少年とガールズバンド   作:奏でるの

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中編


結局3部構成です。ごめんなさい。

まだ障害物競走やらないです。ほんとごめんなさい。



#13 体育祭とか 中

「次なんだっけ?」

 

「チアダンス」

 

 

昼食を終え、午後のプログラムが始まった。

 

 

え、昼飯? 優しい方たちが自分の弁当から少しづつ分け合ってお恵みくださったよ。ほんともう泣きそうになったね。なんか途中から妙に「私のも」「私のも」とひっきりなしだった気もするけど。

 

 

というか俺が俺のために作った弁当を俺が食えないってなんだよ。青葉とおたえ許すまじ。美味しかったって言ってくれたことは嬉しかったけども。

 

 

そんなことを考えていると、グラウンドの中央で軽快な音楽と共にチアダンスが始まった。

 

 

おろ?

 

 

「上原が出るのは知ってたけど、アレは……今井先輩?」

 

「リサさんも出るって。さっき聞いた」

 

「ほーん」

 

 

モコモコしたやつ……アレ何て名前だっけ…まぁいいや。それを両手に携えて踊るチアガール達。この体育祭に来ている大勢の人がその踊りに夢中になっていた。

 

 

チアダンスは今回の体育祭のプログラムの中では唯一の非競技種目だ。別に何かを競っている訳では無い。言わばただのエンターテインメントだ。上原曰く、生徒有志の企画としてプログラムに組み込んだらしい。わざわざこのために衣装まで仕立てたようで、フリフリとした布面積の少ない格好で踊っている。いいな。涼しそうで。

 

 

「うぉおおおおおおおおっ!!」

 

 

男子諸君は分かりやすく盛り上がっているな。そりゃあアレだけ女子達が飛んだり跳ねたりしていれば……特に上原とか。その気持ちは分からなくもないが、もちっと落ち着きをだな。そういうのは内心に留めておくんだよ。

 

 

……しっかし。こうも目の前で、しかもそんな短いスカートでピョンピョンされるとですね…。ちょいと目に毒なんですわ。

上原には「見ててね!」と言われている手前、見ない訳にも行かないんだが…。こう、ほらね? 分かるでしょ。

 

 

「………」

 

「………ち……」

 

「………」

 

「……違うんですよ。美竹さん」

 

 

男子諸君よ。ごく稀にだが、例え内心に留めておいていたとしても、心の内を見透かされる場合がある。因みに俺の場合は頻繁に起こる。なんでや。

 

ジト目でコチラを見つめる美竹。

 

 

「……変態」

 

 

そんで罵倒。

 

 

「…何を思ったか知らないが、違う」

 

「どうだか。ひまりは大きいしね」

 

「なんのことやら」

 

「へー。佳夏ってやっぱ大きい方が好きなの?」

 

「さ、沙綾…?」

 

 

ここでまさかの沙綾参戦。笑顔だが笑顔じゃない笑顔でやってきた。なんだそれ。

 

 

「あの2人も可愛いもんね」

 

「……あの沙綾。脇腹抓るのやめてくれませんか」

 

「良かったね。可愛い同級生と先輩がいて」

 

「いだだだだ」

 

「ひまりとはよくくっついてるしね」

 

「おい、お前までなんで抓って」

 

「2人ともスタイル良いし…」

 

「…いたた。いや…それはお前らもだろ…?」

 

「「……」」

 

「あ"ぃだだだだだだだだ」

 

「(すぐ…!)」

 

「(そういうことを…!)」

 

 

 

 

 

「なぁモカ」

 

「なぁにートモちん」

 

「アイツら何してんだ?」

 

「えー? ん〜…なんだろーねぇ〜」

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

「どうだった? 佳夏!」

 

「アタシ達の踊り☆ 見惚れちゃった? も〜しょうがないな〜…//」

 

「……すんません。あんま見れてなかったです。痛すぎて」

 

「「…え」」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

沙綾達から逃げるようにその場を去った俺は、保健室に向かうため歩いていた。

 

 

別に2人に抓られた所が痛くて行く訳では無い。いや今でも痛いけど。さっき確認したら抓られた所が赤くなってたし。

 

 

目的はあの馬鹿(優太)の見舞いみたいなものだ。二人三脚で亮を巻き込んでズッコケた挙句に足を捻挫。そのまま保健室で休んでいるらしい。

 

 

あぁ、丁度いい。ついでに替えの体操着に着替えておこう。

 

 

保健室到着。

 

 

「うーす」

 

「……おう

 

 

声ちっさ。

 

 

そこにはベッドに仰向けで寝転びながら窓の外を見つめる怪我人が。足には氷嚢が括り付けられている。

 

 

「大丈夫か? 足」

 

「もう痛くはねぇ。痛いのは心だ」

 

 

いや、その発言が痛いんよ。

足ではなく頭の方を心配するべきだったかもしれない。

 

 

「俺はこの小さな窓から体育祭を眺めることしか出来ないのか…」

 

「…それはその、なんだ…? ドンマイ」

 

「俺はどうやら……ここまでのようだ」

 

 

悟りを開いたかのようなうっすーい面で、何かを諦めたこの男。体育祭を俺以上に楽しみにしていたやつだ。その絶望は想像にかたくない。

 

 

「そこでだ」

 

「ん?」

 

 

急に俺の方へ身体を向けたかと思うと。

 

 

「お前を呼んだのは他でもない…」

 

「いや呼ばれてねぇよ」

 

 

ここに来たのは俺の意思だわ。

 

 

「まぁ小さい事は気にするなよ」

 

「はぁ? …で、何さ」

 

「俺はまだ出場していない競技があってな」

 

 

突然そんな事を言い出した。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「あっつぇ」

 

 

着替えも済ませ、校舎から出た俺を日差しが照らす。ほぼ直情にある太陽の熱は収まるところを知らないようだ。ちょっと本気出しすぎなんじゃないですかね、太陽。というか雲はどこ行った。

 

 

まぁそんな事を気にしていてもどうしようも無いので、さて行きますか。と、自身の座席へ戻ろうとグラウンドに向かおうとした時。

 

 

「もー。かのちゃん先輩すぐどっか行くんだから〜」

 

「うぅ…。ごめんねはぐみちゃん…」

 

「でも大丈夫! はぐみが来たからには、ちゃ〜んと皆の所に連れてってあげるからね!」

 

 

北沢に手を引かれながらとぼとぼと力なくついて行く松原さんという、なんともシュールな光景が目に入った。

 

 

奥沢から()()()だとは聞いていたが、ここでもそのスキルは発揮するんですね。

 

 

「あ! けいけいだっ」

 

「ふぇ? …り、林道君?」

 

「ども」

 

 

笑顔で走り寄ってくる北沢に連れられて、松原さんもこちらへやって来る。

 

 

「来てたんだな」

 

「うんっ。薫くんが是非来てくれーって!」

 

「なるほどな。弦巻達は?」

 

「こころちゃんも美咲ちゃんももう来てるみたい。客席で集合の予定だったんだけど…」

 

「迷ったと」

 

「うぅ…//」

 

 

やっぱり。流石の迷子姫と言ったところか。白鷺さんや奥沢から聞いていた通りの能力。ここまで来るともはや特技の領域では?

 

 

「なんかね? かのちゃん先輩ったらずぅ〜と奥の方にある井戸の近くで歩いてたの」

 

「井戸って…真反対じゃん」

 

「ふぇぇ…。そうなの…?」

 

「でもすぐ見つかって良かった!」

 

「ほんと」

 

 

確かに、なんだか松原さんを放っておくと本当に消えてしまいそうで怖い。

 

 

「本当、ありがとうねはぐみちゃん…」

 

「いーんだよかのちゃん先輩! ほら。けいけいも見つけたし、早く行こ?」

 

「う、うん…!」

 

「けいけいも!」

 

「あぁ」

 

 

とりあえずは松原さんを保護(?)出来たことに安堵して、俺たちは揃ってグラウンドへ。

 

 

その間。松原さんは何故か、北沢だけでなく、俺のジャージの袖も掴みながら歩いていた。そんなに不安なんですかね。

 

 

俺たちはすぐに客席へ到着。

さて弦巻達は何処だろうと見回「見て香澄! こんなに笑顔が溢れているわよ! コレが薫と佳夏の学校の体育祭なのね! 素敵だわっ!」「イッエーイ! コレは私達も楽しまないとダメだね、こころんっ!!」「ちょっとこころ! 戸山さん! あんまはしゃぐと迷惑に…。 あぁもう…!」……す必要は無かったな。

 

 

「やいお前ら」

 

「あら。佳夏じゃない! やっと見つけたわっ」

 

「はぁ…はぁ……、林道…助けて…」

 

「…お疲れ……(有咲と同じ…)」

 

 

どうやら弦巻や香澄を御しきれなかったようで、奥沢はぐったりと膝に手を付きながら助けを乞う。

 

 

だがすまない奥沢。

 

 

「こころん! かーくん! はぐみも来たよー!」

 

「あ! はぐ〜♪」

 

「花音も居るのね! これでハロハピが揃ったわ!」

 

 

ここで第三戦力(北沢)の投入だ。

 

 

「………無理」

 

「だ、大丈夫? 美咲ちゃん…!」

 

「あ、花音さん…。合流できて良かったです…」

 

「う、うん…。なんとか来れたよ」

 

「迷いませんでした?」

 

「……え…っと」

 

「……(どうなの林道)」

 

「(迷子だった)」

 

「……やっぱり現地集合にしたのが間違いだったか…」

 

 

額に手を当ててため息をつく奥沢。コイツの苦労は計り知れないな…、手を貸してやれればいいんだが。

 

 

「あの元気っ子三銃士はさすがにあたしの手には負えない…」

 

「…まぁ、香澄に関しては有咲に任せておけばいいさ。なぁ? 有咲」

 

「(ちっ……ばれたか)」

 

 

息を潜めていた有咲に視線を向ける。「私は関係ありません」みたいな空気出てたがそんなことはないからな?

 

 

「…というか、林道と戸山さん達って知り合い?」

 

「ん? あぁ、まぁな」

 

「やっぱバンド関係?」

 

「そ」

 

 

なるほどねぇ…と、奥沢は元気よく騒ぐ3人を眺める。

 

 

もしかしてとは思っていたが、やはり奥沢や弦巻、北沢も香澄達と接点があったんだな。

 

 

改めて思うけれど、やっぱバンド……というか、音楽って凄いな。小さなきっかけが広がって今がある。俺の周りには音楽を介して繋がれた人達ばかりだ。

 

 

もちろん奥沢もな。

 

 

「…はは。うん、そうだね」

 

 

奥沢は小さく微笑んだ。

 

 

「まぁなんだ。香澄達にとってはハロハピは先輩だからな。仲良くしてやってくれ」

 

「うん。…て言っても、もう仲良すぎなくらいだけどね。こころ達は」

 

 

まぁ…たしかに。

 

 

「あはは………あれ?」

 

 

松原さんが何かに気付いたようで、キョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「えっと…薫さんはどこかなーって…」

 

 

そう言えばそうだ。瀬田先輩が見当たらない。

2年生のリレーの時は、キャーキャーと黄色い声援に巻かれながら颯爽と走っていたのを覚えているので、休みではないはずなんだが。

 

 

「あー。多分あの中です」

 

「「あの中?」」

 

 

何かを知っている様子の奥沢は俺と松原さんの後ろを指さす。揃ってそちらに顔を向けると。

 

 

「キャー! 薫様ぁ〜っ!!」

 

「素晴らしい走りでした!」

 

「コッチ見てぇ! コッチ……っ!! きゃああ目が合っちゃったわ!!」

 

「あぁ……今日もお美しい…」

 

「体操着姿もありえないほど綺麗だわっ!」

 

「あぁああぁぁ握手してくださいぃ!!」

 

「コラコラ、子猫ちゃん達? 焦らなくていい。子猫ちゃん達の麗しい姿は一人一人、その言葉と共にちゃんとこの目に焼き付けているからね」

 

「「「「「キャアアアアッ!!♡」」」」」

 

 

人だかりというか故意的な押し詰め状態というか。とにかく人が群がっていた。イメージ的には蜂球だ。きっとあの人だかりの中心に瀬田先輩がいるのだろう。姿は見えないが声は聞こえる。

 

 

そして時々人が倒れる。瀬田先輩が一声かけるだけでバッタバッタと地に伏せるファン達。何あれ。集団ヒステリー?

 

 

「さっきからずっとアレ」

 

「軽くパニックじゃん」

 

「す、凄いね。薫さん…」

 

「自身の影響力を理解してないのよ。アレは」

 

「あっ。千聖ちゃん!」

 

 

急に誰かが会話に混ざってきたと思ったらこれはこれは。

 

 

「撮影、お疲れ様です」

 

「ありがとう。あなたも色々とお疲れのようね」

 

 

我らがパスパレのボス「佳夏?」じゃなかった、まとめ役。白鷺嬢のおなりである。

 

 

「撮影忙しいでしょうに、パスパレメンバーの応援ですか?」

 

「えぇまぁね。それとあなたも、ね?」

 

「……それは…どうも」

 

「ふふっ。花音もやっぱり来てたのね。会えて良かったわ」

 

「うん! 私も誘われちゃって」

 

「そう。…大方、薫に誘われたのでしょう」

 

 

そう言い、ため息をつきながら腕組みと共に瀬田先輩(を囲んでいる集団)の方へ視線を向ける。

 

 

何となく、だが。少しばかり白鷺さんの言動が気になる。どうも瀬田先輩と面識があるような発言がチラホラと。

呆れた様子の白鷺さんを見ながら聞いてみる。

 

 

「もしかして、瀬田先輩とお知り合いで?」

 

「…えぇ。世間的には幼馴染というやつかしらね」

 

 

なんと。そんな繋がりがあったとは。

 

 

「はぁ…。花音に迷惑をかけていないか心配よ…」

 

「だ、大丈夫だよっ。ちょっと…個性的だとは思うけど…」

 

 

それフォローになってます?

 

 

なんて、松原さんと白鷺さんの会話に耳を傾けていると。

 

 

「(ちょっとちょっと)」

 

「(んぇ?)」

 

 

訝しむような表情で、ヒソヒソと奥沢が話しかけて来た。

 

 

「(もしかして……いやもしかしなくても、あの大女優先輩とも友達なの?)」

 

「(友達、というか……まぁそうだな)」

 

「(…どういう人脈してんのさ)」

 

 

別に、偶然の積み重ねみたいなものだと思うけどな。たまたま会った松原さんの友達がたまたま白鷺さんで、その白鷺さんがたまたま女優だったってだけ……いや凄いな。

 

 

よくよく考えたら白鷺さんだけじゃない。他にもモデルやらアイドルやら富豪のご令嬢やらと色々な肩書きを持っている人達と知り合いだ。確かに人脈的には規模がある方なのかもしれない。

 

 

…あ、そう言えば。

 

 

「丸山さんはどうしたんです?」

 

 

引き摺られてった後の姿を見ていない。アレからどうなったのか凄く気になる。

 

 

「あそこよ」

 

 

白鷺さんの指さした方向には。

 

 

へっぽこあいどるでごめんなさい

 

「ねー。なんか彩ちゃん真っ白だよ? おもしろーい」

 

「大丈夫ですよ彩さんっ。ジブンもほら、よくアイドルらしくしろって千聖さんに言われてますし…」

 

「アヤさんっ! 何があろうとも、一流アイドルへの修行の歩みを止めてはなりません! 精進し続けてこそブシドーです!」

 

 

木陰に体育座りで縮こまる丸山さんと、それを囲む他メンバーの姿が。ほんとに真っ白じゃん丸山さん。

 

 

一体白鷺さんはどんな()()をしたんだか。

 

 

「うふふ」

 

 

うふふて。怖いよ。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「日菜ちゃんから聞いたのだけれど、あなたと障害物競走に出るそうね。応援してるわ」

 

「どうも。それに応えられるかは分からないですけどね」

 

「…『応えられない』と言わないだけ幾分強気のようね。意外だわ。あの子に勝てるの?」

 

「さぁ。……まぁ、負けたくはないなとは思います」

 

「……へぇ」

 

「でも、その前にもうひと競技出てきます」

 

「あらそうなの。因みに何に?」

 

 

 

 

 

「"借り物競争"です」

 

 

 

 

 

という訳で、俺は今、競技開始前準備としてトラックに立っている。

 

 

借り物競争。実は俺がこの競技に出る予定は元々無かった。が、先程優太の見舞いの際に。

 

 

『俺の代わりに借り物競争出てくれ』

 

 

と、頼まれた訳である。いわば優太(抜けた穴)の代役だ。

 

 

"借り物"と言うのだから、誰かに何かを借りなければいけないのがこの競技の醍醐味だ。しかし、あまり他人に対して自分から積極的に関わる性分ではないので、できれば知り合いの内だけで済ませられるようなお題であって欲しい。

 

 

そこはかとなく不安だが。

 

 

「頑張ろうね、佳夏君!」

 

 

俺には羽沢がついているから大丈夫。敵軍だけど。

 

 

がんばるぞいポーズで気合いを入れる羽沢。はぁ可愛い。コレを見れないとは優太も不運な奴だな。

 

 

「はいはーい☆ アタシ達も忘れないで欲しいなぁ〜」

 

「リサ。借り物競争で走る要素があるなんて聞いていないのだけれど」

 

 

Roseliaの幼馴染組も出るらしい。ほんと仲良しね。ていうか湊先輩。さては昨日の進行確認、真面目に聞いてなかったですね?

 

 

なんとも頼りのない同軍を尻目に、俺はスタート位置へつく。

 

 

因みに今回、羽沢達と競うことはない。借り物競争は意外と人気競技らしく、出場者も多い。そのため、学年混合のシャッフルで4順に分けてある。同じ順に知り合いがいないのはとんだ偶然だな。というか他3人も被ってないみたいだし。

俺は1巡目から、次いで羽沢、今井先輩、湊先輩の順で回ってくる。

 

 

「位置について━━━━━」

 

 

とりあえずはできるだけ無難なお題で頼む。そう心で願いながら俺は走り出した。

 

 

一応競技だ。もちろん順位はあるので白軍として1位を狙って総合優勝に是非とも貢献したい。

 

 

一番乗りにお題箱の前へ着く。箱の中には大量の紙切れがあり、考える間もなく俺は箱に手を突っ込んだ。

 

 

頼むから借りられやすいモノであってくれ…と。念じながら紙を引き抜く。

 

 

コレだっ。

 

 

 

 

 

『かっこいい人』

 

 

 

 

 

モノじゃないぢゃんっ。

 

 

そこにはボールペンで走り書きしたかのようなへなちょこな字でそう書かれていた。

もう『人』って書いてあるし。コレじゃあ借り人競走だよ。

 

 

思ってたんと違う。

 

 

………………まぁいい。どうやら再度引き直すことはできないようだし? 仕方ないと割り切ろう。

 

 

しかし"かっこいい人"か…。誰かいただろうか……うーん……。

 

 

あ。

 

 

「あの〜、すみません」

 

「はい。何か?」

 

「借りるのって、敵軍からでも大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

実行委員に確認も取った。パッと思い浮かんだあの人なら、このお題に適任だろう。

 

 

俺はスタスタと2年生の座席へ。

 

 

 

 

 

「瀬田先輩。来てください」

 

「おや。まさか君がこの私を連れ去ってくれるのかい?」

 

「連行ではなく同行です」

 

 

適任はやはりこの人だろう。シンプルに見た目がかっこいい人。我が校の王子様こと瀬田先輩である。

 

 

「佳夏…。正気なの?」

 

「安心したまえ千聖。彼は私が責任を持ってエスコートしようじゃあないか」

 

「あれ? なんか俺が連れられる流れになってない?」

 

 

なかなか辛辣な言葉をかける白鷺さん。大丈夫ですよ、このお題を見れば白鷺さんでも納得も理解もしてくれると思います。

 

 

「では行こうか。子犬くん」

 

 

そう言ってこちらまで優雅に歩いてくる瀬田先輩。その間、先輩の周りに集まっていた瀬田ファンの女子たちが「えー」「薫様行っちゃうの〜」と惜しむ声を上げる。

 

 

「安心したまえ子猫ちゃん達」

 

「か、薫様…」

 

 

くるりと女生徒達へ向き直った先輩は謎の決めポーズを取った後。

 

 

「かのシェイクスピア曰く、『運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのだ』…。私の運命(1着)は決まっている。つまり………そういう事さ」キリッ

 

「「「「「キャアアアアアアアッ!!♡」」」」」

 

うるさい。

 

 

相変わらずよく分からない事を言う先輩だ。ていうかもう全然適当なことを言ってもキャーキャー言うんじゃないか? 口を開くだけでファン達は満足して脳が機能していないような気がする。…ほらほら、また人がバタバタと倒れて行く…。

 

 

うわ……白鷺さんその顔何…? 怖いよ。

 

 

ちなみに余談だが、これで1着になったとしても、総合優勝に貢献できるのは連れてきた軍の物なので、あまり瀬田先輩が1着であることに意味は無い。すんません。

 

 

「さぁ、手を」

 

 

俺に手を差し出しながら先輩は言う。

 

 

いやいや。

 

 

「エスコートするのは俺ですよ」

 

 

俺が競技者なんだ。俺が連れないでどうするよ。

 

 

俺も先輩同様に手を差し出す。それを見た先輩は珍しくきょとんとした顔を作るが、すぐに小さく微笑む様子を見せた。

 

 

「ふふ。なかなか紳士的な子犬くんじゃないか」

 

 

瀬田先輩は俺の手を取って歩き出す。

 

 

「前から言おうと思ってたんですけど。その"子犬くん"ってやつ、恥ずかしいんでやめてください…」

 

 

せめて人間扱いして欲しい。それに俺はどっちかってーと猫派だ。

 

 

「ははは。なら、そうだね………君には"王子様"の方が似合うかな?」

 

「……はぁ?」

 

 

つい立ち止まってしまい、にこやかな先輩の顔を見つめる。すっげーまつ毛なっがぁ……ってちょい待ち。

 

 

「え………いや、なんでそうなるんすか」

 

「おや、お気に召さなかったかい?」

 

 

召さないよ。人間扱いになったのはありがたいのだが、王子様とは。子犬から随分昇進したな。何階級特進だ?

 

 

兎にも角にも、俺には過ぎたる肩書きだ。王子なんてガラじゃない。

 

 

「普通に佳夏でいいですよ…」

 

「っはは。そうだね」

 

 

笑顔の先輩が少し憎たらしくて、俺は先輩の顔を見ないようにスタスタと歩き出す。

 

 

「因みに佳夏。お題はなんだったんだい?」

 

「コレです」

 

 

俺は引いた紙を見せる。

 

 

「『かっこいい人』か。……中々儚いお題じゃないか」

 

「はぁ…そっすか」

 

「しかし、君に『かっこいい』と思われていたとはね。あぁ…この私の美しさとは、なんて罪深いんだ…!」

 

「いやまぁ…当然でしょ」

 

?」

 

 

先輩らしからぬ声が聞こえた気がするが、前を見ているため顔は見えていない。

 

 

「先輩はそりゃあ顔の良さはもちろん。(よく分からない)カリスマもありますから」

 

「……」

 

「奥沢から聞きましたよ。ハロハピの為に1からギターを始めたって。この前の演奏で先輩の努力は見て取れました。そう言う所も含めて『かっこいい人』です」

 

 

俺なりの選抜の理由を喋ったのだが……おろ? 先輩が反応してくれなくなった。

 

 

俺は少し心配になってチラッと顔を覗いてみる。

 

 

「…………………………………そ…………そうか……//」

 

 

……………え? 嘘。

 

 

「………もしかして、照れてるんですか?」

 

「いや……ははは。そうみたいだ」

 

 

マジかよ。アレだけ周りのファン達には歯の浮くようなセリフを量産してくるクセに。何故だ。

 

 

「まぁそうだね……うん。…なんというか、異性にこうも直接賛美の声をかけられた事がなかったもので…」

 

「………つまり耐性がなかったと」

 

「…………あぁ…//」

 

 

なんとまぁ…。そこら辺のイケメン男子なんて霞んで見える程にイケメンな先輩の顔が赤くなっているなんて…

 

 

「……意外と乙女なんですね」

 

「な……っ」

 

 

意外も意外。なんだかとても面白い物が見れた気がする。これはきっと白鷺さんもにっこりだ。

 

 

俺は変にソワソワしている先輩を連れながら1着でゴールした。

 

 

瀬田先輩曰く、コレ(1着)は運命のようだし?

 

 

「"王子様"も、あながち間違いではないようだ……」

 

「先輩? もう着きましたよ」

 

「あぁ。エスコートありがとう…佳夏」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

俺の順も終わったので座席へ舞い戻る。

 

 

「お疲れ様」

 

「うす」

 

 

白鷺さんは笑顔で迎えてくれた。

 

 

「薫を連れてくなんて、どんなお題だったの?」

 

「あぁ。『かっこいい人』です」

 

「……あぁ、なるほど」

 

 

ふーん、と。目を細めながら同様に座席に戻っていく瀬田先輩を眺める白鷺さん。

 

 

「まぁ、見た目は整っているものね。憎たらしいことに」

 

「それもそうですけど、俺は内面的にも当てはまると思いましたけどね」

 

 

俺の一言に彼女は目を見開いてこちらを見る。

 

 

「そう思った理由は?」

 

「そうですね…"身近な人の為に努力できる人間"だからですかね」

 

「……」

 

「まぁそれだけじゃなくて……意外と『可愛い人』だって事も、さっき分かりました」

 

「……ふっ。あははは」

 

 

白鷺さんは笑った。ただ、今まで見てきたような笑顔ではなく、どことなく年相応な、そんな笑顔と声色。

 

 

「よく分かってるじゃない」

 

「…そうですか」

 

「えぇ。……そうね。かおちゃんは努力のできる芯ある人間だわ。そういう所は素直に羨ましい」

 

 

かおちゃん……っていうのはもしかして瀬田先輩の事だろうか。

 

 

口では露骨に苦言を放つ彼女だが、それでもちゃんと瀬田先輩を見ているのだと、優しく微笑む白鷺さんの笑顔を眺めながら俺は思った。

 

 

「少しばかり変な方向に努力しているような気はするけれど…」

 

 

確かに…。口を開けばアレだもんな。

 

 

「あら。次はつぐみちゃんなのね」

 

「あぁ、はい」

 

 

そうだ、まだ障害物競走は終わっていない。ただ今グラウンドでは次の順、羽沢の番がやってきていた。

 

 

スタートの合図と共にお題箱へ走り出す羽沢。よしよし、頑張れ羽沢。でも無理はしないでくれ。

 

 

「何よ、その親のような眼差しは」

 

「え、俺そんな目してる?」

 

 

いやでも、羽沢を見ているとそうなってしまうのはもう自然な物でしょう。こう…庇護欲を掻き立てられるというか。そういう本能的な部分に刺さるんですよあの子の存在は。

ほらAfterglowの連中とかもうガン見じゃん。

 

 

「あら?」

 

 

すると、突如白鷺さんが疑問符のついた声をあげた。

 

 

目線の先には俺たちの所へ向かってくる羽沢。あぁ…転ばないでくれよ。

 

 

「コッチ来てるわね」

 

「そっすね」

 

 

息を上げながら俺たちの前まで来た羽沢。走ったからか頬は蒸気している。大丈夫か? 水飲むか?

 

 

「け、佳夏君…!」

 

「あ、はい」

 

 

お茶でも用意した方がいいのかなと考えていると。羽沢はいきなり俺の手を取って。

 

 

「えっと…その…。私と来てください…!///」

 

 

紙を握りしめながら、何故か敬語で俺に同行を求めて来た。

 

 

俺が必要とは、羽沢の引いたお題内容が気になるな。

 

 

流されるまま審査員の元へ。

 

 

「こ、コレです!」

 

「確認します……」

 

「(ドキドキ)」

 

 

審査員の女生徒に恐らくお題の書かれているであろう紙切れを渡す羽沢は、どうにも落ち着きがなく、顔を赤くしたまま俺の手を強く握る。別に逃げないんだけどな…。

 

 

お題の内容を確認する審査員は、紙切れに目を通すと、何故だか俺の方に視線を向ける。しかも妙に怪訝な顔で。

 

 

すると、審査員は羽沢に耳打ちをしだす。今度はあからさまにニヤついた顔で。おいおいなんだよ。何の話をしているんだ。

 

 

耳打ちされた羽沢はぼふんっと顔から熱を放出し、わちゃもちゃし始めた。

 

 

「はい、大丈夫ですよ。どーぞ〜」

 

 

話は終わったのか、俺たちは促されるままゴール。ちなみに2着だった。

 

 

「なぁ羽沢。お題ってなんだったんだ?」

 

「ふぇ!? え……えっとね…えっと……///」

 

 

気になっていた事を聞いてみると、どうにも落ち着きを取り戻していない様子の羽沢はもごもごと口を開く。

 

 

「……………………………だ……………男子生徒…」

 

「……え?」

 

 

………なんだか思ってたより普通だった。

 

 

「ソレ、俺じゃなくても良かったんじゃ…」

 

 

B組にも男子はいたろうに。と続けようとしたら。

 

 

「だ、ダメ! 佳夏君じゃ、ないと…///」

 

 

そう、あまり聞かない羽沢の大声で聞こえた。

 

 

…なるほど、分かるぞ羽沢。たしかにクラスに仲良い男子がいなかったらそうもなるよな。俺ももし他クラスに仲がいい奴がいたらそっちを誘うだろうし。

 

 

「そうか…。まぁ何はともあれ俺で力になれたんなら良かった」

 

「あ、うん…/// ありがとうね、佳夏君…!」

 

 

俺たちは揃って座席へ戻る。

 

 

 

 

 

「私…佳夏君と手を繋いじゃった…!//」

 

「つぐ〜、お疲れ〜」

 

「佳夏を連れてくなんて、どんなお題だったんだ?」

 

「えと……だ、『男子生徒』…だよ。うん//」

 

「「「「(絶対違うじゃん)」」」」

 

「(うぅ…。『かっこいい人』で真っ先に佳夏君の所に行っちゃったなんて……言えない…っ!///)」

 

 

 

 

 

「つぐみちゃんに手を引かれている姿はなかなかおもしろかったわ」

 

「うわなんか恥ずかし」

 

 

白鷺さんに言われて自分の先程までの姿を想像する。まぁ悪い気はしないけどネ。

 

 

「お題はなんだったの?」

 

「『男子生徒』だそうです」

 

「そう」

 

 

さてさて、次は今井先輩の番だ。スタートと共に駆け出す先輩を遠巻きに眺める。がんばえー。

 

 

「ねぇ、佳夏」

 

「…なんすか」

 

「彼女も一直線にコチラに来るのだけれど」

 

「…っすね」

 

 

今井先輩のお題は何だろうなとふんわり考えていたら、その先輩は羽沢同様こちらへ走ってくる。

 

 

「佳夏…! アタシと来て…っ///」

 

「あ、うぃっす」

 

 

先輩も妙に顔が赤い。というか引かれている手が熱い。

 

 

またしても同じ審査員の元へ向かう。…いや違うんですよ。別に率先して来てる訳じゃないんで、そんな「また来たのかこの男」みたいな顔しないでくださいよ…。

 

 

「……はい、どぞ〜」

 

 

なんだか対応が雑になった気が…。

 

 

今井先輩にも聞いてみよう。

 

 

「お題なんだったんですか?」

 

「えっと…えっと………ね?」

 

「?」

 

 

モジモジと自身の指を組みながら何か言葉を捻りだそうとする先輩。

 

 

「………………………だ…」

 

 

だ?

 

 

「……………………………………男子生徒…」

 

「…………はぁ…なるほど」

 

 

またかいな。

 

 

あれだけ大量の紙が入ったお題箱の中から連続で同じものを引くとは……なかなかの奇跡だな。

 

 

「いやあのねっ? ほら2年生に男子いないからさぁ! でもお題は『男子生徒』なわけだし。だから顔見知りで仲良くてかっこいん"ほんっえっと接しやすい男子で真っ先に思い浮かんだのが佳夏だった訳で━━━━━」

 

「あぁはい。分かりました、分かりましたから。落ち着いて…」

 

 

こちらも羽沢同様にわちゃもちゃしながら聞いてもいない事を説明する。しかし顔真っ赤だぞ…。隣にいるからか妙に熱気を感じる。

 

 

「(熱でもあるのか…?)」

 

 

俺は先輩の額に手を当ててみる。

 

 

「熱っ」

 

「〜〜〜っ!!////」

 

 

熱いよ先輩…! 流石にコレは熱でもあるんじゃ?

 

 

「だ、大丈夫ですか先輩? 熱凄いですよ??」

 

「だ、だいじょばないでしゅ…///(近い近い近い近いっ!!)」

 

 

先輩は顔を手で覆ってしまい、フルフルと首を振りながら「ん"む〜〜っ」と唸っている。え? 何それ…? どうしよう、先輩がおかしくなった。

 

 

「せ、先輩?」

 

「〜〜〜〜〜っ!!///」

 

「うぇっ!? ちょっ」

 

 

突如、先輩は座席の方へ走り出してしまった。

 

 

「水分補給しっかりしてくださいねぇ〜っ」

 

 

とりあえずそれだけ言っておいた。

 

 

 

 

 

「リサ姉なんで走って帰ってきたの?」

 

「今井さん…? えっと…日傘、入りますか…?」

 

「はぁ……はぁ……あ、ありがと。燐子…(ヤバいヤバい…! アタシ耐性無さすぎじゃん、も〜!///)」

 

「大丈夫なのですか? 今井さん。 顔が赤いようですが…」

 

「さ、紗夜!」

 

「は、はい…?」

 

「水ちょうだいっ」

 

「ど、どうぞ」

 

「━━━━━ぷはっ(あぁもう。『かっこいい人』なんて引き当てちゃうから…//)」

 

 

 

 

 

「…またなの?」

 

「いや俺に言われても」

 

「さっきのお題は?」

 

「『男子生徒』」

 

「……ふぅん」

 

「なになに…。その反応なに」

 

 

何を疑ってらっしゃるのかは分からないけど。本当に何も知らないし何もしてないんですって。きっとたまたまお題が被っただけでしょ。だからそんなジト目で見つめないで欲しい。照れる。

 

 

「彼女も佳夏の所に来るんじゃない? 今走っている子」

 

「湊先輩ですね…」

 

 

グラウンドに視線を戻すと、既に湊先輩の出番が始まっていた。

 

 

さすがに3連チャンは無いだろう。3度目の正直というやつだ。

 

 

「運動は……苦手なようね(私もだけど)」

 

「………」

 

 

走る湊先輩はなかなかに遅い。1番最後にお題箱へたどり着き。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

走りながら(ゆっくりと)コチラに向かってくる。

二度あることは三度あるみたいだ。

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

「いや何で?」

 

「あなた達、打ち合わせでもしてるの?」

 

 

していない。していないはずなのに何でこうも俺の所に?

ていうか湊先輩めっちゃ疲れてんじゃん。

 

 

「け…佳夏。…はぁ……私と…来なさい」

 

「まず息整えて……」

 

 

ゼェゼェ言ってる先輩を一旦落ち着かせる。とりあえず水を渡すと先輩は一気に流し込んだ。そんなに勢いよく飲むと…あぁほら、むせちゃってるよ。

 

 

けほっ。……ありがとう。早速行くわよ佳夏」

 

「はぁ…。ちなみになんですけど、お題は?」

 

 

湊先輩は紙切れをヒラヒラと見せる。

 

 

 

 

 

『男子生徒』

 

 

 

 

 

マジかよ。

 

 

「それしか入ってないんじゃないの?」

 

「俺もそう思えてきた…」

 

 

競技内容的にどうなんだろうか。もうちょっとレパートリー増やすべきなのでは? あの大量の紙切れは一体何なのか。

 

 

まぁ気にしていても仕方がない。俺は湊先輩に連れられて走る。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「先輩。さすがに体力無さすぎ…」

 

「うるさいわね……」

 

 

美竹でもそんなにすぐ肩で息をしないぞ。ボーカルなんだし、もうちょっと体力をつけた方がいいと思うのだが。

 

 

「歩いて行きません? 無理してやるようなものでもないでしょうに」

 

「それはダメよ。Roseliaとして、頂点(1着)を目指すのは当たり前じゃない」

 

 

こんなグラウンドのど真ん中でRoseliaの誇りを高らかに宣言しても虚しくなるだけだ。けど、何にしたって今の先輩のペースだと1着はほぼ不可能。幸か不幸か、未だに1着は出ていないようだが。

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

「………」

 

 

妥協を許さないのは湊先輩の美徳だと思うし、それは尊重したい。かっこよくて尊敬できる先輩だ。俺が力になれることは何かあるか?

 

 

このままでは1着は無理だ。それに、走り続けて湊先輩がぶっ倒れでもしたら困る。今井先輩とか卒倒しそうだ。いやそれどっちも倒れてるじゃんかよ。

同じ白軍だし、優勝に貢献もしたい。

 

 

………少し、いやかなり恥ずかしいが。

 

 

「あの……おぶりましょうか?」

 

「はぁ………はぁ……え?」

 

「俺がおぶって行けば、1着はまだ射程圏内です」

 

 

先輩が体力を使わずに、かつ早く着く手段。デメリットはかなり目立つこと。

 

 

この提案を湊先輩は…

 

 

「そう……なら、頼むわ」

 

 

二つ返事で了承した。

 

 

「え……え、いいんですか?」

 

「はぁ……何? そっちが提案したのでしょう?」

 

 

いや、そうだけども。もう少し躊躇うものだと…。

何故か提案した俺の方が狼狽える始末。

 

 

「時間が無いわ。早くして」

 

「え、ぁ、はい」

 

 

俺は屈む。

 

 

「……」

 

「……? 先輩?」

 

 

何故か俺の後ろで立ち尽くしている先輩。その視線はどうも自身の服に寄せられているようだが。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「いえ、その………汗が…」

 

 

……はっ。たしかに、男の俺の背中に触れるなど気が引けるのは当然か。先程替えのジャージに着替えたとはいえ、女子相手が気安く預けたいと思うものでは無い。何やっているんだ俺は…!

 

 

「す、すみません…。嫌でしたよね…」

 

「…え? あ、ち、違うわっ」

 

「へ?」

 

 

違う、とは?

 

 

「その……私が汗をかいているからよ…」

 

 

先程まで強気だった先輩は急に音量を落として話す。どうやら自分の汗を気にして躊躇っているようだった。俺のことでは無いようで、内心めちゃくちゃほっとする。

 

 

しかしそういう所は女子高生なんだな…。なんだか調子が狂う。俺は別に気にしないんだがな。

 

 

「…っ。私が気にするのよ…っ!」

 

 

うっ。すみません…。

 

 

しかしどうしたものか。湊先輩が自身の身体の接触を気にせず俺が連れていく方法は…あるか?

 

 

「…………」

 

 

……さらにハードルは上がるが。…やるか。

 

 

男になれ、林道佳夏。

 

 

「…湊先輩。失礼━━━━━」

 

「へ? きゃっ…」

 

 

 

 

 

「「「「「「(おぉ…)」」」」」」

 

「「「「「「「ええええええっ!!!???」」」」」」」

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと! 佳夏…!?」

 

「ごめん先輩。嫌かもだけど、ちょいと我慢しててください…」

 

「いえ、その……嫌という訳では……//」

 

 

これはそう。俗に言う"お姫様抱っこ"ってやつだ。

 

 

恐らく先輩に負担をかけずかつ接触面積は1番少なく、そんでもって恐らく1番目立つ行為。今回は前者を優先させて貰った。

 

 

先輩もすかさず俺の首に手をまわす。安定するのでありがたい。

 

 

「佳夏……。あなた、意外と大胆な事するのね…」

 

 

うぐっ…。

 

 

「………俺もくそ恥ずかしいんで…早く終わらせましょう」

 

「(…照れてるのね。顔が赤い……)」

 

「1着……目指すんでしょ」

 

「………………ふふ。ええ、そうね」

 

 

恥ずかしくて湊先輩の顔は見れていなが、くすくすと小さく笑っているのが分かる。だぁくっそ…超恥ずいよ。顔暑っつい。

 

 

「行くわよ。佳夏っ」

 

「アイサー」

 

 

俺は湊先輩を抱えて走り出す。

 

 

「…………先輩」

 

「何?」

 

「軽すぎです。ちゃんとごはん食べてください」

 

「た、食べてるわよ…!」

 

 

俺たちはお姫様抱っこしながら(されながら)の1着ゴールという、羽丘体育祭史上最も珍妙な完走を見せた。

 

 

 

 

 

あ"あ"あ"っ…めっちゃ恥ずかしいっ。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

黒歴史を、作ってしまった。

 

 

あの時の俺はどうかしていたんだ。

 

 

きっと……いんや絶対。この気温のせいだ。

 

 

5月のクセに。調子乗りやがって。

 

 

………いや。

 

 

調子に乗っていたのは俺の方だ。

 

 

すみません。

 

 

ひと夏の過ちみたいなモノなんです。(※5月)

 

 

すみません。

 

 

だから。

 

 

「何? アレ。ねぇ」

 

「けー君。何か言ってよぉ」

 

「佳夏。私って結構軽い方だと思うの」

 

いいなぁ…友希那先輩。いいなぁ

 

「(アタシしーらね)」

 

「………」

 

「ねぇおたえ。さーやはどこ見てるの?」

 

「……ジェラシー」

 

「えっ、ジェラート?」

 

「あれー? りんりん、リサ姉は?」

 

「えっ…と、今井さんは…友希那さんを連れて……何処かに…」

 

「大胆な事したねぇ…林道」

 

「ふ。やはり私の見立て通りの王子様だったようだね。あぁ…儚い…」

 

「ふえぇ…! 千聖ちゃん、どうしたの…?」

 

「どうって、別に何もないわよ? 花音♪」

 

「ねぇ佳君! 後であたしにもやってー、お姫様抱っこ!」

 

 

許して。

 

 

「違うんだ……違うんですよ……。あれは何かの間違いで…」

 

 

いつぞやの湊先輩と同じ言い訳をする。あまりに苦しすぎる言い訳。

 

 

あぁ……胃が痛い。キ〇ベジン持ってきて…。

 

 

「さっきのやつ、写真あるよ」

 

 

お"た"え"…。

 

 

「ははっ。ナイスだおたえ」

 

「はわぁ…///」

 

「けいけいかっこいー!」

 

「ブシドーの精神を感じます…!」

 

「コレは恥ずかしいっスね……」

 

「(私もちょっとされてみたい、かも)」

 

「香澄。後でその写真送って」

 

「おっけー蘭ちゃん♪」

 

 

おい。なにおっけーしてんだよ。やめろよ。……てかいつの間に仲良くなってんだよお前ら。

 

 

「モカちゃんこれロック画面にしよー」

 

「アルバムにも入れよーよ」

 

「体育祭新聞にも使えそうですね…。あの、コレ使ってもいいですかね?」

 

「いいんじゃないかしら」

 

なんで千聖ちゃんが答えてるんだろ…

 

「何か言ったかしら。彩ちゃん?」

 

いいえ!」

 

「あら素敵じゃない! 友希那も良い笑顔だわっ。お姫様抱っこ? と言うのね、後であたしともやりましょう佳夏!」

 

「あぁーっと、こころ? それ以上の追い討ちはやめた方が…」

 

「はいはーいっ! 私もやりたいっ」

 

「な、おいっ香澄! 山吹さんがすっげぇ目でコッチ見てるぞ!

 

「ほぇ? さーやもされたいの? お姫様抱っこ」

 

「……ふぇっ!? いやいやっそんな…!!///」

 

「佳夏。君もなかなかの人気者じゃないか。儚いね…」

 

「もう……やめてぇ…」

 

 

 

 

 

十数分後。

 

 

 

 

 

「」チーン

 

 

「ただの屍のようだ…」

 

「何言ってるのおたえちゃん…」

 

「あっはは! さっきの彩ちゃんみたいになってるー!」

 

「ひ、日菜ちゃん…!」

 

「さすがにやりすぎたかしらね」

 

「弄りに弄り倒されてましたからね……ご愁傷さまです」

 

 

もうヤダ。帰りたい……。

 

 

「えぇ! ダメだよ佳君っ。最後にあたしと走るんだから!」

 

 

ひえぇぇ…。

 

 

どうやら詰問地獄からは解放されたようだが、どうにも胃が痛くて仕方がない。お茶何処だお茶。喉もカラカラで辛い。

 

 

俺は立ち上がり(実はさっきまでずっと正座させられていた)自身の座席へ逃げるように向かおうとすると。

 

 

「はい。佳夏」

 

「…あ、ありがとうございます。今井先……ぱ、い」

 

 

今井先輩が何故か俺の水筒を持ったままやってきて渡してくれた。……が、俺が水筒に手をかけても先輩はソレを離そうとはしてくれない。むしろガッチリと掴んでいる。

 

 

俺はその謎行動が気になって先輩を顔を覗いてみるが、笑顔の先輩だった。だがその笑顔はどうにも笑ってはいないようで、いつかの沙綾や白鷺さんに似通ったモノを感じた。

 

 

危険信号。

 

 

「……え…あの」

 

「さっきの借り物競争はすごかったねー」

 

「……ふぇっ」

 

「友希那が佳夏連れていった時はどうなるかと思ったけど、まさか佳夏がお姫様抱っこするとはねぇ。いや分かってるって、友希那バテバテだったし、あのままだと倒れちゃいそうだったから心配だったんだよね? それは分かるようん。でもお姫様抱っこで走ろうとは思わないわけよ。それで? どうだった友希那(お姫様)を抱えた感想は。友希那ちっちゃくて可愛いもんね。それに柔らかいし。あんなに密着されて佳夏も嬉しかったでしょ? 友希那も嬉しそうだったし…。すっごーい目立ってたじゃん。さすが佳夏だよね」

 

 

ヤバい…。

 

 

「……すいません…」

 

「いやいやんーん。違うの。別に謝って欲しい訳じゃないの。別にね?

 

 

ええ?? 湊先輩を取られたと思ってるんじゃないの? 違うの?

 

 

「ただ()()()()()()する相手はしっかり選んで欲しいなーって思うの。例えばアタシとか。いやね? 友希那がダメだって言う訳じゃないよ? アタシが佳夏の立場だったら同じように背負って行くと思うな。お姫様抱っこは考えるけど」

 

「ふえぇぇぇ…」

 

 

これでもかとまくし立てる今井先輩。シンプルに怖い。

言ってる内容的には「お姫様抱っこはどうかと思う」って事だと思う。確かに俺も出過ぎた真似をしたとは思えけど、どうも先輩の言葉の中には他にも色々な意味合いが含まれていそうで、言葉の圧力みたいなものを感じる。

 

 

俺は耐えられなくなって、ふと今井先輩から目を逸らすと、今井先輩の後ろには湊先輩が縮こまって着いてきていた。どうにもバツの悪そうな顔をしている事が気にはなるが。俺はアイコンタクトで湊先輩に救難要請を送り、現状からの脱却を図る。

 

 

「あ、あの、リサ? アレは私が許可し「あ! そういえばパン食い競走の時間ってそろそろじゃない? 友希那も出るんでしょ? 集合遅れたら不味いよ〜。ね?そうだったわね」

 

 

退路は絶たれた。

 

 

湊先輩は逃げるように……というか逃げた。俺も逃げ出したい。

 

 

「佳夏」

 

「…はい」

 

「まだ話は終わってないよ?」

 

「━━━━━」

 

 

 

 

 

さらに数分後。

 

 

 

 

 

「わかった?」

 

「……………………………………はひぃ

 

 

怖かったよ。もう……ははっ。ヤバいね(ボキャ貧)

 

 

「それと…」

 

「……………………………………はひぃ

 

「………アタシにはしてもいいからね

 

「……………………………………はひぃ…………?」

 

 

最後に何か小さく呟いた今井先輩は、水筒を俺に渡すとすぐさまどこかへ行ってしまった。

 

 

何て言ったんだ…?

 

 

俺は水筒を片手に1人ポツンと立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「お。王子様が帰ってきたぞ」

 

「さては喧嘩売っているな? 有咲」

 

 

グラウンドが見える位置まで戻ってきた俺を、有咲達蔵練組が迎える。

 

 

「友希那先輩と蘭ちゃんとモカちゃんが出るんだよね」

 

「え? ……あぁ。次パン食い競走か」

 

 

香澄がグラウンドを指さしながら言う。トラックにはでっかい物干し竿みたいなものが既に設置されており、そこから吊るした糸の先っちょにパンが潜りつれられている。流石に野ざらしには出来ないのか、ビニール袋で包装されている。

 

 

「美味しそう! 私も出たいなー」

 

「…なぁ香澄。お前いつから美竹達と仲良くなったんだ?」

 

 

詰問されている間に気になったことを聞いてみた。

いつの間にか名前で呼びあっちゃってからに。

 

 

「お昼ご飯の時にね? ギターの事とか歌のことか色々聞いたの! あ、友希那先輩にもねっ」

 

 

なるほどな。流石のコミュ力といったところか。友達作りの天才か?

 

 

きっと有咲達もこうやって仲良くなったんだろう。ある種これもカリスマか。

 

 

…あれ?

 

 

「沙綾は?」

 

 

いないな。何処に行った?

 

 

「あそこ」

 

 

おたえの指さした方向はパン食い競走が行われるのトラック。というより吊るされたパンのようだった。

 

 

……ん? あぁ…そういうこと。

 

 

「あのパンって、やまぶきベーカリーのパンだったのか」

 

 

吊るされたパンの近くには沙綾だけでなく、なんと亘史さんの姿まで。恐らくパンを運んできたのだろう。

 

 

「そう! さっき手伝いに行っちゃった」

 

「沙綾ちゃんちのパンは人気だから、学校から是非にって言われたんだって」

 

「さすがだなやまぶきベーカリー」

 

 

人気店の証拠だな。

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

俺もパン食い競走出ればよかったなぁと、今更になって漠然と思っていたら、突然香澄が何かを思い出したかのように声を上げ、俺に顔を向けた。

 

 

「もうすぐ"咲祭"があるんだよ! 佳夏君!」

 

「…なんだって?」

 

 

さきさい? なんそれ。急に何の話だ?

 

 

「"花咲川女子学園文化祭"。略して咲祭だ」

 

 

有咲が補足説明をしてくれる。そうか。花咲川の文化祭はもうすぐなのか。

 

 

「良かったじゃないか」

 

「うん! でね? 私ってクラスの文化祭の実行委員長になったんだけど…」

 

 

何? 香澄が実行委員って……大丈夫なのか? そのクラス。ちゃんとまとまってるのか…?

 

 

「あはは……大丈夫だよ佳夏君。副委員長が沙綾ちゃんだから、上手くまとめてくれてるの」

 

「ほっ…なら安心だな」

 

「えぇ!? 私じゃ安心出来ないの??」

 

「いや出来ねーだろ」

 

「有咲には聞いてないよ!」

 

 

意義を申し立てる香澄。まぁこればかりは俺も有咲に同意だが。

 

 

「それで? 文化祭がどうした。それが何か関係あるのか?」

 

「あ、そうそう! うちのクラスの出し物がカフェなんだけど。さーやんちのパンをメニューとして出すんだぁ♪」

 

 

なんと、それはまた贅沢な。羨ましいこって。

 

 

「だから佳夏君も来てね! 文化祭!」

 

「え? ぁ……おう」

 

 

何が"だから"なのかは分からないが、お誘いを受けてしまった。

 

 

羽丘の文化祭はまだ先だが、他校の文化祭というのも経験してみたいのは確かだ。楽しみにしておこう。

 

 

「それとね」

 

 

まだ何かあるのか。

 

 

「ライブもするんだ!」

 

「……ライブ?」

 

「そう! ライブっ!」

 

 

文化祭ライブってやつか。色々と本格化してきたな。なんだかどんどんと成長していく香澄達を見ていると嬉しく思えてくる。親かよ。

 

 

「そうか…頑張れよ。見に行くから」

 

「…! うんっ!」

 

「佳夏をドキドキさせてあげるよ」

 

「う、うん。私も…えと、頑張るねっ」

 

「結局ドラムは()()()()()()()()けどな〜」

 

「まだ諦めてないよ、有咲!」

 

「………」

 

 

…そうか。沙綾はまだ……。

 

 

俺はグラウンドにいる沙綾を眺める。

 

 

絶対に沙綾はバンドが好きだと思う。こいつらとやりたい気持ちはある筈なのに…。そこまで頑なな理由は、はたして何なのだろう。

 

 

「あ! 始まったよ、パン食い競走」

 

 

今は分からない。けど、いつかは知れたらいいなと思いながら、走り出した美竹達を目で追うのだった。

 

 

………青葉速すぎんだろ…。

 

 

「………チョココロネ

 

「あれ? りみりん?」

 

「やべぇ! りみがコロネの誘惑に耐えられず一直線に向かってるぞ!」

 

「お腹すいてたんだね」

 

「さっき昼ご飯食ったろ! いいからりみのやつを抑えるぞおたえ!」

 

「りみり〜ん! 行っちゃダメだよぉ」

 

 

……なんだろう。シリアスになりきれない感じが否めない。

 

 

まぁ、嫌いではないけどな。

 

 

 

 

 

ちなみにパン食い競走で青葉は1着だった。

 

 

知ってた。

 

 

湊先輩と美竹はノロノロと走っていた。

 

 

知ってた。

 

 

 

 

 





次回こそ障害物競走。
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