フクロウのマスクを被って、改めてやってまいりました102番道路。
まず最初に、今日の目標の一つである木彫りのキルリア像を届けることから行う。約束したわけではないが、思ってたよりノリノリで作ってしまったからなぁ。渡すだけだし、そんなに時間もかからないだろうと踏んでいる。
すぐに見つけることが前提条件だがな!
まぁ、言うて相手はエスパーポケモンだし。なんやかんやでこっちが来たことを把握してそうだけど、実際のところどうなんですかね? それともアレか。召喚の儀式でも行えば来るか?
以前サーナイト達と出会った林の少し奥まったところで本ポケ達を探す。今日は周りを見回しても普通にポケモンがいるようだ。
「おーい、サーナイトやーい!」
…………出てこないのう。せっかく前買ったのと同じタイプのラムの実ウィスキーを持ってきたのに。この23年物の香りが重めな一品。直接買う以外流通していないらしいから、そうそう簡単にはお目に掛かれない物だ。とっておきだが、居ないのならば仕方がない。俺がこの場で飲み干そう。
「サナ……」
目の前にテレポートで現れるサーナイトとキルリア。物で釣られる主とかどうかと思うんですが……催促されているラムの実ウィスキーと木彫りのキルリア像を渡す。前は鳴かなかったり、周りからポケモンが居なくなっていたけども、あれは雰囲気作りの一環だったんですか。
「そっちの像は蜜蝋オイルでしっかりコーティングしてあるから、かなり保つと思う。最初に渡した木彫りのサーナイト像を渡してくれれば、今ちゃちゃっとコーティングするけどどうする?」
「キル!」
この前渡した木彫りのサーナイト像と一緒に、やけに湿った岩と甘い蜜を5つ貰った。代金代わりなのだろう。
「おし、ポケモン同士で雑談でもしながらちょっち待っててくれ」
ボールから
軽く伸びをした後にポケモン達の方を見ると、俺が持ってきたラムの実ウィスキーやりんごを食べながら円形で談笑していた。
微笑ましい絵面だなと思い、思わずカメラで一枚パシャリと撮ってしまったが……サーナイト達も気がついているのだろうけど、咎められていないからいいか。
「仲良くなったみたいで何よりだ。磨き終わったから、風通しのいい場所で1時間も置いたら乾くだろう」
そう言ってからサーナイトに木彫りの像を渡す。頷いているところを見るに満足してくれたみたいだ。林の奥に帰っていったサーナイトとキルリアに、手を振って見送った後、ポケモン達を戻してトウカシティに戻る。
◇ ◇ ◇
必要なものを買い足した後、レンジャーハウスに向かう。お礼を言うのもそうだがもう一つ目的がある。
「すいませーん!」
レンジャーハウスに入って声をかける。入口の近くにいた女レンジャーさんが気がついたようだ。
「あら、キョウヘイさん。眠りの森はどうでしたか?」
「ハハハッ、無事に不法投棄されましたよ……ハルカへの訓練ありがとうございました」
そう言って追加分の謝礼金を渡す。
「……確かに納入を確認いたしました。どうぞ、これがハルカさんの訓練内容とその評価です」
受け取ると追加の訓練のメニューと、その評価が書き込まれていた。ふむ……全体的にかなり高評価だ。いや凄いな。初めてでこれとかアウトドア適正高過ぎでは……?
「ハルカさんはかなり筋がいいですね。分からなければしっかりとこちらに質問してくれますし、努力家のようです」
「そうですね。ポケモンセンターでロープワークの上達を実感させてくれましたよ」
中途半端な縄抜けができないぐらいには上達していましたよ、ええ。これも必要……だな、うん。必要だわ。でもロープワークってそういうモノでしたっけ?
「早速実践できるようになるなんて……教えた甲斐がありましたね」
それでいいのかポケモンレンジャー。
「……まぁ、いいや、今日は納入以外にも用があるんです」
今日の本題は別にある。
「え? 何かありましたか?」
「ハルカからポケモンバトルをしたと聞き、俺も1戦やり合いたいなと思いまして」
聞いた内容的に、御神木様が久々に全力でバトルできるやもしれんのだ。逃す手はない。
「ああ、なるほど。ハルカさんのお陰でイトマルが進化してアリアドスになりましたから、あのバトルはとてもありがたかったんですよね」
ん? 進化したとかは聞いていないぞ。イトマルが進化としたいうことは大体22レベルぐらいか? やはり目をつけていた通り、丁度いいレベルだな。
「キョウヘイさんは、ハルカさんのポケモンバトルの先生とお聞きしていますし油断はしませんよ。ルールはどうしますか?」
「先生とは言ってもタネボーの背比べ程度ですがね。そうですね……レンジャーさんはバッジをいくつお持ちで? ちなみに俺はバッジ0です」
「バッジ3つです。そうですね……ではエテボースは見学にまわってもらいましょうか。ルールは3匹入れ替え方式で持ち物アリ、傷薬などの道具は無しでどうでしょう」
柱にぶら下がりながら話を聞いていたエテボースが、素早く梁を伝って奥の部屋へ向かう。何しに行ったのだろうと疑問に思っていると、すぐに山盛りのポップコーンを抱えて帰ってきた。今日のおやつなのだろうか? それにしても、完全に観客気分である。
「それでいきましょう。あ、見学するならビデオカメラを使って録画役になって貰えませんか? あとでハルカの教材として使うので」
「それは責任重大ですね。気合を入れてやり合いましょうか」
女レンジャーさんの案内を受けて、裏にあるアスレチックフィールドに向かう。そこには、窪地の中に複数の登り木があり、それに縄が張り巡らされている80mほどのフィールドがあった。窪みの深さは大体3mくらいで、コンクリートでできた壁が窪みを補強している。かなり立体的で特徴のあるフィールドだ。
あの張り巡らされた縄は曲者だな……だが、とても面白いフィールドになっている。やはり森林での戦闘をイメージしているのだろうか。いかにあの立体性を活かすかが重要になるだろう。
「おお、面白そうな感じですね」
ただ、御神木様はあまり動くことが得意ではないからなぁ。こちらの作戦は、いかに相手を自由に動かせないようにするかが重要になる。こういった場合、どうしても攻め側にアドバンテージが寄るのだが……まぁ、それを覆してこそだろう。
「でしょう? ここでポケモンバトルを行うのは結構人気なんですよ」
そう言って、互いにフィールドから少し離れた対岸に立つ。3匹入れ替え方式ではあるものの、
「では早速始めましょうか。全力だぞ、御神木様!」
「クギュルルルル!!」
うむ、気合十分! 最近戦闘させていなかったから、やはり元気が有り余っているようだな。全力で発散してもらうとしよう。
「頑張って! イトマル!」
「イトッ!」
相手はイトマルか。ボールから出た時点で既に縄に糸を貼り付けている。すぐに逃げられるようにする為の布石だろうか。
「イトマル、全速力で【かげうち】!」
「イトマッ!」
スススッと瞬く間にイトマルの影が伸びて、気が付けば御神木様の背後にイトマルがいた。最初のあの糸はダミーか! このままでは【かげうち】が直撃する。抑え込まれた上で糸に絡め取られてしまうだろう。迎撃は……なんとか間に合いそうか? いや、無理だな。引き際になら間に合うだろう。
「後方、【やどりぎのタネ】で反撃。その後は【ステルスロック 鎧】!」
「クッ!」
御神木様がその場でグルリと回転した瞬間に【かげうち】が直撃し、ガコォン! と鈍い音が辺りに響く。しかし御神木様はピンピンしているどころか、今何かやったのかと言わんばかりに傷一つない。むしろ、攻撃を行ったイトマルの方が痛がっている。御神木様の特性:鉄の棘でダメージを受けたのだろう。そのままイトマルに【やどりぎのタネ】がぶつかり、根を張り始める。
「【いとをはく】で絡め捕って!」
同時に御神木様には糸が吐きかけられた。イトマルは糸を吐き出した後、登り木を登り、縄の上をなかなかの速度で移動している。本来の素早さはそこまで早くないはずだから、あれはきっと訓練の成果なのだろう。
一方御神木様は、糸が張り付いたとこでパッと見た感じ動きづらそうだ。だが、あの程度の糸の量ならば、行動が阻害される事もなく【ステルスロック】は発動できるだろう。そのまま糸が纏わりついた御神木様を覆うように、ドーム状に【ステルスロック】が展開されてゆく。ひとつひとつの岩はひし形で50cmほど。それ等が隙間なく積み重ねられ、松かさのように岩棘を外側に向けて形成される。傍目からみるとそれは、岩でできた剣山のようにも見えた。
周囲360度と上部を完全に守る【ステルスロック】製の鎧の完成だ。
「面白いことするわね。でも油断しないわよ。【ナイトヘッド】!」
「イトォ!」
ナイトヘッドはこういった物理的な壁を破壊することなく、内部に攻撃を行える強力な技だ。即座に対応してくるとは……やはり実戦経験が豊富な人は対策を打ち出してくるのが早い。
この技は防御面では優れていても、鎧を透過して直撃を与えてくるエスパータイプやゴーストタイプの技とは相性が悪い。関係ないとばかりに全体を攻撃してくる地面タイプともだ。また、今のところ一部だけ穴を開けるといった小技ができないので、【タネばくだん】のような強力な射撃技を出せなくなる欠点もある。
「クギュッ!?」
流石に想定していなかったダメージを受けて、然しもの御神木様でも驚きで声を上げた。いくら御神木様が食べ残しや【やどりぎのタネ】で回復できるとはいえ、このまま篭り続けたら流石に拙いだろう。
――――なので、ここで一度、秘技をぶち当てることにしよう。
「構うな! 【のろい】で身体強化!」
「ギュルルルルルゥ!」
ここからでは鎧の中の様子など見えるはずもないが、御神木様の力強い返答と共に、高速回転時に聞こえてくる独特な高い音が周囲に響き始めた。イトマルが10mほど離れた場所でいつでも動けるように鎧を注視しているが、対処するにはもう遅い。
ああそうだ、回れ回れ回れ! 激しく回れ! 力強く回れ! そして――――
「――――【こうそくスピン】で【
その【
「えッ!?」
攻撃が1段階上昇した状態の【こうそくスピン】によって弾き飛ばされた【ステルスロック】は、まるで弾丸のような勢いで、辺りに文字通り面攻撃を行う。至近距離ならば逃げ場などない。
名づけてロックショットガン! 言ってしまえばこれは、攻撃を主目的としたリアクティブアーマーモドキである。トレーナーを巻き込みそうなのが玉に瑕。
「イトッ!?」
反応の遅れたイトマルは射出された【ステルスロック】が直撃し、悶え苦しんでいる。擬似的な岩タイプの攻撃だがしっかりと通用するようだ。改善すべき点としては行うのに2手必要なこと。そして、敵味方関係なく【ステルスロック】をバラ撒くからこっちのポケモンも直撃を食らいかねないことだろう。
「このまま押し込むぞ! 接近して【メタルクロー】を叩きつけろ!」
「クギュ!」
「イトマル避けて!」
「イッ……イトッ」
必死に避けようと動くが、先ほどの攻撃がよほど堪えたのか……動きがとても鈍い。これは直撃コースだ。棘の一部を光らせて転がりながら柱を昇ってくる様は、攻められる側としては恐怖以外の何物でもないだろう。
「貰ったぁ!」
狙いをつけた御神木様が柱から飛び上がり、そのまま縄の上に居たイトマルの体にメタルクローが叩きつけられた。勢いよく地面に叩き落されたイトマルが目を回して倒れる。これでイトマルは戦闘不能だ。
「お疲れ様イトマル……敵を討ってアリアドス!」
「アーリアドスッ! ……アドッ!?」
撒き散らされたステルスロックによって、出てきた瞬間にアリアドスはダメージを受けたらしい。だがすぐに縄を登って回避できる体勢をとっている。
「今のうちにもう一度【ステルスロック】鎧の陣の後に【こうそくスピン】!」
仕込みに時間がかかるのだから早いうちに設置するに限る。これで【あなをほる】を覚えられるのであれば、更に搦め手ができるのだけれども。
「クギュル!」
「させないわ! アリアドス、【ナイトヘッド】!」
【ステルスロック】のドームを張った直後に、御神木様の頭上から【ナイトヘッド】が放たれる。倒れたかどうかは、ドームのせいで見えない。だが俺は信じている。そんな攻撃でへこたれる御神木様じゃないぜ! 登り木の影に隠れる選択をしなかったのは間違いだったな!
「ぶちかませッ! 【ステルスロック ロックショットガン】!」
「クギュルルルルルゥ!!」
俺の声に反応して放たれる、圧倒的な面による制圧攻撃。縄の上にいる状態で避けられるはずもない。イトマルより体が大きくなったせいで岩の弾丸が多段ヒットを起こした。4発ほど当たってしまい、そのままダウンしたようだ。
「……お疲れ様アリアドス…………な、なかなか奇抜な戦い方をするわね」
「お褒めの言葉どうも。今のうちに色々と考えておかないと、今後が焼かれ続けかねないので」
炎タイプへのなけなしの対策なんだよ! ただ、実戦で使ってみて思ったが、やはりこれだけだとすぐに攻略されかねないからなぁ……更に手を広げないと。
「さて、もう最後の1匹かぁ……頑張って、エイパム!」
「エイパムッ!! ……エイパッ!?」
最早フィールドのどこを見ても【ステルスロック】だらけである。縄の上ぐらいしか安全地帯はないのでは? と思うぐらいには岩だらけだ。大賀が見たらぶっ倒れるな、こりゃ。
やはりすぐさま縄の上に避難したようだ。だが先ほどの2匹より逃げに徹しているのか動きはとても速い。流石サル。だが無意味だ。
奴の攻撃方法は基本物理攻撃のはず。だからこうする。
「エイパムの動きを見ながら【やどりぎのタネ】を連射するんだ!」
「クギュッ!」
本日の天気は【やどりぎのタネ】が降り注ぎ、所により【ステルスロック】が飛来するでしょう。
「エイパム! 【スピードスター】で迎撃!」
飛ばした【やどりぎのタネ】は、全てスピードスターによって迎撃され、あらぬ方向へ吹っ飛んでいった。いくつかが登り木に着弾し、ワサワサと宿り木が生え出す。
女レンジャーさんの戦法が保守的に変わってきたな。これなら……仕掛けるか。
「再度【ステルスロック】鎧の陣!」
「何度もくらってあげないんだから! エイパム、転がっている岩の影に隠れて!」
その場からするすると地面に降りてきたエイパムは、【ステルスロック】が重なって強固そうに見える場所にしゃがんで隠れた。なるほどそう来るか。だが甘い……激甘すぎる。
「御神木様、【のろい】で身体能力を上昇させるんだ!」
相手が出てこないなら【のろい】を積んで威力を上げて、防御壁ごとぶち抜けばいい! 時間はこちらの味方だ。このままだと完全に積みきって、遅い代わりに防御と攻撃が6段階上昇した無敵要塞御神木様となるぞ?
「…………これは……私の負けですね」
お、最後までやらないのか。
「「ありがとうございました!」」
お互いにポケモンを手元に引き戻した後、おいしい水などで体力を回復させる。久方ぶりにしっかりと暴れることができたようで、御神木様も大満足のようだ。そして感想戦である。
「あんな攻撃方法聞いたことなかったなぁ」
「オリジナルですからね。初見で察することは難しいでしょう。とは言え、元々は御神木様が苦手な炎ポケモン対策で考えたのですが、最初は練度が足りず、前方に穴が空いた半ドーム状の釜みたいなモノばかり生成されて、ようやく最近できるようになったんです」
船の中で何度窯焼きにされたことか。やっぱり持続は力だね。反復する基礎練習こそ強さへの近道だ。
「後で録画したやつお渡ししますね……私もコピー貰っていいですか?」
「ええ、どうぞ。こちらとしても、実際の運用感がわかったので得られたものが多いですし、今後更に発展させていけそうです」
「まだ発展させるんですか」
「行けるところまで行こうかと」
この先にあるモノのイメージはあるんだが、まだ熟練度が足りんな。
「……キョウヘイさんって凄いですね。私よりお若いのにそんなに自分のやりたいことがしっかり決まっているなんて」
うーん。そんな風に褒められるには初めてだな。生き急いでいるのはわかっているんだが、こればっかりはどうしようもない。
「きっかけはあんまり褒められたものじゃあ無いんですけどね。元々求めていた願いがあって、それは達成できるかどうかすら分からなかったのですが、最近になってその為の手掛かりを見つけられたので」
だから俺は頑張れる。そうだ。まだ道は完全に閉ざされたわけではない。でも…………『本当にこのまま身体を調べ続けていいのだろうか?』…………ん、また一瞬意識がフェードアウトしていたな。
「そうなんですか?」
「そうなんです」
目標に向かってるちょっとした実感もあるし、精神的にも昔よりいい状態だとは思う。
レンジャーさんたちに改めてお礼を言い、レンジャーハウスからポケモンセンターに向かう。まだ今日中にやらなきゃいけないことが二つもあるのだ。
プログラムのインストールは、ハルカが戻ってこないとできないから夜に回すとして、まずは森攻略のルートの草案を考えないとな。