『さあここから始まる栄光がありますジュニア級メイクデビュー、東京芝1400m!昨晩の雨で足元はやや重いですがこれを乗り越えて勝利をつかむのはいったいどのウマ娘か!?』
何度か来たことがあるがこの競バ場の雰囲気、ワクワクする…一世一代の大博打、真剣勝負!俺はもとよりこういうのが好きなんだろうな、と自分を再認識する。ついに、始まる…ミカの、ミカヅキオーガスのトゥインクルシリーズが…!
例によって今回のレースは鉄華団総出で応援に行くことにした。メンバーを連れ意気揚々とバ場へ向かう俺の肩を叩く者…アヤベ。
「なんだよ?」
「…トレーナー、あなたパドックって知ってる?」
「え?待ってりゃミカが出てくるんじゃねぇのか?」
アヤベがこめかみを押さえた。
『続いては三枠六番グライスナー!今回最も期待されているウマ娘の登場です…』
「へぇー!こうやって紹介されんのか!いやわりぃ!知らなくてよ」
「あなた…新米とは聞いてたけどさすがに無知が過ぎるわ…」
アヤベに連れられパドックへ。なるほどこうやって各ウマ娘が紹介されるわけだな…
「あっ!ミカヅキだよ!」
ファインの声に顔を上げる。ついにか!
『続いての登場は四枠七番、ミカヅキオーガス!』
ミカがパドックに出てくる。特に緊張した様子もなくただ真顔で歩く。そういやみんななんか上着バサーッとかやってたけどもしかして必須?参ったな…
「ミカちゃーーん!!!!」
ウララが声を上げ手を振る。ステージ中央で立ち止まったミカがその声に反応してこちらに真顔で手を振り返す。そしてそのまま去った。
「今の娘すっげー貫禄だったな…なんだ?」
「あのパドックでの落ち着きように敢えて『手を振るだけ』のアピール…ただ者じゃなさそうだ」
隣にいた二人組が話している。すんません知らないだけなんす…
*
『さぁ各ウマ娘出揃いました、今回の注目はやはりこの娘か一番人気グライスナー!』
『恐ろしいスピードによる逃げは新バとは思えない破格の完成度ですね、期待に見合う実力があります』
『最後にゲートに入ったのはミカヅキオーガス…この娘はいかがでしょう?』
『トレーナーへのインタビューや情報も一切ありませんからね、未知数です…まさにダークホース、といったところでしょうか』
「…インタビュー?そんなのいつ…?」
アヤベがこめかみを押さえた。
『スタートの準備が整いました!』
「…始まる」「ドキドキだね!」「がんばれー!」「ミカちゃん、キラキラしてる!」
「行け…ミカ!」
ゲートが開いた。
『さぁ一斉にスタートです!十二番やや遅れたか、最初に飛び出したのはやはりこの娘だグライスナー!その後ろにつくのは三番…』
「うん♪、いいスタートだね!」
「かなり後方からのスタート、ね」
「出遅れはしてねぇようだな…大丈夫、ミカの追い込みはきっと通用するはずだぜ…!」
『向正面を終えましたが先頭は依然グライスナー!圧倒的速さです!後続を現在三バ身離して逃げる逃げる!ここからのカーブで後続は巻き返せるか!?』
『グライスナーのコーナーでの失速がどれほどのものなのかにこの勝負はかかってきそうです』
『…ッ!落ちない落ちないグライスナー!コーナーが何のその!さらに離すか!!圧倒的一人旅だ!』
「…ここだね」
「マヤノ?」
「トレーナーちゃん…ミカちゃん、勝つよ」
明らかにミカの姿勢が変わった…上体を大きく屈め、姿勢を低く、目だけは前方をとらえ…まるでそれは獲物を追う狼のように、ただ目の前の相手を狩る姿勢だった。
「狼の、王か」
「准将…やはり彼が勝ちますか」
「ああ…鉄華団と三日月・オーガス、私の期待通りだ」
『…!?なんだなんだこれは!?最後方から一気に上がってきた!すごい加速だ…ッ!…あれは七番!七番のミカヅキオーガスだッ!!!まさにごぼう抜きだ!一気に先頭へと昇り詰める!現在五番手、三番手…いや二番手だ!二番手はミカヅキオーガス!グライスナーに迫ります!!さあ最後の直線に入る!ここからは上り坂だぞ大丈夫か!』
「やっちまえ…ミカァ!」
『あぁーっと関係ない!関係ありません!坂道がどうしたか、重バ場がどうしたか!一気に上がってきたミカヅキオーガス、競りもしない!グライスナーを抜きさらに加速だ!!』
俺はあの日、俺とミカの『始まった日』をまた思い出していた。
ねぇ、次はどうすればいい?オルガ
決まってんだろ…行くんだよ
どこに?
ここじゃないどっか…俺たちの、本当の居場所に
『ミカヅキオーガス脚色は衰えない!!今一着でゴーーールッ!勝ったのはミカヅキオーガスだ!!グライスナーを四バ身離して一着です!とんでもない怪物が生まれてしまったッ!!』
「うん…行こう…!おれたち、みんなで」