ゲリラの溢れる異世界へ、日本国召喚。   作:ペジテ市民A

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アルタラス戦争編
火打


≪中央暦1639年3月29日≫

<首相官邸>

 

 パーパルディア海軍の撤退により石垣島の危機は回避された。日本政府はこの世界に置いて有数の大国であるらしい、パーパルディアとの国交結ぶべく協議を続けるなど、周辺国諸国との関係構築に邁進していた。

 

 しかし、国内にも問題を残している。現在日本国内には、2カ国の軍が駐留している。片方は五万五千人以上の在日米軍、もう片方は北方領土を占領する3500人程のロシア軍だ。

 

 南クリル管区は、クリル管区の択捉島を編入してクリル・ロシア共和国を名乗っていた。彼らは返還を示唆しつつ、日本に対して召喚に巻き込まれたロシア国籍を持つ者や、ロシア国内の民族と見做される者達による自治を要求しており、同時に独自に新世界国家との接触を試みている事が分かっている。

 一方の日本政府も、北方領土やその海域に埋蔵されている資源は喉から手が出る程欲しい状況で、ロシア本国から切り離された事を奇貨として、取り戻そうとしていた。

 

 こちらは面倒な状況ではあるが、日本にとっては好転したと言える。

 

 問題が大きくなっているのは、在日米軍の方だ。

 

 石垣島の襲撃があった時、在日米軍は動けなかった。指揮系統の上部が本国ごと消滅していたからだ。

 

 米軍には確かに、本国が核ミサイルの先制攻撃で焼き尽くされた場合のマニュアルは存在した。しかし、国連などの加盟国も無くなってしまった場合、国家間の条約が機能するのか問題であったし、自らの部隊以外と連絡が取れなくなった場合についても、安保条約の発動と言う高度な政治判断をする想定は無かった。

 

 それらの問題への対処を考えた結果、本国が消滅した場合の想定に従って、周辺の米国人の安全確保を最優先とし、石垣島の危険地帯に米国人がいない事を確認すると、軍は動けないと言う結論を出した。情勢不明な世界で、星条旗を掲げて戦い、不用意に米国人を危険に晒すことは出来ないと言う判断である。

 

 しかし、その判断は日本国民に、在日米軍は日本を見捨てたと認識される。

 

 その結果、役立たずの武装組織を養うつもりは無いと、基地の縮小や武装解除などを求めてかつて無い規模のデモが発生、沖縄県警だけでは対応しきれないと応援が呼ばれる程に過熱していた。

 

 そんな状況の中、日本国総理大臣の武田は報告を聞いていた。

 

「要するに、在日米軍は基地を縮小し、武装の貸与などを行うことが出来ると?」

「その貸与には、運用方法の指導がついてくるとの事。暫くは国土の警備に協力して貰わねばなりません。その分の予算も続けて出す必要があります。」

 

 防衛大臣の厳田が答える。彼の目元には濃い隈が出来ていた。新世界に置いての国防を検討する作業に忙殺されているのだ。最近閣僚や官僚達は、各分野で新世界に合わせた方針を設定するなど忙しいばかりで、誰も彼もやつれ果てていた。

 

 そこに新たな問題が降りかかる。

 

「総理、八丈島に難民船が漂着したそうです。漂着は4件目になりますね。」

 

 ロデニウス大陸の混乱によって発生した難民である。

 

 クイラ王国が宣言した戦争開始の猶予期間が後数日で終わろうとする中、ロウリア王国では武装組織の蜂起独立と同時に、大量の難民が発生していた。その多くはアルタラス王国やシオス王国に流れ着いたが、それを越えてパーパルディアへ向かう者や、パンドーラを目指す魔術師なども居た。

 

 ロウリアの人々で日本の存在を知る者は限りなく少ない。なので日本へ流れ着いた者達は、日本の転移によって変化した海流に捕まって漂流して来ただけであり、日本を目指して来たわけではない。それでも漂着の例がある為、今後沖縄などの存在が広く認知される様になると、難民が押し寄せる可能性がある。

 

 更に厄介なのは、例によって難民船すら武装しているのだ。

 

 護衛艦への自爆攻撃と、それによって死者が多数出た事は武装船に対する国民の目を厳しくさせた。今では武装した不審船には、救助の為でも近づくべきでは無いと言う意見が主流であり、これは当たり前とも言えるのだが、この世界の船は当たり前の様に武装しているのだ。重火器を設置して居なくても、船員がライフルを持っている程度は普通であり、その程度でも死人は出かねない。

 

 結果として海上の難民船へは手が出せず、漂着すれば機動隊が出動する事になり、現在でも負担が馬鹿にならないので、これ以上増える事は避けたかった。

 

「北方領土、米軍問題、難民問題、沖縄の方は大丈夫なのかね?」

 

 武田は胃に穴が開きそうだと言って溜息をついた。

 

 そこに法務大臣が悪い話だと前置いて報告する。

 

「あの、総理。公安調査庁からの報告なのですが。」

「公安調査庁?また国内問題が積み上がるの?」

 

 法務大臣は容赦なく肯定する。

 

「沖縄独立派と見られる人物が、国籍不明の外国人と接触している事が分かりました。米軍へのデモ集会の中でも独立と言う意見が上がっていると言う報告もあるので、今後運動が活発化することが予想されます。」

「その国籍不明の外国人とは、「この世界の」外国人という事ですか?」

 

 厳田の質問に法務大臣は恐らくそうだろうと言い、外務省とも協力する必要があるとした。

 

 その後、外務大臣の佐藤がパーパルディアで協議をしている外交官からの報告として、パーパルディア国内について分かった事を報告した。

 

「パーパルディア皇国連邦の国内は、大きく3つに分断されて居ます。辺境の独立派、上流階級の皇帝派、民衆の決戦派です。」

 

 

 

 

 

≪中央暦1639年4月5日≫

<パラディス城>

 

 第4外務局のイノスは、日本の転移によって変化した東方の安全保障について、御前会議で提案した。

 

「問題の南幻島含む列島は、エストシラント港とクイラ王国本土を繋ぐ航路上に存在しています。パンドーラのマール半島からアルタラス、シオス、南幻島、日本を繋いだ地帯が敵対すれば、我が国はロデニウス大陸及び他の文明圏との主要な航路を封鎖される事になります。ですから、この弧を描く様な線上に、穴を開ける必要が有ります。」

 

 大きく広げられた第3文明圏の地図を見て、会議の参加者達が納得する。最後に皇帝ルディアスが頷いたのを見て、イノスは発言を続けた。

 

「南幻島含む列島、彼らの自称で言えば琉球列島については、調査員の調べにより、150年前には琉球王国と言う独立国が存在した事が分かっています。琉球王国復興プランは、南幻島の領有問題とエストシラント=クイラ航路問題を解決するものであり、計画の開始を提案します。」

 

 この計画の進行自体は、日本との関係悪化が危惧されるが、元々最悪であるし、ある程度の戦力はあるものの、パーパルディアが負ける事は無いだろうと考えられていた。日本との関係改善は重要視されていなかったのである。

 

 だが、別の点から指摘が入る。

 

「その計画の遂行にはどれほど時間がかかり、また成功率は如何程と見込まれるのか?」

 

 第1外務局長のエルトだ。

 

「日本国の反乱鎮圧能力がどれほどか分かりませんから、その辺りは不明です。まず可能性かどうか調べる為にも計画の開始を提案致しました。即時性のある案としては、クイラ王国を通して日本国に通行を許可する様に圧力を掛けましょう。クイラ王国ともその点で利害が一致しますから。」

 

 エルトはその案を認めつつも、納得しない様子だった。

 

「日本国が拒否した場合どうするつもりだ。勿論クイラは圧力を掛けるだろうが、それを跳ね除けるタフさが日本にあれば?交易出来なければクイラにとって我が国の価値が下がる。クイラが日本に妥協する可能性をあるだろう。だいいちその案では永続的に我が国国の利益が保障されるものではない。いつでも日本国は封鎖出来ると言う事だぞ。」

 

 イノスが答えようとすると、国交監査室の皇族レミールが割り込んだ。

 

「日本だか南幻島だか知らないが、併合すれば良いだろう。」

「レミール様?恐れながら日本国は強力な海軍を……。」

 

 レミールはイノスを馬鹿を見たかの様な目で睨み、打ち消す様に強く言った。

 

「日本とやらの事を言ってる訳では無い。馬鹿が。皇帝陛下の海に浮かぶ鳥の糞、或いは蝙蝠国家。アルタラス王国の事だ。」

 

 

 

 

 

 

<パラディス城鐘楼>

 

 窓の外では、エストシラント港の灯りが暗い海を照らしている。

 

 パラディス城で最も高い鐘楼には、皇帝ルディアスと宰相のルパーサだけがいた。

 

「ルパーサ。アルタラス侵攻のタイミングはどうするべきだ?」

 

 アルタラス侵攻は琉球王国復興プランと共に御前会議にて採決された。しかし個々の計画の内容はまだ定まっていなかった。

 

 アルタラス王国は、パーパルディアとパンドーラによって大陸が分割されていった時期から蝙蝠外交を続けており、現在のパンドーラよりの中立という立場も、ルディアスの即位後、シオス王国がそれを承認しなかったシオス不承認事件に乗じて獲得したものだ。

 

「陛下、私見ながら申し上げます。ロデニウス戦争の終結前がよろしいでしょう。ロデニウス大陸の足掛かりを失うと、パンドーラはマール半島まで後退する事となります。よってアルタラス王国に駐留し、ロデニウスにおける敗北の威力を緩和するよう動くと見られます。パンドーラの派遣軍主力がロデニウスからアルタラスに動く前に事を済ませるべきです。」

 

 ルディアスは深く頷いた。

 

「そうだな。ロデニウス戦争が終結すれば、皇国連邦の再編を考えていた。アルタラスの併合完了もそれと同時期に成されれば良いのだが。」

 

 ルパーサは少し不安の色を示した。

 

「陛下。連邦を解体し帝国とすれば、東西決戦の動きは強まります。アルタラス侵攻は決戦の前哨戦と見られる事になります。陛下はやはり鉄と血による大陸統一を目指されますか。」

 

 ルディアスは皇帝としての責任を感じながら力強く言った。

 

「ああ、大陸を統一し第3世界の全てを文明化して神聖ミリシアル帝国に勝る超大国を建設する。月神に選ばれた皇国の力を示すのだ。」

 

 

 

≪中央暦1639年4月6日≫

<カルトアルパス、とある酒場>

 

 空から薄明かりが消え、街灯の光が際立ってくる夜も更けた頃。テレビではニュースをやっている時間帯である事から、酔っ払い達の会話は世界情勢の話題が多くなっていた。

 

「ロデニウス戦争の話聞いたか?王都で主力部隊が包囲されてるらしいな。」

「第……五次だったか?丸々3個軍が完全包囲とはな。なんでも王都の裏口を守る侯爵家が裏切ったとか。」

 

 ニュースを見ながら喋る二人組に事情通風の男が話しかけてくる。

 

「この期に及んで御家騒動の結果らしい。これじゃロウリア軍には期待出来ねぇな。後はパンドーラ軍がどこまで頑張るかだ。」

 

「あれ、それまた何でパンドーラが関わってくるんだい?」

「馬っ鹿お前ニュース見てないのか?ロデニウス戦争は最初からパーパルディアとパンドーラの戦争だぞ。クイラはちゃんとやるらしいが、ロウリアはいつもダメだ。」

 

 二人組の問答に男は修正を加える。

 

「意外と知られてない話なんだが、パーパルディアは第一次ロデニウス戦争の時寝耳に水だったらしい。それにパーパルディアは武器の支援ばかりで殆ど軍は送って無いって話だ。」

 

「それじゃあ何でクイラは勝てるんだい?パンドーラだって列強だろ?」

 

 男はいい質問だとばかりに答える。

 

「そこがクイラがパンドーラの後釜として列強入りするだろうと言われている理由だよ。あの国の地力は恐ろしいからな。あとパールバティアの世論操作だよ。上手くパンドーラで厭戦気分を高めているらしい。」

 

 二人組の片方は怪訝そうに尋ねた。

 

「でもよぉ、ロデニウスが重要なのは俺にも分かるぜ?パンドーラだって馬鹿じゃ無いんだから主力で掛かれば負けないだろ。仮にも列強なんだし。」

 

「パンドーラはマオ王国の冊封諸国からの領土割譲を狙う北進派と、アニュンリール皇国からの領土割譲を狙う南進派の対立が凄いからな。パールバティアとの冷戦状態は維持されると考えている奴が多いのもあるだろう。」

 

 二人組はいまいち分からないと言う感じだが、その片方が話題を変えた。

 

「派閥と言えばパールバティアの方はどうなんだ?今の皇帝になってから独立派が弱体化したのは聞いた事があるが。」

 

「皇国派、つまり周辺の非列強国を従えてからパンドーラを外交的に併合しようと言う意見と、決戦派というパンドーラとの決戦を行い、大陸を統一してからその覇を拡大しようと言う意見の対立だな。今は決戦派が優勢と言う話だ。」

 

「へぇー。パンドーラが勝つ可能性は万一にも無いのか?俺パンドーラと取引が有るんだ。」

 

「さてな?パンドーラは魔法文明寄り、パールバティアはムー程では無いが機械文明寄りだからパンドーラを応援したい気分もある。だが実際問題パールバティアの方が強いだろう。パンドーラとしてはマオ王国とクイラ王国が参戦してやっとこさ互角って所だ。」

 

「そう言えばクイラ王国が新興国と国交を結んだとか言ってたな。日本だったか?」

 

 この質問には男を困り顔だった。

 

「どうだろな。ここに来て新たな国が出来たと言えば東西の緩衝国だろうけどよく分からん。」

 

「そうか。まあいいや。取り敢えずパールバティアは全面戦争を考えているってことか。」

「まあ皇帝次第だな。全面戦争ともなれば戦線は長大、犠牲も膨大だ。私は残念ながら戦争で儲けられる仕事じゃ無いのでね。嫌な話だ。」

 

 先程パンドーラと取引が有ると言った男は酔いが醒めたのか深刻な顔で呟いた。

 

「パンドーラとパールバティアの国境って確か5000キロ位あったか?その全部で戦争するならとんでもないことになるな。」

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