カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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初投稿&処女作です。
わかりづらいなと思う場所が多々あるやもしれません。


マリンホエルオー号の中で
蛇口のトラブルと【あいいろのたま】


 夢を見た。

 なんのことはない些細な夢。

 ハマったゲームを何日もぶっ続けでやっていたら、夢の中でまでそのゲームみたいになっていたみたいなアレだ。そんなものがきっかけになりうるなんて…………あのときは微塵も思っていなかった。

 

 光る階段を登りながら、ゆっくりと微睡んでいた意識が浮上してくる。偶にある夢だと自覚しながら見る夢。

 

 ああ…………これは夢か。そんなことを呟きながら辺りを見渡す。

 

 階段はまだまだ続いており、下には折れた石柱やレンガ敷の地面がある。おそらく遺跡か何かなんだろうなぁ。上を見ると曇天気味でなんとも言えない雰囲気だ。風は今のところ吹いていない。今更ながらなんで階段を登る必要があるのかわからないが、俺は必要なんだと感じている。使命のようにも思えた。

 

 それは夢の中だからか? それとも、また俺が狂っただけか?

 

 意識がはっきりした頃には、なかなか急な階段の終わりが見え始めた。ぶっちゃけ今の状況はかなり怖い。

 

 下が見えてしまったため自分がどれだけの高さ――――石柱の大きさから考えて少なくとも50m以上はありそう――――に居るのかを漠然と理解してしまったのだ。こんなことなら微睡んでいる状態の方がまだ良かっただろう。なんでこんな夢見てるんだ、と愚痴り思考を恐怖から変えようとするがそう簡単に変わるものでもない。

 

 階段から落ちるかもしれないという恐怖に震えながら登り続けること10分。

 

 階段を登りきるとガラスのように透明な床があり、同時に緊張が途切れたせいか足が生まれたての子鹿のようにプルプルしている。冷汗が止まらず、張り付いてくる服がそこはかとない不快感を与えてくる。起きたらゆっくりと風呂に入ることを心の中で決める。

 

 ようやく安心できると思っていると視界の端に何かが佇んでいた。

 

 それは大きさがだいたい3.2mぐらいだろうか?威圧感が凄まじく、自然とひれ伏す体勢を取ってしまう。そんな体勢をとっているのに足はまだプルプルしている。

 

 俺がネタに走りやすい性だから体もそれに適応しきってしまったのだろう。

 

 少し頭を上げると、4つの足が見える。基本の色は灰色だが、先端から脛のあたりにかけて黄色に近い金色の装飾がついている。ゆっくりと顔を上げて全体像を確認。4つ足のそれは静かにこちらを見ている。それはポケットモンスターの世界で創造神と言われている偉大なる祖。アルセウスが【藍色に光る珠】を咥えて佇んでいた。

 

 どうしてかは分からないがアルセウスよりも【藍色に光る珠】に見惚れていた。間の抜けた顔を晒しているとガコーンッ!! という音と共に頭に激痛が走る。

 

「痛ってぇぇぇぇぇ!!」

 

 ズキズキと痛む頭を上げると、金ダライが音を立てながら目の前に転がっている。恐らくこいつが頭にピンポイントで降ってきたのだろう。降らせてきた原因であろうアルセウスは、悪びれる様子もなく金ダライの中に【藍色に光る珠】を放る。カンッと音を鳴らし金ダライの中を跳ね、今度は顔面に命中する。

 

「痛ッ!!」

 

 眉間にじんわりと熱がこもっている。この夢の世界は顔面もアウトになるようだ。

 

「顔はやめろ! ただでさえ世間的に受けづらい顔がより悲惨になるだろ!!」

 

 目の前のアルセウスに心からの叫びをぶつけるが効果はないらしい。この叫びはゴーストタイプだったのだろう。

 

 悲しみを感じ、よよよと泣き崩れながら引き寄せられるように珠を拾う。

 

 テニスボールぐらいの大きさのそれは、手に持ってみると光沢があり石と同じぐらいに硬い。にもかかわらず、先程の光景から鑑みるによく跳ねるようだ。まったくもって謎物質である。これほど硬いならさっきの一撃はもう少しダメージが入りそうなのだが、これがギャグ補正なのだろうか?

 

 恨みのこもった目でアルセウスを見ると既にそこには居らず、金ダライと【藍色に光る珠】、それに俺だけが残されていた。

 

「……………………え?」

 

 いない。どこ行きやがったあの4足動物め。そんなことを思っていると何やら空が輝きだした。雲が開けたのかと上を見ると(アルセウス)が輝きながら何かを溜めている。

 

「ヤバッ」

 

 周りを見ても、逃げ場もなければ下に飛び降りても死ぬだけである。金ダライをパラシュート代わりに使えないかとも考えたが、明らかに力不足。詰んだ、仕方なく金ダライを頭に被ろうとするが…………時既に遅くどこからか、【さばきのつぶて】という声が聞こえて身体と意識は吹き飛んだ。

 

   ◇  ◇  ◇

 

「ハッ!!」

 

 目を覚ますと世界が反転していた。

 

 …………俺が逆さになっているだけか。ベッドの上に戻って部屋を見回すと、普段通りの見慣れた天井に見慣れた部屋だった。テーブルには昨夜も諦めた目で眺めていた自分のカルテと、医学書が山のように積まれたままで片付けられていない。昨日ぶちまけたアルミ鍋も転がっている。散らかった汚部屋という印象のままだ。当たり前だが昨日と一切変わっていない。

 

 寝汗が酷く、ベッドの上で暴れたように掛け布団がずり落ちている。鏡で全身を見るが服装も含め普段と別段変わりもない。

 

「ああ、よかった……アルセウスに弄られた上に吹き飛ばされた俺なんて居なかったんだ!」

 

 高らかに宣言する。頭にたんこぶのようなものがあるのは気のせいである。とりあえず一安心すると、途端に寝汗で張り付いた服が邪魔に感じ始めた。

 

「洗濯するか…………今度夢であったらマスターボールぶつけてやる…………」

 

 愚痴りながら洗濯機に寝巻きを入れ昨日の洗濯物と一緒に洗う。今日回さなければ明後日着る服がジャージのみという悲惨なことになっちまう。

 

「あー、連休明けまでに課題やらんとなぁ……」

 

 大学2年のゴールデンウィーク、色々とやることがあるものだ。ゲームやって、ネットの友達とオンラインやって、ゲームやって、ゲームをやる。自分で決めた偶の休みだ。

 

 もう病院に居た頃の生活はできないのだ。普段以上の筋トレもスケジュールには組み込まれている。今日は皇居ランニングした後に買い物をする予定だったがあまりにも寝汗が酷いな。

 

「先に風呂入ってからランニングして、帰りは帰りで久しぶりに少しお高めの貸切温泉にでも行こう」

 

 買い物はそのあとでも問題ないとつぶやきながら湯を張るために浴室へ向かう。浴室に入り蛇口から水を入れようとすると、何かが水道に詰まっているのか、蛇口を全開にまでひねり上げてもなかなか水が出てこない。

 

「おいおい、故障か? 業者を呼ぶのはゴメンだぞ」

 

 愚痴りながら蛇口を叩いていると、蛇口からボトッと【藍色に光る珠】が落ちてきた。詰まりがなくなった蛇口からは一気に水が流れ始める。

 

「………………………………ファッ!?」

 

 一瞬思考が停止していたが、こいつ今どこから出てきやがった!? 少なくとも我が家の蛇口は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が通り抜けられるほどガバガバではない。

 

 どういうことなの…………わけわからないんですけど。

 

 浴槽内に沈んでいる()()はただただ藍色に光っている。とりあえず浴槽内から珠を回収し、改めてまじまじと観察する。電球から降り注ぐ光を淡い藍色の光に変えて反射しているそれは、深い深い深海のような色をしている。屈折ではなく反射なのが不思議だ。重さは300gぐらいだろうか? 

 

 夢の中でなら笑って流したその異様性も現実の中で起こると笑い事ではなくなる。削って顕微鏡で観察してみたくもあるが、頭の中でそれはやめておけという制止が入った。それはとても大事なものだと頭の中で誰かが言っているような気分だ。

 

 相変わらず、もうひとりの僕はなかなかに消極的な意見の持ち主らしい。

 

 この珠についてよくよく考えるとポケモンでこれと似たようなアイテムが昔あった気がする。蛇口を止め、追い焚きボタンを押す。風呂が沸くまでまだ時間がありそうだ。

 

「コイツについて調べてみますかねぇ」

 

 ポケモンの対戦系アイテムや種族値は覚えていても、アイテムを全て覚えているかと言われればそんなわけがないと言える。

 

 ただ、これに似たようなものがあるのは覚えていたし、まさか本当にアレなはずがないと思っていた。しかしどれだけ探してもコイツはアレ以外には思えない。

 

「まさかコイツ本当に【藍色の珠】なのか?」

 

 実物だとするとかなりヤバい物を夢の中で受け取ったことになる。ゲームだからあの大嵐は凄いなー、で終わらせられたのだ。あの大嵐が現実で起きようものなら海抜が低い場所は完全に沈むだろう。川も氾濫する。こいつのせいで東京がやばい。

 

「どうしようこれ……………」

 

 正直どう接すればいいのかわからない。とりあえず大型の水晶を飾っていた神棚に入れ替えるように置き、祭り上げておく。そして貢物として鮭とばと缶ビールを置いておくことにする。

 

 ……………カイオーガって何を食べているんだ? 恐らくモデルはシャチなのだろうが、まさかホエルコやホエルオーの舌だけというわけではないと思いたい。

 

 夢で見た結果まさかこんなことになろうとは、このリハクの目をもってしても見抜けなかった! 一人でやっても虚しいだけだな、これ。

 

 「お風呂が沸きました」

 

 風呂が沸いたのをナビの機械音声で伝えてくる。考えても仕方がないと判断して風呂に入ろう。とりあえず風呂に入ろう。何が何でも風呂に入って落ち着こう。正直朝の時点でパンク寸前だったのに珠のせいでオーバーヒートを通り越した。もう何がなんだかわがんね。福島在住でもないのに福島弁が出てくる程度には混乱している。珠から常に【あやしいひかり】が出ているとしか思えんな。

 

   ◇  ◇  ◇

 

「いい風呂だったのにすっきりしないのはなぜだろう?」

 

 俺は誰に言ってるのだろう。時折視線のようなものを感じるのだが、心の中の言葉に反応しないということは、少なくともそれはもうひとりの僕ではないようだ。

 

 虚しいな……まぁいいや、とりあえずランニングしよう。予定を崩すとろくな目に遭わないのが俺だ。

 

 いつの間にか珠の前に置いた鮭とばが無くなっていて、ビールのプルタブも開いているが気にしたら怖くなりそうなので放置する。世の中気が付いてはいけないモノってのが多くある。きっとこれもその一つだ。

 

 いつも愛用しているトレーニング用の黒を基調として黄色のアクセントが入ったジャージを着る。少し大きめのリュックサックにタオル、着替え、2ℓペットボトル、非常食にカエル印のケロリーメイト抹茶味を2箱、財布を入れると準備は万端。よし、心機一転するために走りにいこう。現実からの逃避行だ。

 

 

 

 扉に手をかけ外に出るとそこは……………何故か客室のような場所だった。


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