ゲリラの溢れる異世界へ、日本国召喚。   作:ペジテ市民A

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延焼

≪中央暦1639年7月8日≫

<ロウリア王国王都ジン・ハーク>

 

 朝の霞に聳え立つジン・ハーク城。ロデニウス大陸に未だ大砲が無いからこそ無視できない存在感を示す巨大な構造物は、フィルアデス大陸の戦争を知る者からすれば滑稽ですらあるかも知れない。

 

 数多の銃撃で表面の砕けた城壁の、狭い銃眼から放たれた弾丸は塹壕から顔を出したクイラ兵士を貫いた。

 

 4月1日、ロデニウス連盟を代理したクイラ王国諸侯議会の通告に対して、ロウリア王国は無回答と言う選択を取り、正式にクイラ王国軍はロウリア王国に侵攻した。

 

 既に反乱勢力によって多くの都市で蜂起が起こっていた南部では、元々不足していた装備や物資の欠乏が相次ぎ、クイラ方面軍の攻勢で5月の始めには戦線が崩壊。現地勢力の協力を得て占領地域の統治を行い、南部の支配確立に成功している。現在は国境付近の山岳地帯からロウリア勢力を排除するべく掃討戦を行なっていた。

 

 一方の北部では、国境の大河とロウリア側の要塞によって苦しめられ、渡河作戦と要塞攻略を連続して行う作戦が発案された。

 

 5月27日の軍令会議でクイラ王国軍ロウリア作戦最高司令官のオクタンカは、クワ・トイネ方面軍司令官シェールが提案したアブ作戦を採用した。その作戦は偽装撤退や蜂起の偽装など、危険かつ挑戦的な部分を含み、ロウリア軍の潰走や、民衆がクイラ軍の流した蜂起に関するデマを信じた事で、後のギム蜂起の原因となった。

 

 ギム蜂起の悲惨さからアブ作戦は、

 

「ギム蜂起のタイミングによればロウリア軍の攻勢と合致し、クイラ軍は大きく後退する可能性があった。」

「不要な蜂起を誘発しかねない作戦であり、自国民を騙してまで作戦の成功率を上げようとした、軍部の暴走による惨劇である。」

 

 などと、軍事的又は人道的な非難がなされる事もあり、一方で作戦自体は一応の成功を収めた為に、後世でも評価が分かれている。

 

 7月1日から発動したアブ作戦は、初日に陽動の攻勢と偽装撤退を行なって、ロウリア軍に強引な渡河を行わせた。5日には防御の薄くなった上流部で渡河と要塞攻略に成功。20日までに上流域の要塞群を攻略し終えてロウリア軍の防御線を突破。これにより国境から王都まで大した距離が無いロウリア王国の「国境防衛」という方針は打ち砕かれたのだった。また同日、渡河したロウリア軍を撤退させ、クイラ側都市の蜂起との共同を目指したロウリア軍の希望を粉砕した。

 

 上流域の部隊の南下は進み、下流域でも対岸からの攻撃に圧迫され、すぐにジン・ハークまで陥落するものと考えられていた。

 

 しかしロウリア軍が東岸から撤退した3日後、クイラ軍の後方で事件が起こる。ギム蜂起である。

 

 ロウリア軍が撤退時に、魔信による蜂起中止の呼び掛けをしなかった為、ギムの町を家屋や畑を潰して前線基地に改造したクイラ軍を敵視していた住民達はロウリア軍による解放を信じ、蜂起を起こしたのである。

 

 23日に始まった蜂起は翌月の6月25日まで1ヶ月以上続き、蜂起側で約4万5000人、クイラ軍側で8532人が死亡した。この間にロウリア軍は再びの攻勢を仕掛けようとしたが、クイラの工作によって王都の西面を領地とするムーフォン侯爵家で当主が代替わりし王都が大きく包囲されてしまう。侯爵領に入ったクイラ軍を見て、単独での包囲突破は難しいと考えたロウリア軍は、ジン・ハークと港湾都市を接続する為の陣地を増築する様に命じる。これがジンハーク包囲戦の始まりであった。

 

 

 

 

 

≪中央暦1639年7月20日≫

<ロウリア王国西部、アーリ・ハーク市>

 

 町の中は、機関銃の弾丸によって砕かれた木片や煉瓦の砕片、そしてロウリア軍兵士の肉片によって異常な雰囲気を漂わせていた。

 

 この町はパンドーラ連合公国の租借地であり、ロウリア王国軍の主力がジン・ハークで包囲された後、クイラ軍に対する防御を行なっていたパンドーラ軍ロデニウス派遣軍への補給拠点となっていた。

 

 

 

「南面区間、制圧完了しました。また刑務所の制圧時に、地下牢にて多数の民間人を発見しました。民兵が複数潜伏していたので排除した後、非武装である事を確認しました。」

 

 クイラ軍第4車輌軍第一歩兵師団を指揮するディーゼは、真っ先に制圧した町の東面区間に停めた戦闘車両の中で報告を受けていた。

 

「そうか。民間人の避難について彼らは何と証言している?」

 

「はい、中央区画にロデニウス人は入れて貰えなかったので、警察署長の案内で地下牢に隠れたとの事です。」

 

 その報告を受け、ディーゼは中央区間の制圧部隊に指示を出す。

 

『師団長より、第3大隊へ。中央区画に民間人は居ない。繰り返す、中央区画に民間人は居ない。』

『了解。』

 

 報告した兵が離れようとするのを呼び止めて聞く。

 

「ちなみにその警察署長はそこにいたのかね?」

 

「はい。民間人と同じく地下牢にいました。しかし拳銃で武装していた為、排除しました。」

 

 ディーゼは少し落胆した。

 

「そうか。いや、気にせず持ち場に戻りたまえ。」

 

 まあよくある事だと切り替える。何故ロウリア国民にこれほど良心的な対応をしているのかと言うと、この戦争に協力しているロデニウス自由戦線の要請によるものである。

 

 ロデニウス自由戦線。第一次ロデニウス戦争以降、この大陸にばら撒かれた武器によって生まれたと言っても過言ではない組織だ。

 

 元々はパールバティア軍から武器を受け取り、ロデニウスに持ち込む事業を国家戦略局から委託された企業だったが、後にロデニウスで頒布する役割の部署が土着化。

 

 パールバティアやパンドーラから入って来る武器を買い占め、武装組織に売り渡す中間業者として利益を上げ、次第に情報屋的な商売を始めるなど巨大化して行き、利益を求めて武装組織同士の抗争を意図的に引き起こすまでになった。

 

 しかし、カナタと言うクワ・トイネ出身の男がリーダーになると、方針が一変し、ロデニウス大陸全土で「圧政からの市民の解放」を掲げ、市民に武器を配布する様になり、クイラ王国でも危険視される様になる。

 

 その後彼の手腕によって、クワ・トイネの自治権を拡大する様に約束させ、現在の共闘に至る訳であるが、この場では割愛しよう。

 

 ただ、ギム蜂起の時に彼らが配布した武器が使われた事は既に分かっており、彼らの方も軍の対応を批判していて、この問題は後々まで引き摺りそうだと予想されている。

 

 政治の事は分からん。とディーゼは溜息をついた。仮にロデニウス自由戦線がクイラ王国によって危険なものになれば、対処するだけの事である。

 

 数日前、ジン・ハークの外郭都市が全て陥落し、包囲は更に狭くなったと聞く。すると彼らの降伏は間も無くだろう。そうすれば後は反クイラの武装組織だけだ。この戦争も直ぐに終わるだろう。

 

 理性ではそう感じるのだが、瓦礫の町にはそれを否定する嫌な空気があった。

 

 

 

 

 

 

≪中央暦1639年7月25日≫

<パンドーラ連合公国首都ファンドルフ>

 

 元々パンドーラという国は、パールバティアと同一の国家であった。中央暦1300年、月神の使いによってフィルアデス大陸の統一国家として建国されたその国は、現在でも第3文明圏に強く影響を残している。

 

 世界の半分とまで謳われた絢爛なる聖都が、太陽すら焼き尽くす光によって消えた後、それまで禁止されていた魔法の復活が徐々に進んで行った。しかし国内は全面的に解禁するべきという解放派と、魔法を嫌悪し出来る限り科学技術を使用するべきという統制派で対立して行く。

 

 解放派の中核を担っていた西方聖堂戦士団は大陸西部の都市ファンドルフを首都として、パンドーラ公国を建国した。

 

 一方統制派では、穏健派が主導権を握り、大教会メガリ・エクリシアのある大陸南部の聖都パールネウスにてパールネウス王国が誕生する。

 

 このパンドーラ公国が今のパンドーラに繋がるわけだ。

 

 ちなみにパンドーラの由来は、科学技術によって世界の半分と言われる都市を作った月神の使いの国に対して、魔法技術を加える事で「全てが与えられる」と言う意味でつけられたと言う。

 

 さて、実際のところパンドーラ公国連合に全てが与えられたかと言えばそうでは無い。

 

 科学に魔法を掛け合わせて進歩すると言う方針は、科学技術の進化を放棄する結果となった。魔法を科学で代用する為に科学技術を進歩させたパールバティアとは対照的である。

 

 現状では問題になっていないが、現在主流のエンジンの馬力は現在の倍になる前に魔法技術的にも限界に達すると言う予想がされている。

 

 つまり時間はパンドーラに味方しない。

 

 一つ希望があるとすれば化学分野があり、最近では魔法で環境を整える事で数多くの発見がされている。

 

 それでもパールバティアに勝てるかと言えば自信が無いと言うのが、パンドーラの実力であった。

 

 

 

 合成化学学術院の院長、カールスルーエは威勢よく出港していく第二艦隊の後ろ姿に言い知れない不安を感じていた。

 

 

 ムーから購入したリ・アールを旗艦として、姉妹艦のリ・ゾートヴァイトやヤマ型巡洋艦などが並ぶ。最新では無いが、まだまだ現役だ。

 

 しかし、パーパルディアの主力艦隊と衝突すれば、海の藻屑となるだろう。

 

 超射程魔光弾を搭載した最新鋭の爆裂艦であるイルミナティ級や、海上要塞と恐れられるパンドラ級戦艦を派遣せよと言う意見もあったが、学連長を始めとした重役達が冷戦構造の脆さを軽視している事もあって、第二艦隊の派遣と言う形になった。

 

 カールスルーエは主力艦隊の派遣を支持していた為、この光景は不本意なのである。

 

「艦隊の派遣先はロデニウス海峡、目的は包囲されたロウリア・パンドーラ連合軍の解放支援。だがあそこはパーパルディアの庭だぞ。これでは敵の掌に飛び込む様なものだ」

 

 一瞬第二艦隊が壊滅すれば、今の主流派は軒並み失脚するだろうなと考える。だが、彼にも愛国心はあった。

 

「やはり実地試験を名目に、報復呪詛兵器2号シュティーアの運用部隊を追加で派遣出来るように要望を出そう。私が同行すると言えば、主流派共も跳び付くだろう」

 

 自らの政治的目的は戦果で解決しよう。彼らが玩具としか思って居ない、私の超兵器で。

 

 

 

 

≪中央暦1639年8月5日≫

<アルタラス王国シルウトラス鉱山>

 

 パンドーラの第二艦隊がジン・ハーク近海への行程を半分程終えた頃。

 

 アルタラス王国のシルウトラス鉱山では調査を行う日本人の姿があった。使節団に同行した技術者達である。

 

「採算が取れるかは更なる調査が必要ですが、採掘自体はいけますよ」

 

 その言葉に所々汚れたスーツに似合わないヘルメットを被った外交官の朝田は安堵する。

 

「そうですか! ここで天然ガスを取れるなら、我が国のクイラ王国依存は幾らか解決します」

「日本国との関係は我が国にとっても重要になるでしょう。我が国はバランサー外交を基本方針としていますから、東側でも西側でも無い国の存在は心強く思います」

 

 アルタラスの魔石採掘管理官も日本との関係強化に前向きだ。

 

 クイラ王国のロウリア侵攻後、外務省は血眼でクイラ以外の資源産出国を探した。その最有力がアルタラス王国だったのだ。

 最初の使節団が魔石を採掘する鉱山で爆発事故が起こる事があると聞きつけると、ガスが採取出来る可能性があるとして第2回の使節団には採掘関係の技術者を民間からも募って参加して居た。

 

「今夜別宮で夕食会が開かれます。朝田殿も是非来ていただきたい」

「招待に感謝します。今から楽しみにしておきます」

 

 日ア関係は両国を照らす希望かに見えた。

 

 

<アルタラス王国タールア宮大ホール>

 

 夕食会には中立国の立場を活かした貿易で多大な利益を上がる貴族達や貿易商、他国の大使や訪問者などが、アルタラスの栄華を象徴するかの様にパーティを楽しんでいた。

 朝田達は酒は程々に、関係構築に勤しんでいた。アルタラス国王のタール14世とも会話する機会があり、アルタラス王国との関係は良好であった。

 

「すまない、君達は日本国の方かな? 私はパンドーラで学術院の院長をしているカールスルーエと言う者だ」

 

 会場が落ち着き出した頃、アルタラスでは見慣れない魔法使い然とした老年の男が話しかけて来た。

 じろじろ観察するのは失礼だとは思いつつ、服装などを見る。古風なチョッキに白いローブと言う姿は、地球の文化ではどこと明確に示すは出来ない。内側の西欧風の服とアラブ風の外套の融合が、なんとも言えぬ怪しさを醸し出している。

 見た目の印象は学者か政治家か。学術院の院長がどんな立場か知らないが、朝田は霞ヶ関でこんな様な人間を見た事がある。

 

「ええ、私は日本の外交官をしている朝田です。パンドーラと言うと、フィルアデス大陸西部の方でしたか」

「その通り。少しばかり遠い為に、ここに居るパンドーラの文民は私だけだ。いや本来なら先に出発した連れがいたのだがね、私が陸路で追い抜いてしまってな。私も日本の噂は聞いた事があるから、話してみたいと思ったと言うわけだ」

 

 パンドーラ。パーパルディアと対立している国家だ。高い魔法技術があると言うから、いつか行ってみたいな。と朝田は思う。

 

「我が国と貴国はまだ国交がありませんが、これを機会に国交を結びたいですね」

「ああ、私も帰国すればその様に働き掛けるとも」

 

 やはりこの男は政治家的な立場の人間だ。

 

「ところで、申し訳ないのですが私は貴国の学術院についてよく知らないのです。貴方はどんな研究をされているのですか?」

「化学が私の専門ですな。とは言え私の仕事は技術の実用化。アルタラスへも、実験の為に来ました」

 

 朝田は出世したが故に政治的な力を持っただけの学者かも知れないと評価を改めた。

 

 しかし後に彼は、この男が間違いなく政治家だったと確信する事になる。

 

 

 

≪中央暦1639年8月6日≫

<デュロ・テレグラフ紙上>

 

皇国・アルタラスへ宣戦を布告す

 

皇帝陛下の御聖断!陸海軍へ勅命下る

 皇帝陛下は未明の御前会議にて我が国の支配圏内にある敵性分子としてアルタラスを示され、即刻誅罰を下し第3文明圏の秩序と安寧を護るよう局長らに命じられた。

アルタラス・パンドーラ連合海軍大壊滅

 海上にて勅命を受けた海軍総司令官バルス大将は、空母艦隊を率い敵軍港を攻撃機の大編隊にて完全に粉砕する戦果を上げ、一番槍を名誉は彼のものとなった。大将は通信にて陛下から、「アルタラスを滅ぼせ、バルス!」と直々に勅命を受けたと言う。

 撃破した艦艇にはパンドーラの物も含まれている。彼の国の中立を尊重する為第一攻撃隊は目標から外したが、空母へ帰投する英雄らへの卑劣な不意打ちを行った事から第二攻撃隊によってその報いを受けたとバルス大将は語った。

 

皇軍既に上陸完了

 海軍の大戦果を耳にした陸軍全軍人は益々奮起し、苛烈な突撃と正確無比な砲撃によって神速の上陸を成し遂げた。

 慌てふためくアルタラス兵を排除し、逃亡しようとするパンドーラ兵を追撃。開戦三時間で橋頭堡を築き上げたと言う。

 

 最初にアルタラスの地に皇軍の御旗を立てたグラーフ中尉は更なる突撃を行い戦死。二階級を特進し少佐として帰還する事となった。

 

                 朝刊一面

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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