敗北したら即滅亡、チート無しの異世界転移〜召喚されたら人族が滅亡寸前だった上に俺に丸投げされた。こっちはただの一般人なんだが〜   作:くろひつじ

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第一話「異世界転移は突然に」

 人生の転機なんていきなりやってくるものだ。俺の場合はそれが三回も訪れていた。

 

 一回目は小学校高学年の頃。車道に飛び出た子どもを助けようとしてバイクにひかれた。

 学童の通学路上にある横断歩道にもかかわらずバイクは減速しておらず、俺は左手を骨折、子どもは両足を骨折した。

 

 二回目は中学校の卒業式。卒業祝いに家族と車で食事に行こうとして盛大に事故った。

 居眠り運転をしていたトラックの運転手が信号無視をして俺達の車に突っ込んで大破。

 俺は一命を取り留めたが全治三か月の重傷。

 そして、両親は帰らぬ人となった。

 その後は親戚の家をたらい回しにされ、高校卒業と同時に就職。

 ブラック会社に勤め出して四年。心身共に疲弊しながらもなんとか生活できている。

 

 そして明日は久しぶりの休みで、更には俺の二十歳の誕生日だ。

 そんな事情があって、ずっと飲んでみたかった缶チューハイと小さなケーキを買って帰路についていた。

 少々浮かれていたのかもしれない。

 二十日ぶりの休日だし、誕生日だし。ゆっくりしながら見たかった映画のDVDを借りてみよう、なんて。

 スマホで映画の情報を検索しながら帰路に着いていたのがいたのが間違いだったのだ。

 人生三回目の転機はまたしても自動車絡みだった。

 

 ヘッドライトの眩しさ。酷く耳障りなクラクション。そして甲高いブレーキ音。

 気が付けばすぐ近くに大型トラックが迫っていて。

 俺は、死を覚悟した。

 逃げようが無い事を察して、ゆっくりと目を閉じる。

 あぁ、ろくでもない人生だったな。来世では幸せになりたいもんだな、と。

 最後にそんな小さな願い事を思い浮かべて、待つこと三十秒。

 予想していた衝撃は無く、いつの間にか音も消えている。

 

 恐る恐る目を開けると、そこは見慣れた繁華街では無かった。

 

「……どこだここ」

 

 辺りを見回す。古い石造りの部屋にいくつかの焦げ臭い松明。見た所窓も家具も無く、奥には出入り口らしきものが見える。

 足元を見ると幾何学模様の魔法陣らしき何か。そこから立ち昇る光はまるでイルミネーションのように明滅していたが、やがて音も無く消えて行った。

 そして背後を見ると、そこには二つの人影があった。

 

 一人はフード付きのローブを着た爺さん。

 ぼろ布にも見えるローブを身に纏い、何処となく疲れ果てた様子で、大きな杖を手にじっとこちらを睨みつけている。

 いや、真剣そのものな表情だが敵意は感じない。むしろこれは何かを頼み込む時の目だ。

 少なくとも普通であれば、こんな年寄りが俺みたいな若造に向ける目ではないだろう。

 その姿に訳が分からないながらも嫌な予感が過る。

 

 もう一人は清楚可憐なドレスを着た少女。

 ビスクドール――西洋式の人形を思わせる程に整った顔立ち。

 ふわふわで長い黒髪に大きなルビーのような赤い瞳。ふっくらとした柔らかそうな頬に艶やかで小さな唇。

 彩り鮮やかなパーツの代わりだと言わんばかりに肌は白く、首や手足はほっそりとしている。

 背も小さいが胸はそれなりにあって、この子が実は人形だと言われても信じてしまいそうだ。

 だが、生きている証拠にこの女の子もじっと俺も上目遣いで見つめて来ていた。

 

 やがて二人はさっと片膝を着き、俺に向かって頭を下げる。

 まるで王様に忠誠を誓うような厳かな雰囲気で、爺さんの方が皺枯れた声を漏らした。

 

「ようこそおいでくださいました、異世界の方。どうか我々をお救いください」

「……は?」

 

 意味の分からない言葉に間抜けな声が出てしまう。

 そんな俺を見て爺さんはゆっくりと顔を上げ、美少女はふんと鼻を鳴らした。

 

「まずは現状をご説明差し上げたいと思いますので、上階の客間までご足労願えますかな?」

「はぁ。えぇと……」

 

 口籠る俺に対し、爺さんが立ち上がって出入り口に向かって歩き出す。

 そして少女は、鋭い目付きで俺を睨みつけてきた。

 こちらは明らかに敵意が込められている。

 美人が怒ると怖いと聞いたことがあるが、確かにかなり気圧されてしまう。

 いや、何なんだよ。俺が何かしたって言うのか?

 

「早くして。時間が無いんだから」

 

 非常に愛らしい声なのに荒い語気で言い残すと、彼女も爺さんに続いて出入口へと向かって行った。

 

 最初はまぁ、こんな感じ。こうして俺は、人生最大の転機を迎える事になった。

 この時は今までとは明らかに異なる事態に頭が回っていなかったが、改めて考えると。

 

 俺の人生はこの時始まったのだ。

 

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