≪西暦2015年1月24日≫
<首相官邸>
「大問題じゃないか!領空侵犯した挙句撃ち落とされるなんて!」
報告を受けた総理大臣武田が叫ぶ。
「総理。落ちてはおりません。乗組員も全員無事で下地島に着陸しております。」
強めに指摘したのは報告をした防衛大臣の厳田だ。
「む、済まんな厳田君。しかしいずもの外交官は大丈夫なのか?」
「今回の接触を受け、護衛艦二隻と合流させると外務省との間で決定しました。」
軍事に疎い閣僚も片方はイージス艦だと聞くと安心したように頷いた。そこに経済産業大臣の三田が発言する。
「それでは砲艦外交にならんか、外務大臣?」
「我々には現在相手国と連絡する手段がありません。よって接触は向こうの軍ないし警察組織に護衛艦が発見されることを発端としなければならず、衝突となった時にいずもでは応戦出来ません。」
外務大臣佐藤の答えに環境大臣和泉が納得出来ないという顔をして質問する。
「相手は木造船なのでしょう?空母をどうにかできるとは思えませんよ?」
厳田は補佐官から受け取った新しい資料に目を通していて、答えられない。代わりに答えたのは厚生労働大臣の斯波だ。
「いずもを含め空母の武装は自衛程度だ。装甲も無いから至近距離からいきなりバズーカなんかで攻撃されたら船体は沈まなくても、乗組員は無事では済まないかもね。まあ他の護衛艦でも装甲がないのは同じだけど、反撃出来ないよりは良いんじゃないかな?そうだ、この世界では戦艦が必要になるかも知れないよ、厳田さん!」
資料を読み終わった厳田が答える。
「現在、不審船から銃撃される可能性がある事は国土交通省と協力して、洋上にある自衛隊・海上保安庁の全船舶に通達し、安易に近づかないよう周知を進めているところです。またいずものキャットウォークに重機関銃を置いて個艦防衛力を強化する事を計画しております。あとお二人とも、いずもは空母じゃありません。」
国土交通大臣の目崎が付け加える。
「領土領海に変化が無いか確認する為、離島や岩礁の調査を行なっていた巡視船については、近隣の港に戻るように指示しております。民間船についても、海上保安庁を通じて係留できる付近の港に寄港するよう伝えています。現在各港の許容量を超えない様に調整作業を行なっている次第です。」
「それがよろしい。重機関銃でも、場合によったら巡視船は沈んでしまいますからな。」
斯波の言葉に目崎は頷いた。
そして厳田が武田総理に資料を渡して伝える。
「件の哨戒機が記録したデータと機体の損傷の大まかな解析結果が出ました。」
閣僚全員が厳田の方を向いた。
「音声データから12ヶ所からの発砲があり、約8秒の間で586発が撃たれたと分かっております。着陸した機体の画像から少なくとも7発に被弾。1発が第3エンジンに直撃、2発がプロペラに当たり破損させたとの事です。機体に残っていた弾丸があり、12、7ミリ弾だと考えられています。」
閣僚達がよく分からなそうな顔をして聞いている中、斯波が青褪めた顔をして前のめりで聞いた。
「12、7ミリって重機関銃とかで一般的に使われる弾だよね!?」
それに対して厳田が深刻そうな顔をして言う。
「はい、12、7ミリの銃弾は世界中で使われているものです。いえ、元の世界で使われていたというのが正しい。つまりこの世界と元の世界は過去に接触があった可能性が極めて高いという事です。」
これには会議室全体が騒然となった。しかし厳田がさらに続ける。
「そして攻撃に使われたピックアップトラックらしき車輌については、哨戒機が送信した映像データより、トヲタ自動車のものと見ておおよそ間違いないという解析結果が出ました。」
部屋の温度がスッと下がり、各々意見を呟いていた閣僚の誰もが沈黙し……。
一瞬の後、会議室は狂騒と言えるほどに騒がしくなった。
<クイラ王国対ロウリア作戦最高指令部>
男はロデニウス大陸とフィルアデス大陸南東部の写る大きな地図の前に立って、前線からの報告書を読んでいた。ドワーフながら180cmはある身長と、ドワーフらしい長い髭で相対する者を威圧するこの男こそ、ロデニウス大陸統一事業の締めとなるロウリア戦の最高指揮官である。
そんな彼は今、一つの報告書に注目していた。
「パーパルディアの最新機を超えた能力を持つ所属不明機、か。パンドーラか、他の勢力か。ロウリアとは反対方向から来た事を素直に考えれば、ロウリアとは協力関係には無いがロデニウスの統一は防ぎたい勢力だと考えられる。だがロデニウスで価値があるものはクワ・トイネの食糧とクイラの資源だ。新勢力としては介入が遅すぎる様に感じるが……。いや、ロウリアが残っている限り介入は防げない。その為のロウリア戦だ。不明機の来た北東方面を中心に哨戒を強化しておこう。」
不明機についての解析、特に同じ所属の航空機や船舶、車輌を識別出来るようしておけ、と部下に命じ、クワ・トイネの防衛を担う総督領軍海軍司令部のあるマイハークへ、哨戒を強化する様に、という魔信を飛ばした。
<パーパルディア皇国連邦第4外務局>
20年前、重要な産油国であるクイラ王国が、国土を囲む山脈の数少ない切れ目であるユフ・ラテース回廊をパーパルディアから輸入した400輌のテクニカルで進撃し、天然の防塁を逆行してクワ・トイネ公国に侵攻した第二次ロデニウス戦争の折に、観戦武官としてクイラの戦闘車輌に乗った事が、第4外務局長イノスのキャリアの始まりであった。
自分の所属する第4外務局が国家戦略局の一部署から外務局の末席に昇格したのも、第一次ロデニウス戦争の時クイラ王国を支援して、ロウリア側として介入したパンドーラ連合公国を疲弊させた功績からであり、イノスは今回の第五次、そして最後となるであろうロデニウス戦争、クイラによるロウリア併合戦争には並ならぬ思いがあった。それにパーパルディアの背後地で、石油などの資源や農作物の主要な産出地と言う、いわばパーパルディアの巨大倉庫であるロデニウス大陸から、親パンドーラ勢力を叩き出すことが出来れば近年この上ない功績であり、昇進and叙勲間違いなしと言う野心を焚き付ける要素もある。
だからマイハークに住む外4のシンパから、灰色の4発機とクイラ軍の交戦があったと言う情報が流れた時、パンドーラも懲りないなと感じた。
「まあそれくらい魅力的な地ではある。」
パンドーラから見れば主敵の背後にあって、武器を製造する為の資源は溢れ、兵士を何千万と養える食糧が余っている。そんな土地見逃す訳がなく、人間種が多く住む地帯を併合するべくロウリア諸侯が連合してクイラやクワ・トイネに侵攻した第一次ロデニウス戦争のときには、最初から兵士二万人、車輌千五百台を派遣している。
それまでパーパルディアはクイラの資源事情を伝説程度に考えていたが、パンドーラの介入をきっかけに調査を行い大量の資源が埋蔵どころか露出すらしている事が判明。文明圏外との外交を担う第3外務局と国内外の戦略物資の調査・確保を行う国家戦略局は猛烈に非難された。
その後二局は当時の皇帝ルーディスに許され、第3外務局はクイラ王国の有力者との接触を試み、国交樹立のため奔走する。
一方の国家戦略局、特に渦中のロデニウス大陸を担当していた南方方面課は、人員は殆ど送らず携帯兵器をその使い方と一緒にばら撒いたのである。それも当時のクイラ王国の人口を超えるほどの数をであった。
この期に及んで保身か、などの批判もあったが、それらは直ぐに消えることとなる。諸侯軍・パンドーラ軍の占領地で蜂起が相次ぎ、諸侯軍は壊滅したという情報が伝わったからだ。人々は、
「そのクイラ?人もやるでは無いか。その調子でパンドーラ人をどんどん殺してくれ。」と、クイラ人を称賛し、心の中では
「魔法バカどもめ文明圏外のどこかで蛮族に喰われてしまえ!」と呪っていた。
のちに細かい情報が流れ、蜂起したもの達がパーパルディア製の武器を使っていると伝わると、称賛は国家戦略局と皇帝ルーディスに向かった。
「パンドーラが蛮族に殺されて、石油が手に入り、自分達は傷つかない!こんなに良いことが他にあるだろうか!」
「パンドーラを嵌めた国家戦略局万歳!」
「寛容かつ慧眼の賢帝ルーディス万歳!」
「皇帝陛下万歳!パーパルディア万歳!」
という具合である。
その後パンドーラは負けじと
「敵の敵は味方」
と、考えてクイラの反体制派に武器を配るなどしたが、
「昨日の味方は今日の敵、お前ら元々侵略者」
などと言ってパンドーラ製の武器でパンドーラ兵が殺される事件が頻発に起こり、結局パンドーラが、
「戦場にパーパルディア人がいない」
ことが肝であると気づくまでに三十万人もの死体も積み重なる事となった。
それからは、クワ・トイネを得たクイラが急激に力を伸ばし、パンドーラがロウリアに得た影響圏や委任統治領を手放せず、ロデニウスの泥沼に飲み込まれて……。
それを終わらせるのが私だ。
今までロデニウス戦略は、パーパルディア外交の勝利として輝いてきたが、現在では費用対効果の天秤に、リスクという要素を載せるとデメリットの比重が大きくなっている。
ロデニウスにパンドーラの地歩があるのはパーパルディアの国益に反する。
若き皇帝ルディアス陛下の御前でそう決まった。
陛下が偉大な先帝の功績を踏み越えて更なる偉業を行う為の、その決断であり、陛下の振るう拳としてクイラが、そして私が選ばれたのである。
賢帝ルーディスやそれ以前の皇帝達は、優れた政略結婚によって陛下に48の王冠と1つの帝冠を残した。つまり陛下はパーパルディア皇帝であると同時に、他の48の王国の王でもあられるのだ。
陛下の元でパーパルディア皇国連邦はかつて無い程に団結しているのである。
連邦の3分の2が陛下の直轄地であり、国内の不安が大きく減った時、背後の不安が引っ掛かる。
決戦となるか、パンドーラの崩壊で終わるか分からないが、陛下は治世のうちにパンドーラとの決着をつけるおつもりであられる。
ロデニウス戦争の決着はその第一歩である。
まあ、何が言いたいのかと言えば、失敗は絶対に許されないという事だ。
先帝に似て寛大な陛下は赦してくださるだろうが、私に流れるパーパルディアの血が許さないのだ。
クイラの敗北は今までなら何の問題も無かった。寧ろ宿敵と蛮族が潰しあって万々歳だ。しかし今回は一会戦の敗退も許されない。仮に大勢に影響が無くても、だ。
何故なら、パーパルディア皇帝がロウリアを潰すと決めて、クイラという駒を動かした時、その駒が皇帝の手元で欠けてはならないからだ。
その為に、武装などの支援額と石油などの取引価格を操作して、クイラのロウリア侵攻の時期を調節し、様々な面でクイラ敗北の可能性を潰した。
反攻も、膠着も、遅滞も、撤退も、パンドーラ人には許してはならないのだ。
奴らが選べるのは死か、降伏か、潰走だけである。いずれも無様なものだ。
故に……。
「4発機をロデニウスまで運んだのなら、海上封鎖に穴がある様だな。私掠免許の発行数を増やすよう内務局に要請しろ。あと商船撃沈の報酬も増やす。対象はパンドーラ連合公国船籍、所属不明船の全てだ。追加報酬は外4で出すとも伝えておけ。」
近くにいた部下に指示を出す。
「きょ、局長。所属不明の船舶に対しても報酬を出すとのことですが、軍の試験艦なんかは所属を出せませんよ。」
「その時には商船の方を沈めりゃ良いんだ。そうだ、船乗りには判断基準として『軍艦でも近づいて沈められなきゃうちのじゃない』と言っておけ。ああ、軍艦沈めたら報酬百倍出すとも!」