京王杯ジュニアステークス。
ジュニア級GIIレースで、十一月に行われ、芝の短距離を走る。サクラバクシンオーが出走する予定のそのレースに、ミカを出す方針で予定を固めた。
…しかし。
「十一月か…」
ミカの様子とバクシンオーの様子を比べてみると、その『レース慣れ』というものか?そういう感じのアレが足りないような気がしてならない。
(確かにこの世界のウマ娘は小さい頃からレースに出て走るというのは結構よくある話なんだろうな…しかしミカはこの前が初のレースだった。勝ったとはいえ慣れたというわけにもいかんだろうし…)
ふと手元の資料に目を通すと、出走登録の期限ギリギリのあるレースが目に入った。
「こりゃぁ…」
*
「函館ジュニアステークス?」
「ああ、時期的には割とすぐ近くのレースだがお前のレース慣れにうってつけのモンだと思う」
その日のうちに練習場にいるミカを呼んで話をした。タオルを首にかけたミカは迷いなく答える。
「オルガが走れって言うなら、やるよ」
「できるか?」
「うん」
ミカの顔を見る。こいつのことだから何言っても賛成はしたと思うが、その顔に特段疲れは見えなかった。
「なら決まりだ」
「いいな~函館」
走り込みのノルマを終えたファインが興味深そうに近づいてきた。
「ミカヅキ、函館に行くの?」
「はこだて…ってどこ?オルガ」
「え?あー…その辺じゃねぇのか?」
ファインが(上品に)笑って衝撃の事実を告げる。
「函館は北海道、そう…距離はだいたい八五〇キロくらいかな?」
「は?」
*
「ふい~やっぱ北の方はこん時期でも冷えんな~」
「そうだね」
「日本の四季ってなんて素敵なのかしら♪」
そんなこんなあって俺とミカとファイン(北海道のラーメンが食いたいといって半ば強制的についてきた)は七月下旬、飛行機から北海道は函館に降り立った。
「レースは明後日、細かい調整…と行きてぇが俺もミカもそんなガラじゃねぇし…ラーメンでも食いに行くか!」
ファインの目が輝いた。
雑に駅前の『ほっかいどぉ亭』というとこに入った。ファイン曰く『こういうのは直感が大事』なんだそうだ。
「らっしゃっせー…おっまたウマ娘のねーちゃんかい!今日は客の入りがいいねぇ」
「また?」
カウンターを見るとかなり大柄なウマ娘がラーメンをすすっていた。やがてこちらに気が付くと俺たちを(というよりミカを)睨むような目線で見た。
「ほう、アンタがミカヅキオーガスねぇ…明後日の、出ンだろ?」
「うん」
「お前…ミカを知ってんのか?」
そのウマ娘はハ、と一笑を飛ばす。
「逆にアンタらはアタシを知んねーってわけかい…華々しいメイクデビューを飾ったミカヅキオーガス殿はGIIIなんかメじゃないようだ!少なくともリサーチをしないレベルにはね」
彼女は残ったスープをすすりきると千円札をカウンターに置き、店主に「ごちそっさん、おいしかったよ」と告げ出口へ…去り際に首だけこちらを振り返った。
「キツイ言い方して悪かったね…まぁお互い明後日はきばろうって話さ…アタシはアンデイストロス」
「ミカヅキオーガス…です」
「ヘッ…知ってるよ」
後で調べると今回の函館ジュニアSで優勝候補と目されていることが判明した…『寒冷地の突貫娘・アンデイストロス』…!
「ミカ…ズズズ…俺のリサーチ…ズズズ…不足だ、すまねぇ」
「うん、大丈夫…ズズズ…俺は勝つよ…ズズ」
「ズズ…函館ラーメン、美味しいね♪」
俺たち三人はラーメンをすすりながら意気込むのだった。