「…ルガ、オルガ」
朝の電車の中で振動に揺られながらいつの間にか寝てしまっていた俺は、ミカのその呼びかけではっと目を覚ました。
「おう、すまねぇなミカ」
「着くよ」
東京競馬場、芝、1400。今日ミカヅキオーガスが出走するレースはGII、京王杯ジュニアステークスだ。ミカとしては三戦目のレース。レース慣れのために数か月前別のレースに出させたとはいえ転生した身、その不慣れなところはまだあるだろう。
(…それでも!)
今のミカなら、あるいは…!
「おっ!来ましたね!」
「アンタは」
関係者入り口で待ち構えていたのはこのレースに出ることのきっかけ、そして今のミカが挑むべきライバル…サクラバクシンオー。
「待ちきれませんッッ!早くあなたとバクシンしたいという思いがあふれ、ぜひご挨拶しようかと!」
「お、おお、そうか…おはようさん」
「おはよう」
「はいッ!おはようございますッ!」
挨拶が終わるとバクシンオーは「それではトレーナーさんが待っていますので!」とどこかへ走って行ってしまった。本当に挨拶をしに来ただけらしい。
「変な奴だな…ミカ?」
「え?」
ミカを見るとその手が震えている。
「ミカ、お前…」
「なんだこれ、おれ…わかんないや」
「それは、武者震いよ」
「アヤベ…それにお前ら!」
見るとアヤベが、ファインが、マヤノが、ウララが。駆けつけてくれたのか!
「全くお前ら…応援はレースが始まる時間くらいからでいいって言ったろ」
「…だって、ファインが」
「あら?最初に言い出したのはアヤベじゃなかったかしら?」
「…っ」
横を向くアヤベをからかうように笑うファイン。その後ろで少し遅れて歩いてきた二人は…
「らら…うら…」
「ウララちゃん!着いたよ!も~!おきてよ~!」
ウララが歩きながら寝ていた。歩きながら寝ていた?
「ウララちゃん、すぐ寝そうになるから…マヤが起こしながら連れてきたの」
「…にんじん…」
「こいつらほんとに…なァミカ」
「みんな、ありがと…がんばって走るよ」
その震える指を握りしめ、ミカはまっすぐ目を向けて放った。
*
『さて今回の一番人気は6枠12番、ミカヅキオーガスです』
『ここまで負けなしでしたからね。大きな期待がかかります』
『しかし立ちはだかるのは二番人気のサクラバクシンオーか』
『この娘の実力も目を見張るものがありますからね…』
「ミカヅキさんッ!いよいよこの時が来ましたね!」
「うん…全力であんたと勝負するよ」
ミカとバクシンオーが話しているがここからだと当然だが聞こえない。
(ミカ、悔いの無ぇように戦ってきてくれ…その結果勝つんならそれに越したことは無いがな)
『さぁいよいよ始まります、各ウマ娘ゲートに入りました』
『今ゲートが開いた!一斉にスタートです。飛び出したのはやはりこの娘だ8枠15番サクラバクシンオー』
『かなり差を開きますね、これは大逃げが期待されます』
「…速いな」
飛び出したバクシンオーを見て思わず声をこぼしてしまった。今まで見た逃げウマ娘の中で最高のスタートダッシュかもしれない。…だが今のミカなら。
『向正面を終えコーナーに入ります!逃げているサクラバクシンオー、現在二番手とは三バ身、四バ身…それ以上か!後続も追いつこうとするがその速度にはついてこられません!』
『やはりすごい走りですね』
『一番人気のミカヅキオーガス、最後尾から三番目のこの位置だぞ間に合うのか!』
いや、大丈夫だ。ミカはここから…!
『コーナーを終え最後の直線に入るぞ勝負はここからだ!サクラバクシンオーその脚にまだ疲れは見えず!』
『各ウマ娘が仕掛けてきましたね』
『さあここからだ東京最後の直線525メートル!GII京王杯を掴みGIへそのリードを見せるのはいったいどのウマ娘なのかっ!』
会場が沸いた。上がってきたのだ…アイツが!
『やはりきましたミカヅキオーガス!そのフォームで抜いたウマ娘は数知れず!その姿はまさに狩人!次に狙うは先頭のサクラバクシンオー!両者の距離が縮まっていきます!』
『ゴールは近いぞ追いつけるかミカヅキオーガス、逃げ切れるかサクラバクシンオー!勝負はこの一騎打ちに持ち込まれた!』
ミカ、行け!勝て…!