『両者の距離が縮まっていきます!ゴールは近いぞ!追いつけるかミカヅキオーガス、逃げ切れるかサクラバクシンオー!勝負はこの一騎打ちに持ち込まれた!』
ミカが苦戦している…?やはりそうだ。そんな姿は今まで見たことがなかったから…やはり中央のウマ娘は伊達ではなかった。俺の視界はスローになり、そんなことを考える余裕ができていた。道でつまづき転ぶと確信した時のアレみたいに。
ミカが食らいつく。前へ、もっと前へ…そんな気持ちが伝わってくるようなその表情。俺はあんなにも必死なミカの顔を見たことがあったろうか。いや、ただ必死なわけではないかもしれない…その表情には、どこか高揚が…
勝負が決まった。
『サクラバクシンオー!サクラバクシンオーです!逃げ切りました逃げ切ったぞサクラバクシンオー!二着のミカヅキオーガスの猛攻ももろともせずゴールしました!京王杯を制したのはサクラバクシンオー!三着は…』
*
控室のドアノブに手を伸ばしためらった。なんて言えばいいのかがわからねぇ。ミカが負けたことは無かった。目を、腕を、半身を失ってもアイツは必ず勝利して帰ってきたんだ。
「あなたしか声をかけられないはずよ」
そう背後から告げたのはアドマイヤベガ。いつの間に…
「レースで負ける、当然よ。十八人のうち十七人が負ける。それがレース」
「ああ、わかってる。けどミカは…」
「負けるはずがなかった、でしょ?ミカヅキは負けた…でも」
「でも?」
「…次があるわ。それもまたレースよ。負けたウマ娘ができるのはそのレースを悔やむことではない…次に勝つこと」
そうか。そうなんだ。
今まで俺たち鉄華団は負ければそこに死と失墜が待っていた。勝てなきゃ負けていた。しかし今は何度でもスタートラインに立つことができる…皆平等の、スタートラインに。
「アヤベ…」
「…早く行きなさいってば」
「オルガ、ごめん…約束、守れなかった」
「ああ」
ミカは自分の手を握り、開き、と繰り返してから腕を下ろしそう言った。
「だからミカ、次は勝つんだ」
「え?」
「俺たちの今いるここは命がけの戦場じゃねぇ。何度だってスタートラインからやり直せる。お前は、俺は、鉄華団はまだ何も失っちゃいねぇのさ」
「そうか…そうだね」
「進み続けることが」
「俺たちの本当の居場所、ってな」
*
次の日から再びトレーニングの日々が始まった。もう冬も近づき、肌寒さも増す。
「アップ終わったよ、オルガ…それで特別なことって?」
「おう、そのことなんだがな」
今日はミカにある『試し』をさせることにしていた…それは。
「えっへへー!お疲れミカヅキちゃん!」
「あ、ファルコ」
今日はスマートファルコンを借りてある模擬レースを開催するつもりだ。
「ファルコと走ってもらうぜミカ…ダートをな」
「ダート?」
そう。例の感謝祭でのステージでしたあの会話。ミカヅキオーガスのダート適性を見ることが目的だ。
「しかし初のダートだ。軽くならしていく感じで行け」
「うん、わかった」
「わたしもはしる」と急遽参戦したウララを連れ(ダートなのでファインの時よりも好走はできるだろう)土の練習バ場に来た。
軽くアップ。
「ミカぁー!どうだぁー⁉」
「いい感じだよオルガー!」
「じゃあはじめっぞー!」
反対側にいるので声を張る必要がある…なんか他のトレーナーはメガホンとか使ってるけど。
ダート、2000m、バ場状態良。出走するウマ娘はミカヅキオーガス、スマートファルコン、ハルウララ。
「いくぞー!よーいドン!」
スタート。飛び出したのはスマートファルコン!かなり速いペースで二人を引きはがす。
「慣らしだからって負けないよ!ウマドルはいつでも全力っ!」
「はやいな…」
「まけないぞ~!」
だいぶ順調、か?ミカも特別足回りが悪いわけではなさそうだ。コーナーを回って直線へ。ここからいつもの追い上げだが…
!?
ミカがいつもの姿勢を取りスパートをかけた瞬間、アイツは今までにない加速を見せた。この前のレースでの加速とは比べ物になんねぇ…!?あれは…!
「えっ!?はやっ!?」
思わず声を漏らすファルコ。負けずにスパートをかけるがミカの追いつき方が異常のそれだ。近づく。近づき、さらに近づく…!
「っはー!!ゴール、ゴール…ファル子の、か、勝ち…」
「だめか。追いつけなかった」
俺は確信した。
ミカヅキオーガスは芝で収まるような器ではなかった。アイツの本領はダート。思えば火星での戦闘にその力を示したミカなら当然と言えば当然なのかもしれないがな。
(ミカはこれからどんどん速くなる…!ダートだ、ミカの適正はダート…!)
俺はこれからを想像し高揚、固くこぶしを握った。
ちなみにウララはいつもより若干速かった。三位。