メリュジーヌは壊れた 作:聖晶石の謎の一部
「トリスタン、お願いがあるんだが……ちょっとボクの肉を200gほど抉ってはくれないかい?」
「何言ってるだお前」
早朝である。この妖精郷で無機物としては最も美しく尊いキャメロットにある城の中、妖精騎士トリスタンことバーヴァン・シーはこの頭のおかしい同僚に心底理解出来ないといった顔を向けた。
「だからボクの肉を抉って欲しいんだ。君って趣味で拷問とかしてるらしいし、そういうの上手だろ?」
「いや、得意って……」
確かに得意か不得意かで言えば得意だ。
トリ子はガウェインやランスロットとは違い、少々歪な形式で妖精騎士へとなっている為、元来の性質から反転し、妖精達へそういった拷問の数々を嬉々として行っている。何gだけ抉るなんて拷問は経験したことはなかったが、やろうと思えば恐らく数gの誤差に抑えられるという自信があった。
だがしかし反転していると言っても流石に同僚の肉を抉ることに抵抗がないほど彼女は狂ってはいない。
「あ…う……あ!…ははぁ~ん、もしかしてあれか?お前のお気に入りの姫様に傷付いた自分を見せて心配されたいとかそういうやつだ!」
「いや、オーロラにボクの肉を食べて貰うためだけど」
「は?」
自分なりに彼女の言葉の意味を咀嚼しようとしたら、もっと頭のおかしい事を言ってきやがった。200gってもしかして抉らせた肉をステーキにでもするつもりなのだろうか?
トリ子の表情が嫌悪から困惑へと変わり、一歩二歩と下がる。
流石のトリ子も妖精の肉を食べたり、食わせたりはしない。妖精や人間を食べるやつは一人知っているが、そいつが進んで行っている訳ではないのはちゃんと理解していた。
「お前、頭おかしいんじゃねぇの?いくら姫様が好きだからって自分を食わせたいってなるか普通?何か変なもんを食べたんならお母様に診て貰えよ」
「好きな人に自分を味わって貰いたいと考えることは普通ではないのかい?……もしかしてボクが竜の妖精だからなのかな。ごめんね。別に無理強いするつもりはなかったんだ。君が嫌ならガウェインを頼ろうと思うよ」
「いやアイツだけは駄目だろ」
強い否定の言葉だ。
トリ子はこの國では珍しく他人を思いやれる妖精であった為、この仕事だけはガウェインに任せてはいけないだろうと渋々宝具の杭を取り出した。
「すっげぇ嫌だけど、アイツに頼むぐらいなら私がやってやるよ。ほら、抉るのは脇腹とかでいいか?」
「本当かい!ありがとう――あ、抉るのは出来ればボクの脳ミソがいいのだけれど」
「それは妖精でも流石に死ぬからな!!!?」
その後、意外と硬かったメリュジーヌの外皮に難航しつつトリ子は彼女の脇の肉を一切れ、抉りとった。
「ぐふっ……流石に痛いな。でもハァ………ハァこれがオーロラの体の一部になるんだと思うと興奮するね」
熱い蕩けるような表情を浮かべるメリュジーヌ。
トリ子はこんなやつがお母様の騎士で、しかもお母様を除けば最強だと思うと何んだか自分が情けなくなって少しだけ泣いた。
・バーヴァン・シー…反転していても前前前世からの優しさがにじみ出てしまう。メリュジーヌ精肉店に就職する。