≪中央暦1639年3月1日≫
<エストシラント・モダンタイムス紙上>
南幻島発見!?現地勢力と衝突か
南幻島と思われる島が発見された事が、28日海軍の発表で分かった。発表によれば、既に南幻島を占領していた勢力と武装商船が衝突しており、武装商船の果敢な自爆攻撃によって、不審な勢力の軍艦が大破しているのを海軍の大東洋調査支隊が確認したとの事である。
海軍は現在、現在勢力に対して、素早い退去や、武装商船の引き揚げを妨害しない事などを求めて睨み合いを続けている。エストシラント港漁業組合への取材を行った所、詳しい事は教えて貰えなかったが、海流の変化が見られるらしく、新しく島が現れた可能性を示唆された。南幻島の場所の推測は6面へ
南幻島の伝承は、フィルアデス大陸東部の沿岸地域に広く伝えられる民話である。ちょうど今朝、国立民俗学研究所と国土測量学会によって、南幻島を記した地図の写しが発見された事が発表された。突如として現れた南幻島は、今までどこにいたのか、現地勢力はどんな経緯で占領に至ったのか。南幻島伝説については8面へ
≪中央暦1639年3月1日≫
<パーパルディア皇国連邦海軍第3艦隊旗艦ディオス艦橋>
『それで、イノス殿。攻撃をしては行けないと?』
アルカオンは不機嫌に聞く。
日本国の軍艦と睨み合いを続けて既に半日以上。日付が変わって朝になっても攻撃出来ない事に彼は焦ったさを感じていた。
実の所海軍には攻撃を躊躇う理由は無い。ロケット砲の斉射で敵の軍艦と市街地を焼き払い、海兵による上陸作戦を行えば良いだけである。
それでも攻撃が実施されて居ないのは、本国のある機関からの要請故だった。
『魔帝技研が反対していてね。転移と言えば魔帝関係だと言って口を出しやがるんだ。魔帝に関わる重要な資料があるかも知れないから焼き払うのはやめろとな。』
『しかし我々は海軍。陸戦は専門じゃありません。だからこそ焼き払い陸上の脅威を減らしてから上陸しなければならない。上陸計画を立てた時そう結論付けました。』
『分かってる。私だってそんな所にある島など無人島にしてしまいたい。あの機関は偶に途轍もなく役に立つのが厄介だよ。今こちらで魔法文明で無い可能性なんかを調査して、どうにか奴らを諦めさせられないかやっている所だ。あと自爆した武装商船を輸送できる船を補給艦と一緒に今そちらへ向けている。日本軍の方に伝えておいてくれ。』
こうして睨み合いは続く。
≪中央暦1639年3月10日≫
<パーパルディア皇国連邦首都エストシラント>
外交官柳田を乗せた船は、クイラのマイハーク港を経由してエストシラント港に到着した。
日本からの外交団は第4外務局の職員に案内され、イノスと面会する事になった。
「どうも、パーパルディア皇国連邦第4外務局長のイノスだ。」
「日本国外務省の柳田です。」
互いに挨拶をすると、イノスはガラスケースを取り出し開いた。
「南幻島が我が国の領土である証拠が見たいらしいな。ほら、これだ。」
ガラスケースの中には羊皮紙に描かれた地図があり、事前に確認していた石垣島など八重山諸島の形に似ている。
「写真の撮影と断片の採取を行なって宜しいですか。我が国の調査機関で確かめたいと考えております。」
イノスが近くの学者らしき女に確認をとった。
「写真と言うのは魔写の事だな。断片の採取は、端の方のインクの付いていない所なら良いとの事だ。」
外交団に同行してきた研究所の男が作業を行う。それが終わるとイノスはガラスケースを学者に渡した。
「我々としては、まず貴国の船舶がどの様な経緯で我が国の護衛艦を攻撃するに至ったかの説明を求めたい。」
「それは簡単だ。我が国では私掠免許を発行している。対象は我が国と敵対している国家と国籍不明の船だ。対象の船を奪取及び沈没させれば報酬が出る。件の武装商船も私掠免許を持っており、ちょうど軍艦撃沈で報酬百倍と言う、ある種のキャンペーンを行なっていてね。それで攻撃という事になったのだろう。」
「貴国の許可のもと攻撃が行われたという事で宜しいのか。」
「そうだ。ただ、この第3文明圏とその圏外において、私掠船による攻撃はその私掠船の所属国からの攻撃とはならないと言う原則がある。反対に私掠船に対して国家が攻撃したとしても、その私掠船の所属国への攻撃とはならないと言うものもあってね。些細な理由から全面戦争に発展する事を避ける目的のあるもので、これらは第1、第2文明圏の国々も認める第3文明圏の国際ルールだ。だから君達が国際社会に加わりたいなら、この原則に従う必要がある。」
嘘か真かはクイラ王国に確認するとして、この自爆攻撃に関してパーパルディアを糾弾する事は国際的な立場を悪くする可能性があると確認できた。
「では、貴国の軍が我が国の国民への攻撃を予告している問題に移ります。我が国としては、国民に危害を加えないのであれば、要求の一つ目と二つ目、沈没船の引き揚げ妨害と、その後の追跡を行わないという事項については、受け入れる事が出来ます。」
「正直その2つは前提だよ。我が国は領土の返還を求めているんだ。」
「我が国と貴国の関係が悪化するのは両国にとって好ましい事ではありません。これを見てください。」
柳田はスッとある地図を見せる。
「これは、フィルアデス南部とロデニウスの地図!!」
自転と反対向きの西へ、JAXAがどうにか飛ばしたロケットで撮影した画像をもとに、大急ぎで間に合わせた地図である。
「この地図には意図的に省いた無人島が幾つかあります。こうした島を拠点に"私掠船活動"を行う事が可能です。」
さらに、と映像を見せて説明する。
その映像は、海軍が送ってきた日本国の軍艦によく似た船から、ロケットの様なものが垂直に打ち上げられ、それが針路を変えて標的艦に命中するものだ。
「誘導魔光弾!?院長に報告しなきゃ!」
映像を見た学者がガラスケースを持ったまま、説明を待たずに部屋を飛び出した。
「この様な高精度の誘導弾によって、効率的に通商破壊などを行う事が出来ます。」
ミサイル1発の値段や装弾数の問題で、そうドカドカ使える訳では無い。ハッタリである。
「我が国も隣国である貴国と、これ以上の関係悪化は望みません。」
軍事技術が相手にバレるのはまずい事だが、今回の場合向こうが武力をちらつかせている状況で、日本は
「石垣島を攻撃したら戦争であり、戦争になればそちらも傷つく。」
という事を、分かって貰わなければならなかった。
情報不足の中、相手が何を望むのか殆ど分からない為、お前の望まない事をやってやる力があるぞ、と示す訳だ。
また、最初にパーパルディアの要求を一部飲んでも良いと言っており、パーパルディアにメリットがない訳でもない。
この武力の誇示によって、両国は戦争回避というメリットを共有する事になったのだ。
その後、日本とパーパルディアは交渉を重ねていった。
<魔法帝国技術研究院>
日本との交渉に立ち会った学者の報告により、突然現れた「日本国」が、魔帝関係である可能性が高まった。
ある研究員が語る。
「やはり古の魔法帝国に連なる者だろう。誘導魔光弾を実用化し、魔写を使い、神聖ミリシアル帝国の技術に似ている。」
別の研究員が意義を唱えた。
「いや、ムーと関わりがあるのでは?」
この世界で転移と言ったら、魔帝の伝説かムーの建国神話である。
「ムーは魔法文明で無いが、その成り立ちに魔帝が絡んでいる可能性は今までも研究されてきた。ムーにしろ、魔帝にしろ、研究対象が近くにあるのは楽しみだ。外務局に対して戦争回避を要請しよう。」
全員が同意し、その日のうちに魔帝技研として要請が出された。
<海軍兵装分析局>
日本国の装備の分析を任された士官が頭を抱えていた。
「どうした、誘導魔光弾が脅威なのは分かるが、我が国でも開発途中だろう。そう何世代も隔絶した物なのか?」
上官の質問に姿勢を正して答える。
「はい。いいえ、これだけ高威力かつ、高命中率の武装を持つ割に、小型艇の自爆で大破する程度の装甲である理由の推測に滞っておりました。」
「はいいいえ構文はやめろと言っただろ。ここは情報を扱う部署だ。誤解を生む表現は困る。装甲の薄さについては聞いている。例えばどれだけ分厚い装甲でも貫通するから装甲は無意味、となったとか、出来るだけ軽くして回避を狙うとか。」
士官は当惑する。
「はい、私もそれを考えました。しかし、武装商船や武装漁船、海賊などの脅威がある中で、装甲の価値は薄れないかと。どちらにしても、狂気の沙汰としか考えられないのです。」
「何キロ以内に近づくな、と予め警告しておいて、それより近づいた全ての船舶をあの誘導魔光弾で沈めて対処していたんじゃ無いか?どちらにせよ狂気の沙汰だと言うのには賛成だ。だが、一隻ごとの費用が安ければ、すぐ沈んでも替えが効くと言うこともある。なぜこれで運用出来たのかは、解析を続けてくれ。」
「はっ。」
≪中央暦1639年3月23日≫
<エストシラント>
「では、沈没船の引き揚げが完了したのとの事ですので、貴国の海軍を撤収させて頂きたい。」
「勿論そうさせて貰おう。領有権の問題は、転移という現象が関わる以上とても複雑なものだ。もっと互いのことを知り、ゆっくり協議を重ねる必要があるだろう。」
石垣島の危機はこうして取り敢えずの解決を見た。
柳田の後輩、中井が柳田に尋ねる。
「それにしてもあの地図、炭素年代測定によると本当に500年前のものだった様ですね。島の配置の形もそれらしいので、八重山諸島が転移したと言うのは案外本当だったり?」
「調べられたのは紙だけだ。本物の古い紙を使って偽造した可能性は大いにある。」
「ああ、確か掲示板でそんなスレがあった気がします。それに魔法による偽造なら私たちには分からないかも知れませんし。」
この新世界では、元の世界にはなかった魔法と言うものがある。日本人は、この魔法のせいであらゆる可能性を考えなければならなくなったのだ。