ガルパ6周年おめでとうございます!
イラコン楽しかったです(*´∀`*)
6周年になり大学生になったキャラもいるというのに、当作品は未だ初期時間軸なんですねぇ(遠い目)
ニャー
ニャーニャー
ニャー
ニャー
ニャーニャー
「ここは……アレですね。楽園」
「あら、なかなか分かるわね」
ニャーニャーニャー
ニャー
ニャーニャー
ニャー
ニャーニャー
「癒されるわ」
「……っすねぇ」
ニャーニャー
ニャー
ニャー
ニャーニャー
ニャーニャーニャー
…………えぇと、この文面だけではなんとも状況が分かり辛いと思うので改めて説明しよう。
俺はただ今、友希那先輩と公園のベンチに座っている。ちなみに前回Afterglowと集まった時に来た公園とはまた別だ。この街は妙に公園が多い気がする。
さっきから外野で鳴いているのは大量の猫。視界いっぱいのモフモフと獣の匂いに巻かれて、俺たちは何をするでもなくベンチに腰掛けていた。
何故こんなことになったのか。それは、遡ること数十分前の事である。
◇◇
バイト帰り。
ガルジャムという山場を越え、なんちゃって激務から解放された俺であるが、かと言ってバイトが無くなったわけではないので、午前中からCiRCLEで働いていた今日この頃。
若干重い足をせっせと動かしながら帰っている最中である俺の耳に、何やら可愛らしい鳴き声が聞こえてくる。
ニャー ニャー ニャー
これは……言わずもがな猫の鳴き声だ。しかも1匹や2匹ではない様子。
近くで集会でもしているのかもしれない。猫という生き物はコミュニティを形成して、かつ情報交換等もする………とかなんとかをどっかで聞いたか読んだ。
もしかするとしょうゆも参加してたり……なんていう期待を抱き、声のする方へ近付いてみる。
どうやら公園の中らしい。
この前、Afterglowの連中と合流した公園よりふた周り程大きい公園のそのど真ん中。そこには大量の猫という猫。
そして……さらにその中心には美しい銀髪を輝かせ、猫達に熱視線を送る美しい女性が━━━━━
「……って、友希那先輩じゃん」
「ふふっ。にゃーんちゃ…………え?」
ここで先輩と目が合う。
距離にして10m程の位置にいる俺だが、先輩は気付いたようだ。
先程まで恍惚な表情を浮かべていた先輩であるが、今はただ目を見開いて俺を直視するだけ。なんか……普通に怖いんですけどその顔。
俺は意を決して公園へと侵入する。
「何してるんです?」
「………いや……そ、の」
猫の中心でしゃがみこんでいる先輩の近くまでやってきたのだが、明らかに動揺している。何故だ。
「? 友希那先輩?」
「……ち、違うわ」
「…………え? 何がすか?」
「私の名前はユキコよ」
「誰だよ」
つい反射的にツッコんでしまった。
先輩はキリっとした鋭い目線でそう言い放ったが、誰がどう見ても友希那先輩である。マジで誰だよユキコって。
「ユキエの方が良かったかしら……」
「は? ……いや、そうじゃなくて。友希那先輩ですよね?」
「知らないわ、そんなRoseliaのボーカルみたいな名前。誰かしら?」
「アンタだよ」
「先輩に向かってその口調は何? 私を誰だと思ってるの?」
「友希那先輩」
「そうよ………じゃないわ。ユミコよ」
「ボロボロじゃないですか。……なんかさっきと名前違うし」
何がしたいんだこの人。
この先輩はどうやら自身を湊友希那と認めたくないらしい。理由は謎だが、それ相応のワケがあるのだろうか。
「……それで? 猫に囲まれて何してるんですか。遊んでたとか?」
「別に……にゃーんちゃんと遊んでた訳じゃ………ぁ」
「……………はぁ……
「死になさい」
「怖い」
やべぇよこの人さっきから。
どう考えたって遊んでたとしか……。? あ、いや違うな。先輩が手に持ってるそれは………猫用缶詰め。ツナ缶か?
「エサをあげてたんですか」
「……!」
しまった。とでも言うように缶詰めを隠そうと背中に回すが、堪忍したのか結局隠すのを諦めたようだ。
その間、猫達がツナ缶の位置に合わせてあっちへ行ったりこっちへ行ったりしているのが可愛らしい。
「たまたまよ」
「はい?」
先輩は猫を見つめながら新しい言い訳を語る。
「たまたまツナ缶を持っていたのよ」
「……いや、どんなたまたま」
「そうだわ。占いのラッキーアイテムがツナ缶だった。今思い出したわ」
「ソレ。猫用のツナ缶ですよね? 猫は人間用のツナ缶NGですし」
「……よく知ってるわね」
「え? あぁ、まぁ……て、そうじゃなくて」
「何よ」
「好きなんですよね? 猫」
「そ、そんな訳━━━━━」
ニャー
「トゥンク…!」
「……」
……え、この人今自分の口で「トゥンク」って言った? 聞き間違いか?
先輩は自身の足に擦り寄ってきた猫を再び恍惚な表情で凝視する。そして優しく頭を撫でる。
慣れた手つき。猫の撫で方が素人じゃないな。俺の目は誤魔化せんですよ。
「もう絶対好きじゃん」
「な……っ!? ち、違うわっ」
ニャー
「はうぅ…!//」
「……」
コレ何回繰り返せばいいんですかね。というか、何故先輩は猫好きを頑なに認めようとしないのだろうか。イメージが崩れるからとか? ぶっちゃけ今更な気もするんだけれど。
「……お?」
なんて呆れ半分で猫とじゃれ合う先輩を眺めていると、俺の足元にも猫が数匹やってきた。
ニャー
俺もゆっくりとしゃがみこんで、近くにいた猫に手を添える。すると、なんと猫の方から顔を擦り付けてきた。どうやらかなり人馴れしているらしい。
それに加え、俺の体質も相まってのことかもしれない。
「……慣れてるわね」
「え? ……あぁ」
気付けば、友希那先輩がこちらに視線を向けている。しかも少し驚きを含んだ表情で。
「うち。猫飼ってるんで」
「!」
「俺は好きですよ。猫」
「………実は私。猫が好きなの」
「手のひらくるっくる」
さっきまであんだけ否定してたのに。いやまぁ知ってましたけども。先輩、猫に関してはボロの出し方が異常なんだよな。
「驚くのも無理はないわ」
「いや……知ってましたよ」
「え……っ!?」
「リサ先輩から聞いてたんで」
「リサ……!」
「くっ」と顔を歪ませながら逸らす先輩。なんかすみませんでした。
「……まぁいいわ。えぇそうよ。にゃーんちゃ……この子達にエサをあげていたの」
「やっぱり」
ようやっと諦めがついたのか、潔く告白した先輩を俺は猫を抱えながら眺める。
「あなたはバイト帰りかしら」
「はい。ここを通ったのはたまたま」
「そう。……ちょうどいいわ。佳夏と話がしたかったのよ」
「俺と?」
「えぇ」
そう返事をしながら立ち上がった先輩は「ついてきなさい」とでも言うような視線を俺に送ると、スタスタと近くのベンチに向かって歩き出した。…おぉ。猫がゾロゾロと先輩について行っている。おもしろい。
俺も誘われるまま、猫を抱えながら先輩の後を追う。
俺も話したいことがあったし丁度いい。
大きめのベンチに2人で横並びで座り、俺が腰を降ろすと同時に先輩は持っていた猫缶を開け、太ももの上に敷いたハンカチの上にそれを置く。
「お食べ」
と同時に、待ってましたと言わんばかりに猫達は先輩の元へ集う。うわぁもう凄いなコレ。ワラワラと押し寄せる猫達が、先輩の膝の周りを覆っていた。
だが。さすがにこの数は怖くないか?
「…はぁ……♡」
心配は無用のようだ。
ニャー
「あぁ。お前も行っといで」
俺は抱えていた猫を降ろすと、猫は小走りで猫缶の元へ。
はて。一体ここに何匹の猫がいるのやら。軽く20匹はいそうだな。もう既に辺りが獣臭い。
「…はい」
「え? あ、どうも…」
先輩の太ももに群がる猫を何の気なしに眺めていると、先輩は「仕方がないわね」とでも言うように新たな猫缶を俺に渡してくる。……別に羨ましいから見ていた訳ではないのだけれど。せっかく貰ったのだから開けてみよう。
「うわ」
猫缶を開けた瞬間、これまた怒涛の勢いで押し寄せる猫達。一瞬で見えなくなった俺の太ももの上にモフモフの集団が…。
「……」
グニグニと踏まれる太ももがこそばゆいが、これは……いいぞ。凄くいい。俺の目の前に可愛いがこんなに沢山…。
俺のズボンがこぼれ落ちたサバやら猫達の毛やらで汚れていることなどどうでも良くなる程の愛くるしさ。ちくしょう猫め。可愛いから許されているということを理解しろよまったく。
ニャー
なんだか……今日のバイト疲れが霧散していく気がする。癒し効果があまりに絶大だ。
猫恐るべし。
「ここは……アレですね。楽園」
「あら、なかなか分かるわね」
そして冒頭へ。
◇◇
「それで、話とは?」
「そうね…」
話とやらを切り出そうとした先輩は、カパッと音を立てて新たな猫缶を開ける。まだ持ってんのかよ。
案の定、先輩の膝周りを猫が埋め尽くす。
「あなた、紗夜に何をしたの?」
「…?」
えっと。先輩は何の話をしているのだろうか。
「紗夜さん?」
「えぇ。ここ最近の紗夜は妙に調子が良いわ」
「はぁ。まぁ確かに、そう言われればそうかも…。調子が良いのはいい事では?」
「…そうね。特に、佳夏が練習に参加している時は……ね」
「え?」
俺? と聞き返してしまう。
「何かふっきれた……というより、迷いが無くなったような印象ね。ここ最近の紗夜の音、今までより数段鋭く主張してくるわ」
「……なるほど」
「佳夏がいる時はさらに顕著よ。そうなれば、紗夜の何かを変えたきっかけがあなたにあると考えるのが普通」
先輩は俺を見つめる。
「それで? あなたは紗夜に何をしたの?」
猫を撫でながら真面目な顔で聞いてくるもんで、少し締まらない空気のような気もする。
というか前も思ったけれど、その聞き方だと俺が紗夜さんに何かいらん事したみたいな雰囲気になるからやめて欲しい。
「………」
心当たりは………あった。
どう考えても
あれ以降、紗夜さんとは今まで以上にコミュニケーションを取るようになった事は自覚していた。特に紗夜さんの方から話しかけてくることも増え、会話の中にプライベートな部分を晒す事もしばしばあった。
実は今日も紗夜さんに会っている。
今日はRoseliaとしての練習は休みのようだが、紗夜さんは自主練としてCiRCLEに顔を出していた。
『今日も自主練ですか。はりきってますね』
『はい。少しでも自分を磨きたいので』
『無理しないでくださいよ?』
『……あなたに言われたくはないです』
『あれ?』
『っふふ』
そんな会話をしたのを覚えている。
友希那先輩の言う通り、最近の紗夜さんは良い音を出す。俺がいる時は特に……ということらしいが、比べようがないので分からない。が、明らかに彼女は変わった。
きっと、紗夜さんの言葉通り、「目指すべき物が見えた」のだろう。
「まぁ……何かはありました」
「そう。ちなみにその"何か"を聞いても?」
「紗夜さんに聞いてください」
「紗夜は「少し話をしただけ」としか言わなかったわ」
聞いたんだ。
「……紗夜に変な事してないでしょうね」
「してませんよ……(多分)」
「まぁ…そうよね。そういうのは難しそうだもの、佳夏は」
「なにおうっ」
先輩はクスクスと笑う。
猫といるからだろうか。今日の友希那先輩は少しばかり感情豊かに見える。
「……ちょっと、悩んでることがあったそうです。んで、それを俺が聞いてあげたってだけですよ」
「…………そう。ありがとう」
「い、いえ」
柔らかく微笑み続ける先輩に動揺してしまう。不覚にも見蕩れてしまった。
俺は一旦咳払いをして気持ちをリセットする。
「多分、紗夜さんなりの目標が定まったんだと思います」
「目標……ね」
「えぇ。真っ直ぐなあの人の事です。きっと止まることは無いんじゃないですかね」
俺が思うに、紗夜さんは自身を磨くためなら貪欲になれる人なんだと思う。じゃなきゃ今までギターを続けるのは難しかっただろう。
ほんと、無理しなければいいんだけれどもね。
「………」
「………」
いくばかりかの沈黙が流れる。
何となくの気まずさを感じながら、優しく流れる風に揺らされる。
「えっと……先輩はよくここに来るんですか?」
沈黙をどうにか破りたくて、なんとか会話を繋げようと頭を捻って出した質問がコレ。
「えぇ」
「猫に会えるから?」
「それもあるわ。けど………」
と、言葉を続けようとする先輩。どうやらこの公園にくる理由は他にもあるようだ。
先輩が猫以外の要素でここを訪れる理由とはなんだろう。かなり気になる。適当な質問だったが、面白い話が聞けそうだ。
先輩は言葉を選ぶように虚空を見つめ、数秒して口を開いた。
「私にも目標があるの」
紗夜さんの話の続きだろうか。
友希那先輩の目標。それについてはあらかた知っていた。
「『
「知ってたの」
「リサ先輩から少し」
友希那先輩の親父さんは元ミュージシャンで、所属していたバンドのボーカルだったらしい。
デビュー前、所謂インディーズ時代にはかなりの人気を誇っていたようで、ファンも多かったそうだ。
しかし。メジャーデビュー後にその状況は一変した。
親父さんのバンドの曲は今まで自身たちだけで作り上げてきた物だったようだが、事務所に所属して以降、事務所が用意した曲しか歌うことができなかった。
しかもその曲調は今までのバンドのスタイルとはかけ離れたもので、ビジネスとして"売れる曲"を追求したものばかりだった。
そしてFWF。このフェスに出場した親父さんのバンドはなんと予選落ち。
結果、新しいスタンスはファンには響かず人気は低迷。時間と共にそのバンドは解散を余儀なくされたという。
これが俺がリサ先輩から聞いた話。友希那先輩から改めて聞いたが、大方同じ内容だった。
「だから私はFWFへの出場を……いえ、優勝を目指している。そして認めさせるの、お父さんの音楽を」
猫を見つめながら語る先輩。しかしその目はどこか別の何かを捉えているように思えた。
「でもね」
ここで、ほんの少しだけ先輩の雰囲気が変わる。
でもね。と続けた先輩は猫ではなく、公園の入口を眺めていた。
「でも……………それだけじゃないのよ」
「?」
誰かいるのかと俺も目線を向けるが、その先には誰もおらず、ただの公園の入口しかない。
先輩は何を考えているんだろう。
「それだけじゃない…とは?」
とりあえず話を進める。
会話の流れからして、恐らくFWFで優勝する理由は親父さんの件以外にもあるということだろう。
気になる。
「私には、心から尊敬しているアーティストが
今だ遠くを眺めながら先輩は続ける。
「1人はお父さん。もう1人は……この公園で会った少女よ」
「少女?」
「えぇ。1度しか会っていないし、名前も忘れてしまった。歳は……聞いてないから分からないけれど、恐らく同年代」
……少し意外だ。先輩が"心から尊敬している"と言い切った相手に同年代の人間がいるとは。
父親を尊敬しているのは話を聞けば理解できる。けれど、たった1度しか会ったことの無い人間をあのプライドの高い友希那先輩が……。
「3年前の秋頃だったわ。私がこの公園で歌の練習をしている時、彼女はやってきた」
「……」
「明るい子だったわ。そして……私とは比べ物にならないくらいの高い歌唱力を持っていた」
そう言った先輩は悔しがる素振りは見せなかった。むしろ、どこか嬉しそうな。
友希那先輩以上の歌唱力を持った少女。3年前とすると先輩は13て所か。そして相手も恐らく同年代。
「私の知るどの歌手にも属さないような才能を感じたわ。あの日の衝撃を忘れることはないと思える程にね」
そこまで言うのか。と、流石に俺も目を見開いた。
あの先輩が手放しで褒めるなんて、そこまで付き合いの長くない俺でもわかるくらい珍しいことだろう。
一体誰だ。
「私も知りたいくらいよ。もう少し話しておきたかったけれど……、あの子はすぐにどこかへ行ってしまったから」
「……そうですか」
結局分からず終いみたいだ。
………? けど、それが何故FWFを目指す理由になるんだ?
「ひとつ、約束をしたの」
「約束?」
先輩は嬉しそうに語る。
「そう……。『いつか凄いステージで貴方と歌いたいわ』って。彼女はそう言ったの」
「……」
「"凄いステージ"というのがFWFのことかは分からない。けれど、FWFで優勝できないようじゃ、きっと彼女とは会えないと思うの」
一拍置いた友希那先輩は鋭い視線を俺に向ける。
「私はその志を忘れない為に、そして再確認するためにここに来ている」
そこには確かな信念と自身……そして、熱意が篭っているように感じた。
「━━━━━彼女は私の憧れよ」
なんだか、めちゃくちゃかっこいいと思ってしまった。
小学生並の感想だが、本気でそう思う。小学校通ってないけれど。
「………」
先輩の真意を知って俺は再確認する。
この数日間、俺は考えた。俺がこれからRoseliaに対してどう向き合うのかを。
今の関係は良くない。ただ流されるままにRoseliaの練習に参加している現状が俺はどうにも気に入らない。
だから考えた。
答えを出した。
やはり、今の俺がなあなあの関係でこの人に着いていくのはダメだ。
ここいらで、そろそろこの関係を終わらせようと思う。
「友希那先輩」
「何?」
「俺からも話があるんですけど、いいですか?」
「……えぇ。何かしら」
先輩は真剣な空気を察したのか、ゆっくりと体を俺の方に向ける。
鋭い眼光。宝石のようなその山吹色の瞳と俺の視線が交差する。
「友希那先輩。単刀直入に言います」
覚悟は決めた。
今言うんだ。
「俺をRoseliaに入れてください」
◇◇
昨晩。
俺はスマホを操作し、とある人に電話をかけた。
『も……もしもし…!』
「もしもし。美竹か」
相手はクラスメイトの美竹。
「今時間大丈夫か?」
『う、うん。大丈夫。どうしたの急に……珍しい』
「いやまぁ……なんだ。ちょっと相談したいことがあってな」
『相談……。そっか…ありがと』
何故"ありがとう"と返したのか、その理由が俺には分かっていた。
『それで、相談って?』
「あぁ。実は━━━━━」
俺は現状をかいつまんで説明した。
『……ふぅん。紗夜さんが』
「あぁ…」
相談内容は「俺がこれからどうRoseliaと付き合って行くべきか」という話だ。
美竹には、俺がRoseliaとの付き合いに対して悩んでいること、紗夜さんにも直接誘われていること、その他知りうること全てを話した。
『………でさ、佳夏』
「ん?」
『実際佳夏はどうしたいわけ?』
「……どう…って」
分からない。どうするべきか分からない。
紗夜さんに明確に勧誘されて以降、俺の意思はブレブレだ。不安定で、濁した回答しかしていない。
でも分かることもある。Roseliaにとっての俺の存在意義だ。
それは……あまりに気薄なのではなかろうか。
常々思っていることなのだが、Roseliaというブランドに林道佳夏という人間が加わることに明確なメリットを感じない。
友希那先輩や紗夜さんが何をもってして俺を誘うに至ったのか、まるで分からないのだ。紗夜さんに関しては特に……。
バンド経験があり、かつ楽器をそれなりに扱える人間。そんな人種は山ほどいる。確かに俺もこの中に属している自覚はあるが、俺の場合はあまりに中途半端だ。
そんな人間が加わるくらいなら、むしろ居ない方がより合理的だろう。
Roseliaの意志にも意向にも大いに同意しよう。だがそれとこれとは話が違う。
全てにおいて、
多分、あの空間に俺は『あのさ』
「え?」
『それを一旦やめたら?』
俺の言葉と思考を遮って、美竹声が脳に響く。
やめる?
何を。
『その……"べき"か"べきじゃない"か理論』
「……ん??」
俺は首を傾げる。
「何それ」
『いや……。さっきから面倒なことうだうだと言ってるけど、結局佳夏がどうしたいのか聞いてないんだよね』
「? だから━━━━━」
『佳夏が言ってるのは「俺はこう"したい"」じゃなくて「俺こうす"べき"だ」………ってのばっか』
思考が止まる。
身体も硬直する。
『佳夏の意思が全然こもってない』
「…………………………………………………」
確かに。
確かにそうだ。
全くと言っていい程に答えになっていない。
何をしているんだ俺は。
『多分、だけどさ……。佳夏は自信が無いんじゃないの?』
「……」
『自分がRoseliaに釣り合えるか否かしか考えてないんじゃないの?』
そう。俺はずっとそう考えていた。
そしてずっと否定という答えで完結していた。
俺がRoseliaにいる意味を見つけ出すことに執着していた。
でも。
でも大事だろ? そういうの。
能無しが居たってどうしようもないじゃんか。
『……自分がRoseliaにとって能無しかどうかなんて、佳夏が決めることじゃない』
「………っ」
怒り。のような物を、美竹の言葉の中から微かに感じた。
『そんなの後から着いてくるもんでしょ。
「………いや。……………あぁ……そうか」
『もっとさ……こう、シンプルに行こうよ』
美竹の言葉が、俺の考えの愚かさを露呈させる。
そうだ。俺は……彼女に━━━━━
━━━━━━━━━━沙綾に何て言った?
『…………もう少し、我儘になりな』
「………!!」
美竹がそう言った。
俺が沙綾に告げたセリフを。一言一句違えずに……言った。
「………あ"ぁ〜〜…っ」
『え? 何、どうしたの…?』
「…………………はぁ……いや。分かったんだよ……俺の馬鹿さ加減が」
『何それ…』
馬鹿だ。本当に間抜けだ。
他の人間に迷惑はかけまいと、自分の意思を押さえ込んでいた沙綾に俺はそう言ったんだ。
余計な条件をとっぱらった答えを出してほしいと、そう俺は沙綾に強要した。
何故俺はそうしない。
他人にソレを求めるクセに、何故自分はソレをひた隠す。
「………アホか俺は」
これじゃあ、沙綾に顔向けできんだろうが。
俺は大きくため息をつく。
俺自身に対する呆れからだった。
『でさ』
美竹の声に身体がピクリと反応する。
『佳夏は、湊さんや紗夜さんに誘われて……どう思ったの?』
「………」
『素直に、どう思ったの?』
素直に。
シンプルに。
簡単に。
そう……簡単なことだ。
「俺は…………嬉しかったんだ」
基本の感情。喜怒哀楽の"喜"。
俺はあの日。友希那先輩に認められた気がして……嬉しかったんだ。
『そう……ならまぁ。…そういうことなんじゃない?』
「そういうこと……か」
『そ』
スマホの暗い画面の向こうから小さくため息のような息使いが聞こえる。
『Roseliaにいる意味は……まぁ、後付けでいいと思う』
「後付け……」
『うん。「自分はこの為にRoseliaに入ったんだな」って。後から決めればいいんじゃない?』
「……なるほどな」
……なら。
「じゃあ……そうだな。……探すか。その"意味"」
今この瞬間。俺の意思が固まった。
あまりにあっさりで、あまりに簡潔だった。
なかなかに味気ない結末。
ここまで味気ないと、まるでさっきまでうじうじと悩んでいた自分が更にバカバカしく見えてくる。
わざわざ美竹に頼ることもなかった。
何してんだか。
『そんなことない』
「え?」
『嬉しかったよ。佳夏があたしに頼って来てくれたこと』
「……そう」
美竹のその気持ちは理解できた。何故なら、美竹が俺を頼った時も、俺は今の美竹同様に嬉しく感じていたのだから。
「ありがとう」
『どういたしまして』
だから告げた。その感謝を。
『ところでさ』
「ん?」
『Afterglowのマネージャーになる気はないの?』
「おい」
何だいきなり。今の状況でよく勧誘する気になったな。
ここまで来て俺の意思を揺らがせるな。
それはそれで面白そうって思っちゃったじゃん。
『うそ。半分冗談だって』
「さいで……」
小さくクスクスと聞こえる。
『でも一応聞いとく。
「そうだな……
『……そ』
最後にポソりと聞こえた美竹声が、妙に胸を締めつけた。
だが、それでもダメだ。
俺は俺の覚悟を無駄にしたくない。
『分かった。……でももしRoseliaに嫌気がさしたら、いつでもAfterglowに来ていいよ』
「嫌気って……」
『あたしはあの日屋上で湊さんに言ったこと、割と本気だから』
屋上で言ったこと。
アレは確か、俺がRoseliaとAfterglow、どちらのマネージャーかって話だったか。
今考えても随分と理不尽な話だ。俺の意思なんて介在してなかったも同然だからな。
どうしてそこまでして。
「先輩も紗夜さんも、青葉も……そしてお前も。どうしてそこまで俺を信用するんだよ」
素直な質問をぶつけてみた。
『え? わかんない』
さらに素直な答えが返ってきた。
「なんじゃそりゃ」
『言葉で表現し辛い。でも……なんか、佳夏ならいいかなって』
「えぇ……」
『ズルい質問だと思うけど、佳夏はあたし達のこと……信用してないの?』
「してる」
即答してしまった。その事に自分でも少し驚いてる。
ではその理由はなんだろうか。……と、自分なりに考えてみるが、パッと出てこない。
そういうことか。
『そういうこと』
「なるほどなぁ」
『それに…………。信用も信頼もしてるから、体育祭の日に一緒に走ったんだから……さ//』
その後もゴニョゴニョと何かを呟いているようだが、生憎と聞こえない。
「ぁんだって?」
『なんでもないっ』
なんか美竹相手だとこういうやり取りばっかだな。
でも……うん。そうだな。
体育祭の二人三脚。俺はあの日の感覚をそうそう忘れることはないだろう。
俺と美竹の息がピッタリと合った瞬間。アレは紛れもなく互いの信頼によって成された物だと思う。
何より、美竹からその信頼を寄せられたことが誇らしかった。
これからもそうであることを願い、そうあるように努めよう。
「これからもよろしくな」
『ふふっ。何? 急に』
「なんでも。気にしなくていい」
『あっそ』
素っ気のない返しだっが、スマホ越しの声色で分かる。
きっと美竹は笑っている。
「……いい時間だな。そろそろ切るよ」
『ほんとだ……。うん、わかった』
部屋の時計を確認しながら言う。もうてっぺんも近かった。かなり話していたようだな。
「悪いな、長々と」
『ううん。全然。……まぁ、その……頑張ってね。佳夏』
「おう」
『ん。それじゃあ……ぇと。おや…すみ』
美竹はぎこちなく締めくくる。
「あぁ、おやすみ。…………
『……え? ちょっ━━━━━』
俺は通話を切る。
「…………」
コレは、言わば俺からの信用と信頼の証だった。
俺からも何かわかりやすくその気持ちを伝えたかったのだ。
そういった意味では"名前呼び"というのはドンピシャなのではなかろうか。
ありがたいことに、名前呼びに関してみた……蘭からそれ以上の追及は無かった。
だって、聞かれたら何て返したらいいのか分かんないし。
……少し顔が熱いな。
「……………………ありがとう」
ベッドに倒れ込み、そのままそんなセリフを落とし込む。
不思議といい気分だ。
◇◇
蘭。
蘭。
蘭。
「〜〜〜〜〜〜……っ!!////」
あたしは枕に顔を埋めて悶える。声にならない叫び声を吐き出す。
離れない。
佳夏があたしを呼んだ声が、頭から離れない。
「もう…! あの男は……ほんと…っ!!」
さっきからこれでもかと溢れ出る謎の感情を誤魔化す為に、バタバタと足をベッドに叩きつける。
熱い。ポカポカどころか……もうジンジンと胸の奥が熱くなる。
こんなの……知らない…!
腹が立つ。あの男にこんなにも情緒をグチャグチャにされることも、そんなことで自分の気分が高揚していることにも。
今まで呼ばれ方なんて気にもしなかったけど……実際言われてみるとこんなにも相手を近く感じる物なんだね。
「……初めて、こんなに喋った」
スマホの画面を確認する。
そこに映った佳夏とのトーク画面には、つい先程終えた通話履歴が残されている。
約2時間。
そう表示されていた。
長いはずなのに……あまりに短い120分強。
それが、何故かあたしにとっては誇らしく思えた。
「いや友達と電話しただけじゃんっ!!!!/////」
「ど、どうした蘭。凄い声が聞こえたが……」
「な、なんでもない! なんでもないからっ。父さんは部屋戻ってて!」
「はぁ………………貸しひとつですからね。湊さん…」
◇◇
「……誘っている側の私が言うのもなんだけれど、一体どういう風の吹き回しなの?」
昨晩の蘭とのやり取りを思い出していた俺の横で、友希那先輩は喜びと困惑のハーフアンドハーフな表情を作りながら俺にそう問う。
「みた…………蘭に少し相談したんですよ」
「……美竹さんに?」
「はい」
蘭の名前を出した瞬間少しだけ怪訝な顔をした先輩だったが、直ぐにいつもの真顔に戻った。
「友希那先輩に誘われてかは色々考えてみたんですけど…………正直言って、今でも俺がRoseliaに釣り合うような人間だとは思っていません」
「……」
「けど…ですね。先輩や紗夜さんに誘われた時は素直に嬉しかったんです」
「……そう。紗夜が…ね」
「蘭には「何もしてない内から切り捨てるのはダサい」って怒られました。……全くもってその通り」
諦めたらそこで試合終了。なんて名言があるが、始める前から諦めるのはそれ以上に愚かなのではなかろうか。
なら試合を始めるまで。
俺はバンドが好きだ。
アイツのおかげで、俺は今でもバンドが……ドラムが好きだ。
この気持ちを俺は一生大事にしていきたい。
1度は止まってしまったバンドマンとしての俺を、もう一度始めてみるのもいいんじゃあなかろうか。
きっとアイツらも許してくれる。
だがドラマーとしてではない、それはアイツらだけの俺だから。
それでもいい。形はどうあれ、俺はまだバンドマンでいたい。
そのチャンスを今掴みたい。
「少し我儘になろうと思います」
Roseliaに釣り合っていないというのなら、これから釣り合える人間になろう。
「お試しで入る気はありません。やるからには持てる全てを投じるつもりです」
昔の俺がそうであったように。
「こんな俺ですが、Roseliaに入れてくれませんか」
そう、心の奥底にしまい込んでいた俺の本心をぶつけた。
数秒の沈黙。
そして周囲の音を拾うことを忘れた俺の耳に一番初めに入ってきたのは。
「…………ふふ」
友希那先輩の笑い声だった。
「私から頼んでいたのに、最後はあなたの方から頭を下げられるなんてね」
そう言った先輩はまたクスクスと笑う。
本当に嬉しそうに笑う。
「佳夏」
「は、はい」
と思ったら、即座に真顔へ。びっくりするなぁもう。
すると先輩は右手を差し出してくる。
これが俺の問いに対する先輩の答えだろう。
めちゃくちゃ嬉しかった。
俺は先輩の手を握り返す。
新しい何かが動き出す予感がした。
「マネージャーとして、これからよろしく」
「……こちらこそ。よろしくおねがんぐっ」
ニャー ニャーニャー
「……締まらないわね」
「
……おいにゃんこ共。お前らの存在を忘れていたことは謝るけど、今すっげえいいところなんだからさ、顔にへばりつかないでくれ。
「っふふ。…………あぁ、そういえば。コレを聞かなければならないわね」
「佳夏。……Roseliaに全てを賭ける覚悟はある?」
◇◇
「ほら。挨拶しなさい」
「親かアンタは。……ぁ〜…えっと、この度マネージャーとしてRoseliaに加入させて頂くことになりました。林道佳夏です。改めてよろしくお願いいたします」
「「えぇぇぇっ!?」」
「ぁ……ぇと。よ、よろしく…お願いします…」
「(林道さん…)」
後日。その放課後。
俺とRoseliaの5人はファミレスに集まっていた。
リサ先輩の言っていた通りRoseliaの会議や集会はファミレスでやることが多いらしい。
すっげここがファミレスかぁ。なんて田舎民みたいな反応もそこそこに、俺たちはボックス席へ通され、その一番奥に座らされた俺。誕生日かな?
全員が座った直後、先輩の合図で俺が正式にRoseliaのマネージャーになったことを伝えた。
「急に決まった集会だったから何かと思ったけど……なるほどねぇ」
「ついにRoseliaに入ってくれるの!? やったぁ!」
あこは分かりやすく喜びを表現してくれるが、リサ先輩は何やらニヨニヨと複雑な表情をしながらどうにも落ち着かない様子。もしかして歓迎されてない……?
「(これからは佳夏と一緒……! テンション上がるケド、にやけちゃダメ! ダメだぞリサぁ!)」
「?」
やっぱ変な先輩。……まぁでもあんな感じの先輩ちょくちょく見るし、問題は無いでしょ。
燐子さんは優しく微笑みながら迎えてくれる。癒し。
「これからよろしくお願いしますね。林道さん」
「はい。こちらこそ」
紗夜さんもどうやら歓迎してくれるようだ。互いに握手を交わす。
「でも、また急でしたね。何か気変わりすることでも?」
「ちょっとしたパラダイムシフト……と言いますか。色々不安があって、今でもそれは拭えてないんですけど、それでも自分にやれることをRoseliaで発揮できたらいいなって……そう、思ったんです」
「…そうですか。勧誘した甲斐がありました」
そして、密かに。頂点に咲く青薔薇を見てみたい……という思いもあった。
そのための手伝いができるというのは、とても光栄なことなのではなかろうか。
きっとRoseliaなら、その頂へたどり着けるような気がする。
「えぇ、その通りよ佳夏。私達が目指すのは頂点。そのためにはこの
友希那先輩の言葉に俺たちは耳を傾ける。
「新生Roselia。始動よ」
「おー!」
「お〜☆」
「はい…!」
「はい」
「ぇ、あ……俺もすか」
俺たちはファミレスで拳を突き上げた。なんこれ。
「さて。佳夏の加入記念とこれからのRoseliaへの激励の意味も込めて……
アレ?
友希那先輩は澄まし顔のまま不可解なことを言う。
だが、先輩の言葉の意味を理解していないのは俺だけのようで、ほか4人は各々の表情を出しながらも"アレ"について話していた。
「やっぱやるか〜アレ」
「今日は反省会ではないのですが」
「いいじゃないですか紗夜さん! 今回は気合を入れるって感じで!」
「頑張って……食べ切らないと…」
頑張って食べ切る? 頑張らないと食べきれないものの話なのか。
「何の話してるんです?」
「Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザート付きの話よ」
「は??」
なんですって?
何かよく分からん呪文が聞こえた気がする。ハンバーグがなんちゃらって……。
「それじゃ。燐子よろ〜♪」
「はい……。スーパーやけ食いセット……6人前…ですね」
「やけ食いって……」
「……すみません。特盛超お得ポテトも追加で」
慣れた様子で店員に注文する。え、何? いつもこんな感じ?
「そうね。私達5人で初めてFWFの予選コンテストに出場し、そして落選した日から、何か反省会をする時はこうするのがルールになったわ。あなたも食べなさい」
「は、はぁ……」
何そのルーティン。
「お待たせしましたぁ〜」
店員が持ってきた料理が目の前にドンと置かれる。
…………デケェ。
「……いただきます」
なかなかのボリュームだが……けっこう美味いな。
Roseliaがファミレスで談笑しながら会議をするなんていう光景は、俺のRoseliaに対するイメージからかけ離れた物のように感じるが、なかなかどうしてしっくり来てしまう。
どこかAfterglowとの昼食を思い出してしまった。
ストイックな印象のあるRoseliaだが、こういったフランクな一面もあるのかと少し嬉しくなってしまったことは黙っておこう。
ところで、この大量のポテト頼んだ人誰? 紗夜さん?
◇◇
「食べながらでいいから聞いて」
食事を続けながら、声の主である友希那先輩に視線が集まる。
「佳夏も入ったことだし、改めて今週末に行うライブの話をするわ」
……え?
俺は食事の手を止める。
「え、ライブするんすか?」
「するわ」
「今週末?」
「今週末」
はやーい。
いつかはRoseliaとしてライブの手伝いをしなければならないとは思っていたけれど、今週末とは。
「あなたの初仕事よ。よろしく頼むわね」
「……うす」
「何よ…。妙に気が重そうね」
いや、それもそうだろう。
「スタッフとしてライブの手伝いは経験ありますけど。当事者としてライブに挑むのは初めてなので……ちょっと緊張するというか、なんと言うか……」
「え?」
「え」
そう言った途端。友希那先輩は目を丸くしながら俺を見つめる。
アレ? 俺なんか変なこと言った?
「……あなた。バンドを組んだことがあるのでしょう?」
「? はい」
「ならライブには?」
「いや……出たことなんてありませんけど」
「…………」
あ、あれぇ?? 先輩の表情がどんどんと怪訝な物に……。
「(あれだけの実力がありながらライブ経験は無い……?)」
そして数秒考える素振りを見せる。
何をそんなに考えることがあるのだろうか…。あ、もしかしてライブ経験ないとRoselia失格? 俺、加入してからまだ24時間経ってないんだけれど……!
「いいえ。そんな制約はないわ、安心しなさい」
ほっ。
「ちなみに」
「はい?」
「ライブをしなかった理由は何かあるの?」
理由…か。
「リーダーがライブに興味が無かったというか。……そもそもあのバンドは俺たちにとっては一種のコミュニケーション手段でしかなかったので。それ以上のことは求めていませんでした」
「……そう」
友希那先輩は持っていたフォークをカチャリと置く。俺の発言がどうにもありえない物のようで、呆気に取られたのか食事の手を止めてしまった。
「……あ、でも。
「…………」
あこやリサ先輩は「へぇ〜」なんて零しながら、燐子さんも声には出さずとも俺の話に耳を傾けている様子だった。
紗夜さんだけはただ1人、黙々と食事を続けている。
そりゃあ……この人は知っているからな。
「……まぁ、いいわ。ライブに関してはこれから覚えていきなさい」
「あ、はい。頑張ります」
そう。俺にとっては初ライブだ。
俺は完全裏方だけれど、頑張って貢献しなければ。
……そういえば。
「ライブってどこでやるんです?」
確かRoseliaには懇意にさせてもらっているCiRCLEでのライブの予定は無かったはず。
どこか別のライブハウスでやるのだろうか。
「SPACEよ」
友希那先輩はそう告げた。
SPACE。
いつだったか、有咲からそのライブハウスの話を聞いたな。
確か……香澄が"きらきら星熱唱事件"を引き起こした箱だっけ?
かなりの珍事件だよな……。そりゃあそこのオーナーさんに怒られるわ。
「…………SPACE」
その名前を口に出して繰り返す。
なんだろう。
なんだろうな。
その名前を聞いて何かを思い出せそうな気がするんだけど。
「…………」
思い出せない。
なんだっけなぁ━━━━━
「そこでライブをするわ」
友希那先輩の言葉で俺は意識をもう一度先輩の話に戻す。
いけないいけない。初ライブなんだ、しっかり集中しなければ。
「日時は今週の土曜。ライブは夕方からだけど、午後一で入ってリハーサルをする。先にどこかで集まってからSPACEに行くわ」
「了解」
「今回はグリグリとなんだよね〜」
「……グリグリ?」
リサ先輩の言葉の中に聞き慣れない単語が出てきた。
「"
「へぇ……」
紗夜さんの説明によるとここいらではそれなりに有名なガールズバンドらしい。
「そのバンドも出るんですか?」
「えぇ。というか……Roseliaとグリグリしかいないわ」
「え?」
「今回のライブは━━━━━
━━━━━RoseliaとGlitter*Greenのジョイントライブよ」
◇◇
公園からの帰り。もう少しで日も沈むような時間に家に到着する。
かなり長い時間話し込んでしまった。
主ににゃーんちゃんの話で。
有意義だったわ。えぇ、とても。
「ただいま」
「あぁ……おかえり。友希那」
「お父さん」
珍しい。いつもならこの時間は部屋にこもりっきりだと思っていたのだけれど。
「いや……はははっ。お母さんに「気分転換に一旦出てきなさい」って言われてね」
「……そう」
お父さんは仕事柄部屋に籠って作業をすることが多い。ついでに徹夜も多い。今もお父さんの目元には隈がくっきりと見える。
そういうのを分かっているから、お母さんはたまにこうやってお父さんを引きずり出すのだ。
尻に敷かれてる……とまでは行かなくとも。何となく我が家での上下関係を感じる。どこの家でも母は強い。
「友希那こそ珍しいね」
「?」
「何かいい事でもあったのかい?」
急に何の話だろう。
「嬉しそうな顔をしている」
「私が?」
「あぁ」
近くにあった姿見に自分を映してみるが、よく分からない。
いつも通りの私だ。
けれど……。いい事は確かにあった。
「メンバーが1人増えたの」
「メンバー? Roseliaのかい?」
「えぇ」
姿見に映る私がうっすら微笑んだ。
「へぇ。パートは?」
「楽器隊じゃないわ。マネージャーとしてよ」
「マネージャー……」
それを聞いたお父さんは意外だと言わんばかりの顔をする。
「期待の新人よ」
「……へぇ」
「お父さん」
「ん?」
私はお父さんに向き直る。
しかし親子としてではなく。1人のバンドマンとしてお父さんと向き合う。
これは決意表明。そして誓いだ。
「私はこの6人で頂点を目指す」
「……」
「あなたの誇りを……必ず守ってみせるわ」
食事と入浴を済ませ、私は自室に戻り、明かりをつけることなくベッドに倒れる。
「……」
佳夏がRoseliaに入ってくれた。
これは大きな一歩だ。
これからのRoseliaに彼の力は必要不可欠であり、また彼無くして今のRoseliaはありえない。
本当……我ながら随分と彼を買ったものだわ。
「……ふっ」
林道佳夏。
彼は紛れもなく私達よりバンドマンとして完成系に近い。
しかし、"彼女"と違って大それた才能を感じない。
どう考えても天才の部類ではない。
だというのにあの存在感。
あの独特の存在感と雰囲気は……本当に"彼女"そっくりだ。
「…………林道……佳夏」
彼をもっと知りたい。
彼を知ることが、きっと"彼女"を知る最大の近道だ。
その機会を得た。
これからは同じメンバーとして彼を知っていこう。
…………そういえば。佳夏は美竹さんに相談したと言っていたわね。
美竹さんが佳夏の加入に一枚かんで……どころか後押しに近いことをしたというのが驚きだ。
これはやっぱり……
「ひとつ借りができた……のかしらね」
私は独り言ちる。
返さなければならない借りができてしまった。
だが。
悪い気はしなかった。
私は重くなった瞼を閉じる。
今日はいい夢が見れるような気がした。
理由は無い。
『良い歌声ね』
『え?』
『……あ、ごめんなさい。邪魔しちゃった?』
『…………いいえ。ありがとう…』
『いえいえ〜。歌上手だね。練習してたの?』
『そうよ。私は……上手くならなくちゃいけないから』
『ふーん。……あ♪ 実はあたしもね、歌が好きでさぁ』
『…え?』
『けっこう自信あるんだよ。これでもギタボだからね〜』
『……バンドを組んでるの?』
『あ、分かるんだ! そそっ。あたしボーカル』
『そう』
『うっわきょーみ無さげ笑 …………まぁいっか。そういう人間を惹き付けてこそ、ボーカルだよね』
『……何を』
『ま、聴いてなって』
『〜〜〜♪』
『……っ?!?!』
『ふぅ……。やっぱギター無いと落ち着かんなぁ…』
『あ、あなた……っ』
『どう? けっこうやるもんでしょ! うひひっ』
『凄い…………凄いわっ!!』
『お、おう…。凄い食い付いてきた……』
『どうやったらそんな歌声が出せるの…?!』
『どうって……。ん〜…………わからんっ!』
『え……』
『心配ないない! あなたの歌声もめちゃくちゃ素敵だったよ?』
『…………』
『ハル姉様ぁ〜っ』
『およ。我が妹の声が……』
『え?』
『それじゃあね。あたし行くよ』
『あ、ちょ! 待って…!!』
『ん?』
『私……湊友希那』
『…ミナト、ユキナ? ……あ、名前』
『……あなたは?』
『…………ふっ』
『あたしの名前は秋月春音!━━━━━
━━━━━いつか凄いステージであなたと歌いたいわ! ……約束ねっ』
◇◇
おまけ
ファミレスにて。
「いゃぁ〜☆ ホント佳夏が来てくれて良かったよ〜!」
「えぇ。おかげで辛い思いをせずに済みます」
「…………」
「ん? どしたの佳夏」
「……いや、あの」
「はい?」
「俺って……燐子さん達が食べきれなかったやけ食いセットを処理する為にRoseliaに入れてもらえた訳じゃないですよね」
「ち、違う違う! んなわけないって…!」
「コレ……燐子さんとあこが残した分合わせたら、やけ食いセットがもうワンセットできちゃうじゃないっすか」
「いや〜あのね。頼んだはいいものの、毎回2人が残すのをアタシと紗夜でなんとか食べてるんだけどさ?」
「毎度毎度おなかいっぱいになるのも大変でして」
「いやいや…。紗夜さんさっきからポテトばっか食ってんじゃん」
「それが何か?」
「……ソレやめれば余裕あるんじゃ」
「ありません」
「……。てかそもそもやけ食いセット食わなきゃいいのに」
「あぁ〜あはは。なんかいつも流れでね」
「断ち切ってよ」
◇◇
おまけ その2
羽丘学園。自販機前にて。
「美竹さん」
「なんですか湊さん」
「好きな飲み物を選びなさい。奢るわ」ドン
「えぇ!? 急にどうしたの友希那ぁ…!」
「なるほど……受けて立ちますよ」ドドン
「蘭〜。返し方間違ってるよ〜」
「どれにするの? 調整豆乳?」
「馬鹿にしてるんですか? 豆乳なら無調整でしょ」
「なら無調整豆乳ね」
「いやそもそもなんで豆乳しか選択肢無いんですか。他にもあるでしょ」
「なら早く選びなさい」
「…じゃあ、T〇RRY'sのブラックで」
「くっ……また微妙に高価なものを。……やるわね」
「湊さんは飲めないんですか? ブラック」
「も〜。またそうやって挑発して〜…」
「……飲めるわ。見てなさい」
「ちょ! やめときなって友希那ぁ〜…!」
「……う"ぁ"っ……リ……リ"サッ」
「あ"ーほら言わんこっちゃ無い!」
「そのコーヒーあたしへの奢りなんじゃ……」
「何やってんだあの二人……」
最初から主人公はRoseliaに突っ込むつもりでした。