メリュジーヌは壊れた 作:聖晶石の謎の一部
オーロラは最近、自身が環境の変化に弱くなった事に頭を悩ませていた。
春や夏ならまだ良いが、秋や冬になると布団から出たくなくなる。冷水に足を浸けようものなら氷のように身体は硬くなり、暖かくなるまでずっと眠っていたいと、ひどい寝不足のような気だるさがずっと続くのだ。
まるでトカゲかヘビにでもなったような気分である。
誰よりも美しくあることを存在理由にしている彼女が、そんな弱味を他者に見せるようなことはしないが、もしかしたら何かの
「はいオーロラ!朝ごはんのオムレツだよ!!!!」
「えぇ……ありがとう。私の騎士様。でも、また卵料理なのね」
早朝。風の知らせで今年の冬はより一層冷え込むと小耳に挟んだオーロラは最悪な気分の中、メリュジーヌから出されたオムレツを口に入れる。
辛いような甘いような……それで隠し味にレモンでも入れたのか僅かに酸っぱいオムレツは週に三回は出てくる彼女の得意料理だ。
「うん、美味しいわ」
「本当かい!?」
風の氏族の長でこの街の領主であるオーロラには無数の召し使いとコックもいるが、数十年前からオーロラの食事は彼女が用意することになっていた。
それと言うのも一度オーロラの美しさを妬んで毒を盛ろうとしたコックが居たらしいからだ。オーロラは知らないが、その事に大変腹を立てたメリュジーヌは「これからオーロラのご飯はボクが作る!」と宣言して、以降オーロラが口に入れる物には全てメリュジーヌの手が加わっている。
その事についてオーロラは特に思うことはなかった。
最初の頃は血生臭い肉料理が多かったので、ウンザリしていたような気もするが、最近では料理の腕も上がり、以前コック達が手掛けていた物よりも美味しいと感じるからだ。
それに妖精にとって食事とは嗜好品のような物である筈なのだが何故か彼女の料理を食べると力が湧いて来るような気がした。
オーロラはメリュジーヌが大嫌いである。
その生き方が、自分を見るそのキラキラと輝いた瞳が、自分よりも美しいと他でもない彼女自身が認めているので物凄く嫌っているのだが、唯一メリュジーヌの作る食事だけは認めていた。
「そう言えばこの前、スプリガン様がとっても美味しいステーキを食べたそうなのだけれど……今晩、同じ物を用意してくれるかしら?」
「えっ…………勿論さ!最高級のボクの肉……じゃなくてノリッジの肉を取り寄せるから期待してよね!」
「そう。それは楽しみね」
今日は女王様に忠実なあの駄犬と一緒に予言の子候補の人間の子供を見繕う為、街の外にある牧場まで赴かなければならない。
冬の到来を予感させる肌寒い中、億劫だが彼女の作るステーキを楽しみに何とか頑張ろうとオーロラは奮い立った。