カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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今回は試験的にRumTum工房さんのところのフリーソフト『方眼紙マッピング』で、方眼紙マップを作成してみました。


【挿絵表示】

現在主人公が行った、もしくは情報でどうなっているのか聞いた場所は書き込まれています。


眠りの森に眠る壁画

 今、ポケモンセンターの2階にある仮眠室で、床に正座をさせられていた。

 

「それでも僕はやってない」

 

 魔女裁判になんかには屈しないぞ! 徹底抗戦の構えである。

 

「いや、普通にわたしのポケナビ弄っていたじゃないですか! なんですかこれ!? 容量がほとんど埋まってますし!」

 

 色々ぶっこみました。気がついたらなんか2/3空いていた容量が埋まってたんだ。仕方ないね。

 

「まずメニューを開いて、マップ機能をコマンドしてください」

 

 渋々ながらハルカは言われた通りにコマンドしてくれたようだ。

 

「……なんです? これ」

 

「最新版の無駄に詳細なタウンマップで、お店一押しの情報などが表示されますん。カーソルをフレンドリーショップの上にして決定ボタンを押してみ?」

 

 ポンッと軽い電子音が鳴ったあと、仕込んでいた情報がポップアップする。

 

「おお、地味にありがたいかも!」

 

「安売りの情報や搬入具合まで分かるようになっております」

 

 随時更新されるからまとめて安く買い占められるよ! 俺の方には現在地が地図上に表示されるようにしておいた。これで方向音痴脱却間違いなしだ!

 

 ――ぶっちゃけあんまり効果なかったけどな!

 

「でもよくこんなプログラムがありましたね? わたし聞いたことありませんし、これだけで容量を取るとは思えないのだけれど」

 

 ……フッと顔を横に背ける。

 

「し、市販のものですし……使用容量多めなのです」

 

 緊急ニュースとかも入るようにしたからじゃないかな?

 

「おい、声が震えてるぞ」

 

 やばい。バレた。何とかして意識をズラせないだろうか。 

 

「女の子がおいだなんて言葉をだな――」

 

「――ん?」

 

 雰囲気と眼力が怖いです。危険を察知しているのか、御神木様(テッシード)達が一切寄って来ないから隠れることもできない。

 

「……何でもありません! マム!」

 

 まぁ、実際はポケモンバトルの動画を見れるようにしたせいなんだがな。

 

「落ち着いて上上下下左右左右と押してみてくだせぇ」

 

「なんですかその無駄に長いコマンドは…………これは?」

 

「ポケモン名勝負と言われているのを纏めたものと、今まで録画したハルカのポケモンバトルの録画だな。今日行った俺と女レンジャーさんとのバトルも入っているぞ。暇なときに研究すればいいと思う」

 

 オススメはレッドさんとグリーンさんの9番勝負だ。6:3でこのときはレッドさんが勝ち越したが、ムービーで見ていると互いのレベルの高さが伺える。ただレッドさんが突出して最強! ってわけではなく、列強のようなものなのだろう。

 

 どのバトルも1手読み間違えただけで負けかねないような手に汗握る戦いだった……立体的な高速戦闘をほぼノータイムで指示を出し続けるとか無茶苦茶だよな。

 

「おお……すごい……」

 

 動画を見始めたようだが、なんか語彙能力が下がってない?

 

 まぁわからなくもないけどね。選別する際に高レベルのポケモンバトルを見て、改めて感じたことがある。それは技の威力はゲームと同じでは無いのでは? というものだ。

 

 これは、レッドさんのリザードンがグリーンさんのヘラクロスに【エアスラッシュ】を放った際に、ヘラクロスが後ろに跳んで威力を下げていたり、掠らせるような動きでカウンター気味に技を放っていたりしていたからだ。

 

 直撃しないのだから威力も下がっているんだろう。

 

 正直、元のゲームの表記は目安程度にしかならなさそうだった。前々からそうなんじゃないかとは思ってたけど……4倍弱点の【エアスラッシュ】を掠らせて【ストーンエッジ】をぶちかますなんて、普通見れるもんじゃ無いよな。

 

 まぁゲームの方だと乱数による威力の上下はあっても、紙一重で躱して技を放つなんて行動無いし仕方がないことなんだろう。直撃させれば問題ないとはいえ、将来俺はあんなバトルに付いていけるのかね?

 

「最初からこれ入ってるって言えば正座なんてさせなかったのに……」

 

「秘密コマンドって……素敵やん?」

 

 秘密ってところにロマンを感じるよな。なんてったって秘密だし。

 

「…………ハァ、まぁロマンは感じますから良しとしましょう。森での行動ルートはもう決めたの?」

 

 わかってくれる女の子で助かった。でもなんで目が鋭いままなんです? 他にやらかしたことはなかったとおもうんだけど。

 

「ああ、さっき片手間で作った方眼紙マップを見てくれ。レンジャーさんたちから聞いた神情報も加えた結果、西ルートはあまり変わっていないことがわかった。ただ、見張りが多いらしく隠れながらの移動になるだろう」

 

 曲がり道の場所とか居座っている数が凄いらしい。前に数で押そうとして失敗したらしいから、その時から余計に強化されたのだろう。

 

「よくマップなんて描けたね。方向音痴だとか言ってなかったっけ?」

 

「写真で場所を確認しながら描いたからな。流石にここまですれば間違えんよ」

 

 指標となるものさえあれば描けはするさ……道に迷うかどうかは別として。

 

「レンジャーさんからの情報っていうことは、レンジャーさんたちはあれから進展あったの?」

 

「カナズミシティのレンジャーさんたちから新しい情報が流れてきたらしい。どうにも変化が大きいのは東側のようだぞ。ちなみにトウカシティのレンジャーさんからの新情報はない」

 

「ふーん、ということはキノココ達が見張りを出す理由は、新しくできた道の先に何かがあるってことでいいのかも!」

 

「その新しい道は北ルートと東ルートで二つあるがな。そこで考えたんだが、初日は東ルートで進んでハルカの言っていたお宝を探してみる。その時にショートカットで4mほど岩壁を登ろうと思っている。ここを通れば北ルートの空白部分も少しだが確認できるようになる」

 

「岩壁って北東の方角にあるここの場所? あの草のお化けみたいな服だと目立たない?」

 

「目立つだろうな。実際その上にいたキノココはすごく目立っていた。だからモリゾースタイルになるのは少し進んだ先にある洞窟の中だ。横の岩の感嘆符の場所だな。それまでは地味目の服で掻い潜る必要がある。グローブだとかをしっかり準備しておいてくれ」

 

 【ロッククライム】覚えているポケモンがいたら楽だったんだろうけどね。宿り木を足場にして、先に俺が登って命綱を設置する予定だ。外れ止め金具付きアイフックを忘れずに準備しておこう。

 

「木の部分は通れないの?」

 

 それに上まで登らんとバレるみたいだし、キツイだろうな。エイパムとかなら行けるやもしれんが、どんなポケモンにも得手不得手があるもんだ。

 

「通れなくはないが逃げ場が木の上しかないから、見つかりづらいが逃げづらく、体力をかなり使うだろう。何より俺達の手持ちのポケモンにあまり合っていない。ただ東ルートの最奥地点から通ってみるのもアリかとは考えている」

 

 それに新しい道が開拓できるかもしれないしな。最奥から通れれば、日数がぐっと減らせるからありがたいのだが。

 

「あと自転車は先に送ると面倒なことになりそうだから、森攻略後にジョーイさん連絡することで、ピジョット便で送って貰うようにした。他に何か質問は?」

 

 自転車には所有者番号を貼ってあるため、こうやって送ってくれたりするのだ。ちなみに番号は俺がミ-857でハルカのがミ-858だ。

 

「特にないかな。強いて言えば件の洞窟に近づいても大丈夫なのかってことぐらい」

 

「大丈夫だと思う。今回洞窟に行く理由としては場所を借りて、着替えと綺麗な水の確保、そして前はりんごしか捧げられなかったから今度はお酒を捧げることだ。危害を与えるつもりも、あの場所を汚すつもりもないしな」

 

 大丈夫だと思いたいがなぁ……大賀(ハスボー)に水の良い清酒を選んで貰ったし。なかなかいいお値段でしたよ、ええ。

 

「まぁ場所を借りるのもダメだった場合は、洞窟に清酒だけ置いて網代笠(キノココ)が仲間になった少し草丈の長い場所で夜を明かそうかね」

 

「それってこの色が少し違う囲まれた場所?」

 

「そこだな。おそらくキノココ達の寝床が近くにある。だがこの辺りは警備の探し方がザルだし、何か隠すとしたら最奥の感嘆符の場所だろうから、探す場所も近い」

 

 街からも一番遠い場所だし、隠すとしたらここら辺だろう。何よりこんな近くで人が隠れてるなんて思わんだろう。俺が見つかった場所ではあるが増員しているとは思えんしな。

 

「じゃあ明日も1日休んでから森を攻略するってことでいいのね」

 

「最後まで聞いた感想がそれなのか……まぁそうだが。森に入ったら温かいものは食べづらいから今のうちに食い溜めておくといいんじゃないか?」

 

「キョウヘイ先生も来る? この辺りのお店の味は大体把握したつもりだけど」

 

「いいのか? 俺個人としては明日はゆっくりした後に、レンジャーさんに教わったカレー屋に行こうと思ってたんだが……他に美味しい店があるならご同伴したいものですな」

 

 美味しいもの大好きです。

 

「あそこは夜限定メニューのバターチキンカレーがオススメですね! 夜あそこで食べるなら……昼はあっさりと蕎麦なんてどう? 蕎麦湯が美味しいお店を見つけたんだ!」

 

 蕎麦か……いいな! 最近蒸し暑くなってきたし、つるりと食べられる蕎麦というのはなかなか乙なもんだし、温かい蕎麦もいい。

 

「そうするか。昼食べるまでは装備の点検して、時間があればポケモンバトルでもするか?」

 

「お、負けませんよ~?」

 

「こっちもいつまでも負けていられないんでな。先生と呼ばれる以上それなりの力を見せんとね」

 

 レンジャーさんのところを借りに行くか。そのあとに102番道路で網代笠のレベルアップと懐柔を目指そうかね。

 

   ◇  ◇  ◇

 

「さて、準備は出来てるか?」

 

「問題ないかも!」

 

 現在地はトウカの森の前。早朝からの挑戦だ。昨日軽く地震があったため、延期しようか迷ったがハルカの押しにより予定通りに攻略することになった。

 

 今の俺の服装は岩壁の色に近いグレーの作業服、ハルカの服装はエメラルドでよく見かけた緑主体の服装だ。草とかで気触れなければいいのだが。

 

「見張りは頼んだぞ網代笠」

 

「コッコ!」

 

 昨日お菓子を与えることで買収することに成功した網代笠さん。網代笠は、早足という特性を持っている。先頭にこの特性を持つポケモンがいると、少し離れた場所から相手を発見でき、素早く逃げることで見つかることを回避してくれるのだと説明をした事で先頭役に選ばれた。

 

 今回は先に他のキノココ達を見つけることを期待しているよ。

 

 ガスマスクを着け森の中に入ると、前回と同様に緑色の幻想的な光景が広がってきた。いや……緑の胞子が量が多く見える。

 

「……前よりも胞子が濃くなっている?」

 

「そうなの?」

 

 4日前に来た時は入口はここまで胞子が濃くなかったな……それに木々が苔むしていなかったはずだ。木々の隙間から偶に差し込まれる陽の光を反射して、鮮やかな緑色の胞子が蛍のように舞い落ちている。洞窟に着いたらフィルターを換えておくべきだろう。

 

「胞子って思っていたよりも綺麗かも……」

 

 ロマンチックに見えるが吸ったら眠らされるぞ?

 

「なんだ……何が変化をもたらしたんだ? 気象条件や湿度か? それとも昨日の地震か?」

 

 ハルカが胞子に感嘆している中、ボヤきながら色々と考えるが正解っぽい回答がさっぱり浮かんでこない。

 

「キノッ」

 

「キョウヘイ先生、網代笠が早くしろって言ってるよ」

 

「ん? そうだな。早めに行動するか」

 

 静かに急かされてしまった。考察は休憩できるようになってからだな。

 

 網代笠を先頭に進み続けること約25分。何度か網代笠が急に止まったり進路を変えることがあったが、見つからずに進むことができている。普通に歩いて進める分、前回よりかなり楽だ。視界には既にあの岩壁が見えている。

 

「目標の岩壁ってあの大きな岩?」

 

 岸壁の近くまでたどり着いたため、早速作戦を開始しよう。

 

「アレだな……よし! 網代笠は周囲の警戒を維持、大賀は辺りに【しろいきり】を放出、御神木様はその間に【やどりぎのタネ】を岩壁に生やしてくれ」

 

「ココッ!」

 

「スボッ!」

 

「クギュル!」

 

 白い霧が辺りに発生し始めることで先が見通しづらくなる中、懸命に周りを伺う網代笠。そして御神木様が放った【やどりぎのタネ】がワサワサと岩壁に生え出す。一斉に生え出す様は圧巻である。

 

「おお~凄い!」

 

 白い霧によって宿り木を隠し、登る姿を見せないようにする。この登る時に杭とロープを打ち込む必要があるのだが……今回はあまり時間がない。御神木様を戻し、大賀に新しい指示を出す。

 

「大賀、ロープを垂らしたら一定間隔で濡らすから、そこを【れいとうビーム】で凍らせて岩に貼り付けてくれ」

 

 氷によってロープを一定間隔で岩壁に付着させる。時間が経てば氷は溶けるし、一時的なら杭と同じ働きをしてくれるだろう。

 

「気をつけてね」

 

「もちろんだとも」

 

 軽くジェスチャーを交えてから、まずは第一歩。グッグッと体重を足に掛けてみるがしっかりと固定されている。植物の力は凄いな。ここまでしっかりと固定されているのは想定外だぞ。

 

 頭に乗せた大賀を落とさないように宿り木を登り、間隔をあけてロープを凍らせて付着させてゆく。付着させた場所に体重をかけてみるが問題なさそうだ。

 

 登りきりそうになったため、頭だけ出して岩の上を見渡すが……見張りであるキノココの姿は無いようだ。登りきったあとにあまり音を立てないようにロープの最上部を貼り付けて固定する。

 

 ポケナビでハルカに連絡を送る。

 

「よし、ハルカも上がって来い。あとキノココにも岩壁の近くに戻るように言ってくれ」

 

「了解!」

 

 まるで気分は冒険モノ……今冒険しているんだから当たり前か。戻ってきた網代笠を岩の上からボールに戻し、もう一度岩の上でボールから出す。

 

「岩の上の警戒を頼む」

 

「キノコッコ」

 

 ハルカも無事登り終わり、もう一度大賀に白い霧を出してもらったあとボールに戻し、そのまま先に進む。

 

 10分ほど進むと網代笠がキノココを見つけたらしい。双眼鏡で確認すると、進路上に2匹こちらに向かって歩いている。流石に細くなり始めた岩の上では避けては通れんな……

 

「ハルカ、左側のキノココを任せていいか?」

 

「うん。この場合は【つつく】で左側の木の方に落とせばいいのかな?」

 

 ボールからアチャモを出すハルカ。ガーディにしないのは俺に対して吠える可能性があるからだろう。夜間じゃないから【ひのこ】もそこまで目立たないだろうが……ここまで胞子が酷いと引火が怖い。【つつく】でも岩の上で後ろから奇襲すれば問題ない。

 

「そうだな……それで行くか。タイミングは俺が言う」

 

 俺も大賀をボールから出す。

 

「大賀、俺が合図したら右側のキノココに【れいとうビーム】だ」

 

「スボボッ」

 

 さて、あとはタイミングだが…………お、丁度反転したな。

 

「今だ、やってくれ」

 

「アチャモ、左のキノココに【つつく】」

 

「チャモ!」

 

「スビボッ!」

 

 奇襲的な【つつく】によって左側のキノココが転がり落ちてゆく。急に同僚が攻撃を受けて放心してしまったのか、左側を見て固まってしまっているキノココに【れいとうビーム】が直撃し、氷のオブジェが完成した。

 

 氷のオブジェと化したキノココを割らないように左側の道に滑らせて落とす……よし、割れなかったようだ。

 

「キョウヘイ先生ってなかなかえげつないことやるよね」

 

「なに、すぐに慣れるさ」

 

 構わずに歩き始める。見張りがいたということは他にも近くに居る可能性が高い。早めにこの場所から移動しよう。

 

「ポケモンセンターでもそうだったけどさ、みんなが静まり返ることの意味は何やってるんだこいつ!? であって、どうぞ続けてくださいではないと、わたしは思うんだ」

 

「俺はオダマキ博士ほど狂ってはいないからセーフだと思う」

 

 俺はただハルカの前でここにポケナビがあるじゃろ? というのをやっただけで、オダマキ博士みたいにはなっていないはず……はず!

 

「キノッ!」

 

 また早くしろと怒られてしまった……解せぬ。

 

 そのまま見つからないように匍匐前進で移動すること1時間、ようやく端にたどり着いた。厚めの生地なのだが、擦れてお腹の辺りが少し痛い。下が硬い岩だとこれがなぁ……どうにかする必要がありそうだ。

 

 ハルカの方はあまりそういうことはなさそうである。ケロッとしていて、景色を眺めたり写真を撮っていた。

 

「ここを降りて少し進んだ場所に洞窟がある。そこで今日休めるかどうかを確認しに行こう」

 

 場合によっては、今日はあそこで休憩したらそのまま進むことも視野に入れておこうかね。大賀に宿り木を頼もうとした時にハルカに呼び止められた。

 

「キョウヘイ先生、あれはなんだろう?」

 

「ん? 何かあったのか?」

 

「向こうの方。北側の……木の間に何かいる」

 

 双眼鏡を覗いて北の木々を眺めるが目を引くようなモノは見つけることが出来ない。ただただ鬱蒼とした木々がそこにあるだけだ。いったい何を見つけたん?

 

「どこよ?」

 

「ほらアレ! あの蠢いているの!」

 

 指を指された方を確認するが、何も見つからない。うーんわからん。蠢くような何かってもの凄く気になるんだが。

 

「アレだって…………ああもう。奥に行っちゃった」

 

 もうちょい場所をはっきり言ってくれ。

 

「色は何色だったんだ?」

 

「体色は薄い桃色で尻尾があった!」

 

 やたらとテンションが上がってるな。ピンク……ピンクねぇ。なかなかに派手な体色だ。見つからないなんてことあるのだろうか? でも現に見つけられていないしなぁ。

 

「プリンやピッピでも居たんかね? でも、こんな場所にどうやって入り込んだんだ?」

 

 手を尻尾に見間違えた可能性もあるし、なんとも言えない。

 

「本当に居たんだって!」

 

「わかったから声量を下げぃ。とりあえず洞窟まで行ってから詳しい話を聞くから」

 

 ハルカを宥めながら大賀に【れいとうビーム】と【やどりぎのタネ】の指示を出し、登りの時とは逆の手順で降りてゆく。今のところは何の問題も無く順調に進めている。むしろ順調すぎて初日の時間が余ってしまったぐらいだ。

 

 早足凄いな! ここまでの効果があるなんて想定外だ。もうちょい戦闘があるかと思っていたんだがな。網代笠がルートを変更すればキノココをほとんど見かけることが無い。

 

 無事にハルカも降りたところで歩くのを再開する。それにしても、薄い桃色のポケモンか…………あれ? いや……まさかな?

 

 そのまま何度かルートを変えること35分、ようやく洞窟にたどり着いた。冷気は感じるが以前のような視線を感じない。もう移動してしまったのだろうか?

 

「ここが?」

 

「そうだ。奥に、前回作った宿り木ハウスの一部が残っているはずだから、それらを使ってもう一度簡易的な部屋を御神木様に頼もうか」

 

「クギュ!」

 

 ボールから出てきた御神木様が、任せろと胸らしき場所を張っている。

 

 ではその間に俺と大賀は清酒を地底湖の近くに置いて、もう一度壁画の探索でもしようかね? 時間があるうちに他の枝分かれしている道の探索をするのもアリか。そう考えながら洞窟の奥に入ると以前同様、暗闇が俺たちを歓迎してくる。

 

「少し肌寒いかも」

 

 む、そんなにか。肌をこすり合わせて暖まろうとしているようだが、シバリングは止まりそうになさそうだ。

 

「ちょっと待て…………あった。ほれ、この毛布を使うといい」

 

 リュックサックから毛布を取り出しハルカに渡す。女の子が体を冷やすのは良くないことなので、その辺りは注意しております。本当は自分で用意するのが一番なんだが、恐らく入りきらなかったのだろう。

 

「ありがとう……キョウヘイ先生は寒くないの?」

 

「んー……あまり寒くは無いかな。暑さの方が俺にはキツい」

 

 寒さには強いんだけどなぁ……夏とかマジ地獄だからな! 溶けるような暑さとかなくなればいいのに。

 

 右手を壁に這わせて奥に進み、以前の宿り木ハウスがあった場所に到着した。前急いで打ち付けたロープなどが残っている。りんごが残っていないことを見るに、食べてくれたのだろうか?

 

 御神木様に宿り木の指示を出している間に、ハルカはビスケットをパクついて体力の回復を図っているようだ。

 

「で、薄い桃色のポケモンだっけ? どんな感じに蠢いてたの?」

 

「なんというか表現しづらいんだけれど……こう……うにょうにょ~っとしてた」

 

 うにょうにょて……カラナクシとか?

 

「それで浮かんでたの!」

 

「それは本当にポケモンなのか?」

 

 新手のUMAか何かでは?

 

「たぶん……おそらく……あるいは?」

 

 どんどんあやふやになっていってるな。マジでアレなのか?

 

   ◇  ◇  ◇

 

 なんとも微妙な感じのハルカの話を聞きながら、部屋を完成させる。あとは探索をして今日は寝よう。

 

「ハルカ、洞窟の探索と壁画の再確認はどうする? バラけて行うか?」

 

「うーん……こういう時にバラけるのはフラグだって誰か言っていた気がするから、一緒に行動しよう」

 

 その発言もフラグな気がするんですがそれは……

 

「じゃあまずは近くの壁画から行うか」

 

 前回より強力なハイビームライトを持参してきたから、上から他に何かいないかを確認することができる。照らすと前よりも水位が下がっていることが確認できた。

 

「あれ? 水位が下がってるな」

 

「それなら濡れずに確認できるね」

 

 ありがたいっちゃありがたいが……うーん。地殻変動とかならもっと地震も大きかっただろうし違うか。

 

 下に降りて壁画を確認するが前回と変わったところが見られなかった。続いてハルカが毛布を羽織りながら降りてくる。

 

「おお、これが例の壁画か~……これなに? 文字?」

 

 また何かを発見したらしい。さっきの謎の蠢く物体といい、何かと発見するのが上手いな。こういうのは今度からハルカに頼もうか。

 

「何かあったのか?」

 

「これ。なにか文字っぽいよ」

 

 ……なぁにこれぇ。まるで一昔前のギャル文字みたいだな

 

 ハルカの指の先の壁画にはギャル文字のようなものなどが書いてあるが……一部欠落している。写真に撮って後でオダマキ博士に送ろう。

 

「読める?」

 

「俺の隣に考古学者を目指している俺がいて、懇切丁寧の翻訳してくれたなら読めるかもな」

 

 書いてあることがちんぷんかんぷんだ。点字みたいなのも入り混じっているしわけわからん。

 

 とりあえず全体を探索してみたが他にめぼしいモノは無かった。できたことと言えば、壁画の前の岩に清酒を置いておいたぐらいだろう。

 

「……キョウヘイ先生って前にここの水の中に入ったって言ってたよね?」

 

 水汲みを頼み、ついでに付近の探索をしていたハルカに突拍子もないことを聞かれる。

 

「急にどうした……中に入ったというよりは水位がもう少し高かったから、足場になりえそうな部分も浸水していたんだ」

 

「それから?」

 

「それからって言ったって……急いで落ちてきた時に全身に浸したくらいか」

 

「…………そう、ならいいの」

 

 なんだってんだ。スイクンがいたから有害なものが混じってるとかは無いと思うぞ?

 

 結局この後、他の枝道も軽く調べ直したが、全て行き止まりで大したものはなく、探索一日目が終了した。

 

 


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