カイオーガを探して   作:ハマグリ9

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トンネル観察とマグマ団

 攻略隊が出発してはや2日が経ったが、未だ一切の情報が入ってこない。今更ながら岩タイプのポケモンを好むツツジさんやノーマルタイプのポケモンを扱うセンリさんってキノガッサ達と相性悪くないか? まぁそれをどうにかするのがジムリーダーの腕の見せどころかね。

 

 そんなことを考えながらハルカと2日間に集めた情報の交換を行う。

 

 この2日間で俺たちは別々で色々と追加情報がないか調べたり、買い物を行ったり、街中をうろついたりしていたが、俺が見学したトレーナーズスクールで面白い授業が行われていたのだ。

 

 授業内容は、一般トレーナーとエリートトレーナーの違いについてだ。大まかな違いとして、パーティバランスの重要性を理解していることや普段の訓練量の差などが挙げられるらしい。やはり常日頃から高度な訓練を行うことは大多数の一般人には場所や時間が足りず無理なのだろう。それで生計を立てられる人間がエリートトレーナー足りえるのだとか。ポケモンリーグなどで好成績を残せばポケモン協会や企業から名指しで指名されたりするらしい。

 

 そして俺が最も注目したのは、高度な訓練の中で多彩な技を忘れさせず(・・・・・)に戦術として組み込むという点だ。

 

 そう、多彩な技を忘れさせずに……これは逆に言えば、通常は技は忘れてゆくものであるということだ。知らんかったわ……目からゴボウとはこのことだったな。

 

 それについて詳しく話を聞くと、ポケモンも人間と同じように長らく使っていない技は忘れてしまったり、使おうとしても上手く行えなくなってしまうらしい。だから大賀は吸い取るを使えなかったのか……そりゃギガドレインを覚えているのなら吸い取るなんて使わなくなるか。

 

 このことハルカに言うと知らなかったの? って顔をされた。意外と常識だったらしい……

 

 ちなみに秘伝技は基本忘れることはないようだ。感覚的に自転車の運転のようなものなのだろう……そんな秘伝技すら忘れさせる忘れオヤジとは一体何者なんだ……? うっ……頭が……

 

 あれ? そういえばあの人って、世代進むごとに自分を思い出すために必要な時間が長くなっていた気が…………意外な人物が思いの外危険な技術を持ち合わせていたな。悪用されないことを祈ろう。されば開かれん。

 

「キョウヘイ先生、また意識がどこかに飛んでますよ」

 

「ん……すまんすまん」

 

「それで、今日はどうするの? また訓練した後に情報収集?」

 

「そうだな……筋トレしてから自由時間でいいか」

 

 そろそろ休みを入れるべきだろ。最近ずっと動いていたからな……104番道路北側の生態の調査も終えたし一休みだ。

 

「やった!」

 

 笑顔でガッツポーズをするハルカ。

 

「とは言えハルカさんや、情報収集を飲食店で行うのはいいけど……ほどほどにな?」

 

「はーい!」

 

 お金が結構かかるのよ。今はそれなりに余裕あるけれど今後まではわからないのだ。貯蓄は大切である。

 

「キョウヘイ先生は午後はどうするの?」

 

「俺か? そうだな……一度カナシダトンネルの周辺を見学しに行こうかな。生態調査もコミで行えるから一石二鳥だ」

 

 あの辺りで起きた生態の変化は気になるし、トンネル内の広さも気になる。あと人の交通量なんかも調べておきたい。

 

「カナシダトンネルか……あそこの内部ってポケナビの電波届いたっけ? あと調査するのならわたしも付いて行った方がいいんじゃないの?」

 

「そこまで奥に行くつもりはないから大丈夫だろう。内部も整備されているらしいし。それに俺の個人的な理由で見に行きたいだけだから、正直そこまでしっかりとした調査にはならないと思う。どうしても何かやりたいのなら……そうだな、昨日104番道路の奥まった場所の木に仕掛けた甘い蜜がどうなったか見てきてくれ」

 

 俺の知ってる116番道路とどれだけ変わってしまっているのかが見たいだけだしな……画像を見る限りでは、歩道はしっかりと整備されており、自転車用道路も別で存在していた。ただ、周辺の画像がびみょいから自分で見ておきたいのだ。何度も通るかもしれんし。

 

「わかったかも! じゃあ、何かあったらポケナビで連絡しあうということで! ……道に迷わないでね?」

 

「うい……あ、そうだ。これを渡しておこう」

 

 先日、新しいマスクを買った時に貰ったものを渡す。

 

「これは……最近流行りのスイパラの招待券と割引券じゃないですか! どこでこれを手に入れたの!?」

 

 凄いテンションの上がり様である。このお店流行ってるのか。

 

「いつもマスク買ってる店の店長が分けてくれたんだ。最近キツかったしポケモン達と行って癒されて来るといいんじゃないか?」

 

「キョウヘイ先生大好き! 今日のトレーニングは気合を入れます!」

 

「うむ! ならば通常の訓練を少し減らして、ポケモンバトルの回数を増やすか」

 

 大体全部終わるのは休憩込みで14:30ぐらいかな。この辺りは塾に通っている子も多いしバトルの相手は選り取りみどりだ。いい実戦経験になるだろう。反省会は俺が帰ってきてからでいいか。

 

「えっ? ……連戦?」

 

「もちろん。ジム戦近いし丁度いいだろう」

 

 サムズアップしながら言い放つ。入ってすぐにジムリーダーと戦えるわけではないのだ。それに一度入ったら終わるまで出れないし、当然だろう?

 

 ワカシャモやガーディに慰められたハルカが復活した。

 

「わたし頑張る! キョウヘイ先生の訓練なんかに負けたりしない!」

 

 キリッとして言っているがそれはフラグじゃないか? あと勝負するのは俺じゃないぞ。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 ハルカの訓練が終わり、終了宣言をしてから116番道路へ自転車でやって来た。116番道路は思っていたよりも整地されており、草むらまで行くには本道から外れ、少し奥まった場所まで行かなければならなさそうだ。

 

 10分ほど本道から外れた場所を歩いて、辺りを見回すとツチニンやゴニョニョなどをよく見かける。比較的ゴニョニョが多いな……カナシダトンネルから追い出されたからか?

 

 網代笠を先頭に出して付近の警戒を頼み、俺はゴニョニョ達の観察を始める。

 

 1時間ほど観察していると不思議な行動を行っている群れを発見した。色などは通常と何ら変わりないのだが……そのゴニョニョ達は挙動不信な感じになっている。具体的には木に頭突きを繰り返したり、軽く接触したゴニョニョ同士でバトルを行っていたり……

 

 なんというか……八つ当たりをしているように見受けられた。トンネルから追い出されたせいか?

 

「どう思うよ網代笠」

 

「キノ~」

 

 網代笠に聞いてみるがわからないようだ。写真を撮りとりあえず元の本道に戻ることにしよう。

 

 次は……そうだな、ゲームではトンネル工事作業員詰所があった場所にでも行ってみるか? そんなことを考えながら自転車を進める。途中何度か網代笠に方向が違うと怒られてしまった……最近は結構上手く道に迷わず進めれたんだが。やはりいつまでも幸運が続くとは限らないらしい。素直に地図を見ながら、網代笠アドバイスを頼りに本道へ戻る。

 

 ついでに道中で何人かのトレーナーと戦い、経験を積んでゆく。ワンリキーを含め格闘ポケモンを相手にするのは相変わらず苦手だ。どうにも相手の連撃が決まりやすく思える。

 

「ありがとうございました!」

 

「おう! 勉強も頑張れよ!」

 

 短パン小僧とのバトルを終え、次の獲物……もといトレーナーを探す。最近はハルカに譲りっぱなしだからな。全体的にレベルは上がっているが、その中でも特に網代笠や大賀の戦闘経験を積む為に何度か戦っておきたい。最近御神木様ばかりだったからね。先程まで戦っていた大賀を抱き上げて頭を撫でる。

 

「お疲れ様。おやつのヒメリの実だ。一緒に食べようぜ」

 

「スボッ!」

 

 美味しそうに小さなヒメリの実を食べる大賀。3個で食べるのをやめてしまったがもうちょっと食べても大丈夫だぞ? ハルカに食べられても大丈夫なようにサン・トウカで大量に木の実を買ってきたからな。おまけもだいぶ貰ったよ。

 

 美味しそうに食べていた大賀だが、食べ終わって軽く水を飲むと満足したのかボールの中に戻っていった。

 

 ……大賀についてだが、前々から予想していたことがついに現実に起こったとわかった。それは――大賀は既にレベル15到達したということだ。

 

 先ほどの戦闘で、元々おやつ用で持たせていたモモンの実を生贄に捧げ、大賀は新しく自然の恵みという技を覚えたのだが……この技はハスボーがレベル15で覚える技なのだ。これの何が問題かと言うと――――既にハスボーからハスブレロに進化しているはずのレベルということだ。

 

 オダマキ博士から話は聞いていたが、ポケモンにとって心の傷というのは自身の成長を阻害することがあるらしい。尖った岩がトラウマになっている大賀もその可能性が高いと。そして、前例から考察するに進化するにはトラウマを乗り越えなければならないらしい。

 

 ポケモンの強く進化するという行為は、今までの自分というの殻を壊さなければならない。その殻を破壊できないポケモンは進化することはできないということなのだろうか……? 難しい話である……トラウマと向き合わなければ先へ歩むことができず、向き合えば必ず痛みが伴うし、必ずしも治るとは限らない。より深く傷つく可能性もあるのだ。

 

 これは大賀だけの話ではないな。俺自身のトラウマも何か対策を練らなければならない。

 

 ハルカと俺のトラウマについて話した時は一部軽めに話したが、正直急に肌に触れられたら俺は失神する可能性もある。あの身が焼かれるような熱さをもう2度と感じたくもないと心の底に植えつけられてしまっているのだ。触るにはそれなり以上の覚悟が必要だろう。だから普段はグローブを付けて、最低限に、必要分しか触れ合わないようにしてしまっている。

 

 仮にあの熱さを克服しろと何も知らないような他人に言われたら……やめよう。思考がだんだん悪い方に流れているな。

 

 思考を戻そう……大賀としても少し自覚があるのか時折暗い表情をしている時がある。焦っているようにも見えるのだ。一度ハルカのガーディから安らぎの鈴を返して貰った方がいいかもしれんな。

 

 ……ペットは飼い主に似るらしいがポケモンはトレーナーに似るのかね? 俺みたいにならず、生き急がない方が生きやすいと思うんだが……少なくとも大賀はその辺りは似てしまったらしい。

 

「俺からの期待もプレッシャーになっているんだろうかなぁ……」

 

 ポツリと漏れた。

 

 また悪循環になっているな。前向きなことを思い出そう。オダマキ博士曰く岩タイプのポケモンを倒せばいいんじゃないかとのことだが……だいぶふわっとした意見だな。一見丸っこいイシツブテなら戦えるかもしれないし、倒していけばトラウマもなんとかなるかも知れない。なんて前向きな考えなんだ! 俺は天才か。

 

「……おしッ!」

 

 山男っぽい服装のトレーナーと積極的に戦ってみるか。網代笠との相性も良いし狙い目だ。

 

   ◇  ◇  ◇

 

 何度か山男達と戦ってみたが、戦えなくはない……だが普段より動きが遅く、反撃を貰いかけることが多かった。丸い石を転がせて岩に慣れさせてからの方がいいかもな。

 

 一方網代笠はタネマシンガンで無双していた。

 

 頑丈を貫通する技はとても使い勝手が良いのだと再確認できたな。隙も少なく俺に良しお前に良しの器量良しな技だ。ただ……ただ問題があるとすれば――エニシダさんから貰った技マシンもタネマシンガンだったというだけだろう。

 

 先に進むと、俺が知る詰所があった場所には詰所の代わりに中規模ほどの駅があった。路線は一つだけのようだな。あの広めのホームで積荷の乗せ降ろしを行うのだろう……丁度今の時間帯は積荷を乗せている最中のようだ。

 

 駅のホームには荷物が所狭しと並べられており、どんどんと貨物列車の内部へ積み込まれてゆく。

 

 あれだけの積荷を一度に送れるのだとすると列車は相当な馬力を持っているのだろう。なかなかスマートに見えるんだが……記念に一枚撮っておくか。

 

 ……今気がついたが、列車の周りにカメラを抱えている人がいないな。撮り鉄の人はいないのだろうか? 他の地方だと居た気がするんだが。

 

 車両数は大体12両ぐらいの長さかな……これって多いのかね? 人がいれば聞けるんだが……まぁいいや、今度調べよう。駅を眺めるのをやめてそのままの足でトンネルの入口へ向かう。

 

 トンネルの前に着いたが……カナシダトンネルはとても立派な通路に変化してしまったようだ。思っていたよりも入口が大きく、自転車道もかなりしっかりとした作りになっている。大きな地震でもなければ壊れそうにないな。

 

 中に入ると、等間隔に薄く青白いライトで真上から照らされている。壁を見れば薄暗い中に所々白いモノが描かれているが……何の絵だこれ? 最近の流行りか落書きか?

 

 そして今の時間帯は人通りも少ないようだ。もう少ししたら人も多くなるのだろうか? 

 

 とりあえず今手に入る情報はこんなところかね。しっかりと道として使えそうだ。これならムロタウンより先にシダケタウンに向かっても問題ないだろう。ハギ老人と面識がない以上どうやって他の街に行こうか考えていたが、いい意味で予想を裏切られたな。この道は上手く使っていこう。

 

 個人的に今回の簡易的な情報収集はもう満足できたしそろそろ帰るか? 気が付けば辺りが暗くなり始めており、真横の森はおどろおどろしい感がにじみ出てきている。長居しすぎたなこりゃ。

 

 ポケナビを取り出しハルカに連絡を入れる。

 

「あーハルカ、聞こえるか?」

 

「どうかしたの? いつもより帰りが遅いみたいだけれど」

 

「思いの外景色を眺めるのに集中してな……まぁそんなわけで帰るのが遅くなりそうだから先に飯食べててくれないか?」

 

「わかったかも! あ、あとキョウヘイ先生が帰ってきたら大事なことを伝えなきゃいけないことがあるの!」

 

 伝えなきゃいけないこと? ……! なるほど。

 

「ん、わかった。ただ、すまないな……その気持ちには答えられない……あと5年は年を取って出直すといい」

 

「何の話? …………! な、何言ってるの! そんなのとは! まったく! 関係ないことだからね!」

 

 いきなり慌ててどうしたんだこの娘っ子は。

 

「え? 保険料の見直しの話だろ? 値段が変わるのは19歳~20歳になってからだぞ。あんなに安くても大丈夫なのかという気持ちは分かるが俺にはどうにもできん」

 

 トレーナー保険が無茶苦茶安くてこれ大丈夫なの? と思ったのは俺だけじゃなかったんだな! 月額980円+税って本当に機能しているのだろうか? ネトゲの月額の方が高いぞ。それに値段が変わる19~20歳からはコースが色々と選べるから個人の合ったものにしないと色々と無駄になっちまうらしい。オダマキ博士が色々と考えているみたいだが、どうするんだろうか? やっぱり万能ないきいきトレーナー健康プランかね?

 

「 ど う し て ! どうしてそこでいきなり保険料の話になったと思ったんですか!」

 

「伝えなきゃいけないことって言ってたし、てっきりこの安すぎる不安をどうにかしたいのかと」

 

 実際に旅に出て保険の見方が変わったのかな? って思いました。本当にアレは機能するんだろうか?

 

「あ゛~! もう! とにかく話があるから! じゃあね!」

 

 ……切られた。ハルカも年頃の女の子だねぇ……俺がスレてるだけか?

 

 連絡もしたし、ボケもやった。空を見るともう星が出始めており、夏が近いとはいえすぐにこの辺りは暗くなってしまうだろう。晩御飯のためにも早めに帰らなければ。

 

 地図を広げ道を確認すると、森を真っ直ぐ抜ければ噴水の横辺りまで近道が出来そうだ。真っ直ぐに進むだけ……今日の昼はダメだったが今なら行けるか?

 

 うーん……なんだか一人でも帰れそうな気がしてきた。日中のアレは何かの間違いだったんじゃ? 空の星もあんなに輝いて俺の背中を押してくれて……すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。風…なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺のほうに。今の俺ならイケる! そう思えてならない。

 

 自分の方向感覚になんて負けたりしない! 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 方向音痴には勝てなかったよ……

 

 やっぱり真面目に記憶しながら行動しないと道に迷うね。あの時感じていた風とは一体何だったのだろうか……

 

 アレから30分ほど自転車に乗り、森の中を快速で進んでいるが一向に街にはたどり着きそうにない。なんということだ、ここはハナチャンの森だったのか……リアル無限迷路とか俺をピンポイントで潰しに来てると思うんだ。

 

 それでも諦めずに進むと草の壁が目の前に現れた。迂回……は面倒くさそうだな。突貫しよう。ただ、流石に先が見えない状態で突っ込むとアレなので自転車から降りて、押して進む。

 

 ガサガサッと音を立てながら進むと、出た場所には横になっているスーツを着た男と赤いフード付きの服を着た男達が居たので、自然と目の前にいた赤いフード付きの服を着た男達と目が合う。なにやら驚いて体が固まっているようだが俺も驚いている。お互い様だ。なんでこんなところにマグマ団がいるの?

 

 視線をずらしスーツを着た男に目をやると――――手足を縛られていた。

 

 新しいプレイを実行中なのかとも考えたが、頑張って縄を抜けようとしているあたり、どうやら本当に人さらいらしい。本当に他人やポケモンに迷惑をかける組織だなぁオイ。

 

「ムーッ!!」

 

 縛られた男がこちらを見ながらなにやら言っている。大方助けてくれとかだろう。流石に君も一緒に縛られないか? とかでは無いはずだ。

 

 マグマ団の連中とは相性が悪すぎるからやり合いたくなかったんだがな。だがどこぞの哲学的な犬も配られたカードで勝負するしか無い。それがブタでも……とか言ってたし腹をくくろう。相手が固まっている内にボールから全員を出してすぐに指示を出す。

 

「網代笠! 【しびれごな】」

 

「キノコッ」

 

「危なッ!」

 

 マグマ団のしたっぱ達に向かって痺れ粉を降らせ先制するが、横に跳んで避けられてしまった。微妙に人質を巻き込んでしまった気がする……きっと大丈夫だろう。口に布噛まされてるし、そんなに吸い込んでいないよ……たぶん。

 

「ちっ!」

 

 だが、これで奴らが人質から離れた。すかさず人質の元に向かい、マグマ団のしたっぱ達を牽制する。ジリジリと距離が離れてゆくが、まだ縄を解けるほどの距離はなさそうだ。

 

「すぐに終わらせますので安心してください」

 

 つぶやくような声で言ったのだが聞こえたらしい。軽く頭を振って反応してくれた。

 

「急にポケモンで攻撃する奴があるか!」

 

 確かに常識はずれな行動だと思うがアクア団やマグマ団(お 前 ら)に言われたくはない。その意見を通すならまず真っ当な組織になるべきだろう。

 

「ポケモンを犯罪の為に使役する組織に言われる筋合いは無いな」

 

「クソッ何なんだよお前! どうしてここがわかった!」

 

「ここに来たのはきっと星のお導きだったのだろう。星は導くモノだと古事記にもそう書いてある。やはり古事記は正しかったのだ」

 

 そして俺はニンジャではないから挨拶を行う必要もないのである。

 

「チクショウ! 会話にならねぇ!」

 

 そりゃあ俺が口プロレスに付き合うつもりが無いからだ。

 

「俺が誰かだって? 俺は通りすがりの狼男だ。そんなこともわからないのか……君たちは実に馬鹿だなぁ」

 

 この凛々しいオオカミのマスクを見てわからないの? その目は節穴なの? と言うと顔まで赤くなってきた。顔色でまで組織のイメージカラーを重用するだなんて……マグマ団はとても教育熱心なようだ。アクア団も顔を青くすることができるのだろうか?

 

 まぁ、できないと言うのなら俺が青くさせるが。

 

 目の前のマグマ団員達はイライラしたようにボールからポチエナ達を繰り出した。その後ろにいるマグマ団員も続いて同じようにズバット達を出す。

 

 マグマ団のしたっぱ達が繰り出したポケモンは、ポチエナ4匹にズバット6匹……数が多いな。そんなに大量のポケモンに対してしっかり指示を出せるのかい? ここは草木が多く、無造作に伸びている枝のせいで空が少ない。数は多いが……これならどうにかなりそうだ。

 

「このっ変人が! 行けポチエナ達は【たいあたり】だ!」

 

「ズバット達もポチエナ達に続いて【おどろかす】をしろ!」

 

 マグマ団のポケモンが突っ込んでくるが、そこに連携なんてものは無くバラバラに向かってきている。野生のポケモンと何ら変わりがない物量押しだ。現にすばやさに差があるため、ズバット達がポチエナ達よりも突出してしまっている。

 

 結果、物量押しなのに火力が足りないというお粗末な感じだ。

 

「御神木様は【タネばくだん】でポチエナ達に爆撃! 網代笠は【タネマシンガン】で爆撃を抜けて来たやつを狙え! 大賀は【れいとうビーム】でズバット達を迎撃」

 

 本当は御神木様のステルスロック鎧+高速スピンで一網打尽にしたいのだが、後ろにいる縛られている人を巻き込みかねん……だから代わりに爆撃を開始する。質量に勝つために必要なもの――それは爆発だ! 弾幕と爆撃は力なり。マッハで蜂の巣にしてやんよ!

 

「クギュルルル」

 

「ドィーピン!」

 

 御神木様が種爆弾を打ち上げ、一発目が炸裂する前にズバット達が攻撃を行ってくる。ただ一匹に狙って攻撃しているわけではないようなので、かなり分散してしまっている。内2匹が冷凍ビームを放つタイミングを図っていた大賀の前に現れ、あえなく直撃し撃墜された。御神木様に関しては自分に攻撃してきたズバット達を無視して、そのまま種爆弾を発射し続けている。まともにダメージらしいダメージを受けたのは網代笠ぐらいか。やはりこういう時の網代笠は少し技が足りないな。今度集中修行でもしようかな。

 

「ブフーッ!!」

 

 空からふりそそぐ種がポチエナ達を爆撃する。偶に空中のズバットにも当たってるがご愛嬌だ。それでも1匹のポチエナが爆撃をくぐり抜けて、御神木様に体当たりを食らわせるために接近してくる。いい忠誠心だ……感動的だな、だがいい的だ。

 

「ブフッ……ブッ!……キャインッ!?」

 

 最初の5発を右に、次の5発をジャンプで避けるまでは良かったのだが。空中では避けることもできずに残りの15発のタネが直撃する。鈍い音が辺りに響き、最後のポチエナが倒れる。あとはズバット達だけか。案外あっけないもんだな……低練度だったのだろう。

 

「な、俺のポチエナ達がこんな変態に!?」

 

「バカめ! 隙を見せたな! 【しびれごな】!」

 

「キノッ!」

 

 手持ちのポケモンが倒され放心状態で隙だらけだったマグマ団のしたっぱを痺れさせる。まずは一人……誰一人逃がしはせん。一人残らず牢屋にぶち込んでやろう――慈悲はない。

 

「クソッなんでなんでなんで……あの変な奴さえ出てこなければ! こんなところで計画が妨害されるなんて……」

 

 空中にいる残り3匹のズバット達が旋回をしている。指示を待っているのだろうが目の前のマグマ団のしたっぱは思考がフリーズしてしまっているらしい。

 

「網代笠は近くにいるズバットに【タネマシンガン】! 大賀も同じズバットに対して【れいとうビーム】! 御神木様は好きなだけ空中のズバットに【ミサイルバリ】をばら撒け!」

 

 トレーナーが思考停止してしまったポケモンバトルというのは悲惨なものだ。指示のなくなったポケモンは完全に一方的に殴られ続ける事になる。すぐに残り全てのズバットを撃墜させ、ポケモンバトルが終わった。

 

「保険をかけておこう。網代笠、こいつにも【しびれごな】を頼む」

 

「キノコッ!」

 

 これで捕獲完了か……いや、まだ油断できないな。

 

「網代笠、付近に俺たち以外の人間はいるか?」

 

 少し見回した後に首を振る。敵の援軍はいないらしい。結構派手に爆撃していたから内心ヒヤヒヤしていたのだ。いないのならば早めに移動しようか。

 

「すみません。今縄を外しますね」

 

 まず足の縄を解き、次に腕の縄を解く。この縄はマグマ団のしたっぱ達を縛るのに再利用しよう。

 

「縄が解けたばかりなのに申し訳ないですが、すぐに移動しましょう。恐らくまだ仲間が居るはずですので」

 

「わかりました。そして、助けていただいてありがとうございます」

 

 そう言ってスーツ服の男が頭を下げた。

 

「いえ、トレーナーとして当然のことをしたまでです。それにしても災難でしたね。マグマ団に襲われるだなんて」

 

 礼の言葉を受け取ってからマグマ団の両腕を縄で縛る。痺れているからかほとんど歩けなさそうだ。まさかこんなことになるだなんて……もう少し考えてから痺れさせるべきだったか。

 

 どうしよう。痺れているこいつらを移動させることは難しい。しかしここに縛って置いていくと逃げられる気がする……いや、この状況を逆に利用するか? …………迎えに来るであろうマグマ団員を釣るか。

 

 スーツ服の男性に警察への連絡を頼み、その間にブービートラップを作成する。改めてマグマ団のしたっぱ達を縛る縄を結び、こちらから見やすいように木の横に立てかけて並べておく。その時に再度痺れ粉を振りかけることを忘れない。その後風下にて待機する。

 

 さぁ、来るといい…… 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 結局、あの後少ししてからジュンサーさん達が到着し、カナズミシティまで安全に帰還することができた。トラップについて結論から言うとマグマ団はブービートラップに引っかからなかった。切り捨てたのだろうか? だとすると情報が回るのがとても早いという事になる。俺は組織の力というのを舐めていたのかもしれない。気をつけなくては。

 

「まさか護衛のトレーナーが入れ替わるタイミングで、私が直接狙われるなんて思っていませんでしたよ……あ、私こういうものです」

 

 そう言って名刺を差し出されたので、俺も前に作ったオダマキ研究所専属ポケモントレーナーとしての名刺を渡す。いつの間にやら専属ポケモントレーナーになっていたが、その分お給金が増えるようになった。代わりに書類も増えたが仕方がないだろう。

 

 名刺を見ると、デボンコーポレーション研究・開発室室長トヨダヨキチと書かれている。研究・開発室室長とはまた凄いお人だなぁ。

 

「これはどうも……オダマキ研究所さんの専属トレーナー……ですか?」

 

「はい。今年から採用され、お仕事させて頂くことになりました。基本的な仕事内容は名刺裏に書かれている通りで、現地まで行き、ポケモンの生態などの情報収集を主としています」

 

 その際にデボンコーポレーションさんのバックパックを重宝させていただいています。と背負っているモノを見せる。

 

「お、それはウチの試作品の高性能バックパックですか。私達の自信作なんですが使い心地はどうです?」

 

「とても良いですね! 耐久性、内容量、防水性、デザイン……どれをとっても素晴らしいと思います」

 

 特に内容量と防水性を両立させた機能性がありがたい。これは凄いものですよカテジナさん! とある漫画の丸太並みに万能だと思っている。

 

「そいつは良かった……! そうだ、お礼と言ってはなんですが、キョウヘイさんはバックパックに何か追加で要望はありませんか? もし宜しければできる限り対応してみせますよ!」

 

 技術的に許す限りですが、と茶目っ気混じりに凄いことを言ってのけるトヨダさん。これが開発室室長の力か! 世界でただ一つの、俺専用バックパックとか胸が熱くなるな!

 

「あ、とてもありがたいです。それでしたら、もともと明日か明後日にはデボンコーポレーションさんに使用感のレポートを届ける予定でしたので。その際に要望などについて……」

 

 なんだか凄いことになっちゃったぞ? 

 

 結局、警察署で今回の事件について供述していると日付が替わってしまったため、今日は色々と大変だろうから明日デボンコーポレーション本社にお邪魔することになった。実に楽しみだ。

 

 ――――あ、ハルカに連絡入れるの忘れてた……

 

 


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