今日は昼過ぎから、奈央の家でお家デートをしている。夏休みの課題をしたりしているが、それは建前。俺、奈央のメイド服姿を見るんだ……。
休憩がてら、奈央は俺の淹れたアイスコーヒーを飲む。そんな奈央も可愛いな。
「げほっ!」
「だ、大丈夫か!」
俺もコーヒーを飲んでいると、奈央が急に咳き込み始めた。結構苦しそうで、奈央は左手で口を押さえながら咳をしている。俺は慌てて立ち上がると、キッチンへ行き水を注ぐ。そして、それを奈央に差し出した。
「ほら、これ飲め」
「うん……ありがとう……」
奈央は素直に俺の手からグラスを受け取ると、ゆっくりと口に含み、水を飲んだ。俺は奈央のすぐ側まで行き、右手で背中を軽くさする。彼女の着ている青のノースリーブの縦ニット越しに強い熱が伝わってくる。
俺が背中をさすったからだろうか、奈央の咳が治まった。そのことに一安心したが、それでも奈央の背中をさすり続けた。
「大丈夫か?」
「うん、もう落ち着いたみたい」
「ゆっくり少しずつ飲めよ」
「分かってるってば!」
拗ねたような表情を見せる奈央。うん、今日も可愛い!
それから、何度か咳をしながら水を飲み干した奈央はようやく落ち着いた。俺も胸をなでおろす。
「まだ苦しいか?」
「うーん、今は大丈夫かなぁ」
「そっか。なら良かった」
「心配かけてごめんね」
「気にするなって」
本当に苦しそうだったし、心配するのは当然だろう。でも、奈央はそんなことを言いながらもどこか嬉しそうな表情をしていた。きっと、俺のことを気遣ってくれたのだろう。
「暑くてアイスコーヒーを飲んだんだけど、気管にコーヒーが入ってむせちゃった」
そう言うと、奈央は俺の方に顔を向ける。さっきよりも顔が赤くなっていたけれど、そんな顔に微笑みが浮かんでいた。
「そういうことあるよな」
「だね」
朗らかに笑うと、奈央は俺にキスしてきた。一瞬、唇が重なっただけだけど、いつものキスよりも奈央の唇からは強い温もりを感じられた。
あんなに咳き込んで苦しむ奈央を見たのは初めてだったから不安になった。でも、すぐに治まって良かった。
「ひっ」
……あ、奈央から聞き慣れない甲高い声が聞こえた。
「ひっ」
あっ、同じような声が奈央からまた聞こえてきた。どうしたんだろう? そう思って奈央のことを見た直後、また奈央から甲高い声が聞こえた。その瞬間に奈央の体がピクッと震える。
「しゃっくりか」
「……そうみたい。……ひっ」
話している途中でしゃっくりが出たからか、奈央ははにかんでいる。そんな中でも、奈央は再び「ひっ」としゃっくりしてしまう。
「しゃっくりする奈央も可愛いけど、早く止めたいよな」
「からかわないで! ひっ」
「まずは、息を止めてみたら?」
奈央は息を止め始める。そんな奈央は真剣な様子。奈央はじっとしているけど、たまに体がピクッと動くことが。ひっ、と声が出ないだけで、しゃっくりはまだ治まらないようだ。
ずっと息を止めているからか、奈央の顔色が段々と悪くなってきた。
「息を止めるのはここでやめようか」
「……ぷはっ ……ひっ」
「……俺がしゃっくり出たときは、水を一口飲んで止めたことがある。ただ、さっきコーヒーでむせたしな。そうだ」
俺は奈央に耳打ちする。頬がみるみる赤くなったが、観念したのか小さく頷いた。
その方法とは、くすぐることだ。驚かせたり、くすぐったりするのも止めるいい方法らしい。そうして体を刺激することで、しゃっくりの原因である横隔膜の痙攣が治まるメカニズムらしい。
「分かったわよ! ひっく、くすぐって、ください……」
奈央は俺を見つめながらそんなお願いをしてくる。頬を中心にほんのりと顔が赤くなっている。しゃっくりを止めるためだけでなく、くすぐられたい願望もありそう。メイド服を着るのは頑なに断るくせに、くすぐりは認めるのか。ただ、恋人からおねだりされているし、正直、くすぐってみたい気持ちもある。
「で、どこをくすぐってほしいとかある?」
「……わ、腋や脇腹かな。ひっ」
「了解」
俺がそう言うと、奈央は着ているノースリーブを少しだけ捲り上げて、お腹を露わにする。直接くすぐってもらおうって考えか。あと、今日の奈央のお腹も綺麗だ。
俺は奈央と向かい合う形になって座り、両手を奈央の脇腹に添える。その直後に「ひっ」と奈央はしゃっくりして。その際の体の震えが両手に伝わってくる。
「じゃあ、くすぐるよ」
「ばっちこいやぁ! ひっ!」
無理する奈央を落ち着かせながら両手で脇腹をくすぐり始めると、奈央はさっそく大きな声で笑い始めた。これは結構な効果がありそうだ。
今は脇腹だけど、不意打ちに奈央の腋をくすぐることで驚きも与えられそう。実際、脇腹から腋に移すと、奈央は可愛い声を漏らしていた。くすぐり始めたときはしゃっくりが出ていたけど、その頻度も段々少なくなってきた。
「気持ちいい……」
奈央は恍惚とした笑みを浮かべながらそう言ってくる。少し変になったのかな。脇腹と腋をくすぐり続けたことで、奈央のしゃっくりも出なくなってきた。代わりに出るのは甘い吐息。
「このくらいでいいかな」
くすぐりを止めると、俺のくすぐりで体の力が抜けたのか、奈央は息が上がった様子で俺の胸の中に顔を埋めてきた。そんな奈央のことをそっと抱きしめる。
「……力が抜けちゃった」
「そうか。やり過ぎちゃったかな」
「ホントだよっ! でも、しゃっくり……止まった。ありがとう」
奈央は俺を見上げながら、艶やかな笑顔を見せてくれる。依然として頬を中心に顔が赤くなっているのも相まってとても可愛い。気持ちいいと言っていたくらいだから、ムラムラしてくるのもおかしくはない。
「どういたしまして」
「お礼ね」
普段よりも甘い声色で可愛い笑顔になった奈央は俺を抱きしめてキスしてくる。すぐに舌を絡ませてきて、しかも、かなり激しい。そのことで奈央の生温かさが伝わってくる。あと、奈央がむせるまでアイスコーヒーを飲んでいたから、コーヒーの香りが濃く香ってきてきた。
奈央から唇を離すと、彼女はすぐ目の前で俺に可愛らしい笑顔を見せてくれる。
「じゃあこのままメイド服に……」
「あ、それ無理」
持参したメイド服を見せた俺に奈央はにべもなく言い放つ。くそぅ! でも、治まってよかった。その時、俺たちは部屋を覗き込む影を認める。
「もう少し気遣えないかな」
「はいはい反抗期反抗期」
男の子が部屋のドアから顔をのぞかせたかと思うとそっと閉めた。あ、そこは気遣うんですね。
「……今の、弟?」
「そうよ。最近おませになっちゃってさぁ」
奈央が腰に手を当てながら言う。いやいや、その原因作っているの貴方じゃないんですかねぇ。
それから冷静になって、二人で夏休みの課題に取り組んだ。
いかがだったでしょうか。