≪中央暦1639年8月11日≫
<パンドーラ海軍巡洋艦ノーケカイ>
パンドーラ海軍第二艦隊の総司令官ホンネフは、移乗した巡洋艦の艦橋から、真っ黒な波間に炎上しながら沈み行く艦隊の旗艦リ・アールを眺めつつ、艦隊の状況について報告を受けていた。
ホンネフは被害の甚大さに、良くこんな日没寸前に急降下爆撃などやったなと、敵ながら感心という様な気持ちになる。もちろん、この暗闇で7機も撃墜した味方への敬意の方が勝るが。
「では、リ・ゾートヴァイトは戦えるのだな」
「はい。艦長はその様に報告しています」
パーパルディア艦隊には戦艦が居る。空母無しに戦艦と戦うには、やはり戦艦の戦力が必要だ。リ・ゾートヴァイトが戦闘可能と言うのは、その点心強い事だった。
「ビンゲン大佐、大佐から見て、リ・ゾートヴァイトは戦えるか?」
ホンネフは共に脱出して来たリ・アールの艦長、ビンゲン大佐に尋ねた。
「可能、ではありましょう。後部砲塔は完全に破壊されておりますが、火薬庫への誘爆は起きておらぬ様です。煙突近くへの弾着も、派手に爆発した様ですが、機関は奇跡的に復旧されたと。ならば、戦えます」
そう言いながらも、ビンゲンは乗艦を失った悔しさを隠せないでいた。
「では、リ・ゾートヴァイトは付いて来させよう。戦闘可能な艦は敵艦隊へ前進を再開せよ。駆逐艦2隻は負傷者を乗せて輸送艦群と合流する様に」
ホンネフの指示でパンドーラ艦隊は動き出す。暫くすると戦闘不能となった艦水平線の向こうに去っていった。勿論、見張り台からは見えていたが、甲板の水兵からは見えなくなり、次はこちらの番だと言う意識に切り替わっていった。
「戦えるのは22隻か。戦艦1、巡洋艦5、戦列艦8、駆逐艦8。明らかに劣勢だ。空母を潰し、離脱する。これが目標になるだろう」
ホンネフは魔信で戦闘可能な21隻に呼び掛ける。
「この海戦の目的は、空母の機能を奪う事だ。そうすれば、我々は輸送艦を連れて帰港する事が出来る。我々がここで壊滅して、ジン・ハーク救援が遅れれば、パンドーラの防衛戦略に問題が生じる」
ホンネフは次に、各艦の役割を伝えた。
「戦列艦は、敵の戦列艦及び爆裂艦と戦闘し、敵巡洋艦の砲撃を引き付けろ。被害は大きくなるが、重要な役割だ。リ・ゾートヴァイトには敵の巡洋艦を攻撃し、戦列艦と共に行動して敵の戦艦を誘引してもらう。これもまた攻撃が集中する事になるが、耐えて欲しい。そして、巡洋艦は、空母への攻撃を行う。これが成功し次第、全艦は離脱する。その時に多くの艦が残っていれば、こちらの勝利だ」
その後ホンネフは作戦の詳細を伝えた。そして最後に、こう言った。
「我々の同胞を殺したあの鷲どもの巣を打ち壊してやろうではないか!」
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<パーパルディア海軍戦列艦カミオ>
ツーレは戦列艦カミオの機関銃手だ。右舷第3段でDShKのグリップを握っている。
目線の先には徐々接近して来るパンドーラの戦列艦があった。黒黒とした海の上に、更に真っ黒な影の様に見えるパンドーラの戦列艦は余りにも不気味であった。
ツーレの目測で言うと、4000m程だろうか。暗闇故に正確性は保証出来ないが、それくらい接近した時、艦内にサイレンが響き、艦内放送で命令が下された。
『1段目、2段目は銃撃開始!』
それにより下階からの銃撃が始まった。夜の海を曳航弾が花火の様に彩る。銃撃の振動は3段目の床までをを揺らしていた。ツーレが構えるDShKは2000mから戦闘開始だ。戦列艦がそこまで接近するまでは、装甲の裏に隠れているしか無い。
そして、2つ隣の銃手の頭が弾け飛ぶなんて事もありながら、ツーレもDShKも無事なまま2000mまで敵の戦列艦に近づいた。
『3段目、銃撃開始!』
「戦闘開始だぁ!」
銃撃開始を指示する艦内放送が流れると、銃手達は一斉に機関銃に飛び付いて銃撃を始めた。
「死ね死ねッぐああぁー」
早速4つ隣の銃手が撃たれた。ツーレは銃弾をばら撒きながら、その銃手を撃った敵の銃手を探す。報復をしようと言うわけでは無い、こちらを狙っている存在を排除する為だ。
「当たったか? うっ、危ねぇ」
こちらに撃って来ていた銃手に銃弾を叩き込んだかと思えば、別の所から飛んで来た銃弾がツーレの背後の壁に当たった。
「おい、あっちか? クソッ当たんねぇな!」
ツーレはこちらに撃って来た銃手に当たりを付けると、その銃手を狙って銃弾の雨を降らせる。しかし、海の風に流されて上手く当たらなかった。
そんな風に戦闘をしていると、突然目の前に巨大な水柱が上がった。
「巡洋艦の砲撃か? それにしてはデケェ。こんなデカい水柱なんて見た事無いぞ?」
ツーレは隣の銃手に聞こえる様に大声で言った。
「あれは戦艦の砲撃だ。演習で見た事がある」
隣の銃手はそう答えた。
「戦艦か。こっちには3隻居たよな。撃ち返してやれ!」
ツーレの声が聞こえた訳では無いだろうが、その時撃ち合っていた敵の戦列艦が爆発した。突然の爆光にツーレは目を細める。その後弾薬が満載された戦列艦は誘爆を繰り返し、艦の上部を吹き飛ばす様な大爆発と共に轟沈した。
「おう! やったぜ!! あれはガルガオンがやったのか? それともセイレーン?」
「いや、巡洋艦じゃないか? 戦艦は普通、戦艦に撃つんだ。おい! 隠れろ! 瓦礫が降って来るぞ!」
その声にツーレは慌てて装甲の裏に隠れた。グシャン、ガラガラと言う金属が潰れる様な音と共に戦列艦だった物の一部が降って来た。
金属片が雨霰と降り注ぎ、一部が艦内にも入り込んで来た。
「ハハッ、木っ端微塵だぜ」
その時に、爆発音と共に艦が大きく揺れた。直後、スコールの様に水が流れ込んで来た。
「海水だ。また戦艦か?」
「巡洋艦かも知れない。だが、どちらにしてもこの艦は狙われている様だな」
「上等だ! これでこそ海戦ってやつだ」
2人は再び機関銃に飛び付き銃撃を再開する。数で勝るパーパルディアの戦列艦は、1隻が轟沈した事で出来た隙間に突入し、パンドーラの隊列を分断しようとする。隊列が乱れれば、そこからは両舷を使った戦闘に移行していく。
ツーレの乗る戦列艦カミオが突入役を担い、パンドーラの戦列艦と更に接近した。パンドーラの戦列艦もカミオに合わせて旋回する。
すると、パンドーラの隊列の向こうにいた戦艦の姿が見える様になった。黒黒とした海を背景に巨大な艦影があり、月光で僅かに明るい空にマストの陰がはっきりと浮かび上がっている。
「あれがパンドーラの戦艦か」
すると戦艦が発砲し、カミオの周りに水柱が立つ。そして爆発音が連続して響いた。
「こっちの艦がやられたのか? あの戦艦、副砲でこっちを狙っていやがる」
ツーレは戦艦を気にしながら戦闘を続ける。激しい戦闘でボロボロになった敵の戦列艦に容赦なく銃撃を叩き込んでいると、弾薬に当たったのか、ツーレが狙った場所で小規模な爆発が起きた。
「クリティカル。3人はやったか?」
銃撃の合間に戦艦の方を見ると、周囲に水柱が立っていた。その報復かの様に、カミオの近くで水柱が上がる。続けて爆発する音も聞こえた。被弾した味方の艦もいるのかも知れない。
近くに着弾した衝撃でカミオは大きく揺れ、ツーレの背後を走っていた兵士が転倒した。
傾きが直るとツーレは銃撃しようと敵艦の方を見る。すると、こちらに向けられている機関銃の銃口に、奇跡的に気が付いた。間違いなく、真っ直ぐここを狙っている。ツーレはそう確信し、反射的に頭を下げて装甲に隠れた。
頭上を弾が通り過ぎた様な感覚の後、顔に生温かい液体がついた。手で拭ってその手を見ると、それが血だと分かった。足元にも血が広がっている。
途端、ツーレは全身に激痛を感じた。どこかは分からない。だが、どこかを撃たれた。どこだ。そう思って全身を触って確認する。腕はある。指まで無事だ。足もあるし、動かせる。だが、右腕は血塗れだった。背中を触れば、手は血で染まった。目に血が入って来てよく分からない。クソッ、腕をやられたのか。なら何故動かせる。
「おい! どうなってる? 見てくれ、俺の腕、酷い事成ってないか?」
ツーレは隣の銃手に這い寄り声を絞り出して聞いた。隣の銃手は装甲の裏に引っ込み、ツーレの体を見た。
「ここは暗くて良く見えないが、服に穴が空いてない事は確かだ。ほら、そこの兵士の血を被っただけじゃないか?」
隣の銃手は体の部位がバラバラになった兵士のなれ果てを指してそう言った。それを聞いてツーレは安心した様に力を抜く。
「そうか。恥ずかしい所を見られたな」
「水でも被ってその血を流した方が良い。それに、その目じゃ狙えないだろう」
「分かった。3分で戻る。帰りに予備の銃弾を持って来るからな」
「ああ、頼んだ」
ツーレが移動しようとした時、遠くから轟音が響き渡った。
「何があった?」
隣の銃手は外を見て言った。
「敵の戦艦が爆発した。大分傾いて……おい、ありゃ沈むぞ。爆沈、轟沈だ!」
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<パンドーラ海軍巡洋艦ノーケカイ>
「戦列艦は乱戦状態に入り、リ・ゾートヴァイトも戦艦2隻、巡洋艦5隻を相手に危機的状況、か。だが敵を引き付ける事には成功している。今、勝負を決めよう」
ホンネフは状況を判断し、魔信を通じて巡洋艦5隻、駆逐艦4隻に指示を出した。
「20:06、敵空母への突撃を開始する。幸い敵空母は分散していない。9隻で突撃して一斉攻撃を加える」
ホンネフは艦橋の将校達を見渡して、一呼吸置く。そして一言。
「突撃開始」
9隻の乗員は咆哮し、空母目掛けて突撃して行った。
最初にパンドーラ艦隊の意図に気付いた護衛の巡洋艦が発砲するも、9隻が一斉に応射し、巡洋艦一隻が被弾したのみで相手を沈黙させた。
それに対して急行して来たパーパルディアの巡洋艦2隻も、巡洋艦と駆逐艦がそれぞれ1隻を犠牲にしながら対処に成功。残りの巡洋艦は空母の反対側にいて、こちらには間に合わない為、あとは接近するのみとなった。
「よし! 距離を詰めろ! 6000mから巡洋艦はロケット砲発射、そのまま接近して砲撃だ。甲板を破壊しろ!」
その時、後方から轟音が響く。
「何があった!?」
ホンネフの言葉に答える様に、リ・ゾートヴァイトに乗艦している士官から魔信が入った。
『総司令官殿! ごぶっ』
その魔信でホンネフはリ・ゾートヴァイトの運命を理解した。
「リ・ゾートヴァイト爆発! 急速に沈没しています」
直ぐに、見張り台からの報告が入った。
「ご武運を、か」
ホンネフは目を瞑り、カッと見開いた。
「リ・ゾートヴァイトの犠牲に無駄にしてはならない。巡洋艦ニーシ、駆逐艦ジクー・オーセンの犠牲もだ。輸送艦は、ジン・ハークの同胞を救う為に守らなければならない! あの空母を、何としても破壊するのだ!」
ホンネフの言葉にノーケカイの乗員は再び咆哮を上げた。ホンネフの副官が起動した魔信器越しに聞いていた他の艦でも同じ様に叫んだ。
「突撃だ!」
「突撃だ!」
「突入するぞ!」
「甲板に大穴開けてやらァ!」
その時、空母へと突撃する7隻の間に巨大な水柱が幾つも立った。
「もう一隻の戦艦か! どこにいる?!」
「4時の方向です」
「後ろか! それなら撃ち返さなくでいい。兎に角空母に突撃せよ」
それからは各艦がそれぞれ回避行動を取りながら、空母に向かって行く。
しかし、とうとう命中弾が出た。
「あぁ、ネーキッシュがやられたか!」
ノーケカイの前を航行していた巡洋艦ネーキッシュが爆発し、二つ折りになっている。ノーケカイは救助も出来ず、通り過ぎるしかなかった。
その後はリ・ゾートヴァイトを撃沈した戦艦2隻の射程内にギリギリ居た為被弾が続き、2隻の射程から出た時には巡洋艦2、駆逐艦2の総勢4隻になっていた。
しかし、同時にパーパルディアの空母を今まさに射程に収めんとしていた。
「空母は目の前だ、後数分でロケット砲の射程に入る。射程内に収め次第、砲撃開始だ」
魔の数分とも感じたその時間、至近弾はあれど回避行動が功を奏し、遂に空母を射程に収めた。
ホンネフはその艦影を見て、即座に中型空母ワーグナー型の2隻だと判断した。
観測員からホンネフに、空母の1隻目が射程に入ったと報告が来た。ホンネフがそれを受けて砲撃開始と命令を下そうとしたその時、ホンネフは何処からかサイレンの様な音が聞こえるのに気がついた。微かだが、確かに聞こえる。上からか?
ホンネフが音の発生源を探す様に天井を見上げた時、大爆発が起こった。
水柱と鮮烈なオレンジの爆炎で艦橋からの視界が塞がれる。船体を揺さぶる巨大な衝撃により、艦橋は何かに掴まる事でようやく立っていられる様な状態になっていた。
水柱が消えると、まず右前方で激しく炎上する1隻の巡洋艦が見えた。砲塔が吹き飛んでしまっている。ロケット砲も誘爆してしまった様で、艦首の方は完全にひしゃげていた。
攻撃手段が一つ失われてしまったのを知り、ホンネフは計器の台に拳を叩きつけた。そこである事に気付いた。左前方を航行していた駆逐艦が見当たらないのだ。後方にいるもう1隻はともかく、左前方には確かに駆逐艦がいたはずだ。
ノーケカイの艦橋には徐々に情報が入り始めた。
「航空攻撃を受けたのか」
「そう考えられます」
「各艦の状態は?」
「本艦は主砲とロケット砲が使用不能となりました。機関は被害を免れております。よって、接近しつつ副砲による砲撃を行います」
「その様にせよ」
「巡洋艦ギシューは主砲、副砲、ロケット砲全て使用不能、機関は出力が低下しているものの運転可能との事です」
「それは離脱させよ。輸送艦の護衛が必要だ」
「駆逐艦ジャーシアは主砲は生きているものの機関の炎上により停止しています。また、射程外だが砲撃するか、と艦長が」
「砲撃する様に言え」
「了解です」
ホンネフは報告して来た士官に指示を出して行く。そして、艦橋を見渡して言った。
「チェカー・マルナはどうなんだ。あの駆逐艦の状態を、誰も知らないのか?」
艦橋をの将校達が沈黙する。そして何か連絡を受けた将校の1人が答えた。
「今入った情報です。見張り台の者の報告によると、チェカー・マルナは爆撃により船体が引き裂かれ、轟沈したそうです」
ホンネフの手は震えていた。
「あの一瞬でか?」
「10秒程で沈んでしまったと……」
艦橋が沈黙する中、駆逐艦ジャーシアが砲撃を始めた。直ぐにノーケカイの副砲も砲撃を開始し、どうにかこれで空母を封じるしか無い。やってやろうという空気が戻って来た。
停止したジャーシアに照準を合わせた戦艦の砲撃でジャーシアがチェカー・マルナの後を追う様に轟沈してもその空気は変わらず、むしろ絶望的な使命感とも言うべきもので、ノーケカイの乗員達は戦意を高く保っていた。
しかし、そこに一本の魔信が入る。艦橋に備え付けられた魔信器が受信したのだ。
『こちら、輸送艦アレイスター471号。輸送艦群は2度の航空攻撃を受け、壊滅的被害を受けた。完全に被害を免れたのは2隻のみ。他3隻が航行可能だが、燃料流失や機関の出力低下などの問題を抱えている。残りの32隻は、沈没もしくは航行不能、或いは行方不明である。現在本艦を含む5隻は合流し、本国へ向けて航行中。どうぞ』
この内容に、艦橋は完全に沈黙してしまった。
「こちら巡洋艦ノーケカイ。艦隊総司令官のホンネフだ。輸送艦群が攻撃を受けた時刻を報告せよ」
『はっ、19:30頃と19:50頃であります。ホンネフ大将でありましたか。大変失礼致しました』
ホンネフがなんとか攻撃を受けた時刻を聞くと、輸送艦はかなり前の時刻を言った。
『駆逐艦が奇襲攻撃を受けてしまい、魔信の回復に時間が掛かりました。現在、輸送艦の甲板に秘匿用魔信増幅器を立てて魔信を繋げております』
輸送艦からの言葉は、もう艦橋の誰の耳にも入って居なかった。空母への突撃を始めた時には、既に守るべき輸送艦はやられていたのだ。
「リ・ゾートヴァイトの犠牲に無駄にしてはならない」
ホンネフは自分の言葉を思い出して、空虚に感じてしまった。
「艦隊の……、犠牲は……。無駄だったと? 絶望的な防空戦を続けながら逃げ続ければ良かったのか? いや、私は、私は……、何を」
その時、あの微かなサイレン音が聞こえ始めた。
「すまない。我が部下達よ。艦隊よ。──すまない。ジン・ハークの同胞よ」
艦橋はただ沈黙するばかり。命令通り砲撃を続ける副砲の、ドーンと言う発砲音が虚しく響いたのを最期に、ホンネフの意識は爆炎の中に消えた。
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≪中央暦1639年8月12日≫
<パーパルディア海軍航空母艦ワーグナー>
パンドーラ艦隊最後の戦列艦を降伏させた後、救助作業や消火作業の指揮に追われ、艦隊総司令官バーンが食堂に降りて来られたのは日付が変わった頃だった。
バーンが食堂で食事を摂る事にしたのは、厨房の者に余計な手間を掛けさせない為であると同時に、航空隊の者達が今食堂にいると言う情報を得たからだ。
第1攻撃隊の面々は食堂に入って来たバーンを見ると席から立って敬礼した。バーンも答礼する。
「ラカミ少佐。今回は飛行隊の活躍に助けられた。帰って来た途端また出撃させるなど、酷使してしまった。感謝する」
「総司令官殿! 我々はやるべき事をやったまだです。それに、第2攻撃隊の働きの方が素晴らしいものでした。あの時間帯に輸送艦を発見した事は正しく英雄的活躍だと考えます」
「そうか。第2攻撃隊は向こうに居たな。声を掛けてこよう。だが、君達第1攻撃隊の優秀さも間違いの無いものだ。誇って欲しい。向こう1ヶ月の話題は君達の活躍で持ちきりだろうしな」
バーンは第2攻撃隊の方へ歩きながら考える。一通りの救助が終われば、乗員達の多くは一度眠りにつくだろう。そして明日にはセイユ軍港に寄港し、戦勝祝いという事になりそうだ、と。
────────────────────────
≪中央暦1639年8月12日≫
<カルトアルパス・とある酒場>
酒場の酔っ払い達は一旦静まり、平面水晶体に注目している。未だに大声で騒いでいる泥酔者を他の客が絞め落とすと、丁度良くニュースが始まった。
貿易関係者が多く集まるこの酒場では、毎日放送される世界のニュースは重要な情報源の一つだった。放送開始時は週1回だったものの、高い人気とニュースの多さによって、毎日の放送となったのだ。
『世界のニュースの時間です。今日こんなニュースが入って来ました』
画面にはニュースの題が並び、1番上のニュースから詳しく解説が始まった。客の中にはオペラグラスを目に当てて見ている者もいる。
『1つ目のニュースはこちら。"第3文明圏の2列強、軍事衝突か。シオス沖で海戦"』
第3文明圏の地図が表示されて、キャスターが指し棒で情勢の解説を始める。
『パーパルディア海軍省及び外務局の発表によると、現地時間で昨日深夜、シオス沖にてパーパルディア海軍第二艦隊とパンドーラ海軍の艦隊が衝突し、パンドーラ艦隊は壊滅したとの事です。』
画面は隊列を組んで飛行するパーパルディアの新型急降下爆撃機を写した白黒映像に切り替わった。
『新型急降下爆撃機"アル=ワーキァ"が大戦果を上げ、パンドーラ艦隊は文字通り全滅したと、現地メディアのデュロ・テレグラフが報じました』
画面が戻り、キャスターの解説が再開する。
『現在、第3文明圏ではパーパルディアとパンドーラの対立が深刻化しています。今年3月にパーパルディアが支援するクイラが隣国ロウリアに侵攻を始め、1週間前にはパーパルディアがパンドーラ軍が駐留していたアルタラスに侵攻しました』
キャスターは勢力毎に色分けされた地図を指し示し、軍事衝突が発生した地点に印を付けた。
『また、パーパルディアは第3文明圏の東方に現れた新興国日本とも軍事衝突の危機を起こしており、強硬な姿勢が顕著です』
そこに専門家の様な人物が登場し意見を述べる。
『ここ最近、パーパルディア軍の行動が活発化している。これは武力行使だけでなく、演習や兵器開発なども含めてです。やはりパンドーラとの全面対決を想定しているのではないか。この可能性は第3文明圏在住の専門家の間でも囁かれています。また、パンドーラの方も全面対決を回避しようと言う動きは鈍いんですね。ですから、最も近くて来年、1640年には危機が最大に達すると言う分析も出て来ています』
キャスターはなるほど、と言う感じに頷いた。
『今回の海戦について、パーパルディア政府は"パンドーラ艦隊は40隻以上の輸送艦を護衛しており、これはシウス王国への攻撃を計画していた証拠である。シウス王国の主権を尊重しないパンドーラの暴走を厳しく非難する"と発表しています。パーパルディアの行動を見ると自分勝手な言い分ですが、これが事実だとすると、我々が考えている以上に危険な状態になっている可能性が出て来ます』
カメラがキャスターの方に戻った。
『ありがとうございました。第3文明圏に渡航する予定のある方は、十分注意して下さい。また、外務省が指定する危険地帯への渡航を予定されている方は、外務省に申請し、出発前に外務省が発行している小冊子
"パーフェクト対ゲリラブック〜徹底抗戦から身代金支払いまで〜"を熟読しましょう。次のニュースです。ムーはラ・ム=ツー級戦艦の2番艦、ラ・ガナトを──』
酔っ払い達による厳粛なニュース視聴はまだまだ始まったばかりだった。