具体的には9話に出て来たパンドーラのヤマ型駆逐艦を巡洋艦に変え、12話冒頭の艦隊の構成を変化させています。
これは全体の設定を考えた時、巡洋艦と呼んだ方が良さそうだと考えた為です。気になる方は9話及び12話をご参照ください。書き換えてあるので。
≪中央暦1639年8月11日≫
<パーパルディア海軍航空母艦ワーグナー>
パーパルディア皇国連邦海軍、第二艦隊総司令官バーンは、旗艦ワーグナーの艦橋で指示を飛ばしていた。
「とにかく上げろ! 偵察機の発艦は終わったか? ニーベルングからの報告がまだだが」
「ニーベルングからの報告です。エンジンの故障で出せないと」
「それならガルガオンから出させろ。どうせ戦艦の仕事はまだだ」
「了解しました」
バーンは続けて甲板に指示を出す。
「爆撃機が優先だぞ! 戦闘機はまだ必要か分からん。敵の偵察機は南東からだな。元々タンホイザーから発艦した偵察機があっただろう。報告は無いか?」
「最後の報告は定期報告時の"敵影見えず"です。報告する様に指示しますか?」
「いや、こちらの状況が察知されると不味い。定期報告まで待て」
「はっ!」
空母ワーグナーでは第1攻撃隊分の発艦が完了し、僚艦のアビスでも殆ど発艦し終えた時、バーンは小さく呟いた。
「パンドーラ艦隊はジン・ハークに行くと思ったのだがな」
「スパイの報告によれば、敵艦隊がファンドルフを発ったのが先月25日です。とすると既にジン・ハーク沖に到着している予定でしたね」
副官がバーンの独り言を拾って言った。
「在シオス飛行隊が捕捉出来ないでいるという報告から、こちらでも偵察機を飛ばしていたが、こんな所で接敵するとは。途中で目標を変えたのだろうか」
「シオスへの攻撃ですかね?」
「流石に無いだろう。それをすれば事態のエスカレートを招く。パンドーラにも理性がある筈だ」
フィルアデスの平和は薄氷の平和だ。総力戦が出来るほど国内が安定していないからこそ、冷戦の様な状況が出来上がっていたのだ。パーパルディア皇国連邦とパンドーラ連合公国の2カ国が、総力戦に耐えられる国家に進化した現状、フィルアデスの平和は恐怖の余波に過ぎない。
パーパルディアの陸海軍で前線に立つ者達が常に気を付けている事は、皇帝の意図しない時に薄氷の平和を踏み抜いてしまわないか、だ。
もっとも、パンドーラ軍が同じ危機意識を持っているかは別であるが。
「本国への詳しい報告を行う。通信室に暗号化の準備をさせろ。ああ、君には文書のタイプをやってもらう。私が言ったことをそのままタイプする様に」
「はっ!」
バーンはパンドーラ艦隊の意図を考えた。この艦隊を狙ったものなのか、いや、この艦隊と比べればジン・ハーク救援の方がずっと重要だ。パンドーラの国際協力軍ロデニウス派遣部隊の撤退に成功すれば、本国の兵力と入れ替えてアルタラス派遣部隊に増援を送る事が出来る。
つまり、ジン・ハーク救援が遅れてでも行うべき作戦という事だ。そこまで思考して、副官の指摘に戻り、それに対して自分が言った事へと回帰した。
シオス攻撃しか無い。在シオス・パーパルディア軍基地を破壊する事が出来れば、この海域での勢力図は一変する。アルタラス沿岸部を抑えているとは言え、基地として活用出来る状態には無い。ロデニウスにはパーパルディア海軍が使用するのに十分な設備を持った港は無い。シオスが使えなくなればこの海域においてパーパルディア海軍は機能不全に陥る!
パンドーラが事態のエスカレーションを許容して、より挑戦的な行動に出るとすれば、こちらが相手の理性信頼していると出し抜かれてしまう。寧ろ、パンドーラの狙う所はそこだろう。
バーンがパンドーラの行動にある程度納得の行く理論を当て嵌めた時、艦橋に偵察機からの報告が入った。
「タンホイザー発の偵察機より報告! 地点2のⅡにてパンドーラ艦隊を発見したのと事。編成は戦艦2、戦列艦14、巡洋艦8、駆逐艦10! また、艦隊から離脱する輸送艦が30隻以上。それに随伴する駆逐艦が2隻。以上です」
それを聞いたバーンは、報告すべき事が増えたな、と思った。
──(前略)バーン中将の報告に関する海軍省情報部による分析報告書について報告する。(中略)以上の理由から、パンドーラ軍が上陸作戦を計画している可能性は高いと報告している。また情報部は、シオスを筆頭にアルタラス、ロデニウスにおいても海岸警備を強化するべきであると言うバーン中将の提言を肯定的に評価しており、シオスが最も注意するべき地域であると言う指摘についても、適当であると報告した。(中略)また、海軍省作戦部が海岸警備を強化せしめる為の計画を立案した事を報告する。詳細は同送した作戦案を参照されたし。ここでは概要のみ記載する。先ず、即応的には(後略)
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<パンドーラ海軍戦艦リ・アール>
同時刻、パンドーラ海軍第二艦隊は戦闘部隊の陣形を整えてながら全速力でパーパルディア艦隊へと接近していた。
「敵には空母がいる。まず距離を詰める事を考えろ! それは戦艦も戦列艦も巡洋艦も駆逐艦も、皆同じだ!」
第二艦隊総司令官のホンネフが戦闘部隊を激励する。
リ・アール級の主砲であるリグリエラ・ビサンズ社製305mm砲にしろ、ヤマ型巡洋艦の主砲である155mm砲にしろ、標的から10000m以内に近付かないと当てるのは難しい。
海軍で最も勇敢な者が配属されると言われている戦列艦に至っては、3000mで漸く交戦開始だ。
戦列艦の戦いは、陸軍軍人が「塹壕戦の様だ」と評する程で、戦列艦の銃手達は敵艦を後方から狙い撃つ巡洋艦を「海戦の女神」と呼んでいる。
パンドーラ第二艦隊には居ないが爆裂艦も同じ様な戦闘方法であり、其方は射程が多少長い分安全であるとも、噴煙で灼熱地獄であるとも言われている。
とにかく、空母を持たない艦隊の戦法は、まず第一に接近する事から始まるのだ。
「この速度なら、2時間程で交戦開始だ。それまでは対空警戒を第一に、高速戦闘艇への警戒も緊密にする様に」
パーパルディアの艦上爆撃機が襲来すれば、パンドーラ艦隊は対空砲の弾幕に期待するしか無い。AK-47で敵機を撃ち落としたと言う伝説も相まって、何でもかんでも敵機の方へ撃ち込んで当たる事を祈るのだ。
当然そんな戦いは誰もしたく無い。パンドーラ艦隊にとってこの状況は悪夢であり、こちらが先に発見出来ただけまだ救いがあると言う状況なのである。
「しかし、学院連合の連中は素人だとして、作戦部は何を考えているのだ。シオス攻撃は確かに大きな効果が見込めるだろうが、ジン・ハーク撤退戦が先じゃ無いか。
ホンネフの悩みは尽きない。この海戦だって壊滅を覚悟する必要があると言うのに、シオスのセイユ軍港を襲撃し、その後ジン・ハークの国際協力軍を救援する? そこまでさせたいなら空母を寄越せ! いや、第一艦隊にやらせろ! そう作戦部に怒鳴り付けてやりたい衝動をホンネフは幾度となく感じていた。
「この海戦が終わったら、セイユ軍港襲撃は取り止めにするべきだと報告しよう。はぁ」
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<第1攻撃隊>
空母ワーグナーの飛行隊長ラカミは、キャノピー越しにネイビーブルーの翼を見ながら武者震いしていた。
彼の乗機は最新鋭の急降下爆撃機であり、公式愛称はアン=ナスル・アル=ワーキァ。「降下する鷲」と言う意味だ。通常、それをつづめてアル=ワーキァと呼ばれる。
アル=ワーキァの誕生は世界の軍事関係者を驚愕させ、特にマリンを完成させたばかりだったムーは危機感を感じたと言う。
ムーも第3文明圏で入手した自動車エンジンのリバースエンジニアリングによりエンジン技術や過給機の研究などが進んでおり、マリンも最高速度ではアル=ワーキァに優っている。しかし、ムーはアル=ワーキァと同等な急降下爆撃機を開発出来ておらず、その上マリンとも充分に空戦出来る航空機の登場にムーの上層部は震撼し、すぐさま新型機の開発を命じる程であった。
ラカミはそんな世界を震撼させた名機を駆ってパンドーラ艦隊を撃滅出来ることに歓喜し、誇らしく思った。そしてその感情を込めて部隊を激励する。
「相手はパンドーラだ。近付けば弾幕の嵐だろう。……だが、それがなんだ! アル=ワーキァは硬くて速い! 大嵐に突っ込んでも帰って来る世界最強の急降下爆撃機だ。直掩機の居ない艦隊なんて、この第1攻撃隊だけで壊滅させられる」
部下達の咆哮が魔信越しに響く。
「俺達の標的は戦艦、巡洋艦、戦列艦だ。ここでまず護衛を破壊する! そして続く第2攻撃隊が輸送艦を叩く。おいしい所は全部持って行くぞ!」
まもなく、ラカミの鷹の様に鋭い目が、水平線に現れたパーパルディア艦隊を捉えた。
既に辺りには黒煙が雲の様に漂っており、それは爆発と共に増え続けていた。
「戦闘開始! 第1飛行中隊は俺に続いて戦艦を狙え! 第2中隊は巡洋艦だ。第3中隊は戦列艦だ。第3中隊が懸吊しているのは軽量爆弾で合っているな? ドンス中隊長」
『間違いない。皆発艦前に確認している』
「なら問題ないな。近接すれば戦列艦の対空砲火が1番猛烈だ。分かっているだろうが、素早く離脱する様に」
『勿論だ』
攻撃隊はもう大分艦隊に接近していた。
「各機の攻撃対象は中隊長が指示せよ。では、武運を祈る。皇帝陛下に勝利を! 」
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<第1攻撃隊第1中隊>
「第1、第2小隊は先行する艦を狙う。第3、第4小隊はもう一隻の方だ。降下は全機同時。標的はリ・アール級2隻と推定。離脱後戦果報告時に伝えろ。第3、第4小隊の指揮はバルオス小隊長に任せる」
『了解しました』
ラカミの機から第3、第4小隊の6機が離れて行く。
ラカミ機に追従する6機が先行するリ・アール級──ラカミ達は把握していなかったが、旗艦リ・アールである──にはっきりと針路を定めると、より一層対空砲火が激しくなった。
ラカミは足元の窓からリ・アールの位置を確認した。
「反転急降下ァ!」
ラカミは後席に座す銃手シウロに合図し機体を横転させる。
シウロは次々と急降下を始めるアル=ワーキァの美しさに感動しつつも、上空の警戒を続けた。敵艦隊に空母が含まれていなかったとしても、空母が別行動している可能性や、陸上基地から飛来して来る可能性は無視出来ない。敵の戦闘機と空戦になった時、追い縋る敵を撃ち落とすのが彼の役目なのだ。
「ダイブブレーキ、展開ッ!」
ラカミの操作でフラップが開き、機体の速度が抑制される。
直後、第1小隊の3番機が爆発した。主翼を捥がれながら逸れて行く。
「クソッ!! パレル機がやられたかっ!」
ラカミは怒鳴りながらも、リ・アールを照準に収めようと操縦桿を動かす。ラカミの怒声は魔信を通じてリ・アールを狙う5機全てに伝わった。彼らの代わりにラカミが代表して怒鳴ったと言う部分もあるのだろう。
「──ここだっ、爆弾投下ァ!」
ラカミの咆哮の様な合図と同時に機体が軽くなる。ラカミは操縦桿を引いて機体を起こし、全速力で離脱する。
シウロは「何もしないのは」という事で対空砲火を浴びせて来るリ・アールに銃弾をばら撒く。機銃手を幾らか負傷させられたかな、と言う程度だが。
機体が完全に起きた辺りで、リ・アールで大爆発が起きた。周囲でも水柱が上がっている。
「シウロ! 戦果確認をする。距離を取りつつ全景を確認したい」
「8時の方向は戦列艦群が居る。そっちは避けるべきだ」
「了解だ。ああ、それと」
ラカミは魔信で攻撃隊全体に通達した。
「各中隊、攻撃は終わったか? 各機はまず離脱しつつ、中隊長に機体の状態を報告。中隊長は戦果及び被害の確認と報告。中隊長が報告出来ない状態にある場合は、代理を決めろ。」
そうすると直ぐに第1中隊の各機が報告して来た。
「そうか、ネッテ機もやられていたか。そして標的は大破。十分良くやった」
ラカミが第1中隊の戦果、被害を把握すると、今度は中隊長からの報告が入った。
『ドンスだ。第3中隊は3機やられた。撃沈は4、大破が2。いや、もう一隻沈んだな。撃沈5大破1だ』
「了解。隊を率いて帰投せよ」
『こちらイズノル、第2中隊は撃沈2、大破1、中破2だ。被害は2機。加えて燃料漏れが1機居る』
「了解。その機は優先して帰投させよ」
ラカミ機は艦隊から幾らか距離を取ると、高度を上げた。
「俺達が狙った戦艦は、撃沈で良さそうか?」
「恐らく。あれだけ傾けば、もう駄目だろう。僚艦の方も、機関付近が爆発していた。大破で間違い無さそうだ」
シウロの回答にラカミは頷いた。
「では、離脱する」
パーパルディアの攻撃隊はパンドーラ艦隊から離れて行く。生き残ったパンドーラ艦隊の水兵が、それを苦々しげに睨みつけていた。
アン=ナスル・アル=ワーキァは大体ドーントレスです。勝手にそれっぽくなっただけ、と言う設定では有りますが、外見、性能共にドーントレスみたいな物と思っていただければ。