少年とガールズバンド   作:奏でるの

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なが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い後半戦。


マジで長いです。今までの2.5話分くらいあります。




#18 咲祭とか 後

「これからどうするの?」

 

「どうって……そりゃあ」

 

「ヤレヤレ…分かってないなぁリサちーは」

 

「えぇ? なになにどういうこと?」

 

「行かなきゃ」

 

「ど、何処に…?」

 

 

俺と日菜先輩は顔を見合わせる。

 

 

「「2-B(おねーちゃんのクラス)」」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

さて。

 

 

お昼過ぎ。花咲川の文化祭も怒涛の後半戦へと突入した。

 

 

そして、文化祭はここからが本番と言っても過言ではないまである。

 

 

「わくわく♪ 待っててね、おねーちゃんっ」

 

 

沙綾を無事送り届け、Poppin’Partyの文化祭ライブも熱狂の元に幕を閉じ、なかなか円満かつ清々しいオチがついたような気がするが……。

 

 

残念、まだ終わりではない。

 

 

なんならここからが本当の戦いだ。何と戦うねん。

 

 

「紗夜のクラスって……そういえば何するのか言ってくれなかったよね」

 

「あこも聞いてなーい」

 

「佳夏は知っているの?」

 

 

Roselia羽丘組はまだ知らないようだ。

 

 

「今朝知りました」

 

「へ〜。で、どんなのやるって?」

 

「それはまぁ、着いてからのお楽しみってことで」

 

「そーそー♪ きっとリサちーびっくりするよっ」

 

「何それ、超気になるんですけど〜…」

 

 

それには俺も激しく同意する。

 

 

はてさて、一体どんな新世界が広がっているのやら。想像にかたくない景色に心躍ってしまう俺を、一体誰が責められよう。

 

 

ちなみに。

 

 

「さーやも来たし、Poppin’Partyで文化祭回ろうよ!」

 

「新メンバー記念」

 

「あはは。ありがと…!」

 

「山吹さんには悪いけど、私はパスな」

 

「え? なんで?」

 

「……午後からクラスの仕事やんの」

 

「有咲ちゃんのクラスの演し物って…?」

 

「………………………演劇」

 

「面白そう」

 

「皆で見に行こうよっ!」

 

「来んなっ。つーか、私はセリフ無い役だし」

 

「木の役とか?」

 

「余計に気になる…」

 

「違ぇよ!」

 

「有咲の演劇は見に行くとして「だから来んなって!」他の行きたいとことかある?」

 

「あ、私お姉ちゃんのクラス行ってみたいな」

 

「ゆり先輩のクラスかー」

 

「お化け屋敷やるんだって」

 

「面白そう!」

 

「有咲のクラスの演劇終わったら皆で行こうよっ」

 

「お、おう…………終わったらな…!」

 

「佳夏君も一緒に行こ!」

 

「ん?」

 

 

香澄に誘われた。気持ちは嬉しいがすまない…俺には見届けなければいけない場所があるんだ。すまない…。

 

 

「そっかぁ…」

 

 

そんな顔しないでくれ。

 

 

「…………後で一緒に回るか」

 

「…! うんっ」

 

 

という訳で。香澄達Poppin’Partyは沙綾を連れて既に校内を回っている模様。別れ際に見た沙綾の顔は嬉しそうだった。今は5人の時間を大切にしよう。俺がその輪に入るのは少々憚られるというものだ。

 

 

「さて、行きますか」

 

「そうだね」

 

「え、え? 何で2人共そんな真剣な顔してるの? 紗夜達のクラスって何やるの??」

 

 

そんな顔にもなるでしょう。

 

 

行かねばならない場所がある。見届けなければいけない景色がある。いざ行かん。

 

 

ひとつなぎの大秘宝(ワ〇ピース)はそこに在る。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「ぉ…………おかえり…なさい……ませ…。ご…ご主人……様……っ////」

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「……………………やっぱり私には無理です…っ!!////

 

 

一体誰だろうか。2-Bの出し物をメイド喫茶にしようと言い出し、実行に移したのは。その方を紹介して頂きたい。幾らか払うのでついでに口座番号も。

 

 

2-Bに到着した我々がまず目撃したのは、教室まで続く長蛇の列。最後尾から並び、入れたのはそこから20分後のことだった。

 

 

そうもなるわな。と、納得出来る。教室に入った瞬間迎えてくれたのは、フリフリとしたヘッドドレスが目立ち、清潔感溢れるスタンダードなクラシカルメイド服に身を包んだ風紀委員の姿が。風紀とは。

 

 

まさか……まさか紗夜さんの口から「ご主人様」なんて単語が発せられようとは思わないだろう。しかも、だ。恐らく紗夜さんからしてみても、日菜先輩だけでなく、俺や他のRoseliaメンバーが一緒くたに入ってくるとは思わなかったのだろう。俺たちを視認した瞬間、すでに赤く上気していた頬に更に赤みが増したのを確認した。

 

 

他のクラスメイトに引き摺られ、俺たちの前へ召喚された紗夜さんからのおかえりなさいませコールと、茹でられたかの如く真っ赤に染まったご尊顔の、その双眸に射抜かれる衝撃に、我々は行動能力を凍結させられてしまった。

 

 

素晴らしきかな。

 

 

素晴らしきかな…。

 

 

「先輩。俺今るんって来てます」

 

「おねーちゃんダメだよ、そんないやらしい格好しちゃ。家で着て」

 

「いやらし…!?////」

 

 

手に持っていたトレイで顔を隠してしまう紗夜さん。

 

 

「紗夜……メイド服、超可愛いじゃん…!」

 

「紗夜さんのクラスってメイド喫茶なんですね!」

 

「似合うじゃない」

 

「見ないでください…!//」

 

 

メイド服姿をまじまじと見つめる他Roseliaメンバーの視線に耐えかねたのか、紗夜さんはジリジリと後ずさってしまう。

 

 

教室内を見た感じ、やはり客は多い。随分と繁盛しているのが伺える。企画を練った人はかなりのやり手のようだ。

 

 

俺たちは揃ってテーブルに案内される。

 

 

しかしまぁ。

 

 

「メイド喫茶なんて、よくやる気になりましたね」

 

「ね。紗夜なら絶対反対しそうなのに」

 

「そ、それは…」

 

「あっ! 実は紗夜さんもメイド服着てみたか「違います」すみません」

 

「ふっふっふ…。それは私から説明致しましょう」

 

「………誰?」

 

 

わざとらしい笑みを浮かべながらやってきたのは……本当に誰だろうか。知らない人だ。紗夜さん同様メイド服を来ている所を見ると恐らくクラスメイトだろう。

 

 

縁の無いメガネをクイっと動かしながら言う。

 

 

「どうも、このクラスの文化祭実行委員をしてます。林というものです」

 

「はぁ、どうも」

 

「林さん…」

 

 

林と名乗った女生徒。香澄と同じく実行委員のようだ。

 

 

「やはり氷川さんを接客に据えて正解でした。この客の入れようも氷川さんの影響力が大きいかと」

 

「まぁ…紗夜さん美人ですからね」

 

「びじ…っ///」

 

 

俺もそれに釣られたわけだし。接客はこの人の采配か、ありがとうございます。

 

 

「あなたがメイド喫茶をやろうって言ったの?」

 

「えぇそうですよ。あなたは……もしかして氷川さんの妹さん?」

 

「せーかーいっ!」

 

「どうりで。そっくりだと思いました……ふふふ」

 

 

妙な視線で日菜先輩を見つめている。怖いななんか。

 

 

「氷川さんの妹さんなだけあって流石美人ですね……。メイド服着てみませんか?」

 

 

スチャっと後ろからメイド服を取り出しながら言う林さん。ちょっと待って、今そのメイド服どっから出したの?

 

 

「え? う〜ん…。メイドに興味無いしなー。あたしおねーちゃん見に来ただけだし」

 

 

ガンスルーだと。

 

 

「…ふむ。……お姉さんと同じ衣装、着てみたくないですか?」

 

「……」ソワッ

 

 

おっと流れ変わった?

 

 

「林さん…!」

 

「お姉さんもほら、着て欲しいそうですよ」

 

「言ってませ「着る〜っ!!」

 

「ふふふ」

 

 

すげぇ。シスコンが釣れた。

 

 

「私、メイド服が好きでして…」

 

 

日菜先輩を全力で抑えている紗夜さんを尻目に1人語り出す林さん。

 

 

「…なるほど」

 

「えぇ…。いつか氷川さんにはメイド服を着てもらいたいと思っていまして」

 

「紗夜もよく承諾したねー」

 

「そうですね…。確かに初めは反対されましたが…(とてつもなく納得のいく素晴らしい説明をぺちゃくちゃ)…というプレゼンの末、実行に踏み込んだのです。流石私」

 

「……ほぇー」

 

 

強いぞこの人。あの紗夜さんを自身のメイド服愛で丸め込んだのか。あの人でも論破とかされるんだな。

 

 

「あぁそうでした。すみません…美人を前にするとつい熱くなってしまいまして。ご注文をお伺い致します」

 

「お、おぉう。……えと、どうします?」

 

「うーん。アタシはカフェオレと…パンケーキのチョコソース♪」

 

「あこはねー。オレンジジュースとね、ん〜…あ! このミニパフェがいい!」

 

「…私はココアだけでいいわ」

 

「佳夏は?」

 

「俺は……コーヒーとパンケーキのストロベリーソースで」

 

「かしこまりました。少々お時間いただきます。ところでお2人も着てみません? メイド服」

 

「え? あ、アタシ?」

 

「興味無いわ」

 

「あはは…アタシもちょっと恥ずかしいかなぁ〜…って」

 

「そうですか。それは残念」

 

 

去り際にリサ先輩と友希那先輩を勧誘していく。何となくあの人の人となりが分かってきたような気がするな。

 

 

しかし先輩2人のメイド姿も見てみたいものだ。林さんに何とか説得して貰いたい。お願いしますよ。

 

 

「紗夜が秘密って言ってた理由はコレかー」

 

「っすね」

 

「別に隠すことでも無いと思うのだけれど」

 

「紗夜はこういうの慣れてないんだよ」

 

「そう」

 

 

だろうな。お堅い紗夜さんの事だ、「風紀がー」みたいな事を言って反論したのだろう。まぁ結果言いくるめられた訳だが。

 

 

「でも紗夜さんちょー似合ってますよ」

 

 

それな。ほんとそれな。

 

 

「そうだよね! おねーちゃん可愛いよねっ」

 

「日菜! 話しはまだ終わってないわよっ」

 

「あれ? ヒナは結局着なかったの?」

 

「着させてくれなかったの。せっかくおねーちゃんとお揃いなのに…」

 

「……っ」

 

「……まぁいいじゃないですか。紗夜さんは日菜先輩をもてなしたいんですよ。お姉さんの厚意に甘えましょう」

 

「………別に、私はそんな…//(…………あなたって人は…)」

 

「〜っ。おねーちゃーんっ!!」

 

「な…っ。抱きつかないでっ!」

 

 

さよひなは尊い。

 

 

「…………」

 

 

紗夜さんは()()()()()ものの、思ったより姉妹間の反発は感じないな。あまり2人がセットになっている状況に立ち会っている訳では無いからだろうか。

 

 

紗夜さんの中では葛藤の真っ最中、なのかもしれない。

 

 

くっついている2人を見ていると、そう感じる。

気のせいかもしれないけど。

 

 

「もう……私は仕事に戻るわ」

 

「えーもうちょっと話そうよー!」

 

「仕事があると言っているでしょう。林道さんに構ってもらいなさい」

 

「ちょっと」

 

「ぶー。しょーがないかー」

 

 

何故か日菜先輩を押し付けられる。俺にどうしろと?

 

 

紗夜さんは応えるはずもなく接客へ戻っていく。

 

 

「まぁいいや。おねーちゃんの仕事姿はバッチリ抑えるもんねー」

 

 

どういう意味だろうかと日菜先輩に目線を向けると、いつの間にか馬鹿みたいにデカい一眼レフカメラを携え、レンズ越しに紗夜さんをロックオンする。おたえが持っていたカメラより数段デカイ。

 

 

というか、ねぇ、ソレマジでどっから出してきたの? 林さんと似たようなことしてるけど、さっきまでそんな質量を持った物荷物にあった? 無かったよね?

 

 

「ヒナは紗夜のこと大好きだねー」

 

「とーぜん!」

 

 

ガンスルーだと。

 

 

カシャカシャと音を立てながら紗夜さんを連写する日菜先輩を眺めていると。

 

 

 

 

 

「………お………………………待たせ、致し……………ました……////」

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

忘れていた訳では無い。ただ彼女が接客に回っているとは思わなかった。

なんせあの人見知りの彼女だ、まず本人からやろうとは言わないだろうし、誘われても断るものだと思っていた。

 

 

だがしかし。

 

 

目の前にはトレイに飲み物やらパンケーキやらを乗せてやってきた燐子さん。羞恥心からか、小刻みに震え、食器がカチャカチャと音を立てる。

 

 

素晴らしきかなメイド服。

 

 

メイド服とは奥ゆかしさの体現とまで言われているが正にその通り。物腰柔らかな燐子さんにベストマッチな雰囲気を全面に押し出している。しかも珍しく髪型を長めのおさげにしているので新鮮な印象も相まってもう………凄いんだから。

 

 

目をキュッと閉じながらこれでもかと顔を赤く染める。

 

 

恥ずかしいのだろう。

 

 

だがそれがいい。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「(カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ)」

 

「今日来てよかった」

 

 

俺は無意識に手を合わせる。

 

 

「りんり〜んっ!!」

 

「うっそ燐子ってば超似合ってんじゃん!! 可愛い〜☆」

 

「えぇ、そうね」

 

「〜〜〜っ//////」

 

「ぅお危なっ」

 

 

他メンバーの賛美に耐えられなかったようで、燐子さんは手に持っていたトレイを離してしまう。とっさに片手でキャッチした俺を誰か褒めてくれ。

 

 

俺はなんとかおさげで顔を隠そうとしている燐子さんを眺めながらテーブルに飲み物や料理を広げていく。仕草がいちいち可愛いんだがこの人。

 

 

「おねーちゃんと同じくらい興奮する…」

 

「後でその写真くださいね」

 

「おっけー♪」

 

 

やったね。痛っ

 

 

「え? 誰すか、俺の足蹴ったの」

 

「さぁね〜」

 

「…………」

 

 

いや絶対リサ先輩じゃん。

 

 

「先輩も写真欲しいなら言えばいいのに」

 

「…………」

 

「ぁ痛っ…痛いって」

 

 

しばらく蹴られ続けた。

 

 

「りんりんちょー可愛いよ! あこビックリしちゃった!」

 

「あ……ありがと、あこちゃん……///」

 

「えぇ、似合っているわ隣子」

 

「友希那さん……!」

 

「そうでしょうとも」

 

「うわまた出た」

 

 

燐子さんの後ろから再び林さんが登場。メガネを光らせながら「ふふふふ」と怪しく微笑んでいる。またこの人の手引きか。ありがとうございます。

 

 

「やはり私の見立て通り。素晴らしい着こなし具合です」

 

「は、林さん……っ。やっぱり、わたし…には……恥ずかしすぎて………//」

 

「なりません。私の目の保養になってください」

 

「えぇ……?」

 

 

本音だだ漏れ。いやまぁ分かるけども。

 

 

「どこへ行くのですか白金さん。まだ大仕事が残っていますよ」

 

「え…?」

 

 

そそくさとその場から逃げようとする燐子さんの腕をガッチリ掴んでから林さんはそんなことを言う。まだ何かさせるのかと燐子さんの表情が陰るが、そんなのお構い無しとばかりに後ろからスっとストロベリーソースの容器を取り出す。

 

 

もうツッコまないからな。

 

 

「さぁ。コレで彼のパンケーキに文字を書くのです」

 

「……………………ぇえ…っ!?」

 

 

珍しい燐子さんの大声。

 

 

「そうですね……。ここは無難に『萌え♡』でどうでしょうか」

 

「無難とは」

 

「む、無理です無理です無理です無理です無理です無理です…っ」

 

「うわぉ。燐子が全力で首振ってる」

 

「燃やすのかしら」

 

 

見当違いな先輩は置いておくとして……だ。

萌えって…。そういやここメイド喫茶か。

 

 

書いてくれないのかな。

 

 

「書けませんか? 草冠に"明るい"で『萌』ですよ」

 

 

多分そういう事ではないだろ。

 

 

「ご、ごめんなさい…! わたしには…無理…ですっ」

 

「それは……困りましたね、私が」

 

「あんたがかい」

 

「あたしは見てみたいなー」

 

「アタシもちょっと……あはは」

 

「りんりんが書いてくれるならあこもパンケーキにすればよかったぁ…」

 

「せめて『♡』だけでも」

 

 

燐子さん劣勢。林さんも捲し立てるように「さぁ、さぁ」と催促する。

どうする燐子さん。

 

 

「ちなみにあなたはどうですか?」

 

「?」

 

 

林さんが俺に聞いてくる。

 

 

「書いて欲しい、ですよね??」

 

「……え、ぁはい」

 

 

有無を言わせぬ圧を感じ、つい頷いてしまった。

 

 

「だそうですよ」

 

「いやあの、無理しなくて大丈夫ですよほんと…」

 

「…………///」

 

「…? 燐子さん?」

 

 

すると、ゆっくりとストロベリーソースを受け取った燐子さんは擦り寄るような足取りで俺の隣までやってくる。

 

 

マジでやってくれるんですか。

 

 

妙に高鳴る動悸を悟られぬようジッと待っていると。小さく「失礼……します…」と呟いた燐子さんの顔がすぐ横までやってくる。

火照った顔の熱が感じ取れるレベルの至近距離。

 

 

そして、慎重にストロベリーソースでパンケーキにハート型を書いていく。頑張れ燐子さん。何故だか無性に応援したくなってくる。

 

 

あと少し。もうあと少しでハート型が完成する、という所で俺はふとチラッと横目に燐子さんを見ると。

 

 

「「………」」

 

 

燐子さんとバッチリ目が合う。

 

 

互いの髪と髪が触れ合う程のゼロ距離。瞬間、燐子さんの手が止まり、茹でダコの如く顔を朱に染め上げていく。

 

 

して、羞恥心が燐子さんの許容量を超過した。

 

 

「━━━━━ヒュッ」

 

 

ドタンッ

 

 

「りんりぃぃんっ!!」

 

「燐子ぉ!?」

 

「…あら」

 

「あちゃー」

 

「これはこれは」

 

「やっべ」

 

 

白金燐子。気絶。

 

 

「りんりん死なないでぇ!」

 

 

死んでない死んでない。目ぐるんぐるんに回してるけど。

 

 

「流石にやりすぎましたかね」

 

「燐子はよく頑張ったわ」

 

「佳夏が変なことするからじゃなーい?」

 

「佳君がジロジロ見るからー」

 

 

なんか俺のせいにされてる。いや見てたけども。そんな露骨だったかな。

 

 

とりあえず横で伸びてる燐子さんに「すんませんした」と謝っておこう。聞こえてないと思うけど。

 

 

燐子さん、奥の休憩所へ搬送完了。

 

 

「しかしコレで人員が減ってしまいました」

 

「……ごめんなさい」

 

 

俺をジロジロと眺めながら林さんは言う。

 

 

これだけ繁盛している状況で欠員は確かにまずい。補填は効くのかもしれないが、非番の人間を働かせるのは気が引けるだろう。なんせ文化祭だし。

 

 

「………? なんすか…」

 

 

何か言いたげな目線で林さんは俺を見つめ続ける。

 

 

怖い。何コレ、トキメクところ?

 

 

「ここは是非ともあなたに代役を任せたいところですね」

 

「…………は?」

 

 

なんだって?

 

 

「えーなになに! 佳君メイドになるの?」

 

「ぶふっ」

 

「……ん"ふふっ」

 

「何笑ってんすか」

 

 

Roseliaの先輩2人は恐らく俺のメイド服姿を想像しているのだろう。ピクピクと肩を震わせているのが見て取れる。そんな面白いかな俺のメイド服姿。予想に反して似合ってるかもしれないでしょうが。

 

 

ぁいや着ないよ?

 

 

「メイドになる必要はございません」

 

「? じゃあ俺に何をさせようと?」

 

「執事です」

 

「………」

 

 

……なるほど。そう来たか。

 

 

「白金さん同様、あなたには接客を担当して頂きたいです。簡単ですよ。お客様を案内し、注文を承って、媚びを売れば良いのです」

 

「最後…」

 

 

さも簡単に言うけれど、決して容易な事じゃない。コミュ障を舐めないで欲しい。

 

 

それこそリサ先輩や友希那先輩に任せたい話だろう。さっき断ってたけど。

 

 

……まぁ、燐子さんの件にはそれなりに責任を感じている。何かしらの形で償いのようなモノをとれればよかったのだが、執事と来ましたか。

 

 

「もちろん。このクラスの…この学校の人間でないあなたに頼むのは大変申し訳ないのですが。バイト代のような物は用意しましょう。このメイド服とか。要ります?」

 

「要らないです」

 

「そうですか」

 

「いーじゃんやれば」

 

「CiRCLEで接客やってるんだしさ♪」

 

「……そりゃあまぁ、してますけど」

 

 

それとこれとはまた訳が違うような気もするが。

 

 

………仕方ないか。燐子さんが退場したことで、このクラスの負担が増えるのはできれば避けたい。俺が肩代わりできるなら、やるべき………なのかな。

 

 

「分かりました。俺で良ければ……」

 

「ふふふ。ありがとうございます。ではコチラに」

 

「頑張ってね!」

 

「うす」

 

 

俺は林さんに連れられて休憩所へ。……燐子さんは相変わらず伸びている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コレを着てください」

 

「……つか、なんで執事服(タキシード)なんてあるんすか。ここメイド喫茶なんじゃ」

 

「こんなこともあろうかと」

 

「思わんでしょ」

 

 

着替え完了。

 

 

「……サイズもピッタリですね」

 

「何故」

 

「私の弟と体型が近いので良かったです」

 

「弟さんのですか?」

 

「えぇ、この執事服は」

 

「へぇ(なんでそんな物持ってきたんだか)」

 

「後は髪と……その頬の傷ですね」

 

「…あぁ……。すみません、身窄らしいですよね」

 

「大丈夫です」

 

「?」

 

「ファンデーションって200色あんねん」

 

「は?」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「モカおっそーい!」

 

「いやはや〜申し訳ない。まさか目覚ましが電池切れとは〜」

 

「昼まで寝てるなよ……」

 

「あはは…」

 

「よーし。揃ったし行くか」

 

「花女の文化祭ってどんなんだろー!」

 

「パンあるかな〜」

 

「花音さん達は占いやるって言ってたね」

 

「……」

 

「どしたの蘭〜。暗い顔してー」

 

「別に…なんでもない」

 

「……そ〜(さては蘭パパと何かあったかな〜…)」

 

「あ、リサ先輩から連絡来てる」

 

「なんて?」

 

「……『2-Bに来てみて!』だって」

 

「紗夜さん達のクラスだね」

 

「何やってるんだろ」

 

「行けば分かるよ! よーしっ、しゅっぱーつ!」

 

 

移動。

 

 

終了。

 

 

「そしてとーちゃーくっ!」

 

「はー賑わってるなぁ」

 

「……今日佳夏は来てるの?」

 

「来てるっぽいけど」

 

「連絡取れないんだよね」

 

「また?」

 

「今度は何してるんだか」

 

「モカちゃんお腹空きました〜」

 

「あ! 紗夜さんのクラス、メイド喫茶なんだ……ってメイド喫茶ぁ!?」

 

「す、凄い気になる…!」

 

「なら早く行こ」

 

「多分佳夏もそこにいるだろ、多分だけど」

 

「ついでに何か食べよ〜」

 

「……………………………着いた」

 

「うひゃぁ……並んでるなぁ…」

 

「人気なんだね…」

 

「……なんかこの看板」

 

「ん? 『2-B メイド喫茶!』…。なんか変か?」

 

「ほら、その横」

 

「…………『執事もいるよ♪』」

 

「なんだか後から付け足した感が凄いんだけど」

 

「花女って羽丘(ウチ)と違って女子校でしょ? 執事って…」

 

「男装じゃないか?」

 

「……ん〜……なんだかモカちゃんオチが見えてきたのです」

 

「どういう事?」

 

「それはお楽しみにとっておこっかな〜。特にひーちゃんには」

 

「えぇ??」

 

「……とりあえず並ぼ」

 

「「「「おー」」」」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「いらっしゃ……じゃなかった…。……ん"ん……………………おかえりなさいませ。お嬢様方」

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………(ほーらやっぱり)」

 

「━━━」

 

 

リサ先輩からの「もうすぐひまり達も来るよー☆」と言う言葉通り、上原達Afterglow組もやって来た。

 

 

来たのだが。

 

 

「……? どうした」

 

 

5人とも入口に突っ立って動かない。あまりそこで立ち止まられると困るんだが。入らないのか?

 

 

「…………何やって……というか何その服」

 

 

美竹が聞いてくる。

 

 

「かくかくしかじかでな、助っ人として働いてる。この服は借り物。馬子にも衣装って感じだがな」

 

 

いや、見てくれすら怪しい。鏡は見ていないが、他の人の反応を見る限りあまり良くは無さそうだ。さっきから視線は感じれど、皆俺が視線を合わせるとすぐそっぽを向く。

 

 

特にリサ先輩。

 

 

「おぉ……似合ってるな。佳夏」

 

「世辞はいいよ」

 

「(お世辞じゃないんだけどな)」

 

「(……カッコイイ)」

 

「………」スチャ

 

 

羽沢よ。無言でスマホを構えないでくれ。

 

 

「今来たばかりか?」

 

「そーでーす。午前中は蘭が華道の予定があったから午後から来たんだ〜」

 

 

なるほど。わざわざ1人のために合わせるとは、良い幼馴染だ。

 

 

ところで。

 

 

「━━━」

 

 

さっきから上原が俺を見つめながら硬直しているのだが。どうした?

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

「━━━」

 

「ひーちゃん?」

 

「ひ、ひまりちゃん…?」

 

「━━━」

 

「…………………………………気絶してる……」

 

「……は?」

 

 

なんで?

 

 

「(やっぱひーちゃんはこういうのに弱いよね〜…)」

 

「(佳夏の見た目がどストライクすぎたのか…)」

 

「(分かるよ…ひまりちゃん…っ!)」

 

「…………佳夏。とりあえず空いてる席ある?」

 

「あ、あぁ……。こっちだ」

 

 

ちょうど先輩達のいる席の近くが空いているのでそこへ誘導する。

ちなみに上原は俺と宇田川で燐子さんと同じく休憩所へ搬送した。2人仲良く伸びている。

 

 

「紗夜さん…! とても似合ってますっ!」

 

「は、羽沢さん…// あまり見ないでくださいっ」

 

「あ! おねーちゃん! やっと来たー」

 

「おーあこ。お待たせ」

 

「リサさんと日菜先輩やっほ〜」

 

「やほーモカ☆」

 

「おねーちゃんのクラスへようこそー♪」

 

「ここにいたんですか、湊さん」

 

「えぇ。こんにちは」

 

「…どうも」

 

「ところでリサさ〜ん。()()ってリサさんの差し金ですかぁ?」

 

「んーん。このクラスの人の推薦? まぁ後押しはしたけど」

 

「その甲斐はあったよね〜! 今の佳君るん♪って来るよっ」

 

「リサさんも何気にああいうの好きそうですよね〜」

 

「えぇ?! そんなことは……なくもない……けど…//(あれは多分佳夏だからかなぁ〜…)」

 

「記念に撮っとこ〜」

 

「(わ、私も……!)」

 

 

なんかめっさ撮られてる。体育祭同様笑いものにでもするつもりだろうか。

恥ずかしいもんだな…。紗夜さんの気持ちが今分かった。

 

 

「恥ずかしくてもやるしかありません。仕事ですから」

 

「……っすね。さすが紗夜さんだ」

 

「………それでも、林道さんが手伝ってくれてよかったわ。少し気が楽になります」

 

「まぁ……。それなら良かったですよ…」

 

「ふふ………ではコレを1番テーブルまで」

 

「了解」

 

 

なんだか紗夜さんが心做しか嬉しそうだ。気が楽とは、そう思ってくれるなら助力に入った甲斐もある。

 

 

助っ人というからにはプラスになる仕事をしなければな。

 

 

「執事さ〜んっ」

 

「お呼びですよ」

 

「……仕事してきます」

 

 

俺は早速注文を承りに、青葉達の席へ向かう。

 

 

しかし、なんでわざわざ"執事さん"と指名するのだろうか。近くには別のメイドさんもいるだろうに。

 

 

まぁきっと面白がっているだけだとは思うがな。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「夢じゃなかった!!」

 

「ぁ起きた」

 

 

青葉達からの注文の品(全員パンケーキ)を届けている最中に、先程まで意識を手放していた上原と合流する。おはよう。

 

 

「ひーちゃんおつ〜」

 

「やっと起きたの?」

 

「起きたよ! もう色々びっくりしたんだからね。佳夏が執事やってるし、起きたら隣で燐子さんが寝てるし!」

 

 

あの人まだ起きないのか。

 

 

「まぁ落ち着けってひまり、な? とりあえず座れ座れ」

 

「ひまりちゃんの分のパンケーキ頼んでおいたよ。ちょうど来たみたいだし、タイミングはバッチリだね!」

 

「つぐ〜! ありがとうっ」

 

 

若干涙目になりながら足早に用意した椅子へ着席。

 

 

そこへ俺が上原の分のパンケーキを用意する。

 

 

「お待たせ致しました、お嬢様」

 

「お、おぉ、ぉお嬢様…っ!?///」

 

「そう言う決まりなんだ」

 

 

恥ずかしいんだけどな。林さんがやれって……。

 

 

「ていうか……、なんで佳夏はそんな格好してるの?」

 

「かくかくしかじか」

 

「な、なるほど。だから燐子さんが隣に……」

 

 

そう言いながら俺の姿を上から下へ、下から上にまじまじと眺める。なんだよ。

 

 

と思いきや、今度は口を手で抑えながら顔を反対側まで逸らす。まるで今にも吐きそうなモーション。震えているぞ。

 

 

…………………………そんなに似合ってないかなぁ。

 

 

「(似合いすぎててヤバい…っ!!!!)」

 

「「「(分かる)」」」

 

 

何人かがウンウンと頷いている。なんなのさっきから。

 

 

「けー君けー君」

 

「はいはい」

 

 

青葉が執事服の袖を優しくひっぱりながら呼びかける。

 

 

「モカちゃんのパンケーキに文字を書いてほしいなぁ〜。リサさんにやったみたいにさ」

 

「……あぁ」

 

「何そのサービス! 私も私もっ」

 

「わ、私も! ……いい、かな?」

 

 

おうおう。羽沢の頼みとあれば断ることなどできん。断ろうものなら切腹物の大罪だ。

 

 

「もちろんだ」

 

「…!」

 

 

守りたい、この笑顔。

 

 

ちなみに上原達が来るまでリサ先輩にも同じ要望があった。チョコソースで文字を書くってめちゃくちゃ大変なんだな。3回くらい練習させてもらった。

 

 

「リサさんは何て書いて貰ったんですか?」

 

「ぅえっ? えっと〜……//」

 

「…?」

 

「それはナイショで…!」

 

「え〜!」

 

 

「気になるぅ!」と声を上げる上原。まぁ内緒にしたがる理由も分かる。

 

 

「佳夏に聞けばいいじゃないか」

 

 

宇田川の提案にその場にいた殆どが俺に目線を向ける。……え? リサ先輩なんて? 何? 「言っちゃダメ」?

 

 

先輩が口パクで何かを訴えようとしている。顔を赤くしながら、わりと必死に。

 

 

…………。

 

 

「『Love』って書いた」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「………………『Lov「2回も言わなくていいよっっ!!!//////」

 

 

言うよね。

 

 

「あぁー! リサさんあぁー!」

 

「そ、そういうの…! 良くないと思いますっ」

 

「リサさ〜ん。ちょっとお話ぃ〜」

 

「だから『やめておいた方がいい』と言ったでしょう」

 

「リサちーってば、『練習だよー☆』とか言って3枚も書かせてたよねー」

 

「しかも1枚は佳兄のパンケーキだし…」

 

「あぁぁあ! 佳夏のバカっ!!」

 

 

酷い言われようだ。先輩、俺だって結構恥ずかしかったんですよ? まぁおかげでソースで文字を書くのには慣れたが。もう御茶の子さいさいってヤツよ。

 

 

青葉、上原、羽沢の強い要望により、3人にはリサ先輩と同じように文字を書く。宇田川と美竹は書かなくていいとの事だったが、せっかくだからと、小さく「♡」を書いてやった。我ながら綺麗に書けたな。いい仕事した。

 

 

美竹はともかく、宇田川の照れ顔という珍しい物も見れたしな。よきかな。

 

 

「ね、ねぇ佳夏」

 

 

? 今度はなんだ。

 

 

「……その。"あ〜ん"とかもしてくれるの…?」

 

 

上原は上目遣いでおずおずと聞いてくる。ちくしょう可愛いアングルだな。

 

 

だが残念。

 

 

「そういう"サービス"はおひとり様1回までとなっております」

 

 

このクラス()のルールだ。上原達にはもう"パンケーキに文字を書く"というサービスで締切である。はいそこぶうたれない。

 

 

「あたしは佳君にしてもらったよ。あ〜んって」

 

「あこもしてもらったー」

 

 

そういやそうでしたね。

 

 

「るん♪って来たよねぇ」

 

「(ソッチにすればよかったかもしれない…っ!)」

 

「上原のあの顔は……何?」

 

「……さぁ」

 

 

渋い顔をしている。シワができるぞ。

 

 

それから10分程。Afterglowのメンツもパンケーキを食べ終わり、「長居するのも他のお客さんに悪いし、そろそろ出よっか」というリサ先輩の一言でRoselia組も合わせて教室を出ることになった。

 

 

「すみません、先輩…。結局あんまり文化祭回れてなくて……」

 

「ううん、いーのいーのっ。しょうがないって!」

 

 

燐子さんが戦力外の現状を放置はできない。故にもう少しだけここに残ることにした俺だが、せっかく先輩達に誘われて楽しもうと思っていた文化祭を台無しにしてしまった感が否めず、酷く申し訳ない気持ちになる。

 

 

目の前のリサ先輩の表情も、心做しか影を生んでいる。

 

 

「埋め合わせはします」

 

 

これはせめてもの償いからでた言葉だ。先輩にこんな顔させたくなんかないからな。

 

 

「ん〜…。あっ」

 

 

俺の言葉に暫し頭を悩ませた先輩は、小さく一言漏らした後に笑顔で言う。

 

 

今度デート1回ね♪

 

 

先輩からのデートのお誘い。少し心踊っている俺がいた。

 

 

「俺で良ければ」

 

「んふふ。約束だぞっ」

 

「リサちー? 早く行こーよ〜」

 

「オッケー! それじゃあね佳夏☆」

 

 

ウィンクで別れを告げる先輩。可愛い。そんな先輩とのデートの約束をしてしまった。えぇ、荷物持ちでもなんでもしましょうぞ。

 

 

デートの約束にこじつけるとは。今日は運がいいんだか悪いんだか。いや、悪いだろ。なんせ占い最下位だからな。……だが、なんにせよ今日1日が忙しなく、かつ上手く進んでいないようには思う。予想外な展開ばかりだ。

 

 

……そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━予想外な展開ばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめてください…っ!」

 

 

 

 

 

拒絶する声。

 

 

その場にいた殆どの人間の視線がそこに集まる。

 

 

「ぃいじゃん。俺、君と仲良くなりたいんだよ」

 

「手を離してくださいっ」

 

「えー? そうすると君逃げるっしょ? ねね、連絡先教えてよ」

 

「お断りします!」

 

「つれないなぁ。……あ! もしかして恥ずかしいの? 大丈夫だって。俺近くに住んでんだけどさ。文化祭終わったら遊ばね? ウチなら━━━━━」

 

 

恐らく高校2、3年といったところか。嫌に目立つピアスを付けた茶髪の色男が紗夜さんの腕を掴んでいる。

 

 

この公衆の面前でナンパとはいい度胸だ。英国の男はもっと紳士にナンパするぞコラ。

 

 

全身を使って拒絶の意志を見せる紗夜さん。それを気にもせずに言いたいことをペラペラと喋る男。

 

 

不快だ。不愉快だ。

 

 

それに……

 

 

「━━━━」ガタッ

 

「ヒナっ。ステイ。ステイだよ〜…!」

 

 

妹が黙ってないぞ。リサ先輩が抑えてくれてなきゃなにしでかすか…。

 

 

うっひゃー……日菜先輩怖っ。目の輝きが失せている。照明の反射すら見えないんだが…。物理法則をもねじ曲げる怒気をヒシヒシと感じる。

 

 

Afterglowのメンバーも不快感丸出しだ。宇田川が特に怖い。

 

 

…………まぁ。黙ってないのは俺も同じなわけで。

 

 

こういうお客様には早めにご退場願おう。

 

 

「(林さん)」

 

「(わかっています)」

 

 

アイコンタクト後、林さんが教室から出ていく。

 

 

日菜先輩の限界が来る前に場を納めなければ。

 

 

「お客様」

 

「……あ?」

 

 

男性のお客相手には"ご主人様"呼びがルールなのだが、この男には呼ぶ価値を感じない。"お客様"でも譲歩した方だ。

 

 

俺は未だ紗夜さんの手首を掴んでいる男の腕を掴む。俺の存在に気付いた男は分かりやすく敵意を見せてきた。

 

 

「店員への過度な接触は御遠慮願います」

 

「は? 何様だよお前」

 

 

逆ギレ。その言葉、そっくりそのまま返しましょう。

 

 

「俺はその子と仲良くなりたいだけなんだけど。邪魔だから引っ込んでくれない?」

 

「ナンパは結構……ですが、店内ではお控えください。他のお客様にもご迷惑がかかりますので」

 

「何命令してんだよ。"客は神様"って習わなかった?」

 

 

出たな暴論。

 

 

「ここメイド喫茶だろ? 神に奉仕してなんぼでしょ」

 

「お言葉ですが、コチラにもお客様を選ぶ権利がございます。どうぞ、お引き取りください」

 

「あ"? 喧嘩売ってんのかよテメェ」

 

「いえ、当店はパンケーキがオススメです」

 

「……」ガタッ

 

 

やべ。ついアツくなって余計なことを……。

 

 

男は立ち上がった。俺、殴られるかな。

互いに部外者同士の争いは避けたい。気を付けよう。

 

 

「殺すぞ」

 

「……」

 

 

ぬるい殺気だ。舐めてんのか。

 

 

「お代は要りません。どうかお引き取りを。出口はあちらです」

 

「……っ」

 

 

そろそろ紗夜さんを掴む手を引き離したい俺は、男の腕を強く握り締めた。握力にはそれなりに自信がある。分かりやすく男は顔を顰め、紗夜さんを掴んでいた手を離した。

 

 

紗夜さんが俺の後ろに隠れる気配を感じる。

 

 

「……! テメェ…っ」

 

「これ以上は教師を呼びます。〇■高校にも連絡致しましょうか?」

 

「…………なっ…?!」

 

 

ビンゴ。身長は俺より高い。恐らく年上で確定だ。そしてここらに住んでいて羽丘以外の共学校はそこしかない。羽丘の2年以上に男子はいなからな。

 

 

脅しだが、それはお互い様だろう。

 

 

「……お引き取りを」

 

「…………っ」

 

 

男は辺りを見渡し、ようやく現状を理解する。

 

 

周りには自身を見つめる目という目。軽蔑や敵対…中には殺気をも孕んだその視線(プレッシャー)に、はたしてこの男は耐えられるだろうか。

 

 

否である。

 

 

「…………ひっ」

 

 

日菜先輩の方を向きながら小さく悲鳴を上げた男。そら見た事か。

 

 

畳み掛ける。

 

 

「もう一度申し上げます」

 

「…………(なんだ…)」

 

「お引き取りを」

 

「…………(なんだその目は…っ!)」ゾワッ

 

 

男は後ずさる。怯えに塗りたくられた瞳が俺を見つめる。

 

 

逃げたいだろう。逃げ道はあるぞ。

俺は誘導するように出口のドアの方向へ手を添える。

 

 

お帰りの際はあちらから、だ。

 

 

「……くっそ…っ!」

 

 

そう吐き捨てた男はおぼつかない足取りで教室を出ていく。

 

 

はずだった。

 

 

「君だね」

 

「……へ」

 

「少し話があるんだ」

 

「━━━」

 

 

2人の男性が待ち構えていた。その後ろには林さん。男性教師を呼んできてくれたようだ。

 

 

男は顔を青くしながら教師に着いていく。

 

 

いってらっしゃいませ(二度と来るな)

 

 

俺はそんな男をマニュアル通りの挨拶で送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一件落着のようですね」

 

「ありがとうございます。林さん」

 

「それを言うのはコチラです。ありがとうございます」

 

 

次第に先程までの騒がしさが戻ってくる中で林さんとそんな会話をする。

 

 

「面倒事にならなくてよかった」

 

「はい…。氷川さんは?」

 

 

林さんの問いに俺は目線で答える。

 

 

「おねーちゃん大丈夫?! 変なことされてない?? しょ、消毒っ!」

 

「そ、そこまでしなくていいわよっ。落ち着きなさい日菜…」

 

「だ、だってぇ〜…!」

 

 

見つめる先には紗夜さんに抱きつく日菜先輩の姿が。まぁそうなるな。

 

 

「あの手の輩について想定しておくべきでした…」

 

「……まぁ、過ぎたことですし。林さんの対応は間違ってなかったと思いますよ。それに……すみません」

 

「? …何故謝るのです」

 

「あの男に「お代は要らない」って言ってしまったので」

 

「……なるほど」

 

「後で俺が立て替えます」

 

「そんな…。お気になさらないでください。ここまでさせた上にお金など取れません。バチが当たると言うもの」

 

 

その後またしても深々と感謝された。少しばかり照れくさいが、何も無くて本当によかった。

 

 

ふぅっと一息ついたところで。

 

 

「佳君っ! ありがとね。おねーちゃんを助けてくれて!」

 

「……あぁ、いえ」

 

 

今度はコッチに来た。忙しい人だな。

 

 

まぁ半分は日菜先輩に手を出させない為だったからな。宥めてくれていたリサ先輩には感謝だ。

 

 

リサ先輩に視線を送るとサムズアップで応えてくれた。ありがとうございます。

 

 

「さっきの佳君すっごくるるるん♪って来たよ!」

 

「は、はぁ。うげぇっ」

 

 

るるるん来たらしい日菜先輩は突然に抱きついてきた。鳩尾辺りに鈍い痛みがやってくる。苦しい。

 

 

「コレはお礼っ」

 

「……ぁ…あ"りがとうございま"す(?)」

 

 

別にお礼なんていい……というか、こういうのはお礼にしない方がいい。離れてほしい。目立ってる。いたたたたたた。締めすぎ締めすぎ。なんで離れへんねん。

 

 

引き剥がそうにも引き剥がせない日菜先輩に苦戦していると。その先輩にしょっちゅう引っ付かれている姉がやってきた。

 

 

「日菜」

 

「……はぁーい」

 

 

……えぇ…? 今ので何が分かったんだ? 日菜先輩は「仕方ないかぁ」と離れていく。なんでや…俺が言っても離れないのに。

 

 

「ありがとうございます。林道さん」

 

「…いえ。無事でなにより」

 

「気が動転してしまって……冷静な判断が出来ていませんでした。…流石林道さんです」

 

「……あ、ぇと。……そんな」

 

「ふふ」

 

 

アレかな。俺って紗夜さんに正面から向き合うのに慣れてないんだろうか。なんか落ち着けない。無意識に目を逸らしてしまう。

なんか笑われたし。

 

 

「……林道さんがいなければどうなっていたことか」

 

「あたしが(自主規制)してた」

 

「アイドルの自覚持って…」

 

「あははは」

 

 

怖っ。笑ってないだろそれ。

 

 

「なにはともあれ良かったですよ」

 

「はい…」

 

「うんうん! カッコよかったよ佳君っ」

 

 

やめて欲しい。照れるから。

 

 

「(佳君照れてる♪ なんか可愛いなぁ…!)」

 

「(ちょっと可愛い…)」

 

 

紗夜さんまでなんか俺の顔を見つめている。なになに。なにこれ。顔が熱くなる。

 

 

「おねーちゃんもそう思ったでしょ?」

 

「え、えぇ……その。……カッコよかったですよ…//」

 

「…………どうも……」

 

 

何が"どうも"だ。もっとシャッキリしろよ。

 

 

紗夜さんもあまり照れないでほしい。こっちまで恥ずかしさに拍車がかかる。

 

 

「…………それと、日菜も」

 

「…え?」

 

「怒ってくれて、……その…ありがとう」

 

「…………〜〜っ!」

 

「……(おぉ…)」

 

 

……やっぱり。何かが変わっている気配。

 

 

恐らく、紗夜さんの中で何かが大きく変わろうとしている。ような気がする。

 

 

………だといいな。

 

 

「佳くうぅぅんっ!!!」

 

「うぐっ」

 

 

だからなんで抱きつくねん。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石だなぁ佳夏のヤツ」

 

やっぱり…………」

 

「? どうしたんだひまり」

 

「ううん。なんでもない!」

 

「…??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「お化け屋敷楽しかったぁ!」

 

「うんっ」

 

「二度と行かねぇ……」

 

「有咲が1番楽しんでた」

 

「んなわけねぇだろ!」

 

「あははは!」

 

 

ゆり先輩達のお化け屋敷から出た私たち。5人揃って遊ぶなんて初めてで、はしゃいでいるのが自分でも分かる。

 

 

楽しい。

 

 

こんな時間はCHiSPAの時以来。何だかとっても懐かしく感じてしまう。

 

 

これからはこんな時間がもっと送れるといいな。

 

 

「何だか嬉しそうだね、さーや」

 

「……んふふ。そう見える?」

 

「見える!」

 

 

香澄が言うのだからきっとそうなのだろう。

 

 

「さーやの笑顔がね。なんだかピカピカしてる」

 

「……」

 

「楽しそうな沙綾ちゃんが見れて良かった」

 

「見たことないくらいはしゃいでたもんな」

 

「ずっと笑顔だもん」

 

「そ、そんなに……?//」

 

 

分かりやすすぎたかな…。それだけこの時間に夢中だったのかも。

 

 

「ん~~っ! よーっし! まだまだ楽しもう!」

 

「お前ははしゃぎすぎだ」

 

「だってだって。さーやが来てくれて嬉しいんだもんっ!」

 

「声でけぇよ」

 

「あははっ」

 

「次はどこ行こっか」

 

「沙綾は行きたいとこある?」

 

「えっと………」

 

 

行きたい所か……。

 

 

「新メンバー記念なんだし! さーやが決めてっ」

 

「う、うん…!」

 

 

何だか主役みたいな扱いをされているからかな、慣れない感じが否めないけど……。少しくらいなら我儘を言ってもいいんだよね。

 

 

りみりんの持っていたパンフレットを見せてもらう。映画研の上映会とか2年生は占いをやっていたり、行ってみたい所は沢山ある。せっかくなら皆で楽しめる所がいいよね。

 

 

そんなことを考えていると。

 

 

「ねぇ。なんか2-Bヤバいらしいよ!」

 

「え? なになに」

 

 

そんな会話が聞こえてきた。どうやらそれは私だけではないようで、ほかの4人も耳を傾けている。

 

 

「メイド喫茶なんだけど、今、臨時で男子が働いてるんだってぇ!」

 

「ぇマジ?」

 

「マジマジ。しかも結構イケメンって噂」

 

「……行こうっ」

 

 

会話をしていた女子はそのまま離れていき、聞いていた私たちは顔を見合わせた。

 

 

「なんで男子?」

 

「臨時って言ってたろ。なんかあったんじゃねーの」

 

「気にはなるよね」

 

「わ、私も……ちょっと気になる」

 

「…………」

 

 

…………なんだろう。何かが妙に引っかかる感覚。

 

 

不安にも似た何か。いや……期待…?

 

 

「「「「……」」」」

 

「…………………………もしかして、佳夏?」

 

「「「「思った」」」」

 

 

おたえの一言に全員が納得した。佳夏なら有り得そうな感じがした。根拠はないけれど。

 

 

「佳夏君がメイドなの?」

 

「はっ。香澄おまっ、それは…あはははっ!」

 

「見てみたい」

 

「いや、でもさすがに……」

 

「ねぇ……」

 

 

そもそもそうと決まった訳じゃない。知らない人かもしれないし。

 

 

…………でも、もし本当なら。見られるかな、メイド姿の佳夏。

 

 

……ちょっと面白い。

 

 

「よし! 行ってみよう」

 

「マジか」

 

「行けばわかるよね」

 

「沙綾ちゃんが言うなら…!」

 

「決まりだね!」

 

 

私たちは2-Bを目指す。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ。お嬢様方」

 

「………………………………何をやっているのよ」

 

「燐子さんの代理で執事やってます」

 

 

まぁあの人を気絶させたのは俺(ということになっているの)だけど。

 

 

「5名様ですか? 白鷺さん」

 

 

Roselia、Afterglow組が退室してから数分後。白鷺さん達が仲良く来店してきた。

 

 

「ふえぇっ!? どうして林道君が……!」

 

「……私聞いてないっ!」

 

「コレは…なかなか様になってますね」

 

「あぁ…! 佳夏、今の君はとても儚いよ……」

 

「……さいですか」

 

 

松原さんはふえふえと鳴き、丸山さんは目を丸くしながら驚愕の表情を浮かべ、大和先輩は顎に手を当てながら感心する素振りをみせ、瀬田先輩は謎ポーズのまま意味不明な事を仰っている。

 

 

五人五色の反応を楽しみながら、俺は白鷺さん達をテーブルまで誘導する。

 

 

「燐子ちゃんの代わりって……どゆこと?」

 

 

丸山さんが俺の全身をジロジロと眺めながら聞いてきた。

 

 

「燐子さん気絶してるんで。穴埋めとして代役を頼まれたんです」

 

「き、気絶?! 大丈夫なの??」

 

 

多分大丈夫。まだ起きてこないけど。

 

 

「……にしても…うん」

 

「?」

 

「林道君……似合い過ぎじゃない?」

 

「え?」

 

 

そう言いながらスマホを取り出す丸山さん。女子高生ってすぐ写真撮ろうとするじゃん。

 

 

俺はスマホのカメラを遮るように手を添えながら答える。

 

 

「そんなことないです…。さっきだって上原達に変な反応されたし」

 

「(それは多分……)」

 

「気に病むことは無いよ佳夏。今の君は、儚く瞬く一等星のように輝いているよ……」

 

「ほら! 薫さんだってこう言ってるしっ」

 

 

……正直、瀬田先輩の言葉はあまり当てにしてない。何その比喩表現。

 

 

「正解よ佳夏」

 

「ん"ん…千聖……」

 

「でも、お世辞を抜きにして……とても似合っていると思うわよ」

 

「うん。私もいいと思うな」

 

「ジブンも同意しますっ」

 

 

白鷺さんに続く形で褒めちぎられる。白鷺さんが"お世辞を抜きに"とまで言うのだから……少しは自信もっていいのかな。

 

 

「……ありがとうございます」

 

「えぇ」

 

 

柔らかく微笑む白鷺さんを見ていると、この格好になったことも悪くはないのかな、と思う。……まあ恥ずかしい事に変わりは無いのだけれど。

 

 

「午前中はせっかく花音と占いをやっていたのに」

 

「あぁ。林道君、走って行っちゃったもんね」

 

「……さーせん」

 

 

そういえばそうだった。正門まで向かう途中、白鷺さんと松原さんとすれ違ったのだが、状況が状況だったためスルーしてしまったのだった。今更ながら申し訳ない。

 

 

「と思ったら紗夜ちゃんのクラスで執事なんて…」

 

「……なんだか忙しないっスね」

 

「なんでこんなことになってるんですかね…俺」

 

 

大和先輩の言う通り、全くもって忙しない1日だ。文化祭に遊びに来たというのに回れたクラスの数は片手で済む。なんだかんだでゆっくり出来たのはお昼くらいじゃないか?

 

 

とか何とか考えながらも、充実感を感じているもの事実だったりする。変な感じだ。

 

 

「……ところで」

 

「? どうしたの?」

 

「丸山さんのクラスの出し物ってなんなんですか?」

 

「ふっふっふ。私のクラスはここだよ!」

 

「……ぁそうなんすね」

 

「反応薄い…!」

 

 

初めて知った。紗夜さん達と同じクラスだったとは。

 

 

「ん? じゃあ午前中がシフトだったんですか?」

 

「そうそう! 林道君も来れば良かったのに」

 

 

知っていたら行っていたのかも知れないが、沙綾の件もあったし恐らくは無理だったかも。

俺はとりあえず謝っておいた。

 

 

「……(午後にしておけば、林道君と一緒に接客出来たのかなぁ。紗夜ちゃんがちょっと羨ましい)」

 

「どうしたんです?」

 

「ううん。なんでも!」

 

「? ……はぁ」

 

 

とりあえず5人から注文を承り、料理担当へ内容を伝える。接客側について気付いたのだが、このクラスでパンケーキ等の割と本格的なメニューが出せるのは近くに調理実習室があるかららしい。この恵まれた立地を利用したのだろう。流石林さん。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「お待たせ致しました、お嬢様…………何ニヤニヤしてんすか」

 

「あら、気のせいじゃないかしら」

 

 

なわけ。鏡で見せてあげたいわ。

 

 

白鷺さんの前に紅茶を用意しながら交わされるそんなやりとり。さっきからこの人達、事ある毎に俺を指名するのなんなのだろうか。

 

 

「林道君。次私にココアもう1杯♪」

 

「……またですか」

 

 

丸山さんをはじめ、何かあれば「執事さーん」と呼びつける。もうこのテーブルと厨房を5往復くらいしているな。そろそろ疲れてきた。

 

 

「飲みすぎると後悔しますよ」

 

「うぐっ」

 

 

分かりやすく苦い顔をする。アイドルなのだから、そこら辺の管理は厳しいんじゃなかろうか。ほら、ここにいる我らがパスパレの首領(ドン)であらせられる白鷺さんも━━━━━

 

 

「ふふっ」

 

「ぁあ"あ"痛い痛い」

 

「ふえぇぇ…!」

 

「えと……千聖さんは何やってるんです?」

 

「ふふふふっ」

 

「…………なるほど!」

 

 

何かを察した大和先輩はそれ以上は聞かずにちびちびと紅茶に口をつけ始める。まぁ俺の足がゴリゴリと音を立てながら踏み潰されてるだけなんですけどね。いてて。

やはりこの人の前では余計なことは考えない方がいいな。素で思考読んでくるし。

 

 

「佳夏〜!」

 

 

「…………」

 

 

「あら? 佳夏〜っ??」

 

 

「………………」

 

「……呼ばれてるわよ」

 

 

……知ってますよ。こんな元気ハツラツを音に乗せたような声、聞こえないはずもない。

 

 

とりあえず足踏むのやめてもらっていいですかね…………はいありがとうございます。

 

 

「執事というのも大変ね」

 

「なら代わってくれますか」

 

「嫌よ♪」

 

 

そんな会話を皮切りに、俺は呼ばれたテーブルへ向かう。

 

 

「あ、ココア忘れないでね! …………あ、あれ? 聞こえてる? おーいっ! ココアもう1杯ねぇ! お願いねぇー! ってちょっと無視しないでよぉ!」

 

 

結局頼むんだココア。まぁいいけれど…。相変わらず丸山さんは元気いいなぁ。きっと何かいい事でもあったんだろう。

そうだな。ココアは紗夜さんにでも持って行って貰おう。

 

 

「何かね」

 

「やっと来たわね!」

 

「あはは…。えっと……お疲れ」

 

「……あぁ」

 

 

今度はこっちか。

 

 

「とりあえず弦巻。その頭に乗せてる鳩どうにかしてくれ。一応飲食店だからさ」

 

「あら、そうだったわね」

 

「ていうかなんで鳩……」

 

「あぁ〜…アレはマジックで仕込んでたヤツ」

 

「なるほど」

 

 

先程現れた弦巻と奥沢。どうやら2人ペアで来たようだ。……あいや、奥沢は"連れてこられた"が正解かな。

 

 

もちろん。辺りを注意深く見回すと所々に黒服さんが顔を覗かせている。廊下に少なくとも5人は居るな。むしろあなた達が目立っているよ。

 

 

バサバサバサッ

 

 

「…?」

 

 

なんか頭に……。

 

 

「あら! 鳩さんは佳夏ともお友達になりたいのね!」

 

「頭の上に乗るの好きなのかな…」

 

「………いや、早く取ってよ」

 

 

クルッポーと鳴く声が頭上から聞こえる。この鳩、俺の頭に乗り込んできやがった。

 

 

「ちょっと待って林道。写真撮るから動かないで」

 

「撮るな。撮らずに鳩を俺の頭から取って」

 

「まぁいいじゃん。ちょっとだけ」

 

 

面白がってないでどうにかしてくれ。料理を運ぶ身としては(コイツ)に触れられないんだよ。

 

 

為す術なく写真を撮られる俺。ほんと何やってんだろ。

 

 

その後鳩は黒服さんに回収された。グッバイ。

 

 

「して、注文か?」

 

「?」

 

「…? 注文したいから呼んだんじゃないのか?」

 

「あたしは佳夏とお話がしたかったから呼んだのよ!」

 

「……」チラ

 

「……」ウンウン

 

「……左様ですか」

 

 

奥沢にアイコンタクトで聞いてみたところその通りらしい。

 

 

お嬢様は俺とのお喋りをご所望らしいが、こちらとしては接客を任されている身なんだがな…。

 

 

「(ガッポリ稼いでください)」

 

「(えぇ……)」

 

 

とか思っていた矢先。林さんからまたもやアイコンタクトで指示を出される。なんということか、GOサインが出てしまった。

 

 

「隣が空いているわ! 遠慮なく座って!」

 

「………お邪魔します」

 

「いらっしゃい」

 

 

椅子を少し弦巻から遠ざけて遠慮がちに弦巻の隣へ座った。のだが、遠ざけた距離以上に弦巻は自身の座っている椅子をこちらに寄せてくる。

 

 

普通に狭い。

 

 

「素敵なお洋服ね! あたしの家の執事さんによく似ているわっ」

 

「まぁ…。執事ですから」

 

「事情は紗夜先輩から聞いたけど、よくやるねぇ…」

 

「仕方なくだ仕方なく。俺にも責任の一端はあったからな」

 

「よく分からないけど。今の佳夏はいつも以上に素敵だわ! とてもよく似合っているもの!」

 

「そ、そうか…?」

 

「もちろん!」

 

 

良くも悪くも率直な感想しか言わない弦巻のことだ、きっとそれも本音なのだろう。だとしたら嬉しい限りだ。

 

 

「ありがとう」

 

 

そう伝えた瞬間。弦巻の常に上がっている口角が更に角度をつけたように見えた。

 

 

満面の笑み。眩しいわい。

 

 

奥沢も、そんな弦巻にまるで子を見守る母親のような視線を向けている。保護者か。

 

 

そんなこんなしている内に、俺が来る前に頼んでおいたであろうパンケーキが2つテーブルにやってくる。運んできたのは林さん。

 

 

そして。

 

 

「執事から食べさせて貰えるサービスもございますので、宜しければどうぞ、弦巻お嬢様」

 

 

そんな捨て台詞を残して去っていった。

 

 

やってくれたな。

 

 

「面白そうね! 早速お願いするわっ!!」

 

「……」

 

「林道、ファイト」

 

 

マジかマジなのか。

 

 

弦巻はキラキラと期待の眼差しを送ってくる。輝きを放つその黄色い瞳がどんどんと近付いて……。顔近いよ。

 

 

そういうのはホントにズルいと思うんだ。

 

 

「……分かった、やるよ」

 

「えぇ! お願いするわ!」

 

「んふふ」

 

「ニヤニヤすんな」

 

 

奥沢を軽く睨みつけながら、俺は弦巻の頼んだパンケーキを切り分ける。1口サイズはこんくらいかな?

 

 

先程まで居た日菜先輩やあこにも同じように……なんならそれ以前にリサ先輩にもしたのだが、文字を書くのとは違い、コレだけは如何せん慣れる気配が無い。

 

 

「ほれ………あ〜〜ん」

 

 

俺は、いつの間にか目を閉じながらスタンバッていた弦巻の小さく開かれた口めがけて、ゆっくりとパンケーキを刺したフォークを進行させていく。

 

 

「ぁ〜〜………んむっ」

 

「……」

 

「(モグモグモグモグモグモグ)」

 

「……」

 

「(モグモグモグモグゴクンッ)ん〜〜♪♪ とぉ〜〜っても美味しかったわ佳夏っ!!」

 

「お、おぅ。そりゃ良かった」

 

 

何も言わないから一瞬焦ったよ。まぁ良い家の娘だし、口に物を入れている間は喋っちゃいけません的な事を言われているんだろう。美竹もそんな感じだし。

 

 

「凄いわ! さすが佳夏ね♪」

 

「? 俺は別になにも……」

 

 

パンケーキを作ったのは料理担当の人間だ。俺はそれを口まで運んだだけなんだがな。

 

 

「そういえばそうね。後で作ってくれた人にお礼をしなきゃいけないわ!」

 

「おう。そうしてくれ」

 

「でもあたしは思うの。最後に佳夏が食べさせてくれたから、美味しいパンケーキがさらに美味しくなったんだと思うわ! えぇ! きっとそうよ」

 

「……なんだそりゃ」

 

「なんというか…。"こころ"って感じだね」

 

 

左右に揺れながらニコニコ顔で弦巻は言う。俺は調味料かなんかかよ。

 

 

そもそも俺が食べさせてないver.とどう比較したんだ? ……って言うのは無粋かな。お嬢様はご満悦のようですし、それでいいか。

 

 

「あ〜……」

 

「え」

 

 

ようやく終わったかと思っていたのだが、あれれ? 弦巻お嬢様は再度口を開けて何かを待っている。

 

 

「? まだパンケーキは沢山残ってるじゃない」

 

「………」

 

「せっかく美味しいんだもの! 全部食べさせて貰うわっ」

 

「………アイサー」

 

 

すかさずお嬢様は「食わせろ」の状態へ。

 

 

コレ。マジで何回やっても慣れないんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「微笑ましいじゃないか。どうだい千聖、この私が食べさせてあげよう…」

 

「花音。はい、あ〜ん♪」

 

「ふえぇぇ!/// 恥ずかしいよぉ」

 

「……ふふふ。スルーとは……恥ずかしがることはないよ千聖」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様! ありがとう佳夏、とっても美味しかったわ!!」

 

「それはようござんした」

 

 

疲れた…。けど、ほんと美味しそうに食ってくれるな弦巻は。恥ずかしかったが、嬉しくもあったのは事実だ。

 

 

というか。廊下にいる黒服さん達全員がカメラ向けてくるのが気になってしょうがない。何? カメラ流行ってんの?

 

 

まぁいいや、そろそろ「次は美咲ね!」

 

 

「………」

 

「………」

 

 

弦巻的にはまだ解放の時ではないらしい。どうやら自身が今感じている喜びを奥沢とも共有したいようだ。

 

 

対する奥沢は目を見開いまま、パンケーキを口に運んでいる状態で停止している。

 

 

「………いや、あたしはいいよ。十分美味しいし…」

 

「安心して! もっと美味しくなるもの!」

 

「安心って……。味なんて変わんないでしょ」

 

「食べてみないことには分からないじゃない! それとも佳夏から食べさせて貰うのは嫌なのかしら?」

 

「え、ぁいや…。そういう訳じゃ……」

 

「ならやってみればいいじゃない!」

 

「………うぅ」

 

 

ジトっと弦巻を睨みつけてから、奥沢は数秒考える素振りを見せた後。

 

 

「……ん」

 

 

俺にフォークを渡してきた。

 

 

「嫌なら嫌で言っていいんだぞ…?」

 

「そういうんじゃなくて、ちょっと恥ずかしかったってだけ」

 

「……奥沢がいいならいいけど」

 

「まぁ…うん。チャチャッと終わらせよう」

 

 

受け取ったフォークを既に切り分けられたパンケーキに差し込み、そのまま奥沢の前まで移動させる。

 

 

「……//」

 

 

さすがに奥沢も恥ずかしさが出てきたか。ほんのり頬を染めてパンケーキを見つめている。

 

 

「…ほい、あ〜ん」

 

「………」

 

「ダメよ美咲。ちゃんと「あ〜ん」って言わないと!」

 

「「(何だそのルール)」」

 

 

弦巻的には「あ〜ん」は必須らしい。それを聞いた奥沢は更に頬を紅くさせる。

 

 

「ぁ……ぁぁぁあ〜…!」

 

 

半ばやけくそじみた声を上げて、奥沢はパンケーキにかじりつく。

 

 

しばらく咀嚼。

 

 

「どう? 美咲! さっきより美味しく感じたかしら!」

 

「………」

 

「……?」

 

「…………………………………………よくわかんない」

 

「あら」

 

 

どうやらピンと来ないらしい。まぁそりゃあそうだろう。実際味なんて変わらないもんだろうしな。

 

 

「だろうな」

 

「ん………だからもう1回」

 

 

……ん?

 

 

「もう1回食べさせて」

 

「ぁ、あぁ……」

 

「うふふ♪」

 

 

あれ? チャチャッと終わらせようとか言ってたような。

 

 

……まぁいいや。違いが分かるまでやりたいのかもな。弦巻もニコニコしながら眺めているし、もう少し続けるか。

 

 

結局残りのパンケーキが無くなるまで、俺は奥沢に食べさせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……ちょっと美味しくなった…………かも………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「それじゃあね、林道」

 

「ありがとう佳夏! またお願いするわっ」

 

「いってらっしゃいませ」

 

 

すまん弦巻。「あ〜ん」はコレっきりで頼む。

 

 

白鷺さん達もいなくなり、そしてつい先程弦巻達も店を出た。

 

 

接客業って大変だよまったく。CiRCLEと違ってあっちへ行ったりこっちへ行ったりでてんやわんやだ。

 

 

そろっと一息入れたい。

 

 

そう思って、何の気なしに振り向くと。

 

 

「……マジでやってんじゃん」

 

「執事だ」

 

「はわぁ…!」

 

「ほ、ホントにいた」

 

「わぁ! 佳夏君、来たよー!」

 

 

……どうやら俺に休憩は来ないらしいぞ。

 

 

「……おかえりなさいませ。お嬢様方」

 

「お、お嬢…っ!!//」

 

「(めっちゃ似合ってんな…)」

 

「ソレ、似合ってるね」

 

「ありがと」

 

 

弦巻達と入れ替わるようにPoppin’Party五人衆がやってきた。台詞を聞く限り、どうも俺がここにいることを知っていたようだが。

 

 

「噂になってたよ。「男子が働いてる」って」

 

「マジか」

 

「うん! それでね廊下の列もすっごく長かったよ」

 

「……マジかぁ」

 

 

どうやら解放の時はまだまだ先らしい。燐子さん。そろっと起きてくれませんかね。

 

 

とりあえず香澄達を先程まで弦巻達が使っていたテーブルへ誘導する。その間、俺が何故執事として働いているのかを聞かれたので、オーダーを聞きながらかいつまんで説明した。

 

 

かくかくしかじか。

 

 

「燐子先輩が気絶って……。何したの?」

 

 

沙綾がジト目で聞いてくる。

 

 

「ちょい。最初に俺を疑うのかよ」

 

「違うの?」

 

「………」

 

「……ほらっ」

 

 

「言わんこっちゃない」とでも言うようにプイッとそっぽを向く沙綾。いやね? アレは決して故意ではないし、というか、さして俺に非があるわけでもないと思うんよ。うん。

 

 

林さんが悪い。

 

 

「……なぁ佳夏。アレはなんなんだ?」

 

「? …あぁ」

 

 

沙綾への言い訳をあれこれ考えていると、有咲が何かに指をさしながら言った。

 

 

有咲が「アレ」と呼んだモノに全員が視線を向ける。

 

 

「薫様ぁ〜!」

 

「私にお願いします!」

 

「コッチにもぉ!」

 

「あたしも〜!」

 

「はははっ。さぁ子猫ちゃん達? これから君達子猫ちゃんにかける私のチョコソース(魔法)で、このひと時を楽しんでくれたら嬉しいよ。さぁ……bon appetite(召し上がれ)」キラッ

 

「「「「キャアァァァアアァァっ!!♡♡」」」」

 

 

うるっさ。

 

 

大量の女子に囲まれ、こんな耳を劈くような黄色い歓声を一身に浴びているのはそう。

 

 

「瀬田先輩だ」

 

「見えねぇ……」

 

「すっごい囲まれてる」

 

「はわわわぁ…//」

 

 

何故瀬田先輩が残っているのかと言うと、白鷺さん達御一行の帰り際、執事服が似合いそうだからと林さんが先輩を勧誘し、ノリノリで先輩はその話に乗ったようだ。

 

 

速攻で執事服に身を包んだ瀬田先輩は、今こうして接客に務めているという訳である。その後ろでは林さんがニヤニヤしながら眼鏡を光らせ、さらにその後ろでは紗夜さんがなんとも言えない表情で2人を眺めている。

 

 

おかげと言えばそうなのだろうが、先輩の加入で少しばかり接客担当への負担が軽減されたようにも感じる……

 

 

ごめんやっぱ嘘。瀬田先輩がいるという噂が広がったのかは分からないが、先輩目当てのお客さんが増えている。香澄が言ってた廊下の長い列ってのはそういう事ではなかろうか。

 

 

「ていうか、執事服もう一着あったんですね」

 

「こんなこともあろうかと」

 

「思わんでしょって」

 

 

そんな会話を林さんとしたのを覚えている。

 

 

「そろっと収拾つかなくなるんじゃ……」

 

 

なんて独り言もこぼしたくもなる。こんなんじゃ燐子さんが起きても対処できるかどうか。

 

 

まぁでも。瀬田先輩があんないきいきしてるんだし、先輩1人で何とかしそうだな。ていうかしてくれなきゃ困る。

 

 

……あ、今1人倒れた。

 

 

今日はよく人が倒れるなぁ。とか、普段は直面しないような状況を冷静に眺めつつ、俺は香澄達が注文した料理を運ぶのだった。

 

 

「わぁ〜♪」

 

「本格的だな……」

 

「ごゆっくり」

 

 

5人分のパンケーキやらパフェやらを並べ、最後にそう言い残した俺はPoppin’Partyが集まっているテーブルから離れる。

 

 

「……待って」

 

 

つもりだったのだが、沙綾に腕を掴まれる。

 

 

「えっと……何でございましょう?」

 

「サービス。してもらってない」

 

「………」

 

 

……俺としては、沙綾達があの小っ恥ずかしいサービスなんぞ知らないであろう内に退散を決め込みたかったのだが。どうやらすでに知っている様子。

 

 

何故だと思って見てみれば、沙綾はニッコリ笑顔でメニューのとある部分を指で示す。

 

 

そこには執事サービスの欄が。

 

 

ちょい待ち。さっきまでそんな記載はメニューに無かったはずだ。となれば誰かが書き足したとしか考えられない。でもって、そんな事をする人間など……

 

 

「(はい、私です)」

 

「(な……っ。脳内に直接…!)」

 

 

やっぱ林さんか。あぁ、こっち見てるよあの人。ニヤニヤするな。

 

 

「ね?」

 

「いや……その」

 

「あー♪ 私『☆』描いてもらおっ!」

 

「えっと……じゃあ私はチョココロネかな」

 

「じゃあ私にはオッちゃん描いてほしい」

 

「パフェにどうやって描くんだよ」

 

「ほら」

 

「……」

 

「ね?」

 

「ぁ……はい」

 

 

有無を言わさぬ圧だった。やっぱ怖いよその笑顔…。

 

 

俺は林さんみたく背後から物を取り出す能力を持っていないのでソースを取りに厨房へ戻る。その足運びはきっと覚束無いものだったと思う。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「コレでいいか?」

 

「凄い…! 綺麗な星形!」

 

「おぉ…上手いな」

 

 

俺もやればできるみたいだな。

 

 

香澄のパンケーキにストロベリーソースで星形を描きながらそんなことを考える。我ながら頑張った。

 

 

「はあぁ…♡ めぇっちゃ可愛い…」

 

「…そろそろ食えよ、りみ」

 

 

りみのパンケーキにはチョコソースでチョココロネを描いてみた。お気に召したのか、りみは先程からパンケーキを眺めたり写真を撮るなどしながら恍惚な表情を浮かべていた。

 

 

そろそろ食べな?

 

 

「おたえは?」

 

「オッちゃん!」

 

「おっちゃん?」

 

「オッちゃん描いて」

 

「おっちゃん…」

 

 

次はおたえの番、ということでリクエストを聞いてみたのだが、本人は手を高々と上げながらそう告げた。

 

 

おっちゃんだと? コイツ……えぇ…? そういうタイプが好きなのか?

 

 

いやでも、昨今はおじさんブームが来てるとか来てないとか聞いたような聞いてないような。

 

 

そういうアレか?

 

 

「好きなのか? その……おっちゃん」

 

「うん! 大好きっ」

 

 

大好き??

 

 

「可愛いくて」

 

「かわいい…」

 

「まん丸でぇ」

 

「まる…」

 

「ふわっふわなの」

 

「ふわ……」

 

 

おま……ソレ。

 

 

「お、おいおたえ」

 

「え?」

 

「その……大丈夫なのか? そのおっちゃん」

 

「? どういうこと?」

 

「信頼…できるのか?」

 

 

いやまぁ…ね? 人の趣味にとやかく言うつもりはないけれども。友人として心配してしまう。

 

 

「大丈夫だよ。良く一緒に寝てるし」

 

「━━━━━」

 

 

ね……てる?????

 

 

「は………?」

 

「オッちゃんだけじゃなくて他にも居て━━━━━

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━合計20羽飼ってるの!」

 

 

飼ってるの!

 

 

飼ってるの!

 

 

飼ってるの!

 

 

 

 

俺は耳を疑った。

 

 

20? おっちゃんを20人? 羽? いやどっちでもいい。

 

 

以前からちょっとやべぇ奴だとは思っていたがこの女子高生。ちょっとどころの話では無い。倫理観が壊滅的で、さらには破綻している…。

 

 

コレは……………いけない!

 

 

「か…考え直せおたえ…!」

 

「え? 何を?」

 

「一緒に寝るとか、飼ってるとか…いろいろダメだろっ」

 

「でも、私オッちゃんがいないと…」

 

「正気になれ…!」

 

 

俺は持っていたチョコソースを放り投げ、おたえの肩を掴みながら前後に揺らす。

 

 

どう考えても事案だ。まだ間に合う。ポリスメンが勘づく前に解放してやるんだ、そのおっちゃん達を…!

 

 

「そうしたら、私の花園ランドが……」

 

 

花園ランド??????????

 

 

んなもん作るなっ。倫理も秩序もあったもんじゃないだろ。そんな狂気の建設企画は今すぐに白紙だ。今すぐに。

 

 

ていうか…

 

 

「お前らもなんか言ってやれよ…っ」

 

「…ふっ……くくくっ」

 

「だ、ダメだよ市ヶ谷さん……笑っちゃ……っふふ」

 

「お前も笑っとるがな」

 

 

俺が必死こいて狂人と化しているおたえを説得しようとしている傍ら、必死こいて吹き出すのを堪えている2人がいた。

 

 

有咲と沙綾である。

 

 

どう見てもこの状況を面白おかしく眺めている2人だが、今の会話のどこに笑いどころがあったのだろう。

 

 

さてはお前らもダークサイド?

 

 

「腹痛てぇ…!」

 

「あっはは……はぁ。おたえ」

 

「ん?」

 

「佳夏にオッちゃん見せてあげたら?」

 

「あ、うん!」

 

「え」

 

 

一旦の落ち着きを取り戻した沙綾の提案に元気よく返事をしたおたえは、懐から一眼レフを取り出し、フォルダを漁り始めた。

 

 

「いっぱいあるんだよ。写真」

 

「えぇ…」

 

 

おっちゃんの?

 

 

なんかヤだよそれ。怖いよ…。でもちょっと気になるじゃん……。

 

 

おたえはまるで自身の宝物を自慢するかのような嬉々とした表情でカメラを操作する。

 

 

そして。

 

 

「はいっ」

 

「?」

 

「この子がオッちゃん!」

 

「……おっ……………………………ちゃ……ん」

 

 

フォルダから選んだであろう写真を見せてくるおたえ。

 

 

そこに写っていたのは━━━━━ウサギだった。

 

 

「……ウサギ…?」

 

「そう! ウサギ」

 

「コレ、オッチャン?」

 

「うん! オッドアイのオッちゃん」

 

 

()()ドアイの……………()()ちゃん

 

 

「…………………………」

 

「ふっ…くくくくくくくっ…!」

 

「……んふふ…っ!」

 

「? どうしたの佳夏」

 

「………やべつに

 

 

あぁ……そらそうだわな。

 

 

可愛いくてまん丸でふわふわなウサギなんだよな。

 

 

いやまぁ……はい。

 

 

 

 

 

俺の早とちりです。

 

 

 

 

 

「お前ら……知ってたなら言えよ」

 

「いやぁ〜あはは。なんか面白かったからつい」

 

「必死な顔して勘違いしてんの見てたらもう…! あははっ」

 

「てめぇ有咲」

 

 

腹立つなこのツインテール。顔面にチョコソースかけんぞこら。

 

 

「この子、この子描いて!」

 

「あぁはいはい……分かった、分かりました…」

 

 

瞳をキラキラと輝かせながら催促してくるおたえを雑にあしらってしまうが、それも仕方ないと思う。俺の心配を返せぃ。

 

 

「?」

 

 

首をコテンと傾けるな。可愛いのがまたちょっと腹立つ。

 

 

俺はひとつため息を零しながら、先程放り投げたチョコソースを回収しにいった。

 

 

ちなみにウサギを描くのはアホほど難しかった。……いや、ウサギを描くのが難しかったというより、パフェにソースで絵を描くという行為が難しかった。

 

 

パンケーキのような平面でない分難易度が高かったが、完成品におたえは満足だったようなのでまぁ良しとしておこう。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「それで」

 

「?」

 

「お前は何かやって欲しいことあるのか?」

 

「わ、私か? いや、私は別にいいし…」

 

 

そう有咲は言うが。

 

 

「あ! じゃあ有咲には"あ〜ん"してあげてよ佳夏君!」

 

「「何が"じゃあ"なんだよ」っ!!」

 

「ハモった…」

 

「仲良しだ」

 

「えぇ〜? 有咲も佳夏君に何かして貰おうよぉ」

 

 

香澄は例のサービスを有咲にも楽しんで貰いたいらしい。

 

 

いや…その。香澄には悪いけれど、俺としては何も無いに越したことはないんですよ。

 

 

できれば俺はもうこのテーブルから離れたい。いろいろ疲れた。

 

 

「ていうか。私はもう殆ど食べちゃったし…」

 

「ほんとだ」

 

 

なんと。こりゃラッキーだ。

 

 

有咲の言う通り、彼女の前にあるパンケーキはもう後一口二口で食べ終わるような量しかない。

 

 

もうチャッチャと食べちゃってくれ。

 

 

「駄目だよ有咲!」

 

「何が」

 

「せっかく執事さんがいるのに、何もしないのは失礼だよ」

 

「いや俺は━━━━━」

 

「ラーメン屋でラーメンを頼まない事と同じくらい失礼だよ!」

 

「一緒にすんな!」

 

 

まったくである。俺のセリフ遮ってそれか。なんでラーメン屋を引き合いに出したんだコイツ。

 

 

「おたえ!」

 

「ラジャー!」

 

「な、ちょっ!? お前ぇらぁ!」

 

 

すると突然、香澄とおたえが有咲を両サイドからホールドする。

 

 

そこまでするか?

 

 

「今だよ佳夏君っ」

 

「私達が抑えてるうちに…!」

 

「だぁあ! 離せっ!」

 

「えぇ…」

 

 

あまりに気が引ける。なんか集団でいじめてるみたいじゃん……。

 

 

「本当はね佳夏君…」

 

「え?」

 

「こう言ってるけど、有咲は素直になれないだけなんだよ」

 

「……」

 

「文化祭なんてくだらないって有咲は言うけど、私達の中で1番文化祭を楽しんでるのは有咲なんだよ」

 

「はぁ……」

 

「有咲はツンデレだから」

 

「おぅ……」

 

「だからきっと、本当は心の底では「食べさせて欲しい」って思ってる」

 

「そうなのか?」

 

「違うが?????」

 

「違ぇじゃん」

 

「往生際が悪いよ有咲!」

 

「観念しろー」

 

「ウゼェェェッ!!」

 

 

唸るツンデレヶ谷さん。数秒してはぁはぁと息を整えることに専念しだした。流石の体力の無さである。

 

 

「……………もういいや。やるならさっさとやってくれ……」

 

「え? あ、やるの?」

 

 

ぐったりとした有咲はもう降参とばかりにそう言ってくる。

 

 

「このままうだうだやるよりすぐ終わらせたほうが合理的だ……」

 

「あぁ…はい。なるほど」

 

 

たしかに、このままホールドされ続けても疲れるだけだろうし、ならパパっと終わらせたほうが省エネだわな。有咲らしい気もする。

 

 

それにこの2人もそうそう離してはくれなそうだしな。

 

 

コイツ本当苦労してんな……。

 

 

「……じゃあ」

 

 

俺はフォークを持ち、ちんまりと残ったパンケーキの欠片に刺し込む。

 

 

そのまま有咲の前へ。

 

 

緊張の瞬間。

 

 

「ぁ……あ〜ん」

 

ちくしょうなんで私がこんな……/// ぁぁあ"あ"あ"ぁ…っ!!」

 

 

怖い……。奥沢よりやけくそ感丸出しの形相だ。

 

 

「有咲顔怖いよ〜」

 

「るせぇ!」

 

「いっき♪ いっき♪」

 

「それ掛け声違ぇだろ! だぁくそ! 食えばいんだろ食えばっ!!///」

 

「あ」

 

 

意を決した有咲は真っ赤な顔のままパンケーキに齧り付く。

 

 

そして。

 

 

「ハイ終わりっ!!」

 

 

食べ終わるやいなやそう叫んだ。お疲れ様…。

 

 

「美味しいかった? ねぇどうだった有咲ぁ」

 

「知るか……っ!////」

 

「照れるなよ〜♪」

 

「…………」イラッ

 

「いやぁ〜! 痛い痛い有咲! 髪の毛引っ張らないでぇっ!」

 

 

我慢の限界だったのか、ホールドが解かれた瞬間に香澄の猫耳を鷲掴みにて引き伸ばす有咲。やっぱ仲良いねお前ら。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

最後の一人は沙綾。

 

 

「はい」

 

「あぁ……はい」

 

 

やっとかと言わんばかりの表情でフォークを渡してくる沙綾。コレは……

 

 

「食べさせてよ。執事さん」

 

 

やはりか。

 

 

どうやら沙綾お嬢様は例の"あ〜ん"をご所望の様子。ニコニコと嬉しそうに見つめてくる。

 

 

……ていうかコイツ、わざわざパンケーキに一切手をつけずに待っていたのか。

 

 

「やってくれるんでしょ?」

 

「まぁ……やるけども」

 

「なら…ホラっ。はやく♪」

 

「なんでそんなノリノリなんだよ……」

 

「(さーや嬉しそう)」

 

「(いい笑顔だな)」

 

「(写真撮ろっかな)」

 

「(佳夏君の描いてくれたチョココロネ可愛い…)」

 

 

「ん〜」という声と共に小さく口をあける沙綾に先程切り分けたパンケーキを差し出す。

 

 

「……あ〜ん」

 

「ぁ〜……ん

 

 

沙綾は前に乗り出しながらソレを口に入れる。

 

 

ゆっくり咀嚼し、飲み込んだであろうタイミングで聞いてみる。

 

 

「いかがだったでしょうか……」

 

 

それを聞いた沙綾は小さく「うん」と呟いた後、目を細め、口元に付いたクリームを指で拭いながら。

 

 

「………………………甘かった…よ……///」

 

 

ほのかに頬を染めながらそう言った。

 

 

「………」

 

 

流石に………ドキリと感じざるを得なかった。

 

 

多分今俺の顔は……

 

 

「……ふふ。顔紅いよ?」

 

「……人のこと言えんのかよ」

 

「照れちゃって…」

 

「うっせ。………さっきまで泣いてたクセに

 

「な…っ! 佳夏ぁ!///」

 

 

お互い顔を赤くしながらの言い合いが始まった。

 

 

いや、だってさ? しょうがないじゃん? どうやったって恥ずかしいものは恥ずかしいし、食べる側も照れられるとコッチにもそれが伝染するんだもの。

 

 

しかも、ただでさえ沙綾達のような美少女相手にしているんだから照れるなという方が酷だろう。むしろ俺はよく頑張っている方だと思いませんか??

 

 

それに、沙綾に食べさせている間、お昼前のことを色々と思い出してしまって…………ぁあ"あ"あ"っ。

 

 

沙綾のクリーム色のリボンに目線がいってしまう。

 

 

「……はぁ………やっぱコレは慣れない」

 

 

手で顔を隠しながらそう零してしまう。ほら、やっぱ顔が熱い。

 

 

「……むぅ」

 

「………?」

 

 

もう勘弁して欲しい……と、そう考えていた頃。ふとそんな、まるでむくれているかのような、不満そうな声が聞こえてくる。

 

 

その声の主は沙綾……………ではなく。香澄だった。

 

 

「どうした…?」

 

「……私の時はそんな反応してくれなかった」

 

「? 香澄の時?」

 

 

何の話だ?

 

 

「チョココロネを食べさせてくれた時……ドキドキしてなかった!」

 

「え?……あぁ…アレか」

 

 

そういえばあったな。たしか1-Aで出されたちっこいチョココロネを香澄とりみに食わせたっけ……。

 

 

ん? あれ。

 

 

たしかに何故だろう。あの2人に食べさせた時は別にドキドキもなかったように感じる。常に平静だった。

 

 

「私は不満ですっ!」

 

「えぇ…怒るなよ」

 

「ねぇりみりん!」

 

「ふぇ…? ごめん何の話かな……?」

 

「チョココロネに夢中すぎだろ……」

 

「ほらりみりんだって怒ってる!」

 

「何も言ってないだろ」

 

 

コイツは一体何が不満なのやら。恥ずかしがられるのが嬉しいことなのか? ちょっとよく分からん……。

 

 

香澄は手をブンブンと動かしながら「不満です」感を表現している。

 

 

だが、香澄の話にも同意できる部分はある。何故この2人だけは何とも感じなかったのだろう。

 

 

俺はしばし長考する。

 

 

「……………」

 

 

……………あぁ。多分アレだな。

 

 

「多分だけど……似てたからだと思う」

 

「似てた? 誰に?」

 

「香澄が……俺の姉に」

 

「え、えぇっ!! 佳夏君お姉さんいるの!?」

 

「……」

 

 

香澄は身を乗り出しながら驚愕の表情と共にそう叫ぶ。落ち着け。

 

 

「んで。りみは妹に似てる……と思う」

 

「妹さん?」

 

「い、妹までいるの!?」

 

「…まぁな」

 

「(佳夏、姉と妹がいるんだ……)」

 

「私……あっちゃんしかいない。……負けたぁ…!」

 

「いや、どういう勝負だよ!」

 

「私にはオッちゃん達が…!」

 

「おたえも張り合うなよ!」

 

 

多分だがな、そういうことなんだと思う。だから香澄とりみには抵抗感が薄かったんじゃないか? そう結論付ける。

 

 

「ふぅん…」

 

「ちなみに、どこら辺が似てるのかな?」

 

「どこら辺……」

 

 

そうだなぁ……。

 

 

「香澄は……とにかく元気なところとか、考えるよりまず行動するところとか、…ちょっとやかましいところとか」

 

「や、やかましい…」

 

「あと、あいつはお前と同じでギターボーカリストだ」

 

「そうなの!? えへへ、なんだろ。何か嬉しいっ」

 

 

さっきとは打って変わって笑顔になる香澄。そういう表情がコロコロ変わるところとかもそっくりだ。

 

 

「りみりんは?」

 

「りみは……そうだな。控えめな性格とか、おっとりした雰囲気とかかな……。ちなみに妹もベーシストだよ」

 

「そうなんだぁ…。お揃いだね」

 

「兄弟皆楽器扱えるなんて凄いじゃん」

 

「え? 佳夏もなんかできんのかよ」

 

「佳夏君はねぇ、ドラマーなんだよ〜!」

 

「なんで香澄が答えてんだよ……」

 

「まぁ……そうだな。香澄の言う通りだ。沙綾の同業者さ」

 

「お昼のライブも佳夏のスティック借りたんだよ。ね」

 

「ほぇ…。そうだったのか」

 

「叩いてところ見せてよ」

 

「……機会があったらな」

 

 

なんだか話が脱線したな……。

 

 

とりあえず、それが2人に"あ〜ん"をしても恥ずかしくなかった理由だ。なんとなく理解したか?

 

 

「したけどぉ〜……。なんか複雑…!」

 

「? そういうもんか?」

 

「そうだよ!」

 

 

アレか、乙女心って奴かもな。生憎と乙女ではないので何とも言えないのがもどかしい。

 

 

なんか、すまない……。

 

 

「じゃあじゃあ…!」

 

「え?」

 

「もっかい! もっかい食べさせてよっ」

 

 

そう言って、半分程残っているパンケーキを差し出してくる香澄。だが……

 

 

「再戦!」

 

「いや……」

 

「ダメだろ」

 

「な、なんで!?」

 

 

有咲にキッパリ斬り伏せられる。

 

 

何故なら執事サービスは1人1回までだからだ。香澄にはパンケーキに☆を描いた時点で終了している。

 

 

「そうそう」

 

「そ、そんなぁ〜……!」

 

「それに━━━━━」

 

「うおっ」

 

 

その瞬間、近くにいた誰かにに腕を引っ張られる。気が付くとすぐ隣には沙綾。俺の腕をしっかりと捕まえている。

 

 

「今は私の執事だよ……ね、佳夏」

 

「…………」

 

 

こういう時なんて応えればいいんですかね……。

 

 

 

 

 

「横取りはダメだよ、香澄♪」

 

 

 

 

 

その後、妙にノリノリな沙綾の相手をしながらパンケーキを食べさせていく。

 

 

俺は終始ドギマギしっぱなしだったが、きっと沙綾も同様だったと思う。……多分……恐らく。

 

 

でも、良かった。

 

 

何故なら、沙綾の笑顔が絶えることはなかったのだから。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ……疲れた」

 

「お疲れ様、佳夏」

 

「うす……」

 

 

俺たちは今帰路についていた。

 

 

そう。アレから時間はすっ飛んで、今はリサ先輩達と共に夕日を背にしながら歩いている。

 

 

結局、あれから燐子さんが目を覚ましたのは文化祭終了のアナウンスが鳴る1時間ほど前だった。それまで俺は……ぁいや、燐子さんが起きてからも俺は執事に勤めていたのだった。

 

 

客入りが林さんの想像以上だったらしく、燐子さんが戻ったところでさしたる変化は無いようだったので、まぁいいかとそのままズルズルと最後まで付き合った次第である。

 

 

「ソレ……もう着ないの?」

 

「いや、着ませんよ」

 

「えぇ〜…もったいない」

 

 

リサ先輩の言う"ソレ"とは、俺が今持っている執事服のことだろう。

 

 

林さんは「頂いてもらっても構いませんよ」と言っていたが、断固として「洗って返します」を貫いた。

 

 

そしてもう着ないことも誓った。

 

 

この執事服は後日()()()()に直接返す予定だ。

 

 

「…………」

 

 

しかし……なぁ。

 

 

あまりに多忙な1日だった。

 

 

迷子になって、病院をハシゴして、文化祭ライブを見て、メイドを見て、執事になって……。

 

 

……どう考えても1日で起きるイベントの量ではない気がする。

 

 

のだが━━━━━

 

 

「どうだった? 人生初の文化祭は」

 

「……めちゃくちゃ楽しかったです」

 

 

結局それに行きつくのだから面白い。

 

 

色々大変だったさ。でも、そういうのも全部ひっくるめて"楽しかった"んだ。

 

 

色んなことも知れたし体験できた。執事服を着る機会なんてそうそうないでしょ?

 

 

だから……楽しかった。

 

 

…………もう執事服は着ないけどな!

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

リサ先輩達を一人づつ送り届け、俺もようやく家に到着する。

 

 

「……たでーま」

 

「んにゃん」

 

 

玄関を開けると、いつも通りしょうゆがちょこんと座っていた。

 

 

俺は靴を脱ぎ捨てて。

 

 

「ん"にゃぁ……」

 

 

しょうゆをぎゅうっと抱きしめる。

 

 

「ありがとうしょうゆ。今日はお前に助けられた」

 

「んにゃん……」

 

「お前が渡してくれたラッキーアイテムが色々な人を救ったよ」

 

「?」

 

 

言葉が伝わっているのかは分からない。いや、きっと伝わっていないのだろうけれど、言っておきたかった。

 

 

お前は救世主だよ。

 

 

俺はそのまましょうゆを抱えてリビングへ。しょうゆはさっきから俺の頬をベロベロと舐めている。猫舌痛い。

 

 

ソファにボスンと座り込んだ俺は、しばらくしてそのまま寝転ぶ。

 

 

「…………着替えないと」

 

 

そう小声で呟くが、俺は動く気力が湧かなかった。

 

 

するとしょうゆはモゾモゾと俺の顔の横までやってくる。

 

 

もふもふで柔らかい。

 

 

……あぁ……瞼が重いな。

 

 

「……んにゃん」

 

 

耳元で聞こえたその鳴き声は、まるで「おやすみ」と言っているようだった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえり」

 

「おかえり姉ちゃん!」

 

「おかえり〜」

 

 

文化祭の後片付けを終え、日もすっかり沈んだ頃にようやく家に着いた。

 

 

父さんと純と紗南が笑顔で迎えてくれる。

 

 

「おかえり。沙綾」

 

 

そして、奥からエプロンを掛けた母さんがやってくる。

 

 

「うん。ただいま……母さん」

 

 

母さんの姿を見て、私は自然と笑みがこぼれた。顔色も良いみたいだね。

 

 

でもエプロンをしてるって事は……。

 

 

「母さん。今日は病院にも行ったんだし……」

 

「大丈夫よこのくらい」

 

「だーめ」

 

「もぅ……。ほんと心配性ねぇ」

 

「当たり前でしょ」

 

 

せめて今日くらいはゆっくりしてて欲しい。

 

 

「でも本当に大丈夫よ。純と紗南も手伝ってくれてるんだから」

 

「そうなの?」

 

「えぇ。ね?」

 

「「うん!」」

 

 

そう言って胸を張る純と紗南。なんだか少し2人が大人になったように見えて嬉しくなる。

 

 

「兄ちゃんと約束したから!」

 

「お母さんの助けになるって…!」

 

「……! そっか。そうだね…ふふ」

 

 

ありがとう。そういう意味も込めて2人を抱きしめる。

 

 

そうだよね。もういつまでも子供じゃないんだよね。

 

 

これからはもっと2人に頼ってもいいんだと、そう感じた瞬間だった。

 

 

「でも」

 

「「「?」」」

 

「私も手伝ったっていいよね」

 

「ふふふっ。えぇ分かったわ。夕飯の準備、手伝ってくれる?」

 

 

私は頷いて、4人でキッチンへ向かった。

 

 

「それで……沙綾?」

 

「ん? 何?」

 

「佳夏君に告白はしたの?」

 

 

ガッシャァンッ!!

 

 

「な、え? なななにゃにを……!?////」

 

「姉ちゃん鍋拾いなよ」

 

 

台所で料理の準備をしていると、隣にいた母さんがニッコリ笑顔で聞いてきた。

 

 

い、いきなり何を…!?

 

 

「まさかしてないの?」

 

「し、してないよ! するわけないよ!!」

 

「あら? 私はてっきり彼のことが好きなのかと思っていたんだけど……」

 

 

い、いや。好きだけど! 好きだけども! いきなり告白なんて……///

 

 

「わ、私は……その///」

 

「その…??」

 

「うぅ……そのぉ…!///」

 

「ん〜???」

 

「……!! もうっ! 母さん分かってて聞いてるでしょっ!!///」

 

「や〜ん照れちゃって。可愛いじゃない♪」

 

 

ニヤニヤ顔の母さんを睨みつけるが、それがより一層私の真意を裏付けているようで、母さんは「あらあらぁ♪」と嬉しそうに頬に手を当てる。

 

 

「もぅ。私はそういう意味で「頑張ってね」って言ったんだけど」

 

「だ、だって……」

 

「ん?」

 

「今の佳夏に告白しても……きっと応えてくれない……だろうし

 

「……本音は?」

 

…………恥ずかしくって……//////」

 

「はあぁぁぁっ。ヘタレねぇ〜」

 

「へ、ヘタ……っ!?」

 

 

先程の笑顔から一転、額に手を当てて項垂れる母さん。

 

 

ヘタレって……そこまで言う!?

 

 

「昔のお父さんそっくりよ」

 

「え、俺?」

 

「えぇ??」

 

「そうよ? 昔のお父さんはそれはそれは奥手でね。こっちがやきもきしたわ」

 

「「そ、そうなんだ……」」

 

 

どうやら父さんも初めて知ったらしい。

 

 

「だからね沙綾」

 

「は、はい!」

 

 

真剣な眼差しの母さん。つい敬語で返事してしまう。

 

 

「ドンドン押して行きなさい。意識してもらっていないのなら、させてこそよ」

 

「意識……させる…///」

 

「お父さんみたいになっちゃダメ」

 

「わ、分かった!!」

 

「ちょっと」

 

 

う、うん! そうだよね。

 

 

私頑張るよ。母さん!

 

 

顔が熱い……けど。なんだかちょっと嬉しい熱。

 

 

きっと伝えてみせる。この熱を……いつか必ずね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで沙綾。そのリボンどうしたの?」

 

「あ! コレね━━━━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

羽丘学園にて。

 

 

「コレ……その、返すよ。ありがとう」

 

「あ、あぁ」

 

「林さんって……お前のお姉さんだったんだな。亮」

 

「まぁな…」

 

「えっと……」

 

「変な奴だっただろ?」

 

「まぁちょっと……いや、結構」

 

「だろうな」

 

「………」

 

「………」

 

「……コスプレの趣味、俺はいいと思うぞ」

 

「違う! 違うんだ佳夏!! この執事服は俺のじゃない! 姉さんが無理やりよこしただけなんだって! 俺の趣味じゃない!! おい聞け! 聞けって佳夏! 「分かってる」って?……分かってねぇだろその顔はっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





質問への回答です。


Q.挿絵は作者が描いているのですか?

A.僭越ながら描かせて頂いております。いつもお褒めのコメント頂いてはニヤニヤしております……。

Q.宇田川巴はフリーですか? もしそうなら他のオリキャラとくっつけて欲しいです。

A.現状ほぼフリーな巴ですが、他のオリキャラとくっつく予定はありませんので悪しからず。


Q.もう更新はしないのですか?

A.申し訳ございませんでしたっっ!!!!!!
まっことお久しぶりにございます。
色々と言い訳をさせて頂くと、既に気付いている方もいらっしゃると思いますが、ざっと半年前にTwitterを開始しまして、そちらに構いっきりだったということです。本っ当にすみません…!
それ以外にも、最新話を書かずにその後の話を書き貯めしながらあっちを書いたりこっちを書いたり……と。そんなこんなで更新が遅くなってしまいました。

今後の更新ですが、もう少しこの小説を続けていく予定です。まだ書きたい話もあるので、投稿頻度は落ちてしまうと思いますがどうか暖かい目で見守って頂けますと嬉しいです。

今後とも"少年とガールズバンド"をよろしくお願いいたします。


質問、ありがとうございます。
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