≪中央暦1639年8月8日≫
<アルタラス王国首都ル・ブリアス>
朝田ら使節団の面々は、3日前に夕食会が開かれたホールに集められていた。3日前と異なるのは、昼間である事とパーパルディア皇国連邦の軍服を着た者たちがいる事だ。
呼ばれるべき者が全員揃ったのか、表の扉が閉まり壇上にタール14世が出て来る。王座の前まで来るとそこには座らずに、立ったまま話し始めた。
「我が家臣の諸君、並びにル・ブリアスに駐在しておられる各国の外交官の皆様。去る中央暦1639年8月8日10時00分、私はパーパルディア皇国連邦皇帝によるアルタラス王国に対する宣言を条件付きで受諾した。しかしながら我が国の西部では、宣言に逆らいパンドーラ連合公国を引き入れて抵抗を続ける武装組織があり、その首魁は私の嫡子を自称しターラ15世を名乗っている。パーパルディア皇国連邦軍にはその組織の掃討に協力していただく事が決定している。また当然、外交官の権利は守られる。給油は難しいが、直ぐに出港してくれて構わない」
いきなりの発言に会場は動揺するが、徐々に納得したように黙り込んでいく。納得出来ないのは朝田達だ。
朝田は近くにいたシオス王国の大使に話しかける。
「すみません。皆さんどこか納得された様子ですが、こんな事は前代未聞では無いですか?」
「前代未聞? いや、むしろ何度目だと言いたいですなぁ。うちも人の事は言えないが、条件付き降伏とは、アルタラスの歴史そのものだ。タール15世は本物でしょうな。歴史にそう記されるかは、戦況次第でしょうが」
信じられない事だが、少し理解した。関ヶ原の合戦で家の存続の為に一族で敵味方に分かれた者達がいた様に、アルタラス王家も存続の為に片方が犠牲になる覚悟で別れたのだ。
それに早々に降伏し、征服に協力して無視できない成果を上げれば、ある程度の独立を保てるかも知れない。それが条件付き降伏という事なのだろう。この国の外交には、そのレベルまでも含むのか。
王が更に言葉を続けようとした時、建物が大きく揺れた。天井からは細かい破片が降り、窓の外にはガラスや木材が落下して来た。
「パンドーラの攻撃の様ですな。直ぐに避難しましょう」
外には出た朝田達が見た光景は酷い物だった。今朝街を散策していた時は立派に聳え立っていた王城の尖塔は崩れ落ち、政府の庁舎はどれも爆撃を受けた跡がある。港の方からは煙が立ち昇り、陸軍基地のある北側の空は真っ赤に染まっている。
今もそこら中で爆発が起こっているが、外交官である朝田には、一体どこから撃たれてるのか分からなかった。
「朝田さん!無事で何よりです」
駆け寄って来たのは海上自衛隊の更木3佐だ。
「更木さん、みょうこうは現在の状況をどれくらい把握してますか?」
石垣島での衝突を受け、パーパルディアの勢力が強いアルタラス王国へ向かう、この使節団には護衛艦みょうこうが同行していた。
みょうこうの乗員達は、同型艦のちょうかいが攻撃された事で、通常以上に気が引き締まっていた。ちょうかいは被害を受けた後、パーパルディア海軍との睨み合いが続いた為ダメージが深刻な物になっている。艦としての生命はなんとか繋いだものの、修理にかなりの時間と費用が掛かる事は直ぐに判明した。本来なら廃艦となるレベルのコストが掛かるが、現状が現状だけにどうにか復帰出来る様に現在呉にて修理が続いているのだ。
「はい、現在みょうこうのレーダーにて誘導ミサイルと見られる飛翔体を複数確認しているとの事です。今のところみょうこうを対処とした攻撃はなく、誘導方法も不明との事です。朝田は艦に戻られますか?」
「そうします。ここにいる日本人は全員無事ですか?」
「全員の無事は未だ確認されていません。これから捜索に向かいます」
後から現れた更木の部下の案内で破壊された港のへ向かおうとした時、更木の無線機に連絡が入る。
「朝田さん、技術者の1人が王城近くで瓦礫に閉じ込められているとの事です。本人の無線により判明しました。これを受け、みょうこうはミサイルの迎撃を開始します」
<護衛艦みょうこう>
「行方不明だった堀山氏から無線がありました。現在瓦礫によって王城付近の地下壕に閉じ込められているそうです」
「そうか、これで朝田さんを含めて日本人全員の居場所が判明したな。その地下壕の耐久性はどれくらいか分かっているのか?」
艦長の海原は報告に少しばかり安堵する。日本人の死者はまだ発生していなかった事が確認できた。これによって殺気すら感じる艦内の緊張は冷静な任務の遂行に丁度いいくらいまで軽減された。みょうこうの乗組員は日本人の犠牲というものに、ともすれば復讐鬼になりかねない程敏感になっていたのだ。みょうこうの乗組員には、ちょうかいの乗組員と顔を合わせたことがある者も多い。中には過去に同じ船に乗っていた同僚が負傷したと言う者も居る。石垣島の事件で1番動揺したのは海上自衛隊だったのである。
故に今のところではあるが犠牲になっていないと言う事実は、助けなければと前向きな意識を強化する事になった。
「堀山氏の話では、『ある程度の力はあるが、一撃ごとに崩壊が進んでいる』という事です。また数日前にその地下壕を見学した隊員の話では、『優秀なシェルターではあるが、現在の攻撃には耐えきれない』そうです。王城は集中攻撃がされており、そう長くは保たないだろうと言うのが簡易的な分析です」
「彼を救出するには王城への攻撃を止める必要があるな。……自衛隊法94条にしたがって、王城付近へ飛来するミサイルの迎撃用意!」
「!! 了解しました!」
艦長の指令によって、後部のファランクスが動き出す。
「街が射線に入らないようにな。あと、居場所が確認されている日本人はそれぞれどこにいるかまとめろ」
「宿場で待機していた外交官二名は既に本艦に収容しました。もう一名はアルタラス王国の要請で別宮におり、現在隊員と共にこちらへ向かっています。行方不明者の捜索任務についていた隊員には一度こちらに戻るように指示しました。そして技術者一名が王城付近で立ち往生しています」
その時レーダースクリーンに新たな光点が現れる。
「新たにミサイル3発を確認! 軌道予測によれば、その内1発が保護対象者の近辺に着弾する可能性あり!」
「そうか。では、迎撃開始!」
<アルタラス王国西部・パンドーラ軍革新兵器実験部隊司令部>
「試料番号19番、変色しました。アルタラス王国内務卿カイビィ・メーサンの殺害に成功したものと見られます」
「試料番号54番、変色。魔石採掘管理官ケズリヤ・ホルンが死亡したものと考えられます」
「試料番号5番、変色です。シアトラ公タメイラ2世が死亡したのかと」
「試料番号74番変色。陸軍中将ダグラー死亡です」
パンドーラ陸軍の砂色のシャツの上に白衣を着た者達が、軍用の天幕の下でカールスルーエに報告をしていく。
「30発発射の時点で標的の七割が死亡か。命中率240%だが、これは一撃で複数の標的が死んだからだな。どうかな? 少将。良いものだろう、私のシュティーアは。今頃ル・ブリアスは火の海だ」
一昨日のうちにル・ブリアスを抜け出してパンドーラ軍のアルタラス派遣部隊と合流していたカールスルーエは、自身が引き連れて来た部隊による実験結果を誇らしく思っていた。今日1日でアルタラス東部沿岸はパーパルディアの手に渡り、パンドーラの安全保障は酷く悪化していたが、そんな事は自分の新兵器の前では関係ないと彼は確信している。
「誠に結構な戦果ですな。しかし何故そんな紙ペラを見てそれ程の戦果を主張なさるのだ」
しかし元からアルタラスに派遣されていた部隊の司令官である、エスリンゲン少将は懐疑的だ。直前に彼の部隊は東部要衝での優位を失い、大幅に撤退しているのもある。自分達が時間をかけて築き上げたアルタラスでの優位が一瞬で崩れたのに対して、カールスルーエの部隊の攻撃は開始から十数分で大戦果を上げた。そんな事が信じられるかと言う話だ。
「魔法に興味をお持ちでない事はよく分かったが、君達に身近な物であれば、ドッグタグと同じ仕組みだ。毛髪や皮膚片から、その人物が生きているかが分かる。それは何も自軍の人間で無くても同じだ」
その説明に、彼はある程度納得したようだった。そうして話している間にも発射されていく巨大兵器が吐き出す業火に瞳を光らせた。
「私も軍人ですから、あなたの説明通りであれば、あの兵器がどれほど恐ろしい物かは分かります。アルタラス全土を射程に収め、人物単位で照準できる! まるで伝説に語られる魔法帝国の誘導魔光弾だ」
「或いは月神の第19使徒たるイブン・ジブリール・イルハイムが記した恐るべき異教徒の帝国、アムリーカの暗殺爆撃かも知れないねぇ。時に月神の使いに力を与え、時に月神の使いと争った世界を支配する大帝国。神話の存在だが、私は一歩近づいたのだろう。エスリンゲン少将、楽しみにしておくのだな。私の報復呪詛兵器1号が完成した暁には、ルディアスすらも始末して見せよう」
そう豪語するカールスルーエは、同時に学者や政治家、官僚、軍人など様々な立場で行動して来たが故に獲得した、分裂した思考で不安要素を考える。シュティーアは標的の体組織を形代として相手に呪詛をかけ、その実行手段として発射された魔光弾が不運にも標的の方は誘導されると言う仕組みを採っている。抜け毛程度では大した呪詛はかけられないが、近くにある魔光弾の動翼操作機構に干渉する事ぐらいは可能だ。そうであれば、毛髪さえ入手出来て仕舞えば射程内のどんな人物でも爆殺できる。だが、早々にそれが出来ない人物が発見されてしまった。いや、スキンヘッドの事では無い。朝田と言う日本人だ。
宿場の掃除人に金を握らせて侵入した清掃前の朝田の部屋。そこで入手した毛髪は、極々微量の魔力しか持っていなかったのだ。それでは呪うことも儘ならない。照準できない人間の候補としてフェン人を想定していたが、日本人も加えなければならなくなった。両国共に対パーパルディアで有用そうな国だけに残念である。
「やはりフジツボ型標的の開発を再開せねばならないのか?」
「どうされました、院長殿?」
「いや、問題無い。兵器の事を考えていた」
「頼もしい限りですな。お好きに思索を巡らされると良い。完成品の運用を楽しみにしていますよ。あと、ターラ15世があなたと話をしたいそうです」
<アルタラス王国軍司令部兼パンドーラ軍国際協力軍アルタラス派遣部隊司令部>
城を思わせる豪勢な天幕の中には、青い長髪が特徴的な、30代半ばのかなり長躯な男がいた。自らを正当なアルタラス王国の王であると主張し、父親にして僭王であるターラ14世を征伐するべく立ち上がったターラ15世だ。
一応そう言う体の存在だが、そんな事はターラ15世を名乗っている時点でお笑いである。彼は真にターラ14世の子であり、こうしてパンドーラ軍と行動を共にしているのも、父の指示による物であった。
「貴方が誉れあるパンドーラの学院長の一翼を担っておられるカールスルーエ殿か?」
「カールスルーエは私でございます、殿下。しかし学院長といえど、私の担う合成化学学術院は新参でありまして、その甍に積もった名誉と実績は如何程でも無く、学術院の柱を成す合成化学の強度も未だ試されておりません。故に殿下の期待にはお応えできないかも知れ無い事を予めお伝えさせて頂きます」
伸ばしたままの青い前髪越しにカールスルーエに鋭い目線を向けたターラ15世は、一瞬の後に軽く笑みを浮かべ、返答した。
「そう謙遜されるな。合成化学学術院に成果は俺も耳にした事がある。肥料の分野で革命を起こしたとか。肥料、農業とは国の要。加えてあの兵器。少なくとも貴方は一人の人間が受けるものとは思えない程の名誉と、それに相応する実績をお持ちだ。この戦争、勝てるのだろう?」
「それは勿論です。既に旧体制の要人を複数排除する事に成功しております」
「そうか……。良くやってくれている。パンドーラには感謝しているよ。勿論貴方個人への尊敬の念も感じている。そこで提案なのだが、あの新型魔光弾をこの地で生産する事は可能か?」
カールスルーエは予想の範疇であったとはいえ、そこまで踏み込むかと言う思いがあった。技術者もこちらに連れて来ているし、要の技術である魔導分離式燃料精製プラントも、燃費改善の実証実験を兼ねて駆逐艦に乗せて来ている。それを陸揚げすれば、シュティーアの生産は可能だ。魔石は近くの鉱山から接収すれば良い。やはり可能だ。技術流出は気をつける必要があるが、技術者達には対拷問訓練を施している。化学者には、拘束された状態で自決する才能がある。それに見ただけで仕組みが分かる人間はアルタラスには居ない筈である。重要な事は全ては燃料精製プラントのタンクの中で行われているからだ。
「可能です。技術移転は不可能ですが、アルタラスで我々が生産する事は出来ます」
「それは良い。我々も魔石や金属、石油などを提供出来るぞ」
それを横で見ていたエスリンゲンは大丈夫なのかと心配になっていた。技術流出の問題もあるが、最大の懸念点はそれが上の許可無しに行われようとしている事だ。この調子で有れば、シュティーアは多大な戦果を得るだろう。そうすると現地で生産していた事も明らかになる。この男は学院長であり、学連長選挙に1票を持つ政治家だ。だが彼の率いる実験部隊は名目上であれ自分のアルタラス派遣部隊の下にある。よって報告しなければならないのは私だが、上が許可するとは思えない。それでもカールスルーエはやるだろう。
中間管理職の苦悩である。その実態は、軍上層部と言う権力者と学院長と言う権力者に挟まれた緩衝材と言ったところ。今まで従順な部下ばかりで鍛えられて来なかったエスリンゲンの軟弱な胃袋は、ここに来て拷問を受けるのだった。
「もう一つシュティーアについてお願いしたい事がございます」
「シュティーアとはあの新兵器の事だったな。言うが良い」
「旧体制側の王族への攻撃を許可していただきたい」
要するにあなたの家族を殺して良いですか? と言う事である。ターラ15世は即答した。
「いよいよ敵の中核に迫るか。直ぐに始めてくれ」
『肉親殺しこそ、本気でやるべし』アルタラス王家に伝わる裏家訓である。長く国を治める一族はどこも歪みを持っているが、戦時家訓とも呼ばれるこれは、アルタラスの歪みである。当然表には出ていないが、これに基づいた殺戮はアルタラスの歴史と共にあった。
これはアルタラス王国が他国から嫌われる原因であり、繁栄している理由である。存続するだけならここまでやらなくて良かった。だが、繁栄まで求めると、一定以上の狂気が必要になる、そんな立地にアルタラスはあるのだ。
つまり、肉親を殺せるというのは、アルタラスの王族であれば基本有していなければならない能力であり、後継者にはそれを即断する事が求められる。ターラ15世は、カールスルーエと言う男がいる限り、パンドーラにも勝機があると感じのだ。ならばそれを確実にしなければならない。
その判断には、王城の財宝庫から持ち出した隠匿性の高い魔信器でル・ブリアス郊外の山に隠れた協力者と連絡を取り、新兵器の威力を確認していた事も関与する。パンドーラ・アルタラス連合軍は、パンドーラがアルタラスに協力すると言う形であり、行動の主体はアルタラス軍である。故に、現場で生産する事が出来れば、この新兵器を初めて本格的に運用した軍隊は、『アルタラス軍である』という事になる。これこそル・ブリアスを肉親ごと吹き飛ばしても得るべき事実であると言うのが、ターラ15世の決断であった。
ちなみに月神の使いが来訪する前のアルタラス王家はこれほど冷酷ではなく、寧ろ情に熱く肉親を大切する伝統があったと言う。しかし月神の使いが彼らの戦車を解体して新たに組み上げたボート、そしてそれに端を発する動力を積んだ船舶の普及は、アルタラスを守って来た海という天然の防壁を巨大な道路に作り替えてしまった。それ以降アルタラスは紛争の舞台となり、同時に紛争を友として繁栄する術を獲得する事になったのだ。
<ル・ブリアス市内・エーケー47通り>
みょうこうの停泊する埠頭へ向かっていた朝田が見たのは、地獄であった。
銀行は崩れ去り、そこら中に散乱するズタボロの紙幣が非日常を演出しており、辺りに溢れる負傷者の真っ赤に染まった衣服が風景に彩りを与えている。瓦礫に潰された犠牲者や、爆発でバラバラになった持ち主の分からない手足はメメント・モリを無粋なほど直接的に表現していた。
一瞬の驚愕で失っていた聴覚を取り戻すと、辺りに響くのは悲鳴と轟音。音を置き去りにして飛来するミサイルは、やはり死は唐突に訪れると再確認させてくれる。
余りの衝撃に朝田は少々倒錯的な表現を経て、数秒掛けて取り敢えず現実を受け止めた。崩れた建物と言うのは遠くから見ていたが、これほど近くまで寄ったのはこの時が初めてだった。
朝田は少し離れたところにミサイルの部品のような物を見つけた。思わず近づこうとすると、みょうこうへの道を案内していた自衛官に止められる。
「朝田さん、近づかない方が良いです。ミサイルの燃料には有毒な物もありますから」
「わ、分かりました」
その途端道の通りの反対側の建物が爆発した。自衛官は朝田を抱えて大きな瓦礫で出来た物陰に飛び込む。何とか破片に当たらずにやり過ごせたが、その物陰には先客が居た。姉妹か母娘か、片方は意識を失っている。今までも怪我人が通り中に溢れていたが、ここまで近くで見るとどうにか出来ないかという焦燥感を実感した。そうしてみると、同じような感情を今までも案内役の自衛官が感じていた事が分かった。
「急に飛び込んで来るな! こっちは怪我人が居るんだ!」
「すみません。ぶつかっていませんか?」
「当たっちゃいねぇが危ねえもんは危ねえだろ。爆発も収まったんだ早く出て行け!」
意識のある歳上の方が怒鳴ってくる。朝田自身も彼女の上に落ちたら大変な事になっていたと反省した。そうならなかったのは自衛官の方が気をつけていたのだろう。そして彼女はそれきりこちらを見向きもせず気絶している方の心臓マッサージを始めた。
そこで朝田は、その自衛官が救急救命の知識があると話していた事を思い出す。
「蛇杖さん、彼女達の治療ってここで出来ませんか?」
「そうしたいのは山々ですが、ここは貴方の収容を優先しなければなりません」
蛇杖──自衛官の方も苦しそうな顔をする。
「ここまで来れば私一人で行けます」
「しかし先程のような事があれば大変なことになります。日本人が、それも武装していない外交官が死亡すると言うのはどうしても避けたい」
新世界に来てから、日本人の死者はもう既に出てしまっている。だが、全員自衛官だ。自衛官なら死んで良いという訳では全くない。だが、民間人に犠牲者が出る前に攻撃者を排除できたと言うのは、政府にとってせめてもの救いだった。これは自衛隊にとっても同じだ。いや自衛隊が1番それを感じていた。死ぬかもしれないと分かってその仕事に就いている人間が死ぬのと、死など考えずに平和に暮らしている人間が死ぬのでは、悲劇の度合いが違う。少なくとも、自衛官の方ではそう思っていた。
「彼女達は武装していない一般市民だ。私と変わらないじゃないか」
「我々自衛隊は日本を守る為の組織ですから、日本人が最優先です。それに石垣島の件で、国民の対パーパルディア感情は最悪だ。国民が見たパーパルディア人はテロリストとそれを擁護する軍人だけです。国民は彼らを明らかに軽蔑している。そこにパンドーラという国が外交官を爆殺したとなったら、その軽蔑は新世界全体に及びます。少なくともこの世界で日本は類い稀なる倫理観を持っていて、そしてそれは力無き正義などではありません。恐らく日本はこの世界で飛び抜けている。この上新世界への軽蔑が加われば、きっと孤独な道を走る事になります。だから、あなたは絶対に死んではならない!」
朝田は水を浴びたように冷静になった。正気を取り戻すとは、こういう事だろう。特に後半の部分は外交官こそ考えなければならない事だ。そういう所に意識が回らなかった事を恥じる。
「すみません。考え無しでした」
「いいえ、私もあなたの熱意に共感しています」
そうすると、彼はリュックからAEDや包帯を取り出し、心臓マッサージをしている女性に声を掛けて渡す。
「電気で心臓をねぇ。理論はまあ分からなくは無いけどな。貰っておくよ。そうだ、あんたどこの者だ? 軍人サンよぉ」
心臓マッサージは継続しながら彼女は質問した。
「日本国海上自衛隊第3護衛艦群所属の護衛艦みょうこうの船員です」
「なんか守るって感じだな。それにしてもそのマーク、……良いマークだな、太陽神の使い殿」
「?」「?」
蛇杖の制服に付けられた旭日旗を見て放った言葉に、日本人達は困惑する。
そして彼らは物陰から飛び出しみょうこうへ急いだ。
日本国召喚でのF-Xは2040年、中央暦なら1664年に制式採用されて欲しい。皇紀2700年という意味で。
まあ現実のF-Xには紅茶とパスタが混入するっぽいですが。
時代は無人機! 僚機として航空パンジャンを採用する! 空飛ぶスパゲッティモンスターもだ!!
いや、スパモンはアメリカか。