カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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この世界で……
人とポケモンが行き交う港のポケモン大好きクラブ


 やって来ましたカイナシティ! 人とポケモンが行き交う港!

 

 船乗り場は活気に満ちていて、たくさんの人で賑わっている。改めて思うが海水もかなり綺麗だ。荷物が下ろされている中、その間を抜けるように歩きながら、船長との話を終えたダイゴさんに近づく。

 

「では準備をしてきますね」

 

「準備が終わったらライブキャスターで僕を呼んでくれ。くれぐれも、く、れ、ぐ、れ、も、人に迷惑をかけないようにな!」

 

「いやだなぁ! ぼかぁ人に迷惑をかけたことなんて…………迷惑かけないで生きていける人なんていないさ! そうだろダイゴッ!」

 

 キリッとした顔でサムズアップをする。いいこと言ったな、俺!

 

「いいこと言ったみたいな感じにするのはやめてくれないか!? もう少し行動に責任をだな……」

 

「責任をとった上でしているから何の問題もないね」

 

「僕に対する責任は?」

 

「…………大丈夫だ、ちゃんと、ちゃんと認知するからさ」

 

「その言い方だといろいろな人に誤解を植え付けそうで怖いんだが」

 

「まぁ、上手くやるさ?」

 

「疑問形にしないで答えてくれ」

 

「うむ、そうやって確認する姿勢はとても重要だ。いつかこの経験が君の命を救うことになるだろう」

 

「今はありがたいとは思えないのだがね」

 

「なに、善処はするさ」

 

「ならば、少なくとも街に中ではその馬の被り物を脱いでもらおうか」

 

「まったくしょうがないなぁ、ダイゴ君は」

 

 軽い挨拶をして、栗色の毛並みをした馬の被り物を脱いでから出口に向かって歩く。別に第4コロシアムでダイゴさんにフルボッコにされたうえ、連戦でバトルもマスコミに見られていたことに対するささやかな意趣返しなんてこれっぽっちもしていない。

 

 戦い方の参考にはなったし、御神木様(テッシード)のレベルが上がったのは良い事なんだがもうそろそろレベル20に到達しそうでちょっとまずい。本格的に仲間を探さないと。

 

 キャモメの鳴き声が少し遠い。

 

 とうとう船が着いてしまったという事実をしっかりと感じとってしまった。あのバイキングが当分食べられなくなると思うととてもキツイ。食費という概念がまずキツイ。トレーナーさんって普段どう稼いでいるのか? コイキングでも(さば)いているのか?

 

 それに食費も問題だが、俺は家に帰れるのかというのも気になる。両親(あの人)達は心配しているかもしれない。どうしたもんかね。

 

 アルセウス(あいつ)からの接触もなく、正直どうすればよいのか途方に暮れそうになる。とりあえず情報収集とジムバッジを集めて行動範囲を広げることにするか。そのための下準備をカイナ市場で行う。気持ちよく旅したいしな。

 

 だがその前に町を見て回りたい。荷物が多くなってからじゃ歩きにくいのだ。昔それをやって、買ったはずのドーナツが家に着く頃にはボロボロになっていた、なんてこともあるし。あれ以来気をつけるようにしている。

 

 カイナシティ船乗り場から出て辺りを見ると、船を見に来た野次馬などで溢れかえっている。とりあえず世界観の確認のために右に向かって歩こう。

 

 20分ほど歩くと、遠くにドーム型の建物が見えた。それと同じように赤い箱型の建物も見える。どちらもあるということはおそらく、ゲーム版ルビー・サファイア・エメラルドを混ぜたような世界なのだろう。今までにもマリンホエルオー号内で情報収集をしていたが、どうにも決定力に欠けていた。やはりこういうのは自分の目で見て判断するのが一番だ、うん。

 

 一人で頷きながら歩き続ける。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 行ったか。彼の行動は特殊すぎてついていけそうにないのだが、それでも監視を続けなければならない。

 

 そもそも、新興組織の目的や情報を他地方の人間が知っていることがおかしいのだ。襲撃が起こるとわかっていたようだし、いつから準備していたのだろうか?

 

 それに彼はなぜか【あいいろのたま】を持っている。メタグロスの読心でも、読みにくくはあったが、嘘は言っていなかった。どうにも敵ではないのであろうが、本当に味方なのかの判断もしづらい。ポケモンバトルで理解できるかとも思ったが、何度戦っても尻尾も出さない。

 

 最近の鬱憤も放出できたので満足はしているが。

 

 とりあえず理解できたことは彼が奇行に走りやすいことと、その最中でもどこか冷めたような表情をしている時があることだ。何かがあるのだろうがその何かがわからない。

 

 船内でもそうだ。しきりに女の子について聞いてきたりするくせに終われば、あ、そう……という顔をしてすぐに話題を変える。訳がわからない。彼がマスクを被りたがることと何か関係あるのだろうか?

 

 不思議な奴だ。いろいろとちぐはぐな印象のせいで、他の人間にやられたら不快に感じるはずなのだが、彼からは不快感より先に必死さを感じてしまう。

 

 彼はいったい…………不自然さばかり目についてしまいそうだ。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 さらに40分ほど歩き続けて、ようやくドーム型の建物の入り口付近にたどり着いた。青と白のドームを赤い柱で彩った特殊な建物。やはりバトルテントだ。実物を見たのは初めてだがテントというよりは先程思った通りドームに近い。その横には赤い箱型の建物、ポケモンコンテストの会場がある。記憶通りハイパーランクの会場のようだ。

 

 バトルテントやポケモンコンテスト会場の付近にあまり人がいないことから、今日はやっていないのだろう。ゲームのように、いつでもやっているというのはやはり難しいか。またの機会に挑戦してみよう。

 

 まだまだ道は続いており、海まではそれなりに距離がありそうだ。来た道を少し戻り丁字路を右折する。また1時間ほど歩くとポケモン大好きクラブの看板が見えた。確かここで安らぎの鈴を手に入れられたはず。入ってみるか。

 

 中に入ると、目の前に大きなガラス質の机と緑色のソファが3つ目に入る。そして、そこに座っているおじいさんと目があった。おじいさんというよりも、ジェントルマンの方が合っているかな?

 

「ウォッホン!! わしがポケモン大好きクラブで一番偉い会長ですぞ!」

 

 前言撤回、これは心の中でオッサン呼びすることにする。

 

「初めまして、ポケモン大好きクラブと看板があったのですが、どのような活動をしていらっしゃるのでしょうか?」

 

 内心を出さないように心がけて話す。

 

「ここは、自分のポケモンを自慢したり、皆さんのポケモンを見せていただく場所として提供していますぞ。本当はポケモンコンテストという催しに出て、盛大に自慢をしたかったのですがね。わしはポケモンを育てさせたら右に出るものは無し! と断言できるのですが…………いかんせん指示が不得手でして」

 

「それで、皆が自由に、他の人に自分のポケモンを自慢できる場を作ったのですか」

 

「そうです。今ではなかなか人も多くなりまして。わしの代わりにコンテストで優勝した方もいらっしゃいます。やはり皆さん、自分のポケモンを自慢したくて仕方が無かったということですな!」

 

 はっはっはと笑っているが、そのための場を整える為に奔走したのだろう。努力が報われるというのは、傍から見ていてもとても良い事だと思う。

 

「少し見学させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「どうぞ、ご自由に参加してください。あなたのポケモンを見たがっている子も居るようですし」

 

 いつの間にか後ろから女の子に覗き込まれていた。相当気になるのか少しそわそわしている。

 

「では早速、御神木様自由にして良いそうです」

 

「クギュル!!」

 

「おお、テッシードですか。こちらの地方には居ない珍しいポケモンですな」

 

「お、知っていらっしゃるので?」

 

「ええ。ほんの少しだけですが」

 

 見たことがないポケモンを前にテンションの上がった女の子が、前のめりで御神木様に話しかけている。御神木様も悪い気はしないらしく、いつもより多く回っている。

 

「む? …………むむむ……このテッシード通常のテッシードよりやや色が青っぽくて濃いですな。まさか色違いですかな?」

 

 おお、ひと目で気付くか。流石ポケモン大好きクラブ会長。伊達ではないのか。

 

「そうらしいですね。とは言ってもテッシード種には御神木様しか会ったことがないので、他のテッシードは色がもう少し薄いというのは知人から言われて知りましたよ」

 

 ダイゴさんが珍しく興奮した様子で俺に話してきたときのことを思い出す。一目見ただけでは気付かなかったらしく、自分の目はまだまだだとも言っていたな。それを考えるとこの人は相当ポケモンが好きなのだろう。

 

 いつの間にか御神木様の撮影会となってしまっていたので、少し離れたソファに座って眺める。自分が写っている写真というものにあまり好感が持てないせいでもある。別にローアングルから御神木様を撮ろうとする会長に対して、恐れをなして逃げてきたわけではない。

 

 あれは本物の目だった。邪魔をするべきではないだろう。

 

「隣、いいかしら?」

 

「どうぞ」

 

 隣にお姉さんが座ってきた。

 

「写真、撮らなくていいんですか?」

 

「ああなった会長の近くには行かない方がいいのよ」

 

 少し遠くを見るような目つきのお姉さん。前に会長が何かやらかしたのだろう。

 

「なるほど、どうでした? うちの御神木様」

 

「そうねぇ……目つきがキツイ印象だったけれど、愛嬌もあってかなり可愛いかな」

 

 素行も存外可愛いんですよ?

 

「ただ、あれでも生意気なんですよ。自分が入るボール自分で決めてましたし」

 

「いいじゃないそのぐらい。せっかくパートナーになるのだから、甲斐性のある人を選びたいじゃない」

 

 それは、まぁ、理解できるな。世の中において、幸せはお金では買えないなどと宣う人も居る。確かにソレは事実なのかもしれない。だが、お金は大多数の不幸を取り除く力を持つ。有って損はないのだ。

 

「どんな生き物でも、その辺りは変わらないんですかねぇ」

 

「それに、あの子はなんだか幸せそうだわ。すごくあなたに懐いているわね」

 

 本当に有難い事です。

 

「こっちも信頼していますからね。軽口言ったら必ず棘が来るだろうし」

 

「それは漫才としての信頼ね」

 

「似たようなものですよ」

 

 きっと、俺達にとっては。

 

「そう…………あなたにこれあげるわ」

 

 その手の中には、小さいながらもどこか存在感のある銀色の鈴が握られていた。

 

「これは……安らぎの鈴ですか」

 

 受け取ってみて、一度軽く揺らす。ちりんっと涼やかで透明な音が鈴から奏でられた。

 

「あら、知っていたの?」

 

「知識としては、ですけれどね。ありがとうございます。有難く受け取らせていただきます」

 

 眺めていた銀色の鈴を、リュックの中へしまう。

 

「では改めて、安らぎの鈴は持たせたポケモンの心を安らげる効果のある道具よ。野生のポケモンにも、音を聴かせるだけで心を落ち着かせる効果があるわ」

 

 改めて聞くとなかなかに凄い効果である。そして、野生のポケモンを落ち着かせる効果があるなんて今初めて知った。やはりゲームの知識だけでは足りない部分が多すぎるな。

 

「壊れたり無くしてしまった時はここに連絡を入れてちょうだい。同じ物を送るわ」

 

「何から何までありがとうございます。大切に使いますね」

 

 お礼を言ったあと、少し会話をしてから御神木様を回収する。そろそろ市場に行かんと時間ががが。

 

「君にこれを授けよう」

 

 会長からポケモン大好きクラブ会員証を渡された。

 

「これで君もここのクラブの会員だ。好きな時にまた来ればいい」

 

 ポケモン大好きクラブの面々に別れを告げて、カイナ市場を目指す。

 

 人の多いメインストリートを抜けて、歩き続けること30分。都市になるまで成長した大型市場、カイナ市場にようやくたどり着いた。流石に人の多い方向に進み続ければ迷うようなことにはならないのだ。

 

 賭けには勝ったぞダイゴさん。

 

 入口を抜け、中に入ると人の山だった。そこらじゅうでカラフルな屋台店やテントを張った露天が広がっており、今日マリンホエルオー号から下ろされた積荷をその露天のあちこちで見かける。イッシュ地方(むこう)の商品がやはりこちらでは珍しいようだ。色々と覗いてみるとライブキャスターなども売っているのが見かけられた。ポケナビも売っているようだがここは我慢する。雑貨屋の店長オススメの穴場の店に格安で売っているそうだ。

 

 我慢我慢。さっき買ったたこ焼きを食べながら移動する。まるで気分は縁日だ。

 

 雑貨屋の店長に目的の店や穴場の店を教えてもらえたことは幸運だったのだろう。人が多すぎて、あらかじめ地図に書いてもらっていなければ、ここで確実に迷っていた。危なかったな。

 

 やっとの思いで目的の店その1である粉屋さんにたどり着いた。たどり着いたのだが………話が長いのだ。

 

「傷ついた野生のポケモンは、木の実をかじって怪我を治すの。知ってた?」

 

「ええ、知っています」

 

 この話になるまでが長かった。さっきまで木の実の歴史から始まり、如何に木の実が素晴らしいかを力説していた。

 

「それを目撃した誰かが木の実から薬を作ることを思いついたの。知ってた?」

 

「ええ、そうですね。お陰様でフレンドリーショップで安価で買えるようになりましたね」

 

 育成費から加工費、輸送費、維持費を踏まえて考えてもかなりの安さだ。原価どうなっているんだろう。ぶっちゃけこれダンピングじゃね? とまで思っている。

 

「木の実を薬にするためには粉々に砕いて粉にするの。知ってた?」

 

「しっかり粉砕しないと成分の抽出で上手くいかなかったりしますからね」

 

 質を追求するのなら自作した方がいいのだろうか? ただ、素人が薬物加工に手を出すのは勇気がいる。中途半端な知識はロクな事にならないと言うのが相場だ。

 

「むぅ~、お兄さん知りすぎててつまらない!」

 

 おおう、リアクションを求めていたのか。

 

「な、なんだってー」

 

「今更やられてもねぇ」

 

「えー。まぁいいや、それよりも粉ですよ粉。大量に持ってきているんでポイントアップと交換してください!!」

 

 この日のために手元にあったお金全てで船内にあったナナの実を買い占めて、ダイゴさんを拉致。そのあとに突発イベントとして、ファン交流木の実クラッシュふれあい会を催したのだ。ダイゴさんの話を聞くファンを尻目に野郎どもが木の実をクラッシュして交流を深めさせた。

 

 木の実クラッシュで高得点を出した人はダイゴさんの試合を特等席で見れるようにした結果、みんな鬼気迫る表情をしてクラッシュさせていたな。俺ってファン思いだなぁ。

 

「どれぐらい量があるの?」

 

「袋の最大値である99,999です」

 

「………………え?」

 

「ですから、袋の最大値である99,999です。さぁ、持っているポイントアップを全て差し出すといい!!」

 

 袋の中がパンパンだぜ。二枚目に少し移さないと破れかねないと判断したのだが、あの時の決断は正しかったのだと思う。記憶によるとポイントアップは1本につき3000だったはずだ。相当量の為、普通の人には手が出せない。だから1本ぐらいは見本で置いてあっても、この場に33本あるとは限らないのだ。

 

「……少々お待ちください」

 

 そう言って売り子のお姉さんが奥に入っていった。聞こえる声からすると本部に問合わせているようだ。やはりこの場には無かったか。

 

「すみません、カイリュー便で本社から届けに参りますので少々お待ちになっていただけますか?」

 

 珍しい。カイリュー便なんて今のところ見たことがない。見学させてもらおうかな。

 

「構いませんよ。こちらとしても33本一度に渡されるとは思っていませんでしたから」

 

「ありがとうございます。ほかに何か交換しますか?」

 

「いえ、また貯めてポイントアップと交換する予定なので」

 

「そう…………ですか…………」

 

 微妙な顔をしているお姉さんを眺めていると、上空から急スピードで何かが向かってきている。

 

「空を見ろ!」

 

「あれはなんだ!?」

 

「ペリッパーだ!」

 

「オオスバメだ!」

 

「いや、カイリューだ!!」

 

 どうよこのノリ、隣にいた人とハイタッチする。すぐにやってから後悔したが。それにしても、なんでみんなこのネタ知っているのだろうか?

 

 どうやら頼んでいたものを届けてくれたようだ。ありがたい。カイリューの速さに感動している俺に受け取り用紙を渡してきた。ポイントアップを受け取るには受け取りのサインが必要らしいので、受け取り用紙にサインをしてカイリューに返す。それを受け取ったカイリューが俺に直接品物を渡し、猛スピードで帰っていった。

 

 アレがドラゴンタイプ……凄まじいな。でっぷりしてそうな体型とは裏腹に、物理法則を無視したような尋常ではない速度で移動することができていた。後々はあんな速度のポケモンとも戦わなきゃいかんのか。

 

 売り子のお姉さんに粉を渡し、店を出る。1件目でどうしてこんなに疲れているのだろうか。人の波をかき分けて裏路地っぽいところへ向かう。この辺に目的の店その2があるはずだ。

 

 薄暗い店の中でようやく人を発見する。おそらくここの店員だろう。

 

「合言葉は?」

 

「リアルアニマルマスク最高」

 

「よし通れ!」

 

 店員さんが座っていた場所の椅子をどけると、地下への隠し扉が鎮座していた。これバレないの?

 

「大丈夫だ。基本ここに捜査の手は入らない」

 

「そ、そうですか」

 

 地下へのはしごを降り、目の前の扉を開けるとそこには………………いろいろな被り物(マスク)が飾ってあった。

 

「ようこそ、マスクの王国へ」

 

 虎の被り物を着けた男が低い声で歓迎してきた。

 

 


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