カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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カナズミへの道
眠りの森と新しい仲間


 休憩を終えて自転車を走らせ続ける。獣道や沢の近くを通り、1時間ほど走り続けると到着する予定だ。

 

 気分良く旅に出れるとか言ったが、雨季も相まって思いの外湿度が高いから服が肌に張り付くな。今のところそこまで気にはならないが、ハルカは服が張り付くのを不快そうにしている。たとえジメジメとした場所での仕事に慣れていようとも、心情的には早く涼しいところに行きたいのだろう。

 

 時々ポケモンからの視線を感じながら林の横を通っていると、なかなかいい大きさの枝を見かけるようになってきた。6㎝ほどの太さで長さ30㎝ぐらいかね? この世界の木々は向こうより発育がいい気がする。サゴル・バオバブみたいなのもいるんじゃないかな?

 

「このあたりで一度枝を拾うか」

 

 自転車を止めるとハルカも横に倣って止める。林に少し入ると周りにはジグザグマやタネボーが木の実などを頬張っていたり、私闘を繰り広げていたりと様々だ。前より賑やかになったようで何より。

 

「どんな木がオススメ?」

 

「なるべく真っ直ぐで……あんな感じの枝だな。今は真っ直ぐな木だけを扱うけど、曲がった形のものをうまく使えるようになれば一人前だ」

 

 そう言って先ほど見かけた枝を指し、枝を拾おうとするとタネボーに遮られた。無言で見つめ合う俺とタネボー。おう、こっち見んな。

 

 右に一歩ズレて避けようとすると、タネボーも俺から見て右にズレる。歩いている時に前から歩いてきた人と譲り合った結果、お互いディフェンスしてしまうアレだ。まま、こういう時もあるさ。

 

「…………」

 

「タボ」

 

 左に二歩ズレるとタネボーも左に。

 

「…………」

 

「タネボ」

 

 後ろに一歩戻ると前に一歩進んでくる。未だに視線を合わせ続ける俺たち……うむ。

 

「……ほう、貴様、そんなにやり合いたいのか。いいだろう! ポケモンバトルだ!」

 

 目の前のタネボーは、今の言葉を聞き臨戦体勢をとる。だが悪いが、ポケモンバトルを行うのは俺じゃないのだ!

 

「さぁハルカ、やっておしまいなさい! コヤツで焼きボングリを作るのじゃ!」

 

 ウェルダンにはしないでね。外はカリッと中ジューシーでお願いします。

 

「またわたしですか? さっきの道でもずっとわたしでしたよね」

 

「それには海よりも深い理由があるのじゃ、ハルカ君。何事も経験というものが大切でな……」

 

 ハルカが無言でこちらを見てくる。やはり道中全てのバトルを押し付けていたのは拙かったかな。前門のタネボーに後門のハルカ。いったい、どちらが御しやすいか……タネボーだな。うん。間違いない。

 

「しょうがないなぁ、ハルカ君は。自分達でやるかね……バチコンかましてこい大賀(ハスボー)!」

 

 肉体労働の時間だよ。

 

「スボー」

 

 今日は一度も水浴びをしていなかったせいか、少しダレてきているようである。じわっと暑くなってきたもんなぁ……もう6月だ。

 

「街に着いたら水浴びしていいぞ」

 

「スボボボボ!!」

 

 この急激な張り切りである。まったく、現金なやつめ。金ダライ式プールとかで問題ないか? ……あれ? 河童って金物厳禁だったっけ?

 

「テンションが上がったところで大賀、戦闘開始だ」

 

「ハスボッ!」

 

 大賀が身を深く沈めて構え、タネボーの攻撃のタイミングを見計らっている。訓練の成果だな。この訓練やり続けたらその内【みきり】とか覚えそうだが、どうなんだろう。強者はだいたい使えそうなイメージがあるけど。

 

「タネボ!」

 

 地面を蹴って勢いよくタネボーが突っ込んでくる。【たいあたり】か! 

 

「後ろに跳んで、その後に【れいとうビーム】だ」

 

 大賀がその場からバックステップのような動きで後ろに下がり、【れいとうビーム】を放つ。タネボーに避けられるものの、代わりに当たった地面がどんどん凍りついていくのが圧巻だ。

 

「タネ!?」

 

 着地に失敗して転ぶタネボー。どうやら避けた先の氷で足を滑らせたようだ。

 

「もう一度【れいとうビーム】!」

 

「スボボ!」

 

 【れいとうビーム】が直撃し凍りついてしまった。氷で固められたタネボーが目を回している。やったぜ。これで障害は消えた。思う存分回収できるぞ。そのまま枝を拾おうとすると、巻き込まれた枝が凍りついていた。なんということだ……引っ張ってみるが取れない。結構しっかりと凍ってるな。

 

「ハルカ~、アチャモ出してくれ。枝が凍っちまってる」

 

「何やってるのよ……」

 

 アチャモの火の粉で氷が溶けてゆく。枝と一緒にタネボーの氷も溶かしてやると、一目散に逃げていった。

 

 流石にこの辺の基本的なポケモンには、相性的にもレベル的にも負けんな。あまりしっかりとした戦術を用いなくても、力押しだけで勝てる事が多いだろう。

 

 枝を拾い終え、少し進むとトレーナーらしき人影が見えてきた。特徴的な短パンに半そで……うむ、まごうことなき短パン小僧だ。

 

「あ、キョウヘイ先生トレーナーですよ! バトルしてきていいですか!」

 

「おう、どんどんバトルしなさいな。ただし負けても泣くなよ」

 

 勝負の世界は非情。たとえなけなしのお金を払う事になっても、それは仕方がないのだ。これポケモンリーグの公式会見だしな。

 

 ハルカが短パン小僧に向かって自転車を走らせる。向こうもこちらに気がついたようだ。

 

「わたしハルカ! わたしとポケモンバトルしませんか?」

 

「おれはカズキ! トレーナー同士の目線が合ったらポケモンバトルがルールだよな!」

 

 こっちでもそのルールは適用されているのか。知らんかった。そういえば船ではトレーナーと戦ったけれど一般道路では戦った事ないや。

 

 いつの間にか掛金やらなんやらの話は終わって、ポケモンバトルが始まっていた。俺は審判をやるらしい。

 

「行きなさいアチャモ!」

 

「チャモ!」

 

「行け、ジグザグマ!」

 

「グママ!」

 

 あのジグザグマの声、今まで聞いたジグザグマの声より高いな。若い個体か?

 

「アチャモ、【ひのこ】で攻撃!」

 

「アチャ!」

 

 先制を取ったアチャモ。牽制の為に直線的に放った【ひのこ】がそのまま直撃し、あっという間にジグザグマが目を回して瀕死になってしまった。まぁ、そりゃそうだわな。この辺りのレベル……というか、練度では頭一つ分ぐらい高いはずだ。

 

「…………あれ?」

 

「勝者ハルカ」

 

「き、きみ強いね」

 

 これにはカズキ君も苦笑い。

 

 この後に3人のトレーナーとも戦ったが、結局一度も苦戦することはなかったようだ。

 

「わたし……強くなったんだね……」

 

「自信なかったのか? 時間をかけて実戦を想定した訓練を受けた上で、パターンを組んでいたとはいえ仮にも俺に勝ったんだ。特にこの近辺ならポケモンスクールに通っている初心者が多いんだから、相性も相まってよほどのトレーナーと出会わない限り基本負けんさ。でも、それはお前が努力したからなんだ。あんまり驕っちゃだめだぞ?」

 

 基礎練習の維持こそが肝要なのですよ。技は練り上げる事でより効果を発揮できるようになる。つまり、どれだけ積み上げたかでその質は決まるのだ。

 

「うん……わかってる。ちょっと前のことを思い出してね……」

 

 遠くを見て物思いにふけっているが何があったのやら。誰かから下手くそとでも言われてたのかね?

 

 まぁ俺も、まだまだ全体から見たら弱い部類だからな。もっと鍛えなくては…………うむ。ただ、当分は俺達も基礎練習の積み重ねだ。小手先に頼るのは時間が無い時か、先が伸ばせなくなってからでいい。

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

 街の中に入ると、前のように荒れていなかった。もう大まかな街の修復作業が終わったのだろう。

 

 街の様子を眺めながら自転車を漕ぎ、ようやくポケモンセンターにたどり着いた。野生のポケモンとの連戦で予定より少し遅れてしまったが、問題ないはずだ。ある程度遅れても大丈夫なように、予約に余裕を持たせておいたし。

 

 御神木様(テッシード)と大賀は、外で金ダライに水を溜めた即席プールで水浴びをしている。アチャモはあまり水浴びは好きではないらしい。そのまま傍で日向ぼっこをしている。やはり炎タイプ的には、そこまで楽しい事でもないようだ。

 

「シャワー浴びて服着替えたらここに集合な。その後に一度先方に挨拶に行くぞ」

 

「わかった!」

 

 ハルカは先ほどの姿から一変して元気よく2階にあがって行った。よほど汗を流したかったのだろうが、俺がいること忘れてないか? ……俺が2階に行くのは少し遅らせよう。今のうちに、お世話になったジョーイさんに、挨拶とお土産渡して時間を潰すかね。

 

 そのまま受付に近づきお局さん、もといジョーイさんにあいさつをする。

 

「お久しぶりです。ジョーイさん」

 

「あら……久しぶりにきたわね。今日はマスク着けていないの?」

 

「着けていたんですけどね……一度ミニスカートの女の子に通報されかけましてね。相方にやめろと注意されてしまいましたよ……まぁ、その程度で諦めませんけどね」

 

 通報がなんぼのもんじゃ! と言い放って、即座にフクロウのマスクを着ける。うん、これでこそ俺だ。こうでなければならない。

 

「ああ、要件を言うのを忘れてた。これ、以前お世話になったお礼です。美味しかったので味は保証しますよ」

 

 そう言ってミシロタウンの名物であるソクノワインとナナ酒を渡す。ソクノワインは甘酸っぱく飲みやすく、ナナ酒はナナの実を梅酒のようにしたものらしい。こんなの売ってたら買うしかないじゃない! もう少し早く知っていればソクノの実を大量に買いに行ったものを……本当に残念だ。

 

「あら、ありがとう。素直に頂いておくわ」

 

「いえいえ。それといくつか聞きたいことがあるのですがお時間よろしいでしょうか?」

 

 そして先程の献上品の本質はこの質問の為の賄賂でもある。

 

「構わないわよ。何が聞きたいの?」

 

 メモを取り出し書く用意をする。俺がシャワー浴びている間に、ハルカにも読んでおいてもらおう。

 

「そうですね……トウカの森の現状だとか、その辺について教えてください」

 

 これを知らんで森に入るとか自殺行為だ。

 

「あなたもトウカの森に挑戦する為に戻ってきたの?」

 

「ん? もってことは、他のトレーナーはそうなんですか?」

 

 俺達としては、単に通り抜けられればそれでよかったのだけれども。

 

「ええ。今のトウカの森は名前を変えて眠りの森と呼ばれているの。で、名前を売るためにその眠りの森を攻略しようとしているトレーナーが多いのよ」

 

「眠りの森?」

 

 トウカの森で眠らせる技となると……まさか【キノコのほうし】か? でもあれはキノココをレベル45か54まで上げないと覚えないはずだし、何よりも1匹が【キノコのほうし】をばら撒いた程度ではそこまで大きな問題にならないはず…………つまり、複数いるってことか。

 

「うわぁ……その練度の高い個体って複数います?」

 

「あら、その考えが出てくるの早いわね。事前にどんなポケモンが眠らせているのか想像できているみたい」

 

「キノココとキノガッサでしょう? ここで1匹捕まえようと思っていたポケモンだったので」

 

 以前からここでキノココを捕まえようと考えていた。まかり間違ってアクア団やマグマ団(奴ら)のアジトを潰す必要ができた際に、これほど優秀なポケモンもいないだろう。【キノコのほうし】で見張りを眠らせて侵入、その後【キノコのほうし】と格闘技で一人ずつ仕留めていく。そういうプランだった。余程の相手でもない限り、この戦術を初見で反応できる奴はいない。

 

 何より、そういった機会が無くても、様々な観点で活躍が期待できるポケモンだ。他のポケモンはその場の流れで決めたりしようと思っていたが、このキノココに関してはあの契約をしたときから考えていた。

 

 だが、こういうことが起きているなら【キノコのほうし】を扱えるキノココとキノガッサは、既にどこかしらの組織から目を付けられると考えていいだろう。

 

 どうしようか…………想定していたポイズンヒール型じゃなくてテクニシャン型にするか。恐らく出回るのは特性ポイズンヒールの方だ。ならば必然的にそちら用の対策が増えるだろう。その分、意図的にズラしたり、少し変わった型のポケモンはハマりやすくなる。戦闘環境の妙という奴だ。

 

「正解よ。キノガッサたちが胞子を撒き散らしているせいで、キノココが大量発生しているの」

 

 あれ? 卵生じゃないの?

 

「キノココ……というか、キノガッサって卵生じゃないんですか?」

 

「タマゴから生まれるはずなのだけど、タマゴと胞子の関係がわからないのよね。ポケモンの繁殖はまだまだ未知だから……本当にこちらの隙を突いてタマゴを持って来るのよ……」

 

 その手の会話が恥ずかしいとかではなく、純粋にまだ分かっていないようだ。胞子を撒くといつの間にかタマゴを持ってるとかどうなっているんだよ……受粉的な感じ? ……ん? 偶にジョーイさんの視線が後ろにいくな。後ろに誰かいる?

 

「まぁ、その話はともかく、その練度の高いキノガッサたちが徘徊しながら胞子を撒き散らすせいで、今のところ森を突破できた人が誰もいないのよ」

 

 そりゃ怖いな……あれ?

 

「森の中で眠らされた場合って、どうやって帰って来ているんです? 眠っている以上自力では無理でしょうし」

 

「キノココ達がどこかから持ってきた台車を使って、森の外に投げ捨てていくわ。その時に木の実や保存食がなくなっているらしいのよ」

 

 トレーナーの不法投棄とか……面白いことになってるな。なら、予定外だがダンジョン化した森を俺達が一番最初に攻略してやろう。ゲーマーの血が燃え始めた。これは森を舐めているのではない。困難に対する挑戦を楽しんでいるのだ。

 

 『――――ああ、そうだ。困難には立ち向かわなければならない。逃げる事など許さない』…………ん、また思考が飛んでたな。年か。

 

「出会った時点で負け確定か……面白い! 実に冒険的だ! わくわくするね」

 

 死ぬリスクが少ない上で、貴重な体験ができる。これ以上の好条件はなかなかない。凸する以外ありえないな。

 

「何が面白いの?」

 

「ダンジョンの攻略方法を模索することだ」

 

 ()()()()()()()()()()()が話しかけてきた。

 

「あれ? 驚かないの?」

 

 何となく知っていたし。むしろこちらとしては、なんで声をかけてくれなかったのかが気になるんだが。

 

「ジョーイさんの視線が一度後ろにいった時点で誰かいることは気がついた。さて、俺もシャワー浴びてくるからメモ読んでおいてくれ。わからないことがあったら後で俺に聞いてくれ」

 

 そう言ってメモを渡し2階へ向かう。

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

 シャワーを浴びた後、ようやくこのスーツを着ることができる舞台ができたのだという喜びに溢れていた。

 

「待たせたな!」

 

「そんなに待って…………誰?」

 

 不審人物を見るような視線が突き刺さる。

 

「水臭いこと言うなよハルカ。こんな服をポケモンセンターで着るのなんて、俺以外にはいないだろうに」

 

 今の俺の服装は、短冊状の布や草木や小枝などをメッシュ状のジャケットに貼り付け、自然界ではありえない直線や曲線を隠し、着用者を風景に溶け込ませて判別させ難くさせ、視覚的に発見され難くする効果があるスーツ。

 

 いわゆるギリースーツを着ている。

 

 ただ、森の中なら完全に隠れられるスーツだが街中だと完全に浮いているのと、空気を多く含み、断熱材の役割をするので熱が篭るのが少し残念なところだ。だが、ありがたいことにこのギリースーツ。向こうのギリースーツと違ってそこまで重くなく、耐火性まであるのだ! ポケモンのいる世界で耐火性はマジで重要だと思う。

 

 シャワーを浴びた意味が無い? そんな些細な事よりもギリースーツだ! クネクネとした無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きをしながら、じわじわとハルカへ近づいてゆく。

 

「今の状態の俺をモリゾーと呼んでくれ」

 

 サムズアップしながら言ったところ、多方向から攻撃を食らった。いつの間にか御神木様達が、左右どころか背後までとって包囲陣を形成している。お前は包囲済みだとばかりに行動範囲を狭められ、最後はゆっくりとラッキーに連行される事になった。おかしい、新衣装のお披露目でこんな事はあってはならないはずだ……当日は絶対に着てやるからな!

 

 大人しく裏で着替えを行い、普通の服装にフクロウのマスクを着けた状態でポケモンセンターを出た。だがハルカの表情は微妙に硬い。今更服装程度でこうはならないだろう……何か不安な事でもあるのかな?

 

「さて、これからレンジャーさんのところに挨拶に行くわけだが、何か質問はあるか?」

 

「レンジャーさんは男性ですか?」

 

 そこ? いや、話すとっかかりみたいなものか。

 

「わからん。電話をしたのはオダマキ博士だからな。でも、ハルカが今後の旅の方法について教わるという意味合いが大きいのだから、多分女性が担当するんじゃないか?」

 

 教わるという意味合いでは無論俺もなんだが、野郎と女性では旅の対策の量が違う。気を付けるべき事は多いだろう。そんなことを話しながら歩くこと20分、レンジャーハウスと書かれたログハウスに着いた。

 

 なにやら騒がしいが……どうかしたのだろうか? 中に入ると、ガーディがレンジャーさん達から逃げ回っていた。走って逃げるので、一部の書類や小物が吹っ飛んでいる。ちょっとした阿鼻叫喚だ。

 

「すいませーん」

 

「はーい、ちょっと、少々お待ちください!」

 

 ガーディがはしゃぎまわっているせいであんな騒がしかったのか。そんなことを考えていると、ガーディがハルカの足元に走り込み、そのまま影に隠れた。そして、なぜか俺に警戒心全開で威嚇をしながら吠えまくっている。解せぬ。俺がいったい何をしたと言うのだ。

 

「ガウッ!」

 

 息を整えたレンジャーさんがこちらに対応するために戻ってきた。

 

「はぁ……はぁ、すみません。その子最近拾ったばかりで言うこと聞いてくれないんですよ」

 

「この辺には生息していないポケモンですよね?」

 

 ここでは見かけないポケモンのはずだ。

 

「どうにもトレーナーに捨てられたようで……あまり大きな人には懐かないようでして」

 

 背の大きいやつに捨てられたのかね。だからこの中で一番背の低いハルカのところに逃げてきたのか。

 

「わたしそんなに小さいかな……」

 

 一人追加でダメージを受けていた。背丈については触れないでやるのが優しさという奴である。

 

「拾った時から既に傷だらけでしたのでポケモンセンターに預けていたのですが、今日受け取りに行くとこのようなことに……こちらとしてもどうしたものかと……」

 

 このレンジャーさん弱気だなぁ…………持て余してる状態か。ふむ、しゃがみ込んで軽く目線を合わせようとしても、唸りながらハルカを盾にするように陰に隠れられる。なんかこの体勢、俺が下からスカート覗こうとしてる変態みたいだな。

 

 更に目線を低くしようとした瞬間、上から降ってきた御神木様によって圧し掛かられる。止めとけとボディランゲージを受けてしまったので、素直に下がるとしよう。無理に接触してもロクな事にはならないだろうし、何よりも相手を怖がらせてしまうのは本意ではない。

 

 俺が壁際まで下がったからか、警戒を解いたガーディの脇をハルカが持って持ち上げ、見つめ合っている。なんかどこぞのCMを思い出すな。

 

「……キョウヘイ先生、この子わたしが預かっちゃダメかな?」

 

 自分から首を突っ込みに行くとは珍しい。何か琴線に触れる事でもあったのだろうか。

 

「ん? ……うーん、ハルカには懐いているし、どうだろうな。提案してみるか?」

 

「自分でやる! わたし、このガーディとも旅をしたい」

 

 そう言って交渉に入っていった。こうやって旅をしながら成長していくのかね?

 

 それにしてもポケモンを捨てるか……強さを求めるのは勝手だが、それに巻き込まれた方はたまったもんじゃないな。逃がすではなく捨てるというのも、言葉的に嫌な感じがする。

 

 話し合いが終わったようで、すぐにハルカが戻ってきた。

 

「よう、どうだった?」

 

 まぁ、こちらに唸りながら抱えられているガーディを見ればわかるようなものだが。

 

「お父さんの研究所の人なら大丈夫だろうって」

 

 少し微妙な顔をしているところから察するに、本人としては自分の力を見て決めて欲しかったのだろう。しかし、何の実績もない小娘の言葉を信じろというのも難しい。

 

「そかそか。なら、今日はこの後に102番道路で技の確認と訓練だな」

 

 それを行うには実績が必要だろう。それもハルカだけの力で勝ち取った実績が。そのためには色々な経験を積んで、人間的にも強くならんとな。これでハルカは新しい目標が増えた。きっといい変化をもたらす。

 

 ただ、そうなってくると、俺もトラウマ抱えてる場合じゃないんだろうなぁ。俺だけ足踏みし続けている訳には……だが……うーむ。

 

「わかった! 先に行って訓練してるね!」

 

「おう、受付が終わったら向かうから迷子になるなよ」

 

「大丈夫かも!」

 

 ガーディを抱いた状態で走って行ってしまった。

 

 悪い思考のループは一度リセットするに限る。切り替えが肝要だ。今やるべき事……まずは俺の仕事の続きからだな。書類手続きしないと。

 

 

 


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