢の母。

 

「ちゃんと、一人で、生きられるって。母様に、見せたいんです。」

震える声でそう言ったエリザをドラルクはじっと見つめた。

 

エリザは昔からいい子だった。

吸血鬼にしては勤勉で真面目で、遊ぶことが、享楽的に生きることが苦手な少女。

吸血鬼にしては享楽的な行動を好まない母を持ったせいか、その母に愛されたいが故か、彼女はずっと従順な子どもだった。

 

故に、エリザはドラルクに敬意を払うのだろう。永き、定められぬ命を持つ、享楽という灯を持って世界を生きることに長けたドラルクを。

普段のドラルクなら自分で面倒を見るからと説得の一つでもしていただろう。それは元より、反骨精神もそこそこ且つ騒がしく楽しいことが好きなために。

が、彼も彼でさすがに大おばの事に関しては手が出しづらかった。

 

そりゃあもう、大おばは怖いし。何よりも、百歩譲って独り立ちさせるとしてこんな魑魅魍魎のあふれる新横浜でなくていいだろ。

可愛い末っ子をこんな魔境に起きたくなかったのだ。

ドラルクがそんなことを思い、取り繕おうとしたとき、意外な助っ人が入った。

 

「その、こんなに言ってるんだから。許可してもいいんじゃないか?」

「こんのどあほ!!!!!」

ロナルドの助け船にドラルクが叫んだ。

 

(お前、さっきも話しただろうが!こんな魔境にあんな純粋無垢なうちの姫を置いておけるか!)

(いや、でも、その。あんなに言ってるから!おまえの親父さんとこならいいんじゃないか?栃木にいるんだろ!?)

 

そんなことをがやがやと騒いでいる中、Mはエリザが興奮のためか頬を赤らめて、目をキラキラさせて二人を見ているのを確認した。それに彼女は頷いた。

 

「わかった。」

「「「は?」」」

 

皆がそんなことを言っていると、Mはドラルクに向けて念動力で何かを渡す。

 

「こ、これは?」

 

「私のカードだ。それで適当なホテルをとってエリザを放り込め。一ヶ月以内に移住地と、その他諸諸を見つける。お前はその間に、この街の地理なんかを叩き込んでくれ。」

「え、え、え?お、大おば様!?」

Mはすでに興味をなくしたのか、ちらりとエリザを見る。

「エリザ。」

「え、あ、はい!?」

「・・・・よき黄昏と夢を見るといい。」

そうMは言うと、ちらりとロナルドを一瞥し、そうして、するりと解けるように消えて仕舞う。

それにドラルクが叫んだ。

 

「あんた、どうする気なんだああああああああああああ!?」

そうして死んだ。

 

 

 

「・・・うん、なんだ?」

 

その日、カズサは仕事場にて、自分に与えられている部屋に戻ってきていた。

本部長室には特別、おかしなことはない。出て行ってから変わったことなど無い。

部屋は簡素に、机と、そうして資料などが収められた棚がある程度だ。

別段、おかしなことはない。

おかしなことなど、ないはずなのに。

カズサは部屋の中をきょろきょろと何度も見回し、そうして、デスクの前当たりで立ち止まる。

 

(なんだ、違和感が・・・・)

「なんだ、気づくとは催眠への耐性があるほうなんだな。」

突然聞こえた声に、カズサはそれに振り返る。そこには、己のデスクに腰掛けて、カズサを見つめる女がいた。

 

それはまるで絵の中、いいや、創作の中から飛び出してきた程に美しい女だった。

一瞬、見惚れはすれどすぐにカズサは正気に戻り取り繕うように微笑んだ。

 

「・・・・いやあ、推しに似てる美女が部屋で待ち構えてるなんて光栄だな。でも、少しばかり、この部屋は関係者以外は入っちゃいけないんだが。間違えてないか?」

「ここでそんな軽口がきけるとは豪胆だな。嫌いじゃない。」

 

柔らかく笑みを浮かべる口元は、まるで夢のように完璧な弧を描いていた。それこそ、ヒヨシではないが状況が状況でなければお近づきになりたいと願っていただろう。

が、尖ったその耳を確認し、それがなんであるかを理解する。

 

「で、吸血鬼が、吸血鬼対策の俺の部屋に何用で?というか、よく、ここまで入れたな。」

「“招かれなければ立ち入ること叶わず”とは言うが。やりようでどうとでもなる。幼い子どもの姿でも取れば、容易く中にも入れる。君達は優しいね。君達は、優しく、そうして愚かだ。変わること無く。」

「お褒めにあずかりどうも。」

 

カズサは軽口を叩きつつ、どうするかと悩む。逃げるか、反撃するか、このまま対話を重ねるか。

対話以外の選択肢をとっても無駄だろう。それは少なくとも、カズサが今の今まで気づかれることもなく、部屋に滞在していたのだ。

 

(それよりも、目的を聞き出してから。)

「さて、貴様も部屋への侵入者の目的ぐらいはそろそろ聞きたいか?」

「・・・・出来るなら。夜のお誘いじゃなさそうだ。」

 

それに女はやはり、少しだけ楽しそうな笑みを浮かべた。カズサはそれに思わずへらりと笑い返してしまった。

それほどまでに、その笑みは美しい。生物の魂にするりと入り込み、魅入られるに値するほどに美しい笑み。

心の中で確かに警戒しているのに、どうしようもなく好ましいと思ってしまう。

それ故に目の前の存在の脅威がまざまざと理解できる。

 

「・・・・いや、少しだけ釘を刺したかったんだ。なにせ、ここまで私たちのことを覚えている人間がいるなんて思わなくてな。」

 

そうして、女がそう言って手に取っていた資料を見て冷や水を浴びせられる。

 

「白銀の狼、竜大公。ほう、影の、青き血の、商人に、焔の。ふふふふ、吹雪のおちびに。ああ、さすがに・・・・」

 

朗々とそらんじるのは古の吸血鬼の字だ。が、何故か最後の名前だけはよく聞き取れない。

 

「ああ、そうか、あれの名前は、あれの願いで保護されているから聞こえないのか。まあ、それはいいか。それで、貴様らも記憶を長持ちさせるようになったな。前は、百年も持たないことが多かったというのに。」

 

そう言ってひらひらと資料をカズサに見せる。それにカズサは冷や汗を流して目の前のそれに問いかけた。

 

「・・・・矮小な人間にはあなたの字さえも分からぬ身だ。どうか、名乗りをいただけるか?」

 

それに女は、その吸血鬼は懐古を見つめるような目をカズサに向ける。

 

「・・・・さて、貴様らの間で私がなんと伝えられているかはわからん。ただ、同類たちは私をヒュプノスの魔女、バッカスの魔女とも。ああ、そうだ、もっとも古き、字は。」

ヘカテーの魔女、と呼ばれたな。

 

最後の字に、カズサは思わず呟いた。

 

「“ワルプルギスの惨劇”・・・・・!!」

 

それにそれはやはり静かに微笑んでいる、静かに、けれど、感情を感じさせない仮面のような笑みを。

それが怒りが、嘲りか、喜びか、もっと別の意味合いなのかわからない。

けれど、カズサはそれにどんどんと詰んだ、という感情がわき上がる。

 

(ヘカテーの魔女、名前しか伝わっていない、見た目も、どこの氏族かも分かってなかったが“!やはり、竜の一族だったか!)

カズサはようやく分かった情報に喜べばいいのか、今更だと思えばいいのかわからない。

 

ヘカテーの魔女、吸血殺しでも、人の殺戮でも有名なその名前にカズサが目を見開いていると魔女は疲れたようにため息を吐いた。

 

「・・・・それで、だ。こんな資料も引っ張ってきたのは、お前の妹が竜の末と友好的な関係を築いているからだろう?」

「・・・無礼を?」

「いいや、ドラルクはああいう子だ。適当にやる。あれは孤独に生きる上でも、他者の間で生きるでも、うちの一族の中で才能があるだろうからな。私が用があるのは件の妹だよ。ヒナイチ、だったか?」

カズサはじろりと魔女を睨む。

 

用?いったい、あの子に何の用があるというのだ?

予想が出来ずにいると、彼女は淡く微笑んだ。

 

「少し前に横浜で大量の催眠被害があっただろう?」

「そちらが?」

「ああ、悪気はないが、迷惑はかけたのは事実だな。それで、だ。新横浜で私の一人娘が暮らしたがっているのだ。」

 

その言葉にカズサの背中にどっと嫌な汗が流れる。

 

あほだ、ばかだ、絶対だめだ。

いや、新横浜は悪い場所ではないが、それはそれとして絶対に目の前の存在の一人娘が暮らしていい場所ではない。

あれはあれを楽しめる奴らだからいいのであって、それ以外は絶対だめだ。

カズサの心中など気にもとめていないのか、魔女は話を続ける。

 

「私の娘の保護者として、ヒナイチという娘と同居してほしいんだ。」

「何故か、お聞きしても?」

「新横浜にはドラルクがいるが、さすがに男所帯に放り込むのは双方ごめんだろう。そうして、娘は新しい環境で暮らしたがっているというのもある。私が望んでいる保護者は、同性で常識があり、かつ人との社会生活を体験させてくれること。それに幸いなことにドラルクとも親しくしているからな。」

 

そう言って魔女はとても、友好的とも言える、穏やかな笑みを浮かべてカズサを見る。

さああああと、いつの間にか開いていた窓から夜風が入ってきて、女の金の髪を揺らしている。

カズサは一瞬考える、考えて、そうしてにっこりと微笑んだ。

 

「ええ、是非!いやあ、うちの妹がお役立てるならありがたいです!」

それに魔女は同じように微笑みを浮かべた。

 

「ああ、ためらいなくうなずける賢しい男は嫌いじゃない。」

「お褒めいただき光栄です!それで、こちらも社会的なものがありますので。同居と、すると吸対、組織での監視下に置くということに建前上なると思いますが。よろしいですか?」

 

それに魔女は少しだけおかしそうに、なんとなくそれこそが女の素の笑みのように思える、微笑み言った。

 

「・・・好きにしなさい。こちらもそれ相応に無理を言わせている自覚はある。そちらで準備が整ったら資料を送ってくれ。生活に必要な資金はこちらで出す。」

魔女はそう言って、住所を一つ口にした。

「用、というのは、それだけで。」

「ああ、そうだ、もう一つだけ。」

 

魔女はそう言ってカズサを見て、一言だけ単語を吐き出した。

 

“跪け”

 

ただ、それだけの言葉。それに、カズサはぐらりと体が勝手に動き、その場に跪く。視線は床に這ったまま、指一つ動かない。

かつりと、靴音がする。

そうすれば、カズサの視界に磨かれた黒いブーツの先が見える。それと同時に、誰かが蜜のように甘い声でカズサの耳元で囁く。

 

「・・・・昼の子よ、貴様らが敬意と親愛を持って夜に住まう我らに助けを請い、願うことをかまわん。ただ、忘れるな。我らに首輪を付け、情愛をえさに我らを使おうなどとすることを。」

魔女はけして赦さぬと、努々忘れる事なかれ。

 

その言葉の後、靴先は消え、体は自由に動くようになる。

部屋の中を見回すが、そこにはもう誰もいない。ただ、窓から心地よい夜風が吹いているだけだった。

 

カズサはその場に座り込んだ。

「・・・・はあ、あんな化け物一人で相手にするとか二度とごめんだぞ。」

そう言いつつ、まあ、悪くない取引だったろう。

 

あれは娘に何かあったときこちらに便宜を図ることを要求すると同時に、監視下に堂々と置くことや力を借りること自体は許可するということだろう。

カズサはちらりとデスクに放置された吸血鬼の資料を見つめる。

「・・・・人間の小手先なんてお見通しなのかね?」

やれやれと彼は軽く首を振った。

 





魔女
甥からの連絡で速攻迎えに行った。ただ、娘の初めての我が儘とある程度の常識は叩き込んだから独り立ちを許可しただけ。
あとは、青い瞳の青年に懐かしさを覚えたのもある。
ヒナイチのことは該当者がいないか、使い魔を街に放って調べた。
赤毛の少女、クルースニクか。覚醒せずにいるのか。きっとそれはいいことだ。
カズサの部屋に侵入した後、一族の資料を見つけて釘を刺した。
これから娘の様子を見にちょこちょこ新横浜に出没し、吸血鬼を恐怖のどん底に叩き込む。
嘘予告では人に殺されている。

エリザ
母からあっという間に許可を貰えたことに茫然としつつ、嬉しく思っている。何の縁か分からないが、年若い少女、友達になれそうな存在を暮らせて嬉しい。ヒナイチのために愛友弁当だとかおやつを作っているが、ドラルクに叶わないのが悩み。
ポンチも多いが、母の恐ろしさに比べると大抵はスルーできている。
初めての友人判定し、母から庇ってくれたロナルドに懐いている。
嘘予告では産まれて来れなかった。

ロナルド
魔境にエリザが暮らすのは反対だが、独り立ちしたいという彼女の言葉に昔の自分を思い出して加勢した。
加勢してよかったのか悩んでいる。どんな意図か、ボディータッチの多いエリザにドギマギしている。
魔女の、物悲しい目を忘れられずにいる。

ドラルク
めっちゃ怖い親戚からエリザのことを頼まれて頭を抱えた。独り立ちはいいが、こんな魔境に放り込むなと恨んでいる。ただ、自分を慕う末っ子は癒やしだし、可愛くてたまらない。
ちょくちょく大おばがシンヨコを訪れることが判明し、ポンチ共を集めて釘を刺さねばと思っている。

ヒナイチ
ドラルク同様に監視に置く、また、同居するように兄から正式な命令が来たことに驚きまくったがびっくり、というか心配になるほどいい子なエリザでほっとしている。というか、エリザが家事をしてくれるので生活レベルが向上してありがたい。
ロナルドと、吸血鬼二人が去った後、元の生活に戻れるのだろうかと不安のある会話をする。

ドラウス
おばに伝えた後、新横浜に向かおうか悩んでいる内に全部終わって息子から怒られた。
あんたが来て自体を収集しなさいよ!
これからおばがシンヨコにちょくちょく襲来することが決定し、頭を抱えた。

ある程度年齢のいった吸血鬼
ヘカテーの魔女とエンカウントする確率がばか上がりしてどうるするか頭を悩ませている。純粋にこえーし、会いたくない。

真祖
姉に遭わせて襲来率が上がる。
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