その出会い…《寒冷地の突貫娘・アンデイストロス》との出会から翌々日、最終調整を近くの小競技場で済ませたミカはその姿を函館のパドックにあらわした。やはり中央でのメイクデビューの結果か、二番人気という評価が下された…もちろん一番人気はアンデイストロス。
(いや、これでいい)
俺は心でそう信じた。
(ミカにつけたいのはレース慣れ…それはこういうアウェイな状況の方が成長するはずだ)
「ミカヅキ、勝てますでしょうか?…ちょっと心配かも」
「もちろん勝ってほしいが…今回のレースはそこじゃねぇ」
ファインとパドックのミカを眺める。その姿はいつもと何も変わらないように見えるが、果たして。
「ファイン、控室に向かうぞ」
「うん」
「別に、おれはなんともないよ…オルガの方が調子悪そうだけど?」
「お前なぁ…」
ミカにスカされガクッとくるが、そういえばこいつのいい所はそこだもんな、と思い出す。
(ミカの適応力の高さなら、あるいは…)
出場のアナウンスが鳴る。
「じゃあ行くよ、オルガ…」
「頼むぜ」
「頑張ってね!」
*
『七月にしては少し肌寒いか、しかしここ函館の今日のバ場はかなり良好です。レースは短距離。ジュニア級では早い時期に迎えるウマ娘も多いと思われますこのGIII函館ジュニアステークス!本日出走の中ではやはりこの二人が注目でしょうか、一番人気のアンデイストロスと二番人気のミカヅキオーガス。二人揃ってノートラブルで出走です。』
『ここ函館では負けなしのアンデイストロスは慣れたコースでの好走が期待できますね』
『ではこの二番人気ミカヅキオーガスはいかがでしょう?』
『メイクデビューでの走りが印象に新しいですね。彼女の追込は光るものがありますよ』
「ミカ、きばれよ…!」
ここは通過点に過ぎねぇんだ。ミカの、いや俺たちのこの世界での戦いはまだ始まったばかりだからよ…!
『スタートの準備が整ったようです』
ゲートが開いた。
『さあ一斉にスタートだ、まず飛び出したのは四番ニゲテナンボヤ、かなり早い時期での抜け出しだがどうか』
『彼女の脚質では正解ですね、これまでの好レースもすべてこの位置でした』
『さあ続くぞ八番、十番!ここまでが先頭集団、後続の集団とは少し離れた展開です』
『向正面を終え集団がはっきりしてきました、一番人気三番アンデイストロスは後続集団の中央、さらに最後尾につけている六番ミカヅキオーガス、しかし遅れている様子は見せず両者脚をためた状態です』
『三コーナー回りました、先頭と後続の距離が近づきつつあります。もはや一体化したか』
『ニゲテナンボヤ率いる先頭が少し疲れを見せてますね』
『四コーナーを終え勝負は直線へ入るぞ!ここからは函館、ゆるやかな下り坂!』
「来い、ミカ!」
ミカの体制が変わった。
『さあやはり来たぞミカヅキオーガス!デビュー戦のあの独特なスタイルを今日も見せます!!しかし同時に上がってきたのはアンデイストロス!!彼女のパワーに対抗できるのかッ!?』
『彼女の力強さは他のウマ娘を圧倒できますからね』
「行かせねぇよ…ミカヅキオーガスさんよォ!」
「邪魔だな…あんた!」
『強引に攻めてきたぞアンデイストロス!ミカヅキオーガス抜け出せません!』
「おれだって成長してる…パターンがわかれば対策くらいするよ」
「何ッ!?」
あの日の午後から俺はミカと共にヤツのレースを見続けた。その力強さも、そしてその…不安定さも!
「ここだっ!」
『あーっと外から!外からひらりとかわしたぞミカヅキオーガス!つられたかアンデイストロス、少しよろけた!!残り少ない最後の直線、これはッ!これはッ…!』
「ったく、ハラハラさせやがって」
『ミカヅキオーガス、ミカヅキオーガスです!その二番人気伊達ではなかった!!最後にアンデイストロスをかわし一着でゴールだ六番ミカヅキオーガス!!!!』
走り終えたミカは俺とファインを視界に認めると、口角を少し上げて手を振った。なんだかんだ走るのが楽しそうでよかった。
「やったね♪ミカヅキ、今日もいいレースでした!」
「ああ…アイツの走りがここまでとは正直思わなかったぜ…すげえよ、ミカは」
*
控室。ウイニングライブを控えたミカの元に来訪者があった。
「よぉ…おめでとさん、悔しかったぜ」
「あんた、ラーメンの」
「アンデイストロスだっての…ハハ!っぱおもしれーな!アタシはこんなのに負けたんかい!」
そう言って笑う来訪者、もといアンデイストロスの表情はラーメン屋で会った時のそれではなく、どこか清々しい笑顔だった。
「それにしては、だね」
「ハハ、よせよ…すげぇヤツに負けんのは嫌じゃねぇ、ここで変なこと言われちゃ殴ってやるつもりだったかんな!」
「ウイニングライブ、後ろから殴んないでね」
「気が向いたら、な…今の気分は最高のステージにしてやろうって気だが!」
アンデイストロス、いいライバルだった。ミカにもきっといい影響があっただろう。函館まで足伸ばした甲斐があるってもんだぜ。
「ありがとな、ミカと走ってくれてよ」
「あ?フ抜けたトレーナーかよ…いいか、こいつ絶対に負かすんじゃねぇぞ!次にアタシが勝つまでな!」
「おう!」
函館ジュニアS に出走、目標達成…!