ゲリラの溢れる異世界へ、日本国召喚。   作:ペジテ市民A

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パンドーラの話なので捏造しかありません。
パンドラという名前を使おうとしたばっかりに……。


幕間 [3] 大魔法公国の政変

≪中央暦1639年9月4日≫

<パンドーラ連合公国首都ファンドルフ・学術院連合総会>

 

 騒めく議場の中、事務総長が拡声魔法を使い、投票結果を読み上げた。

 

『投票総数91、賛成票62、反対票29。よって、学術院連合総会議長、ルプレヒト師不信任決議案は可決されました』

 

 賛成票を投じた各学術院の院長達が拍手し、反対票を入れたルプレヒト派の者達は顔を顰めている。当のルプレヒトは壇上で宙を見上げ、憮然としていた。

 

 事務総長は席を立ってルプレヒトに近づき、声を掛けた。ルプレヒトはそれを受けて議長席に戻る。

 

『ええ、パンドーラ連合公国基本法第102条に基づき、私、ルプレヒトは学術院連合総会議長を辞職致します』

 

 ルプレヒトの言葉は、彼の高度な拡声魔法によって、未だ騒がしい議場の隅々に明瞭に届いた。ルプレヒトは辞職を宣言すると、印象的な銀縁の眼鏡を外し、壇から降りて議員としての席に着いた。ルプレヒトに任命されていた副議長や各省の長官達もそれに倣って議員席に戻っていった。

 

 それを確認した事務総長が議長席に移動して言う。

 

『静粛に願います。……総会法第21条1項により、学術院連合総会議長が選挙されるまで、私が議長の職務を代行いたします。まず、不信任決議案採択会議を閉会いたします』

 

 ここで拍手が起こった。事務総長は拍手が収まるのを待って、続けた。

 

『続いて、今後の日程について発表いたします。まず、不信任決議案採択会議の閉会30分後より、学術院連合総会議長の選出会議を行います。そして議長が指名されたのち、指名された議長により選出会議が閉会されます。また選出会議の閉会より10日以内に副議長並びに省長官の任命会議が行われます』

 

 そこまで言うと事務総長は席を立ち、退出した。議員達も姿勢を崩し、それぞれ近くの議員と話し始めたり、葉巻に火をつけたりして休憩に入った。不信任決議案の採択に欠席した議員達も議場に入って来ている。

 

 合成化学学術院の院長カールスルーエも、議員の1人として議場に居た。兵士用シガレットの試作品を咥え、ペンで文字を書いたり、針で指を突いたりして居る。繊細な動作が可能なまま、痛覚を無くすと言うシガレットの効果を試験して居るのだ。

 そこにセーターの上に白いサテンのマントを着た男が近付いてきた。魔導空力学学院長の院長、アーヘンである。

 

「古エルフ語学のロイファナ師、そして基幹詠唱学のフェリックス師を説得出来た事が大きかったですな。彼らの決断が所謂学院派の票を集める事になった。君の説得が無ければ、彼等は皆欠席していただろう」

「まあ、不信任決議案は通るだろうと考えていた。学連長らの無為無策の結果、第二艦隊が壊滅したのだからな。派閥争いの結果、詠唱文学の院長を軍務長官に据えていた事は弁明の余地の無い失策だ」

 

 カールスルーエは不信任決議案の発議者であり、アーヘンは不信任決議案の発議に当たって連署している。つまり、反ルプレヒトの中心人物なのであった。

 

「勝負は四半刻のち、ですな。まず間違い無く君が勝つだろうが」

「油断は出来んよ。各派との調整に問題は無いと思うが。私の派閥に造反者は出ないと確信出来るし、工学派も君が掌握している。学院派とは自治権を尊重を約束している。その後彼等は私以外と交渉していない。ルプレヒト派は未だ固いが、軍事派は総じてこちらに着いた。……君が出るので無ければ、波乱は起こるまいな」

 

 カールスルーエは確認する様に言った。最後の言葉にアーヘンは苦笑して言う。

 

「油断出来ないとは、私の事か。私の事は心配しないで良い。『アリデッド計画』への予算増額は、我々を捕まえておくのに充分だ。もちろん、君なら予算増額を成し遂げられると信任しての事だとも」

 

 カールスルーエはアーヘンの顔を見て、それが真実だと判断した。

 

「そう言えば、日本国についてどう思う。君達の計画の参考になると言ったが、どうだった」

 

 カールスルーエの問いにアーヘンは興奮した様に言った。

 

「大いに、参加になる。特に遅れを取っている構造方面でな。より情報を集められれば、『カラーム15』や『シィーン6』『シィーン7』『ジン2』だけで無く、最終目標の『カラーム29』の再現に大きく前進する事が出来るだろう」

「そこまでか」

「君も言っていたじゃないか。日本国はアムリーカと同盟していたと。この事を証明出来る事実がある」

 

 カールスルーエは声を抑え、続ける様に言った。

 

「日本国は、我々が研究している爆撃機ジャウザーと全く同じ物をを運用している。クイラ政府内の協力者複数名の報告があった。信頼出来る者の証言もある」

「ふむ、興味深い話だ。私の直感的な判断を補足する物だな。その筋、日本国の調査に使えないのかね」

「彼等に攻勢的な諜報は難しい。職務上目に入る情報を流すだけだ」

 

 カールスルーエはアーヘンの情報網に興味を持ちながらも、取り敢えずアーヘンの言葉を信じ、彼の協力者は日本国に対する諜報の戦力から外しておいた。

 

「では、学連長直轄の機関、そして暗号理論学学術院か防諜学学術院辺りに協力させて情報収集の為のチームを作ろうか」

「いや、古呪文学か文化詠唱学から人を集めて辞書を作る方が先だろう。我々物理、工学系も、科学体系の分析には役立つ」

「確かに、優先すべきは技術方面か」

 

 カールスルーエはアーヘンの提案に工学系学術院への利益誘導を察知するが、魔術系学術院とのバランスが考えられた提案だと評価した。彼の脳内では日本国分析の構想が出来上がりつつあった。

 

「そろそろ刻限か。そう言えば第2文明圏の西方に第八帝国なる国家が出現したとか。君はどう考える。ムーを掣肘できる程のものか? 可能ならやれる事は多いだろう」

「ムーのある男が言うに、パガンダが完全に滅ぼされたと」

「レイフォルの属国か。いやしかし、パーパルディア……、と言うよりカラシニコフ市の商売の為にレイフォルは火薬庫と化しているだろう。これは盛大に爆ぜるのではなかろうか……」

 

 アーヘンは第2文明圏不安定化の報せに色々と計算を始める。この情報が直後の選挙における彼の投票先を変える事は無い。その辺りは綿密に利害関係を確認している。カールスルーエは自分の計略を脳内で検証しながら投票までの僅かな時間を潰した。

 

 やがて投票の時間となって、カールスルーエは手元で灰になっているシガレットを発見した。痛覚を無くす効果で手の中で燃えているのにも気づかなかった様である。当然この試作品は不採用となり、成分の調整が行われる事となった。

 

『定刻となりました。学術院連合総会議員の皆様、御着席下さい』

 

 不信任決議案採択会議が閉会されてから丁度30分後、再び事務総長が議長席に座り呼び掛けた。休憩していた議員達は議場の規則に従い、煙草の火を消し、個人的な研究資料を片付けた。

 議場には不信任決議案採択の時より3割強、人が増えている。不信任決議では棄権した議員達も、学連長の選挙には参加するのである。

 

『総会法21条に基づき、事務総長の地位により、学術院連合総会議長選出会議を開会いたします』

 

 議員達は拍手した。慣例により5秒程と決まっているそれが収まるのを事務総長は待って、言葉を続けた。

 

『選出は出席議員による投票により行い、出席議員の過半数による信任を受けた議員が学術院連合総会議長に任命されるものとします。続いて投票の形式は記名投票とし、投票の際には被選人の氏名に記載した投票用紙と名刺の魔石を持参される事を望みます。また集計は議場規則の各号に従って行われます』

 

 事務総長が言い終わると、議員には1人一枚ずつ投票用紙が配られた。出席議員全員に配り終えたのを確認すると、事務総長が説明を再開した。

 

『5分後より投票を開始します。事務総長により名前を読み上げられた者から投票される事を望みます』

 

 議員達は投票用紙に記入を始め、5分経つ前に殆ど全員書き終わった。年老いた為に震えた手でゆっくりと書いていた幾名かも、定刻前に書き終える事が出来た。

 

『これより、投票を開始いたします。古典築城学、コーブルク師』

 

 時間になると事務総長が議員の名前と統括する学術院の名称を読み上げて行った。10分程で全員が投票し終わり開票、集計へと移った。そして集計作業も5分程で完了した。

 

『ただいま、集計が完了いたしました。投票総数124。本投票の過半数は63であります。投票結果を報告いたします』

 

 事務総長は集計結果が記された紙を持って、発表した。

 

『カールスルーエ師、81票。ルプレヒト師、32票。アリス・ソロモン師、10票』

 

 名前が読み上げられる度に拍手が起こった。

 

『右の結果より、総会法第5条の規定によりまして、カールスルーエ師が学術院連合総会議長に当選されました』

 

 事務総長は話終わると、一礼して議長席を降りた。それを見てカールスルーエが立ち上がり、議員達に頭を下げる。議場は拍手に包まれた。

 

 

 

─────────────────────────

≪中央暦1639年10月1日≫

<魔導空力学学術院敷地内>

 

 学連長に就任してから一月、カールスルーエはアーヘンの指揮する『アリデッド計画』の成果を視察しに来ていた。

 

 コンクリートで舗装された敷地には、銀色に輝く航空機が並んでいた。どれも少しづつ形に違いがあり、試作機である事が分かる。

 

 しかし、地上にいる視察団の者達は皆上空を見上げていた。轟音と共に飛行する試作機を目で追って、目を細めながらその速度に驚愕していた。

 その中に、それ程驚いていない者が2人居た。開発を指揮した本人であるアーヘンと、報復呪詛兵器2号シュティーアなどの開発でこの速度を見慣れているカールスルーエである。

 

『あれにはまだ日本国の技術は反映されていないのだね』

『ああ、新たに日本国の戦闘機を写した魔写を入手したが、ジン2やカラーム29には活かせそうだ。ジン2など全くその物であった。しかし、今飛んでいるカラーム15なんかの開発には余り参考にならなそうだね。外見が違い過ぎる』

 

 アーヘンはカールスルーエに説明する。そのうち、現在試験飛行を行っているカラーム15試作型の説明へと移って行った。

 

『あれは本来ジェットエンジンを搭載するのだ。しかしエンジンの制作が難しい。最近漸くブレードが満足出来るレベルに達したが、全体の構造にまだ不明点が多い。そこで、君と噴進器学学術院が開発した液体燃料ロケットエンジンを代わりに搭載した物があれだ』

 

 飛行する試作機を見ると、後退翼と尖った先端が目立つ。

 月神の使いが遺した文物の内最高機密に当たる、幾つかの設計図。その中に登場したMiG-15なる戦闘機と非常に似ている。月神の使いがペルシアから盗み取ったとされる設計図を纏めた『ペルシア書』などで旧式の戦闘機として紹介されていた物だ。しかし、カールスルーエには、明確に異なる点を指摘する事が出来た。例えば、機首のエアインテークが塞がれている。

 

『速度は優秀だが、正式採用はやめた方が良いな。こちらとしても、本命はジェットエンジンだ。日本国の技術を参考に出来れば、まもなく完全なる完成が為されるであろう』

『期待している。君の日本国訪問も近い』

 

 アーヘンは今から楽しみなのか、笑って言った。

 

『使節団に私を参加させるなど、それこそルプレヒトの様な不適任な人事だと思ったが、正面から情報収集を行うとはな。今頃パーパルディアはこそこそとやっている所だろうに。実に愉快で、楽しみだ』

 

 視察団の上空では、試作機が太陽を横切って行った。

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