今回はドスメラルー様のリクエストを若干脚色させて頂きました。
リクエストありがとうございます。
まりな『佳夏君。ちょっといいかな?』
佳夏『なんですか?』
まりな『CiRCLEにある張り替え用のギターの弦がそろそろ無くなりそうなんだけどね』
まりな『暇な時間でいいから買ってきて欲しいなーって。もちろんお金はCiRCLEから出るし』
佳夏『なるほど……。ちなみにメーカーとか種類は決まってるんですか?』
まりな『うん。今から画像送るからそれと同じのをお願い!』
佳夏『アイサー』
まりな『ありがとう! よろしくね』
◇◇
「あっつぇ」
というわけで、江戸川楽器店に来ている今日この頃。外は馬鹿みたいに灼熱だが…………おぉ…。中は涼しくて快適だ。
江戸川楽器店。存在こそ知ってはいたが、なんだかんだでこの街に引っ越してきてから初めて入る。
「……色々あるもんだな」
なんて独り言を零しながら店内を回る。買うものは決まっているが、せっかくの休日、ゆっくり見て回るのも良いだろう。そろそろスティックも新調してみたいと思っていたしな。
「……」
こうやって大量に並べられたスティックやシンバルを眺めるのはいつぶりだろうか。具体的な期間は思い出せないが、年単位のスパンだと思う。
ざっと20分程ドラムコーナーを眺めて、ふと本来の目的を思い出す。そうだよ、張り替え用の弦を買わなきゃ。
昨日の月島さんから送られて来た弦の写真をスマホから引っ張り出し、同じものを探す。
「…………あった」
意外とすぐ見つかったな。まぁこれだけ目立つ色のパッケージをしているならそうなるのも必然か。
俺は新しいスティックワンセットと大量の張り替え用の弦を抱えてレジへ向かう。
「ありがとーございました〜」
……なんであの店員さんずっと人形を抱えてるんだろうか。というかちょくちょくソレに話しかけていたし。…………友達居ないのかな…?
相変わらず個性的な人間の多い街だこと。それはそれで面白いのだがな。
そんな事を思考の隅に置きながら自動ドアをくぐる。
「……あっつぇ」
突然襲いかかる熱風に目を細める。もはや口癖レベルで口にしてしまうな。だって暑いんだもの。
とりあえずは任務完了。月島さんに連絡を入れて……。
「…………帰るか」
特にこの後の予定もない。休日万歳、家でゴロゴロしていよう。
嫌に照りつける陽を浴びながら我が家へ向かって歩き出す。
この時間だとしょうゆは散歩中かな。アイツイギリス産まれイギリス育ちのクセにこの暑さでも普通に外ほっつき歩くからな。別に羨ましくないけど。
まぁいい。
しょうゆのおやつでも用意しておこうか、みたいな。地味なサプライズ精神とスティックと弦を引っ提げて家の方向へ。
「林道さん」
◇◇
6月に入り心做しか日の上がり続ける時間も長くなったように感じていた。
今日は日曜日。Roseliaの練習も無く、久しぶりに江戸川楽器店へ向かう。ギターのメンテナンスを頼み、今はソレを回収しに向かっている所だ。
今日も日差しが強い。
日差しを遮るため、あえて視線を落としながら歩く。姿勢は悪いのだろうが、あまり気にしない。我ながら暑さにだらけている。
きっとあの子も同じように歩くのだろう。
そんな、なんの確証もないことをふと考えてしまう。
だから私は姿勢を正す。
「…………」
花咲川女子学園の文化祭から1週間が経った。
想像以上に多忙な1日だったけれど、充実感は確かに感じられた。…………正直メイド服を着る機会がこれ以上訪れないことを願う。
白金さんが倒れたと聞いた時は驚いたけれど、代役が林道さんだと聞いた時はそれ以上に驚いた。
接客もトラブルへの対処も流石だと思う。林道さんの常に冷静な心構えは私も見習いたところだ。
「………………………………………はぁ」
はて、いつからだろうか。
林道佳夏という1人の人間が気になってしょうがない。
文化祭に限らず、体育祭の時も、普段の練習の時も。彼の姿を見つけると、私は彼に何かを重ねて見てしまう。
……何を?
未だ答えは出ない。
それに、気になっている理由はそれだけではない。
湊さんがあそこまで彼に執着する理由。
あの強情さはいつかの宇田川さんにそっくりだ。
私は規則的な歩幅をメトロノームに、記憶を探る。
………………
…………
……
確かあれは、羽丘で体育祭が行われた数日後。
今日も林道さんは湊さんに連れられて、渋々という具合にRoselia練習に付き合って……付き合わされていた。
その帰り。
「湊さん」
薄暗くなった歩道をメンバー全員で帰る。(林道さんはそのままバイト)もはや習慣になりつつあるこの時間の中で、前を歩く3人を眺めながら湊さんに話しかけた。
「1つ聞いてもいいですか?」
「何かしら」
湊さんも目線は前に向けたまま答えるが。
「林道さんについてです」
そう私が言った途端、湊さんはこちらを見つめる。
「佳夏が、どうかしたの?」
「いえ……。湊さんがあれ程まで彼に執着する理由が分からなくて」
「……」
「お聞きしても?」
それを聞いた湊さんは再び視線を前に戻すと、言葉を選ぶような素振りを見せた。
彼は言った。
今のRoseliaに見合うマネージングができる自信が無い。
Roseliaの成長を促すなら、プロの指導員を雇った方がいい。
あらゆる物を犠牲にして頂点を目指す。という志に、生半可な気持ちで入れない。
正直に言って、正論だと思う。
確かに彼のギターの能力は素晴らしい。私としても勉強になる部分は多いとは思っている。
しかし。それは彼でなくとも可能ではないだろうか。
それこそ、彼の言う通りプロを雇うとか。
志という点についても同様。FWFで優勝するというRoseliaの意向に、妥協などするつもりは無い。故に生半可な志はむしろ悪影響だと思う。
しかし。
彼がRoseliaの練習に参加し(参加させられ)始めてからというもの、練習の流れがスムーズになったこともまた事実であると私は思っている。
些細なノイズも感じ取り、アドバイスやギターのチェックまでしてくれる。逆に私から教えることもあり、そういった時間は楽しくもある。
宇田川さんは特に嬉しそうで、彼のドラムテクニックに随分と執心な様子。恐らく1番成長の兆しが明確なのは彼女だ。
今井さんも調子が良さそうだが、妙に彼との距離が近い気もする……。林道さんは異性だ。風紀委員としては見過ごせないような気もするけれど、林道さんは適度な距離感を維持しているようで少し安心した。
彼の言い分も理解できる。
しかし彼の功績も確かなものだ。
私は……彼の加入に賛成でも反対でもない。
都合のいい中立。……本心を言うならば、どうしていいか分からないのだ。
恐らく白金さんも同様に……。
「個人的な理由と………こういう場合、一般的な理由…と言えばいいのかしら。……そのふたつがあるわ」
思考を遮るように、隣から聞こえた。
個人的な…? …………もしかして…湊さんは林道さんに惹かれている……とか、そんな……?
「……何を考えているのか分からないけれど、多分違うわ」
「…………そうですか」
違うようだ。
「まずは個人的な理由ね。………と言っても、かなり直感的な理由で、ひどくあやふやなモノなのだけれど」
「はい」
「佳夏なら、私達Roseliaを"頂点"まで導いてくれると思っているの。………これはリサにも言ったわ」
「………根拠は?」
「無いわ。言ったでしょう、直感的だと」
キッパリと言った。
たしかに直感的とは言ったけれど、想像以上にあっさりとしていて肩透かしを食らった気分。
「説明が難しいのよ。けど……そんな気がする」
「………」
Roseliaに加入して数ヶ月。その中で湊友希那という人間を多少は理解したつもりだ。
彼女は芯が強い。それに裏付けられたリーダーシップに私は強い共感を持っている。また、己の信じた物を疑わず、貫き通す力も持っている。
故に彼女は信じて疑わないのだろう。林道佳夏という人間がもたらす影響を。それがRoseliaの成長に大きく結びつくことを。
「それで、もうひとつの理由と言うのは?」
「……えぇ。」
個人的ではない一般的な理由とやらを問うてみた。
「彼はバンドという物を良く分かっている。それは紗夜も理解しているでしょう?」
「えぇ、まぁ」
練習の時、彼は楽器単体ではなく、結果的にバンド全体が良くなるようアドバイスをしている節がある。それに気付けたのは最近なのだけれど。
「経験値が違うのよ。Roseliaと佳夏では」
「経験値?」
「えぇ。佳夏から聞いたわ。彼、8歳からバンドを組んでいたそうよ」
「はっ……え?」
8歳? 思わず聞き返してしまう。
8歳から楽器を手にする……のならまだ頷けるが、既にバンドを組んでいるというのは……。
「それで、一昨年の冬まで続けていたそうよ。……流石の私も少し驚いたわ」
湊さんはうっすらと笑う。
「……それは」
「分かってる。歳が歳だもの。所詮子供のお遊びでしょうし、彼もそれは否定しなかった」
続きの言葉を待っていると、湊さんの表情が心做しか険しくなったように見えた。
「けれど……。彼のドラムを見た時……………どうしてもソレがお遊びには見えなかったのよ」
「え?」
湊さんは遠くを見るように、記憶を探り出すかのようにじっと前を見つめている。
「……たしかに林道さんはドラムの方が好きだと言っていましたが…」
思い起こせば1度も彼が本格的に叩いている姿を見たことがない。
「そうね。だから気になったのよ。ギターのスキルは確かなものだったし、ならばドラムはどうなのだろう……って。それで頼んだの。「叩いてみて」ってね。渋々やってくれたわ」
「……それで…?」
「…………圧倒された」
湊さんは少しばかり俯きながら答えた。
…………あのRoseliaのボーカル。"孤高の歌姫"とまで、称された彼女。常に冷静な彼女が褒めることはあっても、打ちのめされたかのような表情で「圧倒された」などと口にする事が未だかつてあっただろうか。
少なくとも私は知らない。
「素晴らしい……としか言えなかった。狂わないリズムに隙間隙間に音を入れる素早さ、演出的な動きを除けば無駄のない運び…。同年代の人間でアレ程までにできるドラマーを私は知らない」
「…………」
「むしろ何故埋もれているのか不思議よ。表に出れば引っ張りだこでしょうに」
「………………」
「私達も初ライブから注目されていた事は自覚している。「プロ顔負け」……なんて言われもしたけれど。どう考えても私達より彼の方がそのレッテルに見合っていると思う」
「……………………」
「紗夜も聴けば分かるわ。私の言いたい事が」
絶賛だった。まるで……。
「きっと……才能が、あったのですね」
才能。
自分で口にしておいて今さら後悔する。
まるで……。そう、まるで日菜を讃える人間の言葉と似ている。
……あぁ。なるほど。やはりそうか。
彼にも楽器の才があったのだろう。……私とは違う次元の話だ。
「それは、恐らく違うわよ。紗夜」
「………………え?」
否定された。
何故?
「彼の音には研鑽の重みがあった。ギターとドラムとでは比べるのは難しいけれど、紗夜。あなたの音とどこか似ている気がするわ」
「私の?」
「えぇ。血の滲むような努力の音よ」
思わず足を止めてしまった。つられたように湊さんも数歩先で私を見つめながら立ち止まる。
彼が私と似ている?
「佳夏は言っていたわ。「俺にドラムの才能は無かった。だからここまで来るのに7年もかかってしまった」って」
「……」
「「何度辞めようと思ったか数え切れない」とも言っていたわ」
「……なら、なんで」
「それでも……追い付きたい人がいたそうよ」
行きましょう。と、歩を進めるよう催促される。
私は思い出したかのように歩き出し、再び湊さんの隣へ。
「追い付きたい人とは…?」
「さぁ……そこら辺ははぐらかされたわ」
「…………そうですか」
「けど、その為にひたすらドラムを叩き続けたそうよ。毎日のように。それは彼のドラムの音が証明している」
湊さんの言葉を聞いて考える。
自分の技術は所詮趣味の範疇だと彼は言った。しかし、湊さんの話を聞く限り、林道さんのソレはもはや趣味などと言う領域を逸脱している気さえする。
「……そうね、私もそう思うわ。けど…」
「けど?」
「結局は自己満足、なのだそうよ。追い付きたい人に追いつければ、追いついたと自分で誇れるようになれればそれでいい……と言っていたわ」
「誇れれば、それでいい……」
「もちろん彼も相当なドラム好きよ。だから佳夏は"趣味"と形容したのだと思う」
「…………」
今の話を聞いて、私はとてつもない興味を彼に抱いた。
彼は…………もしかすると、とても"強い人"なのかもしれない。
醜い私とは違う。意志の強い人。
素直に、純粋に憧れた。
「あこの成長はきっと誰もが理解している。それが佳夏のおかげであることもね」
「……そうですね。初めの頃に比べて、宇田川さんの技術は確実に上達しているように感じます」
「あこだけじゃない……。既に佳夏の力はRoseliaに大きな影響を与えている。……まぁ、本人は自覚していないようだけれど」
そう言うと、湊さんは一呼吸おいてから言い放った。
「だから私は彼が欲しいの」
意志の籠った山吹色の瞳が、暗がりの中でも輝いて見えた。
湊さんにここまで言わせる人。
林道佳夏という人間は、一体何者なのだろうか。
そして……。
「(……………………どうして)」
どうして彼は━━━━━バンドを辞めてしまったのだろうか。
そんな疑念が残った。
………………
…………
……
気付けばもう江戸川楽器店の近くまで来ていた。
考え事をしていると時間の感覚が加速するような感じがする。ギターの練習の時はよくある事だ。
「…………」
私は湊さんとの会話の他にもうひとつ思い出したことがある。
いや、引っかかっている事がある。
『━━━━━俺はお前の劣等種じゃないのに…ってね』
そう。体育祭だ。
彼は私にそう言った。
その言葉が、その重みが、私の心に深く突き刺さったのを覚えている。
林道さんはもしかしたら………私と━━━━━
「…………ぁ」
江戸川楽器店まであと数メートルというところで、ふと、店から人が出てくるのが見えた。
林道さんだ。
こうしてプライベートで会う……というより、私が一方的に見つけただけのようだが、こういうお互いフリーの状況は初めてだった。
彼は私に気付いていない。
流れるように、彼は私に背を向けて歩き出す。
「━━━━━林道さん」
私は……咄嗟に彼を呼び止めていた。
◇◇
俺はゆっくりと振り返った。
そこには私服姿の紗夜さん。
「……こんにちは」
「…………こんにちは。奇遇ですね」
そう言った紗夜さんは歩きながらこちらへ向かってくる。
「江戸川楽器店から出られたようですが、買い物ですか?」
「えぇ…。月島さんに頼まれて、ギターの弦なんかを少し。紗夜さんは?」
「私はメンテナンスに出していたギターを受け取りに」
話を聞くに、紗夜さんはこまめにメンテに出しているらしい。紗夜さんらしいといえばそうなのかもしれない。
「……? えっと……何か?」
ギターを回収しに来た紗夜さんだが、江戸川楽器店には入らず、何故かチラチラと俺の顔を見ながら何処か言葉を捻り出そうとしている様子が見受けられた。
「いえ……その。…………林道さん」
「?」
「この後、お時間……ありますか?」
紗夜さんはおずおずと聞いてきた。
紗夜さんが俺に用があることに対しての疑問はさておいて、ざっとこの後の予定を脳内確認する。
家でゴロゴロする。
…………。
「えぇ、大丈夫ですよ」
「そうですか。では少しお話できませんか?」
「話?」
「えぇ」
「いい、ですけど……」
「……大事な話なので」
「………」
大事な話。そう聞いて俺は欠片も浮かれたりは出来なかった。
紗夜さんのいつも以上に真剣な表情が、その"大事"の部分の重大さを物語っている。
もしかして……。
「……良かったら
「え?」
「俺もう帰るだけなんで……。お茶くらい出しますよ」
「……いいんですか?」
「はい」
「…………でしたら、お言葉に甘えて」
こうして、紗夜さんを我が家に誘う事になった。もちろん邪な気持ちなどない。
紗夜さんはギターを受け取りに店内へ。俺も涼しさを求めて店内で待つが、ものの数分で先程までは持っていなかったギターケースを担いで紗夜さんがやって来た。
「お待たせしました」
「いえ、行きますか」
「はい」
俺たちは並んで店を出る。
◇◇
江戸川楽器店から出て数分。住宅街にいた私は内心ほっとしていた。
異性を個人的な理由で誘うという行為が初めてだったからだ。
「話がしたい」という一言を捻り出すのにここまで口ごもってしまうとは我ながら情けない。
しかし成功はした。
ならそれで良しとしておこう。
……そういえば。流れで林道さんの自宅まで行くことになってしまった。彼の事だから邪な気持ちなど無い、とは思うけれど。
たかだか1ヶ月超の付き合いなのに、ここまで気を許してしまっているのは何故なのだろうか。
不思議だ。
文化祭で起こった一悶着の時。あの他校の男子生徒に誘われた時は嫌悪感しか湧かなかったのに。
本当に不思議だ。
「紗夜さん」
「はっ…はい…!」
「…?」
しまった。急に話しかけられたものだから心臓が跳ねると共に上擦った返事をしてしまう。
一旦落ち着こう。
「ん"んっ……なんでもありません」
「…はぁ」
「それで、何か?」
「あぁ……その。話ってなにかな、と」
「……それは」
「妹さんの話、ですか?」
……早々に言い当てられてしまった。
「よく……分かりましたね」
「……紗夜さんが俺と話したい事なんて、文化祭の件か日菜先輩の事ぐらいしかないと思ったので。そして、紗夜さんが「大事な話」って言うくらいなら、後者かな……と」
「…………Roseliaの話、という可能性は?」
「紗夜さんが俺にRoseliaの話をするとは……あまり思ってません。俺部外者ですし。そこら辺は弁えているでしょう」
「えぇ、まぁ」
「するにしてもCiRCLEですればいい。緊急って感じでもなさそうですし。問題が起きたなら、あなたならまずはRoseliaの中で解決しようと、そう考えそうですし」
「…………」
よく考えている。
たしかにその通りだ。Roseliaに何かトラブルが生じた場合、彼を巻き込むのは筋違いだろう。そこら辺の線引きはしているつもりだ。
しかしまぁ。……部外者と言うには、彼はRoseliaに些か入れ込み過ぎな気もするけれど。
「それは……すいません」
「いえ、責めてるわけではありません」
「……どうも。でも分かっちゃいるんですよ。こんな中途半端はどうなのかなって」
「今井さんが言っていましたよ。あなたは"お人好し"だからRoseliaの練習に毎回付き合ってくれるのだと」
「先輩のその括りに先輩自身を入れていないので、ぶっちゃけ信用してません」
「ふふ」
だが、今井さんの言う通りだと思う。彼は紛れもなくお人好しだ。
「それで、話というのはですね………………ん?」
「ん?」
私は唐突に歩みを止める。林道さんも続いて立ち止まる。
……なんだか背中の辺りがゾワゾワする。
あぁ、これは━━━━━
「……林道さん。すみません」
「? 何がすか?」
「日菜が来ます」
「え「おねぇちゃぁああんっ!! 佳くぅうううんっ!!」え」
私のいつの間にか身についていた危険察知能力(妹専用)が汽笛を鳴らし、予想通り住宅街の向こうから猛スピードでこちらにやってくる私の妹。私と同じくギターケースを担いでいるというのになんというスピード。
キキキィィッと音を立てながら急制動を掛けて私たちの前へやってくる。……そういうことをするからあなたはすぐ靴をダメにするのよ。
「2人とも何してるの? あ! もしかしてデート!?」
「ち、違うわよっ」
「そうなの?」
「まぁ、デートではないかと……。とりあえずこんにちは」
「こんにちはぁ!」
元気に笑顔を撒き散らしながら挨拶をする日菜。
正直…………今はここに居て欲しくない。
林道さんも察しているのか、私の様子を伺っている。
「日菜。今日はレッスンじゃなかったのかしら」
「あぁソレね。なんか今日は人数少なくなっちゃったし、飽きちゃったから今日はもういいかな〜って。あたしもう覚えたし」
「……っ」
……本当に。これだから…。
「飽きちゃったって……」
「彩ちゃんと麻弥ちゃんなら残ってるんじゃない?」
「(…………後で丸山さんから連絡来そうだな。主に愚痴)」
「ところで2人は何処か行くの?」
「……あなたには関係ないでしょう」
「…………」
「えぇ〜」
最悪なタイミングよ。今1番会いたくない人物に1番会いたくないタイミングで鉢合わせるなんて……。
「あなたは帰って」
「おねーちゃんだけ佳君を独り占めとかズルいー」
「私達は遊んでる訳じゃないの…!」
「じゃあ何してるの?」
「……っ。それは……」
言えるわけない。他でもないあなたの事を相談しようだなんて……。
「……はぁ。Roseliaのライブの話ですよ」
「……!?」
「ライブ?」
「えぇ。今度CiRCLEでRoseliaがライブするんで軽くその打ち合わせに。さっきそこでばったり会って、丁度いいからって」
「? それって2人きりでやるの?」
「Roseliaの事務的な部分は紗夜さんが担当してるみたいなんで、俺もCiRCLEスタッフとして手伝うことも多いですし、予定も詰めておきたかったので」
「ふーん。ソレ、何処でやるの?」
「俺ん
「え!? 佳君
「はい」
林道さん…!? そんな事言ってしまったら━━━━━
「いいないいなぁ♪ ねぇねぇ。あたしも行っていい?」
━━━━━ほら、やっぱり。
「別にいいですよ」
「ちょっ……!」
「やったぁ! るんっ♪てきた!」
どういうつもりだろうか。どう考えても悪手にしか思えない。林道さんも私が何故話を持ちかけたのか理解しているはずなのに……!
「ただし」
「「?」」
「俺と紗夜さんは大事な話をするので、あまり邪魔はしないでくださいね。それが約束できないなら、家に入れることはできません」
「約束します!」
「よろしい」
「………ぇ」
「紗夜さんもそれでいいですか?」
「…………あ、はい」
「では行きますか」
「レッツゴ〜!」
「…………」
◇◇
「も〜! 日菜ちゃんホントに帰っちゃったのぉ…?!」
「あはは…。今日は"るんっ♪"て来なかったみたいですね」
「うぅ…。千聖ちゃんはドラマの打ち合わせで最初からいないし、イヴちゃんはモデルの撮影で途中からいなくなるし……」
「仕方ないですよ…。ジブン達だけでも練習しましょう」
「でもぉ〜…! …………これは林道君に愚痴るしかない…!」
「(佳夏さんが不憫っス……)」
「……あ。林道君からメッセージ? 珍しい……」
「彩さん? どうしたんですか?」
「……『レッスン頑張ってください。応援してます』…………だって」
「おぉ」
「麻弥ちゃん……。私頑張るよ!!」
「お、おぉう。はい! 頑張りましょう…!(単純だなぁ…)」
「よーっし! 元気出てきたぞー!!」
「…………(というかこのメッセージ。後文に『愚痴は受け付けません』って書いてあるの流石ですね……)」
◇◇
「んにゃん」
「……なんだ。家にいたのか」
「わぁ! 猫ちゃんだぁ」
「日菜。騒がないで」
林道さんの家に到着。外見もそうだったが、やはり中も綺麗だ。
って、いけない。品定めするみたいな見かたは失礼だ。
…………可愛い猫ね。
「どうぞ、上がってください」
「お邪魔しまぁ〜す♪」
「お邪魔します」
玄関から廊下に入り、そのままリビングへ。
「綺麗な家だね〜」
「物がないだけですよ。引っ越してきたばっかですし」
「お引っ越しなされてたんですか?」
「あれ。言ってませんでしたっけ」
「初耳です」
「あたしもー」
話を聞くに、なんでもイギリスから越してきたのだとか。なんだか急にスケールの大きい話になったような気がして少し動揺した。
確かにリビングには物が少ない。テレビは異様に大きいが……。なるほど、隣にある縦長の棚に並べられた大量の映画のDVDを見て納得した。彼はかなりの映画好きなのかもしれない。
だとしてもあまりに簡素だ。ミニマリストに近いのかもしれない。猫を飼っていることも要因の一つだろう。
「林道さん。今日ご両親は……」
「いませんよ」
「お仕事ですか?」
「いえ、その……。
元々いない。その言葉の意味を分からない程馬鹿では無いつもりだ。
私は即座に謝る。
「すみません…。失礼な事を」
「そんな……謝らないでください。もう10年も前の話ですから」
「とりあえず適当にソファにでもかけてください」と、手に持った荷物を置きながら言う。
この生活感の薄さを鑑みれば、彼はここに一人暮らしなのかもしれない。
「佳君佳君! 佳君の部屋って何処?」
「なっ…! 日菜っ」
「2階です」
「り、林道さん……?!」
「行ってきまーすっ!! 行くぞぉ猫ちゃん!」
「!?!? んに"ゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「日菜! せめて了承を得てから……!!」
ドタドタと響く足音に掻き消され。虚しくも私の声は既に誰もいない空間へと吸い込まれていく。
どうかしている。いきなり人様の家を散策するなど…。しかも何故猫を連れていったのよ…!
「いいんですよ紗夜さん。……しょうゆを持っていかれたのは予想外でしたけど(南無三……)」
「ですが…!」
「せっかく話題も変えてくれたようですし、これで暫くは降りてきませんよ」
これでいい、とばかりに林道さんは落ち着いている。
そのままキッチンの冷蔵庫を開けてお茶を用意し始める。手伝おうと思ったのだが「お客様なので」と断られてしまった。
「あの手の人間には、興味の矛先をこまめに更新させるといいですよ。あ、麦茶でいいですか?」
「はい、ありがとうございます。……興味の更新、ですか?」
林道さんはコップにお茶を注ぎながら言う。
「えぇ。日菜先輩みたいな手合いの場合、新しい事とか物が大好きですからね」
「…なるほど」
なんというか。日菜と出くわした時も、先程のやり取りも、まさに"手慣れている"という感じがする。
「まぁそうですね。
「……」
やっぱり。
彼は知っている。私の現状も、私の苦悩も、"経験"として知っている。
「ソレが聞きたかったんじゃないですか?」
「……お察しの通りです」
「とりあえずお茶どうぞ」
「いただきます」
私は受け取ったコップを早々に口につける。カランという氷の音が響き、それを合図にするかのように私は話し始めた。
「……まず、私の話を聞いてくださいますか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
◇◇
私の妹。氷川日菜は天才である。
今となっては周りの人間なら誰もが知っている事実だ。
そんな妹が………私は苦手だ。
いや……。もう既に嫌いなのかもしれない。
「おねーちゃん見て! あたし今日もテストで100点だったよ」
「……凄いじゃない」
「でしょ! えへへ。あ、おかーさーん! 見て見てぇ〜」
兆しが見えてきたのはきっと中学に上がる以前だったと思う。
この頃からジワジワと。日菜という太陽の熱に焼かれるような日々が訪れた。
日菜は紛れもないギフテッドだった。"天才肌"なんて生易しいものでもない。真に天から才を受け取ったのだろう。
あの子のやることなすことその全てが、私の10歩先を行く。
自惚れではないけれど、私も平均以上に物事はこなせる自負がある。
けれど、あの子は満点なのだ。
何かに限る話ではない。あの子が手をつけた物事は必ず100点をたたき出す。
そして私を惨めにさせる。
「おねーちゃん見て! あたし今日もテストで100点だったよ」
「……そう」
お互い成長し、己の力だけでできることが増えていくと。その差も指数関数的に広がっていった。
ふと小耳に挟んだ。
きっとあの人も凄いんだろうなぁ。
あの日菜さんのお姉さんなんですか?
妹ができるのに何故姉はできないのだろう。
……。
苦しい。
やめてほしい。
比べないで欲しい。
何度そうやって期待されて。
応えようと努力して。
それを裏切ってしまったことか。
その度に私は絶望に打ちひしがれる。
「おねーちゃん見て! あたし今日もテストで100点だったよ」
「……やめて」
あなたがそうやってひけらかすから…。私はこんなにも惨めで不安定になるのよ。
しかも……。何故あなたは私と同じ事ばかりしたがるの?
あなたは私以上にできるものが山ほどあるというのに。
私の真似はしないで。
いや違う。
日菜の方が優秀な結果を残すのだから。それはもう真似事では無い。
周りからはむしろその逆に見えるのでしょうね。
さぞ、滑稽に映るのでしょうね。
氷川日菜の劣等種として。
「おねーちゃん見て! あたし今日もテストで━━━━━
「やめてっ!!」
やめて。
やめてやめて!
なんであなたはそうやって、私の努力を無視するの?
私がどれだけ試行錯誤して、ペンを走らせて、身体を動かして、唇を噛み締めて来たか分かってるの?
えぇ、分かるわけないものね。
あなたはそういう子なのだから。
「お、おねーちゃん……?」
「……っ」
その「何故姉は怒鳴ったのだろう」みたいな顔に嫌気がさす。
だから私は日菜から逃げた。
会話も減った。
目を見ることも減った。
何故なら私が避けたのだから。
何かが爆発したその日から、まともな会話をした記憶がない。
他人の前では取り繕って生きてきた。
もう、嫌なの。
あなたに焼かれるのは嫌なの。
痛くて痛くてしょうがないのよ。
こんな事を考えている自分も……もう嫌なの。
お願いだからこれ以上━━━━━
━━━━━あなたを嫌いにさせないで。
◇◇
「それでも私は、努力は続けたんです。せめてものレジスタンスとして」
私はコップに入った氷を見つめながら話を続ける。
「けれど、その意味合いも昔とは変わりました。自身を強くする為の努力ではなく。今では、日菜という輝きに消されないように
「………」
いつしか。中学では名前の通り「氷の女」とまで呼ばれていたことを知っている。
不必要だと感じた物は全て削ぎ落として来た。そうでもしないと自分を保っていられない気がしたから。
それほどまでに私は必死だったのだろう。見苦しいほどに。
「私の憶測の通りなら。……林道さん。私はあなたのその"強さ"が羨ましくてしょうがありません」
「……強さ?」
「あなたも同じ…なのでしょう?」
「………」
私は自嘲気味に薄い笑顔を林道さんに向けた。
しかし、彼の表情は反して暗い。
「………周りの人間から比較されるって……怖いですよね。いつだって強い者が正義ですから」
そう。負け犬の私は悪だ。
そんな意味を孕んだ視線を何度感じてきたのだろう。
「俺の話。聞いてもらっていいですか?」
「……はい。是非」
「少し……長いですよ」
「構いません」
私は彼の次の言葉をじっと待つ。
あなたの中にある私と同じ物を知りたい一心で。
私の悩みの答えを聞きたい。
◇◇
「ここは……。おぉ、ドラムがある」
早速2階に上がったあたしは絶賛探検中!
本当のところは2人と一緒に居たかったけど、どうもそんな雰囲気じゃなさそうだからこうしている。
引っ越して来たばかりってさっき佳君が言ってたからなのか、何も無い部屋がいくつかあった。ようやく何かがある部屋を見つけたけれど、ど真ん中にでっかい黒い電子ドラムが置いてある部屋だった。
佳君ってドラム叩けるんだね。
またひとつ彼の事が知れた。
ちょっと見てみたい! 後でお願いしよーっと。
「ここだけ妙に扉が厚いのは防音だからかぁ」
なんて零しながら、また隣の部屋を開けてみる。
「あ! ここが佳君の部屋だねっ」
一気に生活感のある空間になった。
「んにゃんっ!」
「わわっ」
さっきまで抱えていた猫ちゃんが逃げちゃった。なんかコッチを睨んでるっぽいけど。可愛いなぁ。
「男の子の部屋って初めて入るなぁ」
小説とか漫画が結構沢山ある。好きなのかな?
大きいベットに隣のテーブルにはノートパソコン。……後で覗いて見よっかな〜。
「さて」
まぁ、ここまで来たんだもん。止めなかった佳君が悪いしね。
やることはひとつよ。
探しますか━━━━━エッチな本。
レッツトレジャー♪
20分経過。
「………無い」
佳君のベッドにストンと座りながら呟く。
安定のベッドの下はもちろんの事、クローゼットの中も探したけど無かった。
持ってないのかな?
私はそのままコテンとベッドに倒れ込む。
「………あ、佳君の匂い…」
佳君にぎゅ〜ってした時と同じ匂いがする。そりゃそっか。
…………………………るんっ♪
「あっそうだ!」
トレジャーしている間に面白いもの見つけたんだった。
1冊の大きなアルバムとギターケース。
なぁんか気になったんだよね〜。
「ではご開帳」
まずはアルバムから。ベッドの上にボスンと置いて表紙を開く。
けっこう重い。
「………わぁ」
ひと目でわかった。これは家族写真だ。
女の子が2人と男の子が1人、大人の女の人が1人。男の子は佳君だね。すぐ分かる。
その4人が写った写真が何十枚、何百枚もある。
日常のほんの一瞬を切り取ったような写真ばかり。
でも不思議だ。
4人とも顔は全然似てないし、1人に限っては紛れもなく外国人だ。血の繋がり? みたいなものを感じない。
けど、この4人が"家族"だって瞬時に理解できた。
なんでだろう。
「……楽しそう」
皆笑顔だ。……ぁいや、佳君は全然笑ってないけど。
でもなんか楽しそうだね。
いいなぁ。
あたしも………おねーちゃんとこういう写真が撮りたい。
おねーちゃんとまたこんな風に笑い合いたいな。
何十分見てたかな。かなりの時間をかけてゆっくりと、あたしはそのアルバムを眺めた。
ページ的に、コレが最後の写真かな。
「━━━━━━━━━━?」
あたしはそっとアルバムを閉じた。
「………」
コレはどういうことなんだろうか。
いやきっと違うでしょ。
そんなの佳君に失礼だ。あたしでもそれくらいわかる。
「聞かない方が……いいかな」
あたしは、最後の写真をもう一度見返そうとは思わなかった。
「……………………よしっ、次!」
切り替えていこう!
アルバムを横にずらして、次はギターケースを持ってくる。
佳君のギターかな? リサちーが佳君もギター弾けるって言ってたしきっとそうだ。
どんなギターかなぁ♪
あたしは躊躇わずケースを開ける。
「……わぁ。真っ黒だ」
中にはツヤのある、しかし使い込まれた事がひと目でわかるような黒いストラトキャスター。
ネックまで黒く染められており、ピックガードの縁の赤いラインが良く映えている。
これが佳君のギター…?
「…?」
なんだかあまりそんな気がしない。
━━━━━あぁそうだよ。
このギターは佳君のじゃない。
あたしは先程まで見ていたアルバムに視線を移す。
アルバムの中にこのギターを担いでいた女の子がいた。きっとその子のギターなんだ。
「…………」
待って。
それって………。
「………………ん?」
ギターケースの中に何か別の物が入っている。
「…! なに…これ━━━━━」
◇◇
「━━━━━━━━━━っ」
……何も言える事が無かった。
林道さんの話を聞いて、私から言えることなんて何も無かった。
むしろ聞きたい。
「なんで…………………………っ……………………………………何故………………あなたは、そんなにも強くいられるのですか……?」
浅はかだった。
私は彼に救いを求めようとした。
彼がこんなにも辛い……聞いてる私の喉が熱くなるほどに苦しいモノを背負っているとも知らずに。
数十分前の自分を殴りたくなる。
「………それは違いますよ。俺は…強くなんかない」
目の前の彼はお茶の入っていないコップを両手で握りながら言う。
「あなたは、自身の悩みに近しい俺を美化して見ているだけです」
「そんなことは……」
「ありますよ。……俺だって、今でも思い出して辛くなる時はあるんです」
「……」
俯いて呟いた林道さん。
彼の顔が見えない。否、見れない。
彼がどんな気持ちをその言葉に乗せているのか想像できない。
……それでも。
「…………それでも私は、あなたが羨ましい」
テーブルに零すように、私も俯き気味に言った。
「どうすれば、私も……あなたのように「ならないでください」……え?」
突如として私の言葉を遮った林道さんの言葉が、私の顔を上げさせた。
「俺みたいになろうだなんて……絶対にやめてください」
「………な」
「俺は取り返しのつかない事をしました。悔やんでも悔やみきれない。俺にとって「あの時ああしていれば」なんて日常茶飯事です」
「………」
「大切なモノをなくした」
「………」
「人も━━━━━━━━━━殺しかけた」
「………」
「俺は今後一生、この苦しみと隣り合わせで生きていくんです。……きっと乗り越えるなんてできない」
あぁ…。
あなたのその顔は……悲しみか。
哀れみか。
いや………違う。彼は━━━━━私に怒っている。
「……けど、紗夜さんは違う。俺と同じに、なんて馬鹿げたこと言わないで欲しい。……まだどうにかなるんです」
まだどうにかなる?
「まさか"諦めた"なんて言いませんよね? ……いや、諦めてないから俺に話をしたんですよね」
「………」
「あなたが今、日菜先輩との関係を変えようとしていることは分かっています。そのための"努力"をし始めていることを知っています」
…………………そう。
そうなのだ。彼が知っている事を知っていたから、私は彼に話しかけたのだ。
私は……日菜が怖い。けれど………今のこの関係を続ける事の方が、この関係を続けた先に得てしまうモノの方が怖いのだ。
コレは紛れもない本音。そう、たった今気付かされた。
「俺だって……、すぐに何のわだかまりもなく仲良くなった訳じゃない。そんなの無理です。………けれど、それでも俺はアイツと親友で………家族で良かったって、心の底から思うんです」
「………林道さん」
「ソレに気付くのが遅すぎた……。俺とアイツとの関係の終わらせ方は最悪もいい所だったけれど、……アイツとの生活は幸せ以外の何物でもない」
消え入りそうな声。今まで見てきた林道さんの中で、ここまで弱々しい彼を、私は見たことがない。
あなたは……私に自身の弱い部分を見せてくれるのですね。
「……ぁ」
すると。どこからか小さくトントン…と聞こえてくる。
猫の足音だ。
「んにゃん」
「…………しょうゆ」
器用にリビングの扉をジャンプで開けて入ってきた林道さんの飼い猫。「しょうゆ」という変わった名前の猫のようだけれど、林道さんに物凄く懐いている。
猫はそのまま彼の太腿を跳躍で経由して肩に乗り、しきりに彼の顔に自身の顔を擦り付ける。
まるで「悲しまないで」とでも言うように。しきりに。
「……紗夜さん」
「…はい」
猫を数十秒程撫でた後、林道さんは太腿に移動した猫の背中を撫でながら私に声をかけた。
「俺は、家族が大好きです」
「……」
「物凄く大切です」
「……」
「紗夜さん。あなたはどうですか?」
私の目を真正面から見据える彼の黒く…しかし輝きを放つその瞳に、小さく狼狽する。
家族は勿論好きだ。そういう大きな括りなら…。
父も母も優しい。私の苦悩にも理解を示してくれるし、「紗夜のペースでいい」とまで言ってくれている。
けれど━━━━━
「答えは出さなくてもいいです。あなたの中に秘めておいてください」
「……え」
「いつか胸を張って言える日まで、ね」
「……」
見透かされている。敵わないな、と思ってしまった。
はたして、そんな日が来るだろうか。
「
「……!」
「接し方はぎこちないし、距離感も下手くそだったりで、そりゃあ諍いもあったと思います。俺もそうだった……。でも、それでもあの人は
ドキリと、まるで何かに内臓を鷲掴みにされたかのような衝撃が走った。
「━━━━━」
「ゆっくりでもいい。少しづつでもいい。時間がかかるのは分かりきっているけれど……。それでも━━━━━
━━━━━あなたのその歩み寄る足だけは、絶対に止めないでください」
重く、鋭い言葉が私の心の臓を貫く。
この人は私の事を理解してくれている。見てくれている。薄っぺらい同情なんかじゃない。真に私の苦悩と寄り添ってくれる。
「必ず日菜先輩は応えてくれますよ。必ず」
「…………そうだと…
………あぁ。
そうか。
嬉しいのか。
私はあの子の隣に立ちたい。そう誇れるようになれれば、きっと心の底から喜べるのだろう。
『━━━━━追い付きたい人に追いつければ、追いついたと自分で誇れるようになれればそれでいい』
湊さんの言葉を思い出す。
そういうこと……だったんですね。
「━━━━━ぁ」
気付くと、私の頬には一筋の涙。
「……す、すみません。お見苦しい物を…」
「いえ。少し、スッキリしたんじゃないですか?」
「え?」
「そんな顔してます」
咄嗟に涙を拭った手を止めて、自身の顔に触れてみる。
結局、自分がどんな顔をしているのか分からなかったけれど。……そう、確かに何かスッキリとした気持ちがあった。
「初めて……なんです。こうやって胸の内を誰かに話すのは」
両親にだって、こんなに話したことはない。
「……そうですか。それは………失礼な物言いかもしれませんが、光栄な話ですね」
彼は視線をずらしながら、遠慮がちに言った。
「俺もですよ。家族以外にこの話をしたのは紗夜さんが初めてです」
「……そうなんですか」
互いに、おいそれと口に出していい、口に出したいと思う話ではない。それを理解し合っているからこそ………彼の言葉を借りるなら、光栄な話だと思う。
「なんか俺も肩が軽くなった気がします」
「……えぇ。私もです」
「んにゃん」
「悩みは話すだけでも気分が軽くなる」とはよく言われているけれど、今日生まれて初めてそれを実感した。
「ありがとうございます、林道さん。……なんだか、目指すべき物が少し見えた気がします」
「こちらこそ。力になれたのなら良かった」
そう言った彼の、優しさに満ち溢れたかのような瞳を見て。
「━━━━━はい」
私は心の底からの笑顔を作れた気がした。
◇◇
「美味しそうな匂いっ!!」
人様の家だというのに、日菜はガチャンッ!!と大きな音を響かせてリビングに入ってきた。
「日菜。私達の家じゃないのだから静かに入りなさい」
「おっとと。ごめんね佳君」
「いえ。丁度呼ぼうかと思ってた所です。簡単な物ですけど、食べます? 昼食」
「食べるー!」
あの後、"しょうちゃん"がお昼ご飯を要求しだし、それに倣う形で私達も昼食をとる事となった。今は料理中の林道さんのお手伝いをしている。
あぁ。しょうちゃんとは林道さんの飼い猫のことである。名前は「しょうゆ」なのだが、呼びづらいということで「しょうちゃん」と呼ばせてもらっている。
流石に昼食まで世話になるつもりはなかったのだけれど、「皆で食べた方が美味しい」と言う林道さんのお言葉に甘えることにした。
「あー。猫ちゃんここにいたんだ」
「………」
「あなたこの子に何したのよ。睨まれてるわよ」
「あちゃー」
「コラ、しょうゆ」
「……にゃ」
まぁ、いきなり強引に連れて行かれればそうもなるわね。……などと言っているけれど、かくいう私も少し警戒されているきらいがあるようね。警戒心が強めの子なのかしら……。
「すみません。コイツほんとめんどくさい猫なんで」
「いえそんな…」
「ほーら、チチチチ」
「……」プイッ
「ありゃ。そっぽ向いちゃった」
懐く人には懐く、そうでない人にはとことん無関心なのかもしれない。極端な性格のようね。
「出来ましたよ」
「あ! キタキタぁ〜♪」
「あなたは食器を運ぶの手伝って」
「はーいっ」
林道さんが調理を終え、テーブルに並べられる。
「パスタだ〜」
「えぇ。サーモンクリームパスタです」
「とても美味しそうですね」
シンプルながらに色鮮やか。クリームの濃厚な香りが食欲を唆る。ありがたいことに人参は入っていないようだ。
私達はテーブルに着き、揃って手を合わせる。
ちなみに日菜と私、向かいに林道さん、その足元にしょうちゃんという配置で座っている。
「んん! すっごく美味しいっ!!」
「えぇ…。ほんとに美味しいです…!」
「それは良かった」
早速パスタを口に着けた私達だが、想像以上の美味しさに目を見開く。
何となくだが、きっとこの料理は凄く美味しいのだろう……と思っていた。キッチンに立つ姿を隣で見ていたが、凄く様になっていたし、何より動きに無駄も迷いもなかった。相当料理慣れしているとひと目で分かる。
「イギリスにいた頃は家族の料理は俺が担当してました」
「なるほど、どうりで」
「じゃあさ、イギリス料理とか作れるの?」
「あまり作れませんね。イギリス料理、普通に美味しくないので」
「「えぇ……」」
「むしろ日本料理の方が作り慣れてますけど、最近は色んなのに挑戦してますね」
「……あ! フライドポテトとか作れたりする?」
「日菜。あなたね……」
「作れますよ「ホントですか??」え……ぁ、はぃ……」
「あはは! おねーちゃんポテト大好きだもんね! あ、もちろんあたしも好きだよ〜」
「ひ、日菜…!//」
「なるほど……。後で作りましょうか? フライドポテト」
「え!! いいのっ!?」
「えぇ。まぁ簡単ですし」
「ぁ……その…。いいんでしょうか…?//」
「もちろん。なんなら一緒に作りますか」
「やったぁ〜!! るんっ♪てくるね!」
「紗夜さんも」
「……よろしくお願い…します」
「はい」
「うんうん♪」
「……ところで日菜。あなた2階に上がって何をしてたのよ。何か変なことしてないでしょうね」
「えーしてないよー。それに無かったしね」
「? 何がすか?」
「エッチな本」
「…………な……なななななな何をっ!?!?////」
「……紗夜さん落ち着いて」
「あははは! おねーちゃん面白いね♪ んで? 佳君はそういうの持ってないの?」
「持ってないですよ。ていうか探さないで欲しいなぁ」
「なーんだ、やっぱ無いのか」
「流石の
「…………///////」プシュー
「……おぉ。おねーちゃんの頭から湯気出てる」
「誰のせいだと…っ!!///」
「あっははははははっ!」
「笑い事じゃないわっ///」
「とりあえずお茶どうぞ」
「あ、ありがとうございます…//」
「そーいえばさ佳君っ」
「はいはい」
「2階にドラムセットあったよね。後で叩いてるとこ見せてよ!」
「……! ソレ、私も興味ありますっ」
「あぁ……。まぁ、別にいいですけど」
「ホント! やったねおねーちゃん!」
「……えぇ」
「きっと凄いんだろうなぁ、佳君のドラム」
「大層なもんじゃないですよ、ほんと」
「いえ、期待してますよ」
「してますよ!」
「えぇ……。やめてくださいよそういうの…」
「ふふっ」
「んふふ♪」
「おねーちゃんは佳君がドラム叩けるの知ってたの?」
「そうね。湊さんから聞いていたし、Roseliaの練習でも宇田川さんの相手をよくしてくれているわ」
「一緒に練習してるんだ。いいなぁ〜。あたしも佳君とおねーちゃんと練習したい!」
「わがまま言わないで」
「ぶぇ〜…」
「(━━━━━あ)」
いつの間にか、私は日菜と自然に会話をしていた。
本当にするりと、あたかも当然のように。
隣に座る日菜の無邪気な笑顔を見て、ようやく私はその事に気付いた。
隣合って座って談笑など、一体いつぶりだろうか。
食事をしながらの会話にしてはかなりマナーが悪いと思うけれど、何故だか少し心地いい。
「……? どうしたの佳君」
すると、日菜が突然そう言った。
日菜は不思議そうな顔を林道さんに向ける。
「いえ……別に」
「え〜なになにー! 気になるなぁ」
「……ただ、ちょっと。2人を見てたら……なんだか━━━━━懐かしい感じがしただけです」
私達を見つめながら彼はボソッと呟く。
彼の柔らかい眼差し。そして━━━━━
━━━━━彼の、注視しなければ気付かない程の小さな……小さな微笑みが、私達姉妹の脳裏に焼き付いた。
「「……!」」
私達は揃って顔を見合わせる。
お互い言いたいことは分かっている。今までの彼との付き合いで、彼の笑顔など1度たりとて見たことがない。
恐らく日菜もそうなのだろう。
驚きと、ほんの少しの喜びが入り交じった情緒をトレースしたかのように、日菜も同じ顔をしている。
そして。
「あははっ」
「ふふっ」
何がおかしかったのか。いや、きっと何もおかしくないのだろうけれど。私達は一緒に笑った。
全く同じタイミングで。
それもそうだろう。
なんたって私達は……双子の姉妹なのだから。
◇◇
「……佳君って、なんだか凄いね」
「日菜?」
林道さん宅からの帰り道。日が傾き始めた空の下を、2人並んで歩く。
昼食後、私達3人は林道さんが普段ドラムの練習場所として使っている部屋にお邪魔し、彼のドラムを拝見させて貰った。
一言で表すならば、圧巻だった。
想像以上で期待以上。湊さんの感想は眉唾ではなかったのだと理解した。
そして、確かに私も感じた。彼の音から滲み出る"研鑽と努力の音"。
一体どれ程の時間をドラムに費やしてきたのか、今の私には想像もつかない。唯一分かることは、それが並大抵のモノではないということだけだろう。
きっと日菜も同様に感じたのかもしれない。さっきの言葉はそういう意味ではないだろうか。
「なんだか、今日見た佳君はあたしよりずっと遠くにいるみたいだった」
「遠く……」
「うん」
「……そうね。何となく分かるわ」
日菜の言う通りだ。今日1日で私の彼に対する評価……というか印象が大きく変わった。
まるで、Roseliaの目指す高みに近い、私達とは次元の違う立場にいるようで……。
けれどその反面。とても身近に感じる存在感も持ち合わせている。
本当に不思議な人だ。
「なんだか羨ましいな」
日菜が小さくそう零した。
「何が?」
「あの女の子が」
「……………………………あなた、まさか」
「アルバムにね、写真があったの」
「写真?」
「うん。佳君の部屋にあったアルバム。多分…家族写真」
日菜の言葉を聞きながら、私は林道さんとの会話を思い出していた。
彼の家族……。
「ギターの子……かな。きっと佳君はあの子の為にあんなにドラム頑張ったんだろうなぁ〜って」
「……」
「それがなんか、羨ましくって」
日菜は真っ直ぐ正面を向きながらそう言い放った。
この子でも……羨ましく感じたりするのね。
「あの子のギターも見つけた。綺麗なギターだったよ」
「……人の部屋を漁らないの」
「あはは。ごめんなさい」
「はぁ……」
「あと、凄いのも見つけたよ」
「凄いの…?」
日菜はニコニコ笑顔のまま答える
「うん! ギターケースの中に入ってたんだよ━━━━━
━━━━━血まみれのドラムスティック!」
……え?
「ち、血まみれって……」
「あたしもびっくりしたぁ〜。あんなものが入ってるなんて思わなかったよ! ちょっと引いちゃった。あはは♪」
意味が分からなかった。血まみれ? なんでそんな━━━━━
「佳君に聞いたら「大切な貰い物だから捨てるに捨てられなくて、洗っても血が完全に落ちなかったからあのままにしてる」んだって」
「何よ……それ」
そこで私はハッと思い出す。
『血の滲むような努力の音よ』
「…………」
林道さん。いくらなんでも言葉通りすぎます。
文字通り、彼は血の滲むような努力をしてきたのだろう。
たった1人、彼女に追いつきたいが為。
「……流石ですね。本当に」
「? おねーちゃん?」
「なんでもないわ」
薄ら笑いを浮かべて放った言葉に日菜は疑問符をつけながら問いかけるが、私はすぐさま顔を引き締めながら答えた。
林道さん。あなたの言う通りです。
私はあなたのようには生きない。あなたのその生き方を真似しようとは思えない。
きっと私なら、取り返しがつかない程にどうにかなってしまうから。
けど……。
あなたのその志だけは、目標にして生きていこうと思います。
日菜は言った。
林道さんが努力の矛先に向けた"あの子"が羨ましい……と。
なら━━━━━私が日菜を矛先にしよう。
日菜のために……そして何より自分のために。
そしていつか、この子に並び立って、その事を心から誇れるように。
私はそんな自分を目指します。
きっとこれからも辛いことが沢山ある。……それでも。
私は日菜の姉なのだと、心から自信を持って言えるようになりたい。
ありがとう。林道さん。
あなたの話を聞けて、私の話を聞いて貰えて、本当に良かった。
あなたは私の目標です。
「♪」
「……? どうしたのよ」
「ううん。なんだかおねーちゃんが嬉しそうだったから」
「? 変な子ね…」
「んふふ♪」
とりあえずはその1歩目として。
「暗くなる前に帰るわよ」
「は〜いっ!」
今日作り方を教わったフライドポテトを、日菜と一緒に作ってみようと思います。
◇◇
ふと、思い出す。
「━━━━━どうでしょうか。えっと……氷川、さん」
「……えぇ。とても素晴らしいギターでした」
「あ、ありがとうございます」
「林道さん……でしたよね。あなたの音はなんというか……熱を感じます」
「……熱、ですか」
「はい。なんだか、聴いている私まで滾るような。そんな熱です」
「えっと……褒められてるんですかね」
「もちろん」
「それは、どうも……。氷川さんのギターも素敵だと思いますよ」
「私の、ですか?」
「はい」
「私は…………そうは思えません。あなたと違って、無機質で……冷たい。そんな色も味も無いような」
「そうですかね」
「え?」
「俺は好きですよ、氷川さんのギター」
「………………!」
「正確無比で、さも当たり前に。でも簡単に出せる音ではないでしょう」
「…………」
「狂いのない綺麗な音だと思います」
『素晴らしいわ、紗夜』
『紗夜ぉー! 良い感じじゃん☆』
『紗夜さんチョーかっこいいです!』
『流石です……氷川さん』
自慢ではないけれど。今までギターの技量を褒められた事は幾度もあった。
けれど。
真っ先に私の音が"好き"だと言われたのは。あの瞬間が生まれて初めてだった。
……そうね。もしかしたら。
この時から既に、"氷の女"の内に秘めた何かが、溶け始めていたのかもしれない。
◇◇
2人がいなくなった玄関に立ち尽くし、俺はふうっと息をつく。
長いようで、一瞬で過ぎ去ったようにも感じる1日だった。
と言ってもまだ日は落ちきってはいないのだけれど。
「んにゃん」
呆然としている俺が気になったのか、しょうゆは俺の足の間を歩き回りながら俺に視線を向ける。
「ほれ」
「んにゃっ」
そんなしょうゆに俺は、自身の肩をトントンと叩いて「ここにおいで」と合図する。
しょうゆは器用に俺の身体を下から経由してすぐさま肩へ。
「ん……にゃん」
きっとあの時、しょうゆは俺の気持ちの陰りを察したのかもしれない。だから、あんなにもしつこいくらいに顔を擦り付けて励まそうとしたのだろう。
そんなお前が俺は愛しくてたまらないよ。
「ありがとな」
俺は一言感謝を述べてしょうゆの顎を撫でる。それに対し、しょうゆはゴロゴロと喉を鳴らしながら気持ちよさそうに目を細めて返した。
お前が家族で本当に良かった。
「しかし、相変わらず他人には懐かないなお前」
「…………」
今日は途中から俺にピッタリだったもんな。そういう所も好きだが。
もしかすると、日菜先輩はしょうゆ的"近付きたくない人間リスト"に入ってしまったかもしれないな。それに多分……香澄あたりももう既に入ってる。
俺としてはもっと仲良くして欲しいんだけどな。
まぁ……無理もないか。俺だって昔はお前相手に苦労したんだから。
お前のトラウマも、そうやすやすとは消えてくれないか……。
「あ。お前爪伸びてるな」
「……にゃぁ」
「後で切るぞ」
そう言って、俺はリビングに向かう為歩き出す
その途中、設置してある姿見の中に映った俺は━━━━━
━━━━━━━━━━泣いていた。
その数時間後、日菜先輩から写真付きのメッセージが送られて来た。
写真には満面の笑みで若干焦げたフライドポテトを掲げた日菜先輩と。
仏頂面のままフライドポテトを齧る紗夜さんの姿が。
そしてその数分後。紗夜さんから電話が来た。
『勝手にすみません。日菜から連絡先を聞いてかけさせて頂きました』
「いえ大丈夫ですよ。どうしたんですか?」
『改めて今日の事でお礼をしようと思いまして。本当にありがとうございました』
「気にしないでください。俺の方こそ感謝したいくらいですよ」
『ふふ。あなたは優しいのですね』
「……んなことないです」
『ふふふっ。……あぁそれと、1つ言い忘れていたことがありました』
「? はい」
『林道さん━━━━━
━━━━━
めっっちゃくちゃ今さらなんですけど、あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。