接触
時は現代、とある紛争地帯。行軍中の武装組織の一派が忽然と消えた。
同時刻、異世界に山程のAK47やRPG7、重火器を積んだテクニカル、そしてゲリラ戦のノウハウを詰め込んだ戦闘員達が現れた。
日本が転移する350年以上前、中央暦1270年代のことである。
≪中央暦1639年1月24日≫
<海上自衛隊P-3C哨戒機機上>
ここ数日、日本という国は混乱の極みにあった。
外国との通信は途切れ、大陸はそもそも消滅し、人工衛星を見つからない。星空も海産物も見覚えのないものになっていた。
省庁の上層部は大規模な自然災害によって大陸が消滅、通信が断絶し地軸がずれて星が変わったなどの可能性を検討しつつも、集まった情報から、前例のない事象で日本が移動したという事実を確認していた。
グローバル化していた世界で、周囲の国が無くなった事によって起こる問題は多々あるが、食料と資源、燃料の輸入が最大で差し迫った課題である。
資源燃料に関しては節約に節約を重ね、停止中の原発を動かせば海底のから採掘できるようになるまで足りるかも知れないが、食料に関しては陸地がない事にはどうにもならない。
この現象が短期的なものなのか、長期的なものなのか、あるいは永続的なものなのか。どれにしろ陸地、あわよくば外交の通じる国家などがあれば良い。これらのことから、陸地の捜索は急務であった。
このP-3C哨戒機も周囲探索の任務を受けた一機であり、無事陸地を発見後、港湾都市マイハークの上空に差し掛かっていた。
戦術航空士の佐々木二佐と航法・通信兵の遠野二曹が両側の窓から外を観察しながら情報をまとめる。ちなみにこの機では戦術航空士の方が先任なのでこちらが機長という事になっている。
「あんな海岸線見たことあるか?」
「いえ、日本付近では見たことありません。それにあそこまで何も無い海岸線が世界にあるのかどうか。」
沿岸にも少し小型船舶が見えたくらいである。文明がある事も確認され、予想以上の成果であった。しかし帆船ばかりであることから技術レベルの低さが予想され、交渉できる国家があるか、輸入できるほど食料があるかが問題だと乗組員たちは考えていた。
「ああ、別世界というのは本当らしいな。」
「しかし衛星も星も役に立たないというのは心配です。」
機上海岸線を探索してしばらく、大きな港町を発見した。
「接近して観測しろとのことだ。町の映像を撮れれば国があるかとか、色々分析出来るんだろう。」
「領空侵犯とは成りませんか。」
「船を見ても中世後期から近世くらいの土地に領空の概念があるとは思え無い。あと報告してから指示を受けるまで大分掛かった。大臣か総理か、上はある程度仕方ないと考えているんじゃ無いか。それにいずもに外交官を乗せてこっちに動かしてるとのことだ。交渉の前に交渉相手がいるか確認したいのかもな。少し高度を下げるぞ。」
遠野二曹は双眼鏡で町を見る。徐々に大きく見えて来た港は船と同じく中世風であった。しかし、
「見たところ中世ヨーロッパ風ですが……機長!自動車らしきものが見えます!」
「む、見た目より技術があるのか、分野ごとに技術レベルが違うのか……高田一尉、念の為高度を上げてくれ。二曹、どんな見た目だ。」
「ピックアップトラックのようです。そして……荷台に火器を載せているように見えます!」
「一尉、上昇と回避!総員何かにつかまれ!あと二曹、銃口はどこ向いてるっ!」
「こちらを向いています!あっ、発砲!」
<クイラ王国クワ・トイネ総督領軍マイハーク駐屯部隊>
クワ・トイネ有数の港湾都市であるマイハークには、付近の入江に軍港が作られた事もあり軍人が多い。だからこそ比較的治安が良く、銃声がするのは稀だった。
そんな平和な町に、重機関銃の轟音が響いていた。
「准尉!対空砲車はまだか!」
「大尉、構わんよ。あれを見ろ。」
戦闘車両の配置を指示した副官をマイハーク防衛の現場トップが止める。
「しかし中佐!不審機は……なっ!一瞬であそこまで!」
副官の目線の先には黒煙を一筋残しながら急上昇する不審機の姿だった。
「損傷した状態であの急制動に耐える機体。あの速度と上昇力を持つエンジン。パーパルディアの最新機に勝る性能だ。」
「ではパーパルディアの試作機でしょうか。」
「彼の国もあんな技術漏洩はしないだろうよ。あと大尉、こちらの銃撃で破片が飛んだのが見えた。回収を急げ。私は本国への報告書を書いてくる。」
「はっ」
<海上自衛隊護衛艦いずも艦上>
「え、撃たれたんですか?」
外交官の田中は艦長から哨戒機の報告を聞いていた。
「ええ、直前に武装を確認し回避行動を取れたとのことですが、第三エンジン付近に被弾。エンジンとプロペラが破損し、現在は停止させているそうです。」
「技術は中近世レベルという話でしたが……武装だけは発達している?」
「それだけではないでしょう。銃撃はピックアップトラックの荷台から受けたと報告されています。レーダーの照射はなかったようですが、兵士は対空戦闘に慣れているものと考えられます。領空の考え方もあるでしょうから交渉は難しいものになりそうですね。」
田中と艦長は深刻そうに顔を見合わせた。
しばらくして、田中が外務省とファーストコンタクトのことを相談していると、艦長に連絡が入った。
「先の接触を受けて本艦はみょうこう、すずつきの二隻と合流することになりました。私見ですが、ピックアップトラックに重火器というのは紛争地帯でよく使われる組み合わせです。治安もどうかわかりませんが、民間人が渡航できるようになるのは先になりそうです。」
こうして日本国と異世界の接触は銃火をもって始まったのだった。