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ありがとうございますありがとうございます。
今日も気温が高い。
雲のほとんど無い空の下を俺はタラタラと歩く。
向かう先は羽丘学園。絶賛登校中である。
校門を通過し、いつものように下駄箱へ向かい、靴を履き替える。
「おあっ」
「はぁ〜いっ。佳君おっはよ〜!」
その直後、突然何か……いや誰かが俺の背中に飛び乗ってきた。
なんとか転ばずに耐えた俺だが、生憎と背後を取られているので相手の顔は確認できない。だが俺には奇襲をかけてきた人物が誰であるかなど一瞬で理解出来た。
この軽快な声は……。
「お……おはようございます」
「も〜元気ないぞー? あたしより若いのに」
「重いもの持ってるからじゃないですかね……」
「あぁ〜! 今佳君言っちゃいけないこと言ったぁ〜っ!」
「耳元で叫ばないで」
「罰としてこのままおんぶして教室まで運んで〜♪」
「嫌っす」
はい日菜先輩です。
最近こういう事が多い。迂闊に隙を見せようもんならこの先輩は何かしらの形で突撃してくるから怖いんですよ。
日菜先輩もちょうど今登校してきたのだろう。俺の首に回された手には俺と同じ鞄をぶら下げている。
俺達はその場でわちゃわちゃした後、なんとか先輩を背中から降ろすことに成功する。
「ダメだよ? 佳君。女の子に"重い"とか言っちゃあ」
「さーせん」
そして何故か説教された。
「うむ。あたしじゃなかったらあのまま首締められてたよ?」
「うわマジですか」
なんと。そう考えると説教で済ませてくれたというのはかなり寛大な処置なのではなかろうか。さすが日菜先輩様。
「よし! とりあえず教室行こう。ついてきてね〜」
「うす…………え?」
なんていうバカ全開の会話を終え、結局先輩の教室近くまでついて行くことになった俺は先輩と並んで廊下を進む。
ちなみに手を掴まれているので逃げられない。
先輩の教室といっても2階にあるので直ぐにつく。俺達はなんのことはない会話をしながら歩いていたのだが、知っての通りあっという間に
はい、ここでお別れ……となるはずだったのだが。先輩は教室へ入る前に廊下の壁に設置されている掲示板の前で立ち止まった。何やら貼ってある1枚の紙を見ているようで。
「先輩? 何見てるんです?」
「ほらこれ。体育祭の新聞!」
「あぁ……」
誘われるままに俺は先輩の隣に立ってその新聞を見る。
先輩が言った通り、先日行った体育祭について書かれた新聞だった。書いたのは確か大和先輩。この前クラスで配られた物と同じプリントだ。
ちなみにだが、結局今年の体育祭の総合優勝は日菜先輩率いる赤軍だった。
「何で今更こんなの見てるんすか?」
「いや〜。この写真見てるとさ、あの時のドキドキが帰ってくる気がしてるんっ♪てするんだよねぇ」
「障害物競走?」
「そうそう!」
そう言って先輩が指さしたのは、新聞の端っこに載せてある写真。そこには俺と日菜先輩が隣合って走っている様子が写し出されていた。
「まぁでも、あたし的にはお姫様抱っこの写真にしてくれても良かったのになぁーって思うんだけど」
「却下で」
「えぇ〜」
先輩的には良くても、世間体的には良くないだろう。
体育祭の賭け。勝った方が『相手に何か一つ、何でも命令できる』というアレ。まぁ知っての通り負けたのは俺なわけで、先輩の命令であるお姫様抱っこをさせて頂いたわけだけども。
「麻弥ちゃんがね。「やめた方がいいッス!」って言って変えちゃったの」
ナイス大和先輩。
で、結局採用されたのがこの写真と。大和先輩が新聞担当で良かった。
「ていうか、そういうの事務所的にはアウトでしょ」
一般人にお姫様抱っこされてる写真なんて。
「ん〜……大丈夫じゃない?
「……そうなんですか?」
「うん。恋愛もOKだしね」
「へー」
そういうもんなのか。アイドルというと、そこら辺はお堅いっていうイメージがあったんだけどなぁ。先輩のいる事務所が特殊なのだろうか。
なんてぼんやり考えていると。
ザワザワ……
……ん?
「……先輩」
「んー?」
「なんか…。妙に視線を感じるんですけど」
「……あー。なんかね。あたし
「……? え、ソレって俺も入ってるんすか?」
「オフコース!」
辺りを見回すと、他の生徒達は俺達をチラチラと横目に見ながら、何やらヒソヒソと話している様子。
怖っ……。
「体育祭効果みたいだよ。特に佳君は」
「うえぇ…。マジっすか」
先輩曰く、どうやら『あの氷川日菜と接戦を繰り広げた1年男子』という肩書きで、俺こと林道佳夏はこの学園ではそれなりに有名人になってしまったそうな……。どうしよ、全然嬉しくない。
「それにね。クラスの友達に聞かれたんだよねぇ」
「……? 何を?」
「あたしと佳君は付き合ってるのかーって♪」
「はぁ…??」
なんじゃそりゃ。何をどう見てそうなったんだか。根も葉もない噂すぎる。
「女の子はそういうの好きなんだよ」
「さいですか……」
「あの時のリサちー面白かったなぁ♪」なんて言いながらケタケタと笑う日菜先輩。
俺と日菜先輩が付き合ってるなんて噂、本当に一体どこから湧いて出たのやら。確かに最近は日菜先輩が突っかかってくることも頻繁になったけども、それだけってのもなんかなぁ……。
どうせ背びれや尾ひれ、なんなら胸びれまでがついて広がったってところだろう。
まったく。そういう噂は先輩に失礼だろうに。
「にしし♪ どうする? なんならほんとに付き合っちゃう?」
ニコニコと明るい笑顔で俺の顔を覗き込んだ日菜先輩は、まるで周りに見せつけるかのようにくっついてきた。
この人はホントに……。
「……はぁ。そういう冗談はやめといた方がいいですよホント」
「ウチの事務所は
「さっき聞きましたって」
「も〜…。つれないなぁ佳君は」
さすがに悪ノリがすぎる。そう思って、俺はそっと先輩の絡めている手を優しく退けた。
「……そういえばさ、佳君」
「はい?」
ブーブーと唸っていた日菜先輩は急に声のトーンを落としながら呟いた。
「この前はありがとね」
「この前……って。
「うん。写真見たでしょ? あの後おねーちゃんとフライドポテト作ったの♪」
知っている。なんというか、素敵な写真だった。
それは2人の関係性を知っているが故なのかもしれない。
「どうでした?」
「るんっ♪て来た!」
「それはどっちの意味で?」
「どっちも!」
「……そら良かった」
どうやら先輩は紗夜さんと料理が出来たことにも、フライドポテトが作れたことにもるんっ♪と来たらしい。
「だからね。ちゃんとお礼がしたかったの」
「フライドポテトの作り方教えただけですが」
「ううん。それだけじゃなくてね…………。おねーちゃんのことも」
「……」
そう言うと、日菜先輩は柔らかい笑顔を作った。いつものような元気ハツラツな印象とはまた違うベクトルの表情。
俺が未だかつて見たことの無い笑顔。というより、"微笑み"と言った方がいいのかもしれない。
「……もしかして、聞いてたんですか?」
「何を?」
「……………………いや、先輩がそう言うんならそういう事にしときます」
「えー? なんの事?」
白々しい……。直感だが、多分盗み聞きでもしていたのではなかろうか。
まぁ……別にいいか。
「どうせ知ったところで何かを変える気はないでしょ」
「んふふ♪ 良く分かんないけどそのとーり! あたしは今まで通りおねーちゃんに接するだけ!」
「そっすか」
こういう人だからな。
まったく……シスコンめ。
「送り届けたし、俺はそろそろ行きますね。ここに居続けるとまた変な噂がたちそうだ」
「あはは! それはそれで悪くないんじゃない?」
「勘弁してくださいな」
「♪」
俺は先輩に背を向けて歩き出す。
これ以上の噂の増長は好ましくない。先輩は気にしていないようだけれど、アイドル業に支障が出ないとは限らないからな。
「佳君」
数歩進んだ所でふと、先輩に呼び止められた。
「来年の体育祭も一緒に走ろーね♪」
両手を後ろで組んでそう言った先輩は、先程とは違っていつも通りの笑顔を作っている。
俺はそんな先輩にしっかりと目を合わせてこう言った。
「絶対イヤです」
「えぇぇぇ〜!?」
俺は再度歩き出す。
もう呼び止められる事は無かった。
『……はぁ。そういう冗談はやめといた方がいいですよホント』
「(そこまで冗談でもないんだけどなぁ……………………なぁ〜んて…ね)」
◇◇
「珍しいな。美竹が俺より早いなんて」
「………別にいいでしょ」
「悪かないけど……」
教室に入ると隣の席の美竹が既に居た。こいつは基本始業のギリギリに登校してくるので、俺より早く来ているというのは割とレアだ。
そんな美竹は俺をチラっと一瞥すると、すぐさま窓の外を眺めはじめた。
「?」
なんか変だな。
妙な違和感を感じる。
纏っている雰囲気がいつもと違う。
「とりあえずおはよう」
「……ん」
「…………」
やっぱなんか変だ。
いつもの美竹なら挨拶は返す。例え返さなくとも、目くらいは合わせるはずなんだがな。
さては何かあったのだろうか。
俺は直感的にそう考えた。が、その"何か"は現状分からなかった。
何があった? まず最初に考えられるのは…………。
……俺か?
シンプルに俺が美竹の機嫌を損ねる何かをしてしまったとか? ……えぇヤバいどうしよう。心当たりがない。もしかして俺嫌われた……? もしそうなら……かなり、どころじゃないレベルでショックなんだが…!
…………と、とりあえず聞いてみる……か。
「えっと……美竹?」
「……なに」
「何かあったのか?」
「…………」
否定しなかった。
ヤバい怖い怖い。「コイツ気付いてないとか最低」って思われてたりしない? ねぇしない?
俺は席に着き、悪い意味で高鳴る心臓を押さえつけながら……
「もしかして……。俺、なんかしちゃったか…?」
そう聞いてみた。すると。
「━━━━━な…っ! ち、違うっ!」
美竹は若干食い気味に俺の言葉を否定し、俺の心臓が一層強く跳ねた。
バッとコチラを向いた美竹はゆっくりと落ち着きを取り戻すように、顔を俯かせる。
……とりあえず。俺のせいではないらしい。それが知れただけでもかなりの心の余裕ができた。
「……佳夏には関係無いよ」
美竹は最後にそうポソりと呟いて、また窓の外を眺める作業へ。
「……何かあったことは否定しないんだな」
美竹は何も答えない。
「別に、その……悩みでも何でもいいけど。誰かには相談なり打ち明けるなりしろよ?」
「…………」
「お前の近くには幼馴染だって……親だっているだろ」
「…………っ」
「……それが無理なら…。俺にだって話聞くくらいならできる」
「だから……佳夏には関係無いって…」
「関係無い相手だからこそできる話ってのもある」
「…………」
「まぁ、なんだ? ……気が向いたら頼ってくれ」
「………………」
美竹は何も言わなかった。
俺もそれ以上は何も言わなかった。
言わないのならそれ相応の理由があるのだろう。あの様子だと幼馴染達にも相談してないんだろうな。
何があったのかは結局分からず仕舞いだが、少なくともあまりいい話ではなさそうだ。
沙綾といい美竹といい、悩みを抱えたがる奴ばかりだな。
……って。俺も人のことは言えた義理じゃないか。
今は待とう。無理やり聞き出すのは論外だ。
俺が鞄から筆記用具を取り出し、机に置くと同時に担任教師が教室に入ってきた。
◇◇
あれから3日経った。
あの朝の会話以降、俺からその話に触れることはしなかったし、また美竹からされることもなかった。
話してくれなかったことは別にどうでもいい。それで納得なり解決なりする分には問題はないのだ。
が、この3日間で美竹の様子が変わることはなかった。
授業中もどこか思い悩む様子を見せ、外の風景を見るばかり。それが気になって、むしろ俺が授業に集中できない始末。
昼休みはもちろん屋上に来るのだが、分かりやすく口数が少ない。俺ですら異変に気付いたのだから、幼馴染達がそれに気付かないはずもなく、お互いに顔を見合せた。
誰かが美竹にその事を聞いても、「別に」や「なんでもない」や「気のせい」の一点張り。この頑固者め……と思ったりもした。
宇田川が無理やり聞き出そうとして喧嘩になりかけたのはまた別の話……。
兎にも角にも。
「なんとかならんかなぁ……」
このままでいいはずもなく。だからといって何か俺にできることがあるのかと聞かれれば首を斜めに振ってしまう。
何かに悩んでいることは分かっている。
では何に?
「…………」
詰まるところ、そこが分からない。
聞き出そうにも美竹が口を割らないのだからどうしようもない。強硬手段に出ても意固地な美竹の事だ、余計に話さなくなりそうなんだよな。
「……はぁ」
ため息をつきながら先程までバイトをしていたCiRCLEから出る。
外は既に暗くなっており、頼れるのは街灯の光だけだった。
ぐぅぅぅ。
考え事をしていたらなんだか腹が減った。最近は近々開催される大規模なライブイベントにサポートスタッフとして参加していることもあってか、なかなかに疲れる日々も相まって忙しい。
もうすぐライブも始まる。とりあえずは山場が終わるまでの辛抱だ。
……早く帰ろう。腹減った。
自身の足音だけが響く夜の歩道を歩きながら、今晩は何を作ろうかとぼんやり考えていると……。
「…………あ」
ちなみに今声を発したのは俺ではない。
では誰なのか。
俺は立ち止まって軽く辺りを見回すと━━━━━
「…………」
「……何してんだ? お前」
「…………別に」
道路のガードレールにおっかかる美竹の姿がそこにはあった。
暗がりでわかり辛いが、間違いなく美竹だ。
「別にって……。ひとりの夜道は危ないぞ」
「今はアンタがいるじゃん」
「俺もう帰るんだが……」
「……あたしの事は気にしなくていいから」
だから帰っていい。とでも言うつもりか? バカを言え、そんな事するわけないだろ。
「……はぁ。家まで送ってやるから、帰ろうぜ」
「…………イヤ」
「嫌……ってお前。なんだ? 家出でもしたのかよ」
軽く冗談交じりで放った言葉だったのだが。
「………………」
「………………ぇマジ?」
どうやらマジの家出らしい。
確かに今の美竹の姿は正しく部屋着という感じだ。何か荷物を持っているわけでもなく、咄嗟に飛び出してきたといっても納得はできる。
しかしこんな人通りの少ない道に1人でいたのかよ。最近は暖かくなったとはいえ夜はそれなりに冷えるぞ。
「……大丈夫だっ……て…………くしゅっ!」
「言わんこっちゃない……」
「うるさい」
そっぽを向きながら言う美竹。このままだと風邪ひくなこりゃ。
このままにしておく訳にはいかないが……。
「家には帰りたくないと」
美竹は遠慮がちに頷いた。
こういう時はどうするべきなのかと悩んでいると。美竹がコチラをじっと見つめていることに気付く。
「なんだ?」
「このあいだの朝。「気が向いたら頼ってくれ」って言ったよね」
「ん? ……あぁ」
そういえば言ったな。3日前の朝に。
それがどうしたと…………。
「アンタん
「……は?」
何を言い出すんだこの娘は。俺ん家だと?
「今頼る」
「えぇ……」
「……頼っていいって言った」
いや言ったけども。頼られ方が想像の斜め上なんだが。
「お前……。こういう時こそ幼馴染を頼れよ」
「……皆には迷惑かけれない」
俺ならいいのかよ。いやまぁ別に美竹が家に来たところで問題は無いんだ。俺としてはな? けど、美竹からしてみたら問題だらけだろうに。
「…………ダメ…?」
「……くっ…」
こやつめぇ。急に不安がる様子を見せるなよ。
「お願い佳夏。今だけ……頼らせて」
◇◇
「んにゃん」
「……ただいま」
「猫…?」
このやりとりも3回目だな。
結局あの後、俺の説得も虚しく押し切られた。だってコイツ俺が承諾しないならずっとここにいるとか言い出すんだもの。それだけは絶対にさせたくなかった俺が折れたのだ。
「…………」
「ごめんて」
また誰か連れてきたな? とでも言うような目で俺を見つめるしょうゆ。大丈夫だ。美竹は日菜先輩みたいなタイプじゃない。
しょうゆはプイっと尻尾を向けてリビングへ向かう。
「お邪魔します」
俺と美竹もそれに続いてリビングへ。
「適当にかけてくれ」
「……うん」
緊張しているのか、ぎこちない動作でソファに座る美竹。肩が強ばっているのがよく分かる。
「……佳夏の家、物少ないね」
紗夜さんにも言われたな。別に、引っ越すにあたって多くを持ってきた訳じゃないからな。自然とこうなる。
「ふぅん」
美竹はリビング全体を見回しながら呟いた。
「なぁ美竹。お前夕飯食ったか?」
「え? ……ううん。食べてない」
「なら食うか? 今から作るけど」
「……いいの?」
「あぁ。ついでだ」
俺はとにかく腹が減った。なにやら面倒な状況にはなっているが、ひとまずは腹を満たして落ち着きたい。
「手伝い、いる?」
「いいよ。客なんだから、お前は寛いでてくれ。そんでもって頭を冷やしな」
「……分かった」
流石に家出はやりすぎだったと思ったのか、深呼吸をしてからソファにもたれかかる美竹。今はゆっくり考えれる時間が必要なんだろう。
俺はそのままキッチンに向かい、冷蔵庫の中身を確認した。
◇◇
数十分後。
「できたぞ」
「ん。…………それじゃあ。うん、おやすみ」
料理をテーブルに運んでいると、美竹は耳にあてていたスマホを閉じてコチラへ向かってくる。
どうやら誰かと電話していたようだ。
というかスマホは持ってたんか。
「運ぶよ」
「ありがと」
「これ……肉じゃが?」
「あぁ。嫌いか?」
「………………ううん」
なんだ今の間は。
今しがたできた料理を運んでくれた美竹だったが、肉じゃがを見つめながら渋い顔をしている。
米や味噌汁、漬物に卵焼きなど、他の料理も出し終わったところで2人で向かい合うように席に着く。もちろん気付けば足元にはしょうゆ。
「いただきます」
「……いただきます」
しばらくは食器が擦れる音だけが響く静かな食事が続くが、数分して美竹が小さく呟いた。
「凄い……全部美味しい」
「そらよかった」
「そういえば、弁当も手作りだもんね」
「手作りって言っても、大体は余り物を詰めてるだけだ」
「……モカがいつも「美味しい」って言ってる理由が分かった」
そう言うと美竹は柔らかく微笑んだ。
なんだか久々に美竹の笑顔を見れたような気がする。ちょっとした気分転換にはなったのかもしれない。
先程まで渋い顔をしていたようだが、気のせいだったのだろうか。
「ところで」
「?」
少し落ち着いた所で気になった事を聞いてみた。
「さっき、電話してたみたいだったが」
「うん。お母さん」
「そう。迎えでも呼んだのか?」
「ううん。「明日の朝帰る」って連絡した」
「ふぅん………………ほぁあ???」
つい箸を止めてしまった。
いやいやいやいやちょっと待て落ち着け。まだ決めつけるのは早計というものだ。
だから聞いてみよう。
そう思って美竹に目線を向けると。
「……っ///」
肉じゃがを見つめながら顔を赤くしている。
「……なぁ美竹」
「……」
「お前……この後どうするつもりだよ」
「……」
「……」
「……て」
「……?」
「……めて」
「ぁんだって…?」
「泊めてっ!///」
鬼気迫る様子でそう吠えた。
同時に、俺は的中してしまった嫌な予感に悩まされる。あぁ……頭痛が痛い。
「どうして……そうなったし」
「……母さんにはモカの家に泊まるって事で納得してもらった。モカにも説明してある」
「なら青葉んとこ行きなさいよ……」
「もう言っちゃったし」
「…………はああぁぁぁぁっ」
ここで今日イチのくそデカため息が炸裂する。俺としては夕飯を済ませたら美竹を家まで送っていくつもりでいたのに……。
「考え直せ」
「頼っていいって言ったじゃん!」
「極端すぎるわ…!」
すると美竹はそっぽを向いてまた黙りを決め込む。コイツ……結構めんどくさい奴だな。
「そんなに家に帰りたくないのかよ」
「……今は無理。父さんにあれこれ言われるのはもううんざりなの」
「……親と喧嘩か」
美竹は無言で頷き、なんの罪もない卵焼きを睨みつけた後やや乱暴に口に放り込む。珍しく相当怒っているらしいな、この赤メッシュは。
「だとしてもなぁ……」
どうしたもんかと腕を組みながら考える。頼ってきたことに対しては嬉しいことなのだが、先程も言った通り極端すぎる。どうしてそこで幼馴染を頼らないかな。
『……皆には迷惑かけれない』
……そういえば答えは出てるんだったな。その気持ちは分からなくもないが、それは悪手だよ美竹。
「……」
さてどう諭したものかと悩んでいると……。
Prrrrrr, Prrrrrr, Prrrrrr,
「?」
俺のスマホが着信を鳴らした。
食事中だが一応映し出された画面を確認する。
『青葉モカ』
どうやら俺に話があるようだな。丁度いい。
「すまん。ちょっと出る」
「誰から?」
「お前の相方」
「……モカ」
俺は1人廊下に出て。いや、なんかしょうゆも着いてきた。美竹と2人きりは怖いのかな。
とりあえず通話ボタンを押す。
『あ、おいっすー。モカちゃんで〜す』
「……おう」
『元気無いね〜。けー君の事だから、今はモカちゃんの美声が聞きたくなって来たんじゃないかなぁってね〜』
「よく分かってるな。お前と少し話したかったよ」
『おー嬉しいねぇ〜。モカちゃんもけー君と話せて幸せ〜♪ ちゅっちゅ〜♡』
相変わらずの悪ノリだな。青葉からかけて来たってことは、美竹の事で何か言いたいことがあるんだろう。
早速本題へ。
「お前の相方が家に居るんだが……知ってるよな」
『もち〜』
「お前の家でどうにかならんか?
『え〜? 蘭からは「問題は無いって言ってた」って聞いたよー』
「……」
家に来ることは別にいい。問題が無い訳じゃないがそれは別だ。だが重要なのは、美竹が"我が家に泊まる"ということだ。
『それに関してはモカちゃんも申し訳ないと思ってるんだよ』
「なら」
『ごめんねけー君。ほんとにごめん。蘭をあぁまで放って置いた
「……なんで、そこまで俺に」
『それは単純。信頼できるけー君だから頼ったんだよ。ここはあたしの顔に免じて〜お願いっ。パン奢るから〜』
「はぁ……。頼ってもいいとは言ったけど、巻き込めとは言ってないんだが」
『それは蘭が悪いからけー君から叱っておいて〜』
「……そうする。今度こそパン奢れよ? 前回うやむやにしたの忘れてないからな」
『バレちゃったかぁ〜。えへへ…』
珍しく若干の申し訳なさを感じる青葉の言葉に、今回は割と反省している様子が伺えた。
……腹括るか。
『お願いできる?』
「…………分かった。今晩は家に泊める」
『ありがと〜』
「あぁ……」
言ってしまった……。ほんとに良かったのだろうかと思うが、我が家から出しても美竹がどうするか分からんし。
明日は土曜日だしな。
『蘭の事、お願いね』
「分かったよ…。今日が終わったら後はお前らにまかせるからな」
『うん。ありがとね〜』
「おう。それじゃあ……」
『は〜い。……あ。蘭に変な事しちゃダメだよ〜』
俺は通話を切った。
そして再びため息をつく。今日は何度目だろうか。
「モカ、なんて?」
リビングに戻ると、食事を丁度済ませたばかりの美竹が怪訝な表情で俺を見つめていた。
「……「今日だけお願い」って頼まれたよ」
「それじゃあ……」
「あぁ。今晩だけ泊まっていけ」
「そっか………ありがと」
安心したのか、美竹は分かりやすく肩の力を抜く。緊張していたのだろう。
だが……
「ただし。条件がある」
「!」
俺がそう言った途端、再び美竹に緊張が走る。
「条件……って…//」
「? 何モジモジしてんのさ」
「な、なんでもないっ!」
何故か頬を赤らめて目をそらす美竹。急にどうした。
「……まぁいい。条件は2つある」
「う、うん」
「1つは、お前が家出した理由をしっかり話すこと。お前のおかげで俺ももう当事者だ」
「……分かった」
美竹はそう呟くと、視線をテーブルに落とす。
「そして2つ目」
「……」
「その残したグリンピースは全部食え」
美竹は顔を上げた。その顔は恐怖に塗りたくられている。そんな顔は初めて見たよ。
やはりというかなんというか。コイツ、グリンピースが嫌いなのか。道理で肉じゃがを見た時変な顔をしていたわけだ。今日の肉じゃがにはグリンピースを入れている。それを美竹はグリンピースだけ綺麗に皿の隅へ追いやって、緑の山を作っていた。
「それは━━━━━」
「食え」
「………」
有無を言わせぬ俺の言葉に、美竹の顔は恐怖から絶望へと変貌する。
視線をグリンピースへと移した美竹は、まるで爆弾でも扱うかのような慎重な箸使いで、グリンピースを食べ始めるのだった。
◇◇
俺も食事を再開し、十数分後に食べ終わるが、美竹は今だグリンピースと格闘を繰り広げていた。
美竹は顔に青スジを立てながら一粒口に入れてはお茶をガブガブと飲んで口直しをしている。
そんなに嫌いなのかよ。
なんかちょっと罪悪感が湧いてくる。俺は別にサディストではないんだよ。
「それだけ食ったらあとは俺が食うよ」
「全部食え」という条件を早々に変更する俺。我ながら甘いな。
美竹は無言で頷き、目をキュッと瞑りながら最後のグリンピースを口に放り込む。
よく頑張りました。
残ったグリンピースを俺はヒョイヒョイと食べるが、そんな俺を美竹は驚愕の表情と共に見つめながら。
「……ありえない」
最後にそう呟いた気がした。
「ごちそうさま」
「お粗末さま」
お互い手を合わせる。なんだか長い食事だったな。
「風呂沸かすから、先入れ」
「いいの?」
「あぁ。着替えは……そのまま同じの着るか? 洗濯したいなら俺の服くらい貸すけれど」
そう提案した後、美竹は数秒考える素振りを見せるが。
「………貸して//」
目を逸らしながらそう言った。
「ん。用意しとくけど、あんま文句言うなよ」
そう言い残して、俺は風呂場へ向かう。
もちろんしょうゆも着いてきた。
数分して風呂掃除とお湯はりを済ませ、タオルなんかも用意しておく。……やべ、バスタオル洗ってねぇ。新しいの出しますか。
「ほい。いつでも入れるぞ。歯ブラシは新しいの用意しといたから」
「あ、うん」
「洗濯機は使い方わかるか?」
「多分大丈夫」
「そうか。なら自分の服は頼むな」
美竹に風呂場を教えてから俺だけリビングに戻る。
さっきから気になっているのだが、夕飯が終わってからしょうゆが俺の足元から離れない。
前回の日菜先輩ショックが思いの外強かったのか、かなり美竹を警戒しているようだ。それに、俺に対しても怒っているのか、俺が撫でようとしてもそっぽを向く。その割には俺から離れないのな。変な奴め。
「……んにゃん」
俺はとりあえずキッチンに向かい、いつもよりかなり早いのだが明日の朝食の準備をする。
何故かって?
「……落ち着かねぇ」
平静を装ってはいるが、夕飯を食べ終わった辺りでクラスメイトの、しかも異性の相手が我が家に泊まるという状況の異様さに気付き、じっとしていることが出来なくなってしまったからだ。
だからといって今から美竹を帰すなど出来ないわけで、なんとかいつも通りを装っている次第である。
どうしよう涼子さん。俺、こういう時どうすればいいのかわかんないよ。
遠い地に住むもう1人の母親に届くことのない救難信号を送るが勿論返ってくることはない。
もういいや。なるようになる。たかが一晩だ、なんてことはない。大丈夫だ。
自分にそう言い聞かせながら明日の朝食の準備をする。
美竹は日本食が好きそうだし、鮭でも使うかな。
数十分後。
カチャリと控えめな音を立てたリビングのドアから、ゆっくりと美竹が入ってきた。
「えっと……お風呂…ありがと」
「お……おう」
対する俺はガチャンッ!という大きな音を立てながら手に待っていたまな板をシンクに落とす。
「え、大丈夫?」
「……大丈夫だ、問題ない」
嘘だ。全然これっぽっちも大丈夫じゃない。
美竹の今の姿はなんというか、目に悪い。
風呂上がりでツヤのある綺麗な黒髪に血行が良くなった為か上気した頬。黒のスウェットとパーカーに着替えているが、パーカーの首元から見える鎖骨が妙に視線を引く。
オーバーサイズの服を着ている姿が好きな俺とってはあまりにウィークポイント。
というかメッシュはどこいった。
「カラーシャンプー無かったし、そろそろ染め直そうと思ってたから……」
「そ、うか」
ぎこちなく返答してしまう。
メッシュの有無でこうも印象が変わるのか。まるでどこぞのお嬢様と言われても頷けるぞ。
「お風呂、入ってきたら?」
「あぁ……そうする。適当に寛いでてくれ。飲み物も好きに飲んでいいから」
「ん」
俺はそれだけ言うと、そそくさとリビングをあとにする。本当に落ち着かない。
洗面所に入り、戸を閉める。そして深呼吸。
既に回っている洗濯機の音だけが妙に響く。
落ち着け。大丈夫だって。風呂上がりの女なんて今まで飽きる程見てきたんだ。家族だけど。
再び深呼吸。……オーケーオーケー。落ち着いてきた。
それと同時に、洗濯機の音とは別で何やらカリカリと何かを引っ掻くような音が聞こえてくる。
これは……。
俺は再び洗面所の戸を開ける。
「……んにゃぁ」
そこには戸を引っ掻く音で存在を知らせるしょうゆがいた。
ひとりは嫌だったのだろう。
しょうゆはそのままスタスタと浴室の扉の前まで進み、「早く入ろうぜ」と言わんばかりに見つめてくる。
「……お前を見てるとほんと落ち着くわ」
「?」
「しょうゆも入るか?」
「にゃ」
一気に平静を取り戻した俺は、着ていた制服をカゴに突っ込みすぐさま浴室へ入った。
「相変わらずの風呂好きだな、お前」
「んにゃん」
ミニバスタブに温いお湯を張ると、すぐさま入り込む我が家の猫。コイツはこのミニバスタブが昔からお気に入りらしい。犬用だけどな。
猫という生き物は基本的に風呂に入るという行為を必要としない。多少汚れても自身の舌で綺麗に保つからだ。洗う必要も大して無い。
風呂をストレスに感じる猫も多い。入れるにしても、年に数回程度というのがスタンダードだ。
だが、うちの猫は妙に風呂が好きだ。とりあえず週一ペースで入っている。
理由は定かではない。
まぁ俺もしょうゆの身体を洗うのは好きだ。毛をサラサラにしたしょうゆは触っていて気持ちがいい。それが分かっているからか、しょうゆも身体を洗われる事に対しては何も言わない。むしろ催促までしてくるレベル。
まったく、変な猫だよな。
閑話休題。
「んにゃん」
「はいはい。シャンプーね」
猫用シャンプーを使い、しょうゆの身体を優しく撫で始めた。
俺もシャワーを済ませ、しょうゆと一緒に浴室から出る。
「ほれ」
「♪」
バスタオルとドライヤーの後、いつも以上に綺麗なったしょうゆは機嫌良く喉を鳴らし尻尾を立てた。もう怒ってはないらしいな。良かった。
そんなしょうゆを連れてリビングへ向かう。さて、これからどうしようかとぼんやり頭を回しながらドアを開ける。
「上がったぞ」
「すぅ……はぁ…………っ! け、佳夏…!!??////」
ソファに体育座りをしながら両腕に顔を埋めていた美竹は、俺の存在に一拍遅れて気付き、声を荒らげた。
いきなり大声を出すもんだから俺もびっくりする。
「ど、どうした」
「い…いきなり入ってくるからびっくりしただけ…っ!///」
と言う割には。
「顔、赤いぞ。風邪か……?」
「うっさい!////」
そう叫ぶと、美竹近くにあったクッションを俺に投げつけてきた。
乱暴に扱わないでくれ。コレ、結構お気に入りなんだよ。そう思いながら難なくキャッチする。
「なんだよいきなり」
「バカっ!!」
なんで俺罵倒されてんだろ。
美竹はその後、十秒程息を荒らげたあと、赤い顔のまま俺を睨みつけながら一言「……ごめん」と謝った。
出来れば睨まず言ってほしかった。
美竹の若干の乱心を鎮めようと「コーヒー飲むか?」と提案する。
「…………………………飲む」
飲むんだ。
美竹は再び縮こまるように体育座りになる。
顔はまだ赤い。
◇◇
コーヒーをソファの前のロングテーブルに置き、若干の距離を空けて俺は美竹の隣に座る。大体学校で席に着いている時の距離間。
「ありがと」
「ん」
「………………………つぐみん
「当然だろ。というか比べるなよ」
あっちはプロだろ。比べられるもんじゃないさ。
お互いに暖かいコーヒーに口をつけ、同じタイミングで一息つく。
ちなみにしょうゆは既に丸くなって俺の隣で眠る体勢に入っている。
数秒の沈黙の後、美竹から口を開いた。
「なんか……ごめん。佳夏に頭を冷やせって言われて色々考えたけど、結構あたし自分勝手なことしてるね。迷惑ばかりかけてる」
美竹は両手で持ったカップを眺めながら言う。
「迷惑はかけていい。俺から言った事だしな。俺は美竹が頼ってきてくれたことに関しては嬉しく思ってる」
「…そっか」
「けど………」
俺はそのままもう一口コーヒーを傾ける。
「順番を間違えたと……思う」
「順番?」
「あぁ。お前は他の何を差し置いても、まずは幼馴染を頼るべきだった」
「………」
再び沈黙。
恐らくだが、3日前からの美竹の様子と今回の家出は同じ原因で繋がっている。そしてそれは幼馴染組とは無関係。もしくは根幹には関わっていない。迷惑はかけられないというからにはそういう事なのだろう。
………ていうかアレだな。なんかこの感じ沙綾と同じでは?
「……はぁ」
友達思いなのはいい事なのだがな。裏目に出てばっかりだ。
「お前の事だし、青葉達を信頼してない訳じゃないんだろ?」
「当たり前じゃん」
「なら尚更だ。先に俺を頼ったのは間違いだよ」
「………うん」
美竹は縮こまっていた身体を更にコンパクトにさせる。罪悪感が出てきたのかもしれない。
「もし、そうだな……。青葉が何かしら大きな悩みを抱えていたとしよう」
「え? …………うん」
一瞬こちらを向いた美竹だったが、直ぐにコーヒーに視線を移す。
「どれだけ問い詰めても青葉はソレを自分達に話そうとはしません」
「……うん」
「お前はそれに対してどう思う?」
美竹は数秒考えた後。
「………なんかイライラする」
「ま、そういうこった」
もしかしたら……だが。こうなる前に宇田川と喧嘩のひとつでもさせておけば良かったのかもしれない。
起爆剤こそ過激だが、その方が後々上手くいっていたのかもな。
まぁタラレバ話になるんだけども。
「分かりようはないけど。青葉達は美竹に"信頼されてないのかも"と思ってるかもしれない」
「それはっ」
「分かってる。そんなつもりはないんだよな。今のは極端な例えだ」
「……」
「けど。言ってくれないっていうのはそういう事だ。お前だって、メンバーの誰かが困ってたら力になりたいし、羽沢がつぐっていたら、手を貸そうと思うだろ?」
「……そうだね」
「お前たちの絆は
「……っ」
少々キツい物言いかもしれないが、青葉から「叱っておいて」と言われているからな。少しばかり心を鬼にする。
美竹が反論することは無かった。ただ悔しそうに眉をひそめて、ただただコーヒーに焦点を合わせている。
「……ごめん」
数十秒程して、美竹は小さくそう呟いた。
「俺には謝らなくていいよ。それは青葉達に……な」
「…うん」
「……そうだな。もし申し訳なさがあるのなら、話してくれるか? こうなった原因」
俺の言葉を聞いた美竹はゆっくりと頷く。
そして、またしても同じタイミングで俺たちはコーヒーを流し込み、ふぅ…と揃って息をつく。
それからたっぷり5分程の静寂の後、美竹は口を開いた。
◇◇
コトリと中身の少ないカップをテーブルに置く。
「なるほど。親父さんが……」
「そう……。あの人はあたし達のバンドを"子供のお遊びだ"って言う。あたしはそんなつもりないのに…!」
ようするに。美竹の親父さんが、美竹のバンド活動に対して否定的らしい。
親父さん的にはバンドなんかより、美竹には美竹流華道の家元として美竹家の後継者になってほしいと。
だが、美竹本人はそれを否定。互いの言い争いが続き。結果、反抗期真っ盛りの美竹は家を飛び出した……と、そういうことのようだ。
「あたしはいつだって本気。佳夏はこの前
そう。実は花女の文化祭が始める数日前、1度Afterglowの練習に付き合った事があった。いつかの美竹との約束を果たしていたのだ。
美竹の言う通り。技術の差異はこの際置いておくにしても、本気度で言えばRoseliaと大差ないと俺は感じている。各々が信頼を寄せ合って、その絆はもしかするとRoselia以上なのかもしれないとすら思った。
それを、親父さんに否定されたのか。
「けど……。このままでいいとは思ってないんだろ?」
美竹は目を伏せながら頷いた。
『ガールズバンドジャムvol.12』。通称"ガルジャム"が近々CiRCLEを会場にして行われる。
かなり規模の大きいライブイベントで、その手の関連会社の人間も見に来るらしい。俺も今回そのイベントの手伝いに駆り出されているわけだ。
そしてAfterglowは、ガルジャムへの出場が決まっている。
今の美竹は、ガルジャムもといバンド活動と、親父さんとの問題で板挟みになっている状態だ。簡単に言えばコンデションは最悪。こんな状態でライブなんてしようものなら、結果なんて火を見るよりも明らかだ。
「佳夏は…さ」
ふと、俺が虚無を見つめながら考え事をしていると、自信無さげに小さく声をかけられた。
「佳夏はどう思うの? あたし達のバンド」
「どう……とは?」
「Afterglowが……"ごっこ遊び"だと思う…?」
赤メッシュが消えているからだろうか。いつもより3割増でか弱く見える隣の少女から、そんな疑問を投げかけられた。
俺の返答に不安があるのか、心做しか美竹は眉を下げている。
「………」
俺は返答を考える。……フリをして、残ったコーヒーをやや乱暴に飲み干した。
答えなんて決まってる。
「さぁ」
「………え」
恐らく美竹の期待を裏切った答えだったのだろう。美竹は言葉を詰まらせたまま俺を見据える。
「……は、はぁ!? "さぁ"って何! あたしは真面目に聞いてんのにっ!」
若干のラグを挟んでから、美竹はソファから立ち上がり怒号を飛ばした。
きっと美竹は俺にこう言って欲しかったのだろう。「そんなことはない」「お前たちは本気だよ」とか、そんな在り来りな答えを。
だがそうじゃないと思うんだ、美竹。
「逆に聞くが。もし俺がその質問に対して「お前たちのバンドはごっこ遊びだ」と答えたら。お前はどうするんだ?」
「……っ!。それは……」
「それは?」
「……………怒る……と思う」
だろうな。
何故なら、それだけお前たちが本気だからだ。
「自分達がバンドに本気かどうかなんて、他人に聞くな」
「……っ」
「それは、他人の指図で決めるもんじゃない。その答えを俺に聞くな、親父さんにも聞くな。例え言われても鵜呑みにするな」
「………佳夏」
「他の誰でもない
そんな事で、お前たちの"いつも通り"が覆っていいわけが無い。
「今度は俺から聞くよ。お前達のバンドはごっこ遊びなのか?」
俺はしっかりと美竹の赤い瞳を捉える。
「………違う。そんなわけない。あたし達はいつだって本気。例え誰に何を言われても、あたし達はいつも通り本気だよ」
その瞳に一切の陰りは無かった。何か吹っ切れた様子を纏った美竹は、ボスンとソファに座り直し、コーヒーの残ったカップを大きく傾けた。
「……そうか。ならそれを貫けばいい。その方が……アレだ。ロックだろ」
「ふっ。そうかもね」
うっすらと笑った美竹は、大きく息を吐いてからソファにもたれ掛かる。
「なんか……。難しく考えすぎてたのかな、あたし」
「……そうかもな」
「………………佳夏、あたしさ」
そのまま言葉を続けようとした美竹は、ソファに寄りかかったまま顔をこちらに向ける。
「父さんに……バンドを認めてもらいたい」
「親父さんに?」
「うん。"言われても気にしない"って言うのも悪くは無いんだけど、あたしは父さんに認めてもらって、胸を張ってステージに立ちたい」
なるほど。それが美竹なりの親父さんとの向き合い方なのだろう。
なら、簡単な方法がある。
「ちょっと待ってろ」
「?」
俺はソファから立ち上がり、自室に置いた鞄から1枚の紙切れを取り出す。
そして再びリビングへ。
「これ、親父さんに渡しな」
「……ガルジャムのチケット」
そんな会話をしながら、俺は美竹にチケットを差し出す。
月島さんから「友達にでも渡してきなさい」と貰ったのだが、丁度いいかもしれない。本当は優太にでもやろうと思っていたのだが………すまん優太。今度なんか奢るから。
「これなら手っ取り早くていい」
「……でも、見に来てくれるか分かんないし」
「そこはお前の情熱の見せ所だ」
俺がそう言うと、美竹はゆっくりとそれを受け取った。
「……うん。そうだね。見せつけてくるよ」
「あぁ。親父さんの度肝を抜いてやれ」
「いいね。……ついでに、佳夏も驚かせてあげるから、覚悟しといてよ」
「そりゃあ。期待しとかないとな」
自信を滲ませた笑顔を向けてくる美竹を見て、ようやっと落ち着ける状態になったような気がした。
説教じみてしまったが、慣れないことはしない方がいいな。やっぱ疲れた。だが、多分これでいい。後は幼馴染達に丸投げする。
「難しい話は終わりにしよう。俺ぁ疲れたよ」
「そうだね。…ありがと」
「いいさ別に。………暇だな。なんか映画でも観るか? 気分転換に」
「やっぱ好きなんだ、映画。まぁあの棚を見れば何となくわかるけど。いいね、佳夏のオススメ観せてよ」
「……このホラー映画とか━━━━━」
「やっぱあたしが決める」
◇◇
「……そういえばさ、佳夏。寝る時……どう、する?」
自分から聞いておいてなんだけれど、顔が少し熱くなる。
だって、男の家に泊まるなんて経験今まで無かったし……。冷静になった今ならわかるけど、よく佳夏の家に行こうと思ったね、あたし。
寝る時の事について少し前からどうしようか聞こうと思っていたけど、いざ聞くとなるとちょっと恥ずかしいから、映画を観ている今なら何となく聞けると思った。
けど、何故だか返答が無い。
あたしはチラッと、見慣れた彼の横顔を見る。
「…………」
「……………寝てる…?」
佳夏は寝ていた。映画の音で聞こえ辛いけど、確かに寝息が聞き取れる。
それに気付くと、あたしの興味は映画から佳夏へと大きく傾いた。
もしかして……結構疲れてた…のかな。
ガルジャムのサポートもあるって聞いてたし、Roseliaの練習にも付き合ってるって聞いてた。……どうせ湊さんが無理矢理連れ出してるんだろうけど。
………ズルい。
あたし達だってまだ1回しか佳夏とバンド練習出来てないのに。
「………」
やっぱ悪いことをしてしまったなと思ってしまう。
佳夏には関係の無い家とバンドの問題に、あたしが巻き込んでしまった。
きっと佳夏は「気にするな」って言うんだろうけど、やっぱりどうしても申し訳なく思ってしまう。
なんで、佳夏を頼っちゃったんだろ。
たかだか2ヶ月ちょっとの付き合いで、モカ達と同じくらいの信頼を寄せてしまっている。我ながらどうかしているんじゃないかって……思ってしまう。
佳夏の言う通り、今回真っ先に頼ったのが佳夏なのは間違いなんだと思う。
……でも。
佳夏を頼って良かったと……そう思ってしまった。
そんな二律背反な思いを隠して、あたしは隣ですやすやと眠る佳夏を見つめる。
「………」
魔が差して、あたしは佳夏の頬を人差し指で優しく突いてみた。
柔らかい。けど、モカよりは硬い。
「……う」
「!」
咄嗟に手を引く。どうしよ、起こしたかな…。
「……やめろよ……………ハル」
佳夏は寝言のようなものを零す。どうやら起きてはないみたい。
その事に安堵すると同時に、もうひとつの疑問が湧いてきた。
ハル?
何それ。……いや、誰? でいいのかな。
一瞬、佳夏を挟んで反対側にいる猫のことかと思ったけれど、確かあの猫の名前は調味料みたいな名前だったはず。たしか……そう、しょうゆ。
猫でないならなんなのだろうか。
……誰だろうか。
"誰か"と考えて、あたしの頭に真っ先に浮かんだのは"他の女子"という単語。
なんだろう。なんか………こう……、分かんないけど……変な感じがする。
胸の奥がピリピリした。
こういうのはたまにある。それも、佳夏が近くに居たり、佳夏の話をしている時に限って。
なんなんだろうね、まったく。
そんな事を考えていると、ふと視線を感じた。
「………」
「………何」
猫があたしを見つめていた。この子さっきまで寝てたと思ってたんだけど。
数秒見つめ合ったあたし達だが、猫の方がゆっくりと立ち上がり、佳夏のお腹の上に倒れ込むように寝転んだ。
そして再びあたしを見つめる。その目は、まるで「ご主人様は私のモノ」とでも言っているようで。
「……」
ここで、あたしの悪い癖が働いてしまう。
猫相手だと言うのに、謎の対抗心を燃やしたあたしは、ゆっくりと佳夏に近付いた。
何故かテレビから聞こえる音より、ソファと衣服が擦れる音の方が大きく聞こえてしまう。
いや、それよりも。
「………///」
あたしの心臓の方が圧倒的にうるさい。
ゆっくりと近付いているのに、反比例するかのようにあたしの心臓は強く脈打つ。なんか腹が立つくらいうるさいんだけど……っ。
もしかしたらあたしの動悸で佳夏が起きてしまうのではないだろうかと、そんな不安を押し潰して佳夏に接触する。
「………ぁ」
あったかい。
なんだか、とても落ち着く温もり。
……あぁ、不思議だ。
さっきまであんなにうるさかった心臓が次第に落ち着きを取り戻していく。
余裕ができたあたしは、大胆(?)にも佳夏の肩に頭を預ける。
まだ……起きてはないみたい。
なんだかな。あたしはこんなにも色々な感情が飛び交っていると言うのに、この男はそんなことも知らずに気持ちよさそうに眠っていると思うと、それだけであたしの反骨精神が刺激される。
だからあたしは佳夏に全身で寄りかかる。
「…………」
佳夏の鼓動が聞こえる。
あたしよりも落ち着いたテンポのソレにあたしは聞き入る。
映画なんかとうにそっちのけで、佳夏に触れている部分に無意識に集中する。
何分そうしていたのかは分からないけど、次第に瞼が重くなっていることに気付いた。
眠い。
あたしは、深く意識を落とし込んでいく。
◇◇
…………ん?
「━━━━━」
……何…? 誰かが……あたしの顔を…………揉んでいる?
「━━━━━ゃん」
何か聞こえる。
「━━━━━にゃん」
何者かがあたしの顔をしきりに揉んでいる……いや、踏みつけている?
「……ん……ぅん?」
あたしは重い瞼をこじ開ける。
「……んにゃん」
「……」
いきなり視界にどアップで映り込んで来たのは1匹の猫。
その猫はあたしの顔に小さな肉球をフニフニと押し付けている。
この子は……そう、佳夏の猫。
なんで? ……………………ってそうだっ!
あたし、佳夏の家で寝たんだった……!
思い出したあたしはガバッと毛布を弾くように起き上がる。それにビックリしたのか、猫は一瞬にしてあたしの元から走り去ってしまった。
…ん? 待って、毛布って……
「ん、起きたか」
声のした方向に咄嗟に振り向くと、キッチンに立って何かを作っている佳夏がそこに居た。
「おはよう」
「お……は、よ」
状況が整理出来ていないからか、たどたどしい挨拶になってしまった。
落ち着こう。……よし。
近くにあった窓を見てみると、既に暖かい日が差している。つまりもう朝だ。
あたし結局あのまま寝落ちしてしまったらしい。
佳夏に…………寄り添って…。
「…………っ!////」
思い出した。そしてそれだけで顔が急激に熱くなる。
佳夏が先に起きてるってことはもしかして……。あたしが佳夏にくっついて寝ていた事がバレているんじゃ……っ!
「結局俺たち寝落ちしてたみたいでさ」
「……ね、ねぇ。佳夏」
「ん?」
「あたし、寝相悪くなかった…? 佳夏に……その、おっかかったり……//」
「? いや、別に。俺が起きた時には美竹は反対向いてたし」
「え? あ、そう……。そうなんだ……」
それを聞いてあたしは安堵する。よくやったあたし。と、心の中で讃えていると、だんだんと余裕を持って状況を把握することができた。
「(実は抱き枕にされてたなんて言ってたら絶対拳が飛んできそうだから黙っておこ……)」
「んにゃん……」
この毛布は佳夏がかけてくれたのだろう。暖かい。
それにとてもいい匂いが鼻腔をくすぐる。どうやら佳夏が朝食を作ってくれているようだ。
「なんかごめん、朝食まで。起こしてくれれば手伝ったのに」
「ぐっすりだったからな。起こすのは気が引けた」
「そ、そう……//」
確かに満足な睡眠を取れた気がする。気分がスッキリしている感覚。
「ソファだったけど、体痛くないか?」
「大丈夫。毛布ありがとね」
「あぁ」
その会話を皮切りに佳夏の料理がひと段落する。あたしは洗面所を借りて顔を洗い、昨日乾かしておいたあたしの服に着替える。
……あ、佳夏の匂い。
「…………」
この匂い……なんか好き。素直にそう思ってしまったあたしは服の袖を顔に当てるが、「朝食できたぞー」という佳夏の呼び声で正気に戻る。
……ていうか、なんかこういうシチュエーションって夫婦みたいな…………。
あぁダメだ。今ちょっと顔熱い。
あたしは返事をしながら再度顔を洗って火照った顔を必死に冷やす。こんな顔アイツに絶対見せられない。
「「いただきます」」
洗面所から戻ったあたしは、既に料理が並べられているテーブルに着き手を合わせる。
今朝は焼き鮭のある、The朝食という感じのメニューだ。
「いつもこんなの作ってんの?」
「まさか。今日はお前がいるからはりきっただけ」
それを聞いて冷めかけていた熱が舞い戻ってくる。ほんと引っ込んでて欲しい……っ。
でもなんか……、佳夏に尽くされてるみたいで悪い気は……しない。
あたしは気を紛らわすように早めに口を動かす。
やっぱり凄く美味しかった。
◇◇
「この後どうするんだ?」
キッチンで食器を洗いながら、隣で食器を拭いている美竹に聞いてみた。
「モカ達に会って、話をする。……で、その後父さんとも話す」
決心がついた様子の美竹は若干の不安を言葉に含むも、昨晩より随分と落ち着いた雰囲気と共に答えた。
「もう皆には連絡した。あと少ししたら出るよ」
「そうか」
「佳夏は?」
「……そうだなぁ…」
と言っても、深く考える事は無い。今日も午前中からバイトだ。俺ももうすぐ家を出る。
「なら……途中まででいいからさ、ついてきてよ」
「? …………別にいいけど、何で」
「何となく……ちょっと怖いから」
拭いきれていない不安が直前になって溢れてきているのかもしれない。幼馴染に対してはどうかは分からんが、父親とのけじめはきっとまだ怖いのだろう。
俺は「分かった」と答えながら最後の食器を美竹に渡す。
30分後。
俺と美竹は静かな朝の住宅街を歩いていた。
「ありがと」
すずめと足音以外の音が唐突に隣から聞こえる。
「何がさ」
「……何もかも」
「なんだそりゃ」
美竹は小さく微笑んだ。
「色々間違ったけどさ、あたし。それをちゃんと教えくれたことには感謝してる」
「そう……。まぁ、謝られるよりそう言ってくれた方が俺としては嬉しい」
「……うん」
「こっちこそ……ありがとな。ちゃんと相談してくれて」
「それって感謝すること?」
「友人から頼られてるって分かるだけでも、嬉しいもんさ」
「……ふぅん」と零した美竹は顔を背ける。よく見てみると耳が赤い。
やっぱり感謝されることにそこまで慣れてはないみたいだな。
「照れるなよ」
「な…っ! 照れてないしっ//」
「顔赤い危なっ」
問答無用で肩パンしようとしてくるもんだから咄嗟に避けた。美竹のソレは照れ隠しにしては割と暴力的なので怖いんだよな。
「…………佳夏もさ」
「?」
美竹が落ち着きを取り戻りたのか、先程より落ち着いたトーンで話し始める。
「なんか困ってたら……ちゃんと
「…………」
それを聞いた俺はゆっくりと美竹の顔を覗く。そこにはやはり頬を赤く染めながら、上目遣いで俺を見上げる美竹の姿があった。
びっくりするくらい可愛いアングルだった。
流石にコレには俺の心臓も大きく跳ねる。バレていないことを願いながら、俺は言葉を返した。
「あぁ。……ちゃんと
「…………………………」
この直後。無言で足を蹴られたのだが、全く意味が分からなかった。
◇◇
「いててて…………。お、もう皆いるのか」
「そうみたい」
目的地の公園へ到着。そこには既にAfterglowの他メンバーが揃っていた。
「……あっ! やっと来た!」
「ようやく揃ったか」
「おはよう蘭ちゃん! 佳夏君っ」
「おっはぁ〜」
「おう」
「ん。おはよう、皆」
俺たちを見つけた他メンバーは笑顔で手を振っている。つられたからなのか、美竹も笑顔で4人の中に入っていく。
なんだか落ち着く空間だ。Afterglowの"いつも通り"が戻ってきたように感じる。
美竹はその後、今回の件について全員に頭を下げた。軽口程度に怒られはしたようだが、皆終始笑顔だった。それに加え、ガルジャムへの美竹の意気込みを聞いたメンバーはさらに活気付き、上原の「えい、えい、おー!」という声だけが公園に響くのだった。
「けー君けー君」
「ん?」
その姿を遠巻きに眺めていた俺の元へ青葉がやってくる。
「ありがとね〜。また助けられちゃった〜」
「"また"……かどうかは分からないが、まぁそれなら良かったよ」
と言っても、問題は美竹と親父さんの話がどうなるかなんだけどな。
そんでもって、今回みたいに唐突に問題を持ってこられるのは勘弁して欲しいところだ。
「……ところでさ〜、けー君」
「何さ」
「この公園……どう?」
「……?……??」
話の流れを変えた青葉は何を言うのかと思えば、何故か公園について聞いてきた。
「どう……と言われても」
どうもこうも。俺にはどこにでもあるような公園にしか見えないんだがな。
そんなことを思いながら辺りを確かめるようにキョロキョロする。
青葉が聞いてきたことに何かしら意味があるのかと思考を回してみるが如何せん分からない。
結局大きくも小さくもない公園をざっと見回すことしか出来なかった。
「良い、公園……だな?」
「…………」
そんな応えしか出せなくて、コレで合っているのかと言う不安を織り交ぜるように疑問符をつけてしまう。
それを聞いた青葉は目を細めて俺を見つめる。というか若干睨んでる。
俺はわけも分からず数秒睨まれた後、青葉の方から視線を外し。
「…………そっかぁ。ざんね〜ん…」
「???」
珍しく頬を膨らませながらそう言った。
ちょっと可愛いと思ってしまったのはここだけの話。
「何の話だ?」
「知〜らない。けー君のばーか」
「はぁ…?」
「ふんっ」
「えぇ……」
訳が分からんぞ。
状況を理解できていない俺を背にして、プンスコと怒り出した青葉。これまた珍しい怒り方でやっぱりちょっと可愛い。
……って、怒られてんのに何考えてんだよ。
俺はオドオドしながらどう謝罪しようかと考えていると、ふと青葉と目が合う。
「……ふふふ」
「え」
ニヤニヤしていた。
「しょうがないなぁけー君は。……もうちょっと待ってあげる」
「え? あ、はぁ……え?」
「そんなんじゃあ
「?????」
青葉の言葉に違和感を感じながら、どういう事かと思案するが終ぞ意味が分からなかった。
青葉は俺に笑顔を向けながら幼馴染の輪に戻っていく。
……マジで何なんだ?
「佳夏はどうするの?」
上原が聞いてきた。どうやらAfterglowはこのまま揃って美竹の家に向かい、親父さんと話をするらしい。
「俺はこのままバイトに行く。悪いがここまでだ」
「そっか」
「……美竹」
「ん」
「頑張れよ」
「……うん。佳夏もね」
美竹の強気な笑みを見てもう大丈夫だと判断する。これならきっといい報告が聞けそうだ。
ガルジャムを楽しみに待っていよう。
「それじゃ。ガルジャム、楽しみにしてるな」
「任せてよ」
「うんうん! 私達ならきっと良いライブにできるよ!」
「おう! 佳夏もあっと言わせてやるさ」
「佳夏君も、バイト頑張ってね!」
「ライブ終わったらデートしよーね〜」
「「「「モカ(ちゃん)っっ」」」」
デートはともかく、やまぶきベーカリーには付き合うつもりさ。奢ってもらう約束もあるし。
言い争いを始めた美竹達を尻目に、俺はCiRCLEへと足を向かわせた。
Afterglowがガルジャムにて大成功を収めるのはもう少しあとの話。
◇◇
「さっきさ」
「? なぁに〜」
「佳夏と何話してたの?」
「別に〜。ここは良い公園だね〜って話とー……」
「何その話題……」
「けー君が蘭にやらしぃことしてないかなぁ〜って」
「何その話題っ!!///」
「それを聞いてただけ〜」
「だけって……はぁ」
「まぁ。あの様子だと何もなかったみたいみたいだね〜。ドンマイドンマイ〜」
「はぁ!? 別に、あたしは……//」
「でもさぁ」
「ん?」
「他が蘭の抜け駆けを許すかは分からないよね〜♪」
「え」
「そーだよ蘭っ! け、佳夏とひとつ屋根の下なんて……なんてっ!」
「ひ、ひまり?」
「私は蘭をそんな風に育てた覚えはないよ!」
「あたしもひまりに育てられた覚えはないんだけど……」
「蘭ちゃんから佳夏君の匂い……いいなぁ」
「つぐみまで……! ちょっと巴、どうにかしてっ」
「いや……アタシもちょっと、聞きたいかなぁ……って。あはは」
「あはは、って…!」
「で、どうだったんだ……!?」
「蘭ちゃん!!」
「さぁ蘭! 洗いざらい吐いてもらうからねぇっ!!」
「ちょっ……! 来ないでよ!!」
ギャーギャーワイワイ
「(これぐらいは許して欲しいなぁ。蘭〜)」
モカちゃんだって……。
『どう……と言われても』
「はぁ……」
あの感じじゃ、今回もダメだったかな〜。
もう……。今までいろんなことを試してみたけど、どれもこれも効果が薄い…………どころか、効いてすらいないような気がする。
モカちゃんも流石にへこむよ? けー君。
けー君にとっては……取るに足らない事だったのかな。
あたしの
「…………」
はてさて。
いつになったらけー君は、あたしを思い出してくれるのかな。
いつも感想下さる方ありがとうございます。励みになっております(-人-)
気が向きましたら質問やリクエストもお待ちしておりますので……