何か力になってあげたい。
目の前で困っている人がいたらそう思ってしまうのは、自然なことだろう。それが好きな子だったら、なおさらだ。
気がついたら俺は、まるでその場をたまたま通りかかったかのような雰囲気を装いつつ、滝澤さんに向かって歩き出していた。
滝澤さんはそんな俺の存在に気づくと一瞬だけ表情が変化したが、すぐ元に戻ってしまう。無意識のうちに彼女に近づいていたから、策とかは何もない。俺は、彼女に何と声を掛けるべきなのだろう。
「な、なんで森脇くんが、ここに」
「いや、そんなのどうだっていいだろ。好きな子の様子がおかしかったら、話しかけて当然じゃないか」
少し焦ったが、仕方ないから本題を急ぐことでうやむやにしようと開き直った俺は、とりあえず、思っていることをそのまま口に出してみることにした。
しかし、なぜだろう。ますます滝澤さんの様子がおかしくなってゆく。
「……!森脇くん、今、な、……ななっ」
ん?本当にどうしたんだろう滝澤さん。
あ、しまった。なんかすごいさらっとした流れで、今俺滝澤さんに好きって言ってしまった!?
あれ、これってもしかして…… 告白とほぼ一緒じゃね??
突如、額から流れ出す大量の汗。しかし、不思議と、今まで思っていた不安な気持ちはなかった。
今までは告白が失敗して、滝澤さんと友達ですらいられなくなったときを想像するとどうしても一歩踏み出すことができなかったのだが……
きっと、一度酒居さんに振られたからだろう。あのとき受けたショックに比べたら、今、ここでたとえ滝澤さんに振られても、立ち直れる気がした。
もしかして、酒居さんは『友達という関係で妥協していた』俺の後押しをしてくれたのだろうか。ふと、そんな考えが浮かぶ。案外、酒居さんたちも性悪ではないのかもしれない。
ずっと勇気が出なかったが、うっかり口にしてしまった以上、俺は一気に攻めることにした。
「好きだ。ずっと、滝澤さんのことが好きだったんだ」
滝澤さんの目をじっと見つめながら、俺はついに告白してしまった。間近で覗き込むように見つめると、滝澤さんの目がめちゃめちゃ泳いでいる。
彼女のリアクションの意図するところが全く読めず、もしかしたら困らせてしまったかもしれない、と弱気になりかけたそのときだった。
「ばか!私から告白したかったのに!!」
やがて滝澤さんから発せられた言葉は、俺の想像の斜め上をいくものだった。これは、俺に勇気を与えてくれた酒居さんたちに、感謝しなければならないかもしれない。
「森脇くん、誰とでも仲良いし、いっぱいアピールしたけど、ダメだと思ってたから……」
ん?アピール? 実は、どうやら勉強会も、その後のメッセージアプリのやり取りも、彼女にとっては俺へのアピールだったらしい。
俺以外に話し相手がいないから、とか勝手に決めつけていたけど……そんな風に思っていて本当に申し訳ない。
ずっと俺のことを意識してくれていたなんて……
「あ、あの……」
しかし、そんな滝澤さんの表情は、すぐに曇ってしまった。
「も、森脇くんに謝らないといけないことがあって……」
滝澤さんは、噓告白を迫られていることを俺に語り始めた。
俺は盗み聞きをしていたからそのことは知っていたので、詳しい内容とかも別に良かったのだけど、滝澤さんの方から俺に打ち明けてくれたことが嬉しかった。
滝澤さんは最後に、無理やり押し切られてしまい、彼女たちの中では私が告白することになっているから、もし私がそれを無視したら、俺に直接何かしてくるかもしれない、ということを俺に伝え、謝ってきたのだが……
そんなこと、滝澤さんが謝る必要なんてない。
俺はそもそも滝澤さんがちゃんと嘘告を断ろうとしていたところだって見ていたし、それでも強引に話を進めたあいつらとは、最早会話になっていなかった。それに、滝澤さんは脅されていたんだ。俺の心配をする前に、まずは自分の心配をしてほしい。
滝澤さんの神妙な表情を見ていると、よっぽど俺の方が悪いヤツみたいで、心苦しくなるじゃないか。だから、俺も素直に謝ることにした。
「ごめん、さっき酒居さんたちと話してるところ、全部見てたんだ」
何も助けずに、こっそり隠れて見ていてごめん、と。
そうだ。俺は、見ていただけだった。俺があの場で出て行って何をするんだって話ではあるけど、困っていた彼女をそのままにした。問題の解決には至らずとも、滝澤さんが思い悩む時間は短くて済んだかもしれないというのに。
こんな俺は、滝澤さんの彼氏にはやっぱり相応しくないのかも……。またも弱気になりかけた俺だったが……。
「も、もうっ!」
それだけで終わりました。滝澤さんが怒ったところ、初めて見た。想像以上に可愛くて、癖になってしまいそうだ。言っておくが、Mじゃねえからな。
更に、滝澤さんは盗み見られていたのが恥ずかしかったのだろうか、急にまくし立てるように俺に訴えかける。
「う、噓告なんてしないから!さっきは写真でびっくりしちゃったけど、ちゃんと後で酒居さんたちとはもう一度話して断るつもりだから!」
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、あいつらともう一度話すなんて、無理じゃあないですかね。だって話通じないもん。いや、待てよ。
「やっぱ、告白してほしい!」
唐突な俺の宣言に、滝澤さんは目を丸くしていた。
「なんかさ、俺、可愛い女の子に告白されるのが夢だったんだ」
だから俺は、この際なので長年夢見ていた男の理想を、滝澤さんに説明することにした。無意識のうちに口にしてしまった可愛い、という部分で身悶える滝澤さんは、もう完全にキャラが壊れてしまったがめちゃめちゃ愛らしかった。
だが、今注目すべきはそこではない。
「酒居さんに告白されただけじゃ、俺は満足できなかった」
それを聞いて急に表情が強張った滝澤さんだったけど、それは噓告だったと伝えたらほっとしたように、しかしすぐに怒ったような表情に変化した。滝澤さんって、こんなに表情豊かだったのか。
「だから、酒居さんの提案を利用して、俺に、ちゃんと本気の告白をしてほしいんだ」
こうして俺は、先ほど咄嗟に思いついたアイデアを滝澤さんに伝えた。
◇
逆ドッキリ作戦である。内容はまとめると、こうだ。
まず滝澤さんは、酒居さんたち三人の言いなりになって、俺に告白する。
そうすれば、一体何かは知らないがあいつらに握られている写真を学級L○NEにばらまかれずに済むだろう。
そして、あたかもドッキリが上手くいったかのように見せて、俺は滝澤さんからの告白シーンを堪能した後、翌日から本当に俺たちはカップルとなるのだ。
俺は、酒居さんたちに対して思うところがないわけではなかったが、折角だから彼女たちの企画に乗ってあげたいと思った。
「さっきは自分の方から告白したかったって言ってくれたじゃないか」
「い、いやあれはそういう意味じゃなくて先に気持ちを伝えたかったってだけで……」
滝澤さんは照れた後、むっとした表情を浮かべる。
「わ、わかったわよ。やってやろうじゃないの!」
なんだかんだ乗ってくれた。滝澤さんは案外、ノリが良いのか。いや、負けず嫌いなのかもしれない。
いかがだったでしょうか。