ゲリラの溢れる異世界へ、日本国召喚。   作:ペジテ市民A

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血脈[2]

≪中央暦1639年8月8日≫

<ル・ブリアス港・護衛艦みょうこう>

 

 朝田達がみょうこうに乗り込んだ時、艦内では閉じ込められた技術者の救出作戦の準備が進められていた。

 

「朝田さん、無事で何よりです。陸に残る日本人はあと1人。彼の救出ができ次第、出港しようと思います」

「隊員の方には感謝しています。彼が居なければ私は戻って来れなかった。ミサイルの迎撃についても、素早い判断ありがとうございます」

「いえ、私どもの任務は使節団の方々の保護ですから、任務を遂行したまでです。貴方の近くにも着弾があったそうですね。それについては迎撃出来ず申し訳ない」

 

 艦長の海原は朝田が帰ってきた事に安堵し、救出作戦に集中出来ると言った。

 

 暫くして、ジャッキやバール、シャベルなどを持った自衛官数名と担架などを持った医官が陸に降りて救出に向かう。みょうこうはその間も定期的に王城へ降り注ぐミサイルを迎撃し続けていた。そのうちミサイルが飛んでくる場所が王城付近に限られて来た。これに艦長は何らかの方法で攻撃者はル・ブリアスを観測しているのではないかと乗組員に周囲の山を観察させだが、特に怪しい人間は確認されず、居たのは山へ避難している市民や燃える都市を見つめる杣人などで、不自然な軍人などは居なかった。

 

 乗組員達は飛来したところをすぐさまファランクスで迎撃されたミサイルが空中に咲かせる爆炎を見ながら考える。

 

「ミサイルの脅威はこの世界にもあるのか」と。

 

 軌道から見てもそこまでの射程は無い。しかし、ミサイルと言う概念があるのなら、今後十数年で大陸間弾道ミサイルまで発展するのでは無いか。そう言う懸念は、ここに居る誰しもが感じていた。

 

 

 

 

<アテノール城付近≫

 

 アテノール城は、アルタラス王の居城として数百年の歴史を持っている。繁栄時には増築改築が繰り返され、混乱期にも崩れ去る事は無い。その様は年輪を刻む大樹の様であり、アルタラスの栄華を表すル・ブリアスの象徴であった。

 ただここ十数年ほど、外観に変化が無い。史上最も栄えたと言って良い何も関わらずだ。これを見て今の王はケチだなんだと噂されているが、事実とは違う。彼は王城の地下部分の拡張に資金を割いていたのだ。

 

「これ程簡単に罅が入るとは!」

 

 その王は今、地下に造営された司令部でパラパラと降り注ぐ石壁の破片を払いながら怒鳴っている。大陸で大砲が発達したのはここ数十年の話だが、若かりし頃のターラ14世が大陸視察の合間に垣間見たパーパルディアとパンドーラの全面衝突は、要塞愛好家だった彼の心を圧し折るものだった。何しろこの目で見られた事に感激し崇拝すらしていた大要塞が、大砲でボコボコにされたのだ。その後砲撃に対抗出来る要塞なども建設されたが、心の傷は治らず彼は大砲恐怖症と要塞軟弱説に支配されてしまった。

 その結果がこの地底要塞であると言うのに、より強力な新型の砲撃か何かのせいで崩れ掛けている。これは彼にとって我慢ならない事であり、トラウマを嫌でも思い出して怒り狂っているのだ。

 

「お父様! 崩壊しているのは要塞の浅部です。深部はまだ耐えられます」

「ルミエス、駄目なのだ。要塞とは数多の攻撃を受け止めてなお無傷、そうでなければならないのだ。一部でも崩れる要塞は崩れ去る。要塞とは……要塞とは無敵でなければならないのだ!」

 

 王女ルミエスは結局のところ根っからの城好きである父の狼狽に呆れる。だがそれどころでは無い。少し前から近くには落ちていないが、敵の攻撃の威力は絶大。遠くに着弾しても、部屋を揺らす程の力がある。

 

「ほらお父様、少し前から攻撃は止んでるではありませんか。お父様の要塞が耐え切った証拠ですよ」

「いや、まだ爆発音は続いている。一先ず攻撃対象から外れたに過ぎぬ。……だいたい何なのだパーパルディアは! 国土を紛争の為に貸してやってるのだからちょっとは神妙にして、我々を避難させるぐらいすれば良いのだ。外務卿も内務卿も大蔵卿も陸軍元帥も死んだ。有力貴族も商人も全員だ。これではアルタラスは滅びる! それなのに王族1人を奴らの船に乗せると言う提案すら蹴ってくる。奴らはアルタラスを滅ぼす気だ!! 併合する気だ! その為に我々を邪魔者扱いしてここでパンドーラに爆殺させる気なのだ!! ……これではアトリ、いやターラ15世に期待する他あるまいか……」

 

 ターラ14世の叫びを日本人が聞けば、コイツも大概悪政者じゃ無いかと思うかも知れない。聞きようによっては国民が犠牲になろうと構わないと言っているようであるし、自分達だけ生き残れば良いという風にも聞こえる。だが、これをアルタラス国民が聞けば、それはそうだと感じるのだ。

 

 アルタラス王に求められる事は何か。それは独立の維持である。ここまでは普通だ。しかしそれが求められる理由が歪だ。

 

「アルタラスが独立している場合が、1番利益が出るから」

 

である。

 

 アルタラス国民には、度重なる紛争と偽りの中立を利用した繁栄が染み付いている。どうにかして独立を保ち、他国の干渉を避け続けた結果の繁栄が、時が経って繁栄の為に何もしてでも他国の干渉を避けると言う風に変化した。何故アルタラスが他国の干渉を避けなければならないかと言えば、理由は魔石採掘にある。

 

 他国がアルタラスに干渉する理由の殆どは魔石目当てだ。干渉した国々は、魔石を大量に独占するべく行動し、魔石採掘は国主導になる。魔石を1番消費するのは軍だからである。結果としてアルタラスの民間への利益は減ってしまい、利益が減ればその分アルタラスは衰退する。繁栄中毒のアルタラス人は、衰退を断じて許さないのだ。

 

 故に、アルタラスは独立し他国の干渉を可能な限り排除せねばならない。少しでも干渉が減るなら、率先して降伏する事も王の仕事であるとアルタラスでは考えられている。

 

 だから先程のターラ14世の言葉を聞いても、

 

「王は仕事をしたのに、パーパルディアはそれに応えない。パーパルディア! 何という不誠実!」

 

と怒りを共にし、

 

「それでもパンドーラ側に王子を送り込んで保険を掛けておく王様流石!」

 

となるのだ。結構頭がおかしい。

 

 しかし、この構造にも綻びが見え始めていた。

 

 きっかけはパーパルディアが新たな技術を実用化し、高性能燃料に魔石を使用せずとも良くなった事だ。このおかげでパーパルディア軍の魔石需要は減り、アルタラス内ではパーパルディアは魔石鉱山の国有化をしないのでは無いかと言う見方が唱えられ始めていた。

 

 これはアルタラスは干渉を避けなければならないという国家の原則的な考えに穴を開けるものだが、これに賛同する者も現れ始めていたのだ。

 

 それがパーパルディア軍がたった1日でアルタラス東部沿岸地域を確保出来た理由である。

 

 この流れを見切れなかった事が、現在ターラ14世達がパーパルディアに見捨てられて爆撃にさらされている原因だ。パーパルディアには、アルタラス王家を排除したところで傀儡政権を作るあてがあったのだ。

 

「パーパルディアめぇ、いよいよもってその醜悪な領土欲を表しよったなぁ!! あんっの馬鹿国家なんぞ聖誕祭の夜に崩壊してしまえ!」

 

 王は古い慣用句を使ってパーパルディアを呪う。その時、天井が大きく崩れ、何かが、いや誰かが落ちて来た。

 

「むっ誰だ!」

「グハッ、ああ! 痛ったぁ。……うん? あれ。すみません、ここ何処ですか?」

「曲者だ! 捕らえよ!!」

 

 

<アテノール城外>

 

「状況が変わった? 一体どういう事ですか」

「入口が崩れたから、奥の方へ進んで外に出られないか色々試していたらね、床が抜けて王様の上に落下しちゃったんですよ。それで今首筋に剣を添えられています」

「だ、大丈夫ですか、それは」

 

 瓦礫の散乱した道を進んで幾らばかりか、ようやく基礎しか残っていない王城の外までたどり着いたところで、救助対象である堀山氏から無線があった。その内容に驚いて救助班のメンバーが問い掛けると、応えたのは堀山氏では無く、女の声だった。

 

「直ぐに処刑するつもりは無い。戦時の特例として陛下が恩赦を下された。して、貴様らはこれの迎えか?」

「はい、彼を救助しに来た日本国海上自衛隊です」

「ふむ、海兵か。よろしい、今迎えの兵を出す」

 

 しばらくすると近くの床が跳ね戸の様に開き、アルタラス軍の兵士が恐る恐る這い出て来た。

 

「急いで入れ」

「はいっ」

 

 救助班全員を中に入れるのは時間がかかる為、そのうち2人が駆け込み残りは外で待機ということになった。その時、空に飛び散る対空砲火が飛んで来たミサイルを破壊する。

 

「砲撃が撃ち落とされた!?」

「ええ、そうです。海上自衛隊の護衛艦、みょうこうがミサイル攻撃を迎撃しているんです」

「!! 詳しい事は中で聞く! 直ぐ入れ」

 

 驚きを隠せ無いアルタラスの兵士は、自分より偉い人間に説明させると言うベストな判断をした。

 

 

 

<アテノール城地底要塞>

 

 自衛官達は、所々崩れたくねくねと折れ曲がった狭い通路を通り抜け、王の部屋らしき場所に案内される。

 部屋の中にはターラ14世の他に、無線で会話した女と思しき女騎士や、王と何処か雰囲気の似た若い女、ハゲた軍服の男にメイドなどがいる。そして部屋の真ん中に縄で縛られた肥満気味の日本人がいた。彼が技術者の堀山氏だろう。自衛官は王様の上に落ちてよく許して貰えたなと思ってしまった。

 

「君達が日本の兵士だね? 色々聞きたい事があるが、まず初めに。我が城に対する攻撃を防いでくれた事に感謝する」

「いえ、我々が行ったのはその自国民の保護です。偶然この城が近くにあったに過ぎません」

 

 王の言葉に少々面食らったが、変な勘違いをされない様に訂正しておく。

 

「それでもこの城への攻撃を防いでいたのは事実だろう? 私も部下から聞いた。君達の軍艦がパンドーラの砲撃を吹き飛ばしたとね。それほどの軍事力を持つ国家と国交がないと言うのは、我が国にとって不利益である。よって、外交官一名を貴国へ派遣したい」

「外交官とはどなたでしょうか?」

「そこに居る我が娘ルミエスだ。外交官としての実績もある」

 

 こんな状況でやる交渉とは思えないが、日本人が拘束されている状況では話ぐらいは聞かないとまずい。救助班は、取り敢えずみょうこうへ連絡する事にした。

 

「すみません、上官に連絡を取ります」

 

 自衛官の片方が無線が聞き取りやすい様に道を戻ってある程度地面に近いところまで登る。もう片方は拘束された日本人に何かされない様にその場に残った。

 

 

 

 

<護衛艦みょうこう>

 

「どう思います? 朝田さん」

 

 救助班の報告に朝田は考え込んでいた。外交官の受け入れについてこの場で判断できるのは彼だけだ。新世界には通信衛星も海底ケーブルもない為、みょうこうは本国と連絡を取れていない。無線も電離層の調査が進んでおらず使い物にならなくなっている。それ故に使節団方式にして、彼らに権限を持たせているのだが、この外交官受け入れの提案はその限度を超えている様にも思える。これは実質王族の亡命だからだ。しかも王女であり、こちら側のアルタラス王族としては、ターラ14世を除けば唯一であるらしい。ターラ14世が死去する事があれば、彼女はアルタラス王として即位するだろう。戦争当事国の最高司令官候補を受け入れていいものか? とにかく外交的にも重い判断を朝田は強いられているのだ。

 

「篠原はどう思う? 私は受け入れるつもりだ」

 

 朝田は考えを纏めつつ、補佐の篠原に意見を問う。

 

「私もそうするべきだと思います。リスクはありますが、メリットもあります。手札として持っておいた方が良い。それにアルタラスの王族はパーパルディアの保護を受けていた筈です。救出すれば関係改善に繋がるのではありませんか?」

「パーパルディアか。とてもまともな国とは思えないがな」

「それでも、大国には間違いないですよ。パーパルディア政府の公式発表ですが、皇国連邦全体の人口は2億1000万人、総兵力で70万人と言うじゃないですか。無視できる国力じゃありません」

 

 朝田は嫌そうな顔をする。

 

「そうなんだよな。それに石垣島の事件からも分かる通り、日本に対して攻撃する事は可能だ。情報不足の中での検証だが、パーパルディア軍の一斉上陸を完全に防ぐのは弾薬の問題で難しく、小規模でも陸戦が起こる可能性が指摘されているそうだよ。だがパーパルディアへの引き渡しという事になるのはな」

「まあそれは後の話ですよ」

「そうだな。しかしそもそもアルタラスに侵攻したのはパーパルディアだ。それを忘れるなよ。日本は連れ帰った外交官を根拠にアルタラス王国の独立尊重を支持すべきだろう。それは議員達が決める事だが。……艦長、向こうの提案を受け入れる様に伝えて下さい」

 

 

 

 

 

<アテノール城地底要塞>

 

「ルミエス、日本国はお前の派遣を受け入れるそうだ」

「私だけ逃げるというのは……」

 

 自衛官から朝田の決断を聞き、ターラ14世はルミエスに語りかける。

 

「これはアルタラスの血脈の為だ。ターラ15世にも期待出来るが、仮にパンドーラ方が勝利すればパンドーラが我が国に持つ影響力は増大する。そうでない可能性も残しておくのが王族の仕事だ。お前にはこれを渡しておく」

 

 そう言って王が差し出したのは一丁の拳銃だった。

 

「これはっ!」

「そうだ。月神の使いの9番目、アーラシュ・イスカンダル・バフティヤールのサイドアームであるマカロフPMのオリジナルだ。これがあれば、王として即位した時の正統性が上がる」

 

 ルミエスは受け取った聖遺物とも言うべきマカロフを厳重にしまい、荷物を纏めて出発の準備を整えた。

 

「日本国の方、私の護衛としてリルセイドを同行させて宜しいでしょうか?」

「護衛の同行は良いと言われております」

「そうか。リルセイド君、ルミエスを頼むぞ」

「はいっ! 光栄であります」

 

 堀山の拘束も解かれ、アルタラス人2人が加わる事になった一団は、いよいよ地底要塞を去る事になった。

 

「お父様! 私は日本でアルタラスがどこにも干渉されない真の独立国になる術を学びます。そしたら、アルタラスへ帰って来ますよ」

 

 ルミエスの瞳には涙が滲んでいた。

 

「そうしなさい。『アフガンを攻める』という言葉もある。『どんな国でも、その特性をよく理解すれば、大帝国を滅ぼすというような大きな事でも成し遂げられる』という意味だ。ルミエス、お前がアルタラスの進むべき道を見つけるのだ。その為に、日本への渡航は役に立つだろう。行って来なさい」

「はい! 絶対帰って来ます!」

「うむ、約束だぞ」

 

 こうして親子は別れた。しかし、それは大河が二つに分かれたに過ぎない。そこに流れる血の源流は等しく、目指すところも変わらない。アルタラスの血脈は、誰か1人が次へ繋げれば良いという精神で数多に分裂し、大多数は干上がり絶え果てて来た。今回もそれらと同じ事。

 それでも、別れは悲劇であり、出発である。アルタラスと日本の関係は、彼女の渡日によって真に始まったと言って良いだろう。タラップを越えてみょうこうに乗り込んだ彼女の一歩は、ニ国にとって始まりの一歩であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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