少年とガールズバンド   作:奏でるの

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今回はでっひーーさんのリクエスト要素を織り込んでみました。

リクエストありがとうございますっ。


いつの間にかお気に入りが800人を超えていました…。
感謝ですね。




#15 正体とか

ただ今、本屋にいます。

 

 

「……どうも」

 

 

「……こ、こんにちは…」

 

 

白金さんと。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「奇遇ですね」

 

「そう…ですね……」

 

 

ここはショッピングモール。えぇまた来ましたよ。

 

 

そしてショッピングモール内の本屋に寄っている。

時刻は放課後の5時前。

 

今日は木曜日。平日である

体育祭から1週間程たった日の放課後。今日はバイトもないので、学校終わりにそのままショッピングモールの買い物ついでに本屋に寄ったのだ。

 

 

「その、……お買い物…ですか…?」

 

「えぇまぁ…ちょっと本を買いに…」

 

 

お互いたどたどしい会話。所々に無言が挟まる。

 

 

ふと思えば、白金さんと2人きりの状態は初めてだと思う。いつも誰かしらの中に白金さんが居て……みたいな。特にあこなんかは白金さんにベッタリなので、よくツーマンセルで行動している印象だ。

 

 

Roseliaの練習にちょくちょく顔を出す内に、白金さんもある程度は話せるようにはなったつもりだが、最初の頃はそれはもうぎこちない空間を作っていた。あこや今井先輩がいたのが幸いしていたと思うが、気さくな会話など無かったように思う。……いや無かった。

 

 

故に、2人きりという現状が……言ってしまえば気まずい。そもそもとしてコミュ力の低い俺だ。会話を上手く回せる自信はないのだ。

あぁ……情けない。

 

 

「…白金さんも?」

 

「えっと……は、はい…」

 

 

制服姿の白金さんはゆっくり頷く。恐らく彼女も放課後にそのまま寄ったのだろう。手には大小の差はあるが、分厚そうな本を紙袋に入れて大事そうに抱えていた。レジを終えたばかりだろうか。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

………あぁ……会話が続かない。……このまま「そうですか。それじゃあ」と去るのは何だか心苦しい。何とか話題を作って、キリよく終わらせられないだろうか。

 

 

今までの経験で、白金さんもあまり他人とのコミュニケーションが得意ではないことは察している。だって俺もそうだし……。ならばと、ここは短い世間話でもして後腐れなく別れるのが定石な気がする。

 

 

とりあえずは会話を進めよう。何か会話のネタを……

 

 

……そういえば、ここは本屋だ。

 

 

「その……白金さんは本とか読まれるんですか?」

 

「ぇ……あ、はい…少しだけ…」

 

 

少しだけ……と言うにはその紙袋は随分と分厚いような気もするが。

 

 

「学校帰りですか?」

 

「…はい」

 

「本が好きなんですね」

 

「……はい…」

 

「俺もそれなりに読みます」

 

「そう…ですか……」

 

 

…………これは、会話…というより質疑応答に近い。俺が一方的に聞いて、白金さんが答えているだけのように感じる。

 

 

う"ぅ…気まずい…。

 

 

いや、まだ諦めるな。もう少し頑張れよ俺。

 

 

「えと……どんな本を読まれるんですか?」

 

 

俺は白金さんが抱えいる紙袋を見ながら聞いてみた。

 

 

「……えっと…小説とか…」

 

 

白金さんはそう答えながら、紙袋からゴソゴソと買った本を見せてくれる。大事そうに本を扱う姿に、本当に本が好きなんだなと思ってしまった。

 

 

「……こういうの…とか、です…」

 

「………」

 

 

1冊だけ取り出した彼女の手には…

 

 

 

 

 

『時計じかけのオレンジ[完全版]』

 

 

 

 

 

そう印刷された本があった。

 

 

「それはまた……えげつない物を…」

 

 

……はっ! 何を言っているんだ俺はっ。白金さんが選んだ本を変な表現でまとめるなよ!

 

 

失言を謝ろう。そう思って視線を本から白金さんに移すと…。

 

 

「……!」

 

 

何故か少しだけ輝いた目で俺を見ていた。

 

 

「知って、いるんですか…?」

 

「え? ぁはい…昔読んだので」

 

 

彼女は少しだけ詰め寄りながら聞いてくる。

 

 

『時計じかけのオレンジ』

 

 

近未来のイギリス・ロンドンを舞台にしたディストピア小説。詳細は省くが、皮肉や過激な描写が見れる風刺的作品になっている。

 

 

イギリスではかなり有名な作品だ。

 

 

「そういうの読むんですね」

 

「…っ」

 

 

俺の言葉に白金さんは暗い表情を作り、俯いた。

 

 

「……………………気持ち悪い…です、よね…」

 

 

するとボソボソと、暗い声色で呟く。

 

 

『時計じかけのオレンジ』は実写映画化もされ、小説は沢山の出版社から出され、今でもファンの多いロングセラーされる有名作品だ。

 

 

だが、それは「超トラウマ作品」という意味での有名でもある。

 

 

いかんせん残酷で残忍な描写が多く、映画はR-18指定。小説も読む人間をかなり選ぶ。大方の人間は途中で読むのを諦めると思う。

 

 

まず、女子高生が好き好んで読む作品ではない。

 

 

彼女は恐らく、それを知っていて……知られた事が怖いのだろう。

 

 

だが、あえて言おう。

 

 

「いえ全然」

 

 

そんなことはないと。

 

 

へ?

 

 

彼女は目を見開いて俺を見る。

 

 

「俺も好きですよ? そう言う…風刺的な作品。他にもホラーとか、ガチガチのスプラッターとか、ブラックユーモアとか」

 

「……」

 

 

昔からそういう作品は好きだった。アニメ、映画、漫画、小説問わず。作者が描き出す独特な感性と世界観が面白く、色々な作品を見たり読んだりした。

 

 

きっと白金さんもそうなのだろう。

 

 

「なんかちょっと嬉しいです。俺はそういうの好きなんですけど…。あまり身近に話し合える人間が居ないので」

 

「…っ! は、はい…っ」

 

 

珍しく声を張る白金さん。

 

 

「ソレ、複雑な作品ですけど面白いので、是非読んでみてください」

 

「はい…。ありがとう、ございます…」

 

 

…何故感謝されたのかは分からないが。少しだけ笑顔になった白金さんを見ていると、どうでもよくなった。

 

 

よし、楽しく会話出来たな。いい感じに区切りもついた。いつまでも話しているのは白金さんにも迷惑だろうし。ここいらで別れよう。

 

 

「それでは、俺は本買って来ますんで……」

 

 

それじゃあ、と続けようとした時。

 

 

「あ、あの…っ!」

 

 

白金さんに止められた。

 

 

「え、と……その……」

 

「……」

 

 

何故止められたのは分からない。が、止めた理由が少なからずあるのだろう。

 

 

俺は待つ。急かしたりはしない。

 

 

「り、林道さん、は……どんな本を、読まれるん…ですか…?」

 

 

ほんのり顔を赤らめた白金さんは、紙袋をギュッと抱えながら聞いてくる。

 

 

「よかったら……その…お話を、聞けたら…な、と…//」

 

「……」

 

 

もしかしたら、白金さんも俺と同じなのかもしれない。好きな作品の良さに共感できる人が身近にいない状況が。

 

 

「…白金さんさえ良ければ、ですけど」

 

「…?」

 

「本を見ながら話しません? 白金さんのオススメも聞きたいです」

 

「…! はい…っ」

 

 

ぱぁっと明るい表情を作った白金さん。そんな彼女と店内をまわることになった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「すみません…。なんか、買い物に付き合わせちゃったみたいで…」

 

「いえ…そんな……」

 

 

俺たちは歩きながら本を眺める。

 

 

今日は本を買いに来た俺だが、別に買う本を決めて来た訳では無い。気になった本があれば買おうか…。と、その程度の感覚で来ている。

 

 

俺は基本的に買い物に際して、買う物を予め決めてから出かけるようにしているが、芸術作品系統に関してはその限りではない。本にしろ映画にしろ。どれを買おうか借りようかと、陳列されている作品を吟味するのが楽しみだったりする。

 

 

俺はこの時間が好きだった。

 

 

「それ……なんとなく…分かり、ます…」

 

 

俺の独り言に近い言葉に、白金さんは相槌を打ってくれた。

 

 

「わたし、も…。学校の図書館にいる時は…よく、並んでいる本を眺めながら、どれを読もうかって…。ゆっくり考えます…」

 

 

わかりみが深い。そういう時間も楽しいのだ。

 

 

「学校の図書館ですか…。なんだかんだであまり行ったことはないっすね…」

 

「そう、なんですか…。わたしはよく…行きます。図書委員…なので…」

 

「図書委員?」

 

「はい…図書委員…」

 

 

それはまた……。

 

 

俺は想像してみる。貸出カウンターでゆったり本を読みながら佇む白金さんを。……めちゃくちゃ絵になるじゃあないか。やっぱ美人って無敵。

俺だったらその情景見たさに図書館に通いつめてしまうまである。

 

 

「なんか…しっくりきますよ」

 

「あ、ありがとうこざいます……?」

 

 

よく分かっていないのか、コテンと首を傾げる白金さん。可愛い。

 

 

「白金さんはどんな本が好きですか?」

 

「基本的には…何でも、好きです…」

 

「ほぇー。最近読んだ本とかで面白かったのとかあります?」

 

 

興味ありそうな本があったらそれを買おうかな。

 

 

「そう、ですね……。『シャイニング』とか…」

 

「おぉ……ホラーの王道ですね」

 

「…! はいっ。心霊系だとは知っていたんですけど……。恐怖の対象が…亡霊の女だけでなくホテル側に飲み込まれたジャックまでもがその枠組みに入っていて……。それらから逃げる描写の緊迫感がよく伝わって、きました…。それでも、最後は一瞬正気に戻るジャックが━━━━━ぁ」

 

「分かりますっ。ボイラー室に向かうジャックから垣間見える彼の優しさが滲み出ていて…。最後はオーバールックホテルごとの爆発でしたけど。最後の最後で父親らしい所が見れたのは嬉しかったですよ」

 

「………」

 

「…あ、あれ? 違いましたっけ…?」

 

 

またしても見開いた目で俺を見つめる白金さん。なんですか照れちゃう…っておバカ。

 

 

俺の感想が的外れだったのだろうか。暫し黙りこくった白金さんはゆっくりと口を開いた。

 

 

「……初めて…です」

 

「ぇ……え? 何がです…?」

 

「…こういう、会話ができるのが……です…」

 

 

白金さんは聞こえるか聞こえないかのギリギリの音量でポソポソと言う。

 

 

「わたし……、凄い人見知りで…」

 

 

それはまぁ…なんとなく分かりますとも。

 

 

「でも、その……。好きな物には…少し、積極的になれるんです……」

 

「……」

 

「それに……共感してくれるのが…嬉しく、て……」

 

 

……なるほど。

 

 

「良かったですよ」

 

「…ぇ?」

 

「好きな物は語りたいもんですよね。俺で良ければたくさん聞かせてくださいよ」

 

「……」

 

「ほら俺だって…その。結構本読んでるんですよ? ちょいとマイナーなやつでもこう……ドンと来いですっ」

 

 

俺はわざとらしく胸を張る。

 

 

やはり、どこか同じなのではないかと感じていた。

 

 

誰しも好きな物は他人に話したいものだ。自分の好きな物を他人にも知って、感じて貰いたいものだ。

 

 

きっと白金さんは、そういうのがしたくても難しいのだろう。それは人見知り故なのかもしれない。

 

 

そしてそれは俺も同じ。俺だって調子に乗って語ってしまったりする。ただ………そういうのは怖かったりするのだ。

もしかしたら、聞いている相手はウザがっているのでは? 聞かれてもいないことを聞かされて嫌気がさしているのでは?

 

 

そんな事を、つい考えてしまう。

 

 

俺もRoseliaとの初対面時、あこのドラムに関してペラペラと語った。Roseliaの件では何もなかったのが幸いしたが。あぁいうのを嫌う人間は少なからずいる。

 

 

それが怖いのだ。

 

 

だからこそ。

 

 

共感できるもの同士は大いにするべきだ。

 

 

相手に伝えるのだ。「俺は大丈夫ですよ」「ドンドン聞かせてください」と。

 

 

同じ悩みを抱えるならばこそ。理解出来ること。

 

 

「聞かせてください。白金さんの好きなこと」

 

「…………」

 

 

白金は一瞬俯いた後。

 

 

「……はい…っ!」

 

 

優しい笑みと共に応えてくれた。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「『シャイニング』は、映画で初めて知ったんですよ」

 

「映画、ですか……わたしは観たこと、無いですね…」

 

「それなりに面白かったですけど……小説とはかなり印象が違いますよ」

 

「そ、そうなんですか…?」

 

「はい。ダニーの『超能力』ですけど、劇中では殆ど出てきません」

 

「え…っ?」

 

「意外ですよね…」

 

「意外、です…!」

 

「俺も初めて小説を読んだ時ビックリしましたよ」

 

「でもそれだと…作品の印象が、かなり変わるんじゃ…?」

 

「そうなんですよ。作者のスティーブン・キング自身も、この映画を批判してるくらいです」

 

「それは…逆に興味が、ありますね…」

 

「えぇ。…実は『時計じかけのオレンジ』も、それと同じなんです」

 

「え…??」

 

「その小説の初版本って、実は今出回ってる物と完結部分が違うんですよ」

 

「そう…なんですか…!?」

 

「はい。『時計じかけのオレンジ』の映画は、その初版本の内容に沿っているので、白金さんが持ってるソレとはかなり印象が変わります。……というか、ほぼ真反対です」

 

「そんなに…。それは、気になりますね…」

 

「でも大丈夫ですよ。内容の差異は、その[完全版]を読めば分かります」

 

「? どういう、ことですか…?」

 

「初版本と完全版の違いは完結部分が"ある"か"ない"か、です。出版当初は出版社の意図で完結部分がわざと消されていて、映画でもその内容を採用したそうです」

 

「それは…、大丈夫、なんですか…?」

 

「作者にとっては苦痛かもですね。自身の作品を勝手に捻じ曲げられたんですから。でも、そこら辺は曖昧です。政治的理由があった…みたいな話は聞きますけど、作者本人もそこら辺は口を閉じています」

 

「なるほど…。でも、この[完全版]では…その部分がある、と…」

 

「そうですね…あぁ、そこです。21章。初版本はその章自体ごっそり無くなってます」

 

「なる、ほど…。面白そう…です…! なんだか『羅生門』…みたいですね…」

 

「『羅生門』?」

 

「実は…『羅生門』も、最後の一文は…変えられているんです…」

 

「そ、そうなんですか…?? 知らなかった…!」

 

「『羅生門』。読んだ、こと…ありますか…?」

 

「…はい。1度だけ」

 

「良かった……。あ、丁度…ここにあります、ね…」

 

「最後の一文って……『下人の行方は、誰も知らない』?」

 

「はい…。実は、この作品が初掲載された…雑誌だと…。この文はもっと分かりやすく、してありました…」

 

「分かりやすく…?」

 

「簡単に言うと…。主人公の"下人"が、この後…非行に走った事を明確にしているん、です…」

 

「…なるほど。"下人"のその後を、『誰も知らない』とあやふやになるように改変したんですね…」

 

「はい…。これは、作者の芥川龍之介本人…の改変、ですけど…。最後の最後で、結末を読者の印象に…委ねたんです……」

 

「へぇ…。確かに、改変前と後じゃ本質的には変わってくるかも」

 

「そう、なんです…! そこが面白いんです…っ」

 

 

話題は尽きなかった。

 

 

買い物なんて、正直そっちのけ。俺は白金さんから語られる本にまつわるあらゆる情報に集中していた。

 

 

彼女は俺以上の本好きなのだと理解する。まず手にすることもないであろうエッセイから意味不明なタイトルの哲学本まで知っている。とんでもない本の虫だった。

 

 

そして、それらを嬉々として語る彼女は、今まで見てきたどの白金さんよりも嬉しそうだったと思う。

 

 

「『三度目の殺人』…ですか…。まだ読んだことは無い、ですね…」

 

「映画ノベライズなんですけど、コレはなかなか面白いですよ…。俺はオススメします」

 

「そうですか…なら。読んでみよう、かな…」

 

「……そうだ、なんなら貸しましょうか? 家にあるんで」

 

「…え? えと…いいん、ですか…?」

 

 

いいですとも。俺は何度も読んだし、家の棚で腐らせておくより白金さんに読んでもらった方が本も喜ぶ。絶対。

 

 

「なら……、お願い、します…//」

 

「はい。お願いされました。今度Roseliaの練習に顔出す時にでも渡しますね…」

 

 

どうせ無理やり連れていかれるので。

 

 

「は、はい…。……あっ、なら…!」

 

 

白金さんは何かを閃いたような様子を見せると…

 

 

「わた、わたしも…! 何か…、貸しましょう…か…?」

 

 

少しばかりすぼみ気味な声で提案してくれる。

 

 

「………いいんですか?」

 

「は、はい…っ」

 

「あ、ありがとうこざいますっ」

 

「はい…! ……ふふっ

 

 

やったね。何を借りようか…。なんだか変にワクワクする。

 

 

「どんな本が…いい、ですかね…?」

 

「オススメなら何でも…と言うのは簡単ですけど。そうですね……」

 

 

ジャンルは基本的に広く浅くな俺だが…

 

 

「ミステリー小説が特に好きなので、そこら辺で何か…」

 

「ミステリー、ですか…」

 

「はい。あ、どんでん返し要素とかあれば尚よしです」

 

どんでん返し…。『ハサミ男』とか、ですかね…」

 

「『ハサミ男』…名前は聞いた事ありますね…」

 

「…! なら、オススメします…。残忍な『ハサミ男』という殺人鬼が…、自身の模倣犯を探す、っていう話、で…」

 

 

何それ超面白そう。

 

 

「いいですねっ。めちゃくちゃ気になります」

 

「は、はい…! なら、それで…っ」

 

 

「ん"んっ…」

 

 

店内でキャイキャイと騒いでいたのが不味かったのか、近くにいた店員さんに咳払いで遠回しに注意される。

 

 

「……す」

 

「……………すみま…せん…//」

 

 

2人で仲良く謝るのだった…。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

俺の手には5冊ほどの小説やら哲学本が。

 

 

「こんなに買うつもりはなかったんですけどね」

 

「大丈夫、ですか…?」

 

「問題ないです。白金さんのおすすめなら興味あるので」

 

 

なんなら5冊でも減った方だ。金銭的問題を無視していいならこの倍は買ってる。

 

 

「あ、ありがとうこざい、ます…//」

 

「いえ、こちらこそ」

 

 

会計も済ませ、俺たちは本屋を出ようとする。

 

 

いい買い物をした気分だ。なかなかに時間はかかったようだが、今思えば一瞬のように感じるな。それだけ白金さんの話に聞き入っていたのだろう。

 

 

「あの…林道、さん…」

 

「? はい」

 

 

本屋の入口近くでふいに立ち止まる白金さん。なんだかモジモジとした様子だが…。どうしたのだろうか。

 

 

何かを言いたそうな雰囲気の彼女は、顔を赤らめたりワタワタしたりと、若干の百面相を見せた後、決心のついたような顔で言った。

 

 

「また………その…その…。林道さんさえ、良ければ…」

 

「……はい」

 

「い、一緒に…! 本、を…買いに行きません…か…?//」

 

 

徐々に下げる音量と比例して、少しづつ俯く彼女。顔は見れていないが、耳が赤くなっているのは見て取れた。

 

 

きっと勇気を振り絞ってくれたのだろう。俺はそれに報いたい。

 

 

ていうか普通に楽しそう。

 

 

いや…絶対楽しいよな。

 

 

「えぇ…是非。俺なんかで良ければ」

 

「…っ!」

 

 

バッと顔を上げた彼女の顔は赤かった。が、何とも嬉しそうなこの顔は、恐らく暫くは忘れられそうにない。

 

 

白金さんとの距離が、グッと近付いたような気がした。

 

 

「そろそろ時間もいい感じですし…。ここいらで解散しますか」

 

「そう…ですね…」

 

 

間もなく7時。2時間近くは居た事になる。帰りにやまぶきベーカリーにでも寄って朝食用のパンでも買おう。あの店は8時に閉まるから、ちょいと急がねば。

 

 

「それじゃあ。貸す本、持ってきますね……………ぉ?」

 

「は、はい…。わたしも………………はい…?」

 

 

では解散。と、本屋を出ようとした時。入口近くの棚に置いてある本になんとなく視線が行った。

 

 

商品棚の横には『ゲーム攻略本コーナー』の文字。

 

 

そのすぐ近くにデカデカと目立つように置かれた一冊の本。

 

 

 

 

 

 

『Neo Fantasy Online 公式ガイドブック』

 

 

 

 

 

あぁ…。確か昨日発売で……。RinRinさんが買った方がいいとオススメしていたな。

 

 

丁度いいコレも買っておこう。

 

 

「すみません。俺、ちょっとコレだけ買って来ますんで…」

 

 

そう言いながらその本を手に、失礼しま〜すと白金さんと別れようとした……

 

 

「………」

 

 

そんな俺を、何故か白金さんは今まで見た事のないような輝かしい目で見つめていた。

突如として現れた何処か香澄やあこに似た雰囲気に、俺は動揺を隠せない。

 

 

え? どうしたんすか…?

 

 

「り、林道さん…!」

 

「ひぇ……は、はい…??」

 

 

ズンズンとこちらに寄ってくる白金さん。ちょっと怖い。

 

 

「もしかして…。やって、るんですか…? "NFO"…!」

 

「は……へ?」

 

 

その言葉の後、再びゴソゴソと自身の買った本が入っている紙袋を漁った白金さんは、一冊の本を取り出す。

 

 

「………っ!」

 

「……ぁ」

 

 

何処か自慢げな表情を作る彼女の手には、今俺が手にしている本と同じタイトルが。

 

 

『Neo Fantasy Online 公式ガイドブック』の文字。

 

 

もしかして…。いや、もしかしなくても。

 

 

「白金さんって……NFOユーザー…?」

 

「はい…っ!」

 

 

なんと…! 今日イチの衝撃が走る。

 

 

『Neo Fantasy Online』通称"NFO"は、今や超人気タイトルのゲームである。

 

 

理由としては、なによりその自由度の高さから来るものだ。

 

 

俺もほんの興味本位で始めたゲームだったが、なかなかどうして面白い。割と配信初期からやっているつもりだが、今でも続けられる程にハマっている自覚はある。

 

 

だが……まさか、白金さんもこのゲームのプレイヤーの1人だとは思わなんだ。

 

 

いや。人気タイトルだからこそ、白金さんのような人にも刺さるのだろう。スゲーなNFO。

 

 

ゲームとかするんだ、この人…。本の虫以上の驚きだ。

 

 

「なんとまぁ…。意外です」

 

「林道さん、も…。ゲーム、するんですね…」

 

「えぇまぁ……少しだけ」

 

 

同じゲーム仲間と知れた事が嬉しかったのか、白金さんは笑顔を絶やさない。もうニコニコ。可愛い。

 

 

「レベルは…?」

 

「50チョイです。職業はナイトで…」

 

「…な、なるほど…。いつ頃から…?」

 

「β版の時から…っすかね」

 

「? それでもまだ50って……」

 

「いやまぁ……色々、あって…。最近やっと真面目にやり始めた感じです。優しい方から色々教えて頂いて。その人めっちゃ強いウィザードなんですけど…」

 

 

ウンウンと頷きながら聞いてくれる白金さん。

 

 

すると。一瞬何かを閃いたような素振りを見せた白金さんは、1歩コチラに近付きながら提案する。

 

 

「あ、あの…。今度、その……一緒にやりませんか…? NFO…」

 

「いいですね。面白そう…。フレンドになりますか?」

 

「は、はい…! 是非…!」

 

 

すると、そそくさと素早い速度でスマホを弄り出す白金さん。はっや。もう慣れてるとかいうレベルじゃないような……。

 

 

「こ、これです…っ」と、恐らくNFOのユーザーIDであろう文字列を見せてくれる。ふむふむ。………ふむ?

 

 

「………」

 

 

………このID…。よく見る気が…。

 

 

「…………」

 

 

……ッス〜………もしかして。

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………RinRin…さん……?」

 

「…………………え…?」

 

 

お互いに唖然とする。

 

 

俺は白金さんに習って、自分のユーザーIDをスマホ画面に映す。

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………K-na……さん……?」

 

 

俺はブンブンと首を上下に揺らす。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

暫しの沈黙の後…。

 

 

「………………いつも回復と援護、助かってます…」

 

「………………コチラ、こそ……。前衛、凄く助かります…」

 

 

日々の労を労い合うのだった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

あこ姫『えぇーっ!!! K-naさんって佳兄だったのっ!?』

 

K-na『だったよ』

 

RinRin『驚きだよね(´ー`*)ウンウン』

 

K-na『白金さんから聞いた時はビックリしたが、あこ姫さんがあこだったのはね…。というか名前がまんまだな』

 

あこ姫『へへーんっ。カッコイイでしょ!』

 

K-na『おう。長いけど』

 

あこ姫『なんだか凄い偶然だね! あぁいや…。コレこそ深淵より導かれし…因縁の……りんりーん…!』

 

RinRin『邂逅•́ω•̀)?』

 

あこ姫『かいこー!』

 

K-na『因縁…?』

 

あこ姫『とりあえずあこすっごく嬉しいよ! これからもよろしくねっ佳兄!』

 

K-na『あぁ』

 

RinRin『わたしからもよろしくお願いします(*´∀`)ノ …なんだか、不思議な気分ですね』

 

K-na『俺も、今でもちょっと興奮してますよ』

 

あこ姫『…そうだっ! ねーねー! 今度さ? Roseliaの皆でNFOやろうよ! 絶対楽しいよっ』

 

K-na『それ…大丈夫か?』

 

RinRin『凄く良いと思うよあこちゃん! わたしは賛成するよd(˙꒳˙* )』

 

K-na『紗夜さんとかは反対しそうだがな…』

 

あこ姫『えー! 絶対楽しいよー!』

 

K-na『まぁ…良いかもな』

 

あこ姫『なーんか! 今日はいい事あるかもよ!』

 

RinRin『そうだね、あこちゃん(o^^o)』

 

K-na『………あ』

 

RinRin『( ˙꒳˙ )???』

 

あこ姫『どうしたの? 佳兄?』

 

K-na『アレ……キラぽんじゃね?』

 

あこ姫&RinRin『『えぇ…っ!?』』

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

今日も今日とてバイト業。

 

 

「行くわよ佳夏」

 

「行くよー佳夏ー」

 

 

の途中に連行されそうになる俺。

 

 

「ただ今業務中ですので」

 

「……なら、最終手段よ」

 

 

早いな最終手段。もっと隠しておきなさいよ。

 

 

「リサ」

 

「はいは〜い☆」

 

 

湊先輩のGOサインに今井先輩は元気に応えた後、手をワキワキさせながらコチラへ近付いてくる。

 

 

うわっ。何その動き…。

 

 

俺はゆっくり後ずさる。

 

 

「かぁ〜くほー!」

 

「そのまま連行よ。リサ」

 

「離してっ。離してぇっ」

 

 

先輩2人組は俺を両サイドから拘束する。前々から思ってたけど力強いんよ、この2人。

 

 

「月島さぁ〜んっ」

 

「無駄だよ佳夏。まりなさんはアタシのクッキーで足止めしてるから☆」

 

 

 

 

 

 

「ん〜♪ コレすっごく美味しぃ〜!」

 

 

 

 

 

なんって卑怯な…! 俺も食いたいよ。

 

 

そしてなんて頼りにならない上司なんだろうか。

 

 

「嫌なら力ずくで振り解けばいいじゃない」

 

 

ソレが出来ないと分かってて言ってるなこの人。

 

 

俺はズルズルと引き摺られて行く。

 

 

…まぁ。今日はRoseliaに用事もあるし、別に良いけど…。せめてバイト中以外にして欲しいものだ。

 

 

3人で練習スタジオへ。

 

 

「………あれ? 白金さん達は?」

 

 

既にいたのはあこ1人。白金さん含む花咲川組の姿が見えない。

 

 

遅刻か? ……いや、あの2人に限ってそんな事は無いだろ。

 

 

「あー。紗夜と燐子は文化祭準備でちょっと遅れるって」

 

「明日だものね」

 

 

……あぁ、なるほど。確かにそうだ。

 

 

明日は花咲川女子学園の文化祭。通称"咲祭"。

 

 

香澄から誘われているので勿論行くつもりだ。

 

 

 

 

 

『ライブもするんだ!』

 

 

 

 

 

…一抹の不安はあるが。

 

 

「佳夏は行く? 花咲川の文化祭」

 

 

何故か未だに腕の拘束を解かない今井先輩が覗き込みながら聞いてくる。

 

 

「行きますよ。一応誘われてるんで」

 

「……へぇ〜。誰に?」

 

 

若干ジト目で聞いてくる先輩。なんでそんな事聞くんだ?

 

 

「花咲川1年の……。あの変な猫耳ついてるヤツです」

 

「あぁ。体育祭の時少し話したわね…。確か、戸山さん? だったかしら」

 

 

即反応する湊先輩。

 

 

「ソイツです。……よく覚えてますね…」

 

「アタシも…。友希那って、興味無い人の名前なんて全然覚えないし…」

 

「……別に。彼女の髪型が印象的だっただけよ」

 

 

あぁ。そういえばこの人猫大好きだったもんね。

 

 

良かったな香澄。偉大なる大先輩から注目されてるぞ。その猫耳が。

 

 

「まぁ……てなわけで、咲祭には行く予定です。湊先輩達は?」

 

「私達もそのつもりよ」

 

「一緒にまわろーね〜! ゆーきなっ! あこもねっ」

 

「わぁ〜い! やったぁー!」

 

 

なんだか体育祭に続き、咲祭もそれなりに波乱の予感。

 

 

確証なんてないけれど…。

 

 

「では早速練習よ。紗夜と燐子が合流するまで各自練習。揃ったら合わせるわ」

 

「りょうか〜い☆」

 

「はぁ〜い! あ、佳兄ちょっとここ教えてー」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

数十分後。

 

 

 

 

 

「すみません、遅れました」

 

「ました…!」

 

 

ガチャりと音を立ててスタジオに入ってきたのは例の2人組だった。

 

 

走って来たのだろうか。紗夜さんは若干息が上がっているようだが、白金さんは膝に手をつき、肩が大きく上下していた。

 

 

「お〜☆ おつかれー2人とも」

 

「意外と早かったわね」

 

「お疲れ様です! 紗夜さんっ、りんりん!」

 

 

俺は2人に水とタオルを渡す。

 

 

「お疲れ様です。準備、大変そうですね」

 

「ありがとうございます。…まぁ、そうですね…。色々と…」

 

「………//」

 

 

受け取った2人はほんのり顔を赤らめる。走って来たからだろうか。

白金さんに至っては、タオルで顔を半分程隠していた。

 

 

「?」

 

「き、気にしないでください…// 早速練習を始めましょう」

 

「え? ぁはい」

 

 

スタスタと横を通り過ぎる2人はすぐさまセッティングに取り掛かる。といっても、殆ど俺が終わらせているのですぐ開始できるのだが。

 

 

「じゃあRe:birth dayから━━━━━」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

「今日はここまでにしましょう」

 

 

何回か音を合わせ、数曲流した後、湊先輩はそう言った。

 

 

「今日は早いんですね」

 

「紗夜達は明日が文化祭なのでしょう? なら、あまり疲れを残させる訳にはいかないわ」

 

 

なるほどな。

 

 

「そう、ですね…。その方が良いかもしれません」

 

「あ、あの…。お気遣い、ありがとうございます…」

 

「うんうん! 万全な状態で楽しんでこそ! だよね〜♪」

 

 

俺はそんな会話を聞きながら、いそいそと片付けを始める。

 

 

すると。

 

 

「り、林道さん…」

 

 

白金さんがコチラにトコトコとやってきた。その手には小さな本。

 

 

「こ、コレ……。昨日話してた…本、です…」

 

「あっ。ありがとうございます。ちょっと待っててください」

 

「はい…」

 

 

俺は急いでスタッフルームに戻り、ロッカーの中にあるカバンから一冊の本を取り出し、また戻る。

 

 

「お待たせしました。コレ、どうぞ」

 

「…! はいっ。ありがとう、ございます…っ!」

 

 

昨日の本屋で貸し借りの約束をしていた本。白金さんからは『ハサミ男』。俺からは『三度目の殺人』の小説を、互いに渡し合う。

 

 

「是非…感想を、聞かせてください…」

 

「えぇ。必ず」

 

 

俺の貸した小説を大事そうに抱える白金さん、その表情は笑顔だった。

 

 

「ちょっとちょっと2人とも〜? 片付けの途中でなーにやってるのかなぁ〜…??」

 

「い、今井…さん…!」

 

「ただの本の貸し借りですよ」

 

「本?」

 

 

俺と白金さんは揃って本の表紙を見せる。

 

 

「『ハサミ男』…『三度目の殺人』…? うぇ〜…。アタシは無理っぽそう…」

 

 

苦い顔をする今井先輩は、若干後ずさりながら言う。

 

 

「…ていうか…。なんだか2人とも仲良さそうじゃん…?」

 

 

そんな顔のまま、先輩は俺だけを睨みながらそんなことを言う。何故俺だけ。

 

 

俺と白金さんは互いに目線を合わせる。

 

 

「まぁ、昨日ちょっと…」

 

「はい…ちょっと…」

 

「え? えぇ…?? なになに気になるじゃーん!」

 

 

声を荒げる今井先輩を、白金さんはくすくすと小さく笑っていた。なんだか不思議な光景な気もする。

 

 

「(えぇ? 本当に何があったの? あんまり話さない2人だと思ってたのに…。いつの間にかこんなに仲良く…っ!)」

 

「…? なんです?」

 

「……別にっ!」

 

「??」

 

 

妙に見つめられていると思ったら急にそっぽを向く先輩。なんとなくだが怒ってる気がする…。何故…。

 

 

「どうしたんですか…。そんな所で固まって」

 

 

すると今度は紗夜さんがやってきた。

 

 

「ちゃんと掃除してください。今井さんも」

 

「むぅ〜…。はぁーい」

 

「林道さん。後で次の予約をしたいので、そのままお願いします」

 

「了解です。()()()()

 

「……ん?」

 

「「「ん?」」」

 

 

掃除に戻ろうとしていた今井先輩の足が止まる。そしてゆっくりとコチラに顔を向け、俺を見つめる。

 

 

「……なんで、紗夜だけ名前呼び…?」

 

 

コレまたゆっくりと、そんな言葉を発した先輩。…なんか目が怖い。

 

 

「だけ…って。あこは名前呼びでしょ…?」

 

「あこは別!」

 

「ほぇ?」

 

「何でもないよ…あこちゃん…」

 

 

やっぱりなんか怒ってるよ。先輩は踵を返してズンズンとコチラに詰め寄ってくる。

 

 

「まぁ…その。日菜先輩と区別付ける為って言うか…」

 

「…はぁ。あの子(日菜)のわがままなんです。今井さん」

 

「ふぅ〜ん…」

 

 

あまり納得していないご様子の今井先輩。

 

 

「じゃあアタシも名前で呼んでもよくない?」

 

 

次の瞬間、急に笑顔になる先輩。近い…んでもって怖い。

 

 

「え、えっ…と」

 

「ね?」

 

「……は、はぁ…」

 

 

すると先輩はスっと俺の耳元まで口を寄せると。

 

 

「デートだってしたんだしっ」

 

「……」

 

 

ぬったりとそう言った。

 

 

恐らく誰にも聞こえていないだろう声で、息がかかる程の距離で。

 

 

「い、今井さん…?//」

 

「(ぃ、今…。で、デート…って…///)」

 

 

俺は硬直する事しかできなかった。

 

 

目の前にはかなり顔を赤くした今井先輩。……先輩も恥ずかしかったんかい…。

 

 

俺は数歩後ろへ下がり、跳ね上がる心臓を無理やり押さえつけるように深呼吸をして…。

 

 

「…そうですね。…………………リサ先輩…」

 

 

そう、声を振り絞った。

 

 

「……うんっ…///」

 

 

更に顔を赤くする先輩。も"ー。先輩が恥ずかしがると俺も恥ずいんだってばよ。

 

 

名前ひとつでこうも振り回されるのは何故だ? 変な気分だ全く。

 

 

「あ"ーもうはいっ。コレで良いですよね?」

 

「あ…あ、ははっ! ぅ、うん! よろしい…っ!//」

 

「さっきら何をやってるのよ…」

 

「湊さん…」

 

 

一向に掃除をしない俺たちを見かねたのか。湊先輩もやってくる。

 

 

「この先輩が「自分も名前呼びしろー」って言うので…」

 

「む〜…! 恥ずかしがってたクセに…」

 

「…っ。アレは先輩が照れたりするから…」

 

「……そう。なら佳夏。ちょうどいいし、私も名前で呼びなさい」

 

「…え?」

 

 

すまし顔で言う湊先輩は何処かふてぶてしく、変に逆らえない雰囲気があった。

 

 

「そもそも、前からそうすれば良かったのよ」

 

「そーだそーだ〜」

 

「いや、アレは俺なりの距離感の掴み方って言うか…」

 

「言い訳はいいのよ」

 

「い、言い訳……」

 

 

リサ先輩サイドについた湊先輩は強い。

 

 

「あなた。Roseliaのマネージャーである自覚はあるの?」

 

「ないよ」

 

 

それは即答した。……ていうかマネージャー云々は関係なくない?

 

 

「この際よ。私も名前でいいわ」

 

「は、はぁ……友希那、先輩」

 

「……っ。えぇ。それでいいわ……………………//」

 

「(………嘘っ。友希那が…照れてる…!?)」

 

 

腕を組んで見上げる先輩の態度は、逆に上から目線で不思議な感覚だ。

 

 

「リサには照れるのに私に対してはならないのは気に入らないわね…」

 

「うぇ?」

 

「なんでもないわよっ」

 

 

えぇ…?

 

 

「(私の時は……少しくらいは照れてくれた…のかしら)」

 

「(…………なんか、ちょっと…羨ましい…//)」

 

 

……はぁ。なんだか疲れた。

 

 

「ほ〜ら! 明日文化祭なんだし、ぱぱっと掃除終わらせちゃお?」

 

 

先輩が掃除の手を止めた要因のひとつな気もするけど…。

 

 

「何か言った? 佳夏ー」

 

「いいえっ」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

ちょうど…というか、俺が練習に付き合っている間に俺のシフトの時間も終えたので、Roseliaに合わせるように俺も帰る。

 

 

「ん〜〜っ! 明日がチョー楽しみー!」

 

「あこってばテンション高いねぇー☆」

 

 

夕陽が傾く空に、あこの元気な声が響く。まぁ楽しみなのは俺も同じだったりするので、あこのテンションにあてられている様な感覚はあった。

 

 

「そ〜いえばさ? 紗夜と燐子って同じクラスでしょ?」

 

「えぇ」

 

「は、はい…」

 

 

そうなのか。初めて知った。

 

 

「んふふ♪ 文化祭でお店とか出すの?」

 

 

確かに気になるな。文化祭と言えば出店とかだろうか。何かしらの出し物があるかもしれない。

 

 

「えっと…それは…//」

 

「………//」

 

 

……? 今…リサ先輩の問いに、花咲川組の2人は口をつむぐ。

 

 

俺はリサ先輩と顔を見合わせた。

 

 

「何かお店とかやるんですか?」

 

「お店……と言えば、まぁそうですね…」

 

「紗夜にしては珍しくハッキリしないじゃん…どうしたの?」

 

「えっと……その。……ひ」

 

「「ひ?」」

 

 

無言を貫く白金さんを置いて、紗夜さんは夕陽の中でも分かるくらいに顔を赤くしながら…

 

 

「秘密です…っ!//」

 

 

声を張って言った。近所迷惑を考えたのか、声は抑えていたように思う。そこら辺はさすが紗夜さん。

 

 

しかし秘密ときましたか。

 

 

何が秘密なのかは気になるが…。いや、秘密にする程の何かをするつもりなのか…。どっちにしろ今は聞けそうにない。

 

 

俺は再度リサ先輩と困惑顔を合わせるのだった。

 

 

帰りながら、途中でリサ先輩と友希那先輩、紗夜さんとも別れる。

 

 

残ったのは俺とあこと白金さん。

 

 

「今日はなんだかりんりん元気だね!」

 

「え?」

 

 

歩きながら、あこが言う。

 

 

「そうか?」

 

「絶対そーだよ! ね、りんりーんっ」

 

「え…っと。うん、そうかも…」

 

 

…まぁ確かに。今日の白金さんのキーボードは少しだけ弾んでいたように思う。というか、身体がリズムに乗っていた。

 

 

「何かいい事あったの?」

 

「…うーん…。よく、分かんない…」

 

「ふーん。そっかぁ……あっ」

 

 

気付けば宇田川家に着いていた。…何度か見たことはあるが、普通にでかい家。

 

 

大体いつもはここで3人別れる。今日も同じだ。

 

 

「それじゃーねー! りんりん、佳兄ぃー!」

 

 

バタンっと大きな音を立てて玄関に吸い込まれるあこ。もうちょい静かにな。

 

 

そして俺と白金さんだけが残る。

 

 

「えっと……それでは…」

 

「ぁはい。お疲れ様です」

 

「その……本、お借りします…」

 

「こちらこそ」

 

 

小さくお礼をした白金さんの顔を俺は見る。

 

 

「………」

 

 

……あれ? ……………なんだか、見たことある。

 

 

あの顔。

 

 

「………白か━━━━━

 

 

 

 

 

『……行こうぜ、りみ』

 

『……っ! うんっ!』

 

 

 

 

 

………あぁ。

 

 

「……?」

 

「…いえ、なんでもないです」

 

 

気のせいなのかもしれない…けど。

 

 

言った方がいいような気がした。

 

 

「明日、楽しみにしてます。()()()()

 

「…………………………っ…!」

 

 

息を飲んだ様子を見せた燐子さんは、徐々に顔を赤くしていき…。

 

 

「……/////」

 

 

それはもう真っ赤になった。

 

 

「……ぅ"…す、すみません…。1人だけ苗字呼びってのは…どうかなーって…思って…すみません

 

 

ダメ押しにもう一度小さく謝る。

 

 

あぁコレは…。今回ばかりは的外れか。うっわ調子乗ってマジすみません…っ。

 

 

「……白金さん、あの…」

 

「……………いえ…」

 

「ふぇ?」

 

 

白金さんは2m程離れていた俺との距離を詰めてくる。

 

 

「り…………燐子…で。大丈夫、です……///」

 

「………は……はい」

 

 

今にも消え入りそうな。少しばかり吹く風にかき消されてしまいそうな声で。白金…いや、燐子さんは言った。

 

 

ヤバい。昨日からいきなり距離を縮められた燐子さん。昨日今日とで、彼女の色々な側面を見れた気がする。今まで見てきた燐子さんなんて、彼女のほんの一部分に過ぎないのだと理解できた。

 

 

今の彼女は恐らく、過去1番の赤面を見せている。

コッチまで暑くなってしまう程に、その顔は直視出来なかった。

 

 

「……それじゃあ、燐子…さん」

 

「は……はい…//」

 

「また、明日……」

 

「…………はいぃ……//」

 

 

最後になって最高の気まずさを醸し出す。

 

 

 

 

 

「…………気付いてくれて、ありがとうございます……」

 

 

 

 

 

彼女の声は、今度こそ街の音に消えた。

 

 

「……明日。燐子さんのクラスに行きますね」

 

「……っ!? そ、それはダメ…です…っ!///」

 

 

あ……アレ?

 

 

 

 

 

 

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◇◇

 

 

 

 

 

「……………ん?」

 

 

あこと燐子さんと別れ、商店街を歩きながら帰路に着いていた時。

 

 

目の前をとある3人が駆け足で通り過ぎるのが見えた。

 

 

……あれは。

 

 

「有咲…おたえ…りみ……?」

 

 

花咲川の蔵練メンバーだった。

 

 

はて、こんな時間に何処にいくのやらと、俺は遠巻きに3人を眺める。

明日はライブもあるんだろう。練習はしないのか?

 

 

そんな事を考えながら俺は家を目指す。

 

 

………。

 

 

なんだ? 妙に有咲達の様子が記憶に焼き付いて尾を引く。

 

 

俺は歩く足を止めた。

 

 

そもそもなんでこんな所に? 有咲達がコッチ(商店街)側に来るなんてあんまないような気がするが…。ていうか俺は見た事ない。

りみには何回か会ったんだがな。

 

 

それだって、やまぶきベーカリーの中で……。

 

 

……やまぶきベーカリー…?

 

 

………………沙綾?

 

 

「………」

 

 

一抹の不安が、俺の中で肥大化する。

 

 

『ドラムは見つからなかったけどな〜』

 

 

俺はすぐさま、目標を家からやまぶきベーカリーへと変更した。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

…やっぱりいた。

 

 

有咲達3人は、やまぶきベーカリーの前にいる。

 

 

そしてそのまま入店。

 

 

俺も若干の早歩きで店に向かう。

 

 

「…………いない」

 

 

ガラス張りの店内に有咲達の姿は無かった。レジには千紘さんの姿。

 

 

千紘さんと目が合う。

 

 

「……ども」

 

「…いらっしゃい、佳夏君」

 

 

違和感。

 

 

「……何かありました?」

 

「え?」

 

「…浮かない顔、してるので……」

 

「………あらら…わかる?」

 

 

眉をひそめながら笑う千紘さん。

 

 

「…亘史さんは?」

 

「今は配達。しばらくしたら帰ってくるわ」

 

「あ! 兄ちゃん!」

 

「……お兄ちゃん…!」

 

「純…、紗南…」

 

 

店の奥からやってきたのは純と紗南。元気よくコチラへ駆け寄ってくる。

 

 

「パン買いに来たの?」

 

「ん? ……まぁそうだ」

 

 

実は違うけど。

 

 

……ちょっと聞いてみるか。

 

 

「なぁ、2人とも。さっき沙綾の友達がここに来なかったか?」

 

 

俺の質問に。

 

 

「「いるよ!」」

 

 

2人は元気よく答えた。

 

 

「最初は香澄お姉ちゃんだけだったんだけどね?」

 

「…香澄?」

 

 

まぁ…いるよな。アイツなら。

 

 

「姉ちゃんと一緒に姉ちゃんの部屋に行ったんだよ」

 

「…そうか」

 

 

部屋で2人…か。さては何かしらを香澄が知って、いても立ってもいられなくなった……ってところかな。

 

 

「他は?」

 

 

俺の質問に「コッチ!」と答えた2人に、俺は手を引かれる。…ってソッチ家の方なんじゃ…。

 

 

「佳夏君」

 

 

千紘さん…?

 

 

「よろしくね…あの子のこと」

 

「………」

 

 

俺は流されるようにリビングへ。

 

 

「……佳夏」

 

「……」

 

 

そこにはテーブルに座る有咲達の姿。だがその面持ちは妙に暗く、いつもの談笑なんて影も無い様子だった。

 

 

「兄ちゃん。姉ちゃんの部屋行く?」

 

 

純は俺の制服の袖をクイクイと引っ張りながら聞いてくる。

 

 

「いや…行かない。アイツらの話が終わるまで待つよ」

 

「そっか」

 

 

俺はテーブルに座るよう紗南に言われるが、正直そんな気分ではなかったので立って待つ。

 

 

「……佳夏。お前もしかして…」

 

「知ってたの?」

 

 

有咲の言葉に続けるようにおたえが聞く。

 

 

「知っていたのか」。その問に「何が?」と答えるのは、流石に無粋か…。

 

 

きっとコイツ等も知ったんだ。

 

 

「………知ってた。沙綾がバンドやってて、ドラマーだって…」

 

「…っ。お前ソレ……何で言わなかった…!」

 

 

有咲は若干の怒気を孕んだ言葉を俺に向ける。それを聞いた純と紗南はビックリしたのか、俺の足の後ろに隠れた。俺は2人の頭を撫でて宥める。

 

 

それに気付いた有咲は、一言「ごめん…」と言い、視線を落とす。

 

 

「………沙綾が言わなかったからだよ」

 

「………」

 

「アイツが隠している事とか、悩んでる事とか…。それを俺がペラペラと喋るのは……違うだろ?」

 

 

3人は黙って聞いている。

 

 

「色々と知ったのは偶然だ。それは沙綾本人にも話した。……まぁ、なんでバンドを辞めたのか……までは知らないけれど」

 

「………私達も、山吹さんがバンドやってた事は聞いた…」

 

「…沙綾からか?」

 

「……いや、山吹さんの元バンドメンバーから」

 

 

なるほど…。

 

 

「でも……、沙綾ちゃんがなんで辞めたのかまでは…まだ……」

 

「ちなみにどんな話を聞いたんだ?」

 

「……今日、江戸川楽器店に行ったんだけど━━━━━

 

 

有咲はゆっくりと話してくれた。

 

 

CHiSPAの事。

 

 

初ライブ直前の事。

 

 

千紘さんに起きた事。

 

 

 

━━━━━って事……らしい…」

 

 

「………そういうことか…」

 

 

千紘さんの「私のせい」という言葉が脳裏をよぎる。

 

 

沙綾は言った。「迷惑をかける訳にはいかない」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして「そんな訳ないじゃんっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…沙綾」

 

 

響いた声にその場にいた全員の意識が上へ向く。純は一瞬ビクッと跳ねた後、恐らく千紘さんの元へ向かった。

紗南は先程より強く俺の足にしがみつき、顔を埋める。

 

 

「香澄には分かんないよっ! 私…皆に迷惑かけてまでバンドできない!!」

 

「……」

 

「ナツ達も香澄と同じこと言ってくれたんだよ! 私が大変なら力になるって…手伝うって…! 私のこと心配して、練習時間減らそうって…っ!」

 

「……」

 

「皆…自分のことより私のことばっか! それで楽しいの…? 私だけ楽しんでていいの…?? いいわけないじゃんっ!!

 

「……」

 

「私の代わりに誰かが損して…だから、辞めたのに……。今更できるわけないじゃん……っ

 

「……」

 

「……できるよ…」

 

「できない!」

 

できるっ!! なんでも1人で決めちゃうのズルいっ! ズルいっズルいっ!! ………一緒に…考えさせてよ………っ

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「…………………………」

 

 

沙綾の想いが爆発した。

 

 

許せなかったんだ。周りに助けられるばかりの自分が。

 

 

優しくされる環境に、甘んじたくなかったんだ。

 

 

……。

 

 

長い沈黙。

 

 

「……ちょっと行ってくる…」

 

 

俺はとりあえず上の2人を落ち着かせるため、足に引っ付く紗南を抱えて2階へ上がった。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

恐らく沙綾の部屋のものであろう扉は開いていた。部屋からこぼれる西日に、沙綾と香澄の影が見える。

 

 

俺は2人のいる部屋の前につくと、中は見ないように軽く扉をノックする。

 

 

恐らく気付いたであろう2人に…

 

 

「喧嘩しちゃ…やだぁあぁぁ…っ!」

 

 

涙で顔をグチャグチャにした紗南が、俺の元から離れて行く。

 

 

「…っ! ごめんねー! 喧嘩じゃないよ」

 

「ぅう……ぐすっ…ほんと…?」

 

「ほんとほんとっ! ほら…泣いたふりぃ〜♪」

 

 

しゃがみ込みながら紗南を優しく宥める香澄。こういうところはちゃんとお姉ちゃんなんだと思った。

 

 

2人は俺に気付く。

 

 

「………佳夏…」

 

「………佳夏君…」

 

 

目を擦りながら、2人は俺を見て、すぐさま俯く。

 

 

「………とりあえず、一旦降りようぜ」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「おつかれ」

 

「皆…なんで…?」

 

 

リビングに戻った俺達。どうやら香澄は有咲達が来ていることは知らなかったようだ。

 

 

「香澄が先行っちゃったから」

 

「声、下まで聞こえてたぞ…」

 

「純君。ビックリしてお店の方に逃げちゃった…」

 

 

まぁ、扉は開いていたし…。ここまで聞こえるのも無理はない。閉まっていても聞こえなかったかどうか。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

香澄と沙綾は口を噤む。落ち着きは取り戻せたみたいだな。

 

 

「……っし。んじゃまぁ…帰るか」

 

「…あぁ」

 

「……えっ?」

 

 

香澄は驚いた様子を見せるが、コレは俺も有咲に同意だ。

 

 

「こんな状態で話し合いなんてできないでしょ」

 

 

そう言って立ち上がる有咲に、おたえとりみも続く。

 

 

すると、「…まぁでも……」と立ち止まった有咲は、背を向けたまま言う。

 

 

「私はライブとかどうでもいいけど……。知らない人よりか、山吹さんの方が、私は楽…かな」

 

「私も…っ! 沙綾ちゃんとできたら…すっごく嬉しいっ」

 

「……携帯に曲のデータ送ったから。聞いてみて」

 

 

思い思いの言葉と共にリビングから出ていく3人。

 

 

だから……。無理、なんだってば…っ

 

 

それを見送りながら小さく零す沙綾は、再び涙を溜めながら俯く。

 

 

「……さーや…」

 

 

香澄はそんな沙綾に向き直る。

 

 

「私…待ってるから…」

 

「……」

 

「ずっと……待ってるから…っ」

 

 

そして、有咲達に続くようにリビングを後にする。

 

 

「………」

 

「………」

 

「……お姉ちゃん…」

 

 

紗南の声が異様に響く。さっきまでの空間ではなくなってしまったかのように、変に広く静かな世界になる。

 

 

いつまでもこうしている訳にはいかない。

 

 

千紘さん。やっぱり俺には沙綾の悩みを解決までは導けない。

 

 

きっと俺には役不足もいい所だ。

 

 

あなたが頼るべき相手は……きっと香澄達。

 

 

アイツらならきっとどうにかできるんだろう。

 

 

………でも。

 

 

「…有咲のヤツ、素直じゃないな。一緒にやりたい…って言えばいいのに」

 

「………」

 

 

助けるのは、俺じゃなくていい。

 

 

「りみは基本ナヨナヨって感じだけど…、皆が好きで、きっとその中に沙綾は既にいる」

 

「………」

 

 

救うのも、俺じゃなくていい。

 

 

「おたえと演奏するのはきっと楽しいぞ。蔵練の香澄があんだけはっちゃけるんだからな」

 

「………」

 

 

………それでも、俺は任せれたんだ。千紘さんに。

 

 

「香澄は本気だぞ。本気で沙綾を待ってる」

 

「……………………………………だか…ら…」

 

 

俺は俺のやり方で、その手助けくらいはできるだろ。

 

 

最善を尽くせ、それでやっと俺はまともなんだよ。

 

 

「香澄達はきっと……いや絶対。沙綾が思ってる程ヤワじゃない」

 

「……っ」

 

「お前の苦労だって悩みだって…、喜んで担ぐさ」

 

「…………それが……迷惑、なんだ……って…」

 

「迷惑かどうかは……()()()()()()()…っ」

 

「………っ!」

 

「……体育祭の時、負けた俺に寄り添ってくれた沙綾の優しさが……。俺には凄く嬉しかったんだよ…」

 

「……」

 

「……その優しさを、自分に向けてくれ…」

 

 

香澄達は沙綾にとっての光だ。俺にできることは、沙綾がそこに届くための後押しをすること。

 

 

「…………佳夏…」

 

「……………………………なぁ沙綾」

 

 

 

 

 

「……………もう少し、我儘になりな」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

俺はトボトボと歩く。

 

 

既に外は暗く。星がチラホラと見えていた。

 

 

その中に一際目立つ綺麗な星。

 

 

「………」

 

 

沙綾は優しい。

 

 

家族にも、バンドメンバーにも迷惑をかけまいと。

 

 

あまり体の強くない母の為にも。

 

 

色んな物を押し込んで、我慢してきた。

 

 

でもそれを…。俺たちは良しとしないんだよ。

 

 

人に優しくできる人は、優しくされて然るべきなんだ。

 

 

じゃなきゃ嘘だろ。

 

 

お前の我儘を聞かせてくれ。

 

 

家族とか、メンバーとか、友達とか…。そういう条件を全部とっぱらった、お前の我儘を聞きたい。

 

 

叶える場所は既に用意した。

 

 

後は…お前次第だよ。沙綾。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

 

スマホに見慣れない相手からのメッセージと添付されたデータ。

 

 

 

 

 

『……携帯に曲のデータ送ったから。聞いてみて』

 

 

 

 

 

「…おたえの奴。俺にも送ったのかよ」

 

 

大方香澄経由で俺の連絡先を知ったな。

 

 

そこには1曲だけ入ったデータファイル。

 

 

タイトルは『STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンド名は……"Poppin’Party"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

『買えましたよ、先輩』

 

『おー☆ 良かったじゃん! 結局どんなのにしたの?』

 

『シンプルなクリーム色のヤツです』

 

『なるほどねぇ。いいと思うなっ』

 

『あの…ありがとうございます。色々と相談乗ってもらっちゃって…』

 

『いーのいーの☆ でも意外だったよねぇ…んふふ』

 

『まぁ…あんまりこういうのはしないんで…』

 

『ちなみにー。アタシの誕生日は8月の25日だからねぇ〜♪』

 

『え? あ、はぁ…………了解…』

 

『ウンウン! それじゃっ、まーた明日ねっ』

 

『はい。また…。おやすみなさい』

 

『……なんか今のもっかい言って…』

 

『切りますね』

 

 

 

 

 

 





若干のマニアック要素すみません。今話に出てきた作品はどれもオススメなので、気が向いたら読んでみてくださいませ。


いつも暖かい感想をくれる方、本当にありがとうございます。中には何行も書いて下さる方もいて…。感激です。励みになりやす。
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