アドマイヤベガをスカウトしたその次の日、鉄華団の小屋で待っていると、彼女が来た。
「これと、これと…これでOKね」
「ああ、助かる」
彼女の手際は見事なものだった。俺はミカとウララの手続きであんなに苦労したというのに…
「アヤベ、今日のトレーニングなんだがな…」
「いい。気にしないで」
「えっ」
「独りでやれるから…それじゃあ」
そう言って行ってしまった。確かに今まで一人でトレーニングしていた分、素人の俺よりかは期待できる練習ができるだろう。それも個人の自由かもしれねぇがしかし…
(どうにも引っかかるな、ミカのあの言葉)
*
「変、って何がだ?ミカ」
遠ざかる彼女の背中を二人で見送ったあの日の夜。ミカは彼女の走り方をそう言った。
「わかんない、けど…あ、そっか」
「?」
「あいつ、左脚が歪んでるんだ」
*
まだまだウマ娘の身体には詳しくはないが、脚の歪みが良くない状態であることはさすがに分かる。マクギリスに相談…!と思ったがなんか腹立つので(ファインの件は感謝しているがそれとあれとは話が別)たづなの存在を思い出し、彼女に相談することにした。
「蹄鉄の改良でのカバー、がよさそうですね」
「蹄鉄の改良…っすか」
思わず繰り返してしまった。
「できるんすか、改良なんて」
「ええ、蹄鉄のオーダーメイドなど請け負っている業者はありますから…それについてなんですが」
「?」
「アドマイヤベガさんのお母上にご相談されてみてはいかがでしょうか」
「アヤベの、母親?」
聞けば、彼女の母親も同じ脚の歪みを患っていたようだが現役で走り抜いたという。なるほど確かに経験者がいるならそれに越したことはないよな!
「聞いてみることにします…ありがとうございます」
たづなと相談した帰り、ミカたちの練習を見にトラックに寄ろうと思い、購買の方を通りかかると…
「なんだよ、マクギリスじゃねぇか…」
「オルガ団長、奇遇だな」
マクギリスとその担当ウマ娘たちと鉢合わせをした。
「ふぅン、君が最近編入されたという新人トレーナーか…」
「おお、そうだが」
早速変なウマ娘に絡まれた。
「実に興味深い、その前髪!完全に物理法則を無視した生え方ではないかい…詳しく見せてもらいたいが…」
「おいマクギリス、こいつは」
「アグニカタキオンという」
「ん?」
「アグニカ…アグニカタキオンだ」
「間違えてもらっては困るなトレーナー君…アグネスタキオンだ」
「改名してはもらえないだろうか?」
「ははっ!ははははっ!やはりおもしろい!君をトレーナーにして正解だったよ!」
なんだか妙な信頼関係ができてしまっているようだ。仲が良いのはいいことかもしれない。マクギリスも不満はなさそうだしな…
「そういえばオルガ団長、奴の紹介がまだだったな」
「奴?」
「ウマ娘になったのは三日月・オーガスだけではない、ということさ…石動!」
「お呼びですか、准将」
「て、てめぇは!」
その態度と喋り方、間違いない…夜明けの地平線団との戦闘から始まり最後の最後までマヌケの金髪バエルバカに信じて付いて行き命を落とした悲劇の右腕…石動・カミーチェ!
「こんな姿で貴様たちに会うとは、驚きだ…改めて、イスルギカミーチェだ」
三日月と同じく元の特徴を残しつつ女性にしたという感じだ。こいつそういやもとから髪長かったな…
「そういうわけだ、私と石動をはじめとしたチームアグニカはこれからも世話になるだろう、よろしく頼む」
「はぁ…」
頭が回らないうちにチーム・アグニカは行ってしまった。が、マクギリスがふと足を止めこちらに顔を向け言った。
「聞いていないことに驚きだったよ…何せ君のミカヅキオーガスとイスルギカミーチェは寮で同室らしいからね」
「えぇ…」
ミカの野郎、そういうことは早く言っておけよ…