メリュジーヌは壊れた 作:聖晶石の謎の一部
メリュジーヌは激怒した。
必ずかの美悪奸邪なオーロラの心を除かなければならぬと決意した。
メリュジーヌには何が正しいのか分からぬ。
メリュジーヌは世も名高き竜の冠位『アルビオン』が切り離した左腕であり、オーロラの美しさに本気で惚れ込んで再誕した竜の妖精である。
メリュジーヌはオーロラの為ならどんな汚れ仕事だって引き受けた。
例えそれが何の罪も言われもない氏族の抹殺だって涙を飲んで聞き入れた。
それは一重にメリュジーヌが本気でオーロラを愛しているからだ。
ともすればメリュジーヌの愛はオーロラの為にオーロラを殺してしまえるほど深い物になっている。
だがしかし。今回は我慢出来なかった。
彼女には兄妹がいないが、きっと長男でも我慢出来なかったに違いない。
それほどまでにオーロラは彼女の逆鱗に触れた。
本物の竜の逆鱗である。
その怒りはさぞ高く、あまりの魔力の高ぶりにはこの國の女王がロンゴミニアドを瞬時に全弾射出出来る段階にまで準備を整えたという。
「ラ、ランスロット……様?」
「コーラル。僕は本気で怒っている。だから正直に答えてくれ。もし嘘をついたらボクはきみを無事に返す確証は出来ない」
そんなガチキレモードのメリュジーヌの殺気を一身に受けて、半泣きどころか、ちょっと下着が取り返しのつかないところまでいってしまったコーラルは絶対にウソだけはつかないようにと肝に命じた。
「ズバリだね…………」
その強さは折り紙つき。一級の
オーロラが僕以外が産んだ卵を食べたって本当にかい!?
「…………は?」
コーラルは耳を疑った。
「え、はー……その。うん?いや…………そもそも妖精に生殖機能はない、のでは?」
いきなり教会の扉を蹴破って登場してきたかと思えば何ほざいてやがんだこの発情蜥蜴。
……喉まで出かかったそれを必死に飲み込んで、コーラルは冷静を装って問い掛ける。
そうだ。汎人類史やそこから流れてきた妖精ならいざ知らず、この國で産まれた妖精達には生殖機能という物がない。例えそれはメリュジーヌとて例外ではない……筈だ。
「そんなことは僕も分かってるんだ!」
コーラルの鼓膜が終わった。
「でも分かるだろう!好きな人に自分を食べてもらって!その人の身体の中を這えずり回りたいっていう気持ちは!」
声は聞こえなかったが、絶対に共感出来る物でないのは理解出来た。
「僕はね……オーロラのママになりたかったんだ。オーロラを自分の母乳だけで育てて、何なら僕の血肉だけを食べて成長してほしかった」
「でもオーロラはもう大人だ。その体は僕以外の物の大半で構成されている。今さら僕の血肉をテーブルに出したところで彼女は口にはしないだろう……現に一回失敗したし」
「だけど、食用の無性卵を僕の卵とすり替えるぐらいなら許されるんじゃないかなって」
あ、ちなみに。僕生殖能力はないけど卵は産めるんだよね。
一通り叫んで怒りは治まったのかケロッととんでもないことまでぶちまけたメリュジーヌ。
コーラルは破れた鼓膜を再生させながら思い出す。昔、何かの文献で竜種は惚れ込んだ異種族の人間にメイドとして尽くし、自らの尻尾を食べさせようとするという珍妙な話を目にしたことがあるが、それはまさかこの事なのだろか。
……この怒りようからして、もしかして今までオーロラが食した卵はこのド淫乱竜の卵だったのではないか。
……なんたることだ。
そこまで想像してコーラルは逃げた。
教会から街の外に飛び出し、外壁に寄り添って一人静かに泣いた。
その日、コーラルは思い知ったのだ。
この魑魅魍魎の跋扈する妖精の國。まともと言える存在は片手で数えられるほどに少なく、そのまともの中に入っていると思われていたメリュジーヌはやはり『妖精』であり、ぶっちぎりでイカれていたということを。
・コーラル…この物語一番の被害者。
・メリュジーヌ…病気。
・オーロラ…最近、卵料理が妙に多いことに頭を悩ましている。体がだんだん竜種に置き換わっていく謎の病に侵されている。