ゲリラの溢れる異世界へ、日本国召喚。   作:ペジテ市民A

5 / 18
石垣危機編
外交


≪中央暦1639年2月17日≫

<博多市内某料亭>

 

「我が国でこの国の物のような船や自動車を作る事は可能だろうか?」

 

 視察が終わり、東京へ向かう前の夜。東京における本格的な協議に向けて、両国が何を求めているのか確認しようと言う話になり、互いの代表者は膝を突き合わせて語り合うべく夕食を共にしていた。

 

「技術輸出ですね。残念ながら我が国では新世界技術流出防止法が施行されておりまして。中核的な技術の輸出は難しくなっているのです。」

 

「左様ですか。では完成品の輸出は?」

 

「先程の法律も実情に合わせて改正されると考えられます。貴国やこの世界の情報が集まれば可能かどうか分かるのですが……。」

 

 日本国とクイラ王国の技術差がどれくらいかが問題であるし、法律には軍事利用出来る技術に関する項目もある。

 防衛装備移転三原則についても考える必要がある。既にこの世界では車輌を専ら兵器として利用している事が判明しており、解釈によっては多くの製品が『武器』と見做される為、法整備が急がれる。

 

「それは仕方ないですな。実際にどれ程の輸入が可能かは、東京で協議しましょう。それで……、あなた方は何を望まれるのだ?」

 

 メツサルは次は其方の番だ、と促す。

 

「端的に言いまして、我々は農作物と資源を輸入したい。」

 

 その時田中の携帯が鳴った。

 

「連絡がきたのて、離席させていただきます。失礼します。」

 

 田中が部屋をでると、メツサルはクワ・トイネ代表のヤゴウに小声で話しかけた。

 

「農作物と資源!全く日本と我が国は運命的に結ばれている様だな。」

「農作物はクワ・トイネ、資源はクイラ、日本は運が良い様です。」

 

 メツサルは良い報告が出来そうだと、協議の前から皮算用を始める。

 

「良かったな、クワ・トイネ地方は益々発展しそうだ。マイハークにどれだけ金が落ちる事になるのか。……協議の上で問題は、日本国からどれだけ妥協を引き出せるかになりそうだな。」

 

「妥協、ですか?」

 

「妥協だ。君が日本国憲法を持っていただろう。彼らは戦争をしないと言い、平和主義を掲げている。ロウリア戦を控える我々がどれだけ彼らの製品を受け取れるかは、いかに彼らの平和主義を妥協させるかだよ。」

 

 ヤゴウは心の中で僅かな期待を持った。

 

「日本国はクイラの拡張主義を許さず、独立派を支援してくれるのではないか」

 

と。

 

 

 

<同料亭廊下>

 

 田中は外務省からの連絡を受けていた。

 

「哨戒機や試験発射した衛星の画像データから、クイラ王国の領域とされる地域の北部に穀倉地帯、南部に油田施設や鉱山がある事を確認しました。」

 

「推定の産出量はどれくらいか分かりますか。」

 

「農業生産については、栽培されている作物の栄養量が不明の為、サンプルが得られ次第算出を行います。原油は現時点で、年産2万トン以上と見られています。」

 

 肝心の食糧の方は不安あるが、燃料についてはこれからの交渉で解決出来ると分かった。

 

「あちらの要求は船舶、自動車の輸入でした。ただ兵器化について心配があります。」

 

 田中の報告に電話相手の声色が暗くなる。

 

「その事についてですが、クイラ王国とロウリア王国の国境付近に複数の集積基地らしき敷地を発見。合計で車輌十数万台が集結していました。どれもクイラ側です。どれも武装しており、戦争準備である可能性が防衛省からも指摘されてます。」

 

 交渉がひっくり返ってしまいかねない情報に、田中は声を抑えるのに苦労した。

 

「どう言う事ですか!?向こうでは自動車は武装として使われているんですよね。自動車の輸出は出来ない事になりますか?」

 

 相手は複雑そうな声で答える。

 

「それが自動車の輸出は可能性としてあり得るとの事です。あくまで一般向けとしてですが……。」

 

 

 

≪中央暦1639年2月18日≫

<首相官邸>

 

 折角見つかった食糧、資源の輸入先。そこが戦争を計画している。

 そんな知らせに閣僚たちは大急ぎで官邸に集まった。

 

「クイラ王国は戦闘車輌を国境地帯に集結させており、戦争、いや侵略を計画していると考えられます。」

 

 斯波厚生労働大臣が反論する。

 

「侵略とは言い過ぎじゃないの?クイラ王国と周辺国の関係を我々はよく知らないけど、脅迫とも考えられるんじゃないかな。」

 

 しかし厳田防衛大臣がキッパリと否定した。

 

「基地は巧妙に隠されていました。画像をコンピュータによる解析に掛けて発見できるレベルで、上空から肉眼で観察しても発見は難しいでしょう。つまり、脅しとして成立していないのです。侵略としか考えられない。」

 

 騒がしくなろうとした所に、経済産業大臣の三田が割り込んだ。

 

「しかし、自動車を始めとした工業製品の輸出は何処かにしなければ成りません。」

 

 周りはシーンとした。そして三田が続けた。

 

「日本はサプライチェーンや国際分業関係の断絶を受けています。資源があり、製品を求めているクイラ王国は充分に貿易相手足りえます。勿論資源、技術の面だけを見ればですが。」

 

 斯波が付け足した。

 

「こっちの推定だと、このまま工業製品の輸出が出来ないと数百万人の失業者を出す可能性がある。最大で、だけどね。ただ間接的な物を含めるともっと増えるだろうね。」

 

 雇用対策などの政策を進めた経験のある武田総理が青い顔で言う。

 

「数百万!?それは困る。かと言って武器になる物を売るのは……。どうにかならんのか?」

 

 流れを読まず和泉環境大臣が思い出したように聞く。

 

「そういえばトヲタに撃たれた話はどうなったんですかね。」

「トヲタ自動車に質問したらアメリカにも聞かれたと言ってましたね。重機関銃と言う組み合わせからして、紛争地帯からこちらに来たのではないか、と言ってました。そうそう防衛大臣、クイラの車輌は全て軍所属なのかな?」

 

 総務大臣の針谷が流れを引き戻した。

 

「いいえ、農村や漁村などにある車輌や運送を行なっている様な車輌もあります。ただ、その殆どが武装しておりました。」

 

 針谷は成程、と納得し発言した。

 

「もしかしたら自衛用とは思えないかな。戦争とかなら参戦するかも知れないけど、普段は民生用とかね。」

 

「確かにそう言う事だと思います。」

 

「つまりね、何が言いたいかと言えば、民間向けとしての需要があるかもね、と言う話だ。」

 

 そんな針谷の考えを聞き、三田がまとめた。

 

「その可能性は大いにあるかも知れない。針谷さん。兎に角、食糧や資源を買うと同時にこちらも何か売らないと行けない。向こうがどれだけ出せるかが分かってからの話だが、新世界法の改正も必要になるかも知れない。」

 

 取り敢えず各省庁で情報共有、解析を進めるという事で、この先は東京での協議を待つ事となった。

 

 あと、と農林水産大臣の早川が発言する。

 

「食料自給率の向上に努めなければ成りませんね。米の増産も必要です。」

 

 和泉がよく分からない、と言うように聞く。

 

「輸入先が見つかったなら良いじゃないですか。もしかしてエコとか気にしてます?そういえば今年でMDGsが終わるって話ですけど次は何だと思いますか?私は新世紀エコ計画とかですかね。」

 

 早川はあくまで真面目だ。

 

「その輸入先は戦争をします。海上封鎖って事もあるでしょ。あと新世紀エコ計画ってミレニアム開発目標(MDGs)とほぼ同義ですよ。和泉くん。」

 

 武田は悲観的になって締め括る。

 

「この世界では通商に外交が不安定と言うことか。下手に安全保障なんかすれば内戦に巻き込まれそうだな。」

 

 ちょうどその時、食料5500万トンについてクイラ王国のみで賄える、と言うクイラ王国使節の発言が報告された。

 

 

<迎賓館赤坂離宮>

 

 日本の食糧問題が解決出来ると分かり、日本側はより気を引き締めた。これからはその輸入を可能とする為にクイラに何をするかと言う話だからだ。

 

「つまり、船舶や自動車を売ってくれると。」

 

「はい、ただし民間のみで、軍には売ることができません。」

 

 メツサルは不満と言うより試す様に聞いた。

 

「我が国と貴国はこれから密接な関係を築く事となると認識している。軍に売ることが出来ないとは、我々が信頼できないと言うのか?」

 

「いいえ、我が国には紛争当事国に武装を動かさないと言う原則があります。武装として輸出する事は出来ないのです。」

 

 メツサルは大袈裟に驚く。

 

「貴国の情報機関は途轍もなく有能である様だな!まあこの世界の国なら皆知っている事だが、我が国はロウリア王国との戦争を計画している。タイミングは秘密だがね。」

 

 戦争するとあっさり認めた事に田中たち日本側は驚いた。

 

「ちなみに発端は何ですか?」

 

「ロウリア王国内で少数種族である獣人族の保護だな、大義は。言ってしまえば30年以上続く戦争の遺恨、それ以前のロウリア地域における非人間種の迫害、そしてロデニウス大陸統一だ。なぁ、ここまで教えているのはあなた方が良い客になりそうだからだよ。太客が我が国以外に騙されるのは困るからな!フーハッハッハッ!!」

 

 そうして貿易や関税の内容に関して詰め、国交樹立の準備が整う。国民は、ここ数週間そこら中で報じられ不安に感じていた食糧問題が解決すると事になるという報道に一安心し、工業関係者は輸出に関して検討を始めた。

 日本全体がひと段落ついたと落ち着き始めた時、一方交渉を行った田中たち、そしてその様子を聞いた政府関係者は皆悔しさを感じた。

 

「こんな侵略国家に日本の命綱を握られると言うのか!」

 

そして他の国家との接触や、クイラへの依存を減らすため、食糧増産・資源採掘の計画に奔走していくのだった。

 

 

 

 

 

≪中央暦1639年2月24日≫

<クイラ王国緊急諸侯議会>

 

 王宮の大議場に緊急であると呼ばれた諸侯やその代理は、情報収集を兼ねて各々議論を始めていた。

 

「やはりロウリアへの宣戦でしょうな。」

「マイハークで異変があったと聞いています。どうなんですか、ハガマ殿。」

「マイハークで起きたのは謎の航空機の襲来だ。最も軍によって追い散らされたがね。」

 

 クイラ王ルガメフ23世が入場すると、議場は一時静かになった。

 

「こんな朝早々、諸君らに集まって貰ったのは、新たに現れた国家と国交を結ぶこととなったからである。場所はロデニウス大陸の北東、国名は日本国だと言う。」

 

 議場は再び騒がしくなった。北東と言えば、ロウリア戦においてクイラの背後となる。

 

 国を自称するものが現れる事には慣れている。現地を支配するゲリラ、離島を占拠した海賊、島を買った金持ちなどが、今までにも幾度なく建国を宣言してきた。

 

 しかし、クイラ王国が国交を結ぶ程の規模がある国はなく、軍によって鎮圧されるか、自然崩壊するばかりであった。

 

 果たして北東にそれ程大きな島はあったのか?などの疑問が浮かぶ。

 

「彼らは巨大な鋼鉄船によって訪れ、哨戒機が領空侵犯したことを謝罪したいと言ってきた。」

 

「そんな規模を国に軍は気づかなかったと?」

「我が国の歴史を見ろ、列強国の支援があったのでは?」

「我等には発展のポテンシャルがあったからこうなれた。北東にそんな価値のある島があったとでも?」

 

 王の言葉に諸侯たちはそれぞれ疑問を飛ばす。

 

「曰く、転移国家であるそうだ。」

 

 議場はより一層騒がしくなる。議場で御伽噺までされるとは思わなかったからだ。

 

「まあ、諸君。朕も全て真に受けたわけではないとも。国交を結ぶからには理由がある。我が国も、彼の国も。」

 

 この王は利に敏感でな事で有名で、彼の見立ては予言の様に有り難がる者もいる程である。

 

「彼の国は、自動車の製造能力を持っている。」

 

 議場はかつてない程の騒ぎとなった。自動車の製造技術は第3文明圏とその圏外を東西に二分する勢力の長、パーパルディア皇国連邦とパンドーラ連合公国が保持・秘匿しているもので、彼らの優位性の根本となっている。

 多くの部品は市場に出回っており修理は容易いが、中枢は2国から買う必要があり、各国は製造を目指しているものの、一から全て組み上げるまでに至った国はない。

 

 新たに製造が可能な国が現れれば、この第3世界に第3の陣営が生まれる事であると言うことである。

 

 北西のパーパルディアと北東の日本によって、ロデニウスは再びチェス盤にされてしまうのではないか!と誰かが叫び、議場に悲鳴が響き渡る。

 

「しかし、日本国には自国民を養えるだけの食糧、自動車を製造する為の資源、全ての闇を照らす分の燃料を持たないのだ。そして、それらは全て、我々が持っている物だろう。諸君、日本国は我が国への自動車輸出を決意した。」

 

 これ自体は良いニュースだ。これからクイラ王国はパーパルディアと日本国の間でバランスを取る事になるのか、と多くの者は予想する。

 しかし、一部の者は既に気付いていた。それを国王が畳み掛けるように言う。

 

「これがどういう事か。我が国は、高い技術力を持つ国家の命綱を握っているのだ。良い関係が築けそうではないか。」

 

「おおっ」

 

 全員が天恵だと喜ぶ。

 

「しかし日本国はその状況を許すのですか?」

 

「彼の国は他国を侵略しないと憲法で定めているのだ。軍も最低限しかないと言う。まあこれで最低限とはどんな魔境だ、と聞きたくなる規模ではあるが。更に、彼らは民主主義だ。飢餓の危険を冒してまで戦争する事は出来ない。」

 

 納得しない者の質問に国王はすぐさま答え、クイラにとって良い話である事をアピールした。

 

 そして幾つかの質問に答え大方片付くと、王は真剣な面持ちで話を再開する。

 

「さて、何故今日本国について話したのか。それはクイラ王国の今後の躍進に関わる重要な国家であるからだ。その今後とは、ロデニウス大陸統一後の事である。」

 

 この言葉にいよいよか、とここに居る誰もが思った。

 

「我、ルガメフ・クイラ・ナ=ラムシンが、『ロウリア王国に対する懲罰法』を議会法第七条一号に則って発議、議会王権法第三条三項に従い討議を省略し、議員による投票を行う。」

 

 議員たちは自分が歴史的瞬間に立ち会っていると自覚し、後世の人々の視線を感じるのか背筋を伸ばす。

 

「議会法第七条四項により、内容を読み上げる。『ロウリア王国は、ロデニウス大陸において各国はクイラ王国の承認した国家の不安定化を計画してはならない、と定めたロデニウス連盟法を一方的に無視し、上クワ・トイネ侯国の反政府組織に援助を行った。よって、クイラ王国諸侯議会はロデニウス連盟会議の代理として、連盟憲章第百七十四条二項に定められた非理事国差配権により、ロウリア王国の自治権を剥奪し、クイラ王国へ統治権を委任する。』以上。」

 

 ロデニウス連盟とは、クイラ王国が勝手に作った連盟であり、加盟国はクイラ王国構成国とロウリア王国だけである。そのロウリア王国もロウリアの反政府軍が勝手に加盟しているだけであり……。

 

 つまりクイラ王国の自作自演である。

 

「それでは皆様、投票を行なって下さい。」

 

 議長である宰相の声に議員は1人ずつ立ち上がり投票して行く。最後の1人が投票すると、集計を行い議長が結果を発表した。

 

「賛成98票、反対0票、棄権3票で『ロウリア王国に対する懲罰法』は可決されました。」

 

 

≪中央暦1639年3月1日≫

<エストシラント・モダンタイムス紙上>

 

 第五次ロデニウス戦争勃発か

 

 クイラ王国諸侯議会は1639年2月24日、『ロウリア王国に対する懲罰法』を可決させ、ロウリア王国に対し政府の解体や統治権の返上など、絶対に容認出来ない要求を突きつけた。

 

 クイラ王国は30日の猶予を与え、それまでに要求を実行しなければ制裁戦争を行うと宣言。しかしロウリア王国各地で蜂起や独立などが起こり、クイラ王国が猶予として与えた期日までに国体が保つか危ういと言った状況である。

 

 独立を宣言した地域の中には、クイラ王国への編入を申請したものもあり、ロウリア王国における反乱祭りはクイラ王国の計画の内であると考えられる。

 

朝刊3面

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。