カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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章終わりに挟む小ネタがメインのアーカイブですが、偶に主人公や他の登場人物に関する情報も出てきたりするので、息抜き程度に眺めてもらえたら幸いです。


アーカイブ1

 ~~フルコンボ~~

 

 アクア団を退けて気分を良くした俺達は、またコロシアムに行って修練を積み続けていた。現在の相手は御神木様(テッシード)が苦手な格闘タイプのチャーレムだ。

 

 格闘タイプのポケモンと戦うのは初めてだ。こうして格闘タイプと戦うことで格闘ポケモンの動きを覚え、立ち回りを上手くすることを目的としている。

 

 まずはいつも通りにステルスロックからいくか。

 

「御神木様、【ステルスロック 城の陣】構築!!」

 

「クギュル!」

 

 物理相手ならこれで対策できないかと思っていたが、そんな甘えは簡単に打ち砕かれた。

 

「チャーレム! 【いわくだき】をしながら突っ込め!」

 

「チャー!!」

 

 【ステルスロック】の花びらを砕きながら、一直線で御神木様を目指してくる。スゲェ…………感心している場合じゃねぇ! あんなの貰っちまったら御神木様がベコベコになっちまう。どうすれば相手は止まる? 焦るな、考えろ。

 

「【タネばくだん】で迎撃しながら後退!」

 

 【タネばくだん】を撃ってもうまい具合に岩を盾にしながら進み続けるチャーレム。これ以上近づかれるのはマズイ。

 

「御神木様! 【ころがる】で横から転がって距離を取るんだ!」

 

 普通に動くより少しだけ速い程度だが、岩に足止めされているチャーレムからなんとか距離を取ることができた。だが問題はここからだ。転がるの性質上すぐには止まれない。技のタイプもチャーレム相手では今ひとつ。

 

 逃げに徹するしかない。

 

「チャーレム、【こころのめ】! その後に【とびひざげり】だ」

 

 チャーレムはどんどん距離を詰めてくる。もう射程圏内だろう。転がるはあと少ししたら解除される。そうしてすぐ、最後の石が【とびひざげり】で粉砕された。

 

「【タネばくだん】で迎撃するんだ!」

 

 引いてくれるかとも思ったが、俺の認識はまだまだ甘いようだ。焦りすぎて格闘タイプでよく使われるあの技を忘れていた。

 

「【みきり】で躱して【はっけい】!」

 

 【とびひざげり】の体勢から一転して【タネばくだん】を見切り、【はっけい】をぶち当ててくる。バコンッ! と鉄が凹む音をさせながら、御神木様が空中に打ち出された。

 

 そんな御神木様に追撃がかけられる。

 

「チャーレム、【みきり】!」

 

 なんでここで【みきり】? と思っているとすぐに答えが返ってきた。

 

「そのまま【はっけい】、【ほのおのパンチ】、止めに【とびひざげり】!!」

 

「ファッ!?」

 

 なんと【みきり】で鉄の棘に接触しないように、明らかにオーバーキルなフルコンボを叩き込んでくる。うちの御神木様はもうボロボロだ。

 

「やめたげてよぉ!!」

 

 戦いの幕が閉じた――

 

 

 

 ~~【あなをほる】~~

 

「ダイゴさん、俺、気になることがあるんですよ」

 

 たまたま観戦室の中で出会ったダイゴさんに話しかける。

 

「僕も君がなんでキリンの被り物をしているのか、かなり気になっているよ」

 

「なんで俺と対戦するミニスカートの娘たちは、みんな熱血系なんですかね? さっき普通の娘いましたよ?」

 

「知らないよそんなこと。君確かこの前も残念なお姉さんとしか知り合いになれないってボヤいてなかったか?」

 

「ああ、そんなこともありましたねぇ、懐かしい話だ。そんなことより本題に入りましょうよ。横道にぶれまくりすぎっスよ、旦那!」

 

「本題って、熱血系女子と当たる理由なんて本当に……」

 

「何の話ですか? 俺が言ってるのは女の子の【あなをほる】の採用率が高い理由と、船の中なのに穴掘って大丈夫なの? ってことですよ」

 

「…………はぁ、だんだん疲れてきたな。君は誰に対してもそうなのかい?」

 

「まさか、ダイゴさんにだけ愛情を持って接してますね。で、実際船の中穴掘って大丈夫なん?」

 

「そんな愛情はいらないかな。穴を掘っても大丈夫な理由は、一応コロシアムのフィールドには2mほど土が敷き詰められてるから基本問題はないよ。採用率に関しては知らん!」

 

「ダイゴさんも俺のあしらい方を覚えたほうがいいですよ? はい、これマニュアルです」

 

 昨日夜なべして作った対俺用マニュアルを手渡す。

 

「…………マニュアルには立ち合いは強く当たって流れでお願いします。としか書いていないんだが? というかなんだこのマニュアル。ほかのページも全部内容同じじゃないか!!」

 

 全30ページにわたる対俺用マニュアルがテーブルに叩きつけられる。

 

「ダイゴさん、物に当たるなんて行為はいけませんよ。会話用のマニュアルなんて……電話の対応マニュアルじゃないんですから」

 

 後に最近ダイゴさんの髪が後退し始めているという情報をスタッフさんから入手した。いったい誰がそんなことを――

 

 

 

 ~~冷たい、(ぬく)い、温かい、ヤバイ~~

 

 俺は今とある自動販売機の前で佇んでいる。贔屓にしている雑貨店の店長に『あんた好みの面白い自動販売機が16階にある』と教えてもらい、スキップをしながら16階に来たのだが。

 

 目の前の自動販売機自体には何らおかしいところは無い。いたって普通の自動販売機だ。売っているものは飲み物。

 

 ただ、おかしな点が2つある。1つ目は暖かいと冷たいの間に(ぬく)いとルビが振ってある温度があること。文字の後ろの紙は紫色だ。微妙な温度すぎるだろこれ。生暖かいお茶や生暖かい炭酸なんて誰が買うんだよ…………俺か。あとでダイゴさんの部屋に送っておこう。

 

 2つ目は自動販売機の右下にある飲み物群だ。こいつら温度が書いてなく、ただ一言ヤバイと書いてある。

 

 しかもこいつら個別のボタンは無く、真ん中に一つだけだ。一体どれが出てくるんだ? まさかランダムか?

 

 震える手で財布を取り出しお金を投入する。すぐに入らず、カチャカチャと金属が擦れる音が響く。俺以外誰もいないため、周りに被害が及ぼすことはないはずだ。まず先にヤバイから買おう。どんな風にヤバイのかが気になる。

 

 ボタンを押すとガコンッ!! と重々しい金属の音が響く。これ飲み物の出す音じゃないな、鈍器だろ。取り出し口に手を突っ込むと、なにやら生ぬるい缶が取り出せた。見かけは普通のサイコソーダである。だが、だがしかし、コイツなぜかスチール缶なのである。そして、異様に重い。500mlのはずなのに、1㎏近くありそうだ。しかも缶自体かなり厚めのようだ。普通ならアルミ缶なのに……一体どんな魔改造がなされているんだろうか?

 

 缶を開けるとブシュッ!!! っと勢いよく水柱が立ち天井に当たる。中身がほとんどなくなっていた。……どういうことなの? 少しだけ缶に残っている液体に口をつけると理由がわかった。痛いのだ。炭酸が強いなんてものではなく、缶に少し残った程度の量でも口の中でバチバチと跳ね回るような感触がする。

 

 なんだこれ……新手の兵器になりそうだな。5つほど買い足しておく。今度アクア団にぶっかけてやろう。次に生暖かいお茶を買い、一気に飲む。……うむ、普通の生暖かいお茶だ。ものすごくビミョい。部屋に帰ったら冷やそう。とりあえずダイゴさん用に2本買い、天井の掃除をする。あとで船員さんにも伝えておこう。

 

 後に店長さんから『アレのヤバイは10本買うとレアなグレープソーダ味が1本貰える』と教えて貰ったので30本追加で買っておいた。この世界のリュックの神秘を感じる――

 

 

 

 ~~夕食のパスタ~~

 

「あー……また負けた」

 

 インターネット対戦が終わったことを確認して、ベッドに倒れこみながらゲーム機の電源を切る。以前ならば楽しく遊べていたポケモンの通信対戦なのに、今はイマイチ集中できていない。その結果が【ひかりのかべ】が切れるタイミングの見逃しによる敗北だ。

 

「はぁ……」

 

 最近ため息が癖になりつつあるな。気が付けばため息の数に比例するように、アルコールの消費量も増えてしまっている。そろそろ瓶、缶の回収日だから纏めておかないと。

 

 自分で決めた偶の休みなのに、その実まったくもって休みになっていない。

 

 今後の予定を考えながら、頭を抱える元凶となっている物に目を向ける。何度、テーブルの上に散乱した医学書と自分の体についてのカルテを読み返しただろうか。同時に、調べれば調べるほど、自分の身体というものがわからなくなってゆく。

 

 極度の低体温症。人並み以上の身体能力。他にも色々な傷痕あるが、あの事件の象徴とも言える後遺症は、この極度の低体温症だ。一般的な体温が36.5℃なのに対して、俺の体温は29.5℃しかない。

 

 あの事件さえなければ…………あの渦潮に飲み込まれていなければ、後の事件も起こらなかったはずだ。人の死に関わることも、俺自身が死にかけることもなかったはずだ。

 

 思考の袋小路にはまり込む。最後に行き着くのはいつもこれだ。こいつをどうにかできないと、俺はいつまでも渦潮事件に囚われたままだ。前に踏み出すことすらできない。

 

 どこかに見落としている資料が混じっていることを願いながら、もう一度散乱している資料に目を向けてみる。しかし、ソレは投げ出した状態のままだ。願いは届かず、資料は変わることなくテーブルの上に居座り続けている。

 

 都合のいい理不尽は世界の常だというのに、こうしたささやかな願いはどこにも届かないのか。

 

 いかんな。また暗くなってしまっている。なんとかして、無理やりにでもテンションを上げないと、彫刻している時でもないのに自傷に走りかねないぞ。

 

 部屋の中で気を紛らわすものを探してみよう。テーブルのものは論外。ゲームは気分ではない。本も医学書のことを思い出してしまって集中できないだろう。彫刻……は昨日使った木が最後だったか。考えながら視線を泳がせていると、鏡に大きな神棚と左右が逆転した掛け時計が映った。

 

 改めて時計へ体を向ける。純度の高い水晶を飾っている大きな神棚のすぐ近く。最近手入れをしていないせいで若干動きが怪しいアナログの掛け時計は、既に夜遅いことを示していた。

 

「そういえば晩飯まだだった」

 

 ぽつりと呟く。あんまり食欲がある訳ではないが、今よりも多少は気が紛れるかもしれない。あと普段通りのものをもそもそ食べるよりも、暖かい食べ物を食べたら気分も変わるかね。

 

 よし、心機一転して料理でもしよう。最近は料理を行っていなかったし、軽いサビ落としに丁度いいタイミングなのかもしれない。

 

 とは言えもう時間も時間だ。流石に今は買い物に行く気分でもない。何よりも外でトラブルを起こしたくもないしな。冷蔵庫や戸棚にあるもので何かしら作れないだろうか。

 

 とりあえず材料がないか漁ってみるが、つまみか保存食か栄養食ばかりでロクな食材が出てこない。普段食材らしい食材を買っていないのだから当たり前か。実家から野菜を送ってもらった時もギリギリまで手を付けなかったし。

 

 在庫が一番多いのは栄養食。それこそ文字通り山ができている。そういえば最後に行った買い物で大量に買ったのもケロリーメイトだった。大安売りしていたとはいえ、夏の食事全部これでいいかって思っていたが、楽な方に流されるべきではなかったな。

 

「……お、パスタ麺」

 

 戸棚の奥で保存食の山を掘り返していると、封の空いていないパスタの乾麺を見つけることができた。裏を見てみるが賞味期限はギリギリ問題なさそうだ。

 

「最近麺茹でてなかったからなぁ……」

 

 まぁ、茹でてなかったと言うよりは、茹でなくなったと言った方が正しいだろうけれど。

 

 パスタ麺と醤油とごま油を組み合わせればなんちゃって和風パスタぐらいにはなるだろう。海苔とか買っておけばよかったなぁ。

 

 麺自体は好物だし、食べると決めた以上、着々と準備を進めてゆく。少し歪んだ鍋で湯を沸かして、塩を加えてからパスタ麺を投入するだけ。包丁を使わないのだし、あの時のように問題が起きることはない。だから、何の問題もないはずだ。

 

 危機感を心の片隅に追いやったほんの一瞬。外からサイレンの音が聞こえてきた。パスタ麺を投入した後、泡が溢れかけるほど煮立ってきた鍋から目を離して、ちらりと掛け時計の時間を見る。

 

 それからもう一度鍋に目を向けると――――いつの間にか鍋の中は(おびただ)しい量の目玉で溢れ返っていて、その全ての目玉と目が合った。大小様々な目玉達は融合と分裂を繰り返しながら、目玉同士を繋げている黒い液体の粘り気を増してゆく。その姿はまるで、玩具の目玉を大量に混ぜたコールタールだ。

 

 じぃっと見つめてくる目玉達に対して、すっと全身から血の気が引いていく。視界がブレで、震える口の中でガチガチと奥歯がぶつかり合う。気が付くと、叫びだすよりも早く、身体が勝手に反応して熱湯の溜まった鍋を横合いから殴り飛ばしていた。

 

 派手な音を撒き散らしながら殴り飛ばされた鍋は、その中身を床にぶちまけてゆく。沸騰した湯、茹でられたパスタ…………床に散らばったのはそれだけだ。さっきまで確かにそこにあったはずの目玉達は、跡形もなく虚空へ消えてしまっていた。

 

「ハッ、ハッ、ハァ……ハァ…………ハァ…………」

 

 乱れている息を整える為に深呼吸を繰り返す。最近起きていなかったから油断していた。きっと、何度見ても俺は幻覚(アレ)に慣れることはないだろう。死にかけた経験があるのだから尚更だ。

 

「……ぁ、晩飯……」

 

 最早晩飯を作り直す気力もなければ、食べる気力すらもなくなってしまった。軽く火傷を負った右手を冷やして軟膏を塗り、床を掃除しながら栄養食を押し込むように食べて、掃除が終わるのと同時にベッドへ倒れ込む。騒音については明日大家さんに謝ろう。

 

 色々と疲れた。今日これから見る夢が悪夢でないことを願いながら目を閉じた。

 

 




基本的にはサイレンというゲームのアーカイブのような感じです。プチ情報だとかその時のニュースだとか、あの時他の人は何やってたの? というのを軽く説明するための場でもあります。

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