「なんだか昔に戻ったみたいだね」
「よぉ~し!まもるぞ~!」
警護当日。ミカとウララを連れて早朝の学園でファインを待つ。やがて寮の方からファインとSPが一人歩いてきた。
「ご苦労様です。無理を通してもらって申し訳ありません。私が隊長です」
「アンタがリーダーか。鉄華団のオルガ・イツカだ。よろしく頼む」
その日はファインの都内観光が予定されていた。某タワーや某クソデカちょうちん神社やいろいろ回ったが…俺もミカもウララも見るもの見るものが物珍しくて結局ただの観光グループになってしまっていた。これは良くない。
「今日はありがとう存じます。とても楽しかったよ!」
「たのしかったね!」
「いろいろすごかったな…」
トレセン学園に戻ってきたのはその日の夕方だった。「では、私たちはここで」とそのまま別れそうになったので慌てて引き留める。
「ファイン!…話がある、いいか?」
「?」
俺は一呼吸置くと、ファインの目をまっすぐ見て続けた。
「走ってほしい」
「!」
「お待ちくださいトレーナー様…それはいったいどういう?場合によっては許されざることなのですが」と隊長が割って入る。
「どうもこうもねぇよ。俺がファインモーションをスカウトする。チーム鉄華団のトレーナーとして、だ」
「トレーナー様、殿下のお立場は承知のはずでしょう?…許すわけにはいきません」
「隊長の言う通りです」
ファインが初めて言葉を発した。
「言ったでしょう?私は走るために来たのではありません…もちろん走るつもりもないの!」
「嘘だよね、それ」
「!」
答えたのは意外や意外、ミカだった。
「あんたの目はそうじゃないって言ってる…今から走る?おれと」
「私の、目が…?」
ファインはうつむいた。自身の心と改めて向き直っているのだろう。
「いいじゃねぇか…今からミカと走ればいい。俺はまだ、アンタの走る姿を見ちゃいねぇからな」
「いい加減にしてください…行きましょう、ファイン殿下」
隊長が彼女の腕をつかむ、が、彼女は動こうとしなかった。
「殿下…」
「隊長、一度だけ…一度だけなら、許してもらえるでしょうか?」
その目がわずかに光っているのは、夕日のせいだけではないだろう。
「トレーナー様、本気ですか…?殿下を危険にさらすということは、何も私たちだけが困ることではないのです…貴方自身が、全てを失うことにさえなり得ます。」
「もともと何も持ってねぇよ。それにな…」
俺はミカを、ウララを、そしてファインを順に見て、言った。
「こいつらの走りに、こいつらの夢に俺自身を賭けることがこの世界での俺にできることだって思っちまったんだ」
隊長は一度ふう、と息をした。
「トレーナー様は、己のすべてを賭してでも殿下を後押しするつもりでいらっしゃいます。その上で殿下ご自身も望まれるのならば…」
ファインの目のきらめきが増す。
「どうぞ、御心のままに」
*
芝、1600m、バ場状態良。出走するウマ娘はファインモーション、ミカヅキオーガス、それに「私も走りたい!」と急遽参戦したハルウララ。
トレセン学園練習場で小さな規模の、しかし大きな意味を持つレースが始まろうとしていた。
「準備はいいか!お前ら!」
三人がスタート位置につく。その準備を確認して俺はホイッスルを吹いた。
スタート。どのウマ娘も出遅れはなし…好スタートだ。前からファインモーション、ハルウララ、ミカヅキオーガス。
向正面後、最初のコーナー。ハルウララが少し遅れた。ファインモーションが先頭。三バ身離してミカヅキオーガス。その後方二バ身にハルウララ。
「やはり彼女の走りは見事だな」
いつの間にか隣にマクギリスが立っていた。
「悪いな、機会づくりまでしてもらってよ」
「いいや、前世での贖罪を考えれば安すぎるくらいだ…君たちには今度こそ栄冠を掴んでほしくてね」
次のコーナーを回る。前方二人の差は縮まらず。ハルウララは集団に置いて行かれた。これでレースは前方のファインモーションとミカヅキオーガスの一騎打ちか。
「ありがとうな…隊長、アンタも」
「殿下のためですから…それに」
最後の直線に入った。スパートをかけるファインモーションをもろともしない追い上げを見せるミカヅキオーガス。
「殿下が嬉しそうに走る姿をもう一度見たいという私のわがままでしたかも、ですね」
「ヘッ…見ろよ」
並んだ。ファインモーションかミカヅキオーガスか。ファインモーション、ミカヅキオーガス、ファインモーション、ミカヅキオーガス…
「アイツ、すげー楽しそうだ」
一着はファインモーション。後方の追い上げを何とか振り切って半バ身差で見事かわした。二着にミカヅキオーガス、七バ身離れて今ハルウララがゴールイン…