「おつかれさん」
「う~ん勝てなかった~マヤ、分かってたのにな~」
トラックから帰ってきた三人に」ねぎらいを送るが、マヤノは不服そうだ。おそらく彼女の脳に描いていた勝利への道は間違いなく『正解』だったのだろう。しかしやはりファイン、アヤベ二人の脚や体力などの基礎力にはかなわなかった、ということ…つまり。
(本気で練習させれば、マヤノは伸びる)
「トレーナーちゃん!マヤの走り、どうだった」
「ん?おお…練習すれば勝てるんじゃねぇのか」
練習という言葉を聞いた瞬間、分かりやすく彼女の表情が不服そうになった。
「キミもそれ?マヤは嫌!練習ってつまんないんだよ!」
「えー?走るのって私は好きだけどな?」
そう不思議そうな顔でつぶやいたのはファインだった。
「マヤノは走ること楽しくないの?」
「マヤだって走りたいよ、でもね、トレーニングって『分かってる』ことを何回もやるじゃん?つまんないって、ファインちゃんは思わないの?」
ファインはくすっ、と笑って、
「マヤノ、明日から私と練習しない?つまらなくない練習教えてさしあげます!」
「えっ!?つまらなくない練習!?すごーい!」
「いいでしょトレーナー?」
ファインがそう言うのには何か秘策があるのだろう。
「ああ頼んだぜ、ファイン」
その次の日から一週間、ファインとマヤノはトレーニング場に現れなかった。姿を見るには見るが、いつも校門から黒いバンに乗ってどこかへ行くところだった。
その日の俺たちは校外の、いわゆる『心臓破りの坂』でのトレーニングを予定していた。
「じゃあ今日は言ってた通り坂道ダッシュだ。キツイと思うが音、上げるんじゃねぇぞ…!」
「楽しみだね~!がんばるぞ!」
「オルガが言うならやるよ、おれ」
「わかったわ」
「マヤも頑張っちゃうんだからね!」
…?
「マ…マヤノ!」
マヤノがやる気満々という顔で手を上げていた。後ろにはファインが微笑んで立っている。
「お前…どういう気の吹き回しだ?」
「マヤね、分かっちゃったの!分からないことが分かったら変わるんだって!じゃあマヤは分からない状態でもそれが分かっちゃうようにすればいいだけなんだよね♪」
「…?」
そのままの勢いでマヤノを含む四人は坂道ダッシュを始めた。唖然とする俺の肩を叩いて微笑んだのはファイン。
「ファイン」
「つまりね、こういうことなの」
ファインはメジロドーベルに頼みメジロ家のトレーニング施設などを、さらに自国の力を使った精密検査などを使ったらしい。そこでマヤノに『普段では到底考えられないようなメニュー』の練習を与えた。
「ふっふーん!でも、それだけじゃないんだ!」
それだといずれマヤノは飽きてしまう。そこで一日、半日、それ以上の細かいスパンで彼女の身体に起こる変化を数値化したという。
「マヤノはね、練習そのものが嫌いなわけじゃないの…練習に意味がない、って思っちゃうんだね」
賢い子だ。マヤノは示されたそのわずかな数値の変化にも関心を示し練習を意味あるものだととらえるようになった。
「なるほど、今までの普通のトレーニングで『分からなかった』能力の伸びを『分かる』ようにしてあげたんだな」
「そう!そしたらマヤノ、すっごい目をキラキラさせてね!」
上手くいきすぎ、単純すぎと感じる部分はあれどそれが彼女の天性の『賢さ』なんだろう。
「まったく…ありがとうな、ファイン」
「ううん、それでトレーナー、頑張ったからまたラーメンにエスコートしてくださるかしら♪」
そう来るとは。しかしそんなことはお安い御用だ。「いいぜ」と返事したところ…
「あーっ!ファインちゃんだけずるーい!マヤもトレーナーちゃんとデート、するの!」
坂道を下りきったマヤノに嚙みつかれてしまった。
「おいおい…んじゃせっかくだし今夜はパーっとやるか!」
そういえば五人集まった記念の祝賀会もやってなかったな、と思い言う。
「やった~!!にんじんパーティーがいいな!」
「うん…いいね」
見かねたファインがアヤベの腕をつかむ。
「ねぇ、アヤベも!」
「私も…?」
「そーだよ!アヤベさんもにんじんパーティー、しようよ!」
「みんな一緒がいいな、そうでしょ?オルガ」
「もちろんだアヤベ…来てもらうぜ!団長命令だ!」
アヤベは唖然とした後少し口角を緩ませて「まったくあなたたちは」と漏らした。
学校近くのウマ娘御用達の宴会場を予約した。練習後、五人でそこへ向かう途中にマヤノが俺に近づいてきて言った。
「マヤ、練習に意味のあることは分かったけど…やっぱりつまんなくなる時はあるって思うの。トレーナーちゃんはそれでもマヤに練習させたい?」
「マヤノ、俺は何もお前に練習させたいわけじゃねぇ…お前に勝ってもらいたいんだ、レースで」
「トレーナーちゃん…」
「俺もまだ新米だからよ、至らねぇとこあると思うしお前を退屈にさせちまうようなこともあると思うが…どうか俺と二人で一緒に頑張ってはくれねぇか?」
「マヤとトレーナーちゃんの、二人で…?」
マヤノはその表情を目いっぱいほころばせた。
「わかった!マヤ、練習がんばる!マヤのためだけじゃなくて、トレーナーちゃんのためにも、二人で!だからこれからもこうやっておねだり聞いてくれるよね♪ユー・コピー?」
「おう!やってやろうぜ!」
「アイ・コピー!!」